たつの さとる 氏名(本籍) 竜野 暁(長野県) 学位の種類 博士(薬学) 学位記番号 論博第369 号 学位授与の日付 令和2 年 7 月 15 日 学位授与の要件 学位規則第4 条第 2 項該当 学位論文題目 植物由来配糖体の構造と腫瘍細胞毒性に関する研究 論文審査委員 (主査)教授 三巻 祥浩 教授 一栁 幸生 教授 栁田 顕郎 教授 早川 磨紀男
論文内容の要旨
悪 性 腫 瘍 の 薬 物 療 法 に は , 細 胞 障 害 性 抗 悪 性 腫 瘍 薬 が 1960 年 代 か ら 用 い ら れ , 2000 年 代 以 降 に は 分 子 標 的 薬 が 登 場 し , 日 々 進 歩 を 続 け て い る . し か し , 悪 性 腫 瘍 は 40 年 近 く に 渡 っ て 日 本 人 の 死 因 順 位 の 第 1 位 で あ り , 腫 瘍 細 胞 の 耐 性 獲 得 や 副 作 用 の 発 現 な ど の 課 題 も 多 く , さ ら な る 治 療 薬 の 開 発 が 必 要 と さ れ て い る . 天 然 物 に は 未 知 の 構 造 を 有 す る 化 合 物 や 強 力 な 生 物 活 性 を 有 す る 化 合 物 が 発 見 さ れ る 可 能 性 が あ り , 天 然 物 は 現 在 で も 新 規 悪 性 腫 瘍 治 療 薬 シ ー ズ の ス ク リ ー ニ ン グ ソ ー ス と し て 有 用 で あ る と 考 え ら れ る . 事 実 , ア メ リ カ 食 品 医 薬 品 局 (Food and Drug Ad ministration , FDA) に お い て 1981 年 か ら 2014 年 の 間 に 認 可 さ れ た 抗 悪 性 腫 瘍 薬 の う ち , 約 32% が 天 然 物 由 来 の 化 合 物 お よ び そ の 誘 導 体 で あ る . 以 上 の よ う な 背 景 に 基 づ き , 申 請 者 は 臨 床 に お け る 悪 性 腫 瘍 薬 物 療 法 の 向 上 に 資 す る 新 規 治 療 薬 シ ー ズ の 探 索 を 目 的 に , 4 種 の 植 物 の 配 糖 体 成 分 に 着 目 し た 成 分 探 索 を 行 っ た . そ の 結 果 , 新 規 24 種 を 含 む 69 種 の 化 合 物 を 単 離 し , そ れ ら の 構 造 を 明 ら か に し た . さ ら に ,単 離 さ れ た 化 合 物 の HL-60 ヒ ト 白 血 病 細 胞 お よ び A549 ヒ ト 肺 が ん 細 胞 に 対 す る 腫 瘍 細 胞 毒 性 を 評 価 し た . ま た , 強 い 腫 瘍 細 胞 毒 性 を 示 し た 化 合 物 の ア ポ ト ー シ ス 誘 導 活 性 を 評 価 し た . 第 1 章 ガ ガ イ モ 科 Marsdenia cundurango 樹 皮 の 化 学 成 分M. cundurango 樹 皮 の MeOH 抽 出 エ キ ス を Diaion HP -20 カ ラ ム ク ロ マ ト グ ラ フ ィ
Figure 1. Structures of 1–15
第 2 章 キ ョ ウ チ ク ト ウ 科 Thevetia neriifolia 種 子 の 化 学 成 分
T. neriifolia 種 子 の MeOH 抽 出 エ キ ス を Diaion HP-20 CC に 付 し , 20% MeOH, EtOH,
EtOAc で 溶 出 し た . こ れ ら の う ち , Et OH 溶 出 画 分 に つ い て 配 糖 体 成 分 に 着 目 し た 成 分 探 索 を 行 い , 新 規 1 種 (23) を 含 む 24 種 の cardenolide 配 糖 体 (16–39) を 単 離 し た (Figure 2).
Figure 2. Structures of 16–39
第 3 章 リ ュ ウ ゼ ツ ラ ン 科 Yucca glauca 地 下 部 の 化 学 成 分
Y. glauca 地 下 部 の MeOH 抽 出 エ キ ス を Diaion HP-20 CC に 付 し , 30% MeOH, 50 %
MeOH, MeOH, EtOH, EtOAc で 溶 出 し た . こ れ ら の う ち , MeOH 溶 出 画 分 に つ い て 配 糖 体 成 分 に 着 目 し た 成 分 探 索 を 行 い , 新 規 5 種 (40–44) を 含 む 12 種 の spirostan 配 糖 体 (40–51) と , 新 規 1 種 (52) を 含 む 8 種 の furostan 配 糖 体 (52–59) を 単 離 し た (Figure 3 ).
第 4 章 マ メ 科 Stryphnodendron fissuratum 果 皮 の 化 学 成 分
S. fissuratum 果 皮 の EtOH 抽 出 エ キ ス を BuOH で 分 配 後 , Diaion HP-20 CC に 付 し ,
20% MeOH, 40% MeOH, 60% MeOH, 8 0% MeOH, MeOH, EtOH, EtOAc で 溶 出 し た . こ れ ら の う ち , 60% MeOH 溶 出 画 分 と 80% MeOH 溶 出 画 分 に つ い て 配 糖 体 成 分 に 着 目 し た 成 分 探 索 を 行 い , 10 種 の 新 規 triterpene 配 糖 体 (60–69) を 単 離 し た (Figure 4). 化 合 物 64, 67–69 は 5–7 個 の 糖 を 有 す る 新 規 oleanane 型 ト リ テ ル ペ ン 配 糖 体 で あ り , そ の 糖 鎖 構 造 を 以 下 の 手 順 に よ り 明 ら か に し た . ま ず , 1D-selective-TOCSY ス ペ ク ト ル に よ り , 各 ア ノ マ ー プ ロ ト ン を 照 射 し , 各 糖 の サ ブ ス ペ ク ト ル を 抽 出 後 , 1 H-1H COSY, HSQC, HSQC -TOCSY ス ペ ク ト ル の 解 析 に よ り , 各 糖 の す べ て の プ ロ ト ン の 化 学 シ フ ト と ス ピ ン 結 合 定 数 (J 値 ), 炭 素 シ グ ナ ル の 化 学 シ フ ト を 帰 属 し た . そ の 後 , HMBC ス ペ ク ト ル に よ り , 各 ア ノ マ ー プ ロ ト ン シ グ ナ ル か ら 結 合 先 の 炭 素 シ グ ナ ル へ の 遠 隔 相 関 を 観 測 し , 糖 の 結 合 関 係 を 明 ら か に し た . 化 合 物 63–69 の 末 端 -L-arabinosyl 基 は , 通 常 の 4C1型 配 座 で は な く 1C4 型 配 座 を と っ て い る こ と を , 1H- お よ び 1 3C-NMR ス ペ ク ト ル の 化 学 シ フ ト 値 , ア ノ マ ー の 1J C - H値 (166 Hz), HMBC ス ペ ク ト ル に お け る ア ノ マ ー プ ロ ト ン か ら C-3 位 炭 素 と C-5 位 炭 素 へ の 強 い 遠 隔 相 関 に よ り 確 認 し た (Figure 4). Figure 4. Structures of 60–69 第 5 章 腫 瘍 細 胞 に 対 す る 細 胞 毒 性 化 合 物 1–69 に つ い て , HL-60 細 胞 お よ び A549 細 胞 に 対 す る 腫 瘍 細 胞 毒 性 を MTT 法 に よ り 評 価 し た . そ の 結 果 , pregnane 配 糖 体 (5–7, 11, 12), cardenolide 配 糖 体 (16– 39), spirostan 配 糖 体 (40, 45, 51), furostan 配 糖 体 (55–57) は , HL-60 細 胞 と A549 細 胞 の 両 者 に 対 し て 腫 瘍 細 胞 毒 性 を 示 し た . Triterpene 配 糖 体 (60–69) は , い ず れ の 化 合 物 も 顕 著 な 腫 瘍 細 胞 毒 性 を 示 さ な か っ た (Table 1).
化 合 物 12 は , ア グ リ コ ン の 3 位 に 4 個 の deoxy 糖 か ら な る 糖 鎖 が 結 合 し た
A549: IC5 0 12.8 M), そ の 糖 鎖 の 末 端 に -D-glucopyranosyl 基 が 結 合 す る と (13), 腫
瘍 細 胞 毒 性 は 減 弱 し た . 化 合 物 16 は cardenolide 配 糖 体 で あ る が , 今 回 単 離 し た 化
合 物 の な か で 最 も 強 い 腫 瘍 細 胞 毒 性 を 示 し た (HL-60: IC5 0 0.0050 M, A549: IC5 0
0.0055 M). Cardenolide 配 糖 体 で は , ア グ リ コ ン の A/B 環 の 結 合 様 式 が trans 体 (H-5よ り も , cis 体 (H-5 の 方 が 強 い 腫 瘍 細 胞 毒 性 を 示 し た . ま た , 18 位 と 20 位 間 で エ ー テ ル 環 を 形 成 す る こ と , C 環 と D 環 が C-nor-D-homo 型 に な る こ と , 3 位 水 酸 基 の 糖 鎖 が 延 長 す る こ と で 腫 瘍 細 胞 毒 性 は い ず れ も 減 弱 す る こ と が 明 ら か と な っ た . 化 合 物 40 と 55, 45 と 56 は , そ れ ぞ れ 同 じ 糖 鎖 構 造 を 有 す る spirostan お よ び furostan 配 糖 体 で あ り , ほ ぼ 同 程 度 の 腫 瘍 細 胞 毒 性 を 示 し た . 単 離 さ れ た 化 合 物 の う ち , HL-60 細 胞 に 対 し て 比 較 的 強 い 細 胞 毒 性 を 示 し た pregnan e 配 糖 体 6, cardenolide 配 糖 体 16, spirostan 配 糖 体 40, furostan 配 糖 体 55 の ア ポ ト ー シ ス 誘 導 活 性 を 検 討 し た . 化 合 物 6, 16, 40, 55 で そ れ ぞ れ 処 理 し た HL-60 細 胞 に お い て , 核 ク ロ マ チ ン の 凝 集 , sub-G1 期 の 細 胞 数 の 上 昇 , caspase-3 の 活 性 化 が 認 め ら れ た こ と よ り , 6, 16, 40, 55 は HL-60 細 胞 に 対 し て い ず れ も ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る こ と が 示 さ れ た . こ れ ら の う ち , 40 で 処 理 し た HL-60 細 胞 に は , caspase-8 と caspase -9 の 有 意 な 活 性 化 と , ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位 の 消 失 が 認 め ら れ た こ と か ら , 40 は 細 胞 膜 表 面 に 存 在 す る death receptor を 介 し , ミ ト コ ン ド リ ア 経 路 に よ り ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た (Figure 5). 化 合 物 6, 16, 40, 55 は , い ず れ も 植 物 由 来 の 配 糖 体 で あ る が , ア ポ ト ー シ ス の 誘 導 経 路 が 異 な る こ と が 示 唆 さ れ た .
HL-60 A549 HL-60 A549 HL-60 A549
1 >20 >20 25 5.6 2.8 49 11.3 >20 2 >20 >20 26 0.58 0.38 50 4.9 6.0 3 >20 >20 27 1.9 1.1 51 4.2 5.9 4 >20 >20 28 1.0 0.76 52 13.3 >20 5 4.2 12.2 29 0.66 0.53 53 17.8 >20 6 4.6 15.7 30 0.82 0.73 54 9.2 >20 7 5.6 16.3 31 1.7 1.7 55 4.4 11.9 8 14.1 >20 32 11.6 12.0 56 3.7 7.0 9 8.4 >20 33 0.081 0.22 57 3.3 9.3 10 >20 >20 34 0.21 0.16 58 >20 >20 11 6.1 16.9 35 2.8 2.5 59 14.3 >20 12 3.8 12.8 36 1.9 1.6 60 >20 >20 13 >20 >20 37 14.7 11.0 61 >20 >20 14 >20 >20 38 0.40 0.27 62 >20 >20 15 >20 >20 39 3.8 2.3 63 >20 >20 16 0.0050 0.0055 40 2.5 7.3 64 >20 >20 17 0.031 0.036 41 >20 >20 65 >20 >20 18 0.019 0.026 42 >20 >20 66 >20 >20 19 0.050 0.069 43 >20 >20 67 >20 >20 20 0.48 0.23 44 >20 >20 68 >20 >20 21 0.065 0.035 45 3.1 8.4 69 >20 >20 22 0.57 0.57 46 >20 >20 23 1.8 1.4 47 >20 >20 Etoposide 0.73 14.3 24 0.47 0.20 48 5.0 >20 Cisplatin 1.7 5.1
Table 1. Cytotoxic activities of 1-69, etoposide, and cisplatin against HL-60 and A549 cells
化 合 物 6, 16, 40, 55 の , TIG-3 ヒ ト 肺 正 常 線 維 芽 細 胞 に 対 す る 細 胞 毒 性 を 評 価 し た と こ ろ , 6 が HL-60 細 胞 に 対 し て 腫 瘍 細 胞 選 択 的 な 細 胞 毒 性 を 示 し た . 一 方 , 16, 40, 55 は , 腫 瘍 細 胞 選 択 性 を 示 さ な か っ た . ま た , cardenolide 配 糖 体 16 の 腫 瘍 細 胞 毒 性 (HL-60: IC5 0 0.0050 M, A549: IC5 0 0.0055 M) と Na+/K+ ATPase 阻 害 活 性 (IC5 0 0.79
M) の 相 関 を 評 価 し た 結 果 , HL-60 お よ び A549 細 胞 に 対 す る 腫 瘍 細 胞 毒 性 と Na+/K+ ATPase 阻 害 活 性 と の 間 に 相 関 は 認 め ら れ な か っ た こ と か ら , 16 は Na+/K+ ATPase 阻 害 作 用 と は 別 の 機 構 で 腫 瘍 細 胞 を 傷 害 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た . 総 括 新 規 悪 性 腫 瘍 治 療 薬 シ ー ズ の 探 索 を 目 的 に , 4 種 の 植 物 に つ い て 配 糖 体 に 着 目 し た 成 分 研 究 を 行 い , 新 規 24 種 を 含 む 69 種 の 配 糖 体 を 単 離 し , 化 学 構 造 を 明 ら か に し た . 単 離 さ れ た 化 合 物 の 腫 瘍 細 胞 毒 性 と ア ポ ト ー シ ス 誘 導 活 性 , ヒ ト 正 常 肺 線 維 芽 細 胞 に 対 す る 細 胞 毒 性 , Na+/K+ ATPase の 阻 害 作 用 を 評 価 す る こ と に よ り , pregnan e 配 糖 体 6 と cardenolide 配 糖 体 16 は , 新 規 悪 性 腫 瘍 治 療 薬 シ ー ズ と し て 期 待 で き る 天 然 物 で あ る と 考 え ら れ た . 研 究 成 果 の 掲 載 誌
1) J. Nat. Med., 73, 93 -103 (2019); 2) Nat. Prod. Res. , Ja n 22, 1 -6 (2020), d o i : 10.1080/14786419.2020.1716352 ; 3) Phytochemistry , 101, 109-115 (2014); 4 ) Carbohydr.
論文審査の結果の要旨
本論文は,臨床における悪性腫瘍薬物療法の向上に資する新規治療薬シーズの探索を目的に,4 種の植物の配糖体成分に着目した成分探索を行い,新規 24 種を含む 69 種の配糖体の化学構造を 明らかにするとともに,単離された化合物の HL-60 ヒト白血病細胞および A549 ヒト肺がん細胞 に対する腫瘍細胞毒性について論述したものである。
第 1 章では,ガガイモ科 Marsdenia cundurango 樹皮の化学成分について述べた。M. cundurango 樹皮の MeOH 抽出エキスを Diaion HP-20 カラムクロマトグラフィー (CC) に付し, 30% MeOH, 50% MeOH, MeOH, EtOH, EtOAc で溶出した。 これらのうち, TLC において配糖体成分が確認され た MeOH 溶出画分の成分探索を行い, 新規 7 種 (1–7) を含む 15 種の pregnane 配糖体 (1–15) を単 離・同定した。
第 2 章では,キョウチクトウ科 Thevetia neriifolia 種子の化学成分について述べた。T. neriifolia 種子の MeOH 抽出エキスを Diaion HP-20 CC に付し, 20% MeOH, EtOH, EtOAc で溶出した。 これ らのうち, EtOH 溶出画分について配糖体成分に着目した成分探索を行い, 新規 1 種 (23) を含む
24 種の cardenolide 配糖体 (16–39) を単離・同定した。
第 3 章では,リュウゼツラン科 Yucca glauca 地下部の化学成分について述べた。Y. glauca 地下 部の MeOH 抽出エキスを Diaion HP-20 CC に付し, 30% MeOH, 50% MeOH, MeOH, EtOH, EtOAc で 溶出した。 これらのうち, MeOH 溶出画分について配糖体成分に着目した成分探索を行い, 新規 5 種 (40–44) を含む 12 種の spirostan 配糖体 (40–51) と, 新規 1 種 (52) を含む 8 種の furostan 配糖 体 (52–59) を単離・同定した。
第 4 章では,マメ科 Stryphnodendron fissuratum 果皮の化学成分について述べた。S. fissuratum 果 皮の EtOH 抽出エキスを BuOH で分配後, Diaion HP-20 CC に付し, 20% MeOH, 40% MeOH, 60%
MeOH, 80% MeOH, MeOH, EtOH, EtOAc で溶出した。 これらのうち, 60% MeOH 溶出画分と 80%
MeOH 溶出画分について配糖体成分に着目した成分探索を行い, 10 種の新規 triterpene 配糖体 (60–69) を単離・同定した。
第 5 章では,単離された配糖体の腫瘍細胞毒性について述べた。まず,上記 4 種の植物より単 離された計 69 種の配糖体について,HL-60 細胞と A549 細胞に対する腫瘍細胞毒性を MTT 法に より評価し,5 種の pregnane 配糖体,24 種の cardenolide 配糖体,4 種の spirostan 配糖体,3 種の
furostan 配糖体が HL-60 細胞と A549 細胞の両者に対して細胞毒性を示すことを明らかにした。こ