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河川水中の抗生物質耐性菌の定量とその多剤耐性

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Academic year: 2022

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河川水中の抗生物質耐性菌の定量とその多剤耐性

龍谷大学大学院 学生会員 ○滝 さやか 龍谷大学 正会員 越川 博元 龍谷大学 小幡 倫大

1.はじめに

近年、薬剤耐性菌の問題が深刻化している。世界保健機関(WHO)の

2007

年度の報告によるとアメリカで は、

200

万人以上の人が薬剤耐性菌に感染し、

1

4

千人が死亡している。医薬品の中でも特に抗生物質は、

医療面で細菌感染症の治療に必須であるが、浄化槽や下水処理における処理生物に対しても殺菌的に働き、

処理を妨害する可能性も指摘されている。抗生物質は病気の治療や予防のため、ヒトや家畜に広く使われ使 用量が増加している。抗生物質を主力とした化学療法薬の発達により細菌感染症による死亡率は減少したが、

抗生物質の使用量の増加に伴い、抗生物質耐性菌が急激に増加している。現在では、

MRSA(メチシリン耐性

黄色ブドウ球菌)、MDRP(多剤耐性緑膿菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)をはじめとした、耐性菌の蔓 延が問題になっている。細菌はごく普通に遺伝子を交換しているほか、死滅した細菌から放出された

DNA

を取り込むこともあることから、薬剤耐性遺伝子は広がり続け、薬剤耐性菌の拡散のおそれがある。そこで、

水環境における微生物学的安全性の確保を最終的な目標とし、本研究では、抗生物質耐性菌の分布と多剤耐 性菌の分布に関する調査を行った。

2.実験方法

2007 年 12 月 6 日に南郷洗堰(琵琶湖瀬田川)・宇治川御幸橋(宇治川)・宮前橋(桂川)、および複数の下水 処理場放流口から採取した試料水中の抗生物質耐性菌数を求めた。すなわち,メンブレンフィルター法によ り捕集した菌株を抗生物質を含む m-TGE 培地上で 37±1℃、18~24 時間培養し、生育したコロニー数を数え ることで抗生物質耐性菌の定量を行った。対象とした抗生物質は、アンピシリン・クロラムフェニコール・

カナマイシン・レボフロキサシン・バンコマイシンの 5 種類で、抗生物質の最終濃度を 10μg/mL から 10μg/mL ずつ増加し、最大 60μg/mL になるように、培地に添加した。

1 次スクリーニングとして60μg/mLのバンコマイシン、あるいはレボフロキサシン存在下で生育した抗 生物質耐性菌について、他剤に対しても耐性を有しているかどうかについて検討した。すなわち、単離した バンコマイシン耐性菌、あるいはレボフロキサシン耐性菌をさらに他の抗生物質を含んだ培地に植菌・スク リーニングし(これを 2 次スクリーニングとする)、そのコロニー形成能について検討した。2 次スクリーニ ングにおける抗生物質濃度は、MIC80の濃度に設定した(アンピシリン、クロラムフェニコール、バンコマイ シン:60μg/mL・レボフロキサシン、カナマイシン:50μg/mL)。培養条件は、37±1℃、12時間とした。

3.結果および考察

図-1 は、本研究で取り扱った試料水中に存在していた、60μg/mL の抗生物質存在下で形成されたコロニー 数である。図-1 より、いずれの採水地点でも、比較的高い抗生物質濃度である 60μg/mL の場合でコロニー 形成可能な菌株が存在した。抗生物質による違いはあるが、60μg/mL という濃度は MIC の約 10 倍に相当す る。耐性菌数が多かったアンピシリンは経口投与の約 40%、非経口投与の約 90%が未変化のまま尿中に排泄 されることから、環境中に多く存在していることが予想されること、バンコマイシンについては近年使用量 が急激に増加したことが、耐性菌の出現に関与していると考えられる。

キ-ワード 抗生物質 抗生物質耐性菌 多剤耐性菌

連絡先 〒520-2194 大津市瀬田大江町横谷

1-5 phone:077-544-7102 fax 077-544-7130

7-217 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)

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図-1 60μg/mLの抗生物質存在下で形成されたコロニー数

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450

ABPC LVFX CP KM VCM

CFU/mL

A B C D E

宇治川御幸橋 宮前橋 南郷洗堰

A~E :下水処理場放流水

ABPC :アンピシリン    LVFX :レボフロキサシン   CP :クロラムフェニコール VCM :バンコマイシン  KM :カナマイシン

多剤耐性に関する結果を、宮前橋について示したものが表-1 である。60μg/mL のバンコマイシン存在下で コロニーを形成した菌株は、その 73%がアンピシリンに対しても耐性を示したが、レボフロキサシンやカナ マイシンにより生育を阻害された (表-1-A)。生残率の高かったバンコマイシンとアンピシリンは、共に主に グラム陽性菌に対して強い抗菌力を示す。また、生育の阻害をすることができたレボフロキサシンは幅広い 抗菌力をもち、カナマイシンは主にグラム陰性菌に対して強い抗菌力を示す。これらのことから、バンコマ イシンやアンピシリンでは生育を阻害されなかったバンコマイシン耐性菌の多くはグラム陰性菌であり、こ のためレボフロキサシンやカナマイシンによって生育が阻害されたものと考えられる。しかし、60μg/mL の レボフロキサシンに対して耐性を示した菌株は、他の抗生物質存在下にあっても少なくとも 86%以上が生残 した(表-1-B)。本研究で得られたレボフロキサシン耐性菌は、少なくとも 2 種の抗生物質に対して耐性を有 していたものが多く、これらのレボフロキサシン耐性菌の生育を阻害することは、本研究で取り上げた他の 4 種類の抗生物質では困難であることがわかった。以上の結果から抗生物質耐性菌の制御という観点では、

レボフロキサシン耐性菌は注目すべき形質であることがわかった。すなわち、水環境中おけるレボフロキサ シン耐性菌の耐性獲得様式や起源について、今後明らかにする必要がある。

表-1 宮前橋で採取した試料水中の多剤耐性菌数

1 次スクリーニング 2 次スクリーニング

抗生物質 コロニー数(個) 抗生物質 コロニー数(個) 残存率(%)

ABPC 55 73

LVFX 0 0

CP 29 39

A VCM 75

KM 1 1

ABPC 20 91

CP 20 91

KM 19 86

B LVFX 22

VCM 19 86

ABPC :アンピシリン LVFX :レボフロキサシン CP :クロラムフェニコール

VCM :バンコマイシン KM :カナマイシン

4.謝辞

本研究は、龍谷大学理工学学術研究助成基金を得て実施いたしましたことを謝して記します。

7-217 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)

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参照

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