《論 説》
行政処分による集団的消費者被害救済
――EU消費者保護協力規則(2017年)制定を踏まえて――(四)
宗 田 貴 行
目次
一 問題の所在 1 本稿の目的 2 議論の必要性
3 本稿において検討を行う内容
二 従来の景表法・特商法・消費者契約法違反に係る金銭的被害救済制度の限界 1 景表法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界
2 特商法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界 3 消費者契約法違反に係る従来の制度による金銭的被害救済の限界 4 小括に代えて――妨害排除請求権による金銭的被害救済の意義
(以上、109号)
三 行政処分による金銭的被害救済の必要性
1 消費者被害の変容による市場経済の前提条件の整備の必要性の増加 2 EU消費者保護協力規則(2004年)・ドイツVSchDGの意義
(以上、110号)
四 消費者法分野の各法における行政処分の種類・目的・要件・内容 1 景表法上の措置命令の種類・目的・要件・内容
2 特商法上の指示の種類・目的・要件・内容 五 行政処分による金銭的被害救済の妥当性
1 EU消費者保護協力規則(2017年)制定等
2 我が国の景表法及び特商法上の行政処分による金銭的被害救済の妥当性 3 消費者契約法上の不当勧誘及び不当条項に係る行政処分の導入の妥当性
(以上、111号)
六 消費者法分野等の各法における行政処分による金銭的被害救済 1 従来の見解
2 従来の行政処分による金銭的被害救済の根拠・要件・内容 (以上、本号)
3 景表法上の措置命令及び特商法上の指示等に基づく返金命令 4 返金命令の実効性の確保
5 返金命令の利点
6 返金命令の限界とその解消の可能性 7 従来の見解の検討
8 電気通信事業法上の措置に基づく返金命令 七 結語
1 法理論上の2つの疑問に対する答え
2 行政処分による金銭的被害救済に係る立法の提案
六 消費者法分野等の各法における行政処分による金銭的被害救済
このように従来の制度では、消費者の金銭的被害救済は十分ではなく(二)、
その不十分さを補うために、各法における違法状態の排除に係る行政処分(四)
による集団的金銭的被害救済に必要性(三)及び妥当性(五)があると考えら れる。
行政処分による被害回復の必要性に関しては、例えば、連鎖販売取引業者に 対する改善指示後の行政指導による自主的な返金が長期化し、返還に係る集団 訴訟が提起された事例がある。この事例を契機として、このような行政指導の 無力さが問題視され、2017年12月施行の法改正による「購入者又は役務の提供 を受ける者の利益の保護を図るための措置」を指示によって求めることができ ることの活用が期待されているところでもある1)。
1) 小山寿典「終わらない『クローバーコイン』問題」消費者法ニュース123号2020年 125−127頁、127頁。
本稿で述べてきたように、行政処分による集団的被害回復の必要性及び妥当 性があると考えられるとしても、係る被害回復は、どのような場合に認められ るのかについては、以下述べる様々な要請との関係上、さらなる検討を要する といえる。なぜなら、それにより、一定の作為が命じられる以上、名宛人の経 済活動の自由の不当な侵害とならないようにする必要があるからであり、かつ その内容は、返金等の金銭の支払いであり、他の作為とは異なり経済的不利益 を賦課するものであるため、名宛人の財産権を不当に侵害することのないよう、
慎重に行われる必要があるからである。
具体的には、金銭的被害救済として命じられる内容は、違法状態の排除に係 る行政処分の目的の範囲内である必要があるものである。かつ係る排除のため に、個別の事例において命じられる具体的措置が、①十分であると同時に②最 小限でなければならず、かつ③受命者にとって命令の内容が履行可能な程度に 具体的で明確なものであることが要されるものである2)。
このように、不当表示、不当勧誘等の事例における金銭的被害救済について、
これらの諸要請との関係を論じる必要がある。
このため、以下においては、ドイツにおけるGWB上のカルテル庁の利益返 還命令(同法32条2a項)の立法・運用等3)、EU消費者保護協力規則(2004年・
2017年)、ドイツにおけるVSchDG及びオランダにおけるACMの行政処分によ る金銭的被害救済の検討で得た考察(五1)を参考にして、景表法、特商法上 の行政処分による金銭的被害救済について、これらの要請に配慮した検討を行 うことにする。
まず、これに関する我が国における従来の見解を把握した上で(1)、公取
2) この他にも、他の行政処分の場合と同様、平等原則の要請等もある。
3) 宗田貴行「ドイツにおける集団的被害救済制度の改革―競争制限禁止法への利益返 還命令制度の導入」国際商事法務42巻7号2014年1018−1026頁、同「搾取的濫用行 為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント――ドイツ競争制限禁止法にお ける議論を参考にして――(上)(下)」獨協法学96号2015年195−309頁、同97号 2015年1−73頁、同「ドイツ競争制限禁止法上の行政処分による集団的消費者被害 救済」慶應法学42号2019年229−257頁)。
委の独禁法上の排除措置命令及び下請法上の勧告、特商法7条1項1号に係る 指示、消費者安全法上の勧告・命令について、従来の行政処分による金銭的被 害救済の根拠・要件・内容を検討し、従来から、なぜ行政処分によって金銭的 被害救済を命じることができると解されているのか及び、その場合の要件及び 内容は何であるのかについて検討を行う(2)。
次に、景表法上の措置命令及び特商法上の指示に基づく金銭的被害救済とし て行われる返金命令の根拠、要件及び内容を検討する(3)。
さらに、返金命令の実効性の確保(4)、返金命令の利点(5)及び限界と その解消の可能性(6)について検討する。その上で、先に挙げた従来の見解 の検討を行うことにする(7)。最後に、近時、消費者利益の保護のための措 置が規定され、行政処分に基づく消費者の財産的被害回復に関する展開がみら れる電気通信事業法上の行政処分による被害救済についても検討する(8)。
1 従来の見解
⑴ 否定的見解
我が国の消費者法分野における行政処分による金銭的被害救済について、従 来、現行法の景表法及び特商法上、これを否定するのが、以下のように一般的 である。
第一に、被害の回復は、私人間の問題であって、国が一方当事者を手助けす ることが認められるかという問題がある、との指摘がみられる4)。
第二に、行政による被害金額返還命令と民事上の返還義務との関係について、
係る返還命令によって私法上の取消の法的効果が生じると理解され、それ故に、
行政が民事上の当事者の権利義務を確定することは困難であることが、指摘さ れている5)。
第三に、これとやや似て、被害回復を命じることは、私人間の権利義務関係 4) 消費者庁・消費者の財産被害に係る行政手法研究会第7回(平成24年5月15日)議事
要旨3頁。
5) 消費者庁・消費者の財産被害に係る行政手法研究会第8回(平成24年6月27日)議事 要旨3頁。
を終局的に確定することであるから、裁判所が裁判手続で行うべきであり、こ れを行政機関に委ねることは、憲法違反の疑義が出てくるとの指摘6)がある。
第四に、消費者庁企画課・集団的消費者被害救済制度研究会報告書(平成22 年9月)46頁は、偽装表示の事例を想定し、経済的不利益賦課を行う方法とし て、①違法収益の剥奪とは別の一定の賦課金の納付(ドイツのGWBにおける 行政上の制裁金や我が国の課徴金に相当すると考えられる――筆者注)、②違 法収益額に相当する金銭の納付を命じる方法のほかに、③違法状態の是正等を 命じる行政処分を行う方法を例示し、同報告書48−49頁は、この③違法状態の 是正・回復を命じる行政処分7)については、問題点として、違法行為が行政規 制として定められている必要があること、返還が行われるべきことの実体法上 の根拠が必要であり、被害者の請求権の存否が不明な事例では原状回復命令は 困難であること、被害者の特定が困難であり、返還を望む者の特定が困難であ り原状回復を図ることが難しく、命令の履行状況を把握することが難しいこと、
悪徳業者の事例では、命令不遵守が見込まれ、実効性の確保が困難であること を指摘した。また、同報告書44−45頁は、偽装表示の事例での消費者の財産的 損害を具体的に観念しうるかは疑問がある、と指摘する。また同報告書3頁も、
「偽装表示に関する事案は、消費者が正しい情報に基づいて商品を選択するこ とを害するところに問題があるものの、事案によっては、そのこと自体を消費 者の財産的被害として具体的に観念し得るかは 疑問がある。」とする。
第五に、消費者庁企画課・集団的消費者被害救済制度研究会報告書(平成22 年9月)における上記③違法状態の是正等を命じる行政処分の方法について、
違法状態を定める行政規制が別途必要であるとの問題があると指摘した上で、
さらに、実効的な制度を設けようとすると、結局は、①における課徴金のよう に違法収益の剥奪とは異なる一定の賦課金の納付と実質的に同じような制度に 6) 消費者庁・消費者の財産被害に係る行政手法研究会第8回(平成24年6月27日)議事
要旨4頁。
7) これは、違法行為を行った者に対して、行政処分により違法状態を除去して原状回 復を命じるものであり、原状回復措置として、そもそも違法な行為により金銭を受 領した場合には、それを返還することも含まれると考えるものである、とされる。
なるのではないかとも思われ、したがって、課徴金の範囲の拡大等の方向で制 度を検討することが望ましい、との指摘もみられたところである8)。
⑵ 肯定的見解
これらに対し、近時、以下のような肯定的な見解がみられる。
第一に、中川丈久教授によるご指摘である。すなわち、一般行政法の視点か ら、他の行政法令における是正措置命令との整合性に鑑み、「違反により生じ た違法状態の排除のため」の指示が認められるべきであると指摘される9)。
その上で、行政処分による金銭的被害救済の必要性については、「行政的措 置として、過去の被害を放置しないような対応を取らせる必要があるのではな いか」と指摘10)される。
また、立法論として、「現在継続中の違反行為を中止(停止)せよという行 政処分にとどめるのではなく、過去にした違反行為も放置せずに是正せよと命 じることが考えられるのではないだろうか」とされ、例えば不実告知のお詫び と告知のやり直しとそれに伴う再交渉を命じることによって、違反によって生 じた被害に関する和解や損害賠償請求の契機となり、その結果、私法上の被害 額と一部重なるような消費者被害回復がなされ得る、と指摘されている11)。
さらに、違反是正型の行政処分の拡大的利用として、各種の措置命令の権限 を用いて、事業者が個別の行政法令違反によって消費者に与えた被害を、事業 者の手を通じて回復させることができるのではないか、すなわち、違法状態の 解消のための措置を義務付ける命令が可能ではないかと指摘12)され、近時は、
8) 三木浩一『民事訴訟による集合的権利保護の立法と理論』有斐閣2017年221頁。
9) 中川丈久「消費者被害の回復――行政法の役割――」現代消費者法8号2010年34頁 以下42頁。なお、中田邦博=鹿野菜穂子編『基本講義消費者法』日本評論社2013年 36頁(中川丈久)は、指示について、違法状態をなくすためのものとしている。
10) 中川丈久「集団的消費者被害救済制度と行政法」消費者法3号2011年24−32頁、31頁。
11) 中川丈久「集団的消費者被害救済制度と行政法」消費者法3号2011年24−32頁、25頁。
類似の指摘に曽和俊文「悪質業者の規制と被害者の救済――行政の役割――」現代 消費者法22号 2014年33頁以下41頁(「被害回復命令」とされる)もある。
過去の違反行為が生じさせた現状の是正措置命令を立法すべきと指摘13)され ている。この他の中川教授のご指摘は、7で後述して検討する。12)13)
第二に、曽和俊文教授によるご指摘である。すなわち、同教授は、「多数の 深刻な消費者被害を前にして、行政の役割を改めて考え直すべきではなかろう か」と指摘14)されている。
また、消費者庁の消費者の財産被害に係る行政手法研究会(座長・小早川光 郎教授)の報告書「行政による経済的不利益付加制度及び財産の隠匿・散逸防 止策」(2013年6月)の検討した経済的不利益賦課制度の一つとして、特商法 や景表法上、被害の回復を行政処分で命じる被害回復命令が検討された。これ について、同教授は、「現在の違反行為の中止だけではなく、過去の違反行為 についても是正を命じるもの」とし、そのように命じることによって結果とし て被害の回復が図られるのであり、被害回復命令は、現在の違反行為の中止及 び過去の違反行為の是正を命じることに尽き、直接的に返金を命じるものでは ないことから、「個別の被害額の認定は不要」と指摘15)されている。
第三に、消費者庁企画課・集団的消費者被害救済制度研究会報告書(平成22 年9月)による指摘がある。同報告書は、上記③違法状態の是正等を命じる行 政処分の方法について、(i)課徴金のように徴収する金銭を定める必要がない こと、(ii)徴収した金銭の分配に係る理論的根拠や手続についての検討が不要 であること、という利点を指摘し、上述した実体法上の根拠についての検討を 12) 中川丈久「消費者被害の回復――行政法の役割――」現代消費者法8号2010年34頁
以下、38頁。
13) 中田邦博=鹿野菜穂子編『基本講義消費者法(第3版)』日本評論社2018年44頁、
47頁(中川丈久)。中田邦博=鹿野菜穂子編『基本講義消費者法(第3版)』日本評論 社2018年44頁(中川丈久)は、優良誤認表示のメニューを見て注文し食事した人に、
不当表示であった旨を知らせて希望するならば一定額の返金を申し出るなどの措置 を取るよう命じる権限は、現行景表法7条1項に規定されていないとする。
14) 曽和俊文「悪質業者の規制と被害者の救済――行政の役割――」現代消費者法22 号2014年33頁以下37頁。
15) 曽和俊文「悪質業者の規制と被害者の救済――行政の役割――」現代消費者法22 号 2014年33頁以下41頁。
含め、引き続き検討すべき、としている。
このように、これらの指摘が、現行の特商法や景表法上の行政処分に基づい て返金命令が可能であるということまで指摘しているものではないことは、こ こで指摘しておく必要がある。従来の指摘は、消費者法分野における行政処分 による金銭的被害救済に関し、一般的に、その必要性を肯定するものの、現行 法上の行政処分による金銭的被害救済について、否定してきたといってよい。
思うに、上述してきた諸外国の例を踏まえれば、我が国において、例えば、
景表法上、違法状態の排除の行政処分が可能であることを承認するのであれば、
それにもかかわらず、違法状態の排除の行政処分による被害回復が違法状態の 排除としてできないというのであれば、論理的に不合理であるということにな る。
例えば、従来から認められてきた不当表示の事例での景表法7条1項に基づ く当該不当表示物の撤去や周知徹底という作為に係る命令は、①違反の事前予 防及び②将来の被害の拡大の防止という行政法の役割の実現のため、将来同様 の違反を行わないようにするための措置(違反差止命令)として行われてきた のではなく、違法状態排除のための措置に基づいて行われてきたといえる。こ のため、現行法の解釈には、明白な論理矛盾が生じているといえる16)。
このように、行政処分による被害回復の必要性を肯定しつつ、かつ違法状態 の排除の行政処分を現行法上認めつつ、それによる被害回復を不合理にも否定 する上述の諸見解に対し、学説においては、消費者法分野の諸法の現行法につ いて、以下のように述べて、行政処分による被害回復を肯定する見解もみられ る。
消費者安全法上の措置の目的である「被害の発生又は拡大の防止」とは、理 論上の損害発生時点で諦めよという意味ではあり得ず、被害の確定を阻止する ことも含むべきものであるため、消費者安全法40条5項の定める「必要な措置」
16) 宗田貴行「ドイツ競争制限禁止法上の行政処分による集団的消費者被害救済」慶 應法学42号2019年229−257頁、230−231頁。そこでの記述は、筆者の上記の真意が 通じず誤解を招く可能性があったので、お詫びして上述のように丁寧に説明するこ ととする。
として、法文上例示されている「不当な取引の取りやめ」(同条4項)には、
顧客から受けた金銭の返還を命ずる措置なども含まれると解すべきである、と の指摘17)もみられる。
この他にも、下請法上の勧告に基づく返金命令と同様、独禁法上の排除措置 命令に基づく返金命令を肯定する見解も、少なからず見受けられる18)。もっと も、これらの見解においては、筆者の見解を除けば、返金命令を肯定するとい う結論は示されているものの、そのための理論的根拠や具体的な要件が示され ているわけではなかった。
特商法は、平成28年における改正によって、違反等の是正措置、購入者等の 利益保護を図る措置を指示等の例示として、明記しており(同法7条・14条・
22条・38条・46条・56条・58条の12)、同改正のための説明資料において、指 示による消費者への返金が記載されていた。
そこで、近時は、この改正によって、「行政処分の際に消費者に対して返金 するように命令できる(返金命令)ことを明確にしたこと」及び「返金命令は、
業務停止命令がなされるまで違法行為を続ければ、処分までに儲けた利益は温
17) 木村裕二「消費者被害救済手続における行政の役割と展望――行政情報の活用に よる司法基盤の構築」現代消費者法31号2016年36−43頁、37頁。
18) 今村成和・丹宗昭信・実方謙二・厚谷襄児編『注解経済法(上巻)』青林書院1985 年484頁(利部脩二)、根岸哲「優越的地位の濫用規制に係る諸論点」日本経済法学 会年報27号2006年21頁以下29頁、杉浦市郎「優越的地位の濫用規制――大規模小売 業とフランチャイズを中心にして――」日本経済法学会年報27号2006年59頁以下69 頁、舟田正之「東京電力の料金値上げ注意事件について」公正取引744号2012年47頁 以下、52頁、同『不公正な取引方法』有斐閣2009年218〜219頁、宗田貴行「搾取的 濫用行為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント――ドイツ競争制限禁止 法における議論を参考にして――(下)」獨協法学97号2015年1−73頁、21−23頁。
公取委の下請法上の勧告に基づく返金命令及び独禁法上の排除措置命令に基づく返 金命令は、違反により生じなお現存する違法状態の排除と返金とが同義であること から可能であると考えられる(同「搾取的濫用行為と独禁法上の行政及び民事的エ ンフォースメント――ドイツ競争制限禁止法における議論を参考にして――(下)」
獨協法学97号2015年1−73頁22−25頁)。
存できるという『やり得』の防止と違法な利得の剥奪、さらに消費者に対する 被害救済の効果もある制度」であると指摘されている19)。指示を規定したこれ らの現行法の条文の解釈として、一定の具体的な要件の下、指示による返金命 令を肯定する筆者の指摘がある20)。
筆者が主張している景表法・特商法上の違法状態の排除のための措置として 行政機関が被害回復を命じること21)については、そのように行政機関が違法状 態改善措置を命じることは、ごく一般的にみられるものであり、法律上の根拠 があれば、経済取引がそれ自体として行政法規に違反する場合に、その効果と して直接導かれるような違法状態改善措置を行政機関が命じることが可能であ ることが、行政法の専門家によっても指摘されている22)。
筆者によるこの見解と景表法上の措置命令・特商法上の指示に基づく返金命 令が現行法上の解釈として可能であるとの議論につき、以下において詳細に検 討する。
2 従来の行政処分による金銭的被害救済の根拠・要件・内容
従来、幾つかの限られた分野において、行政処分による金銭的被害救済が可 能であると考えられてきた。そこで、以下においては、まず、 ①独禁法上の 排除措置命令による場合、②下請法上の勧告による場合、③消費者安全法上の 勧告・命令による場合、④特商法7条1項1号の事例における指示による場合
19) ただし、処分を下す行政機関に強制執行などの強制権限はない(以上、村千鶴子
『Q&Aポイント整理 改正消費者契約法・特定商取引法』2020年180−181頁)。例え ば、独禁法上、公取委には、命令の名宛人の命令不遵守の場合の金銭(過料)の支 払いを義務付ける間接強制権限(独禁法97条)はある。
20) 宗田貴行「特商法上の指示に基づく返金命令」獨協法学100号2016年151−180頁、
172−174頁。本稿で述べている見解である。
21) 宗田貴行「行政処分による消費者被害救済」消費者法11号2019年32−36頁、34−
35頁。
22) 「日本消費者法学会第11回大会シンポジウム『消費者被害の救済と抑止の手法の多 様化』ディスカッション」消費者法11号2019年37−99頁、41−42頁(山本隆司発言)。
について、いかなる根拠で、いかなる要件の下、どのような内容の命令が、金 銭的被害救済のために下され得るのかについて検討を行う。
⑴ 独禁法上の排除措置命令による場合
まず、独禁法上の優越的地位の濫用に該当する公共料金の不当な値上げの事 例において、公取委は、以下のように、一定の場合に、排除措置命令に基づい て、被害者たる多数の消費者への返金を違反事業者に対して命じうると考えら れる。
公取委の排除措置命令(独禁法7条1項・20条1項)には、①一回目の違反 の重大かつ具体的な危険の存在する場合に、係る危険の排除のために行われる 予防的排除措置命令、②違反の継続又は反復の重大かつ具体的危険の存在する 場合に、係る危険の排除のために行われる継続・反復排除措置命令、③違反に より生じなお現存する違法状態が存在する場合に、その排除のために行われる 違法状態排除措置命令があると考えられる23)。
公取委は、これらのうち③違法状態排除措置命令に基づき、一定の場合に、
違反事業者に対し被害者への金銭の支払いを命じる権限(利益返還命令権限)
を有していると考えられる24)。
これは、上述したように(五2)、以下のような根拠に基づくものである。
これについては、まず、法目的との関係について、述べなければならない。
独禁法は、たしかに、市場参加者の財産自体の保護を目的とするものではない が、競争のプロセス(過程)を保護するために、市場参加者の財産の形成・維 持のための活動の自由を保護するものである25)。このため、ある市場参加者の
23) 既往の違反行為に対する排除措置命令も規定されている(独禁法7条2項)。
24) この命令の要件・効果の詳細は、宗田貴行「搾取的濫用行為と独禁法上の行政及 び民事的エンフォースメント―ドイツ競争制限禁止法における議論を参考にして―
(下)」獨協法学97号2015年1頁以下、46−48頁。
25) この点に関するドイツにおけるGWB上の議論について、宗田貴行「搾取的濫用行 為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント(上)」獨協法学96号2015年195
−309頁、231頁。
独禁法違反行為によって他の市場参加者の財産の形成・維持のための活動の自 由が侵害されるといえる。したがって、独禁法違反行為によって財産的被害が 生じ、係る被害を当該違反による「結果」として生じた違法状態であると認定 する場合には、その排除のために被害回復を行政処分によって命じなければな らないと考えられるものである。
従来の公正取引委員会の運用において、独禁法上の排除措置命令に基づき被 害回復を命じた例はないが、近時は、これを肯定する有力な学説が見受けられ る。特に、消費者も含め、購入者に対する電力の不当な値上げの事例において、
その必要性が強く認識されているところである26)。すなわち、このような事例 においては、不当に超過して支払わされている状態の排除が、超過支払額の返 金を意味することを根拠として、係る返金が命じられると考えられる。
もっとも、どのように違反を認定するかによって、違反によって生じなお現 存する違法状態は、異なってくる。
このため、以下においては、違反認定の仕方の違いに着目して分類し、各認 定方法における返金命令の可否及び、それが可能である場合における命令の内 容を検討する。
第一に、公共料金の不当な値上げの事例において、不当高価格設定行為自体 を優越的地位の濫用(同法19条・2条9項5号)として認定する場合について、
検討する。
この場合には、不当高価格設定及び実際の支払いが、「違法の根源」(違反)
であり、超過額を支払わされ続けている状態が「違反の結果」として捉えられ る。このため、違反により生じなお現存する違法状態は、超過して支払わされ ている状態であり、「返金という作為が、この違法状態の排除と同義である」
26) 舟田正之「東京電力の料金値上げ注意事件について」公正取引744号2012年47頁以 下、52頁、同『不公正な取引方法』有斐閣2009年218〜219頁、杉浦市郎「優越的地 位の濫用規制―大規模小売業とフランチャイズを中心にして―」日本経済法学会年 報27号2006年59頁以下69頁等。学説の検討は、宗田貴行「搾取的濫用行為と独禁法 上の行政及び民事的エンフォースメント―ドイツ競争制限禁止法における議論を参 考にして―(下)」獨協法学97号2015年1頁以下、42頁以下。
ことから、公取委は、違反行為者に対し、違法状態排除措置命令に基づき、最 小限の要請、十分性の要請及び特定性の要請に合致する形で、多数の消費者へ の返金を命じることができると考えられる27)。
もちろん、違反行為者といえども、憲法13条の幸福追求権の保障の下、行政 の過度な介入からの自由を有し、また、憲法29条の財産権の保障の下、契約の 自由も有しており、当該契約に係る違反行為をどのような形で終結させるのか についての自由を有していると考えられ、利益返還(返金)命令は、当然、そ れらを害してはならない。このため、公取委は、違反行為により生じ現存する 違法状態を排除するために必要であれば、いかなる作為も命じ得るというもの ではない。
したがって、命じられる作為が、違反行為により生じ現存する違法状態を排 除することと同義であることが、違法状態排除措置命令の目的からの要請上、
必要とされる。
このため、個々の事例において、命じられる具体的措置は、係る違法状態を 排除するために十分であるだけではなく、かつ最小限であることが要される。
この最小限の要請に鑑み、具体的措置が複数ある場合に、行政庁の処分によっ て、そのうち一つの具体的方法を命じて強制することはできない。受命者には、
27) 宗田貴行「搾取的濫用行為と独禁法上の行政及び民事的エンフォースメント―ド イツ競争制限禁止法における議論を参考にして―(下)」獨協法学97号2015年1−73頁、
34−35頁注(57)で、筆者は、一方的に不利益な取引条件を押し付けられたことを 中心に違反を認定する場合に、財産上の不利益が生じていることを認定した上で、
公取委は排除措置命令によって値上げの「一方的なやり方」を止めることを命じう るに過ぎず、利益の返還を命じることができないと指摘したところであるが、これ については、以下のように場合分けが要されるものである。すなわち、①現実に消 費者が支払っているが違反としては消費者が支払ったことを認定せずとも濫用が認 定されうる場合には、公取委は、利益の返還を命じ得ない(後述第二の場合)。他方、
②消費者が支払っていることも含めて違反として認定している場合には、一方的に 不利益な取引条件を押し付けることと不当な値上げによる財産上の不利益の排除が 行われねばならないため、公取委は、利益の返還を命じ得ると考えられる(後述第 三の場合)。
憲法上、幸福追求権(憲法13条)、財産権(憲法29条)、営業の自由(憲法22条 1項、憲法29条)等の諸権利が保障されており、命令の目的に従って範囲を確 定された命令の内容をどのような形で履行するかについて、受命者は、本来自 由であるからである。
また、返金命令の内容は、処分の名宛人が命令を履行するために必要な程度、
具体的である必要がある(特定性の要請)。このため、支払先、支払金額、支 払方法につき、明示される必要がある。
ただし、支払先については、特定性の要請の趣旨に照らし、名宛人の有する 情報に基づいて可能な限り、執行時に特定可能である程度に命令時までに包括 的に示されることで足り、執行段階での確定も許されると解するべきである。
それ故に、支払方法が複数ありえる場合には、最小限性の要請に鑑み、命令時 又は執行時までに28)、名宛人に選択させ特定すべきであると解する。
第二に、事業者が様々な手段に基づく一方的なやり方(値上げについて十分 に告知や情報提供をしないことや、解約条件を無用に厳格にすること等)によっ て不当に値上げを実施したことを公取委が優越的地位の濫用(独禁法19条、2 条9項5号)として認定し、実際に購入させられた消費者はいるが、違反とし ては消費者が購入させられたことまでは認定せずとも濫用を認定しうる事例に ついて、検討する。
この場合には、顧客が値上げを押し付けられた状態が違法状態であり、その 排除は、その排除のための具体的措置によって行われ得るものである。このた め、この場合に返金を命じることは、受命者は係る状態を生じさせただけであ るのに返金まで行わねばならないこととなり、最小限の要請に反すると考えら れる29)。
第三に、様々な手段に基づく一方的なやり方(値上げについて十分に告知や 28) なぜなら、支払先は、命令時には必ずしも明確に示される必要はないのであるから、
具体的支払先が命令時には具体的に特定されないこともありえ、その場合には、命 令時に支払方法を確定し得ないことが想定され得るからである。
29) 宗田貴行「特商法上の指示に基づく返金命令」獨協法学100号2016年151頁−180頁、
165頁。
情報提供をしないことや、解約条件を無用に厳格にすること等)によって不当 に値上げを実施し、実際に消費者が購入させられたことを公取委が優越的地位 の濫用(独禁法19条、2条9項5号)として認定した事例について、検討を行 うことにする。
この場合の「違法の根源」は、一方的に押し付けられた形での不当高価格設 定及び実際の支払いであり、①一方的なやり方で料金を押し付けられ支払わさ れ続けざるを得ない状態及び②超過額を支払わされていることが、「違反の結 果」であり、違反により生じなお現存する違法状態であると法的に評価され得 る。
このため、公取委は、違法状態排除措置命令に基づき、①一方的なやり方の 中止、②押し付けられた状態の排除を行うための具体的措置及び、③超過支払 額の返還を命じることが、各事例において、十分性の要請、最小限の要請、特 定性の要請に適う形で可能であると考えられるものである。
これらの他に、GAFA等デジタル・プラットフォーム企業による消費者に対 する不当な値上げが独禁法上の優越的地位の濫用に該当する事例についても、
同様に考えられる。
また、上記Facebook事件連邦カルテル庁2019年2月6日決定(B6-22/16)
において明らかにされたように、Facebookによるユーザーデータ収集は、一 定の場合に市場支配的地位の濫用(GWB19条)に該当するところ、これと同 様に、我が国でも、ユーザーデータ収集は、公取委「デジタル・プラットフォー ム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に 関する独占禁止法上の考え方」によれば、一定の場合に独禁法上の優越的地位 の濫用として認定されうる。このため、その場合の公取委の排除措置命令によ る被害回復について、今後、検討する必要がある。
さらに、2020年6月5日に可決・成立した改正個人情報保護法(2022年6月 までに施行)によれば、提供元では個人情報ではないクッキー(cookie)など のDMP(Data Management Platform)の情報は、提供先で個人情報となる場 合には、「個人関連情報」と定義され、これを管理する事業者(提供元)は、
提供先がこの情報を個人データとして取得することが想定されるときは、提供
先が予め本人の同意が得られていることを確認するよう義務づけられている。
また、この規律に違反した事例では、個人が消去や利用停止を請求し得ること とされている。さらに、そのような事例において、同法上の行政処分によって、
提供先での当該個人データの削除を命じ得ると考えられるほか、行政処分によ る被害回復については、今後、検討したい。
次に、欺瞞的顧客誘引の事例について、検討を加えることにする。
多数の消費者が欺瞞的顧客誘引により誤認し購入したことを独禁法上の不公 正な取引方法(同法19条、同法2条9項)の一般指定等において違反行為とし て規定し、公取委が、個別の事例において、それを認定する場合について、検 討する。なお、上記のデジタル・プラットフォーム企業の不当な手段によるユー ザーデータの収集の事例も、この場合の一例として検討されうるものである。
これについては、まだ不確かなところも多いので、今後の課題としたい。
この場合に、公取委は、十分性の要請、最小限の要請、特定性の要請を満た す形で、当該違反行為により生じた違法状態の排除のため、違法状態排除措置 命令に基づいて、①返金②不当表示の撤去及び③誤認状態の排除のための訂正 広告の配布の作為を命じうると解する。なぜなら、この場合には、違反により 生じなお現存する違法状態の排除とこれらの作為(①〜③)とが同義であるか らである。
これらの返金命令は、上述したように、公取委に現行の独禁法7条1項や同 法20条1項において認められている違法状態排除措置命令に基づいて可能であ る。このような解釈は、たしかに、従来の一般的見解は明らかにしてこなかっ たが、それは、これに係る上述した検討がなされず、理論的考察が不十分であっ たからに過ぎないものである。繰り返すが、この解釈は、現行法の解釈として 認められるものであると考えられる30)。もちろん、これを明確化するために、
30) 排除措置命令書の必要的記載事項を定めた独禁法61条1項は、「排除措置命令は、
文書によって行い、排除措置命令書には、違反行為を排除し、又は違反行為が排除 されたことを確保するために必要な措置並びに公正取引委員会の認定した事実及び これに対する法令の適用を示し、委員長及び第65条第1項の規定による合議に出席 した委員がこれに記名押印しなければならない。」と規定している。この規定の違反
公取委の実務がまず動き、その後立法して具体的に定めることも、また妥当な ことであろう。このことは、例えば、ドイツにおいて、GWB上のカルテル庁 の利益返還命令は、そもそも違法状態排除の行政処分に基づいて行われてきた ものであり、これを踏まえ、近時の改正によって同法32条2a項において明文 化された経緯からも、明らかである。
⑵ 下請法上の勧告の場合
次に、公取委は、下請法上の勧告31)によって、一定の場合に、違反事業者に 対し被害事業者への金銭の支払いを命じる権限を有しており、現に従来の事例 においてこれを命じてきた32)。学説においても、同様に肯定説が有力である33)。
例えば、公取委は、下請代金の支払い遅延の事例においては、下請代金の支 払いを勧告する権限が認められており、また、下請代金の減額の禁止及び下請 代金不当低額設定の禁止の事例においては、正当な代金との差額の支払いを勧 告する権限が認められている。
これは、上述の検討を踏まえれば、下請法4条1項2号、3号及び5号の各
行為の排除、違反行為の排除の確保のための必要な措置において、違法状態の排除 のために多数の消費者への返金が命じられることになると解する。もっとも、返金 命令も含め違法状態排除に係る命令が認められている以上、この条文では文言的に 正確ではないので、違反行為の排除に加えて「違法状態の排除」との文言も定める べきであろう。
31) 下請法上の勧告は、その取消訴訟が許されず行政処分ではなく、行政指導に分類 される。他方、特商法上の指示は、指示という用語にもかかわらず、行政指導では なく、その取消訴訟が可能であり、行政処分と分類されるものである。また、下請 法上は、勧告に対する不遵守の場合の刑事罰等が規定されておらず、特商法上の指 示とは状況が異なっている。下請法上、勧告不遵守の場合には、改めて独占禁止法 違反が問われうるに過ぎない。
32) 三共理化学株式会社に対する公正取引委員会平成25年5月21日勧告、旭流通システ ムに対する公正取引委員会平成25年4月23日勧告等がある(http://www.jftc.go.jp/)。
33) 根岸哲「優越的地位の濫用規制に係る諸論点」日本経済法学会年報27号2006年21 頁以下29頁。
違反行為によって生じ現存する違法状態は、違反によって不当に支払わされた という状態を意味し、これは、係る各金銭の支払いによって「のみ」排除され るからであると考えられる。
各事例において、十分性の要請、最小限の要請、特定性の要請に合致した内 容で、係る支払いが、勧告において命じられうると考えられる。
⑶ 特商法7条1項1号の場合
ところで、特商法上、訪問販売に係る契約に基づく債務の履行の拒絶・ 遅 延の場合(同法7条1項1号)に「履行」が、指示において命じられうること が指摘34)されている。
また、訪問販売に係る契約の解除によって生じた返金債務の履行の拒絶・遅 延の場合に「返金」が、指示によって命じられうることも、指摘されてい る35)。
さらに、特商法上の特定の取引類型において、事業者が消費者に対して返品 受領にかかる特約を付して取引を行った場合、当該特約条件に従った返品申し 出を事業者が拒否すれば、同法7条1項1号、同法14条1項1号等の「債務の 全部または一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させる」行為に該当する。こ のとき、当該事業者に対し、債務の履行拒否や不当遅延という違反行為(違法 状態)を解消するためにとるべき措置として、例えば、債務の履行(返品を受 領し、代金を返還すること)を指示において命じ得るとされる36)。
消費者庁は、これと同様の事案につき、通信販売事業者に対する指示処分(平 成24年11月29日)において、違反事業者に対し、消費者からの商品の返品に応 じたうえ、商品代金の返還をすることを命じている。
これらの事例において、「違法の根源」(違反)は、係る債務の履行の拒絶・
遅延であり、「違反の結果」は、係る履行をされないでいる状態である。したがっ 34) 後藤巻則・齋藤雅弘・池本誠司『条解消費者三法』弘文堂2015年353頁(齋藤雅弘)。
35) 前注に同じ。
36) 行政手法研究会報告書「行政による経済的不利益賦課及び財産の隠匿・散逸防止 策について」(平成25年6月)31頁。
て、これらの事例において、このように指示に基づき「履行」や「返金」が命 じられうるのは、違反行為により生じ現存する「結果」としての違法状態の解 消と「履行」や「返金」が、「同義である」からである。特商法上の指示が行 政処分である37)以上、その権限が不当に拡大されることは、回避されねばなら ない。したがって、この「違法状態の排除とこれら作為が同義であること」は、
処分の目的からの要請に基づくものであると同時に、特に、最小限の要請との 関係において、重要なものと考えられる。違法状態排除に係る指示に基づいて、
各事例において、十分性の要請、最小限の要請、特定性の要請に合致した内容 で、これら「履行」「返金」といった作為が命じられうると考えられる。
⑷ 消費者安全法上の勧告・命令による場合
さらに、消費者安全法上、重大事故等に関する内閣総理大臣の勧告(同法40 条1項38))及び勧告の名宛人が、勧告に従わなかった場合に、その勧告に係る 命令が下される(同法40条2項)。
近時は、これだけではなく、平成24年の改正によって、新設された多数消費 者財産被害事態(同法2条8号)に関する是正措置命令(同法40条4項)が、
以下のように規定されている。これにより、重大事故等以外の事例とは異なり、
37) これについては、宗田貴行「特商法上の指示に基づく返金命令」獨協法学100号 2016年151−180頁、169−170頁で詳論した。
38) 消費者安全法40条1項(平成24年改正前17条1項)は、「内閣総理大臣は、商品等 又は役務が消費安全性を欠くことにより重大事故等が発生した場合(当該重大事故 等による被害の拡大又は当該重大事故等とその原因を同じくする重大事故等の発生
(以下「重大生命身体被害の発生又は拡大」という。)の防止を図るために実施し得 る他の法律の規定に基づく措置がある場合を除く。)において、重大生命身体被害の 発生又は拡大の防止を図るため必要があると認めるときは、当該商品等(当該商品 等が消費安全性を欠く原因となった部品、製造方法その他の事項を共通にする商品 等を含む。以下この項において同じ。)又は役務を供給し、提供し、又は利用に供す る事業者に対し、当該商品等又は役務につき、必要な点検、修理、改造、安全な使 用方法の表示、役務の提供の方法の改善その他の必要な措置をとるべき旨を勧告す ることができる。」と規定している。
「多数の消費者に財産的被害を生じさせる行為」について、行政処分が行われ 得ることとなっていることは、行政処分による被害回復との関係において、上 述してきた従来の諸法違反に係る行政処分の場合に比して、特に重要なもので ある。このため、以下において、これについて詳細にみていくことにする。
消費者安全法は、行政処分として、消費者庁等は、「消費者の財産上の利益 を侵害することとなる不当な取引の取りやめその他の必要な措置をとるべきこ と」を勧告し(同法40条4項39))、勧告の名宛人が勧告に従わなかった場合に、
その勧告に係る命令を下すことができる(同法40条5項)、と規定する。
上述した景表法・特商法上の行政処分の種類・目的・要件・内容に係る検討
(四1及び2)に鑑みると、ここにおける勧告・命令は、以下の3つの権限を 含むものであると考えられる。
まず、①まだ消費者の財産上の利益を侵害することとなる不当な取引が行わ れていないが、将来それが行われる深刻かつ重大な危険が存在する場合に、当 該取引の不作為を命じる予防的差止に係る勧告・命令である。
次に、②すでに係る不当な取引が行われているが、それが継続又は反復する
39) 同法40条4項は、「内閣総理大臣は、多数消費者財産被害事態が発生した場合(当 該多数消費者財産被害事態による被害の拡大又は当該多数消費者財産被害事態と同 種若しくは類似の多数消費者財産被害事態の発生(以下この条において「多数消費 者財産被害事態による被害の発生又は拡大」という。)の防止を図るために実施し得 る他の法律の規定に基づく措置がある場合を除く。)において、多数消費者財産被害 事態による被害の発生又は拡大の防止を図るため必要があると認めるときは、当該 多数消費者財産被害事態を発生させた事業者に対し、消費者の財産上の利益を侵害 することとなる不当な取引の取りやめその他の必要な措置をとるべき旨を勧告する ことができる。」と規定している。
例えば、契約の締結に関する行為規制違反として独禁法違反があると考えられる ことから、ここでも、独禁法に違反する「消費者の利益を不当に害する高価格設定 行為」を捕捉することが可能であるようにもみえるが、公取委の独禁法上の排除措 置命令に基づく返金命令が可能であるため、同法40条4項のいう「被害の防止を図る ために実施しうる他の法律の規定に基づく措置」がある以上、それに対する行政処 分たる勧告として消費者庁等が、全額の返金を命じることは、不可能であるといえる。
深刻かつ重大な危険が存在する場合に、当該取引の不作為を命じる継続・反復 差止に係る勧告・命令である。
さらに、③係る取引によって生じなお現存する違法状態が存在する場合に、
当該違法状態の排除のための一定の作為を命じる違法状態の排除に係る勧告・
命令である。なお、同法上、既往の違反行為に対する行政処分についての定め はないが、景表法等について、上述したところと同じように、それは③によっ て命じられ得ると考えられる。
上述したGWBの議論(四1(2))及び独禁法上の議論(五2(1))の検 討を参考にして、消費者安全法上の上記の命令(以下、「是正措置命令」という)
という行政処分における違法状態の排除の処分によって多数消費者の被害回復 を命じうることの可否を論じるのであるから、まず、消費者安全法が、消費者 の消費経済活動における財産の適切で自主的な形成・維持に係る自由の保護を 目的としたものであるのか、或いは、それを超えて、消費者の財産自体の保護 も目的としたものであるのかが、問われねばならない。
まず、消費者安全法1条は、同法の目的について、「この法律は、消費者の 消費生活における被害を防止し、その安全を確保するため、内閣総理大臣によ る基本方針の策定について定めるとともに、都道府県及び市町村による消費生 活相談等の事務の実施及び消費生活センターの設置、消費者事故等に関する情 報の集約等、消費者安全調査委員会による消費者事故等の調査等の実施、消費 者被害の発生又は拡大の防止のための措置その他の措置を講ずることにより、
関係法律による措置と相まって、消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営 むことができる社会の実現に寄与することを目的とする。」と定めている。
このように消費者安全法の目的は、「消費者の消費生活における被害を防止 し、その安全を確保する」ことにある。
そして、この被害には財産的被害も含まれているものである。なぜなら、こ の目的規定の「被害の防止」は、消費者安全法2条8号において、以下のよう に具体化されており、消費者安全法は、消費者の財産上の利益を侵害する行為 を違反行為として規定するに至っているからである。
すなわち、消費者安全法2条8号は、「この法律において『多数消費者財産
被害事態』とは、第5項第3号に掲げる事態のうち、同号に定める行為に係る 取引であって次の各号のいずれかに該当するものが事業者により行われること により、多数の消費者の財産に被害を生じ、又は生じさせるおそれのあるもの をいう。 1 消費者の財産上の利益を侵害することとなる不当な取引であっ て、事業者が消費者に対して示す商品、役務、権利その他の取引の対象となる ものの内容又は取引条件が実際のものと著しく異なるもの 2 前号に掲げる 取引のほか、消費者の財産上の利益を侵害することとなる不当な取引であって、
政令で定めるもの」と規定している。
ここで引用されている同法2条5項3号は、「前2号に掲げるもののほか、
虚偽の又は誇大な広告その他の消費者の利益を不当に害し、又は消費者の自主 的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある行為であって政令で定めるものが 事業者により行われた事態」と規定する。これを受けて、政令3条4号イにお いては、取消事由となる不当勧誘による契約、ロにおいては、法律が無効とす る契約条項を含む契約が対象行為として規定されているが、これらに当たらな い場合にも、消費者との間の契約の締結・履行・消費者による当該契約申し込 みの撤回・解除・解約に関し、個別法において事業者の行為規制が定められて いる場合に、消費者の利益の保護に資するものとして、内閣府令で定めるもの に違反することが対象行為とされうる(政令3条7号)。そこで、府令をみて みると、府令4条各号は、特商法、貸金業法、割賦販売法の関連する規定を「例 示」列挙し、そこにおいては、事業者間の契約に適用される規律であっても含 まれるとしている40)。
このように消費者安全法2条8号が、「多数消費者財産被害事態」について、
「消費者の財産上の利益を侵害することとなる不当な取引であって」と規定し ていることに鑑みるならば、消費者安全法は、独禁法、景表法、特商法とは異 なり、消費者の財産の適切かつ自主的な形成・維持のため消費経済活動の自由 の確保のみならず、消費者の財産自体をも保護するものであると考えられる。
事業者の経営活動から消費者の安全を保護することは、民主的な競争プロセ 40) 消費者庁消費政策課等『逐条解説消費者安全法(第2版)』商事法務2013年60頁。
ス(過程)における消費者の財産の適切かつ自主的な形成・維持のための消費 経済活動の自由、それも、その根幹部分を保護することを意味する。なぜなら、
安全が保障されなければ、生身の人間としての消費者の消費経済活動はままな らないからである。しかし、消費者安全法は、このように消費者の財産上の利 益自体を侵害する場合を捉えて違反として規定しその排除を予定している以 上、それを超えて、消費者の財産自体を直接的に保護することを目的としてい る、ということができる。
このように考えられることから、「多数消費者財産被害事態」に係る消費者 安全法違反が存在している場合には、市場参加者たる消費者の係る消費経済活 動の自由及び消費者の財産自体が侵害されているのであり、このことは、同法 上の違法性の実質を意味するということができる。したがって、その違反を成 立させる決定的要素として当該消費者らに財産的被害の発生が認められる以 上、その財産的被害は、同法に違反している状態、つまり違法状態であると捉 えられるものである。このため、消費者庁等は、その違法状態の排除のために、
消費者安全法違反行為者に対し、当該消費者らへの金銭の支払いを勧告によっ て命じ、違反事業者がそれに従わない場合には、消費者庁等は、是正措置命令 によって、十分性の要請、最小限性の要請、特定性の要請に合致した形で、当 該消費者らへの金銭の支払いを命じなければならないと考えられるのである。
もちろん、消費者安全法は、行政法であるから、例えば、特定の市場参加者 ただ一人のみに係る侵害が生じている場合には、通常、行政秩序が害されたと はいえず、行政庁は、この処分を下し得ないであろう。金銭的支払いを命じな い他の処分の場合と同様に、一定の行為の広がり及び被害の広がりがある事例 において、通常、行政秩序に対する侵害があると認められる場合にのみ、係る 処分が命じられるものである。
このように、消費者庁等は、③違法状態の排除に係る勧告・命令に基づき、
同法違反により生じなお現存する違法状態を排除することと命じられる返金と が同義である場合には、「必要な措置」として、具体的事例において、十分性 の要請、最小限の要請、特定性の要請に合致する内容で、返金を命じうると考 えられる。