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『気候で読み解く日本の歴史 :

    異常気象との攻防 1400 年』

田家康著 (日本経済新聞出版社, 2013)

本書の請求記号 451.91‖Tan

稲垣 宏行

 夏と言えば熱中症が特に心配されますが、台 風、ゲリラ豪雨、洪水などの災害も憂慮すべき問 題です。しかし、世界的に農業が重視されていた 古代から近世にかけては、気候変動に伴う災害も さることながら、干ばつ、飢饉や疫病が目下の問 題でした。

 日本気象学会会員の著者は、平均気温や海面 水位、災害や疫病など気候変動によって起こる 現象に関する当時の史料や地質調査などを基に、

主に奈良時代から江戸時代までの日本の政情に ついて述べています。

 気候は主として太陽活動の変化によって左右さ れ、それが気圧変化による寒冷化あるいは温暖 化を地球上で起こします。奈良時代の度重なる遷 都や戦国時代に見られる政情不安も、発端は気 候変動による飢饉や疫病などの災害にあります。

平安末期の戦乱で平家が源氏に敗れた原因の一 つも、平家の本拠地である西日本で起こった干 ばつでした。鎌倉時代、寛喜3(1231)年頃の寛 喜の飢饉では全国の3分の1の民が餓死しました。

幕府も御成敗式目追加法で一時的に人身売買を 公認するほどの苦境にあったことが本書で述べら れています。

 火山活動も気候変動に大きな影響を及ぼしまし た。噴火の過程で吐き出された硫酸エアロゾル が成層圏に漂うことで、農作物の発育を妨げる 寒冷化を引き起こすのです。一例として13世紀後 半の南極とグリーンランドにおける火山噴火が本 書で挙げられていますが、これによってアイスラン ドの流氷数が増加し、低気圧が勢力を強め暴風 雨が頻発したと著者は見ています。また、その余 波による寒冷化が世界規模に及び、凶作や海面 水位の低下を引き起こしたことも指摘しています。

日本でもその余波で地震や暴風雨などの災害が 相次ぎ、法華宗開祖の日蓮が幕府への意見書『立 正安国論』を著すきっかけとなりました。また著 者は、有力武士の新田義貞が鎌倉攻略に成功し

た要因も、海面水位の低下で本来は通れない稲 村ヶ崎が通れるようになったためだと見ています。

 古代から、干ばつや疫病など災害の発生は為 政者の不徳によるものとする考え方がありました。

現代の視点では迷信の類いですが、全くの間違 いとも言い切れない面もあります。確かに災害の 発生自体は徳とは関係ありません。しかし、為 政者の手腕次第でその被害を抑えることは全て では無いにせよ可能だと思います。元禄7(1694)

年頃、寒冷化気候によって生じた元禄の飢饉に 見舞われた東北地方では、時の将軍徳川綱吉が 出した生類憐れみの令のせいで、被害が拡大し たという事例が本書で挙げられています。

 また本書では古代からあった環境破壊の事例 として、奈良時代の日本で貴族の邸宅や天皇の 宮廷、奈良の東大寺などの寺院建造のために、

近畿内から森林資源が枯渇するほど伐採を行っ たことに触れています。東大寺だけでスギやヒノ キを3万4500本消費したという数字もあります。

著者は、この森林伐採が森林の水源涵かんよう養機能を 損ね、干ばつや洪水などの災害を悪化させて凶 作に拍車をかけたと指摘しています。しかし、こ の森林の激減は檜ひ わ だ ぶ き皮葺、漆しっくい喰、畳という日本伝 統の発明品を生み出すきっかけにもなりました。

 気候変動への具体策は今も見つかっていませ ん。2030年から2040年は寒冷期になるとの見方 がありますが、排気ガスによる温暖化が重なる可 能性もあります。著者は気候変動を克服する対策 として、農業・土木など科学技術の発達と為政 者による的確な政策を力説しています。加えて、

過去の歴史を教訓とすることも重視しています。

 本書はタイトル通り、自然科学からの視点に基 づくものです。しかし、その歴史描写は正統な歴 史学の書物に劣らぬ、精巧で興味深いものだと 思います。

いながき ひろゆき(司書・情報サービス課)

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