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清 水 善 仁

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Academic year: 2021

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ミズ ヨシ ヒト

氏名(生年月日)

清 水 善 仁

(1979 年 3 月 30 日)

学 位 の 種 類

博士(史学)

学 位 記 番 号

文博乙第 73 号

学位授与の日付

2020 年 3 月 18 日

学位授与の要件

中央大学学位規則第 4 条第 2 項

学 位 論 文 題 目

戦後日本の大学における歴史的資料の管理と活用に関する研究

―アーカイブズの視点から―

論 文 審 査 委 員 主査

山崎 圭

副査

宮間 純一・高橋 実

内容の要旨及び審査の結果の要旨

1.本論文の概要と意義

本論文は、戦後日本の大学における歴史的資料の管理および活用について、大学アーカイブズ(大 学文書館ともいう)の視点から理念と実践の両面を分析して、その歴史的・現代的な意義を検討し た研究である。

はじめにアーカイブズ学について略述すると、アーカイブズの語がようやく定着してきたのがこ こ最近であることからもわかるように、それを扱うアーカイブズ学もまた日本では歴史の浅い学問 分野である。アーカイブズの語には、歴史的価値のある記録史料、また、それを保存公開する施設、

など多義的な意味がある。歴史を遡ると、戦後の混乱期に古文書を含め重要な文書の散逸を防ごう と歴史研究者たちが史料保存運動を展開した。この運動の延長で全国各地で自治体立の文書館が設 立され、1987 年には公文書館法が制定された。こうして文書館への理解が深まる中で、欧米のアー カイブズ学を参照しながら、歴史学とは異なる学問として「文書館学」(当時の用語、後のアーカ イブズ学)を自立させようとする動きが生まれた。文書館学は歴史資料の管理の問題を重視する点 で、従来の古文書学や史料学とは異なる視角に立った。2004 年に日本アーカイブズ学会が発足する 頃には、アーカイブズの対象範囲は大きく広がり(文書、映像、音声、デジタル等)、また 2009 年 に公文書管理法が制定されることでアーカイブズの役割にも変化が見られた。大学アーカイブズも また同様の流れの中にあり、大学史編纂のために収集した資料を保存・活用するための施設から大 学組織の資料を恒常的に収集・整理する施設へ、さらに情報公開法・公文書管理法や大学評価との かかわりで大学が説明責任を果たすために必要な組織へと、大学アーカイブズの位置付けにも変化 が生じている。

本論文は、このような状況を踏まえ、大学がこれまでどのように歴史的資料を管理・活用してき たのかを検討し、歴史的資料の管理・活用のためのシステム整備・運営の方法を考察するとともに、

〔1338〕

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それが大学にもたらす価値について論じている。大学の歴史的資料を管理・活用することは、大学 がどのような社会的役割を果たしてきたかを問うことであり、同時にこれから大学が社会に対して どのような役割を果たすべきか考えることにつながると申請者は主張している。申請者がこのよう な理解に至った背景には、京都大学大学文書館と法政大学大原社会科学研究所という大学アーカイ ブズの他、国文学研究資料館や神奈川県立公文書館など、多くのアーカイブズで勤務してきた経験 がある。そういった豊富な知識や経験に支えられていることも、本論文の一つの特徴である。

2.本論文の構成

序 章 本論文の課題と方法 第 1 節 課題設定

第 2 節 研究史の整理 第 3 節 本論文の構成

第 1 章 大学アーカイブズの歴史 第 1 節 はじめに

第 2 節 米英両国の大学アーカイブズ史 第 3 節 日本の大学アーカイブズ史

第 4 節 日本の大学アーカイブズ史から見えてくるもの 第 5 節 むすびにかえて

第 2 章 大学アーカイブズ理念論序説―SAA ガイドラインを手掛かりに―

第 1 節 はじめに

第 2 節 課題設定と分析視角 第 3 節 SAA ガイドラインの分析

第 4 節 日本の大学アーカイブズ理念をめぐって 第 5 節 むすびにかえて

第 3 章 大学アーキビスト論 第 1 節 はじめに

第 2 節 大学アーキビスト論の変遷

第 3 節 大学アーキビスト論への多角的考察 第 4 節 大学アーキビスト試論

第 5 節 むすびにかえて:大学アーカイブズの理念と大学アーキビスト 第 4 章 大学アーカイブズ組織戦略論

第 1 節 はじめに 第 2 節 戦略の策定

第 3 節 具体的施策への一考察

第 4 節 むすびにかえて:「戦略」から「評価」へ

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第 5 章 大学における「資料関係活動」論

―法政大学「環境アーカイブズ」を事例として―

第 1 節 はじめに

第 2 節 環境アーカイブズの組織化とその活動 第 3 節 環境アーカイブズの意義

第 4 節 むすびにかえて

第 6 章 大学アーカイブズ資料編成・記述論 第 1 節 はじめに

第 2 節 大学組織の機能構造分析 第 3 節 大学資料群の編成と記述

第 4 節 大学資料群のなかの個人・団体資料 第 5 節 むすびにかえて

補 論 アーカイブズ編成・記述・検索システム論の成果と課題 第 1 節 はじめに

第 2 節 課題設定:60 年前のアーカイブズ認識から

第 3 節 検索システム論:検索システムの在り方をめぐって 第 4 節 編成論:「経年変化」をめぐる理論変遷の現状と課題 第 5 節 記述論:記述標準化論を中心に

第 6 節 むすびにかえて:これからの日本のアーカイブズに向けた 1 つの試論 第 7 章 大学アーカイブズにおけるアウトリーチ活動論

第 1 節 はじめに

第 2 節 アウトリーチの定義をめぐって

第 3 節 アウトリーチ活動の実際とそれへの疑問:アメリカの事例を中心に 第 4 節 日本の大学アーカイブズにおけるアウトリーチ活動の現状

第 5 節 むすびにかえて

第 8 章 大学アーカイブズ教育活動論 第 1 節 はじめに

第 2 節 前提としての調査研究活動 第 3 節 教育活動の現状と形態

第 4 節 MLA 連携によるアーカイブズ学教育への試論 第 5 節 むすびにかえて

[資 料]翻訳:SAA 編「大学アーカイブズのためのガイドライン」(1999 年版)

終 章 本論文の成果と展望 第 1 節 本論文の成果 第 2 節 今後の展望

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3.各章の内容

序章では、アーカイブズおよび大学アーカイブズの定義について確認した後、大学アーカイブズ が扱う資料の範囲について説明し、それらがこれまで実際にどのように扱われてきたのか、今後ど のように扱うべきなのかという問いを立てている。その上で、関係する先行研究の研究史整理を行 って、以下の各章につながる課題を確認すると同時に、「大学アーカイブズの存在とその機能を大 学のみならず地域や社会等も含めたより広い枠組みのなかに位置付ける体系的な研究」が必要であ ると主張している。

第 1 章では、大学アーカイブズの設立から今日にいたる歴史的な展開とその評価を、アーカイブ ズをとりまく社会的な情勢の変化も踏まえながら論じている。これについては、従来、「大学史編 纂から大学アーカイブズへ」という流れで論じられることが多かったが、近年ではそのような枠組 にとどまらず、情報公開法および公文書管理法への対応や、社会に対する説明責任を果たすための 機能など、大学アーカイブズの役割が多様化している状況を説明している。

第 2 章では、研究・教育機関である大学にアーカイブズを設置する意味と、それが果たすべき役 割について、アメリカにおける議論を参考にしながら理念に注目して比較検討している。アメリカ では、大学アーカイブズの業務は「教育のため」であると明確に位置付けられるのに対し、日本で は、歴史的資料の管理と活用という業務自体が目的となる傾向があることを示し、日本の大学アー カイブズは、大学ならではの独自な理念をはっきり打ち出せていないと指摘している。

第 3 章では、引き続き大学アーカイブズの理念をめぐる問題について大学アーキビストの視点か ら検討している。まず、日本における大学アーキビストをめぐる議論を検討し、はじめは資料の整 理者・研究者として、やがて行政職・管理者として位置付けられるようになったが、大学アーカイ ブズが多様化する中で現在はその位置付けがぼやけていると述べている。その上で、アメリカでの アーキビスト(文書館専門職)をめぐる議論等を参考に、大学アーキビストは資料の整理者・研究 者・管理者・教育者の 4 側面を持つべきで、特に日本では教育者の視点が欠如しており、大学アー キビストは、アーカイブズ学教育・自校史教育等の他、大学理念の実現の一翼を担う主体的な存在 であるべきだと論じている。

第 4 章では、学校教育法における大学の理念規定から、その理念を実現するための要件として教 育・研究・社会連携・運営があることを示し、それに貢献するべく大学アーカイブズの活動方針を 立てていくべきだと論じている。大学アーカイブズの主要な活動内容である資料の収集・整理・保 存・公開、広報・アウトリーチ、調査研究、教育が、上の 4 要件とそれぞれどのように関わるかを 明確に意識する必要があることを主張し、その上で大学アーカイブズにとって必要な活動のミニマ ム・モデルを提示している。

第 5 章では、大学自身が日常の活動を通じて生み出した資料ではなく、大学の教育・研究活動を 通じて外部から収集した資料の管理と活用(申請者はこれを「資料関係活動」と名付けている)に ついて、法政大学大原社会科学研究所の「環境アーカイブズ」を例に論じている。ここでは法政大 学における環境アーカイブズの設立、資料収集の過程、収集された資料の内容、整理・公開・広報・

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調査研究等について具体的に説明した上で、こうした活動には歴史資料を救出する意義があり、大 学自身の研究・教育にも効果を上げ(法政大学では「持続可能な地球社会の構築への貢献」を大学 の理念として掲げている)、地域や社会への貢献にもつながるものであると論じている。

第 6 章では、大学アーカイブズが収蔵する歴史的資料の編成・記述の方法について検討している。

アーカイブズ学研究の進展にともなって資料の編成は、かつての主題別分類から組織別編成へと変 化しているが、改組が頻繁に行われる大学においては組織別編成が困難である。そこで機能別編成 という新しい考え方を取り上げ、京都大学を事例に実践的な検討を試みている。そこでは文書分類 表と職務分掌規程を利用しながら大学の機能構造を把握し、それをもとに大学資料の編成を行うと いう方法が示されており、大学一般に適用可能なモデルとして注目されるとしている。

補論では、大学アーカイブズにとどまらない、アーカイブズ全般を対象に、これまでの資料の編 成・記述・検索システム論の成果と課題について整理している。

第 7 章では、大学アーカイブズの広報普及活動(アウトリーチ)について論じている。ここでは アメリカの研究も手がかりにしつつ、アーカイブズの存在を知らない人に向けてアーカイブズの側 が主体的に働きかけるためには、最低限、HP 等の情報発信、展示、講座・講演会が必要であること、

特にアーカイブズそれ自体の活動をテーマ(史料収集、整理、保存等)にした広報が必要であるこ となどが論じられている。

第 8 章では、大学アーカイブズの教育活動について論じ、アーカイブズが積極的に学生の教育に とりくむべきことを主張している。そこでは大学アーカイブズの教育実践例の検討を通じて、特に MLA 連携(博物館・図書館・アーカイブズの連携)の視点に立った教育が必要だと述べている。すな わち、三機関の共通基盤をなす教科は一元的に教育し、各機関固有の分野は独自に教育するという やり方である。文化資源情報全般に理解のある人材、自ら扱える人材を養成することの重要さが指 摘されている。

終章では、各章の成果をまとめ直した上で、結論として大学が歴史的資料を管理・活用すること の意義について、①大学運営に関わる資料を残し、説明責任を果たす、②歴史的資料を活用した教 育を展開する、③歴史的資料を研究活動の資源として学内外に提供する、④公開講座等の実施によ る社会連携を可能とする、の四点をあげて、大学アーカイブズは大学の社会貢献を支えるものであ ると主張している。

4.本論文の成果と課題

本論文の成果として、主に以下の三点をあげることができる。

まず第一に、冒頭でも述べたが、日本においてアーカイブズ学研究の歴史が浅く(この分野を代 表する日本アーカイブズ学会の設立は 2004 年のことである)、専門研究者の数も多いとは言えず、

従って体系的な研究書もまだ数が限られている状況下で、本論文がまとまった成果をあげている点 である。以上の問題は大学アーカイブズに限定するとさらに顕著になるが、申請者は検討する先行 研究を日本の文献だけに限定せずアメリカの文献にまで広げることで、大学アーカイブズを体系的

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に論じる視野を獲得している。すなわち、従来の日本の研究では、現場での取り組みに関する実践 報告的なものが多かったり、そうでなくても資料の保存や大学史の研究等が大学アーカイブズの主 要な役割として論じられたりしたのに対して、本論文では、各大学がもっている理念を教育を通じ て実現することに貢献するという大学アーカイブズの新たな役割を提示している。これは申請者の 独自な視点と言うことができ、この点は今後の大学アーカイブズのあり方を考える際の一つの指針 になると言ってよいであろう。

第二に、大学アーカイブズについて幅広く七つの論点(理念、アーキビスト、組織戦略、「資料 関係活動」、編成・記述、アウトリーチ、教育)を取り上げ、全体的に論じようとした点である。

第一の点とも関わるが、これまでの実践報告的な研究の場合、一つの点の検討にとどまりがちで、

その点の業務改善にはつながっても、大学アーカイブズの社会的役割を全体として検討するまでに は至らないことが多かった。本論文では、多面的な検討を行うことで、①大学運営に関わる資料を 残し、説明責任を果たす、②歴史的資料を活用した教育を行う、③研究活動に対する資料を提供す る、④公開講座等を実施して社会連携に貢献する、の四点に大学アーカイブズの意義があると整理 している。

第三に、一般に大学アーカイブズで取り扱う資料の範囲が大学組織の資料に限定されがちである のに対して、大学が組織外から研究・教育のために収集した資料の管理・活用に積極的な意義を見 出した点である。申請者が勤務する法政大学大原社会科学研究所の「環境アーカイブズ」が、「持 続可能な地球社会の構築への貢献」を大学の理念として掲げる法政大学にとって価値あるものとす る指摘は説得的である。このような活動を「資料関係活動」と名付けて大学の機能の一つに位置付 けたことは、学内の研究・教育への貢献という点でも、学外での社会貢献という点でも意義が認め られる。

以上の成果をあげる一方で、いくつかの課題も残されている。ここでは次の三点を指摘しておき たい。

まず第一に、大学アーカイブズの歴史については十分におさえられているが、資料を生み出す母 体である大学そのものの歴史について必ずしも十分に検討されているとは言えない点である。一口 に日本の大学と言っても、その実態は多様であり、一つの大学でも歴史的に見ると戦前・戦後から 今に至るまで、その性格を大きく変えている。高等教育史・教育社会学等の研究成果を参照しなが ら、多様な性格の大学とアーカイブズの関係を歴史的に論じる必要があったと考える。

第二に、日本の大学アーカイブズが明確な理念を提示していないことへの批判は適切だと考える が、その点を克服して日本の大学アーカイブズの理念を導き出そうとする中で、アメリカの大学ア ーカイブズに関するガイドラインをやや機械的に適用している面が見られる点である。日本とアメ リカの大学アーカイブズを比較検討するのであれば、それぞれの大学の特性(共通点や相違点も含 めて)を踏まえた上で検討する必要がある。また、SAA のガイドラインは普遍的なものではなく、ア メリカの多様な背景をもつ大学アーキビストたちの議論を通じて作られたものであるので、ガイド ラインの内容だけでなく、様々な背景をもつ大学間でどのような話し合いが行われ、ガイドライン

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が作り上げられたのかも検討する必要があると考える。

第三に、大学資料群の構成を、大きく①事務文書、②刊行物、③個人・団体資料と捉え、その上 で③は大学の組織的活動の中で作成されたものではない、外部からの収集アーカイブズと捉えてい る点である。他に、大学教員等が教育・研究活動の一環として収集する資料(一例として日本史学 の古文書)を、「親組織とはまったく関係のない資料」と位置付けている点も同様である。申請者 は、大学の組織活動に関する記録を残すことが大学アーカイブズの使命であって、教員や学生の個々 の活動に関する記録については原則として本来扱うべき範囲の外だとの認識に立っている。しかし、

これでは大学にとって最も本質的な部分である教育・研究を軽視した理解になってしまうのではな いか。教育・研究は大学機能の主要な一部分であり、その活動を通して日々作成される文書をどの ようにして収集・管理する(レコード・スケジュールにのせる)ことができるかは、大学アーカイ ブズにとって今後の課題だと考える。対象資料の数が膨大すぎて手に余るといった難題もあるが、

理系等では研究資料を組織的に残す取り組みが始まっている。

5.本論文の評価

以上のように今後検討すべき点も若干残されてはいるが、本論文全体としては、関係資料を博捜 し、関係する先行研究を吟味して十分な成果を上げていることが明らかである。審査委員会では、

論文審査と最終試験の結果を踏まえ、申請者に対して博士(史学)の学位を授与することが適当で あると全員一致で判断した。

参照

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