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米 国 刑 事 法 研 究 会

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(1)

アメリカ刑事法の調査研究

(132)

米 国 刑 事 法 研 究 会

(代表 椎 橋 隆 幸)

Freeman v. United States, 564 U. S. _(2011)

麻 妻 み ち る

**

連邦刑事訴訟規則(Fed. R. Crim. P.)11(c)(1)(C)に基づく有罪答弁と引 き換えに検察官から勧告された一定の量刑に合意の上,判決が宣告された 被告人は,その後合衆国量刑委員会が当該犯罪について合衆国量刑ガイド ラインの量刑範囲を減軽修正する法改正を行った場合,宣告されていた刑 を減軽する救済申立ての対象となりうると判示された事例。

≪事案の概要≫

本件は,いわゆるクラックコケイン1)所持の事案である。

申請人

Freeman

は,コケイン頒布目的所持を含む複数の罪で2005年に

起訴された。

申請人は,連邦刑事訴訟規則(Fed. R. Crim. P.)11(c)(1)(C) に基づいて,

 所員・中央大学法科大学院教授・法学部教授

**  嘱託研究所員・中央大学法学部兼任講師

1) クラックコケインとは,一般にパウダー状コケインと区別される結晶状コケ インを指す。合衆国における法律上の取扱いに関しては後述する。

(2)

全ての訴因について有罪答弁することに同意し,それと引き換えに検察側 は,106ヶ月の拘禁刑が,本件の量刑として適切な処分であると同意した(な お,検察側が勧告した106ヶ月のうち,46ヶ月が量刑ガイドラインに従っ た部分の最下限に当たる)。この答弁合意は,当事者双方が合衆国量刑ガ イドラインをそれぞれで精査し,その結果,量刑ガイドラインに従って量 刑判断されることに申請人自身が同意しているといった協議内容になって いた。district courtは,この答弁合意を受理し,量刑聴聞で量刑ガイドラ インと法律上の量刑目的を考慮した上で,106ヶ月の拘禁刑を言い渡した。

この判決からおよそ 3 年後,合衆国量刑委員会は,クラックコケイン犯 罪と粉末コケイン犯罪との間に刑罰の重大な不均衡が生じており,これを 是正するため量刑ガイドラインを改正し,遡及適用を認めた。本件に改正 した量刑ガイドラインを遡及的に適用すると,申請人に言い渡された量刑 のうち,量刑ガイドラインに関する部分は46ヶ月から37ヶ月に減軽されな ければならない。

申請人は,18 U. S. C. §3582(c)(2)に基づく刑の減軽を申し立てたが,

district court

はこの申立てを却下した。第六巡回区

Court of Appeals

はこ れを確認し,刑事訴訟規則11(c)(1)(C)の答弁合意に基づいて刑を言い渡 された被告人は,誤判もしくは当事者相互の誤りがある場合を除いては,

§3582(c)(2)の救済の対象とならないと判示し,同規則11(c)(1)(C)の答 弁合意をした被告人の §3582(c)(2)による救済を一律禁止した。

答弁合意の上,刑の宣告を受けた者に刑の減軽救済を申し立てることが できるかを判断するため,合衆国最高裁判所によりサーシオレーライが認 容された。

≪判旨≫

破棄・差戻し

1 Kennedy

裁判官の複数意見(Ginsburg,

Breyer, Kagan

裁判官参加)

合衆国量刑ガイドラインは,裁判官が裁量を行使するための基礎

(basis)

を提供する。連邦刑事訴訟規則11(c)(1)(C)の答弁合意があっても裁判所

(3)

は裁量を行使する独立した義務から解放されるわけではないし,たとえ裁 判官の量刑判断が量刑ガイドライン上の量刑範囲から離れていても,そこ から逸脱することを説明する原点として量刑ガイドライン上の量刑範囲を 利用する場合,量刑ガイドラインは真の意味での量刑の基礎となる。

量刑ガイドラインの適用基準を示すポリシーステイトメント

(USSG

§6B1. 2. )は,裁判官に,量刑ガイドラインが提示する量刑を斟酌せずに 同規則11(c)(1)(C)の合意を受理することを禁じている。当事者の答弁協

議・取引

(bargain)

は,裁判所が当事者の合意を受理してはじめて条件が

整うものであり,双方当事者が,答弁協議の合意内容として具体的量刑を 認容しているとしても,公判裁判官は量刑ガイドライン上の量刑範囲に当 然の配慮を払うべきであると量刑ガイドラインは求めている。

また,量刑ガイドラインの別のポリシーステイトメントによると,量刑 を訂正するときには,遡及適用のある改正された部分だけを用い,その他 の部分は量刑ガイドラインがもともと定めるところに従うとされる

(USSG§1B1. 10. )。したがって,18 U. S. C. §3582(c)(2)

の修正手続によ ると,裁判所に宣告刑をもう一度見直す機会が与えられなければならない が,改正された量刑範囲が,量刑を判断する際や答弁合意を受理するにあ たって裁判官が用いた分析枠組みの一部となっている限度で見直すことが 許される。

このようにして,被告人の同規則11(c)(1)(C)の答弁合意がある場合で も,量刑が量刑ガイドラインに基礎を置いて科された場合には,裁判所に は §3582(c)(2)に基づく減軽の申立てを検討する権限がある。

以上を本件について当てはめてみると,本件では,量刑聴聞の記録上,

申請人の元の量刑は量刑ガイドラインに基礎を置くことがわかる。本件

district court

は,法律上の量刑目的と量刑ガイドラインの適用基準を示す

ポリシーステイトメントに合致するように,量刑ガイドライン上の量刑範 囲を算定していた。したがって,本件

district court

の量刑判断は量刑ガ イドラインに基礎を置いていたといえる。

次に,政府は,「刑事訴訟規則11(c)(1)(C)の合意に基づく被告人の量刑

(4)

は,量刑ガイドラインでなく,当事者の答弁合意にのみ基礎を置く。そう 考えなければ,当事者協議を覆すことになる。したがって,本件被告人は,

§3582(c)(2)に基づく救済を受けることはできない」と主張する。しかし ながら,§3582(c)(2)の救済は量刑ガイドラインに基礎を置くもので,当 事者協議とは関係なく,本件について遡及適用を認め法律上の救済の対象 にしても大きな問題はない。その根拠は,第一に,量刑範囲についての遡 及的な減軽は頻繁に起こる問題ではない,第二に,前述のとおり §3582(c)

(2)

の裁判所の裁量権限が制限されることで,修正される範囲は限定され ている。本件で裁判所が裁量をはたらかせても,答弁協議の内容を別のも のに変える(overhaul)ことにはならない。

また,政府及び反対意見は,同規則11(c)(1)(C)の答弁協議がある場合

§3582(c)(2)に基づく救済の一律禁止を望んでいるが,これは裁判所の刑 を見直す機会を全てなくしてしまおうとするもので,裁判官の専門的な裁 量判断を否定すべきではない。裁判官は,§3582(c)(2)に基づく裁量判断 をはたらかせるとき,被告人が答弁協議をしていた点を考慮することがで きる。法律は,刑の減軽について,あくまでも裁判官にその権限を与える だけで,義務を与えていない。したがって,裁量をはたらかせるという意 味で,§3582(c)(2)が被告人に予期せぬたなぼた(windfall)を生むもの とはいえない。

補足意見は,複数意見と反対意見の中間的立場で,同規則11(c)(1)(C) の答弁合意に従って刑を言い渡された被告人には,原則 §3582(c)(2) 救済を受ける適格はないが,当事者による有罪答弁の合意内容そのものが 刑の減軽修正を認容する場合には,例外的に §3582(c)(2)の救済を受け ることができるという。しかしながら,法律は,当事者の動機ではなく,

量刑裁判官に量刑理由を審理することを求めている。答弁協議の合意事項 が刑の修正を認容する場合に限ってこれを許せば,かえって量刑の不均衡 を生んでしまう。

量刑改革法(The Sentencing Reform Act)の立法趣旨は,類似の事情の 下,類似の重大性ある犯罪を犯した者は,類似の量刑を受けるという,包

(5)

括的な量刑スキームを創設する点にある

(18 U. S. C. §3553(a)(6))。犯罪

の重大性や類似する犯罪の量刑範囲と調和せず,また法の目的にも一致せ ずに,合衆国量刑委員会が定めた量刑ガイドライン上の範囲が重過ぎる場 合,§3582(c)(2)に基づいて裁判所に宣告刑の調整を許すことは,この量 刑目的にかなうものである。

クラックコケイン犯罪に関して,合衆国量刑ガイドラインには欠陥があ る。補足意見が主張するように,答弁協議の合意内容の中で量刑ガイドラ インについて具体的に明示する一部の被告人にだけ救済対象を限定するこ となく,量刑ガイドラインを基礎にして判断された量刑は,§3582(c)(2) に基づいて再検討されるべきである。制度をそのまま運用すれば不正義な 結果を生む,そのような組織的な不公正を救済する目的で §3582(c)(2) 制定された。§3582(c)(2)に基づく減軽救済を受けることができるかを裁 判所で再度審理することで,類似の被告人に対する恣意的な区別を回避す ることができる。

2 Sotomayor

裁判官の結論賛成意見

本件申請人は18 U. S. C. §3582(c)(2)の救済を受ける対象となりうる,

とする複数意見の結論には賛成する。刑事訴訟規則11(c)(1)(C)の合意に 基づいて科された刑期は,原則当事者の答弁合意に基礎を置くと考えるが,

答弁協議の内容が合衆国量刑ガイドラインの定める量刑範囲を利用してい ると明示するとき,その場合の宣告刑は例外的に,量刑ガイドライン上の 量刑範囲に基礎を置き,被告人は §3582(c)(2)に基づく刑の減軽の対象 となると考える。

同規則11(c)(1)(C)の答弁協議の合意がある場合に宣告された刑期は,

量刑ガイドラインに基づいて算定されるのではなく,当事者が至った合意 内容によって決定される。つまり,裁判所は,この合意を受理するか拒否 するかしか選ぶことができず,いったん裁判所が合意を受理すれば,裁判 所は当該答弁合意の内容に拘束され,答弁協議から容認される刑期を科す ことしかできない。§3582(c)(2)の適用を考える上では,規則11(c)(1)(C)

(6)

の答弁合意がある場合の宣告刑は合意そのものに基礎を置くと解さない と,当事者双方に被告人の宣告刑を決定することを許すという同規則 11(c)(1)(C)の合意の趣旨に矛盾する。

しかしながら,規則11(c)(1)(C)の答弁合意が特定の刑期を明示し,そ の刑期が,量刑ガイドライン上の量刑範囲に基礎を置くことが答弁合意そ のものから明白な場合には,その合意に従った裁判所の宣告刑は量刑ガイ ドラインに基礎を置くことになる。したがって,規則11(c)(1)(C)の答弁 合意が刑期を決める際に量刑ガイドラインの具体的な量刑範囲を明示的に 利用している場合にまで,§3582(c)(2)の適用を一律に禁止する,政府や 反対意見を支持することはできない。

本件で,言い渡された量刑のうち46ヶ月の部分は,薬物の量などから量 刑ガイドライン上の犯罪行為レベルが19,犯罪歴カテゴリーがⅣであるこ とから,この46ヶ月を導き出している。したがって,本件申請人の刑期は,

量刑ガイドラインを利用し,量刑ガイドラインに基礎を置くことは明らか である。

3 Roberts

首席裁判官の反対意見

(Scalia, Thomas, Alito

裁判官参加

)

刑事訴訟規則11(c)(1)(C)の答弁合意に基づいて科された宣告刑は,合 衆国量刑ガイドラインでなく,答弁合意に基礎を置くとする,Sotomayor 裁判官の補足意見に同意する。しかしながら,規則11(c)(1)(C)の答弁協 議が特定の刑期を明示し,その刑期が,量刑ガイドライン上の量刑範囲を 利用して決定されていることが答弁協議の内容で明らかである場合に限っ て当該被告人は18 U. S. C. §3582(c)(2)に基づく救済の対象となるとする,

補足意見のアプローチが恣意的であるとする点では,複数意見に同意する。

規則11(c)(1)(C)の答弁合意を裁判所がいったん受理すれば,公判裁判 所は合意内容にある当事者が認容した量刑に拘束されるので,本件で,裁 判所が申請人に科す量刑を決定する際に,量刑ガイドラインを持ち出す余 地はなく,裁判所は,双方当事者の答弁合意についてのみ調べるしかなかっ た。また,答弁合意を受理するか否かを決定する際に裁判所が量刑ガイド

(7)

ラインを考慮したからという理由だけで,後に裁判所に刑を減軽すること を許してしまえば,両当事者の承認もなく,規則11(c)(1)(C)の答弁協議 を裁判所が書き換えることを認める仕組みに,§3582(c)(2)を変えてしま うことになる。

ところが

Sotomayor

裁判官の補足意見は,当事者が答弁合意の協議内

容に量刑ガイドライン上の量刑範囲に基礎を置くことを明示する場合だけ でなく,量刑ガイドラインの利用について,ただ一定の刑期を答弁合意に 示すだけで,量刑ガイドラインの量刑範囲に基礎を置いているとして例外 的な取扱いになるという。補足意見の前半部分は刑を言い渡す裁判官に焦 点を当てて考察しているが,後半部分では分析の焦点がずれて裁判官から 当事者に移っており,その判断基準が一貫していない。裁判所だけが,被 告人に刑を宣告できるのであり,当事者がなぜ特定の刑期に合意したのか,

当事者の合意の理由を吟味すべきではない。

補足意見のように当事者に焦点を当てることには多くの問題がある。そ の根拠は,第一に,当事者が答弁協議で一定の刑を選択している場合に,

当事者が何を基礎にして量刑判断をしたのか実際には知る手立てはない。

検察側は限りある資源の利用を考えるだろうし,被告人は公判手続に進め ばかえって刑期が長くなるなどと思うかもしれない。それぞれの事情が あって刑の選択が一致したというのが実情だろうから,両当事者が共通し て基礎を置いたものを探るというのは現実に合わない。第二に,基礎を置 くとされる量刑ガイドラインそのものが明確でないことがある。その点が かえって当事者に規則11(c)(1)(C)の合意に至らせる誘因となることもあ り,実は本件もその可能性がある。

≪解説≫

1 本件で,連邦刑事訴訟規則 (Fed. R. Crim. P. )11(c)(1)(C)(

以下規則 11(c)(1)(C)という

)

の答弁合意の上,判決が言い渡された被告人は,後 に合衆国量刑委員会が合衆国量刑ガイドライン上の量刑範囲を減軽修正す る法改正を行った場合,18 U. S. C. §3582(c)(2)) (以下 §3582(c)(2)とい

(8)

)

に基づいて宣告された自己の刑期を減軽する救済申立てができるかが 争われているが,この争点の前提には,本件量刑判断の基礎は,当事者の 答弁合意か,あるいは合衆国量刑ガイドラインか,いずれに基礎を置いて 判断されたのか,またさらにその前提として,規則11(c)(1)(C)の答弁合 意を受理していても,公判裁判所には量刑判断の際に裁量を行使する権限 があるのかという問題がある。合衆国最高裁判所は,刑事手続において裁 判官は量刑決定手続の際に量刑裁量を行使しなければならず,被告人がた とえ有罪答弁に合意していたとしても,裁判官の量刑裁量は,常に量刑ガ イドラインに基礎を置くと判示した。

本件の根底には,公判裁判官の量刑裁量の範囲とともにコケイン犯罪に 対する量刑の不均衡の問題がある。いささか仕組みが複雑なため,まず,

本件に至るまでの,公判裁判官の量刑裁量権限及びコケイン犯罪に関連す る,近年の合衆国最高裁判所の判例を遡り,その社会的背景を概観し,本 件で問題となっている全体の仕組みを説明する。

2 ⑴ アメリカ合衆国の刑事陪審裁判は,事実認定・法の適用手続と

量刑手続とが明確に分離されていることにその特徴を有する2)。陪審の判 断対象は,trialと呼ばれる公開法廷で行われる有罪・無罪の決定に限定さ れ,その結果,量刑に必要なその他の事実の認定は,裁判官の広範な裁量 に委ねられてきた。しかしその後,量刑の不均衡が問題になり3),これを

2) 合衆国の陪審法制にとって母法にあたるイングランドの陪審制度で,事実上 の量刑裁量の行使がなされていた歴史的経緯から,合衆国においても,当初陪 審の量刑権限が制度化されていたが,統一的な量刑基準がない上,事件ごとに 一件限りで構成される陪審は,類似事件の処理に関する情報も得られず,量刑 内容が異なる事態が生じた。量刑に対する不公平感から刑事司法への信頼を損 ねかねないという理由から,陪審という機関は量刑判断に馴染まないと考えら れるに至っている。このように手続と役割の分離の目的は,公正な裁判を実現 し,陪審による犯罪事実の認定に予断や偏見を容れる危険を防止することにあ る。清水真「陪審の量刑手続関与に関する一考察 アメリカ法の素描」『刑事司 法への市民参加 高窪貞人教授古稀祝賀記念論文集』所収176-180頁参照。

3) 20世紀初頭から刑罰の目的に社会復帰を掲げてきた米国では,従来,改善思

(9)

是正する目的で,広範に認められていた裁判官の量刑裁量を制限する方策 として,連邦法上の犯罪に対する連邦裁判所の量刑裁量の基準を明確化す る合衆国量刑ガイドラインが導入された4)。これ以降,このような陪審と 裁判官の役割分担をそれぞれにおいて,拡張すべきか制限すべきかが議論 されてきたが,法運用としては,量刑ガイドライン導入後もこの権限配分 を変更することなく,法定刑の範囲内で量刑に直接影響を与える構成要件 以外の事由については,裁判官によって量刑手続で認定されてきた。

ところが,構成要件は変えずに,差別という動機を量刑段階で考慮して 刑を加重する

New Jersey

州法の合憲性が争われた

Apprendi

5)で,合衆国 最高裁判所は,法律上規定された最高刑を超える量刑の根拠となる事実は 陪審が認定しなければならず,陪審の事実認定に基づいて下された法定刑 を超える量刑判断を量刑裁判官が行った場合違憲となると判示した。つま り,量刑ガイドラインで定められた法律上強制力のある刑の加重事由は,

刑法を改正して定めた新たな犯罪の構成要素と同視できるのであって,証 拠の優越の程度の証明よりは高い,合理的疑いを容れない程度の証明に基 づき,量刑裁判官ではなく,有罪・無罪決定手続において陪審によって認

想に基づく相対的不定期刑制度を採用し,連邦法上の多くの刑罰規定は,最長 刑期のみを規定し,下限を定めていなかったため,刑の決定に関しては,裁判 官に大きな裁量権が与えられていた。このような不統一な量刑の実態は,やが て,同種の犯罪行為を犯し,前科等の面で類似の状況にある被告人の間で著し い刑の不均衡や不公平感が生まれた。

4) 司法権に属する独立委員会として,1984年設置された合衆国量刑委員会

(United States Sentencing Commission)(28 U. S. C. §991)は,連邦法上の刑 事事件で,有罪とされた被告人の量刑を決定する際に従う基準である合衆国量 刑ガイドライン(Sentencing Guidelines and Policy Statesment for the Federal

Courts, 以下単に量刑ガイドラインという)を制定し(28 U. S. C. §994),1987

年11月から施行された。量刑ガイドラインの立法目的については,See, United

States Sentencing Commission, Guidelines Manual, 2010ed, at p. 2.

5) Apprendi v. New Jersey, 530 U. S.

Apprendi v. New Jersey, 530 U. S.

530 U. S.

U. S.

466(2000). 高山佳奈子,アメリカ法2001年466(2000). 高山佳奈子,アメリカ法2001年466(2000). 高山佳奈子,アメリカ法2001年466(2000). 高山佳奈子,アメリカ法2001年466(2000). 高山佳奈子,アメリカ法2001年

(2000). 高山佳奈子,アメリカ法2001年

2000). 高山佳奈子,アメリカ法2001年

). 高山佳奈子,アメリカ法2001年

高山佳奈子,アメリカ法2001年 1 号270頁以下参照。また,陪審の役割分担を中心に本件を紹介したものとし て,岩田太,ジュリスト1200号196頁以下参照。

(10)

定されるべきであるとしたのである。

Apprendi

は,量刑ガイドラインに直接関連する判断ではないが,実質

的に犯罪の構成要素に該当するような,本来量刑に必要とされるその他の 事項の判断まで陪審の役割とした。この判断には,陪審による犯罪事実の 認定に偏見や感情が入り込む危険性を生むとの批判もある。とはいえ,合 衆国最高裁判所が,裁判官単独の事実認定による量刑ガイドラインの量刑 範囲を逸脱するような加重事由の認定を認めないと判断したことは,陪審 と裁判官の刑事裁判での役割分担の理解に変化が起こる可能性を残す。

その後

Apprendi

の量刑ガイドラインへの適用が問題となったのが

Booker

である6)。被申請人

Booker

は,50gを超えるクラックコケイン所持

罪で有罪と認定された。量刑手続段階で,その余の500gを超えるクラッ クコケインの所持と司法妨害が判明し,裁判官は証拠の優越による心証で これらの量刑事実を認定した。その結果,合理的な疑いを超える証明で陪 審が認定した事実を前提とするよりも,犯罪レベルが引き上げられ,より 重い拘禁刑を裁判官が言い渡した。Bookerでは,裁判官が量刑手続で刑 の加重事由等を認定したことで,連邦法たる合衆国量刑ガイドラインに

Apprendi

が適用されるのか,また,量刑ガイドラインによる刑の量定手

続は,陪審裁判を受ける権利を保障した合衆国憲法第 6 修正に違反するも のなのかが問題となった。合衆国最高裁判所は,有罪答弁で被告人が認め た事実,もしくは陪審の評決で認定された事実に基づいて許容される,量 刑の上限を超えた量刑判断の根拠となる事実についても,被告人がこれを 認めるか,もしくは合理的な疑いを容れない証明がなされなければならな いところ,量刑ガイドラインに照らし,証拠の優越の証明程度で裁判官が 認定した事実に基づいて加重的な刑を科すことは,量刑ガイドラインに強 制力があることを考慮すると,合衆国憲法第 6 修正に違反するとし,さら に,陪審の判断事項を増やすことによって手続の効率性は損なわれるかも 6) United States v. Booker, 543 U. S. 220(2005). 英米刑事法研究会(代表 田口守

United States v. Booker, 543 U. S. 220(2005). 英米刑事法研究会(代表 田口守

543 U. S. 220(2005). 英米刑事法研究会(代表 田口守

U. S. 220(2005). 英米刑事法研究会(代表 田口守

220(2005). 英米刑事法研究会(代表 田口守

(2005). 英米刑事法研究会(代表 田口守

2005). 英米刑事法研究会(代表 田口守

). 英米刑事法研究会(代表 田口守

英米刑事法研究会(代表 田口守 一)・英米刑事法研究 ⑽(二本柳誠 担当)比較法学41巻 1 号273頁,渋谷年史,

NBL803号 6 頁以下参照。

(11)

しれないが,被告人の陪審裁判を受ける権利を保障することによって守ら れる公正さや信頼は,迅速裁判による利益よりも常に上回ると判示した。

しかしながら,その一方で,量刑ガイドラインの強制力を定めた条項(18

U. S. C. §3553(b)(1))を無効とし,量刑ガイドライン自体を勧告的(advisory)

なものに過ぎないと判断して,結論において,量刑ガイドラインに関して

Apprendi

が実際に適用される場をなくしてしまった。すなわち,裁判官は,

量刑判断の際に,量刑ガイドラインで定められた量刑範囲を考慮しなけれ ばならないが,これには拘束されず,他の事情も考慮しながら裁判官自ら の裁量で量刑判断を行うことができると判断したのである。Bookerで,

合衆国最高裁判所が裁判官の量刑裁量を広く認める結果となり,そもそも 量刑の不均衡を是正する目的で裁判官の量刑裁量を制限するために導入し た量刑ガイドラインの趣旨に反することになるのではないかと議論され 7)

その後

Gall

8)では,被告人が有罪答弁を行った事案で,量刑ガイドライ ン上の量刑範囲を逸脱する公判裁判官の量刑判断が問題となった。合衆国 最高裁判所は,Bookerに照らせば量刑ガイドラインは勧告的なものであ るが,これまでの個々の量刑を検討して得られた成果であるので,Court

of Appeals

には,公判裁判所が行った量刑ガイドラインの範囲外の判決が

合理的であったか否か,量刑ガイドラインからの逸脱の合理性を審理する 権限があると認めた。その上で,公判裁判官が量刑ガイドラインの範囲か ら離脱するのに「特別な事情(extraordinary circumstances)」を要件とす

Court of Appeals

のアプローチを採用すれば,量刑ガイドラインから離

7) 量刑ガイドラインの拘束力を否定した

Booker Booker

判決に関連して,§3582(c)(2)判決に関連して,§3582(c)(2)判決に関連して,§3582(c)(2)

(c)(2)

2)) の刑の減軽救済が問題になった事案で,量刑ガイドラインのポリシーステイト メントに合致する限度で刑の減軽が認められるところ,引き下げられた量刑範 囲の下限を下回る減軽を禁じているポリシーステイトメント

(USSG§1B1.

10(b))には

Booker

判決の射程は及ばず,ポリシーステイトメントの拘束力は 失われないとされた判断がある,See, Dillon v. United States, 560 U. S. _(2010).

8) Gall v. United States, 552 U. S. 38(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

Gall v. United States, 552 U. S. 38(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

552 U. S. 38(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

U. S. 38(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

38(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

2007). 英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

). 英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

英米刑事法研究会(代表 田口守一)・

英米刑事法研究 (田中利彦 担当)比較法学43巻 1 号155頁参照。

(12)

脱する判決は原則不合理であるので許容できないとの推定を設けることに なってしまうので,このようなアプローチは採らずに,

Court of Appeals

は,

公判裁判所の量刑裁量の濫用があるか否かを判断するにあたり,公判裁判 所が重大な手続上の瑕疵を犯していないか,事情を総合してその合理性を 判断しなければならないと判示した。公判裁判官は,直接証拠を見聞きし,

事実について十分知悉しているため,訴訟記録からは窺えない洞察力も有 するので,公判裁判官の専門性ある裁量を尊重した判断といわれる。

⑵ 以上のような裁判官の量刑裁量という制度上の問題と平行して大き な社会問題となっていたのが,薬物犯罪のうちコケインにつき,合衆国で は,クラックコケインと粉末コケインの法律上の取扱いを区別していた。

クラックコケインブーム(Crack Epidemic)などと呼ばれるクラックコ ケインの社会への蔓延が1980年代の米国で顕著となり,科学的,社会的根 拠は定かでないが,クラックコケインは粉末コケインより常習性が高く,

危険な薬物であるなどと信じられていたことから,薬物乱用に対して厳罰 で臨む1986年の反薬物乱用法(Anti-Drug Abuse Act)制定に伴って,量刑 ガイドラインは,結晶コケインを粉末コケインよりも量刑で100倍の換算 率で重く扱う規定に改正された。前述の裁判官の量刑裁量にも関連する点 であるが,連邦の薬物犯罪においては,陪審の認定が必要なのは禁止薬物 を違法と知りつつ運搬していた事実に対してだけであり,当該薬物の種類 及び量については,量刑事由として裁判官の判断に委ねられている。した がって,裁判官が認定する薬物の種類と量によっては法定刑の範囲は大き く異なり,クラックコケインはとりわけ重い刑を科されることとなった。

この構造は,Apprendiで問題とされた刑の加重メカニズムと似ており,

公判裁判官の量刑裁量の範囲と関連して議論されるようになった。

このクラックコケイン犯罪厳罰化の根拠の正当性はともかくも,実際ク ラックコケイン常用者のうち黒人が占める割合は半分以下であるにもかか わらず,クラックコケイン犯罪で有罪認定される 8 割以上が黒人であると いう司法統計もひとつの原因となり,クラックコケインと粉末コケインの 取扱いの差異は人種差別によるものだとの指摘もなされるようになり,両

(13)

者の刑の不均衡の是正が緊要な課題とされた9)

これらの問題について立法上の対策が講じられないうち,クラックコケ イン犯罪に対し粉末コケイン犯罪より重い刑罰を科すことに懐疑的な裁判 官の中には,前述の

Booker

判決後その影響を受け,クラックコケイン犯 罪を犯した被告人に量刑ガイドラインが提示するより軽い刑を言い渡す傾 向がみられるようになり,この点について争われたのが,Gallと同日に判 断された

Kimbrough

10)

である。

Kimbrough

では,コケイン販売及び所持等で起訴された事案で,量刑

目的

(18 U. S. C. §3553(a))

を達成するのに必要な範囲を超えているとし

て,クラックコケイン犯罪に粉末コケインより重い刑を科す量刑ガイドラ インに従わずに,量刑ガイドラインの下限を下回る量定をした公判裁判官 の判断が不合理であるかが争われた。合衆国最高裁判所は,特定の被告人 について量刑ガイドラインの定める格差が量刑目的達成に必要であるより 重い,と公判裁判官が判断しても裁量権の濫用に当たらないと判示した。

公判裁判官に,量刑ガイドラインに従わないで,量刑目的に合致する量刑 裁量を行使することを合衆国最高裁判所が認めたことで注目を集めた判断 である。

⑶ 以上のように,量刑ガイドラインに照らして量刑判断をすれば,薬 物犯罪については量刑の苛酷さが顕著に現れたため,犯罪と刑罰の均衡が 特に保たれていない分野といわれ,そのため,当該事件につき妥当な量刑 結果を得るためには,不本意ながらも答弁取引を利用して量刑ガイドライ 9) 粉末コケインは高価で入手しにくく,売人も使用者も中産階級以上の白人が 多い一方で,純度の低い合成結晶であるクラックコケインは,安価で容易に入 手できたため,売人も使用者も圧倒的に貧困層の黒人,とりわけ黒人少年が多 いといわれる。クラックコケインと粉末コケインの取扱いの事情や刑罰の不均 衡に関する研究として,たとえば,See, Richard H. Hubbard, Marching Towards

Reform in Federal Crack Cocaine Sentencing, J. S. Crimnol., vol1, no2, pp. 64-

79(2010).

10) Kimbrough v. United States, 552 U. S. 85(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口

Kimbrough v. United States, 552 U. S. 85(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口

552 U. S. 85(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口

U. S. 85(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口

85(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口

(2007). 英米刑事法研究会(代表 田口

2007). 英米刑事法研究会(代表 田口

). 英米刑事法研究会(代表 田口

英米刑事法研究会(代表 田口 守一)・英米刑事法研究 (田中利彦 担当)比較法学43巻 1 号155頁参照。

(14)

ンの適用を回避するか,量刑ガイドラインが提示するより軽い刑を公判裁 判官が選択するか,という裁判官の量刑裁量権限の広がりを思わせる事態 が生じた。本件反対意見も,実際に量刑ガイドラインを適用すると量刑が 重くなる傾向にあるため,量刑ガイドラインの存在自体が検察側からの答 弁協議の誘いを促す要因となっていると指摘している。つまり,答弁取引 は,単に当事者の合意があれば成立するのではなく,答弁取引に基づく合 意内容を裁判所が受理してはじめて完結するので,したがって,裁判所も 含め,訴訟関係者全ての共同作業によって量刑ガイドラインからの離脱が 行われているとすれば,そもそもその前提となる量刑ガイドラインの規定 が,訴訟関係者の実務感覚に一致しない,不相当なものとなっている可能 性がある。

⑷ 量刑の不均衡を是正する目的で制定された量刑ガイドラインが,か えって不公平を生んでいる場合には,合衆国量刑委員会は,合衆国量刑ガ イドラインを改正しなければならない旨連邦法上規定されている

(28 U. S.

C. §994(o))。Booker

判決を受けて,2007年11月 1 日,合衆国量刑委員会

は,クラックコケイン犯罪と粉末コケイン犯罪との間に刑罰の重大な不均 衡が生じていることを認め,これを是正するため,ほとんどのクラックコ ケイン犯罪に対する刑罰を引き下げるように量刑ガイドラインを改正し

(USSG§2D1. 1),さらに翌年,この改正内容を2007年11月 1 日以前に判 決を受けた事案について遡求的に適用されるとした(USSG§1B1. 10)11) 合衆国法典には,このような法改正が行われた場合で,拘禁刑の言い渡し を受けた被告人が,引き下げられた量刑ガイドライン上の量刑範囲に基礎 を置いて刑を宣告されていた場合には,被告人に拘禁刑を宣告した後で あっても,法律上の要件を充足すれば,この改正した部分を遡及的に適用 して,裁判所は拘禁刑の刑期を減軽することができると規定されている

(18

11) 連邦手続上のクラックコケインの刑の不均衡の問題と量刑ガイドラインの関 係について,See, Brian T. Yeh, Federal Cocaine Sentencing Disparity: Sentencing

Guidelines, Jurisprudence, and Legislation, CRS Report for Congress (August 5,

2010).

(15)

U. S. C. §3582(c)(2))

12)

ところが他方,連邦刑事訴訟規則

(Fed. R. Crim. P. )11(c)(1)(C)

は,一 定の刑期につき当該事件の量刑として適切であると当事者双方が協議で合 意し,この当事者の合意を裁判所が受理する場合には,その量刑について の答弁協議の合意内容を優先し,裁判所はこの答弁合意内容に拘束される と規定している13)

では,§3582(c)(2)と規則11(c)(1)(C)の関係をどのように解釈すべきか。

規則11(c)(1)(C)によって一定の量刑を具体化する答弁合意に至った被 告人は,改正があった場合の量刑ガイドラインの遡及適用ある部分につい て §3582(c)(2)に基づく刑の減軽の救済を受けられるのか,そしてその 前提として,言い渡された量刑は,量刑ガイドラインと答弁合意と,いず れに基礎を置いて量刑が言い渡されていたといえるのか,が問題とされた のが本件である。

3 規則11(c)(1)(C)

の答弁合意に至った被告人に,改正があった場合 の量刑ガイドラインの遡及適用ある部分に関して §3582(c)(2)の刑の減 軽救済の訴訟適格があるのかについては,合衆国最高裁判所が本件判断を 示す以前から,連邦控訴審段階で,減軽救済申立ての適格を認める立場,

条件付きの中間的立場,一律禁止の立場と判断が分裂していたが,事案の 集積をみるうち,本件原判断と同様,規則11(c)(1)(C)の答弁合意がある 場合には §3582(c)(2)に基づく刑の減軽救済を一律禁止するアプローチ

12) 18 U. S. C. §3582(c)(2)

U. S. C. §3582(c)(2)

§3582(c)(2)

(c)(2)

2)

)

は,「拘禁刑の言い渡しを受けた被告人が,その後合は,「拘禁刑の言い渡しを受けた被告人が,その後合は,「拘禁刑の言い渡しを受けた被告人が,その後合は,「拘禁刑の言い渡しを受けた被告人が,その後合は,「拘禁刑の言い渡しを受けた被告人が,その後合は,「拘禁刑の言い渡しを受けた被告人が,その後合は,「拘禁刑の言い渡しを受けた被告人が,その後合 衆国量刑委員会によって量刑ガイドラインが改正され,引き下げられたガイド ライン上の量刑範囲に基礎を置いて刑を宣告されていた場合には,18 U. S. C.

§3553(a)が定める量刑目的を審理した上で,量刑ガイドラインの基準を示す ポリシーステイトメントに合致する限度で,裁判所は,拘禁刑の刑期を減軽す ることができる」と規定する。

13) Federal Rule of Criminal Procedure 11(c)(1)(C)

Federal Rule of Criminal Procedure 11(c)(1)(C)

11(c)(1)(C)

(c)(1)(C)

1)(C)

)(C)

は「特定の刑または量刑範囲は「特定の刑または量刑範囲は「特定の刑または量刑範囲は「特定の刑または量刑範囲は「特定の刑または量刑範囲は「特定の刑または量刑範囲は「特定の刑または量刑範囲 が,当該事件の量刑として適切であると,当事者が協議で同意し,裁判所がこ の当事者の合意を受理する場合には,その量刑についての要求

(

答弁協議の合 意内容

)

は裁判所を拘束する」と規定する。

(16)

が連邦控訴審では多数を占めた。この一律禁止の立場は,plea agreement の本質を「契約」と解釈し,規則11(c)(1)(C)の答弁合意に至った場合,

被告人は §3582(c)(2)の刑の減軽救済を申し立てる権利を放棄し,その 後に起こりうる自己に有利な法律上の改正による恩恵を受けられないリス クを甘受しなければならないと説明する。つまり,規則11(c)(1)(C)の答 弁合意に至った場合にまで刑の減軽救済を被告人に許せば,リスクなしに 相当の利益を被告人に与え,政府は譲歩を通して得られるはずの「契約」

上の利益を全く手に入れられないと主張する。

これに対し,このように一律禁止とする,いわゆる

bright-line rule(

確な基準

)

を採用すれば,答弁合意に至った者については一律に権利の放 棄があったとみなされ,被告人の個別の事情への配慮に欠けると反論され る。答弁合意があるからといって,放棄の明示がないにもかかわらず,そ の答弁合意に §3582(c)(2)の減軽救済を申立てる権利の放棄が含意され ているとすることは憲法の趣旨からすれば妥当でなく,むしろ,§3582(c)

(2)

の趣旨からすれば,将来量刑ガイドラインが改正されることで「契約 の利益(contracts plus)」が得られなくなるリスクを政府側は引き受けて いるとみるべきだとされる。

確かに §3582(c)(2)の文言には曖昧な部分があるが,その立法過程や 合衆国量刑委員会による同条についての解釈を考慮すれば,本条の「基礎 を置く(based on)」との文言につき,規則11(c)(1)(C)の答弁合意に至っ た被告人と,答弁取引を受けなかった被告人と取扱いが異なることはない ものと思われる。刑事裁判の目的は,民事裁判のように当事者が納得する 結論を求めるところにあるのではない。刑事手続における当事者・論争主 義(adversary system)とは,憲法が刑事裁判の構造を規定したもので,

被告人が,検察官の行った主張と立証と論証に対して,認定者の面前で認 定者の認定をコントロールするために,被告人側の主張,立証,論証を行 うことを保障するものである14)。答弁合意がある事例とはいえ,本件補足

14) 渥美東洋『全訂 刑事訴訟法(第 2 版)』有斐閣(2009年)10頁以下。

(17)

意見のように,当事者の合意した内容に焦点を当て,裁判官の判断した量 刑内容は答弁合意に基礎を置くとする結論を採れば,刑事裁判の構造を根 本から掘り崩すものになりかねない。本件申請人も,その上訴趣意に,刑 事裁判,とりわけ量刑手続における公正さへの配慮を求めていた。そもそ も当事者・論争主義が志向する公正な裁判とは,一方当事者側や党派に偏 向しないことをいい,双当事者に十分且つ公平な攻防の機会を与えるよう に機能する裁判を指し,検察・被告人当事者双方(規則11(c)(1)(C)の答 弁協議の場合には,裁判官も容認している)が協議の上合意したからと いって,刑事手続の公正さを度外視してよいことにはならない15)

また,公平な裁判所による公正な裁判を受ける権利の保障の根底にある 公正さとは,ルールに則っているとともに,個別事例の事情ごとに「同じ ものは同一に,異なったものは異なって」,しかも,可視性の高い状態で,

公判での双方当事者の訴訟での行為を規律することを意味する。同種・同 性質・同程度の行為を内容とする事件について,一方が軽過ぎ,他方が重 過ぎる刑を科されるなど,量刑に著しい不均衡があると,被告人に強い不 公平感が生まれ,刑事司法に対する社会の信頼も失う結果となる。米国の 量刑ガイドラインにおいては,連邦事件の多くを占める薬物犯罪や企業犯 罪,ホワイトカラー犯罪に関して,従来より量刑が高めになるように設定 されており,実際に,その種の犯罪が重罰化されてきた。犯罪者の犯した 罪とその者に科される刑罰は正しい均衡を保っていなければならないとさ れる,「罪刑均衡」の考え方は,行為者の行為に対する責任から帰結する ものだが,この罪刑の均衡を考えると,少なくとも手続の公正さを確保す ることは刑事裁判の主要な目的であり,量刑における判断者の裁量の制限 は手続の公正さの担保のための方法のひとつにすぎない。

15) 連邦控訴審の判断が分裂した問題に関し,もとより規則11(c)(1)(C)

(c)(1)(C)

1)(C)

)(C)

§3582(c)(2)は相互に排斥しあうものではないことを「契約の利益(contracts

plus)」の観点から検討するものとして,See, Daniel I. Siegfried, ʻBased ONʼ the

Guidelines? Applying Retroactive Sentencing Amendments to Binding Plea

Agreements, 77 U. Chi. L. Rev. 1801, at pp. 1832-38(2010).

(18)

合衆国量刑委員会が定めた量刑ガイドライン上の範囲が重過ぎる場合,

§3582(c)(2)に基づいて裁判所に量刑手続の記録と答弁合意の内容を再度 審理した上で宣告刑の見直しを許す裁量権限を認めた本件判断は,正義の ひとつの重要な要素である,手続的正義の要請からも妥当で,量刑ガイド ラインそのものがこの要請から創設された制度といえる16)

4 量刑の統一性や公平性を図るため裁判官の量刑裁量を制限すること

に腐心してきた合衆国において,量刑制度の改革に伴いその過程で廃止も 検討された答弁取引手続であるが,刑事司法制度の本質に関わる運用でも あり,近時,正当な量刑裁量の範囲内にある答弁協議手続を確保する目的 で,当事者の答弁合意がある場合には,裁判官の裁量より当事者の合意を 優先して,量刑を決定する傾向も窺えた。合衆国の司法システムにおける 刑事事件のおよそ95%が答弁合意に至って事件処理されていることを考慮 すれば,本件は今後の答弁協議や量刑手続に影響を与える判断といえる。

5 答弁取引制度を採用しないわが国にあっても,裁判員制度導入後,

裁判員裁判における量刑実務は,これまでの職業裁判官による「専門的量 刑判断」から「協働的量刑判断」へ発展することが求められている。量刑 の公正さと公平性を実現させる方策として,一般に第一に挙げられるのが 量刑判断者の裁量権の抑制・縮減といわれるが,わが国の裁判員裁判にお ける量刑手続の枠組みとその公正さの確保を検討する上でも,本件は有益 な示唆を与えてくれるものと思われる。

16) 本件判断以前に,規則11(c)(1)(C)

(c)(1)(C)

1)(C)

)(C)

の答弁合意に至った被告人に §3582(c)(2)の答弁合意に至った被告人に §3582(c)(2)の答弁合意に至った被告人に §3582(c)(2)の答弁合意に至った被告人に §3582(c)(2)の答弁合意に至った被告人に §3582(c)(2)

(c)(2)

2)) の刑の減軽救済の訴訟適格があるかの争点に関連する連邦控訴審判断の分裂の 解決策として,手続的正義のアプローチを提案していた論文がある。See,

Adam M. Acosta, Len Biasʼ Death Still Haunts Crack-Cocaine Offenders After

Twenty Years:Falling to Reduce Disproportionate Crack-Cocaine Sentence Under

18 U. S. C. §3582, 53 Howard L. J. 825(2010).

参照

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