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大項目 3. 計算化学

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Academic year: 2021

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ディビジョン番号 ディビジョン名

3

理論化学・情報化学・計算化学

大項目 3. 計算化学

中項目 3-1. シミュレーション 小項目 3-1-8. 生体高分子モデル

概要

現状と最前線

生体高分子(タンパク質、核酸、脂質、糖、およびこれらの複合体)のシミュレーションは、

生命科学と計算機科学の両分野で大きな位置を占めている。

生体高分子のシミュレーションは、さまざまなモデルと方法を用いて行われる。図 1 に、ア ラニン側鎖を例にとって、(1)全電子モデル、(2)全原子モデル、(3)疎視化モデルの三つを示 す。(3)→(1)の順に、モデルが精密になるが、一方、計算時間も桁違いに嵩むことになる。そ のため、目的と対象に応じて、モデルと計算方法をうまく選ぶ必要がある。ここでは、上の三 つのモデルに関して、計算方法と対象について説明する。さらに、これらの三つを適宜組み合 わせた(4)融合モデルについても述べる。

(1) 全電子モデル

すべての電子を取り入れたモデルである。分子は、 「電荷を持った原子核の周りを電子雲が 取り巻く」ものとして表現する。このモデルは、密度汎関数法や分子軌道法などの、量子力学 に基づいた計算で扱うことになる。密度汎関数法の一種の Car-Parrinello 分子動力学法 (CPMD)は、小さなペプチドの溶媒中の挙動や電子状態の解析に応用されている。また、非経験 的分子軌道法の一種のフラグメント分子軌道法(FMO)ならば、数千から数万原子系の計算も可 能である。FMO の応用計算は、今のところ、エネルギー1点計算が多いが、小さめの系ならば、

分子動力学計算も可能である。なお、全電子計算ではないが、経験的分子軌道法も、タンパク 質や核酸の電子状態計算に使われる。

分 子 シ ミュレー シ ョンの モ デ ル

(ア ラニ ン側 鎖 ) (1) 全 電 子モデ ル

(2) 全 原 子モ デ ル

(3) 疎 視 化モデ ル

生体高分子の計算機シミュレーションには、(1)全電子、(2)全 原子、(3)疎視化、などのモデルが利用される。これらを組み合 わせた(4)融合モデルもある。これらのモデルに基づいたシミュ レーションにより、生体分子の物性や構造などが解析されてい る。今後は、全電子モデルに対する量子分子動力学法の実用化、

電荷移動を取り込んだ力場の開発、マルチスケールフィジクス

に対応した融合計算法などの開発が望まれている。

(2)

(2) 全原子モデル

すべての原子を露に取り扱ったモデルである。分子は、 「電荷を持った柔らかな球(=原子)

が、棒あるいはバネで繫がった」ものとして表現する。このモデルは、古典力学に基づいた方 法で扱う。エネルギー極小化計算、基準振動解析、分子動力学法(古典 MD)などが広く行われ ている。 特に、古典 MD は、現在、生体分子計算の分野では、最も整備され、実用計算も盛 んである。それは、アルゴリズムやソフトの進歩に負う面が大きい。ここ十数年の間に、クー ロン力が正確に計算できるようになったおかげで計算の信頼性が増したし、また、並列化アル ゴリズムの進歩で速度も大幅に向上した。計算に利用される力場パラメータの信頼性も増し た。さらに、拡張アンサンブルの開発により、分子のコンフォーメーション探索も用意になっ た。これらの方法や力場を組み込んだソフトウェアパッケージも、AMBER, CHARMm, NAMD, GROMACS など、便利なものが作成され、広く使われている。計算対象としては、従来からの水 溶性タンパク質や核酸に加えて、近年、膜タンパク質が多く計算されている。例えば、イオン チャネルタンパク質内のイオンや水の透過のような現象に関する計算が多い。このような計算 は、タンパク質+細胞膜+水+イオンのようなリアルな分子系を扱うことになる。このような 分子系は原子数が数万から数十万にも上るが、そのような巨大系でも、数十ナノ秒程度なら、

容易にシミュレーションできるようになったわけである。

(3) 疎視化モデル

いくつかの原子をまとめてグループ化してしまうモデルである。疎視化の方法は様々で、簡 単には分類できない。 水の連続体近似も疎視化の一種である。実用計算としては、脂質を疎視化 モデルで扱って、脂質膜のダイナミクスや物性を計算することが多い。また、タンパク質のフォー ルディングを疎視化モデルで扱うこともある。

(4) 融合モデル

(1)-(3)を適宜融合させて計算させることも多い。重要なのは QM/MM 法と呼ばれる、分子系の重要 な部分だけ量子的に電子状態を計算し、残りは古典的に扱う方法である。QM/MM 法は、特に酵素反 応のシミュレーションでは必要不可欠である。QM/MM 法だけでなく、疎視化モデルまで視野に入れ た融合法は、マルチスケールフィジクスの道具、という観点から注目を浴びている。

将来予測と方向性

・5年後までに解決・実現が望まれる課題

(1) 水溶液中の生体分子の、全電子モデルによる量子分子動力学シミュレーション。

(2) 電荷移動まで扱うことのできる、実用的な力場パラメータの開発。

・10年後までに解決・実現が望まれる課題

(1) 全電子モデルから疎視化モデルまでを、滑らかに接続できる、融合法の開発。

キーワード

分子軌道法、密度汎関数法、FMO 法、分子動力学法、疎視化モデル

(執筆者: 古明地勇人)

参照

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