日本の歴史
22日本の歴史
49『通貨の日本史 :
無文銀銭、富本銭から電子マネーまで』
高木久史著 (中央公論社 中公新書 2016)
本書の請求記号 337.21‖Tak
稲垣宏行
我々の日常生活において身近な「通貨」。巷に 広く流通した最古の金属通貨は708年発行の「和 同開珎(わどうかいちん、わどうかいほう)」です が、これ以前に存在した通貨は「無文銀銭」「富 本銭」です。
本書は、およそ1400年にわたる我が国の通貨 の歴史とその中での試行錯誤を中心に描いてい ます。12世紀後半、太政大臣となった平清盛が 南宋(中国)と積極的交易を行うまで、通貨は一 部の地域でしか使用されず米や布などでの物々 交換が主でした。そのため10世紀頃に発行が停 止されたことがありました。著者も、前述の和同 開珎が通貨というより「債券証書(国債)」として 扱われていたと推測しています。
通貨も統一されておらず、多種多様でした。撰えり 銭ぜに
、永楽通宝(明銭)、蛭ひる藻も金など、戦国時代だ け見ても様々な貨幣が登場しています。紙幣では 11世紀頃に、その原型と考えられる切符系文書 が登場しています。14世紀頃の割さい符ふ、江戸時代 の藩札なども現在の紙幣に連なるものです。日本 全国が統一された江戸時代でも三貨制度に象徴 されるように、地域によって用いられる通貨が金、
銀、もしくは銭という不統一さが見られます。日 本の通貨政策の試行錯誤であると同時に、通貨 の統一がいかに困難であるかが見て取れます。
通貨の需要・供給の調整も困難を極めたそうで す。供給が増えすぎるとインフレで物価が高騰し、
貨幣価値の低下から国民だけでなく海外からも 敬遠されるという弊害が生じます。しかし、実際 には供給不足の方が深刻な問題で、歴史上何度 も直面しました。例えば徳川綱吉の時代、荻原 重秀の貨幣改鋳による品質低下が悪名高い事例
として知られていますが、その必要に迫られるほ ど経済が拡大し通貨への需要が高まっていたこと が窺えます。また重秀は「通貨は国家がつくるも のだから、瓦礫でも通貨にしようと思えばできる」
と言い放ちましたが、そこからは信用さえ得られ れば何にでも価値を与えられる通貨の無限に近い 柔軟性と同時に、その制御と統一の難しさが感じ られます。通貨量が安定したのは遠い過去の話 ではありません。1960年代に入っても日本は硬貨 の不足に悩み、商店はボール紙で一円硬貨の釣 銭を拵えていたことが本書で述べられています。
著者は、社会の需要を満たす通貨の発行は国 家によるものではなく、むしろ民間側に在り、国 家はそれに引き摺られる形で容認していたと述べ ています。また、国家の目的は発行益による利 益確保にあり、社会の通貨需要への対応という 発想は無いとも述べています。ただ、評者として は、豊臣秀吉が「太閤検地」で税収の安定化を 図り、通貨については全国的な統合を試みていた ように、社会の通貨需要への対応を含めた国家 の安定という目的を持った指導者もいたと考えま す。しかし同時に、やはり民間の方が常に現場に 在り通貨を含めた経済に精通しており、国家単独 では解決し難い問題だったからだとも思います。
現代では、ICカードやプリペイドカード、ビッ トコインなどの電子マネーが普及しています。近 代以前から掛取引や手形などが実例として存在し ていましたが、これらも民間から生まれた物です。
通貨の柔軟性とそれに適応する民間という歴史の 法則は、今も生きているように思えます。
いながき ひろゆき(司書・情報サービス課)
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図書館員の文献紹介と 資料の活用