長 崎 大 学 教 育 学 部 自然科 学 研 究 報 告 第50号51〜57(1994)
柔軟剤 処 理 した綿 布 のバ イ レ ック法 に よ る 吸水 特性 の変化
鈴 木 淳
長 崎 大 学 教育 学 部 家庭 科 (平成5年10月29日 受理)
Characteristics of Water Absorption of Cotton Fabrics Treated with Softners by the Bilec Method
Atsushi SUZUKI
Department of Home Economics, Faculty of Education, Nagasaki University, Nagasaki 852
(Received October 29, 1993)
Abstract
Water absorption of a cotton towel and shirting treated with conventional softners were examined by the Bilec method. The ones containing distearyl dimethyl ammo- nium chloride as a softner base, softner A, and the similar commercial softner,softner B. After first decreasing, water absorption increased according to the increase of the treatment time. This recovery was higher with the cotton towel treated with softner A, the original water absorption of which was high. In addition, it was suggested that
as the water absorption became higher, the softness of feel became lower.
1.は じ め に
家 庭 用 柔 軟 仕 上 げ剤 は,主 に陽 イ オ ン界 面 活 性 剤 の親 水 基 と親 油 基 を活 用 す る こ と に よ
り,着 用 ・洗 濯 を繰 り返 す う ち に風 合 い 劣 化 を も た らす タ オ ル や 肌 着 な どの 繊 維 製 品 に対
し て,柔 軟 性 を付 与 し,同 時 に制 電 性 を与 え る も の で あ る。 しか し,そ の効 果 の 反 面,繊
維 表 面 で 規 則 正 し く配 列 した 親 油 基 が 汗 や 水 を吸 い取 り に く くす る 吸 水 性 の 低 下 と い う欠
点 を もつ[1]。 そ こで,近 年,親 油 基 で あ る炭 化 水 素 鎖 に二 重 結 合 を導 入 し,炭 化 水 素 鎖 を
くの 字 形 に 折 れ 曲 が らせ る こ とに よ り柔 軟 分 子 間 に水 分 子 の通 る間 隙 を確 保 し,そ れ に よ
っ て 吸 水 性 の 低 下 を 防 ぐ とい う新 しい 柔 軟 仕 上 げ剤 の 市 販 品 も見 られ る 。 これ は,従 来 型
の柔軟剤に比較して,良好な吸水性を有していると言われる[2]。しかし,現在までのとこ ろ,従来型および新型とを問わず,柔軟剤による吸水特性の変化についての基礎的な実験 データが極めて少ない[3]。従って,柔軟剤特性や布特性および吸水性の測定方法などと関 連して,その機構を種々な角度から原理的に検討することは必要なことである。本報告で
は,その吸水特性の一端について実験した。すなわち,柔軟剤として従来型を用い,それ にはモデル的に調整した柔軟剤Aと市販品の柔軟剤Bの2種類を当て,布としては綿のタ オル地と綿のブロード地とを,吸水性の測定にはJISによるバイレック法を採用し,これ
らによる柔軟剤処理布の吸水特性を検討した。
2.実 験
2.1 試料布
表1が用いた綿のタオル地と綿のカナキンである。タオル地はその使用目的から柔軟性
Table l Characteristics of Sample Fabrics Sample fabrics Density
(number/cm)
Dry weight Thickness
(×10−2g/c㎡) (×10−2c㎡)
Warp Weft Cotton towel cloth
Cotton shirting(40S) 31.5 27.6
2.29 1.09
15.40 3.15
と吸水性が必要とされる代表的な試料であり,カナキンはそれに対比させた標準的な平織 地である。素材的には,共に綿による親水性を示し,構造的には,タオル地はパイル組織 を持ち,かさ高で抱水性に富み,カナキンはそれらが小さいものとした特徴をもつ。試料 は,繊維重量に対して,2%の水酸化ナトリウムと同4%の非イオン界面活性剤とを用い て,温度95。C前後の浴比1:30で,2時間程精練処理した。それは,風乾後,アイロンを掛 け,65%RHのデシケータ中に保存して,次の柔軟処理に供した。
2.2 柔軟処理
柔軟剤は,従来型で,次に示すモデル的に調整した柔軟剤Aと第4級アンモニウム塩系 とイミダゾリン塩系に安定剤を加えた市販品である柔軟剤Bの2種類を用いた。
柔軟剤A
ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド(DSDMAC) 6%
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(nニ7.5) 0.5%
尿素 2%
蒸溜水 91.5%
柔軟剤Aの調整は文献[4]の構成比(wt%)を参照して,吸着安定用に非イオン界面活
性剤と尿素とを併用した。主成分の柔軟剤は,2つの飽和炭化水素鎖を持つ第4級アンモ
ニウム塩である。柔軟剤Bの具体的な内容は不明である。柔軟処理は,次に示す標準的な
いしは文献[4,5]による処理条件(濃度はwt%)を採用し,その中にあって,処理時間を
柔軟剤処理した綿布のバイレック法による吸水特性の変化
53変数として取り上げた。処理後は,風乾し,アイロンを掛け,65%RHのデシケーターに 保存し,吸水実験に供した。
柔軟処理条件
柔軟剤濃度
柔軟剤A O。067%
柔軟剤B O.02%
水温 20±3。C 浴比 1:30 機械力(洗濯機,ナショナル NA−33)
処理時間 0分 0.5分 1分 3分 6分 脱水(脱水機,ナショナル HD−150) 3分
2.3 吸水測定
基本的な測定法の1つであるJIS L1096によるバイレック法を用い,吸水高さの測定を 行った。これは,布に水平方向,つまり繊維軸方向の毛管現象による10分間経過後の水の 上昇した高さを測定するものである。本報告では,10分までの吸水高さの時間変化も見た。
このとき,吸水高さが読み取り易いように試験片には予め染料を微小量散布しておいた。
吸水はたて・よこ糸両方向について測定した。水温はほぼ20。C,測定環境は室温状態であ
る20.6−20.80C,50−54%RHの条件下で行った。3.結果および考察 3.1 柔軟剤の吸着
一般に,柔軟剤の布への吸着は,柔軟剤濃度,処理温度,機械力,処理時間などの影響 を受ける。本報告では,標準的な処理条件を前提に,濃度,温度,機械力を一定にして,
処理時間を変化させた。但し,今回,柔軟処理時間に対する吸着率を正しく測定すること が出来なかったので,ここでは処理時問を吸着率の変化尺度として取り上げ,それによる 吸水性の変化を見た。通常,柔軟性は,ジアルキルジメチルアンモニウムクロライドで充 分覆われて,吸着率が対布重量比で約0.1−0.2%程度までの吸着で,急激に増加するが,そ れ以上では余り顕著に増大しないと言われる[6,7]。また,洗濯機により,処理時の機械力 が増すと吸着平衡に達する時間は短縮され,処理時間が数分内では吸着率は上昇するが,
その後の増加は余り認められないという[6]。また,吸着は単分子層吸着ではなく,多分子 層吸着(数10層程度)で,その2層以上の柔軟分子の配向には乱れが生ずると言われる ロ [8]。他に,DSDMAC分子の高さは約20A程で,それは,綿の単繊維幅の約1万分の1,
糸幅の約10万分の1以下,水蒸気の直径の約5倍程度に相当する[8,9]。
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Fig. 1
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(a) Tile , Iin (b)
Water absorption characteristics of cotton towel pieces treated with softner A by the Bilec method.
Treatment time: (e) none; (JL) 0.5min; (') Imin; (V) 3min; (1) 6min. (a)
warp direction. (b) : weft direction.6
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Fig. 2
o o
(a) Tile , Iin b)
Water absorption characteristics of cotton shirting pieces treated with softner A by the Bilec method.
Treatment tirne: (O) none; (A) 0.5min; ( ) Imin; (V) 3min; (1) 6min. (a)
warp direction. (b) : weft direction.柔軟剤処理した綿布のバイレック法による吸水特性の変化
553.2 吸水特性
図1,図2に,柔軟剤Aについての吸水高さの経時変化を測定回数2回の平均値で示し た。図1が,綿タオル地の結果で,図2が綿カナキンの結果である。その吸水速度曲線は,
一般に観測される指数関数的な関係にある。初期吸水速度と吸水高さは,未処理布で大き く,処理時間が短い条件下の処理布で急に下がり,処理時間が6分では逆にそれらが回復 している。図3,図4には,10分間経過後の吸水高さの処理時間依存性をまとめて示した。
図3が,柔軟剤Aにっいての結果で,図4が,柔軟剤Bについての結果である。図から,
吸水性は未処理布で高く,処理時問が長くなるとともに下がり,6分間処理では吸水性能 がまた回復する特徴にあることがよく分かる。このとき,その回復は,図3の柔軟剤Aに
よるものが大きく,図4の柔軟剤Bによるものは小さかった。ここで,たて糸・よこ糸方 向の平均値について,処理布の吸水高さを未処理布のそれと比較する。図3の柔軟剤Aの 場合,綿タオル地では,処理時間の中途で約24%と著しい吸水性能の低下を示したが,6 分処理布ではそれが約81%までに回復した。同綿カナキンでは,それぞれ38%と77%であ
った。図4の柔軟剤Bの場合には,綿タオル地で,同35%に下がり,同50%に回復した。
同じく,綿カナキンでは,それぞれ36%と38%となった。
今回,用いた従来型の柔軟剤において,短い処理時間領域での吸水性の低下は,吸着座 席いっぱいの配向性のよい単分子層吸着ないしは配向性の乱れが少ない低いレベルの多分 子層吸着にあって,その吸着過程にある親油基の存在が水分子の通る通路を阻害した結果
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ption of the cotton towel treatedwith the softner and the treatment timel
(十)softner A,warp direction,
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←一一●…)softner B,warp direction,
ぐ一▲…)softner B,weft direction.
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Fig.3
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Fig,4 Relation面pbetweenthewaterabsop tion ofthecottonshirtingtreatedwith the softner and the treatment time:
(十)softner A,warp direction,
(十)softner A,weft direction,
←一一●…)softner B,warp direction,
←一▲…)softner B,weft direction.
10
によるものと思われる。このとき,親水基は余り効果的な働きをしていないようである。
この点では,通常,言われていることがかなり明確に示されたと言える。処理時問が6分 になると,更に多分子層吸着が進み,配向にも大きな乱れが生じ,それによる親油基の間 隙の広がりやその結果による親水基の働きが,布における毛管吸水の作用を補助する形と なり,吸水性がかなり回復する結果を与えたものと推察している。このとき,それは,未 処理時のもともとの吸水性が高いタオル地の柔軟剤Aを用いた場合に大きかったと言える。
一方,柔軟剤Bの処理時間が6分では,吸水性の回復がかなり乏しく,特に,綿カナキン で低くかった。これらの理解には,1つには吸着率の定量が必要と考えている。他に,柔 軟剤Bが市販品であると言う点で,その柔軟剤がムラ付きの少ない吸着分子の配向性とそ の安定性に優ると言う見方も1つには考えられる。そこで,参考までに,タオル地につい て行った中屋の変法による一対比較を用いた硬軟度の官能検査の結果(危険率1%)につい て簡単に触れる。すなわち,柔軟剤Aの結果では,3分内の処理布と未処理布・6分処理布と の間に有意な差が認められた。このとき,後者が前者より硬く評価された。先に触れたよう
に,吸着率が0.1−0.2%までは柔軟性が急増するが,その後は余り増大しない[6]としたが,ここでは6分処理布で柔軟度が逆に下がるという知見を与えた。柔軟剤Bでは,全ての処理 布と未処理布との間に有意差が示され,処理布で柔軟性に優り,このとき,6分処理布で柔
らかさの平均嗜好度が一番高かった。柔軟剤Bでは,6分処理でも柔軟性効果が発揮され ており,柔軟剤Aでは,6分処理布の柔軟性が低下したことになる。いいかえると,吸水 性の回復が柔軟性を維持することと二律背反の関係にありうることもあることを示唆して いる。他方,使用量が多すぎると,吸水性が低下したり.はっ水性が出る可能性もあると の指摘があるが[6],使用量は別にして処理時間を長くすれば,吸水性を回復させることも 可能であることを示唆している。しかし,このとき,柔軟性の低下の問題が残る。いずれ にしても,これらの点については今後更に検証の必要がある。柔軟性を阻害しないで,吸 水性の低下を防ぐ機構の解明が必要であり,始めに述べた二重結合導入型柔軟剤は文献[2]
からそのようなものであることも考えられる。これらの機構を原理的に十分説明するため には,布の素材や構造,柔軟剤特性とその吸着特性,吸水性の測定方法・原理等の関係に ついてのさらに詳細にして基礎的な実験による検討が必要と考える。
4.おわりに
従来型の柔軟剤を用いた標準的な柔軟処理を綿タオル地と綿カナキンについて行った。
それについて,バイオレック法による吸水性の測定を行い,次のような結果を得た。
(1)柔軟処理時間が短いとき,処理布の吸水性は未処理布のそれの30%前後まで低下し
た。
(2)文献的に吸着平衡領域にあると思われる柔軟処理時問の6分では,モデル的に調整 したDSDMACを主成分とする柔軟剤Aでは,吸水性が未処理布の80%前後まで回復し た。このとき,市販品である柔軟剤Bでは,それは40−50%程度であった。
(3)従来型のモデル柔軟剤Aでは,処理時間が6分では,吸水性の回復が大きかったが,
官能検査の結果では,その柔軟性は処理時問の短いものより劣った。しかし,柔軟剤Bで
は,そうはならなかった。これらの知見については,さらに検証をする必要がある。
柔軟剤処理した綿布のバイレック法による吸水特性の変化
57謝 辞
本報告は川原順子氏の長崎大学教育学部家庭科の卒業研究を基に筆者がその一部を1つ の報文としてまとめたものである。同氏に感謝致します。
文 献
1)峰岸 裕,荒井明彦,油化学,26,85(1977)
2)大部一夫,家庭科学研究,172号,P.20(1989)
3)芳住邦雄,原田恭子,小林有紀子,会田美穂,永山升三,山口康子,繊学誌,49,448(1993)
4)佐藤利男,葛見 衛,繊消誌,15,354(1974)
5)花王生活科学研究所,「家庭用洗濯仕上げ剤について」,P.17(1980)
6)日本繊維製品消費科学会編,「繊維製品消費科学ハンドブック」,光生館,P.502(1988)
7)日本家政学会編,「家政学事典」,朝倉書店,P.783(1990)