System Biology of Kidney and Metabolism for Beginners
腎臓と代謝のシステム生物学入門
University of California, San Diego Rintaro Saito ♢
斎藤輪太郎2013
年9
月3
日腎臓について学ぶ意義
恐い病気といったら、何を思い浮かべるだろうか。例えば「癌」を浮かべる人は非常に多いだろう。
確かに癌は命に関わる未だ恐ろしい病気である。厚生労働省の資料によれば、継続的な医療を受けて いる患者は
152
万人(
平成20
年)
いるようである。しかし、腎臓病の患者数はそれより一桁多い1300
万人である。実は腎臓病も恐い病気である。腎臓で一度機能が失われた部位は多くの場合、二度と回復しないし、
病気が進行すれば、定期的に血液を機械で濾過する人工透析が必要になる。さらに病状が悪化すれば 命すら脅かされる。従って健康な生活を維持するということだけを考えても、腎臓について勉強する ことには大いに意義がある。
筆者は腎臓の専門家ではなく、ましてや医者でもないが、縁あって腎臓の研究に参加することになっ た。そして腎臓について勉強する必要に迫られたのだが、いきなり医学書を読むのはやはりハードル が高い。一方最近はインターネット上に様々な情報が溢れており、腎臓に関しても易しく解説してい るサイトが沢山ある。
本冊子
*1
の内容は基本的にインターネットから収集した情報がベースとなっている。これにさらに専 門書や入門書、論文に掲載されていた関連事項を加筆して編集した。当然情報の質としては玉石混交に なるので、本冊子に書かれていることが事実である保証はどこにもない。従ってもし本格的に腎臓に ついて学ぶ目的で本冊子を利用するならば、専門書と照らし合わせて随時事実確認をお願いしたい*2
。 本冊子で述べられている事項の中で必ずしも自明でないものには極力その出典を付けるようにした。本冊子は筆者の
2
つの視点からの興味に基づいて編集した。1
つは、先ほども述べた健康という視点 である。腎臓に対する一般的な興味は腎臓病にならないようにするためには、どうすればいいか、であ ろう。これを理解するために、まずは腎臓の仕組みから始め、その後に腎臓病のメカニズムについて解 説した。もう
1
つは研究対象としての腎臓である。腎臓病のリスクを早期に診断するためにはどうすればい いか、腎臓病になってしまったら、どのような治療をすればいいか、盛んに研究が行われている。特に 筆者は腎臓病患者の組織・細胞中において分子レベルでどのようなことが起きているか、ということに 興味を持って研究を進めている。そこで本冊子では分子レベルの話も詳しく採り上げた。腎臓病には複数の原因・症状・メカニズムがあり、
1
つの病気として考えるのはむしろ無理があるほ どである。その中でも特に糖尿病の合併症としての腎臓病は近年特に問題になっているため、糖尿病 に関しても詳しい解説を行った。本冊子を理解する上での前提知識はそれほど多くない。医学に精通していなくても恐らく理解でき るであろうが、分子レベルの話を理解する上で、分子生物学の知識は欠かせない。また化学の知識、特 にまたエネルギー代謝についての知識があれば、読みやすいだろう。これらについては筆者が監修し た「最新分子生物学即席入門」や「膜の構造と機能」などの冊子がインターネット上で無料で入手でき るので、そちらを参照して頂きたい。
近年分子生物学の実験技術が進歩し、細胞中の状態に関する膨大な情報が得られるようになってき た。もちろん腎臓の細胞も例外ではない。こうなると、腎臓やその疾患について研究するためには、医 学の知識だけでは必ずしも十分ではない。他に化学や分子生物学に関する知識はもちろん、大量のデー
*1 「入門者用腎臓ノート」、「腎臓科学入門」というタイトルを経て現在のタイトルに改められた。
*2本冊子に誤りなどを見つけられた方は
[email protected]
まで連絡をお願いします。その他ご意見、ご批判、執筆参 加なども歓迎いたします。なお、健康相談や病気の相談については、当方ではなく、医師の方へお願いします。3
タを処理・解析し、細胞内の現象をモデル化するためには数学や統計学、情報科学、そして時には物理の知識が必要である。
分子生物学では個々の遺伝子やタンパク質などの部品に注目するだけでなく、複数の部品が組み合 わさってシステムとしてどのように振舞っているかを包括的なデータをもとに解析するシステム生物 学という分野が近年発展を続けているが、その波は腎臓の世界にもいまや押し寄せつつある。まさに 腎臓の研究はこれから面白くなろうとしている。そのような最新の話題や関連する知識をなるべく沢 山盛り込もうとしたものの、全てを網羅することはとてもできず、また、本冊子の内容が散漫になって しまった感も否めない。
しかしながら、本冊子が腎臓の本質を理解したり、健康に気をつける上で役立つだけでなく、そんな 腎臓の面白さまでも伝えることができれば、幸いである。
5
目次
第
1
章 腎臓の構造と機能7
1.1
腎臓入門. . . . 7
1.2
腎臓の構造. . . . 11
1.3
ネフロンの構造と機能. . . . 12
1.4
腎小体の構造と機能. . . . 15
第
2
章 腎臓の医学17 2.1
腎臓病. . . . 17
2.2
腎臓の濾過機能の指標. . . . 18
2.3
糖尿病. . . . 21
2.4
糖尿病性腎症. . . . 22
2.5
治療薬. . . . 24
第
3
章 腎臓病・糖尿病の分子メカニズム25 3.1
エネルギー代謝. . . . 25
3.2
脂質の役割. . . . 41
3.3
酸素の有毒性. . . . 45
3.4
分岐アミノ酸. . . . 45
3.5
ナトリウム依存性グルコース輸送担体(SGLT) . . . . 46
3.6
腫瘍壊死因子(TNF) . . . . 47
3.7
トランスフォーミング増殖因子(TGF) . . . . 47
3.8
転写因子. . . . 49
3.9
オートファジー. . . . 50
第
4
章 腎臓を研究するための方法論59 4.1
モデル動物. . . . 59
4.2
コホート研究. . . . 59
4.3
分析化学. . . . 60
4.4
ネットワーク生物学. . . . 64
4.5
代謝流束均衡解析. . . . 66
4.6
統計解析. . . . 75
4.7
データベース. . . . 79
4.8
サンプル・データ管理. . . . 80
6
目次参考文献
83
索引
88
7
第 1 章
腎臓の構造と機能
1.1 腎臓入門
1.1.1
概論我々ヒトは食物をエネルギー源として摂取しているが、食物分子から代謝によってエネルギーを獲 得する過程で様々な老廃物が生じ、その中には人体にとって有害な物質もある。腎臓は血液中に含ま れるこのような老廃物を濾過し、尿として膀胱に送り出す役割を持つ
[1](
図1.1)
。腎臓は腰の少し上の背中側に背骨を挟んで左右に
1
個ずつある、大人のこぶし程の大きさで、そら 豆によく似た形の臓器である。1
つの腎臓の中には、ネフロンと呼ばれる組織が80
〜120
万個程ぎっ しりと詰まっている。このネフロンの糸球体と呼ばれるところが、全身をめぐる血液を濾過するいわ ゆるフィルターの役割をしている。糸球体は毛糸が丸まったような形をした毛細血管の塊で、腎動脈 を通って送られてきた血液中の不要なものがここで濾し取られ、濾過された血液は腎静脈を経て心臓 へ戻っていく。血液から取り除かれた余分な水分や老廃物などは、尿のもと
(
原尿)
として尿細管へ送られ、尿細管 では原尿中に含まれる身体に必要な物質が再吸収され、残った尿は尿管を通って膀胱に溜まる。1
日に作られる原尿は150ℓ
にもなるが、その99%
は再吸収され、残り1%
の約1.5ℓ
が尿として体 外に排出される。尿細管では再吸収される水分とナトリウム
(Na)
、カリウム(K)
、リン(P)
などの電解質の量を調節 し、体内の水分や電解質が一定に保たれるようにバランスをとったり(
図1.2)
、水素イオンの量を調整 して体内のpH
を一定に保つ働きをしている。腎臓はこのように血液中の老廃物をこし出し尿をつくるだけでなく、身体の恒常性を保つ役割をし ており、各種のホルモン分泌にも関係している
(
表1.1)
。腎臓に流れてくる血液を一定に保つため、腎 臓は血管を収縮させて血圧を上昇させる働きのある物質(
レニンrenin
、アンジオテンシンangiotensin)
や、血管を拡張させて血圧を下げる働きをする物質(
プロスタグランジン、腎カリクレインなど)
を分 泌している。腎臓はまた、赤血球の生成を促すホルモン(
エリスロポエチンerythropoietin)
を分泌した機能 具体例
老廃物の排泄 尿素窒素、クレアチニン、尿酸
水・電解質調節、酸・塩基平衡の維持 水、
Na
、Cl
、K
、Ca
、P
、Mg
、水素イオン内分泌器官としての機能 エリスロポエチン産生、レニン産生、ビタミン
D 3
活性化 表1.1
腎臓の主な機能[27]
8
第1
章 腎臓の構造と機能Heart ᚰ⮚
⭈⮚
Kidney
⭈⮚
Ureter ᒀ⟶
Urinary bladder
⭤⬔
⭤⬔
⭈ື⬦
⭈㟼⬦
⿕⭷
⓶㉁
㧊㉁
ᒀ⟶
ࢿࣇࣟࣥ
ᒀ⣽⟶
⣒⌫య
⪁ᗫ≀ࡀ ΰࡌࡗࡓ
⾑ᾮ
ℐ㐣ࡉࢀࡓ
⾑ᾮ
せ࡞ࡶࡢࡣᒀࡋ࡚
ฟࡉࢀࡿ
⾑ᾮࢆℐ㐣ࡋ࡚ࠊ Ỉศࡸ⪁ᗫ≀➼ࢆ
ℐࡋฟࡍ
ᚲせ࡞ࡶࡢࡣ
྾ࡉࢀࠊ
⾑ᾮ㐠ࡤࢀࡿ
図
1.1
腎臓の位置と働き[2]
り、カルシウムの吸収を助けるビタミン
D
の活性化にも関わり、骨の強化や血液中のカルシウム濃度 の調整にも関係しているのである。腎臓病には、腎臓そのものに何らかの原因があって起こる一次性腎臓病と、糖尿病や高血圧、痛風な ど他の病気が原因で起きる二次性腎臓病がある。二次性腎臓病の糖尿病性腎症では、血糖値の高い血 液によって糸球体に硬化が生じて、糸球体のフィルター機能が低下する。腎硬化症では高血圧によっ て腎臓内の細い動脈に動脈硬化が生じ、腎臓を流れる血液の量が減って腎機能の障害を起こす。
腎臓病には急性と慢性の経過をたどるものがあり、一般に急性の場合は治療によって比較的治りや すいが、慢性の場合
(
慢性腎臓病、CKD)
はゆっくりと進行し最終的に腎臓の機能が著しく損なわれる 場合が少なくない。腎臓病になると、糸球体の働きが悪くなり、フィルターからタンパク質など身体に必要なものまで漏 れ出したり、逆にフィルターが詰まって余分な水分が排出できずにむくんだり尿として排泄されるは ずの尿素などの廃棄物がたまって身体に害を及ぼすようになる
(
尿毒症)
。1.1
腎臓入門9
体内
Na
量の増加Increasing amount of Na in a body
細胞外液
Na
濃度の上昇Increasing concentration of extracellular Na
渇中枢刺激
Stimulation of thirst center
飲水量増加
Increasing amount of water uptake
抗利尿ホルモンの分泌増加
Increasing excretion of anti-diuretic hormone
尿濃縮
(
尿量減少)
Urine condensation (Decreased urine excretion)
細胞外液量の増加
Increasing extracellular fluid
細胞外液Na濃度の正常化
Restoration of extracellular Na concentration
血圧の上昇
Increasing blood pressure
心房性Na利尿ペプチド増加
Increasing amount of atrial natriuretic peptide
レニン
-
アンジオテンシン系の抑制Down-regulation of Renin-Angiotensin System
尿中Na排泄の増加
Increasing amount of excreted Na in urine
摂取水分の増加
Increasing amount of water uptake
血清
Na
濃度の減少Decreasing concentration of Na in serum
(a) (b)
抗利尿ホルモン分泌抑制
Down-regulation of of anti- diuretic hormone excretion
水利尿
water diuresis
渇感の抑制
Down-regulation of dipsia
飲水量の減少
Decreasing amount of water uptake
体内水分量正常化
(
血清Na
濃度正常化)
Restoration of amount of water in a body (Restoration of serum Na concentration)
図
1.2
水・Na
量の調節[27]
腎臓病が進行して腎不全の状態になると、尿毒症で身体の様々な器官・臓器で、様々な症状を引き起 こし、また昏睡に陥り命に関わることもある。そのため腎臓病が進むと、末期には血液の濾過を機械に 肩代わりしてもらう血液透析や自分の腹膜を使って行う腹膜透析といった人工透析治療が必要になっ てくる。従って腎臓の仕組みを理解し、健康な腎臓を維持することは我々の生活にとって大変重要で ある。
1.1.2
老廃物の排泄食物は栄養学的には炭水化物
(
糖質)
、脂質、タンパク質の三大栄養素(
これらが細胞の中でどのよう にエネルギー(ATP)
に変換されるかについては、節3.1
で述べる)
と、ビタミン、ミネラルの2
種類の 微量栄養素、それに水などからなる。炭水化物と脂質の分子構造の多くの部分を水素、炭素、酸素が占 めるため、その代謝産物も大部分が水と二酸化炭素になる。一方タンパク質も水素と炭素、酸素が基本 的構造となっているが、タンパク質を構成しているアミノ酸は全て窒素(N)
を含んでいるため、代謝 産物として窒素を含む以下の物質が生成される(
図1.3)[27]
。尿素窒素
(Urea nitrogen)
ヒトがタンパク質などから取り入れた窒素のうち、過剰分が尿の中に尿素の形で排泄される
(
成人は尿素を1
日30g
ほど排泄する)
。生体内では、尿素回路によりアンモ ニアから尿素が産生される。クレアチニン
(Creatinine)
主に筋肉で作られて血中に入り、糸球体で濾過された後、殆ど再吸収され ず速やかに尿中に排出される。10
第1
章 腎臓の構造と機能食物
(Food)
三大栄養素
(Nutrients that provide energy)
•
炭水化物(糖質)
(Carbohydrate, saccharide)
•
脂質(Lipid)
•
タンパク質(Protein)
ビタミン
(Vitamin)
電解質
(Na
、K
、Cl
など。Electrolyte)
水
(Water)
水、二酸化炭素
(Water, carbon dioxide)
窒素を含む尿素窒素、
クレアチニン、尿酸
(Urea nitrogen, creatinine, uric acid)
水
(Water)
老廃物
(Metabolic wastes)
摂取した量に応じて排出。但し脂 溶性ビタミンは尿に排出されない。
(Excreted depending on amount of ingestion. Fat-soluble vitamin not excreted to urine.)
図
1.3
尿に排出される老廃物および元の食物の成分尿酸
(Uric acid)
ヒトや他の霊長類では、尿酸はプリン代謝の酸化最終生成物である。Na
、K
、Cl
などのミネラルは電解質*1
であるが、これらはその結合の形を変えることはあっても、そ れぞれ摂取した量に応じて排泄される。まとめると、食べ物として摂取した栄養素の代謝産物・老廃物として体外に排出されるべき物質は主 に二酸化炭素、水、尿素窒素を中心とする窒素代謝産物と電解質である。
1.1.3
慢性腎臓病を防ぐには慢性腎臓病
(CKD, Chronic Kidney Disease)
とは慢性に経過するすべての腎臓病を指す[4]
。わが国 には約1,330
万人(20
歳以上の成人8
人に1
人)
の患者がいると推定されている[5]
。生活習慣病(
高血 圧、糖尿病など)
との関連も深く、誰もが罹患する可能性のある病気である。腎臓は体を正常な状態に 保つ重要な役割を担っているため、CKD
によって腎臓の機能が低下し続けることで、様々なリスクが 発生する。CKD
は初期には自覚症状がほとんどない。それがCKD
の怖いところで、患者を増加させている原 因でもある。そして腎臓は一度あるレベルまで悪くなってしまうと、自然に治ることはない。放って おくと、どんどん進行して取り返しのつかないことになる恐れがある。CKD
が進行すると、夜間尿、むくみ、貧血、倦怠感、息切れなどの症状が現れてくる。これらの症 状が自覚される時は、既にCKD
がかなり進行している場合が多いと言われている。つまり、体調の変 化に気をつけているだけでは早期発見は難しいと言えよう。そこで定期的に健康診断を受け、尿や血 圧の検査をすることが早期発見につながる。特に尿タンパク陽性になったときは要注意である。一般的に腎臓病の予防には
•
適度な水分補給による脱水の予防*1溶媒中に溶解した際に、陽イオンと陰イオンに電離する物質
1.2
腎臓の構造11
•
体温を適切に保つ(
寒さや暑さをなるべく避ける)
•
適度な運動で血液循環を良くする•
排泄を我慢しない•
細菌感染に気をつける(
体を清潔に保つ)
が考えられる
[3]
。さらに気をつけるべきは生活習慣病である。メタボリックシンドロームは、過食と運動不足によって内臓に脂肪が蓄積した結果、高血糖や高血 圧、脂質異常などの症状があらわれている状態である。実は、メタボリックシンドロームは
CKD
の危 険因子である。メタボリックシンドロームの症状である「高血圧」、「高血糖」、「脂質異常」は腎臓の働 きを低下させる要因である。内臓脂肪型肥満 内臓脂肪型肥満になると、糖尿病性腎症の指標であるアルブミン尿
(
タンパク尿の一 種)
が出やすくなることが知られている。肥満の人は糖尿病や高血圧を合併していることも多 く、体重を適正に管理することが重要である。高血糖 実は、高血糖の状態が続く糖尿病は、透析療法にいたる原因となる病気の第
1
位である。糖尿 病になると腎臓の尿をつくる働きが低下し、体内に余分な老廃物や水分が溜まる。これがさら に腎臓に負担をかけることになる。高血圧 高血圧になると腎臓の働きが悪くなり腎臓の働きが悪くなると高血圧が悪化するという悪循 環の関係にある。そのため血圧のコントロールはきわめて重要である。
脂肪異常 脂質異常症は、
CKD
の発症と進行の危険因子である。また、動脈硬化など心血管病の危険 因子でもあるので、コレステロール値を目標値まで下げることが重要である。このように、生活習慣病と
CKD
は深く関連しており、生活習慣病を防ぐことが、CKD
を防ぐこと につながる。ここまで腎臓およびその疾患の全体像についておおまかに説明してきたが、以降はいよいよ腎臓の 詳細を説明していこう。
1.2 腎臓の構造
図
1.4
に示すように、腎臓はそら豆状の形をしており、重さは平均130 g
程度で、直径約10 cm
、幅 約5 cm
、厚さ約3 cm
である。腎臓を垂直に切った断面を観察すると、外側は皮質(cortex)(
図1.5)
、内側は髄質
(medulla)
と呼ばれる2
つの領域がある。この皮質と髄質は腎臓の機能的単位であるネフロン、血管、リンパ管神経などから成り立っている。髄質は十数個の円錐状の塊に分かれており、その形 から腎錐体と呼ばれ、腎洞に突き出すその先端部は腎乳頭
(renal papilla)
と呼ばれる。腎臓への血流は、安静時では心拍出量
*2
の約1/4
に相当する。腹部大動脈から枝分かれした腎動脈(renal artery)
は尿管の隣から腎臓に入り、葉間動脈(interlobar artery)
、弓状動脈(arcuate artery)
、小葉 間動脈(interlobular artery)
、輸入細動脈(afferent arteriole)
に次々と枝分かれする。この輸入細動脈は 糸球体毛細血管(glomerular capillary)
となり、糸球体毛細血管は合流して輸出細動脈(efferent arteriole)
になった後、もう一度毛細血管(peritubular capillary
、尿細管周囲)
になる。この毛細血管がネフロンに 血液を供給している。静脈はほとんど動脈と平行するように配置されており、小葉間静脈(interlobular
*2心臓は周期的に収縮を繰り返すことによって血液を動脈へ拍出するポンプ機能をもつが、このポンプ機能は
1
分間に拍出 する血液量で表され、それを心拍出量あるいは毎分心拍出量と呼ぶ。したがって心拍出量(mℓ/分)
は、1回の収縮で拍出 する量(1
回拍出量)と1
分間に収縮する回数(心拍数)
の積によって決定される。12
第1
章 腎臓の構造と機能Renal pyramid
⭈㗽య
Interlobular artery
ᑠⴥ㛫ື⬦Renal artery
⭈ື⬦
Renal vein
⭈㟼⬦
Renal hilum
⭈㛛
Renal pelvis
⭈│
Ureter
ᒀ⟶Minor calyx
ᑠ⭈ᮼRenal capsule
⭈⿕⭷
Inferior renal capsule
ୗ➃
Superior renal capsule
ୖ➃
Interlobular vein
ᑠⴥ㛫㟼⬦
Nephron
ࢿࣇࣟࣥ
Minor calyx
⭈Ὕ
Major calyx
⭈ᮼ
Renal papilla
⭈ங㢌
Renal column
⭈ᰕ
Cortex
⓶㉁
Medulla
㧊㉁Arcuate artery
ᘪ≧ື⬦Arcuate vein
ᘪ≧㟼⬦Interlobar artery
ⴥ㛫ື⬦Interlobar vein
ⴥ㛫㟼⬦図
1.4
腎臓の構造と各部位の名称[1]
vein)
、弓状静脈(arcuate vein)
、葉間静脈(interlobar vein)
、さらに腎静脈(renal vein)
となって下大静 脈に連絡する。1.3 ネフロンの構造と機能
ネフロン
(nephron
、図1.6)
とは、腎臓の基本的な機能単位であり、腎臓の皮質部分に位置する腎小体とそれに続く
1
本の尿細管を指す[1]
。ヒトの場合は左右の各腎臓にそれぞれ80
〜120
万個ほど存在 し、各ネフロンで濾過、再吸収、分泌、濃縮が行われ、原尿が作られていく。腎小体
(
図1.7)
には一本の輸入細動脈が入り、一本の輸出細動脈が出てゆく。腎小体に入った輸入細 動脈は分枝して毛細血管となり塊を作る。この塊を糸球体と言う。糸球体を形成する毛細血管は再び 一本に集まり、輸出細動脈となって腎小体から出てゆく。糸球体はボーマン嚢で包まれており、ボーマ ン嚢からは一本の尿細管が出ている。糸球体を構成する毛細血管では血球成分や大質量のタンパク質は漏れ出ずに、血漿成分や体内の毒 素だけが濾過されてボーマン嚢へ流れ出る。漏れ出なかった血液成分は再び一本の輸出細動脈となっ て腎小体から出てゆく。一方糸球体で濾過された毒素などは、ボーマン嚢で受け止められ、尿細管へと
1.3
ネフロンの構造と機能13 (a)
(b)
Glomerulus
糸球体Proximal
tubule
近位尿細管Distal tubule
遠位尿細管図
1.5
ラットの腎臓の皮質核のみ染色してある。
(a)
腎表面付近の皮質部分、(b)
皮質の少し深い部分。遠位尿細管がやや多く含まれ ている。流れてゆく。尿細管壁では糸球体から流れ出た水分や栄養を再吸収したり、濾過し切れなかった毒素 をさらに排泄したりして、原尿を作ってゆく。
ボーマン嚢より出ている尿細管は腎皮質から腎髄質の方へ下行するが、この部分を近位尿細管と呼 ぶ。腎髄質へ辿り着くと尿細管は狭くなり、
U
ターンして再び皮質の方へ上行する。このU
ターンす る部分をヘンレのループと呼ぶ。そのまま上行して皮質へ辿り着くと尿細管は輸出細動脈と接する(
交 わったり吻合する訳ではない)
。この接する部分を傍糸球体装置(juxtaglomerular apparatus, JGA)
と言 う。傍糸球体装置を経た尿細管は遠位尿細管と呼ばれる。遠位尿細管は再び髄質の方向へ下行しなが ら互いに集合し、集合管となって腎髄質を貫通して腎盂に開口する。JGA
にはおおむね次の細胞が含まれる。•
遠位尿細管の緻密斑(macula densa)
の細胞•
輸入細動脈の平滑筋細胞•
輸入細動脈の顆粒細胞•
輸出細動脈の平滑筋細胞14
第1
章 腎臓の構造と機能Efferent arteriole
㍺ฟ⣽ື⬦
Proximal convoluted tubule
㏆ᒀ⣽⟶
Cortical collecting duct 㞟ྜ⟶
Distal convoluted tubule 㐲ᒀ⣽⟶
Loop of Henle
࣊ࣥࣞࡢ࣮ࣝࣉ
Duct of Bellini
࣮࣋ࣜࢽ⟶
Peritubular capillaries ഐᒀ⣽⟶ẟ⣽⾑⟶
Arcuate vein ᘪ≧㟼⬦
Arcuate artery ᘪ≧ື⬦
Afferent arteriole
㍺ධ⣽ື⬦
Juxtaglomerular apparatus ഐ⣒⌫య⨨
Glomerulus
⣒⌫య
Bowman's capsule
࣮࣐࣎ࣥᄞ
Medulla 㧊㉁
Cortex
⓶㉁
図
1.6
ネフロンの構造[1]
•
両細動脈と緻密斑に挟まれた糸球体外メサンギウム細胞これに糸球体内のメサンギウム細胞を加えることもある。ボーマン嚢の上皮や内皮細胞はこの近傍 にあるが、
JGA
には通常含めない。これらの細胞群が協力して共通の機能を営むシステムを作ってい る。JGA
の機能には2
種類ある。JGA
の一つ目の機能は、尿細管糸球体フィードバックである。遠位 尿細管を通る尿の流量によって、糸球体濾過量を調節する。尿流量が増えると、濾過量を減らすという 制御が行われ過剰な濾過を防ぐ。この仕組みの入力は尿中の塩素イオン濃度、出力は輸入・輸出細動脈 の血管抵抗ということはわかっている。遠位尿細管は尿を希釈する働きを持ち、尿の流量が大きいと 希釈が十分に行われずに尿中の塩素イオン濃度が高くなる。それに対して、糸球体毛細血管の圧を下 げるという制御が行われて糸球体濾過量が減る。JGA
の二つ目の機能は、レニンの分泌である。レニンは顆粒細胞から放出される蛋白分解酵素で、血漿中にあるアンジオテンシノーゲンというタンパク質を特異的に分解してアンジオテンシン
I (AI)
というアミノ酸10
個のペプチドを生成する。AI
は、血管内皮細胞(
特に肺)
が持つ転換酵素によって 速やかに分解されて、アミノ酸8
個から成るアンジオテンシンII(AII)
を生成する。AII
は、極めて生 理活性の高い物質で、全身の血管平滑筋を収縮させて急速に血圧を上昇させる強力な働きがある。ま た、副腎皮質に作用して、電解質コルチコイドであるアルドステロンを放出させる。アルドステロンは 集合管上皮細胞に作用して、ナトリウムの再吸収とカリウムの分泌を増強し、体液量を増す。これによ り循環血液量が増えて中長期的に血圧が上昇する。JGA
からのレニンの放出は、短期的および中長期的に血圧を上昇させる。顆粒細胞は、平滑筋細胞 と同等の位置にあり血圧によって伸展させられる。この血圧=伸展力が低下すると、レニンを放出す る。しかも、顆粒細胞は糸球体の入口という位置にある。このように傍糸球体装は、糸球体の濾過に不 可欠な糸球体の血圧が低下したときに、レニンの分泌によって全身の血圧を上昇させ、まわりまわって 糸球体の血圧を確保する機能がある。1.4
腎小体の構造と機能15
Renal corpuscle
⭈ᑠయ
Proximal tubule
㏆ᒀ⣽⟶
Distal convoluted tubule
㐲ᒀ⣽⟶
Juxtaglomerular apparatus ഐ⣒⌫య⨨
Macula densa
⦓ᐦᩬ
Granular cells 㢛⢏⣽⬊
Mesangium
- Extraglomerular cell
⣒⌫యእ࣓ࢧࣥࢠ࣒࢘⣽⬊
Mesangium - Intraglomerular cell
⣒⌫యෆ࣓ࢧࣥࢠ࣒࢘⣽⬊
Efferent arteriole
㍺ฟ⣽ື⬦
Afferent arteriole
㍺ධ⣽ື⬦
Myocytes
➽⣽⬊
Bowman's space
࣮࣐࣎ࣥ⭍
Basement membrane ᇶᗏ⭷
Glomerulus capillary
⣒⌫యẟ⣽⾑⟶
Podocytes
ୖ⓶⣽⬊㊊⣽⬊
Bowman's capsule
࣮࣐࣎ࣥᄞ
図
1.7
腎小体の構造[1]
左上のネフロン全体図の水色で囲った部分を拡大して示した。本図では左側が血管極
(vascular pole)
、右側 が尿管極(urinary pole)
である。1.4 腎小体の構造と機能
腎小体
(renal corpuscle
、図1.7)
とは、尿生成の出発点となる袋状の組織であり、両生類以降の動物に見られる。
右腎臓、左腎臓とも内部にそれぞれ約
100
万個の腎小体が点在する。腎小体内部は空洞を形成し、そこに露出する毛細血管の塊「糸球体」から濾過された液体が尿の原料、原尿となる。原尿を生成する 機能を備えた器官は腎小体
(
糸球体)
に限られる。原尿は腎小体につらなる1
本の管、尿細管を経て吸 収・分泌過程を経たのち、尿となり最終的には体外に排出される。ネフロンとは一対の腎小体と尿細 管のことである。腎小体は肥大することにより、原尿を濾し出す濾過性能が高まることはあるものの、いっさい再生しない。
全ての腎小体は皮質に分布する。腎小体へ流入する輸入細動脈、流出する輸出細動脈は一箇所に集 まるが、この部位を血管極と呼ぶ。血管極は尿細管の接続口、すなわち尿管極とちょうど逆の位置にあ る。血管極の両血管の間には、腎小体に入る直前の輸入細動脈側に傍糸球体細胞
(juxtaglomerular cell
、 顆粒細胞)
が、輸出細動脈側に、メサンギウム細胞(
糸球体外血管間膜)
が密に集合している。両細動脈 と傍糸球体細胞、メサンギウム細胞に接して遠位直尿細管の太い上行脚の終部が接し、腎小体側の太い 上行脚の内壁には緻密斑と呼ばれる密な細胞が集まる。なお、遠位直尿細管の太い上行脚とは、腎小体16
第1
章 腎臓の構造と機能 から発した尿細管がヘアピン状の経路を経て戻って来た部位を呼ぶ(
尿細管の末端に近い部分)
。輸入細動脈から腎小体内部に入り込んだ血管は直後に糸球体と呼ばれる毛細血管に分岐しもつれ合 う
(
毛細血管ワナ)
。毛細血管は腎小体内部に直接露出しているのではなく、足細胞と呼ばれるシダの 葉状の細胞に表面を覆われ、また足細胞間は1
次突起と呼ばれる噛み合わせによって結ばれている。足細胞は球状に糸球体を取り囲んでおり、これを糸球体嚢、もしくは発見者の名にちなんでボーマン 嚢と呼ぶ。原尿は足細胞同士の噛み合わせの隙間から濾過されてくる。毛細血管ワナを形成する個々 の毛細血管同士は、メサンギウム細胞
(
糸球体内血管間膜)
によって分離されている。外葉と糸球体ワ ナの間には原尿で満たされた空隙、すなわちボーマン腔(
糸球体腔)
が広がり、そのまま、尿細管につ ながっている。糸球体濾過を行うために、糸球体の内部には約
50 mmHg
という高い圧力が封じ込められている。こ の圧力を封じ込めるための実質的な障壁は、糸球体全体を外から包む基底膜と足細胞であり、血圧によ る外向きの膨張力を受ける。メサンギウム細胞はこれに抗して基底膜を内向きに牽引し、糸球体の複 雑な形態を維持している。17
第 2 章
腎臓の医学
2.1 腎臓病
腎臓病
(kidney disease)
または腎不全(renal failure)
は、その名の通り、腎臓の働きが悪くなる(
腎障害、
nephropathy)
病気である。腎臓は体の中の毒素や老廃物の除去、水分の調節といった、生命を維持し、身体の環境を一定に保つ大切な役割を担っており、腎臓に問題が起こると身体中にさまざまな影響 が出る。一度失われた腎臓の機能は、多くの場合は回復することがなく、慢性の腎不全となる
*1
。さら に腎臓の機能が低下し腎不全が進行すると、体の中に老廃物がたまり、尿毒症の症状が現れる。腎臓病にかかった腎臓に見られる変化の
1
つとして腎臓の線維化(fibrosis)
がある。一般に臓器組織 が何らかの障害を受けたときに、コラーゲンなどの線維性物質を産生する細胞が障害のある組織に集 合して、欠損部分を埋める「応急的処置」を線維化と呼ぶ[28]
。腎臓の線維化は細胞外マトリックス(extracellular matrix, ECM) *2
が過剰に蓄積する過程であり、糸球体硬化(glomerulosclerosis)
と尿細管 間質性線維化*3 (tubulointerstitial fibrosis)
によって特徴付けられる[40]
。腎臓病によって溜まった老廃物を取り除くためには、腹膜透析
(PD)
や血液透析(HD)
といった透析 療法、あるいは移植といった何らかの腎代替療法が必要になる。一時は「不治の病」とも呼ばれた腎臓 病だが、近年の治療技術の進歩によって、早期に治療を開始すれば、腎臓の機能の低下を防いだり、進 行を遅らせたりできるようになってきた。また、透析をめぐる技術や環境も進化を続けており、透析に 入る前の生活とそれほど大きな隔たりなく透析生活を過ごすことのできる治療の選択肢も増えてきて いる[8]
。腎臓病には主に以下の種類がある。
糸球体腎炎
(Glomerulonephritis)
何らかの原因で腎臓内にある糸球体に障害が起こる病気である。全 身性の疾患が、背後に隠れているケースもある。健康診断でタンパク尿を指摘されて発覚した り、他の病気の治療中に発見されるケースもある。ネフローゼ症候群(
後述)
の状態では、浮腫(
むくみ)
を訴え、病院にかかるケースもある。腎生検を行い実際に腎臓の組織をみることで診断 を確定する。治療は原因となる疾患により異なるが、主としてステロイド(
副腎皮質ホルモン)
の内服加療などを行う。代表的な慢性糸球体腎炎には次のような病気がある。•
微小変化群• IgA
腎症*1急性の腎臓機能障害の場合など、例外はある。
*2 細胞の外に存在する超分子構造体。細胞外基質ともいう。ヒトを含めた脊椎動物に顕著な成分は、コラーゲン、プロテオ グリカン、フィブロネクチンやラミニンといった糖タンパク質
(一部は細胞接着分子)
である。*3 尿細管と尿細管の間の組織を間質という。
18
第2
章 腎臓の医学•
膜性増殖性糸球体腎炎•
膜性腎症•
巣状糸球体硬化症糖尿病性腎症
(Diabetic nephropathy)
糖尿病に由来する腎臓病である。現在、透析患者の導入原因の 第一位(
約40
%)
を占めている。糖尿病による高血糖状態は、糸球体にも障害を起こし、その結 果、最初は微量アルブミンタンパク尿とよばれる尿が見られるようになる。後述のネフローゼ 症候群の状態になることもある。さらに腎障害が進行すると腎臓の機能は徐々に失われ、血液 を濾過する働きが悪くなる。腎硬化症
(Nephrosclerosis)
高血圧や動脈硬化症に由来する腎臓病である。高血圧や動脈硬化症になると、腎臓の細い血管が硬くなり、血液が流れにくくなる。血行障害は、糸球体などの腎臓の組 織に障害をおこし、腎不全へ進行する。
多発性のう胞腎
(Polycystic kidney disease)
腎臓にのう胞(
液体が溜まった袋)
がたくさんできて腎臓 を圧迫し、腎臓の機能が低下する遺伝性の病気である。脳動脈瘤など、特有の合併症を伴って いることがある。この他、「急性腎炎」「腎盂腎炎(
じんうじんえん)
」などがあるが、どの病気で あっても、治療せずに放置すれば、最後には腎不全にいたる可能性がある。ネフローゼ症候群
(Nephrotic syndrome)
腎臓病の一種類としてよく聞かれる「ネフローゼ症候群」と は、何らかの原因で腎臓に障害が起こることにより、タンパク質が尿中へ排出されてしまう状態 を指す。単一の病気をさす言葉ではない。ネフローゼ症候群の患者には、下記のような症状が 発生する。•
尿中へのタンパク量の排泄が増加する(
タンパク尿)
•
血液中のタンパクの量が低下する(
低タンパク血症)
•
血液中のコレステロールが増加する(
高コレステロール血症:脂質異常症)
•
全身のむくみ(
浮腫)
ネフローゼ症候群の原因として、慢性糸球体腎炎など腎臓そのものの障害によるもの
(
原発性)
、 糖尿病などの代謝異常や膠原病・感染症・毒物などが原因となるもの(
続発性)
などが考えら れる。2.2 腎臓の濾過機能の指標
2.2.1
血中クレアチニンの測定クレアチニンは筋肉運動のエネルギー源となるアミノ酸の一種クレアチンが代謝されてできた物質 であり、尿酸や尿素窒素と同様に老廃物の一つである
[9]
。クレアチニンは腎臓の糸球体で濾過される が、尿素窒素とは違って尿細管ではほとんど再吸収されずに、尿中に排泄される(
表2.1)
。筋肉運動の 代謝産物であるため、筋肉量に比例した量となる。クレアチニンは、腎臓が正常にはたらいていれば、尿として体外に排泄される。つまり血液中のク レアチニンが多いということは、腎機能が障害されているということになる。この検査は簡単な上に、
腎臓以外の影響は受けにくいので、腎機能、糸球体機能のスクリーニング
(
ふるい分け)
や経過観察の ための検査として行なわれている。しかし、クレアチニンは腎機能が
50%
以下になるまでは上昇しないため、軽度の腎機能障害の判定 には適当とはいえない。そこで診断にあたっては後に説明する腎糸球体機能の変化をさらに正確に測 定するクレアチニン・クリアランスの測定を行う。2.2
腎臓の濾過機能の指標19
物質
血漿濃度
mM/ℓ (mg/dℓ)
排泄量
mM/
日(g/
日)
再吸収率
(%)
クリアランス
(mℓ/
分)
Na + 140 175(4.0) 99.2 0.87
Cl − 105 175(6.0) 99.0 1.16
HCO − 3 25 5(0.3) 99.9 0.14
K + 4 75(2.9) 87.7 13.00
Ca 2+ 2.5(10) 7.5(0.3) 95.3 2.08
PO 4 1(3) 20(0.7) 82.6 13.90
グルコース
5(90) 0(0) 100.0 0.00
尿素
4(24) 330(20) 48.4 57.30
クレアチニン
0.9(1) 144(1.6) 0.0 110.00
尿酸
0.2(3) 4.8(0.8) 85.0 16.70
水
93% 1.5ℓ/
日99.0
表
2.1
血漿中の主な物質の濾過、吸収および排泄[27]
血中クレアチニンを検査するには、血液を採取し、酵素を利用した試薬を加え、比色計で色の変化を 調べる。基準値の範囲は以下の通りである。
•
男性 …0.5
〜1.1 mg/dℓ
•
女性 …0.4
〜0.8 mg/dℓ
クレアチニン値は筋肉量に比例するので、一般に女性より男性のほうが
10
〜20%
高値になる。年齢 による変動はほとんどない。高齢者では年齢とともに腎糸球体濾過率が低下するが、筋肉量も減少す るため、ほぼ一定になる。血液中のクレアチニンの高い数値は、腎機能が低下していることを示唆する。日本人間ドック学会の 判定基準では、男性が
1.2
〜1.3 mg/dℓ
、女性が0.9
〜1.0 mg/dℓ
は、場合により経過観察が必要とされて いる。一般に中程度の腎不全では1.5 mg/dℓ
を超え、重症では2.4 mg/dℓ
以上になる。そして、クレア チニンの値が5 mg/dℓ
を超えると回復は難しくなり、10 mg/dℓ
が人工透析を始める一つの目安となる。2.2.2 GFR
とクリアランス腎臓の主要機能の
1
つは糸球体で血液を濾過することであるから、濾過の効率を示す指標があれば、腎臓がしっかりと機能しているかを知る目安になる。ここではまず、
GFR
とクリアランスという2
つ の重要な指標を説明しよう。GFR
は糸球体濾過値(Glomerular filtration rate)
の略であり、濾過の役目を果たす糸球体が1
分間に どれくらいの血液を濾過し、尿をつくれるかを表す。一方、クリアランス(clearance)
とは、対象となる 血液中の 特定の 溶質が毎分どの程度除去されているかを示す値である。血漿の溶質濃度をP(mg/dℓ)
、 尿中の溶質濃度をU (mg/dℓ)
とし、1
分間の尿量をV (mℓ/min)
とすると、クリアランスC(mℓ/min)
は、C = U × V
P (2.1)
20
第2
章 腎臓の医学ステージ
(
病期)
状態eGFR (mℓ/min /1.73m 2 )
診療計画
0 CKD
には至っていないが、リスクが増大した状態
≥ 90
CKD
スクリーニングの実施(ア ルブミン尿など)、CKD
危険因子 を軽減させる治療。1
腎障害は存在するが、GFR
は正常または増加
≥ 90
上記に加えて、
CKD
進展を遅延 させる治療、併発疾患の治療、心 血管疾患のリスクを軽減する治療2
腎障害が存在し、GFR
軽度低下60
〜89
上記に加えて、慢性腎臓病の進行度の評価
3
腎障害が存在し、GFR
中等度低 下30
〜59
上記に加えて、
CKD
合併症を把 握し、治療する(
高血圧、貧血、続 発性上皮小体機能亢進症など) 4
腎障害が存在し、GFR
高度低下15
〜29
上記に加えて、透析又は移植の準備
5
腎不全・透析期<15
もし尿毒症の症状があれば、透析 または移植の導入表
2.2 CKD
のステージと診療計画[6]
CKD
発症のリスクファクターとして、高齢(最も大きな要因だが個人差が大きい)、CKD
の家族歴、過 去の検診における尿異常(蛋白尿が大事)や腎機能異常および腎形態異常、脂質代謝異常、高尿酸血症、NSAIDs
などの常用薬、急性腎不全の既往、高血圧、耐糖能異常や糖尿病、肥満およびメタボリックシンドローム、膠原病、尿路感染症、尿路結石などがある。
CKD
ハイリスク群では、CKD
発症前から高血圧、糖尿病などの治療や生活習慣の改善を行い、
CKD
発症予防に努めることが重要である。で表わされる。
GFR
はイヌリンのように濾過が自由で、かつ尿細管で再吸収も分泌も受けない物質の クリアランス値で表される。GFR
の測定にはイヌリンの他に、マンニトール、クレアチニンなどが用 いられる。但し、これを正確に測定するためには24
時間畜尿をしなければならず、検査手技も煩雑に なるため、沢山の患者を一度に検査するのが困難である。そこで、実際には以下の式を用いた
GFR
の推定値(estimated Glomerular Filtration Rate)
が診断に使 われることが多い。男性の場合、eGFR(mℓ/min/1.73m 2 ) = 194 ×
血清クレアチニン−1.094 ×
年齢−0.287 (2.2)
と定義されるが*4
、女性の場合は、式2.2 × 0.739
と調整される。eGFR
に応じたCKD
のステージを表2.2
に示す。2.3
糖尿病21
図
2.1
家庭での血糖値の測定2.3 糖尿病
我々が食物を摂取し、これを消化すると、グルコースが作られ、これが体を動かすエネルギー源とな る。すなわちグルコースが血液の流れに乗って体の細胞に運ばれて、筋肉や臓器で使われる。血糖値 は血液中にそのグルコースがどのくらいあるかを示す。現在は家庭でも簡易に血糖値を測定できる機 器が開発されている
(
図2.1)
。インスリン
(insulin)
は、体内で唯一血糖を下げるホルモンで、食後に血糖が上がらないように、調 節する働きがある。さらに、血液中のグルコースを体内の細胞に送り込んで、活動エネルギーに変えた り、脂肪やグリコーゲンに変えて、エネルギーとして蓄えておくようにする働きもある。インスリンは、
すいぞう
膵臓
(pancreas)
に存在するランゲルハンス島(
膵島)
のβ
細胞から分泌されるが、こ のインスリンというホルモンが足りなくなったりすると、グルコースがエネルギーを必要としている 細胞の中に運ばれなくなって、血液のなかに溢れてしまう。これが糖尿病である[10]
。つまり、インス リンが不足したり(
インスリンの分泌量)
うまく作用しない(
インスリン抵抗性)
と、グルコースが細胞 に取り込まれなくなって、血液中のグルコースが使えなくなってしまう。そして血糖値が上昇してし まうのである。さらに筋肉や内臓にエネルギーが運ばれないので、全身のエネルギーが不足することになる。
高血糖症
(hyperglycemia)
は血中のグルコース濃度が過剰である状態で、通常血糖値が10mmol/L
(180mg/dℓ)
以上からとされる。125mg/dℓ
以上の状態が慢性的に続くと臓器障害を生じうる[1]
。 糖尿病には以下の種類がある。1
型糖尿病(Diabetes mellitus type 1, type 1 diabetes)
膵臓のβ細胞というインスリンを作る細胞が 破壊され、からだの中のインスリンの量が絶対的に足りなくなって起こる。子供のうちに始ま ることが多く、以前は小児糖尿病とか、インスリン依存型糖尿病と呼ばれていた。*4 実 際 に 臨 床 を 行 っ て い る べ サ ニ ー・カ ー ル 先 生 に よ る と 、UCSDで は 、MDRD式 を 使 っ て い る 模 様 。そ れ は
eGFR(mg/dℓ) = 175 ×
血清クレアチニン−1.154×
年齢−0.203と定義される。女性の場合はこれに0.742、黒人の場合は
これに1.212
が掛けられる。22
第2
章 腎臓の医学2
型糖尿病(Diabetes mellitus type 2, type 2 diabetes)
インスリンの出る量が少なくなって起こるも のと、肝臓や筋肉などの細胞がインスリン作用をあまり感じなくなる(
インスリンの働きが悪 い)
ために、グルコースがうまく取り入れられなくなって起こるものがある。食事や運動などの 生活習慣が関係している場合が多い。わが国の糖尿病の95%
以上はこのタイプ。遺伝子の異常やほかの病気が原因となるもの 遺伝子の異常や肝臓や膵臓の病気、感染症、免疫の異 常などのほかの病気が原因となって、糖尿病が引き起こされるもの。薬剤が原因となる場合も ある。
妊娠糖尿病 妊娠をきっかけとして糖尿病の症状
(
血糖値が高くなる)
が発症することをいう。出産す れば解消するが、高血糖が続けば2
型糖尿病と診断されることもある。もともとの糖尿病患者 が妊娠することは「糖尿病合併妊娠」という。基本的には食事療法と運動で血糖値をコントロー ルしていく対応が主だが、血糖値が改善されないと胎児にも影響が出る可能性もあると言われ ているため、インスリン注射などの治療が必要となる場合もある。グルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さからタンパク質を修飾する作用があり、グルコース による修飾は主に細胞外のタンパク質に対して生じる。細胞内に入ったグルコースはすぐに解糖系に より代謝されてしまう。インスリンによる血糖の制御ができず生体が高濃度のグルコースにさらされ るとタンパク質修飾のために糖毒性が生じ、これが長く続くと微小血管障害によって生じる様々な合 併症を発症する。既存の血管から新たな血管枝が分岐して血管網を構築する生理的現象を血管新生
(angiogenesis)
というが、例えば、糖尿病性網膜症(diabetic retinopathy)
は血管障害によって酸素欠乏状 態になった網膜から、病的な血管が新しく出来るために起こる目の機能障害である。他に合併症として 糖尿病性神経障害(diabetic neuropathy)
や糖尿病性腎症(diabetic kidney disease, diabetic nephropathy)
などがあり、後者については次節で説明する。2.4 糖尿病性腎症
2.4.1
糖尿病性腎症の概要腎臓病は糖尿病の深刻な合併症の一つであり、糖尿病性腎症
(diabetic kidney disease)
と呼ばれる。これは、糖尿病によって腎臓の糸球体が細小血管障害のため硬化して数を減じていく疾患である
[1]
。 糖尿病で血糖の高い状態が10
年以上も続くと、全身の動脈硬化が進行し始め、腎臓に障害が及ぶと 蛋白尿、ネフローゼ症候群等を経て慢性腎不全に至る。透析導入した患者の
43.7%
が糖尿病を原疾患(
腎臓病に至った元々の原因)
としている[26]
。糖尿病 性腎症は主に以下のような経過を辿る。腎症前期 機能しているネフロンの数が減少すると残されたネフロンには大きな負荷がかかり、
GFR(
糸 球体濾過量)
が一時的に増加する。このようにGFR
が増加する事を濾過過剰(hyperfiltration)
と 言う。微量たんぱく尿期 ごく初期の段階では、微量のアルブミン尿
(microalbuminuria) *5
のみが検出される。その量は、ふつうの尿タンパクの定性検査では分からないほど微量だが、このときに厳格な血糖 コントロールを実行すれば、腎症への進行を食い止めることも可能である。従って、尿タンパク
*5 アルブミンは一群のタンパク質に名づけられた総称で、卵白(albumen)を語源とし、卵白の構成タンパク質のうちの約
65%
を占める主成分タンパク質に対して命名され、さらにこれとよく似た生化学的性質を有するタンパク質の総称として 採用されている。代表的なものに卵白を構成する卵アルブミン、脊椎動物の血液の血漿に含まれる血清アルブミン、乳汁 に含まれる乳アルブミンがある。アルブミンは一般的に肝臓で生成される。2.4
糖尿病性腎症23 eGFR Normoalbuminuria Microalbuminuria Macroalbuminuria
(mL/min/1.73m 2 ) (ACR < 30mg/g) (ACR 30-300mg/g) (ACR >300mg/g)
> 60
中 中 高30 − 60
低 中 高< 30
低 低 高表
2.3
アルブミン尿とeGFR
から推測される糖尿病性腎症罹患の可能性Normoalbuminuria:
微量アルブミン尿陰性、Microalbuminuria:
微量アルブミン尿、Macroalbuminuria:
顕性 アルブミン尿。の一部を占めるアルブミンを、ごく微量のうちに測定し、より早く異常を発見し治療を開始する ことが重要となる。
顕性たんぱく尿期 個人差はあるが、微量タンパクが出始めて
3
〜5
年のうちに、大量のタンパク尿が 出るようになる。といっても、最初は多かったり少なかったりするが(
間欠性たんぱく尿期)
、や がて、常に出るようになり(
持続性たんぱく尿期)
、腎臓の機能は著しく低下する。この時期を顕 性腎症期といい、すでにかなり腎症が進行していることを示している。ネフローゼ期 さらに放置しておくと、尿中のタンパクはさらに大量になり、血液中のタンパク質が減 少する。むくみが出るとともに、高コレステロール血症
(
脂質異常症)
など、ネフローゼ症候群 と呼ばれる諸症状(
高血圧)
を呈してくる。腎不全期 腎臓の機能がさらに低下し、正常の
5
〜10%
にまで低下すると透析療法が必要となる。一 般に、糖尿病性腎症の患者は、透析療法へ移行する時期が他の腎臓病の方と比較して早いとい われている。それは、糖尿病による様々な合併症を併発している場合が多いためである。現在、我が国における糖尿病性腎症からの透析患者数は、新規の全透析導入患者の
40%
を超えるまで になっている。2.4.2
糖尿病性腎症の危険因子と診断糖尿病性腎症の危険因子
(risk factor)
として考えられるのは、糖尿病を患っている期間、血糖の調整(glycemic control)
不良、高血圧(hypertension)
、そして蛋白尿(proteinuria)
等である[39]
。これらに加 え、人種、家族の病歴、高齢、そして性別(
男性の方がリスクが高い)
等がある。糖尿病性腎症の最も確実な診断方法は、病変部位の組織の採取と観察、すなわち生体組織診断
(biopsy)
である。しかし通常はアルブミン尿の検出による早期診断が勧められる。検査開始の目安の一例は、1型糖尿病が発症して
5
年後、あるいは2型糖尿病発症後すぐである[39]
。アルブミン尿の量は変動が大きく、これだけでは正確な診断が難しいため、通常は老廃物であるク レアチニンが尿中にどれくらいあり、それに対してアルブミンがどれくらいあるか、すなわちアルブ ミン・クレアチニン比
(ACR, albumin-to-creatinine ratio)
を計算する。アルブミン・クレアチニン比とeGFR
から推定される罹患の可能性を表2.3
に示す。24
第2
章 腎臓の医学2.5 治療薬
2.5.1
パリカルシトールパリカルシトール
(paricalcitol)
は1,25-
ジヒドロエルゴカルシフェロール、すなわち活性型ビタミンD 2
のアナログであり、慢性腎不全に伴う二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)
の治療に用いられる[1]
。 米国ではアボットラボラトリーズ(Abbott Laboratories)
によってZemplar
の商品名で経口カプセル製 剤及び注射剤が販売されている。パリカルシトールは内因性活性型ビタミン
D
であるカルシトリオールの側環(D 2
部)
とA
環(19-
ノ ル)
を化学修飾合成した化合物で、生物学的な活性を持つビタミンD
のアナログである。動物実験及びin vitro
試験のからパリカルシトールの生物学的作用はビタミンD
受容体への結合によってもたらされていることがわかっており、その結果としてビタミン
D
由来の一連の反応が選択的に惹起される。ビ タミンD
もパリカルシトールも副甲状腺ホルモン(PTH)
の生合成と分泌とを阻害することによって血 中のPTH
濃度を低下させることが示されている。2.5.2
ピルフェニドンピルフェニドン
(Pirfenidone)
は米国で発見された新規の抗線維化薬である[30]
。創製当初は抗炎症 薬として開発が開始されたが、その途上で炎症モデルとして検討されたイヌ肺感染症モデルにおいて 線維化を抑制する効果を有することが見出され、その後は抗線維化薬として開発されてきた。本薬は、抗線維化作用を有し、特発性肺線維症に対して効果を発揮する可能性が示された世界初の薬剤である。
最近は糖尿病性腎症の治療にも効果がある可能性が示されている
[41]
。動物実験ではブレオマイシン
(BLM)
誘発肺線維症モデルをはじめとして肝硬変モデル、慢性腎不全 モデルなどで各臓器における明らかな線維化の抑制と機能低下の抑制が本薬投与によって認められて おり、本薬が抗線維化作用を有することが確認されている。このように幅広く各種線維症モデルで作 用が確認できるところから本薬はbroad spectrum antifibrotic agent
とも称される。本薬の作用機序としては、肺線維症モデル、腎線維化モデル、肝硬変モデル等において本薬投与によ り組織の線維化形成に関与するとされる形質転換増殖因子
(TGF- β )
のmRNA
発現抑制が確認されて いる。また、エンドトキシン誘発急性炎症モデルでも腫瘍壊死因子(TNF- α )
産生抑制作用が認められ、TNF- α
が肺線維化に重要な役割を果たしているという報告もされていることから、このTGF- β
産生 抑制作用とTNF- α
産生抑制作用という2
つの作用が本薬の抗線維化作用において特に重要な役割を果 たしていると考えられている。肺における本薬の抗線維化作用はハムスターの
BLM
誘発肺線維症モデルを用いた検討が多数報告 されており、その作用は主にTGF- β
や血小板由来増殖因子(PDGF)
など増殖因子の産生抑制作用に起 因すると考えられている。また、マウスのBLM
誘発肺線維症モデルを用いた検討でコラーゲン生合成 に関与する熱ショックタンパク質(HSP47)
の肺における発現が抑制されていることから、HSP47
発現 抑制を介したコラーゲン生合成抑制によるという推測もされている。一方、エンドトキシン誘発急性炎症モデルでは
TNF- α
産生抑制作用に加えて抗炎症性サイトカイン として知られるインターロイキン(IL)-10
の著しい亢進作用が認められる。IL-10
がマウスBLM
誘発 肺線維症に抑制的に作用するという報告もあることから、本薬の抗線維化作用にIL-10
産生亢進作用 が関与する可能性もある。25
第 3 章
腎臓病・糖尿病の分子メカニズム
3.1 エネルギー代謝 3.1.1
食物からのATP
の合成我々が生きてゆくためにはもちろん食物を摂取する必要があるが、その最も大きな理由は、食物から 生きてゆくために必要なエネルギーを得るためである。化学的にはこのエネルギーは
ATP(
アデノシン 三リン酸)
と呼ばれる分子に蓄えられている(
図3.1)
。ATP
がADP(
アデノシン二リン酸)
という分子に 変わるとき蓄えられたエネルギーが放出され、細胞内の様々な活動に使用される。従って食物からエ ネルギーを得る過程は、食物からATP
を合成する過程であるとみなすことができる。食物からATP
が 合成される過程の全体像を図3.2
に示す。ATP
は解糖系と電子伝達系で合成されることに注意しよう。ATP
がADP
と無機リン酸(P i )
に加水分解される反応の自由エネルギー(∆G)
は全反応物の濃度にO P O P
O O
O
-O
-O
OH OH H
2N
N
N
NN
HO
O P O P
O O
O
-O
O
OH OH H
2N
N
N
NN
O P O O
O
- --
ATP (Adenosine triphosphate)
アデノシン三リン酸
Adenine
アデニンRibose Triphosphate
リボース三リン酸
Production
エネルギー生産
Consumption
エネルギー消費ADP (Adenosine diphosphate)
アデノシン二リン酸
Diphosphate
二リン酸図