文化財建造物の振動特性
はじめに1 9 9 8 年度から科研基盤研究( C )により、「伝 統的木造建築の振動特性に関する研究」(代表者・内田 昭人)として、建設省建築研究所・職業能力開発大学校 と共同研究を行っている。これまでに、宮内省南殿( 復 原建物)2棟・法隆寺建物4棟・薬師寺建物3棟・東大 寺建物1棟・清水寺仁王門・南禅寺三門を対象として常 時微動測定を実施した。この測定方法の有効性について 検討を進めるとともに、研究成果については逐次国内外 の学会で発表してきた。本稿では1 9 9 8 年に「第5向木質 構造世界会議( スイス) 」で発表した論文の概要について 報告する。
測定方法と解析方法常時微動測定は振動技研MT K H ‑ 1 C ( 水平方向微動計) およびMT K V ‑ 1 C ( 鉛直方向微動計) を 合計1 6 台使用し、図1に示すような測定点に順次設置し て約1 0 0 秒間の速度波形記録を複数回、データレコーダー に収録する。得られた時間軸波形に対して、サンプリン グ周波数2 0 H z で7河の平均化を行うF F T 処理を行ってフ ーリエ速度スペクトルを求め、上部の測定点と地動との 間の伝達関数のピークから固有振動数を推定する。一方、
各固有振動数における各測定点間の速度振幅の比および 位相差から振動モード図を作成する。さらに、フーリエ 速度スペクトルに対する厄分の1法またはカーブフイッ
トにより減衰定数を求める。
測定結果と解析結果測定対象建物および測定結果と解 析結果を表に示す。一層の建物では、1次 2次の振動 モードは、桁行方向または梁間方向の並進( 全体が同じ 方向に揺れている)振動であるが、宮内省南殿・薬師寺 東院堂・法隆寺大講堂では、3次の振動モードにねじれ 変形が見られた。これらの建物は、前面が大きく解放さ れているのと、土塗壁の配憧に偏りがあるためである。
東大寺転害門では、梁間方向の位相が妻側と内側とで 逆転する、弓なりの振動モードが現れた。これは、建物 の中央の桁行方向のみに壁が配置されていることによる。
宮内省南殿を除き、1次・2次の固有振動数はそれぞれ 1 . 4 5 〜1 . 9 Hz と1 . 9 〜2 . 1 5 Hz であった。宮内省南殿は他の3 つの建物と比較し、規模も小さく、現代的構法である筋 かい入りラスモルタル壁を有するため、建物の剛性は高
3 4 奈 文 研 年 報 / 1 9 9 9 ‑ 1
< 、固有振動数は最も高い値となっている。
二層の建物、法隆寺中門・法隆寺金堂では、建物の規 模も似ていることから、1次・2次の振動モードも同じ ような形になっていることがわかる。多屑、三重・五重 塔では、いずれも1次の振動モードでは対角線方向に振 動し、塔のある高さにおいて位相が逆転する、高さ方向 の2次・3次モードを示した。1次固有振動数は0 . 8 5 〜 1. 05Hz、2次は2. 05〜2. 5Hz,3次は3. 5〜4. 0Hzである。
東塔と西塔を比較すると、固有振動数の値は、いずれも 西塔の方がl〜2割高い値となっている。近年の再建で ある西塔は、創建架構を残す東塔と比較して、劣化して おらず、剛性が保たれているためであろう。3つの塔と
も振動モードでは類似性が見られる。
振動モデルの適用図2に示すような平面型振動モデル を仮定し、宮内省南殿建物に適用して測定値と計算値と の照合を試みた。各部の剛性評価には、柱傾斜復元力、
筋かい壁のせん断剛性、および屋根面などの水平構而剛 性をパラメーターとして固有振動数および振動モードを 求めた。図3でモード1,2,3,5は測定値と計算値は 比較的良く一致している。モード4,6は測定値が得ら れていれば、計算値と近似していると推定される。
法隆寺五重塔・薬師寺西塔では、現在、高層ビルの設 計に使われている串団子型振動モデルを適用し、測定値
と計算値とを照合している。三( 五) 重塔全体を各層の質 点とせん断ばねとからなる3(5)質点系にモデル化し、
稔算で求めた質雌を用い、試行錯誤的に各層のせん断剛 ' 性を当てはめて、測定結果に近い固有振動数および振動 モードが得られるような剛性の組合わせを求めた。図4
に示すように、1次.2次モードでは測定値と計算値が 比較的良く一致している。三重・五重塔では、このよう な質点系振動モデルを設定することにより、主要な振動 モードを説明できることがわかった。
以上、これまで不明であった文化財建造物の固有振動 数、振動モード、減衰定数などの振動特性が明らかにな ってきた。これらの数値は、微少な振幅で建物が揺れる ときの、揺れるはやさ、揺れる形、揺れの収まり方を示 すものであるが、同時に大地震動に対する建物の耐震 性 を考える上で不可欠の要素でもある。今後は得られた数 値を、文化財建造物の耐震性能を向上させるための基礎 資料として活用したい。(内田昭人/ 埋蔵文化財センター)
モード5 9. B7Hz
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2.東大寺転害F E 1
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4.法隆寺大講堂 3.薬師寺東院堂
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モード1 4.83Hz 4△ 35Hz
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モード2 4.63Hz 4.65Hz
、計算値
③測定値
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モード6 11.9Hz
− H z 図3
奈文研年報/1 9 9 9 ‑ 1 協臆
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モード35.63Hz7.65Hz画 鰯 睡
+一箇一.'−,1
振動モードR:桁行方向並進振動S:梁1 1 1 方向、 l I i 進振動D:対ノ リ 線〃I h j 振助T:ねじれ振動 S2:梁I I I j 方向で位机が逆娠するモード112,113:位柑が逆帳する、尚さ方向の2次、3次モード
表 測 定 結 果 と 解 析 結 果
L e v e l 7 ト ヨ I
l E雪I
3. OOHz B−4Hz
一 三 〆 一 一 I
Ou−LLu5L e v e I 6.法隆寺今蛍
OLQ‑ q‑ Lg‑ pg
5 .法隆寺中門 モード4
8.86Hz 一 H z 法隆寺金堂
の測定点
門丁玲ii︲﹃i11作i!︲#
③ 計 算 値 : 0 . 9 H z 2 . 4 H z 3 . 7 H z e測定値:0.9Hz2 . 5 Hz4 . 2 Hz
図4測定値と計算値の比較
(薬師寺東塔・上)(法隆寺五重塔・下)
ム L ・ 』
匿
O・ B6Hz O−B5Hz
1.53Hz 2.05Hz
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I −QVgl3
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測定値と計算値の比較( 宮内省南殿)L evBI1
三 斗
法隆寺五重塔 の測定点
→ 水 平 方 向
。 鉛 直 方 向 I冒1
■ I [ 刀 ロ I ●
鶴 灘
8 . 薬 師 寺 西 塔 9 . 法 隆 寺 五 重 塔 図 1 測 定 対 象 建 物 と 測 定 点
: 域:
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7 . 薬 師 寸 宋 后
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Ⅲ 再 一 皿 ー1 塵1 儒曽HL
n 1 ロ ロ | 負
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層
一層
二 層
多 層
測定対象建物
1 . 寓内杵南殿 2. 東大、f 娠害' 111 3 , 薬師寺来院堂 4 . 法隙寺大誰蛍
5. 法隆寺中INI 6 . 法隆寺金蝋
7 . 薬師寺束堺 8 . 薬師が西幣 9 . 法隆寺江爪唯
固有振動数(H z )
モ ー ド 1 2 3 4. 14.657 . 6 5 1 . 4 5 1.94.05 1.92.152.65 1 . 7 2.12.50
1 . 5 5 1.8 182.05
0 . 8 5 2053. 1 1 . 0 5 253.75 0 9 2 . 5 4 . 2
減衰定数〈%)
モ ー ド 1 2
1 . 6 3 5 2 61.0 1. 9
1 . I2.6 1. 11.7
○︒50内迩﹄ハロ︑︾aUMユ
振動モード モ ー ド 1 2 3
R S T S R S 2 S R T S R T
S R S R
D I I 2 I I 3 D I I 2 1 1 3 D I I 2 1 1 3
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