第一次大戦以降の日本製紙連合会と製紙業経営の展開
‑三大製紙企業の合同による「大」王子製紙の成立まで‑
目次
一はじめに
二第一次大戦期のカルテル活動
日市場条件jI価格協定
三第一次大戦後のカルテル活動
日 日 H
市場条件
生産制限協定
在庫共同管理 四宮俊之
四おわりに‑カルテル効果の検討
一はじめに
周知のように'日本の工業化は'幕末の「欧米からの衝撃」以後'明治維新による社会経済制度の変革に合せた官
民における近代産業の移植育成を伴なう企業者活動の積極化とともに進行した。本稿が研究の対象とする近代製紙
2
(洋紙)業は'一八七四(明治七)年からの五年間に早‑も民営五工場'官営二工場の創業によって移植産業のひと
つとしての発達を開始した。国内製紙高(洋紙生産高。以下同じ)は'一八七九年以降'一八八八年と一八九八年を
除いて毎年輸入高を凌駕した。日本製紙連合会加盟企業の製紙高総計から求めた洋紙の国内自給率(輸出分を除いた
衡量)は'一八八〇年代が平均六四%'一八九〇年代が同六九%'一九〇〇年代が同六八%'一九一〇年代が同八六
%'一九二〇年代が同八五%'そして一九三三(昭和八)年までの一九三〇年代初めの四年間が同九一%であった。
輸出も'一九〇〇年頃から増勢を示して'一九一五年以降の七年間と一九二八年以降の三年間には輸入高を上回った
ほどである。
このような国内製紙業の発達を主導していったのは、一八七五(明治八)年創業の抄紙会社を前身とする王子製紙
や一八九〇(同二三)年創業の富士製紙などの大企業であった。なかでも'王子製紙は'一九〇九年に大規模な北海
道苫小牧工場を完成させて'業界における経営的優位を固めた。さらに一九三三年になると'多年競合関係にあった
富士製紙と樺太工業(1九一五年創業)との合併まで実現して'国内製紙高の八〇%以上をおさえる巨大独占企業とLJ
て業界の覇権を握ってい‑のである.そこで'日本における近代製紙業経営の歴史的発展とその変遷を明らかにする
には'何よりも先ず王子製紙など主導的大企業の経営史分析が第一義的条件となる。だが'その場合'しばしば指摘
されるように'複数の個別企業経営史の「総合」的分析が必要になって‑る。本稿の目的は'第一次大戦以降の日本
製紙連合会による活動を分析の対象としながら'それを一種の映写面にして日本における近代製紙業経営史の「総合J(1)的分析を試みようとすることにある。(2)さて'日本製紙連合会は'先に拙稿「製紙所連合会の設立と価格協定‑日本におけるカルテル的活動の嘱矢‑」お(3)よび「第一次大戟期前の日本製紙連合会‑近代日本製紙業における同業者団体の組織と機能の変遷‑」で論じたよう
に'一八八〇(明治一三)年日本の近代鉱工業分野で最初の同業者団体である製紙所連合会として設立されて、最初
に印刷用紅の出荷価格協定を試みたが失敗し'やがて単なる親睦団体に性格を変えざるを得なかった。
然るに'製紙業者が1八九九年以降洋紙輸入税問題で新聞業者と政治的に対立するようになると'王子製紙など有
力企業のリーダーシップで同業者団体としての組織と機能の強化がはかられていった。こうして後に本格的なカルテ
ル活動の展開を可能にする組織的'機能的基礎が第一次大戦前に一応整えられていたのである。
但し'後者の拙稿の末尾で述べたように'日本製紙連合会が新たに第一次大戦期から開始してい‑カルテル活動の(4)分析は'「今後の課題」として残っていた。従って'本稿では'斯かる第一次大戦以後のカルテル活動をフォローし
ながら'そうした活動の決定や実行が'一体何時'どのような状況のもとで'何故に'いかなる方法で行なわれて、
またどのような効果をあげたのかなどについて立入って分析、考察し'そこに投影されている当時の製鉄業経営が抱
えた問題と'それについての対応'さらに加盟製紙企業間の利害関係を通じて見られる個別企業経営の「個性」'お
よび王子製紙による業界制覇の過程などを併せて明らかにしたいと考えている。
(1)本稿は'一九八一年一〇月の経営史学会第一七回大会自由論題報告「戦前期日本の製紙業経営と同業者団体‑日本製紙連合
会の活動を通して」(於滋賀大学)の内容を基礎にしながら'そこでの討議を参考にまとめたものである。同報告については
滋賀大学経済学部大会準備委員全編﹃経営史学会第一七回大会報告集﹄一五1二〇頁を参照されたい。
(2)拙稿「製紙所連合会の設立と価格協定」(弘前大学﹃文経論叢﹄第一五巻第二・三合併号'一九八〇年三月'四一‑七一
貫)0
(3)拙稿「第1次大戦期前の日本製紙連合会」(経営史学会編﹃経営史学﹄第1六巻第三号'1九八1年10月'1‑二四頁)。
(4)同右書'二一貫。
4
ニ第一次大戦期のカルテル活動
H市場条件
日本の近代製紙業は'明治期から大企業を中心とする民間主導型の自立的発達を示していた。なかでも'王子製紙
と富士製紙は、一八九〇(明治二三)年木材パルプの国産化をともに成功させて'それを原料に市場需要の大きな新
聞用紙や印刷用紙などの大量生産を実現するようにな.ったO前述の王子製紙によを苫小牧工場の竣工は'新聞用紙分
野での国内完全自給化の達成を一応示す出来事であった。また'この二社は'新聞用紙と印刷用紙という当時の最多
需要品に重点をおいた製品市場戦略による生産の拡大に合せて'原料の自給をめざしたパルプ材資源の自社支配を進
めると共に'洋紙の流通面においても特約洋紙商の系列化や共同販売会社の設立などによる自社の統制強化に努めて
いた.全国製紙高にほぼ近似と見徹しうる日本製紙連合会加盟企業合計の製紙高に占める両社の比率は'1八九〇年
に王子製紙三九%と富士製紙一六%'一九〇〇年同二
〇 %
と二三%'一九一〇年同二〇%と三三%'第一次大戦の勃(1)発した一九一四年同三三%と三〇%(義‑一)に漸次高まって'明治末期から二社合計で五〇%を越えていた。こうした王子製紙と富士製紙の生産拡大と垂直的統合化の展開が'業界における両社の競争上の優位を強固にして㌔
いった。例えば'この二社によるパルプ材資源の専有的掌握化は'輸入パルプに原料を依存した他社との競争に当初
十分なメリットを生まなかったが'第一次大戦期になると輸入パルプ価格の急騰に直面した他社に対する競争上の優
位をもたらしただけでな‑'さらに他社の原料自給化による生産拡大を困難にして、国内製紙業の二大企業中心体制
の確立をもたらす有力な参入障壁となった。後述の樺太工業を拠点にした大川平三郎系企業を除いた他の企業は'第
一次大戦期に国内第三位規模の三菱製紙所(一九一七年三菱製紙となる)が日本製紙連合会加盟企業製紙高に占める
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