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佐 藤 夏 月

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Academic year: 2021

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(1)

トウ ヅキ

氏名(生年月日) 佐 藤 夏 月 (1988711日)

学 位 の 種 類 博士(心理学)

学 位 記 番 号 文博甲第

120

号 学位授与の日付

2017

3

16

学位授与の要件 中央大学学位規則第

4

条第

1

学 位 論 文 題 目 乳児期における投射影知覚の実験的検討 論 文 審 査 委 員 主査 山口 真美

副査 兵藤 宗吉・一川 誠(千葉大学)

内容の要旨及び審査の結果の要旨

提出された博士学位請求論文「乳児期における投射影知覚の実験的検討」は,影知覚の初期発達 に関して「投射影知覚」,「影からの形状知覚」と「影による物体表面の明るさ変化の知覚」に焦 点をあて,注視行動を指標として用い実験的に検討したものである。以下に提出論文の目次を示す。

第0章 序章

0.1 序文

0.2 乳児を対象とした実験的手法 第1章 成人の投射影知覚

1.1 本章の概略

1.2 投射影・陰影の定義 1.3 投射影の知覚法則

1.4 ヒトの視覚システムにおける制約 1.4.1 単一光源の仮定

1.4.2 上方光源の仮定 1.4.3 光源静止の仮定 第2章 投射影知覚の発達

2.1 本章の概略

2.2 絵画的奥行き手がかりとしての投射影と陰影 2.3 投射影を手がかりとした奥行き知覚

2.4 投射影を手がかりとした物体の運動軌道の知覚 2.5 乳児期の3次元形状知覚

2.6 面の明るさの違いを手がかりとした3次元形状知覚の発達

〔 1235 〕

(2)

2.7 投射影知覚の発達

第3章 乳児における投射影知覚の実験的検討 3.1 本章の目的・概要

3.2 本研究の目的 3.3 第1実験 3.3.1 方法 3.3.2 結果 3.3.3 考察 3.4 第2実験 3.4.1 第2実験の目的 3.4.2 方法

3.4.3 結果 3.4.4 考察

3.5 本章のまとめと考察

第4章 乳児における影を手がかりとした形状知覚の実験的検討 4.1 本章の目的・概要

4.2 本研究の目的 4.3 第3実験 4.3.1 方法 4.3.2 結果 4.3.3 考察 4.4 第4実験 4.4.1 第4実験の目的 4.4.2 方法

4.4.3 結果 4.4.4 考察

4.5 本章のまとめと総合考察

4.5.1 第3実験および第4実験のまとめ

4.5.2 影を手がかりとした形状知覚の発達

第5章 乳児における「影は暗い」という前提に関する実験的検討 5.1 本章の目的・概要

5.2 本研究の目的 5.3 第5実験

5.3.1 不自然選好を用いた先行研究の例

5.3.2 本研究の目的

(3)

5.3.3 方法 5.3.4 結果 5.3.5 考察 5.4 第6実験 5.4.1 第6実験の目的 5.4.2 方法

5.4.3 結果 5.4.4 考察

5.5 本章のまとめと総合考察 第6章 総合考察

6.1 結論

6.2 必要条件に基づく投射影知覚の発達に関する考察 6.3 投射影知覚の発達時期に関する考察

6.4 姿勢制御の発達との関連

6.5 物体表面を恒常的に知覚する能力との関連 引用文献一覧

以下に,本論文の概要と評価を示す。

第0章では,本研究で検討される「影」が,日常生活の中で重要な視覚対象であることが簡潔に 述べられた後,乳児の知覚を調べるための専門的な実験方法について述べられている。

第1章では,影の定義と物理的特性についての概説がなされた後に,ヒト成人の投射影の知覚特 性について,投射影を知覚するための必要条件を実験的に検討した研究についてまとめられている。

さらに投射影を知覚する「視覚システム」における「制約条件」に関する知見についてまとめられ ている。

第2章では,影知覚に関する先行研究がまとめられている。投射影を手がかりとした奥行き・運 動軌道を知覚する能力の発達について概説され,乳児が投射影を知覚できるのかを検討した研究に ついて概説し,これまでの研究と残された問題について指摘している。これまでの研究では,投射 影を手がかりとした知覚の発達は7ヶ月頃に完成することが明らかにされている一方で,投射影知 覚の発達に関しては実験がなされていないことから,この点についての検討の必要性について論じ られている。

第3章では,乳児の投射影知覚を実験的に検討した研究についてまとめている。実験では,物体 と投射影間の形状の不一致を検出できるかを検討している。第1実験では,生後5-6ヶ月児と生後 7-8 ヶ月児を対象に,注視行動を指標とした親近化法から,物体と投射影間の形状の不一致を検出 できるかを検討したところ,生後7-8ヶ月に物体と投射影間の形状の不一致を検出できることが明

(4)

らかになり,この能力の発達を示すことができた。第2実験では,第1実験で用いた画像の,投射 影と背景の境界に白色の線を付加することで,投射影として知覚できない画像を作り,第1実験と 同様の手続きで生後5-6ヶ月児と生後7-8ヶ月児を対象に,この画像で物体と投射影間の形状の不 一致を検出するか検討し,全月齢で不一致を検出しないことを示した。これらの実験の結果から,

乳児の投射影知覚は生後7-8ヶ月頃に発達する可能性について論じられている。

第4章では,乳児における陰影と投射影を手がかりとした形状知覚の実験についてまとめている。

成人を対象とした先行研究に関する説明の後に,それぞれの実験がまとめられている。第3実験で は,成人の先行研究で用いられた画像を使い,生後5-6ヶ月児と生後7-8ヶ月児を対象に,乳児が 成人同様に,陰影と投射影から異なる形状を検出するかについて,親近化法を用いて検討された。

その結果,生後7-8ヶ月児は陰影と投射影から異なる形状を知覚することが示された。第4実験で は,第3実験の刺激画像の影領域を白色にすることで影として知覚できない画像を作り,第3実験 と同様の手続きで実験を行い,生後7-8ヶ月児は影として知覚できない投射影および陰影からは形 状の違いを知覚できないことを示している。

第5章では,成人が有する「影の中は暗い」という前提を,乳児も持つかについて検討した実験 について述べられている。第5実験では,生後5-6ヶ月児と生後7-8ヶ月児を対象に,コンピュー タグラフィックスにより作成された,投射影を通過する物体の明るさの「不自然な変化」の動画を 用いた実験が行われた。実験の結果,生後7-8ヶ月児は影の明るさの「不自然な変化」に気づいて 選好することが判明した。第6実験では,第5実験での投射影を通過する物体の明るさの変化はそ のままに,物体にかかる投射影を取除くことにより,投射影の文脈に関係なく物体の明るさが変化 する際の,生後5-6ヶ月児と生後7-8ヶ月児の選好を調べたところ,この動画への選好はないこと が明らかとなった。これらの結果から,生後7-8ヶ月児は,成人が持つ「影の中は暗い」という前 提を成人と同じように物体の知覚に使用していることがわかり,その可能性についてさらに議論さ れている。

第6章では,以上述べられた実験的検討の結果をまとめ,以下の4点が明らかにされた。

1.投射影知覚は,生後7ヶ月頃に発達する。

2.投射影を手がかりとした形状知覚は,陰影を手がかりとした形状知覚と同じ時期,すなわち生 後7ヶ月頃に発達する。

3.生後7-8ヶ月児は,成人と同じ「必要条件」に基づいて投射影を知覚することができる。

4.生後7-8ヶ月児は,影の中は暗いという前提に基づき,影を通過する物体表面の明るさの変化

を知覚している。

これらの知見から,生後7-8ヶ月の間に,乳児は成人と同じ,知覚的な「必要条件」と「前提」

に基づき,投射影を知覚することが示されている。この月齢は,三次元の空間構造の知覚が発達す る時期でもあり,影の知覚は三次元空間知覚と関連する可能性についても論じられている。

<評価する点>

本論文は「影」という日常見られる対象の知覚についての初期発達に関して,心理物理学的手法

(5)

を用い,複数の実験的検討を行い,興味深い知見を提供している点で優れている。また,これまで の投射影知覚の発達研究は,投射影を手がかりに成立する奥行き知覚と物体の運動軌道の知覚を検 討した研究という,限定された対象だけになされ,影知覚そのものを扱うことはなかった。それに 対し本論文は,生後7-8ヶ月児が(1)物体と投射影間の形状の不一致を検出し,投射影を知覚でき ること(第3章),(2)投射影と陰影から知覚される形状の違いを検出し,投射影を手がかりに形 状を知覚できること(第4章),(3)影を通過する物体の不自然な明るさ変化を検出し,影の中は 暗いという前提を有すること(第5章),を明らかにし,新規の知見を提供している。以上のことから,

本論文は高く評価できる。

<課題>

本論文では,乳児期の投射影知覚の初期発達に関して,数多くの実験により得られた知見から,

生後7ヶ月頃に影知覚が獲得されると論じているが,これらの知見が今後どのような課題の解決に 繋がるのかという点が不明瞭である。影知覚の発達する月齢について,物体の恒常的な知覚の発達 や,姿勢制御の発達との関連から考察しているが,この月齢で影知覚が発達することが乳児の視知 覚の初期発達において何を意味するのかについては,更に踏み込んだ議論の余地があった点を指摘 したい。これらの課題については,今後さらに実験的な検討を進める中で明らかにされることを期 待したい。

上記のような課題が残されているとはいえ,投射影知覚の初期発達について新たな知見を提供し,

またその知見が今後,実験心理学や発達心理学およびその周辺学問領域に与える影響を考慮すれば,

本論文の内容は非常に高く評価できる。

以上,本論文の内容審査と口頭試問の結果から,本論文の審査委員3名は一致して,本論文に博 士学位(甲,心理学)を授与することが適当であると判断する。

参照

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