九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Research on the Mitochondrial Zone Responsible for Innate Immunity
錦織, 充広
福岡大学理学部化学科
小柴, 琢己
福岡大学理学部化学科
https://doi.org/10.15017/4068637
出版情報:福岡醫學雜誌. 111 (2), pp.77-85, 2020-06-25. Fukuoka Medical Association バージョン:
権利関係:
ポトーシス)の制御1)やカルシウムイオンの調節2),さらには細胞内における情報伝達の機能3)など多岐 にわたることが分かっており,細胞の恒常性維持に深く関わっている.ミトコンドリアは,内膜と外膜を 併せ持つ特徴的な二重膜構造を有し,植物の葉緑体を除けば,独自のゲノム(ミトコンドリア DNA:
mtDNA)を核以外で保持する唯一のオルガネラでもある.ミトコンドリアの内膜(mitochondrial inner membrane:MIM)は,ひだ状に折り畳まれたクリステと呼ばれる特有の膜構造を持っており,酸化的リ ン酸化による ATP の産生に重要な場を提供している4).
2005 年,米国・Chen らのグループは,哺乳動物においてミトコンドリアが RNA ウイルスに対する自然 免疫に関与するという衝撃的な事実を明らにした5).この予想外の発見に続き,ミトコンドリアが環境性 刺激因子に対しても炎症反応を引き起こす新奇な発見がなされた6).本来,ミトコンドリアはα-プロテオ バクテリアなどの細菌が,真核細胞の祖先に共生進化したものと考えられており7),この説から鑑みると 現代のミトコンドリアが宿主細胞の生体防御に働きかけるという事実は,たいへん興味深い現象と言える.
本稿では,ミトコンドリアを介した自然免疫応答について概説し,特に自然免疫の制御におけるミトコン ドリア応答ゾーンの役割に焦点を当てた.
1.自然免疫とは
ⅰ)パターン認識受容体と病原体関連分子パターン
自然免疫は,感染微生物に対する生体防御反応の一つであり,無脊椎動物から脊椎動物に至るまで,広 く生物全般に存在する普遍的なシステムである8).生物は,様々な生活環境に適応してそれぞれの生体防 御機能を獲得しているが,自然免疫の根底には生物種間に共通した次のような特徴がある.初めに,生物 のゲノムにコードされたパターン認識受容体(pattern recognition receptors:PRRs)が,病原体関連分子 パターン(pathogen-associated molecular patterns:PAMPs)と呼ばれる,微生物に広く保存された分子 構造を認識する.例えば,グラム陰性菌におけるリポ多糖体や真菌のb-1,3-グルカン,さらにはウイルス 由来の核酸などは代表的な PAMPs である.一方,Toll 様受容体や NOD 様受容体(nucleotide-binding oligomerization domain (NOD)-like receptors:NLRs)などは代表的な PRRs であり,哺乳動物を中心に広 く研究されている9)10).宿主側の感染微生物との遭遇による PAMPs 刺激により,細胞内でのシグナル伝 達反応が開始され,その結果,nuclear factor-kB(NF-kB)やインターフェロン調節因子(interferon (IFN) regulatory factors:IRFs)などの転写因子が活性化される.一連のシグナル伝達反応の惹起に伴い,多く の炎症性サイトカインや I 型インターフェロン(IFN-a/b)の迅速な発現が促され,最終的には自然免疫 の活性化がその後の獲得免疫系との連携に繋がっていく11).
Corresponding author : Takumi KOSHIBA
Department of Chemistry, Faculty of Science, Fukuoka University, 8-19-1 Nanakuma, Jonan-ku, Fukuoka 814-0180, Japan Tel : + 81-92-871-6631(ext. 6242)Fax : + 81-92-865-6030
E-mail : [email protected]
ⅱ)損傷関連分子パターンとミトコンドリア
自然免疫は,宿主 PRRs により感染微生物由来の PAMPs を認識することで,「自己」と「非自己(異 物)」との識別を行っている.一方で,損傷関連分子パターン(damage-associated molecular patterns:
DAMPs)と呼ばれる内在性の生体因子が,感染微生物が存在しない無菌の状態においても上記同様,炎症 反応を誘引することが分かってきた.その仕組みとして,環境刺激因子や細胞・組織の損傷に伴い放出さ れる生体関連の因子が一部の PRRs により重複認識され,結果として自然免疫を惹起するためである.興 味深い点は,特定の状況下においてミトコンドリアが,病原体や環境刺激物などの細胞性ストレス要因に 応答して「alarmin」(ここではミトコンドリア由来 DAMPs(mDAMPs)と呼ぶ)を放出し,生体の恒常 性維持に関わることが明らかになったことである(図 1).ミトコンドリアに由来する mDAMPs として mtDNA12),活性酸素種(mitochondrial reactive oxygen species:mROS)6),カルジオリピン13),N-ホルミ ル化ペプチド14)などが一般に知られており,いずれもミトコンドリア独自の成分である.これら mDAMPs が実際にどのようなメカニズムで細胞質中に漏れ出すのか,今のところその詳細は不明である が,これらオルガネラの構成成分が生体の自然免疫システムにより「非自己」として識別されることは,
ミトコンドリアの起源における細胞内共生説とも矛盾しない.
2.ミトコンドリアを介した炎症反応
これまでの研究から,ミトコンドリアは自然免疫におけるハブとしての役割が示されている15)~17).特 に,ミトコンドリアと自然免疫を繋ぐ重要なシグナル伝達経路では,NLR family pyrin domain-containing 3(NLPR3)インフラマソームと retinoic acid-inducible gene I(RIG-I)経路の二つが知られている18)19).
ⅰ)NLRP3インフラマソーム
NLRP3 は 22 種類(ヒト)のタンパク質から成る NLR ファミリーの一種で,分子内に複数の機能ドメイ ンを有する20).NLRP3 は,細胞内タンパク質の足場として機能し,炎症反応を調節する巨大なタンパク 質複合体を形成する.これまでの研究から,NLR ファミリーの中でも NLRP3 と NLR family member X1
(NLRX1)の二つがミトコンドリアに限局することが調べられている21)22).近年,ヒトにおいてNLRP3 の変異が自己炎症性疾患と関係することが報告されている23).
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図 1 ミトコンドリアの多面的な側面.ミトコンドリアは多彩な機能を有するオルガネラで あり,その機能はエネルギー産生をはじめとして,シグナル伝達や代謝系の調節まで広 範囲に及ぶ.さらに,ミトコンドリアは自然免疫におけるハブとしても機能している.
一 方 で,ミ ト コ ン ド リ ア が ス ト レ ス な ど に よ り 何 ら か の 障 害 を 受 け た 際 に は,
mDAMPs を細胞質中に放出することがある.
いる.一つ目は,ミトコンドリアの外膜(mitochondrial outer membrane:MOM)において,関連するシ グナル伝達分子群の活性化や,それらタンパク質の成熟化を行うための足場(プラットフォーム)を提供 することであり,もう一つの役割はミトコンドリア内から mDAMPs を放出することである.一つ目に関 しては,Germain らのグループより,細胞質中に局在する活性化前の NLRP3 が,ミトコンドリア膜タン パク質・mitochondrial antiviral signaling(MAVS,後述)を介して MOM 上に局在し,その後の NLRP3 イ ンフラマソームの活性化へと繋がる仮説が示されている22).また別の研究でも,ミトコンドリア融合因子
(mitofusin-2:MFN2)がウイルス感染に応答して NLRP3 を MOM 上で活性化させることが報告されてい る24).両者らによる発見は,MAVS-MFN2 間に相互作用が存在することで説明可能となり,さらに MAVS と MFN2 は,これまでにミトコンドリア・小胞体コンタクトサイト(mitochondria-associated endoplasmic reticulum membranes:MAM)にも存在していることが報告されている25)26).一方で,
NLRP3 のミトコンドリア局在に関しては,上記以外の分子種の介入も完全に否定できないため,更なるメ カニズムの解析が求められることは言うまでもない.
次に,mDAMPs が NLRP3 インフラマソーム活性化の引き金になる点について簡潔に言及したい.代 表的なミトコンドリア阻害剤(ロテノンやアンチマイシンなど)により主要な電子伝達系酵素群の機能を 抑制すると,mROS の産生が上昇し,その結果 NLRP3 が活性化する.一方で,MOM の電位依存性アニオ ンチャネル(voltage-dependent anion channel:VDAC)の機能を抑制した場合,mROS は減少し,それに 伴って NLRP3 インフラマソーム活性も低下する6).NLRP3 インフラマソームの活性化における mROS の役割は,動物実験によるin vivo系でも立証されている27).また,細胞質中への mtDNA 放出により,
NLRP3 インフラマソームは活性化される28).この研究では,NLRP3 が細胞質に放出された酸化型 mtDNA と結合し,この相互作用が NLRP3 インフラマソームの活性化において重要であることを示して いる28).一般に,多くの mtDNA 変異は,mROS の産生増加やミトコンドリア病の発症と深く関係するこ とが調べられている29).従って,これらの mtDNA 変異がどのように NLRP3 インフラマソームの活性化 にも影響し,例えば自己炎症性疾患に関与するか,今後の更なる研究が望まれる.
3.ミトコンドリアとRIG-I経路
NLRP3 を介したインフラマソーム炎症とは別に,ミトコンドリアには RIG-I 経路を介したシグナル伝 達により抗 RNA ウイルス自然免疫を調節する働きがある15)16).このシグナル伝達反応において,RIG-I または melanoma differentiation-associated gene 5(MDA-5)の下流に位置するミトコンドリア・アダプ ター MAVS(前述)が,重要な役割を果たす(図 2).
ⅰ)ミトコンドリア・アダプターMAVS
MAVS は別名,IPS-1,Cardif,または VISA とも呼ばれ,多くの組織や細胞種で恒常的に発現している
分子量約 56kDa のミトコンドリア外膜局在型・膜タンパク質である5).MAVS オルソログは魚種に至る まで,脊椎動物間で幅広く保存されている30).MAVS は,N 末端側に RIG-I との結合に必要なカスパー ゼ結合ドメイン(caspase recruitment domain:CARD)を有し,C 末端側に存在する膜貫通領域を介して MOM にアンカーされている(図 2).しかしながら,前述のように,MAVS の細胞内局在に関しては,そ の一部が MAM やペルオキシソームにも分布していることが報告されている26)31).
ⅱ)MAVSシグナルにおけるミトコンドリア応答ゾーン(MOM)
宿主への RNA ウイルス感染に際して,細胞内に侵入したウイルス由来のゲノム(PAMPs)は,感染初 期に RIG-I/MDA-5(PRRs)により認識される.その後,このタンパク質-核酸複合体はミトコンドリア 膜上へと移行し,MAVS と CARD ドメインを介して結合すると,MAVS 自身の劇的な構造変化に伴う多 量化(MAVS の活性化)が進行する32)(図 3).一度,MAVS が活性化状態に転移すると,その後は下流 に位置する様々なエフェクター因子(tumor necrosis factor receptor-associated factors:TRAFs,TRAF family member-associated NF-kB activator-binding kinase 1:TBK-1,inhibitor of NF-kB kinase subunit e:IKKe,tumor necrosis factor receptor type 1-associated DEATH domain protein:TRADD,NF-kB essential modulator:NEMO など)が MOM 上にリクルートされ,MAVS を起点とした巨大なシグナル伝 達複合体(MAVS シグナルソーム)が形成されることで自然免疫の調節が行われる15).興味深いことに,
C 型肝炎ウイルスや A 型肝炎ウイルスなどは,ウイルス由来のプロテアーゼを巧みに利用して MAVS を 限定的に消化し,ミトコンドリア表面上からこのアダプターを切り離すことで RIG-I 経路からの免疫監視 を逃れている33)34).
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図 2 宿主細胞の RNA ウイルス感染時における RIG-I 経路の活性化.ウイルス感染時において,
細胞質中に放出されたウイルス由来の RNA は,その受容体である RIG-I(または MDA-5)
によって認識され,このタンパク質・核酸複合体が MOM 上のアダプター MAVS と結合す る.その後,MAVS は様々なシグナル伝達因子群を活性化する.RIG-I 経路は,最終的に 炎症性サイトカインや I 型インターフェロンの産生をもたらす.
ⅲ)MAVSシグナルにおけるミトコンドリア応答ゾーン(MIM)
従来,MAVS シグナルソームの活性化には,MOM 上での関連因子群による分子間相互作用や翻訳後修 飾(ユビキチン化やリン酸化など)が主な免疫反応と捉えられていた.ところが,最近の研究では,ミト コンドリアのサブコンパートメント,すなわち MIM や膜間スペース(intermembrane space:IMS)の役 割もシグナル伝達を微調整する上で不可欠であることも明らかになってきた.例えば,ミトコンドリアの 膜電位(bΨm)は,ミトコンドリアの活性を知る上で重要な指標であると共に,MAVS を介した抗ウイル ス自然免疫の制御にも必須である35)(図 3).この現象は,A 型インフルエンザウイルスの非構造タンパク 質 PB1-F2 が IMS 内に輸送され,bΨmを低下させることと連動して RIG-I 経路を顕著に抑制する結果か らも確認された36).また,MAVS シグナルの亢進には,ミトコンドリアによる呼吸活性も必要であること が示されている37).
実際のところ,その大部分が細胞質側に面している MAVS とミトコンドリア内部との連絡はどのよう に行われているのだろうか? この疑問に関して,Prohibitin(PHB)複合体が一つの作業仮説を提供して いる.PHB は,MIM に局在する分子量約 3 万の膜タンパク質であり,高度に類似した二つのアイソ フォーム(PHB1 及び PHB2)が存在する38).この両アイソフォームは,ホモ及びヘテロ会合体による環 状化した PHB 複合体を形成し,ミトコンドリア内で足場として機能し,多くのタンパク質と相互作用す る(図 3).筆者らのプロテオーム解析でも,PHB 複合体(インタラクトーム)中に MOM と MIM 間を橋 渡しするミトコンドリア膜間スペースブリッジング複合体が含まれていることが明らかとなり,特筆すべ きは,このインタラクトーム内に MAVS も含まれていた39).以上の実験結果は,MAVS シグナルにおけ る MIM の寄与を議論する上で重要な視点であると思われる.
ⅳ)MAVSシグナルと機能性小核酸(miRNAs)
近年,機能性小核酸(micro RNAs:miRNAs)が細胞の増殖や分化をはじめとした様々な生理現象に関 与することが明らかになった40).miRNAs は,その長さが 20〜25 塩基程の 1 本鎖 RNA であり,真核生物 においてその標的となる遺伝子の転写後に,発現調節に作用する.ヒトでは,これまでに約 1,000 種類以 上の miRNAs が同定されており,その多くは疾患,特にがんの発症との高い相関性が指摘されてきた41).
グナルソームの活性化には,bΨm,呼吸 活性(OxPhos,mtDNA など)及びミトコ ンドリア代謝系(SLC25A12 など)の役割 も不可欠である.PHB 複合体(青色ハイ ライト)は,MOM と MIM 間の橋渡しに 関与する.
最近の研究では,抗ウイルス自然免疫にも関与する複数の miRNAs が同定されている.Fontoura らのグ ループは,宿主が水疱性口内炎ウイルス(RNA ウイルスの一種)の感染に応答して細胞内に miR-576-3p を誘導し,その標的遺伝子であるMAVSやTRAF3の発現抑制を行うことで,フィードバック機構に基 づいた過度な炎症反応を抑えることを報告した42).一方で,Ingle らは,miR-485 がRIG-Iを標的として その mRNA を分解することで RIG-I 経路が阻害されることを見出した43).さらに彼らは,miR-485 が A 型インフルエンザウイルスの PB1 遺伝子(RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ)にも作用し,感染細胞内での ウイルス増殖を防ぐという新奇な機能を明らかにしている.筆者らの最新知見では,miR-302b 及びmiR- 372 がアスパラギン酸-グルタミン酸輸送体(solute carrier family 25 member 12:SLC25A12)を介してミ トコンドリアの代謝系を調節し,その結果,ウイルス感染による INF-bと炎症性サイトカインの産生を最 終的に終息させる仕組みを解明した44)(図 3).興味深いことに,miR-302b や miR-372 の合成 RNA を人 為的に細胞に導入することで,ミトコンドリアの酸素消費量は減少し,糖代謝の亢進に伴う乳酸産生の増 加も確認された44).過去の報告で,乳酸は MAVS を介した自然免疫の負の調節因子として作用すること が示されていることからも45),miR-302b(及び miR-372)の作用機序は乳酸量の調節を介した影響の可能 性も考えられる.
おわりに
ミトコンドリアは,真核生物における代謝系の中枢として機能し,一方では,生体防御におけるプラッ トホームとしてもその役割を果たしている.本稿では,主に宿主の RNA ウイルスに対する自然免疫にお いてミトコンドリアの直接的または間接的な関わりについて概説した.今後の課題として,ミトコンドリ アが代謝系と生体防御をどのように両立して調節するのか,そのメカニズムの解明が求められる.
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(Received for publication June 5, 2020)
(特に重要な文献については,番号をゴシック体で表記している.)
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NLR family pyrin domain-containing 3 (NLRP3) inflammasomes. In both signaling pathways, a mitochondrial outer membrane adaptor protein, mitochondrial antiviral signaling (MAVS), acts as a key role in the signal transduction. In this review, we take a view of our current insights regarding the fundamental phenomena of mitochondrion-related innate immunity, and review the specific roles of the mitochondrial zone responsible for the immune responses.
Key words:mitochondria, innate immunity, NLRP3 inflammasomes, RIG-I pathway