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米 国 刑 事 法 研 究 会

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(1)

アメリカ刑事法の調査研究

(131)

米 国 刑 事 法 研 究 会

(代表 椎 橋 隆 幸)

Davis v. United States, 131 S.Ct. 2419 ( 2011 )

柳 川 重 規

**

逮捕に伴う捜索に関する新判例(Arizona v. Gant, 556 U.S. 322(2009))

が遡及適用され違憲とされた捜索について,排除法則のいわゆる「善意の 例外(good faith exception)」を適用した事例。

≪事実の概要≫

申請人デイヴィスは,同乗していた自動車が交通取締で停車させられた 際,警察に氏名を詐称した罪で逮捕され,運転者も酒酔い運転の罪で逮捕 された。警察は,両名に手錠をかけ,それぞれを別々のパトカーの後部座 席に座らせた後,逮捕に伴う搜索として車輛内の無令状搜索を行い,車輌 の中に置かれていたデイヴィスの上着のポケットから拳銃を発見した。こ の搜索は,逮捕に伴う自動車の無令状捜索に関する判例である

New York v.

Belton, 453 U.S. 454 (1981)

1)

を解釈した第11巡回区コート・オブ・アピ−

 * 所員・中央大学法科大学院教授・法学部教授

** 所員・中央大学法学部教授

1) この事件については,米国刑事法研究会(代表 渥美東洋)・アメリカ刑事 法の調査研究⑾比較法雑誌15巻 4 号269頁(香川喜八朗 担当),鈴木義男編『ア

(2)

ルズの当時の先例

United States v. Gonzalez, 71F.3d 819(CA11 1996)

に照ら すと適法なものであった2)。デイヴィスは公判で,重罪前科者による火器 の所持の罪で有罪と認定された。ところが,上訴継続中に合衆国最高裁判 所は新判例(Arizona v. Gant, 556 U.S.332(2009))を下し3),第11巡回区コー ト・オブ・アピ−ルズはこの新判例に従って,本件搜索は第 4 修正に違反 すると判示した。しかし,証拠排除に関しては,コート・オブ・アピ−ル ズの拘束力のある先例に基づいて搜索が行われた場合に,排除法則を適用 しても抑止効は望めないとして排除法則の適用は否定し,デイヴィスの有 罪を確認した。合衆国最高裁判所により,サーシオレーライが認容された。

メリカ刑事判例研究 第 2 巻』(1986年)(州見光男 担当),渡辺修・アメリカ 法1983年 1 号186頁参照。

2) 逮捕に伴う捜索として無令状捜索が許される範囲を,

Chimel v. California,395

U.S. 752 (1962)

は,被逮捕者の身体及び被逮捕者の直接的支配下にある領域で

あるとしたが,その後,被逮捕者が自動車から降車した場合に車輌内部を被逮 捕者の直接的支配下にあるとして無令状捜索できるか否かが問題となった。

New York v. Belton, 453 U.S. 454 (1981) では, 1 人の警察官が 4 人の自動車の

乗員を逮捕し,全員を降車させ,手錠をかけないまま高速道路の端に並ばせ,

自動車の座席部分を無令状で捜索したという事案で,この捜索を逮捕に伴う捜 索として合憲とした。

  下級裁判所の中には,この

Belton

の判示を,被逮捕者による証拠破壊及び 凶器獲得の危険が除去されていなかった事案についての判断である,と解釈す るものもなかったわけではないが,多くは,いわゆる

blight-line ruleが採用され,

被逮捕者が捜索時に自動車に立ち戻ることが可能であったか否かにかかわら ず,自動車の座席部分の無令状捜索が一律に合憲となるとしたものであると解 釈した。United States v. Gonzalez, 71F.3d 819(CA11 1996) もそうした下級裁判 所の 1 つであった。

  Chimelについては,香城敏麿・アメリカ法1970年 2 号278頁参照。

3) Arizona v. Gant, 556 U.S. 332 (2009) は,逮捕に伴う捜索として無令状捜索が 許される要件を,①被逮捕者が捜索中に自動車に立ち戻れる状態(within

reaching distance)にあること,または,②自動車内に逮捕犯罪事実と関連す

る証拠が存在すると思料する理由を警察が有していることとして,Beltonを限 定し,一部変更するニュー・ルールを打ち出した。

Gant

については,州見光男・

アメリカ法2010年 1 号247頁参照。

(3)

≪判旨,法廷意見≫

1 アリトー裁判官執筆の法廷意見

 原判断確認

1  排除法則の唯一の目的は,将来の第 4 修正に違反する活動の抑止で あり,その適用はこの基本権侵害の抑止というベネフィットが,信頼性の ある証拠を排除し,犯人を処罰しないまま釈放することにもつながるとい うコストを凌駕する場合に限られる。当裁判所の過去の判断の中には,傍 論で,第 4 修正自体が黙示的に証拠排除を命じていると示唆し,また,第 4 修正違反があればただちに証拠が排除されるとするもの4)もあったが,

結局のところ,当裁判所は排除法則を裁判所が創設した保護策であると認 め,排除法則のコストとベネフィットを考慮して適用の是非を判断するに 至っている。

United States v. Leon,

468 U.S. 897 (1984)5)以降のいわゆる善意の例外を 適用した判例6)は,警察の行為の有責性・非難度に応じて,第 4 修正違反 の抑止というベネフィットは変化すると見ており,警察が計画的に

4) Whiteley v. Warden, Wyo. State Penitentiary, 401 U.S. 560 (1971).

5) 令状発付官の発付した令状に基づいて行われた搜索が,事後に違憲とされた 事例。Leonについては,井上正仁「排除法則と『善意の例外』」(団藤重光博士 古稀祝賀論文集第 4 巻(1985年))359頁,鈴木義男「証拠排除法則の新局面─

善意の例外」『刑事司法と国際交流』(1986年)241頁参照。

6) Illinois v. Krull, 480 U.S. 340 (1987)(搜索時に依拠していた法律が,後に違 憲・無効とされた事例)

; Arizona v. Evans, 514 U.S.

(1995)

(裁判所のデータ・

ベースの過誤が原因の違憲の逮捕に基づいて搜索が行われた事例); Herring v.

United States, 555 U.S. 135 (2009)(警察のデータ・ベースの過誤が原因の違憲

の逮捕に基づいて搜索が行われた事例).

  Krullについては,鈴木義男編『アメリカ刑事判例研究 第 4 巻』61頁(関 哲夫 担当)参照。Evansについては,米国刑事法研究会(代表 渥美東洋) アメリカ刑事法の調査研究(67)比較法雑誌30巻 1 号87頁(柳川重規 担当)

参照。Herringについては,洲見光男「排除法則の動向─最近の連邦最高裁判 決から─」(大谷實先生喜寿祝賀論文集)(2011年)228頁以下,榎本雅記・アメ リカ法2009年 2 号424頁参照。

(4)

(deliberate),あるいは,無謀(reckless),重過失(grossly negligent)に より第 4 修正上の権利に配慮せず行為した場合には,証拠排除による抑止 の価値は高まり,そのコストを凌駕する方向に傾くとしている。他方,警 察が自身の活動が合法であると思料したことが客観的に見て合理的である 場合,または,警察の違法活動が単純で単発的な過失に基づく場合には,

排除法則適用のベネフィットはコストを凌駕しないとしている。

2  本件の搜索は,搜索時に拘束力を有していた第11巡回区コート・オ ブ・アピールズの先例を遵守してなされたものであるが,通常の警察官で あればこうした拘束力のある先例に従って搜索を行うであろうし,また,

そうすべきであるともいえる。本件の警察官は,計画的に,あるいは,無 謀,重大な過失により申請人デイヴィスの第 4 修正上の権利を侵害したわ けではなく,また,過失に基づく侵害行為が繰り返し行なわれていたわけ でも,組織的に行われていたわけでもない。警察の活動に非難されるべき 点はなく,したがって,本件に排除法則は適用されない。

3  A 反対意見及び申請人デイヴィスは,新判例に効力を与えるため に本件に排除法則を適用すべきか否かは,排除法則の善意の例外の問題と してではなく,新判例の遡及適用の問題として捉えるべきであって,本件 に善意の例外を適用すると,遡及適用の判断基準としては一旦捨て去られ たはずの

Linkletter v. Walker, 381 U.S. 618 (1965) の基準

7)を復活させるの

7) Linkletterは,ニュー・ルールの遡及適用の是非を判断するに当たっては,

①ニュー・ルールの目的,②オールド・ルールに対して法執行機関が寄せてい た信頼の程度,③ニュー・ルールを遡及適用することにより司法運用及ぶ影響 といった要因について,それぞれにつきメリットとデメリットを事例ごとに衡 量すべきであるとした。しかし,その後,この基準は一貫した適用を行うこと が困難な基準であることが判明し,また,Desist v. United States, 394 U.S. 244

(1969) でのハーラン裁判官の反対意見などは,裁判上の基本的な規範からすれ

ば,通常上訴の場合は,上訴継続中のすべての事件にニュー・ルールを遡及適 用すべきであるとして,Linkletterを強く批判した。結局,Griffith v. Kentucky, 479 U.S. 314 (1987) でこのハーラン裁判官の反対意見が採用され,Linkletter 変更された。

Linkletterについては,田中英夫・アメリカ法1966年 1 号98頁参照。

(5)

と同様の結果をもたらすことになり,遡及適用が認められる以上,本件に 排除法則を適用すべきであると主張している。

しかし,ニュー・ルールの遡及適用は,第 4 修正法の実体的内容(第 4 修正上の権利)に関するものであり,それを保護するためにいかなる救済 策が適切かということとは別問題である。ニュー・ルールの遡及適用が認 められても,侵害を受けた個人に対する救済の可能性が生まれるにとどま り,排除法則という救済策を採用すべきとの判断がなされたことにはなら ない。

 B 搜索実施時に拘束力を有していたコート・オブ・アピールズの先 例を遵守していたという理由で,排除法則の善意の例外の適用を認めると,

第 4 修正違反を争う誘因が失われ,第 4 修正法の発展が阻害されると申請 人は主張する。しかし,そもそも判例変更を促すか否かという点は,排除 法則の適用を考えるに当たって重要なものではないが,ニュー・ルールが 遡及適用され無効とされる先例の多くは,連邦のコート・オブ・アピール ズの判断か州の最上級裁判所の判断であるので,善意の例外が採用される ことにより,これらの判断に対する当裁判所の審査が及びえなくなるわけ ではない。また,当該第 4 修正上の争点について拘束力のある先例が未だ 存在しない法域における被告人にとっては,これにより当裁判所に審査を 求め第 4 修正違反を争う誘因が失われることはない。

次に,当裁判所の判例の変更ということでは,被告人は先例との区別を 主張して先例の再検討を求めることもできる。

申請人の主張は,判例変更をもたらした被告人には,その報償として証 拠排除を認めるべきだというものであると理解することもできる。この 点,善意の例外は排除法則という裁判所が創設した原則に対する裁判所が 創設した例外であるから,将来,必要があれば,判例変更を促した被告人 について善意の例外に対する例外を認めることもできないわけではないと 解する。

(6)

2 ソトマイヤー裁判官の結論賛成意見

反対意見は,警察官が,拘束力を有していた先例に従って行為した場合 と,先例が確立しているとまではいえない状況で行為した場合とで,警察 の行為の有責性という点では違いがないので,警察の行為の有責性を重視 する法廷意見の対場からは,後者の場合にも善意の例外が認められること になると示唆している。しかし,排除法則の適用に当たって警察の行為の 有責性が関係するのは,あくまで排除法則の抑止効を判断する上でのこと であり,先例8)上も,ニュー・ルールの遡及適用の是非が争われた事案に おいてではあるが,確立した先例がない状況で警察が行なった捜索・押収 に対して排除法則を適用した場合には,抑止効を認めることができると判 示されている。

本日の法廷意見の判示は,警察が拘束力のあった先例に従って捜索を行 なった場合に限定されるものであり,先例が確立していたとまではいえな い場合にまで及ぶものではない。

3 ブライヤー裁判官の反対意見(ギンズバーグ裁判官参加)

1  ニュー・ルールが生み出される源泉は,合衆国憲法それ自体であり,

ニュー・ルールを創設する裁判所の権限といったものではない。遡及適用 の是非を判断するということは,被告人がその求めている救済を受ける権 限を有しているか否かを判断するということである。したがって,

ニュー・ルールを遡及適用するとした場合には,通常は,救済策も付随さ せると判断したことになる。それにもかかわらず,ここに排除法則の善意 の例外の適用を認めれば,判例変更がなされた時点で上訴継続中だったす べての事件において,救済を一律に否定することになってしまう。

また,Grifith

Linkletter

を変更したのは,Linkletterの基準が,個別 事案に適用する際の判断が困難なものであり,また,類似の状況におかれ ている被告人であっても異なる扱いをされることがあり,不公平であると

8) United States v. Johnson, 457 U.S. 537 (1982).

(7)

感じられたためである。ニュー・ルールを遡及適用した場合に善意の例外 を認めると,先例がどの程度の拘束力を有していたかという困難な判断を 迫られることになり,また,実際にニュー・ルールを打ち出した事件と,

その際上訴継続中だった事件とで,被告人の取り扱いを異にし不公平とな るなど,Linkletterの基準が抱えていたのと同様の問題が生じることにな る。

このように,ニュー・ルールの遡及適用に関する現在の当裁判所の考え 方と,警察が拘束力のある先例を信頼した場合に善意の例外を認めること とは,両立することができないものである。

2  警察の行為の有責性という点では,拘束力のある先例があった場合 と,確立した先例はないが警察官が自己の行為を適法であると思料した場 合とで違いはないので,警察の行為の有責性を重視する法廷意見の立場で は,善意の例外が原則化され,証拠排除が否定される場合が著しく拡大す る。排除法則が,第 4 修正違反の活動に対する唯一効果的な制裁といわれ てきたことからすると,法廷意見は第 4 修正が提供する保護内容を薄める ものであり,第 4 修正は極端にひどい不合理な捜索・押収に対してしか保 護を提供することのできないものとなってしまう。

≪解説≫

1 本件の争点は,警察官が捜索時に拘束力を有していた判例に従って

捜索を行ったが,上訴継続中に判例が変更され,そこで示されたニュー・

ルールが遡及適用されて捜索が違憲・違法とされた場合に,排除法則によ り証拠は排除されるのか,それとも排除法則のいわゆる「善意の例外

(good-faith exception)」が適用されて証拠は許容されるのかである。

反対意見は,通常上訴の場合に一律にニュー・ルールの遡及適用を認め る原則9)からして,排除法則の適用も認められたことになると主張してい るが,法廷意見は,遡及適用されるのは第 4 修正が保障する権利の内容に

9) See, Grifith v. Kentucky, 479 U.S. 314 (1987).

(8)

関する部分であり,権利侵害に対する救済策・保護策の問題である排除法 則の適用に関しては別の考慮が必要であるとして,本件を遡及適用の問題 と区別し,「善意の例外」適用の是非の問題として検討している。

2 排除法則の「善意の例外」は1984年の United States v. Leon, 486 U.S.

897(1984)で初めて採用され,その後も維持されているものであるが,

これは,排除法則の目的が警察による将来の違憲・違法な活動の抑止にあ ることを前提に,さらには,この将来の違憲・違法な活動の抑止というベ ネフィットと,真犯人を釈放してしまうおそれがあるというコストを比較 衡量して証拠排除の是非を判断すべきである,とのコスト・ベネフィット 分析に基づいて生み出された例外である。

もっとも,Leonは令状発付官が捜索の実体要件の認定を誤って捜索令 状を発付してしまった事例であり,捜査機関以外の機関による過誤が原因 で違憲の捜索が行われた事案である。ここでは,令状が有効であると警察 官が思料したことが客観的に見て合理的である場合には,排除法則を適用 しても警察による将来の違憲の捜索は抑止されないということが強調され ており,コストとベネフィットの衡量といっても,証拠を排除してもおよ そ抑止効が働かないと思われる場合においてのものであった。Leon以降 も,Illinois v. Krull, 480 U.S. 340(1987)そして

Arizona v. Evans, 514 U.S.

1(1995)までは,やはり捜査機関以外の機関による過誤が原因で違憲の 捜索が行われた事案について,「善意の例外」を適用した事例であり10),違 憲の捜索が行われた原因が捜査機関以外にあれば,排除法則を適用しても 警察による将来の違憲の活動を抑止することはできないと考えて,排除法 則の適用を否定したと見ることができるものであった。

それが,2009年の

Herring v. United States, 555 U.S. 135

(2009)において,

警察のデータベースの管理上の過 誤が原因で違憲の逮捕が行われ,それ 10) 捜索時に依拠した法律が後に違憲とされ,捜索も違憲とされた事例(Krull),

裁判所のデータベースの情報管理上の過誤が原因で無効な令状に基づく逮捕が 行われ,それに伴い違憲の捜索が行われた事例(Evans)。

(9)

に伴って違憲の捜索が行われたという事案において,すなわち,違憲の捜 索の原因が警察自身にある場合について,合衆国最高裁判所は「善意の例 外」を適用した。そこでは,警察の行為の有責性・非難度(culpability)

に応じて,第 4 修正違反の抑止というベネフィットは変化するとの新たな 考え方が示された。そして,警察が計画的に(deliberate),あるいは,無 謀(reckless),重過失(grossly negligence)により第 4 修正上の権利に 配慮せずに捜索を行った場合には,証拠排除により将来の違憲の活動を抑 止する価値は高まり,そのコストを凌駕する方向に傾くとし,逆に,これ らの場合に当たらない(しかも単純で単発的な)単なる過失(mere

negligence)の場合には,証拠排除がもたらすベネフィットは,そのコス

トを上回らないとされた。

単なる過失にとどまる場合であっても,過失があるのであれば,捜索が 合憲であると思料したことは客観的に見て合理的であったとはいえないの ではないかと思われ,また,Evansまでは,証拠を排除しても抑止効が働 かないことを理由に排除法則適用のベネフィットを小さく見たのに対し,

Herring

によれば,過失に基づく場合は抑止効が認められるにもかかわら

ず,有責性・非難度が低いことから,証拠排除がもたらすベネフィットが 小さくなるようである。このように

Herring

の「善意の例外」の理解は,

先例との一貫性が疑問視されるものであった。

3 本件の警察官は,捜索時に拘束力を有していた判例に従って捜索を

行っていたのであり,違憲の捜索を行ったことにつき単なる過失も認めら れないし,また,法廷意見が述べているように,本件の事案では警察官は 捜索を行うべきであったといえる。このような場合に排除法則を適用して も抑止効が働かないと考えるのはもっともであり,したがって,本件は

Leon

から

Evans

までの理解に従っても「善意の例外」の適用が肯定され

た事案である11)

11) 本件では警察官に過失もなかった事例であるから,単なる過失の場合には排 除法則が適用されないとの判示は傍論であると主張する論者も合衆国にはい る。See, Bradley, Is the Exclusionary Rule Dead?, 102 J. Crim. L.&Criminology 1,

(10)

それにもかかわらず,本件で法廷意見は

Herring

で示された「善意の例 外」の理解を前面に押し出すことによって「善意の例外」の適用を肯定し ている。こうした法廷意見の態度からは,今後「善意の例外」の適用につ いては一般的に

Herring

の理解に従ってその是非を判断していこうとの意 思が窺える。Herringの理解によれば,捜索が違憲であるとは知らなかっ たことが単なる過失に基づく場合には,証拠は排除されないことになり,

排除法則の適用が大きく限定されていく可能性がある12)。違憲の捜索が行 われた原因が警察の単なる過失にとどまる場合であろうとそれ以上に悪質 な場合であろうと,個人の第 4 修正上の権利が侵害されたことには変わり がない。排除法則はこうした権利侵害に対する唯一効果的な保護策である として憲法原則としての地位が与えられている13)のであるが,Herring

8-9(2012).

12) Herringが有するこのような危険性については,See, Alschuler, Herring v.

United States : A Minnow or Shark ?, 7 Ohio St. J. Crim. L. 463 (2009) ; LaFave, The Smell of Herring : A Critique of the Supreme Courtʼs Latest Assault on the Exclusionar y Rule, 99 J. Crim. L. & Criminology 757 (2009). また,洲見・前掲

注 6 )239頁以下参照。

   なお,Herringは,逮捕官憲が所属しているのとは別のカウンティーの警察 のデータ・ベース上の過誤が原因で,違憲の逮捕が行われた事案であり,単な る過失の場合には排除法則は適用されないとの

Herring

の判示は,警察の過誤 と逮捕との関係がこのように “ 稀釈 ” されている場合を前提にしたものである と,限定的に解釈をすることも可能であった。しかし,本件の法廷意見は,

Herring

の判示をこのように限定的には理解していない。See, Bradley, supra

11), at 5-6, 8-9.

13) 合衆国最高裁判所により排除法則が「裁判所によって創設された保護策」と 性格付けられたことにより,排除法則の憲法上の地位が否定されたわけではな い。第 4 修正の内容の一部をなしているからこそ,排除法則は第 14 修正を通 じて州に適用されているのである。第 4 修正が個人のプライヴァシー保障を実 効化あらしめる効果的な保護策まで要求しており,その第 4 修正の要求に適う 保護策として裁判所が排除法則を選択したと解釈すれば,排除法則は「裁判所 によって創設された保護策」でありながら憲法原則であるということになる。

この点については,拙稿「判例が採用する違法収集証拠排除法則についての検

(11)

理解に従って「善意の例外」の適用が拡大していけば,例外によって原則 が呑み込まれてしまう事態も生じかねない。

4 本件で善意の例外の適用を認めるとの結論は,Leon,Krull,Evans

という先例からも肯定されるものであるが,本件の判断の論理を展開して いくと,ニュー・ルールが遡及適用される場合に限らず,判例変更がなさ れる当該事例においても「善意の例外」の適用が認められることになるよ うに思われる。その場合においても,警察官は拘束力のある判例に従って 捜索を行ったのであり,捜索が違憲であるとは知らなかったことに過失す らないからである。ただそうなると,本件の申請人が指摘するように,被 告人が判例変更を求める誘因が失われ14),判例の発展が阻害されるおそれ も生じる。そうした事態を回避するには,法廷意見も認めているように,

判例変更を促した被告人には,「善意の例外」を適用しないとの例外を認 めるなどが必要となるかもしれない。

討」法学新報 113 巻 11・12 号 705-707 頁参照。

14) このような場合,被告人は,証拠排除が認められないばかりでなく,警察官 に制限的免責(qualified immunity)が認められ国家賠償も認められない。See,

Pearson v. Callahan, 129 S.Ct. 808 (2009). Pearson

については,洲見光男・アメ リカ法 2009 年 2 号 370 頁,州見・前掲注 6)252-258 頁参照。

(12)

参照