抗菌薬(薬理)
中原 保裕、『今⽇の臨床サポート』編集部■トップページ
#3820 概要 まとめ: 抗菌薬は、細胞壁や蛋⽩質やDNA-RNAの合成を阻害するか細胞膜障害作⽤することにより細菌 感染症を治療する作⽤(抗菌活性)を持つ。それぞれ、細胞壁の合成を阻害する薬剤として、β ラクタム系阻害薬、グリコペプチド系抗菌薬などが、また、タンパク質合成を阻害する抗菌薬 として、アミノグリコシド系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬、テトラサイクリン系抗菌薬など が、DNA-RNAの合成を阻害する抗菌薬として、キノロン系抗菌薬、ST合剤が、細胞壁障害作 ⽤を持つ抗菌薬として、ポリペプチド系抗菌薬が知られている。(下記薬効分類) なお、βラクタム系抗菌薬は、さらに細かく、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、ペ ネム系、モノバクタム系に細分類され、それらの薬剤はβラクタム環を基本構造として共有して いる。 抗菌薬の作⽤機序:[ID0605] 薬効分類: 細胞壁の合成を阻害して作⽤する抗菌薬: βラクタム系抗菌薬 ペニシリン系 セフェム系 カルバペネム系 ペネム系 モノバクタム系 グリコペプチド系 ホスホマイシン系 タンパク質の合成を阻害して作⽤する抗菌薬: アミノグリコシド系 マクロライド系 リンコマイシン系 テトラサイクリン系 オキサゾリジノン系 ストレプトグラミン系 クロラムフェニコール系 DNA-RNAの合成を阻害して作⽤する抗菌薬: キノロン系 サルファ剤 ST合剤 リファンピシン 細胞膜障害作⽤を有する抗菌薬: ポリペプチド系 抗菌薬投与設計と分類: ポイント: 上記の薬効分類は、PK-PD理論に基づいた抗菌薬⾄適投与設計の理解に役⽴つ。また、副 作⽤・相互作⽤が、各分類でにている。妊婦には、催奇形性の副作⽤少ないペニシリン 系、 セフェム系抗菌薬の抗菌薬が⽐較的安全に投与できる。 抗菌薬の殺菌性・静菌性分類、時間依存性・⽤量依存性の分類:[ID0601] 時間依存的抗菌活性を持つ薬剤と⽤量依存的な抗菌活性を持つ薬剤の薬剤濃度と殺菌 効果の⽐較: [ID0602] グラム陰性桿菌に感染した免疫抑制されたマウスの死亡率と24時間のフルオロキノロ ンのAUC/MICの関係: [ID0603] グラム陰性桿菌による重症感染患者の臨床的アウトカムと24時間の時プロキサンの AUC/MICの関係:[ID0604]time above MIC依存的に抗菌活性を認める抗菌薬:
βラクタム系抗菌薬、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、ST合剤、リネゾリド は、時間依存的でpost-antibiotic effect※のない薬剤である。これらの薬剤は、time
above MICを最⼤化することで抗菌活性を最⼤化できる。したがって、ある⼀定の⾎中濃 度を保つように分割回数を多くして投与することで抗菌作⽤が最⼤化できる。 Cmax/MIC依存的に抗菌活性を認める抗菌薬: アミノグリコシド系、フルオロキノロン系、ダプトマイシン、メトロニダゾールは、濃度 依存的で効果を認める薬剤である。これらの薬剤は、Cmax/MICを最⼤化することで抗菌 活性を最⼤化できる。したがって、最⾼⾎中濃度をできるだけ⾼くできるように投与回数 を少なくして投与することが多い。 AUC/MIC依存的に抗菌活性を認める抗菌薬: マクロライド系、ケトライド系、クリンダマイシン、テトラサイクリン系、バンコマイシ ン、テイコプラミンは、時間依存的かつpost-antibiotic effectを認める薬剤である。これ らの薬剤は、AUC/MICを最⼤化することで抗菌活性を最⼤化できる。したがって、最⾼⾎ 中濃度をできるだけ⾼くできるように投与回数を少なくして投与することが多い。 なお、Cmax/MICとAUC/MICは共に相関する値であり、どちらか⼀⽅を⾼めた場合には他 ⽅も上昇することが知られている。 ※post-antibiotic effect:ある抗菌薬がMIC以上の濃度で接触した後、抗菌薬を 除去MIC以下の濃度になってもある⼀定時間しても持続してみられる増殖抑制効 果 適応菌種: 抗菌薬の添付⽂書には適応菌種の記載があるが、臨床上の抗菌スペクトラムと必ずしも⼀致し ていないことに留意が必要である。添付⽂書が薬剤開発のコンセプトに基づいて作成されてい るため、コンセプト外の抗菌作⽤を有する菌種に関しては適応菌種に記載がされないことが理 由である。 したがって、添付⽂書に記載されている適応菌種に抗菌作⽤を有するが、適応菌種に記載がな いことが必ずしも抗菌作⽤を持たないことを意味しない。 妊婦での使⽤: ペニシリン系、セフェム系抗菌薬の使⽤経験が多いため、これらの薬剤を第1選択薬とする。 ペニシリン系抗菌薬:[ID0010] ポイント: ペニシリン系抗菌薬は、βラクタム系抗菌薬の⼀種で、細菌の細胞壁の合成を阻害するこ とにより殺菌的に抗菌活性を持つ。 ペニシリン系抗菌薬は、さらに、①古典的ペニシリン、 ②広域ペニシリン、 ③抗緑膿菌 ペニシリン、 ④βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系に細分類される。 ①古典的ペニシリンには、ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリン)、ベンジル ペニシリン(ペニシリンG)、アンピシリン・クロキサシリン配合薬(ビクシリンS) などの薬剤が存在する。 ②広域ペニシリンには、アンピシリン(ビクシリン)、アモキシシリン(サワシリ ン、パセトシン)、バカンピシリン(ペングッド)、アスポキシシリン(ドイル)な どの薬剤が存在する。 ③抗緑膿菌ペニシリンには、ピペラシリン(ペントシリン)などの薬剤が存在する。 ④βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンには、アモキシシリン・クラブラン酸配合薬 (オーグメンチン)、スルタミシリン(ユナシン)、アンピシリン・スルバクタム配 合薬(ユナシン-S)、タゾバクタム・ピペラシリン配合薬(ゾシン)などの薬剤が 存在する。なお、タゾバクタム・ピペラシリン配合薬(ゾシン)は、抗緑膿菌活性も 持つ。 適応菌種: 古典的ペニシリンは、耐性を持たない多くの好気性グラム陽性球菌 (ペニシリン耐性肺炎 球菌、ペニシリナーゼ産⽣ブドウ球菌などを除く)と、リステリア、Clostridium tetani、Clostridium Perfringens, Clostridium botuliunumなどの⼀部のグラム陽性桿 菌、髄膜炎菌などのグラム陰性球菌(ペニシリナーゼ産⽣淋菌、モナキセラカタラーリス などを除く)、Peptostreptococcusなどのいわゆる横隔膜より上の嫌気性菌に効果があ る。(B.fragilis、B.bivius、B.disiensはβラクタマーゼをもつため、感受性がない) 広域ペニシリンは、上記の古典的ペニシリンに追加して、⼤腸菌、インフルエンザ桿菌、 サルモネラ属、シゲラ属などのグラム陰性桿菌にも有効である。また、リステリ ア、Enterococcus Faecalisの治療のファーストチョイスとしても⽤いられる。なお、ア モキシシリンとアンピシリンは抗菌スペクトラムは似ているが、アモキシシリン(パセト シン)のほうがバイオアベイラビリティに優れ、経⼝投与に適している。アモキシシリン
(パセトシン)は細菌性咽頭炎、重症・難治性の急性中⽿炎、感染性⼼内膜炎の予防、ピ ロリ菌の治療などに⽤いられる。抗緑膿菌ペニシリンは、広域ペニシリンに追加して、緑 膿菌と、エンテロバクター属、インドール陽性プロテウス属などもカバーするように進化 した薬剤である。グラム陽性菌への最近活性は低下するため、実際の診療では、緑膿菌感 染症を疑った場合に⽤いられる。 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系に属する薬剤のスペクトラムは、各薬剤により異 なる。アンピシリン・スルバクタム配合薬(ユナシン-S)、アモキシシリン・クラブラ ン酸配合薬(オーグメンチン)は、メチシリン感受性⻩⾊ブドウ球菌(MSSA)、βラクタ マーゼ産⽣クレブシエラ属、モナキセラカタラーリス、B.fragilisや、βラクタマーゼ陽性 アンピシリン耐性インフルエンザ桿菌などにも有効である。したがって、アモキシシリ ン・クラブラン酸配合薬(オーグメンチン)は市中肺炎、憩室炎、動物咬傷などに⽤いら れる。タゾバクタム・ピペラシリン配合薬(ゾシン)は、抗緑膿菌ペニシリンに追加し て、βラクタマーゼ産⽣B.fragilisへの抗菌活性を持つ。 上記のように、ペニシリン系抗菌 薬の開発の歴史は、ペニシリナーゼやβラクタマーゼに対する安定性を確保する歴史で あった。しかし、近年はペニシリン耐性肺炎球菌のようにペニシリン結合タンパク変異を 起こすことによる耐性が進みつつある。現在、中等度耐性も含めると臨床分離される肺炎 球菌の6割以上がペニシリン耐性肺炎球菌が占めるようになってきており、肺炎球菌性肺 炎に対して通常量のペニシリン系の抗菌薬投与では不⼗分な治療となる可能性があり、⾼ ⽤量投与法などが⾏われることも多い。また、インフルエンザ桿菌もβラクタマーゼ陰性 アンピシリン耐性(BLNAR)インフルエンザ桿菌などの菌も検出されるようになってきて いる。 セフェム系抗菌薬:[ID0011] ポイント: セフェム系抗菌薬は、抗菌薬として最も使⽤頻度の⾼い薬剤であり、ペニシリン系抗菌薬 と同様、βラクタム系抗菌薬の⼀種で、細菌の細胞壁の合成を阻害することにより殺菌的 に抗菌活性を持つ。 セフェム系抗菌薬は、その開発された時期と抗菌⼒の特徴により、さらに、①第1世代、 ②第2世代、③ 第3世代、④第4世代、⑤βラクタマーゼ阻害薬配合セフェム系抗菌薬に細 分類される。また、その構造の違いにより、セファロスポリン、セファマイシン、オキサ セフェムに細分類される。 下にさらに詳細に述べるが、基本的には世代が進むとグラム陰性桿菌に対する抗菌⼒が強 くなるが、グラム陽性球菌に対する抗菌⼒は弱くなる。 ①第1世代には、セファゾリン(セファメジン)、セファレキシン(ケフレック ス)、セファクロル(ケフラール)、セフロキサジン(オラスポア)、セファロチン (コアキシン)などの薬剤が存在する。 ②第2世代には、嫌気性菌をカバーするセフメタゾール(セフメタゾン)と、嫌気性 菌をカバーしないセフォチアム(パンスポリン、ハロスポア、ケミスポリン)、セフ ロキシム(オラセフ)、セフミノクス(メイセリン)などの薬剤が存在する。 ③第3世代は、さらに細かく、経⼝セフェムと、⾮経⼝セフェムに分かれ、⾮経⼝セ フェムはさらに、抗緑膿菌活性を持たない⾮経⼝第3世代セフェムと、抗緑膿菌活性 を持つ⾮経⼝第3世代セフェムに細分類される。抗緑膿菌活性を持たない⾮経⼝第3世 代セフェムには、セフォタキシム(セフォタックス、クラフォラン)、セフトリアキ ソン(ロセフィン)、セフォジジム(ケニセフ)、セフチゾキシム(エポセリン)、 ラタモキセフ(シオマリン)が存在し、抗緑膿菌活性を持つ⾮経⼝第3世代セフェム には、セフタジジム(モダシン)、セフォペラゾン(セフォビッド)が存在する。ま た、経⼝第3世代セフェムには、フロモキセフ(フルマリン)、セフィキシム(セフ スパン)、セフテラム(トミロン)、セフポドキシム(バナン)、セフジニル(セフ ゾン)、セフジトレン(メイアクトMS)、セフカペン(フロモックス)、セフチブ テン(セフテム)などの薬剤が存在する。経⼝第3世代セフェムは、腸管からのバイ オアベイラビリティに落ちる薬剤が多い。 ④第4世代には、セフェピム(マキシピーム)、セフピロム(ブロアクト)、セフォ ゾプラン(ファーストシン)が存在する。 ⑤βラクタマーゼ阻害薬配合セフェム系抗菌薬は、スルバクタム・セフォペラゾン配 合薬(スルペラゾン)が存在する。 適応菌種: 第1世代セフェムの適応菌種は、広域ペニシリンと⽐べてペニシリナーゼに安定であり、 好気性グラム陽性球菌に対して抗菌活性がある。特に、ペニシリナーゼ産⽣ブドウ球菌に 対して抗菌活性を認めるため、MSSAの第1選択として⽤いられることが多い。腸球菌を除
くレンサ球菌にも抗菌活性を持つ。⼤腸菌、クレブシエラ属、プロテウスなどの陰性桿菌 にも有効であるが、セファロスポリナーゼに不安定であり、さまざまな耐性菌の報告もあ るため、使⽤は軽症で薬剤感受性を認める場合に限られている。 第2世代セフェムは、第1世代と⽐較して、グラム陰性桿菌であるインフルエンザ菌、嫌気 性菌に対して抗菌活性を広げた代わりにグラム陽性菌に対して抗菌活性が弱まっている。 第3世代セフェムは、第2世代と同様、インフルエンザ菌と嫌気性菌に抗菌活性を持ってい る。第2世代よりも、エンテロバクター、シトロバクター、バクテリオイデスに対して抗 菌活性が優れるが、⼀般的にはMSSA、緑膿菌に対する抗菌⼒が弱い。ただし、第3世代セ フェムは、薬剤ごとに抗菌活性が異なり、セフタジジム(モダシン)は緑膿菌への抗菌活 性を持つ。また、セフトリアキソン(ロセフィン)は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄 膜炎菌への抗菌活性を認める。従って、セフトリアキソン(ロセフィン)は髄膜炎の治療 に⽤いられる事がある。 第4世代セフェムは、第3世代セフェムの弱点であるMSSA、緑膿菌に対する抗菌⼒を認 め、広域な抗菌活性を持つ。ただし、緑膿菌への抗菌活性は、第3世代のセフタジジム (モダシン)より劣る。 βラクタマーゼ阻害薬配合セフェム系抗菌薬は、スルバクタム・セフォペラゾン配合薬 (スルペラゾン)で、第3世代セフェムにβラクタマーゼ阻害薬を配合した薬剤である。 なお、すべてのセフェム系抗菌薬は、腸球菌に対して抗菌活性を持たない。 カルバペネム系抗菌薬:[ID0012] カルバペネム系抗菌薬は、ペニシリン系抗菌薬と同様、βラクタム系抗菌薬の⼀種で、細菌の細 胞壁の合成を阻害することにより殺菌的に抗菌活性を持つ。その特筆すべき特徴はグラム陽性 菌からグラム陰性菌まで幅広い抗菌スペクトラムを持つことであり、重症・難治性の感染症の 治療に⽤いられる。
MRSA、Enterococcus faecium、Stenotophomonas maltophiliaと、Serratia marcescensを除くほぼすべての菌に抗菌作⽤を持つ。 注射薬としては、メロペネム(メロペン)、イミペネム・シラスタチン配合薬(チエナム)、 パニペネム・ベタミプロン配合薬(カルベニン)、ビアペネム(オメガシン)、ドリペネム (フィニバックス)などが存在する。 また、経⼝薬としては、テビペネム(オラペネム)が存在し、⼩児の中⽿炎、副⿐腔炎、肺炎 に適応を限定するかたちで発売されている。 グリコペプチド系抗菌薬:[ID0013] グリコペプチド系抗菌薬は、細菌の細胞壁の合成を阻害することにより殺菌的に抗菌活性を持 つ薬剤である。グリコペプチド系抗菌薬には、バンコマイシン(塩酸バンコマイシン)、テイ コプラニン(タゴシッド)が存在し、バンコマイシンには経⼝薬と注射薬、テイコプラニンに は注射薬が存在する。 グラム陽性菌全般に抗菌スペクトラムを持つが、実臨床現場では、リネゾリド(ザイボック ス)、アルベカシン(ハベカシン)、リファンピシン、ST合剤、ミノマイシンなどとともに、 メチシリン耐性⻩⾊ブドウ球菌(MRSA)の治療に⽤いられることが多い。 近年ブドウ球菌のバンコマイシン耐性化が進んでおりMICのやや⾼い菌が増加する傾向にあ る。⼀⽅、テイコプラニン(タゴシッド)の耐性菌はほとんど確認されていない。 なお、バンコマイシンの治療に関しては、⾎中濃度を測定しTDMを⾏うことが望ましく、点滴 終了後1〜2時間後のピーク値を25〜40μg/mLに投与直前⾎中濃度(トラフ値)が、 10μg/mL以上にするように薬剤設計を⾏う。特に、ピーク値が60〜80μl/ml以上、トラフ値が 30μg/mL以上であると副作⽤が増えることが知られている。なお、MRSA肺炎の治療成功率は VCMのAUC/MICが400以上に達したことと相関しており、重症感染では、AUC/MICを400以 上に保つため、副作⽤に注意しつつトラフ値を15〜20μg/mLのレベルで維持することが提唱 されてもいる。 アミノグリコシド系抗菌薬: [ID0014] アミノグリコシド系抗菌薬は、30S ribosomal subunitに不可逆的に結合し、蛋⽩合成を阻害 することにより、主に殺菌的に抗菌活性を持つ薬剤である。 アミノグリコシド系抗菌薬は、その抗菌活性によりさらに細かく以下のように分類される。 ①抗結核作⽤を持つ、カナマイシン(カナマイシン)、ストレプトマイシン(硫酸ストレ プトマイシン) ②抗グラム陰性桿菌⽤のリボスタマイシン(ビスタマイシン) ③抗緑膿菌⽤のトブラマイシン(トブラシン)、アミカシン(アミカシン硫酸塩)、イセ パマイシン(エクサシン)、ジベカシン(パニマイシン)、ゲンタマイシン(ゲンタシ
ン) ④淋菌のみに適応を持つスペクチノマイシン(トロビシン) ⑤抗MRSA⽤のアルベカシン(ハベカシン) アミノグリコシド系抗菌薬は、緑膿菌を含む広範囲のグラム陰性桿菌、グラム陽性球菌に対 し、幅広い抗菌スペクトラムのため多くの疾患に適応を持つ。その反⾯、嫌気性菌には抗菌活 性を持たず、また、腎障害や⽿毒性などの副作⽤が認められる。 マクロライド系抗菌薬:[ID0015] マクロライド系抗菌薬は、50S ribosomal subunitに結合し、蛋⽩合成を阻害することによ り、主に静菌的に抗菌活性を持つ薬剤である。 マクロライド系抗菌薬は、その基本構造に基づきさらに細かく、以下の3つに細分類される。 ①14員環マクロライドのエリスロマイシン(エリスロシン)、クラリスロマイシン(クラ リス、クラリシッド)、ロキシスロマイシン(ルリッド)、 ②15員環マクロライドのアジスロマイシン(ジスロマック) ③16員環マクロライドのジョサマイシン(ジョサマイ)、ロキタマイシン(リカマイシ ン)、スピラマイシン(アセチルスピラマイシン) なお、15員環マクロライドのアジスロマイシンをアザリド系と呼ぶこともある。 マクロライド系抗菌薬は市中肺炎の原因菌である肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、マイコプラ ズマ、レジオネラに対して抗菌活性を持つため広く市中感染症に対して⽤いられていた。しか し、近年、肺炎球菌、インフルエンザ菌耐性菌が増えており、深刻な問題となっている。例え ば、⽇本における肺炎球菌の分離株の80%以上が、エリスロマイシン(エリスロシン)耐性で ある。 なお、14員環マクロイド抗菌薬はCYP3A4の阻害作⽤を持つため、スタチン、Ca拮抗薬、催眠 鎮静薬、コルチゾールなどを内服の患者では可能な限り⽤いない。 リンコマイシン系抗菌薬:[ID0016] リンコマイシン系抗菌薬は、マクロライド系抗菌薬と同様に50S ribosomal subunitに結合 し、蛋⽩合成を阻害することにより、主に静菌的に抗菌活性を持つ薬剤である。化学構造がマ クロライドと似ているため臨床的に似ているところが多い。 リンコマイシン系抗菌薬に属する薬剤として、クリンダマイシン(ダラシン)、リンコマイシ ン(リンコシン)などがある。 優れた嫌気性菌への抗菌活性を持つため、誤嚥性肺炎などの嫌気性菌の感染症に⽤いられるこ とが多い。 テトラサイクリン系抗菌薬:[ID0017] テトラサイクリン系抗菌薬は、30S ribosomal subunitに結合し、蛋⽩合成を阻害することに より、主に静菌的に抗菌活性を持つ薬剤である。 第1世代のテトラサイクリンとして、テトラサイクリン(アクロマイシン)、デメチルクロル テトラサイクリン(レダマイシン)がある。その後、2世代として⻑時間作⽤型のドキシサイ クリン(ビブラマイシン)、ミノサイクリン(ミノマイシン)が開発された。その後、耐性化 が問題になり、ミノマイシンの⾻格を基にチゲサイクリン(タイガシル)が開発されている。 テトラサイクリンは、グラム陰性菌、グラム陽性菌、嫌気性菌、マイコプラズマ、クラミジ ア、リケッチア、などの⾮定型菌や原⾍などを含む幅広い抗菌活性を持つ。ただし、現在で は、耐性菌化が進んだこともありマイコプラズマ、クラミジア、リケッチアなどの⾮定型菌 や、他薬剤が無効であった場合に⽤いられることが多い。 オキサゾリジノン系抗菌薬: オキサゾリジノン系抗菌薬に属する薬剤として、リネゾリド(ザイボックス)がある。リネゾ リド(ザイボックス)は蛋⽩質合成阻害作⽤により抗菌作⽤を持つ。E.faeciumとE.faecalisの 両⽅に抗菌活性を持つ。 点滴で加療することもできるが、経⼝でも内服ができ、腸管からの吸収が良くまた組織移⾏性 も優れる薬剤である。 臨床的適応は、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)または、MRSAによる感染症の治療であ る。 ストレプトグラミン系抗菌薬: ストレプトグラミン系抗菌薬(に属する薬剤として、キヌプリスチン・ダルホプリスチン配合 薬(シナシッド)がある。作⽤機序は、リボゾームの50Sに結合しタンパク質合成を阻害する ことである。E.faeciumに抗菌活性を持つがE.faecalisには抗菌活性を持たない。
臨床的には、MRSAかE.faeciumによるVREによる感染症の治療に⽤いられる。 クロラムフェニコール系抗菌薬: クロラムフェニコール(クロロマイセチン)は、リボゾームに結合し、タンパク質の合成阻害 をすることで抗菌活性を持つ抗菌薬である。 副作⽤としては、再⽣不良性貧⾎やグレイベイビー症候群が知られている。髄液への移⾏がよ く、臨床的には髄膜炎などに⽤いることはできるが、副作⽤のため実臨床で⽤いられることが 少なくなっている。 キノロン系抗菌薬:[ID0018] キノロン系抗菌薬は、DNAジャイレースまたはトポイソメラーゼの阻害をすることにより、 DNA-RNAの合成を阻害し、主に殺菌的に抗菌活性を持つ薬剤である。 優れた組織移⾏性、幅広い抗菌スペクトラムを持つため、使⽤されることが多い薬剤である。 キノロン系抗菌薬は、ニューキノロンとオールドキノロンに分類され、ニューキノロンはさら に、肺炎球菌への抗菌活性と組織移動性を強めたレスピラトリーキノロンと、⾮レスピラト リーキノロンに細分類される。 市中肺炎の原因菌に幅広く抗菌活性を持つが、結核菌にも効果を⽰し発⾒を遅らせる可能性が あるため、使⽤する際には事前に結核菌を⼗分に除外する。 オールドキノロンには、ナリジクス酸(ウイントマイロン)、ピペミド酸(ドルコール)、シ ノキサシン(タツレキシン)が属す。現在⽤いられることは少ないが、腸内細菌などのグラム 陰性菌に対する抗菌⼒に優れる。 ニューキノロンのうちの⾮レスピラトリ―キノロンには、ノルフロキサシン(バクシダー ル)、オフロキサシン(タリビッド)、シプロフロキサシン(シプロキサン)、ロメフロキサ シン(ロメバクト、バレオン)、パズフロキサシン(パズクロス、パシル)、プルリフロキサ シン(スオード)などの薬剤が属する。 ニューキノロンのうちのレスピラトリーキノロンには、トスフロキサシン(オゼックス、トス キサシン)、レボフロキサシン(クラビット)、モキシフロキサシン(アベロックス)、シタ フロキサシン(グレースビット)、ガレノキサシン(ジェニナック)が属する。 サルファ剤: サルファ剤は下記のST合剤の⼀要素となる薬剤であり、葉酸の合成阻害を⾏うことにより、 DNA-RNAの合成を阻害し、主に殺菌的に抗菌活性を持つ薬剤である。 サルファ剤に属する薬剤として、スルファジメトキシン(アプシード)がある。 ST合剤:[ID0019] ST合剤である、スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合薬(バクトラミン)は、葉酸の 合成阻害を⾏うことにより、DNA-RNAの合成を阻害し、主に殺菌的に抗菌活性を持つ薬剤であ る。スルファメトキサゾールとトリメトプリムは微⽣物の葉酸の合成経路を異なる点で阻害す る。
time above MIC依存的に抗菌活性を持つ。したがって、投与回数を増やし、⾎中濃度を維持 することが望ましい。通常6〜8時間ごとに内服する。 ST合剤として、経⼝薬ではバクタ、点滴薬ではバクトラミンが存在する。 リファンピシン: リファンピシンは優れた抗結核作⽤を持つ抗菌薬である。ただし、結核菌のほかにインフルエ ンザ桿菌、髄膜炎菌、⻩⾊ブドウ球菌などに抗菌活性を持つ。 腸管の吸収もよく体内移⾏も優れた薬剤である。また、プラスチック等の⼈⼯物にも親和性が よく、⼈⼯弁や⼈⼯関節などの感染症に⽤いられる。 オレンジ⾊の薬剤で尿や涙汗がオレンジ⾊に染まる。したがってコンタクトレンズを使⽤して いる場合は使⽤を中⽌する。また、CYP の誘導をすることが知られており、ワルファリンなど の薬剤の代謝を⾼めるため併⽤に注意が必要である。 臨床的には、結核の治療、髄膜炎菌感染の予防、⻩⾊ブドウ球菌の治療時の併⽤薬として⽤い られる。 ポリペプチド系抗菌薬: ポリミキシンB(ポリミキシン)、ダプトマイシン(キュビシン)は、ペプチド系の抗菌薬と 呼ばれ、細胞膜に結合し膜を破壊することにより抗菌活性を持つ。副作⽤としてはミオパチー が知られている。 MRSAによる軟部組織感染症に⽤いられることがある。
著者のCOI(Conflicts of Interest)開⽰: 中原保裕:原稿料((株)学研メディカル秀潤社) 最終更新⽇ : 2016年3⽉30⽇ <<ページ末尾:#searchDetails4.aspx?DiseaseID=3820>> 追加情報ページへのリンク 抗菌薬(薬理)に関する詳細情報 抗菌薬(薬理)に関する画像 (5件) ※薬剤中分類、⽤法、同効薬、診療報酬は、エルゼビアが独⾃に作成した薬剤情報であり、 著者により作成された情報ではありません。 尚、⽤法は添付⽂書より、同効薬は、薬剤師監修のもとで作成しております。 ※薬剤情報の(適外/適内/⽤量内/⽤量外/㊜)等の表記は、エルゼビアジャパン編集部によって記載⽇時にレセプトチェッ クソフトなどで確認し作成しております。ただし、これらの記載は、実際の保険適⽤の査定において保険適⽤及び保険 適⽤外と判断されることを保証するものではありません。また、検査薬、輸液、⾎液製剤、全⾝⿇酔薬、抗癌剤等の薬 剤は保険適⽤の記載の⼀部を割愛させていただいています。 (詳細はこちらを参照)
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中原 保裕、『今⽇の臨床サポート』編集部■詳細情報
#3820各論
0:ペニシリン系抗菌薬 [ID0010] ポイント(薬理・病態): ペニシリン系抗菌薬は、βラクタム系抗菌薬の⼀種で、細菌の細胞壁の合成を阻害することに より殺菌的に抗菌活性を持つ。 ペニシリン系抗菌薬は、さらに、①古典的ペニシリン、②広域ペニシリン、③抗緑膿菌ペニシ リン、④βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系に細分類される。 ①古典的ペニシリンには、ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリン)、ベンジルペニ シリン(ペニシリンG)、アンピシリン・クロキサシリン配合薬(ビクシリンS)などの薬 剤が存在する。 ②広域ペニシリンには、アンピシリン(ビクシリン)、アモキシシリン(サワシリン、パ セトシン)、バカンピシリン(ペングッド)、アスポキシシリン(ドイル)などの薬剤が 存在する。 ③抗緑膿菌ペニシリンには、ピペラシリン(ペントシリン)などの薬剤が存在する。 ④βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンには、アモキシシリン・クラブラン酸配合薬 (オーグメンチン)、スルタミシリン(ユナシン)、アンピシリン・スルバクタム配合薬 (ユナシン-S)、タゾバクタム・ピペラシリン配合薬(ゾシン)などの薬剤が存在す る。なお、タゾバクタム・ピペラシリン配合薬(ゾシン)は、抗緑膿菌活性も持つ。 投与⽅法・抗菌活性: 抗菌活性は時間依存的で、post-antibiotic effectを認めない薬剤であるため、治療の際には、 time above MICを最⼤化することで抗菌活性が最⼤化される。グラム陽性菌をターゲットに した場合は、time above MICが薬剤投与間隔の40%以上であることが望ましく、グラム陰性 菌をターゲットにした場合は、time above MICが薬剤投与間隔の60%以上であることが望ま しい。したがって、多くのペニシリン系抗菌薬の半減期は約1時間であるため、結果として、1 ⽇3〜4回の投与が必要になることが多い。 ⽇本で処⽅可能な⽤量では、海外のエビデンスに基づく加療には⽤量が不⾜するときもある。 特に市中肺炎に対して、オーグメンチンを⽤いる際は、国内の保険適応量であるオーグメンチ ン配合錠250RS 1回1錠1⽇3回では、ペニシリン量が不⾜する懸念があり、原則サワシリン [250mg] 1回1錠1⽇3回と併⽤することを考慮するよう、⽇本感染症学会監修のJAID/JSC 感染症治療ガイド2011に記載されている。また、ペニシリンG、ユナシン点滴静注薬も⽶国の 投与量と⽇本の投与量は異なることが知られている。 体内分布: ほとんどのペニシリン系抗菌薬は、尿中、胆汁中、肺、胸膜腔、⼼膜腔、腹腔、関節腔への移 ⾏が認められるが、肺への移⾏はニューキノロン系抗菌薬と⽐較して低い。また、ほとんどの ペニシリン系抗菌薬の胆汁排泄率(胆汁濃度/⾎清濃度)は100%以上とよい。髄液移⾏性 (髄液濃度/⾎清濃度)に関しては、薬品によって異なり、広域ペニシリン、ペニシリンは 15%未満であるのに対しPIPC(ピペラシリン)は30%程度であり、総じて炎症のない場合の 髄液移⾏性は優れてはいない。 半減期・排泄・⽤量調整: 多くのペニシリン系抗菌薬の半減期は約1時間である。したがって、⾎中濃度を保つためには 頻回の投与を必要とする。 古典的ペニシリン、広域ペニシリン、抗緑膿菌ペニシリン、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシ リンの主な排泄経路は腎である。したがって、腎機能障害患者での⽤量調節には注意を要す る。 適応菌種: 古典的ペニシリンは、耐性を持たない多くの好気性グラム陽性球菌 (ペニシリン耐性肺炎球 菌、ペニシリナーゼ産⽣ブドウ球菌などを除く)と、リステリアなどの⼀部のグラム陰性桿 菌、髄膜炎菌などのグラム陰性球菌(ペニシリナーゼ産⽣淋菌、モナキセラカタラーリスなど を除く)、B.fragilisを除く多くの嫌気性菌に有効である。 広域ペニシリンは、上記の古典的ペニシリンに追加して、⼤腸菌、インフルエンザ桿菌、サルモネラ属、シゲラ属などのグラム陰性桿菌にも有効である。 抗緑膿菌ペニシリンは、広域ペニシリンに追加して、緑膿菌とエンテロバクター属、インドー ル陽性プロテウス属などもカバーするように進化した薬剤である。 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系に属する薬剤のスペクトラムは、各薬剤により異な る。アンピシリン・スルバクタム配合薬(ユナシン-S)、アモキシシリン・クラブラン酸配 合薬(オーグメンチン)は、モナキセラカタラーリス、βラクタマーゼ産⽣クレブシエラ属、 メチシリン感受性⻩⾊ブドウ球菌(MSSA)、B.fragilisや、βラクタマーゼ陽性アンピシリン 耐性インフルエンザ桿菌などにも有効である。⼀⽅、タゾバクタム・ピペラシリン配合薬(ゾ シン)は、抗緑膿菌ペニシリンのスペクトラムに追加して、βラクタマーゼ産⽣B.fragilisなど への抗菌活性を持つ。 上記のように、ペニシリン系抗菌薬の開発の歴史は、ペニシリナーゼやβラクタマーゼに対す る安定性を確保する歴史であった。しかし、近年はペニシリン耐性肺炎球菌のようにペニシリ ン結合タンパク変異を起こすことによる耐性が進みつつある。現在、中等度耐性も含めると臨 床分離される肺炎球菌の6割以上がペニシリン耐性肺炎球菌が占めるようになってきており、 肺炎球菌性肺炎の治療に通常量のペニシリン系の抗菌薬では不⼗分な治療となる可能性があ り、⾼⽤量投与法などが⾏われることも多い。また、インフルエンザ桿菌もβラクタマーゼ陰 性アンピシリン耐性(BLNAR)インフルエンザ桿菌などの菌も培養されるようになってきてい る。 主な臨床的適応: ペニシリン系薬は現在、溶連菌などによる咽頭炎や⽪膚軟部感染症、感染性⼼内膜炎の第1選 択薬である。また、βラクタマーゼ配合ペニシリン系薬であるアモキシシリン・クラブラン酸 配合薬(オーグメンチン)は、⾼⽤量投与法などで、現在肺炎の第1選択薬として⽤いられる ことも多い。また、緑膿菌の関与を疑わせる院内肺炎などでは、βラクタマーゼ配合抗緑膿菌 ペニシリン系抗菌薬であるタゾバクタム・ピペラシリン配合薬(ゾシン)などが⽤いられるこ ともある。 主な副作⽤: 副作⽤は総じて少ない。最も重要な副作⽤はアレルギー反応である。 主な相互作⽤: ペニシリン系薬は、プロベンナシッドとの併⽤で、排泄の遅延が起きることが知られている。 アンピシリンは、EBウイルスの患者に⽤いることにより、鮮明な浸出性紅斑様⽪疹や丘疹など を呈する頻度が上昇する(アンピシリン疹)。 タゾバクタム・ピペラシリン配合薬(ゾシン)とメトトレキサート(リウマトレックス)の併 ⽤は腎尿細管分泌の阻害によりメトトレキサートの⾎中濃度を上昇させる可能性があるため注 意する。 添付⽂書記載の禁忌・副作⽤情報: 抗菌薬(ペニシリン系): 重⼤な副作⽤: ショック、溶⾎性貧⾎、無顆粒球症、急性腎不全等の重篤な腎障害、痙攣、偽膜性⼤ 腸炎等の⾎便を伴う重篤な⼤腸炎、中毒性表⽪壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis、TEN)、⽪膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、出⾎性膀胱炎 その他の副作⽤: 発熱、発疹、蕁⿇疹、好酸球増多、顆粒球減少、⾎⼩板減少、貧⾎、AST(GOT)上 昇、⾎管痛、静脈炎、梅毒患者におけるヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(発 熱、全⾝倦怠感、頭痛等の発現、病変部の増悪) (以上はベンジルペニシリン[注射⽤ペニシリンGカリウム]の添付⽂書の情報をもとに作 成) 抗菌薬(βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン): 重要な副作⽤: ショック、溶⾎性貧⾎、間質性腎炎、急性腎不全、偽膜性⼤腸炎 その他の副作⽤: 発熱、発疹、じん⿇疹、好酸球増多症、肝機能障害(AST(GOT)上昇、 ALT(GPT)上昇)、下痢、悪⼼、⾷欲不振、梅毒患者におけるヤーリッシュ・ヘル クスハイマー反応(発熱、全⾝倦怠感、頭痛等の発現、病変部の増悪) (以上はアモキシシリン・クラブラン酸配合[オーグメンチン配合錠125SS]の添付⽂書の 情報をもとに作成)
1:セフェム系抗菌薬 [ID0011] ポイント(薬理・病態): セフェム系抗菌薬は、抗菌薬として最も使⽤頻度の⾼い薬剤であり、ペニシリン系抗菌薬と同 様、βラクタム系抗菌薬の⼀種で、細菌の細胞壁の合成を阻害することにより殺菌的に抗菌活 性を持つ。 セフェム系抗菌薬は、その開発された時期と抗菌スペクトラムの特徴により、さらに、①第1 世代、② 第2世代、③第3世代、④第4世代、⑤βラクタマーゼ阻害薬配合セフェム系抗菌薬に 細分類される。また、その構造の違いにより、セファロスポリン、セファマイシン、オキサセ フェムに細分類される。 ①第1世代には、セファゾリン(セファメジン、セファゾリンNa)、セファレキシン(ケ フレックス)、セファクロル(ケフラール)、セフロキサジン(オラスポア)、セファロ チン(コアキシン)などの薬剤が存在する。 ②第2世代には、嫌気性菌をカバーするセフメタゾール(セフメタゾン)と、嫌気性菌を カバーしないセフォチアム(パンスポリン、ハロスポア、ケミスポリン)、セフロキシム (オラセフ)、セフミノクス(メイセリン)などの薬剤が存在する。 ③第3世代は、さらに細かく、抗緑膿菌活性を持たない⾮経⼝第3世代セフェムと、抗緑膿 菌活性を持つ⾮経⼝第3世代セフェムと、経⼝セフェムに細分類される。抗緑膿菌活性を 持たない⾮経⼝第3世代セフェムには、セフォタキシム(セフォタックス、クラフォラ ン)、セフトリアキソン(ロセフィン)、セフォジジム(ケニセフ)、セフチゾキシム (エポセリン)、ラタモキセフ(シオマリン)が存在し、抗緑膿菌活性を持つ⾮経⼝第3 世代セフェムには、セフタジジム(モダシン)、セフォペラゾン(セフォビッド)が存在 する。また、経⼝第3世代セフェムには、フロモキセフ(フルマリン)、セフィキシム (セフスパン)、セフテラム(トミロン)、セフポドキシム(バナン)、セフジニル(セ フゾン)、セフジトレン(メイアクトMS)、セフカペン(フロモックス)、セフチブテ ン(セフテム)などの薬剤が存在する。なお、抗緑膿菌活性を持たない⾮経⼝第3世代セ フェムの中で、セフトリアキソン(ロセフィン)、セフォペラゾン(セフォペラジン、セ フォビッド)が、胆汁、腎の両⽅で排泄されるため腎障害の患者でも⽐較的使⽤をしやす い。経⼝第3世代セフェムは、腸管からのバイオアベイラビリティに落ちる薬剤が多い。 ④第4世代は、セフェピム(マキシピーム)、セフピロム(ケイテン、ブロアクト)、セ フォゾプラン(ファーストシン)が存在する。 ⑤βラクタマーゼ阻害薬配合セフェム系抗菌薬は、スルバクタム・セフォペラゾン配合薬 (スルペラゾン)が存在する。 投与⽅法・抗菌活性: 抗菌活性は時間依存的で、post-antibiotic effectを認めない薬剤であるため、治療の際には、 time above MICを最⼤化することで抗菌活性が最⼤化される。グラム陽性菌をターゲットに した場合は、time above MICが薬剤投与間隔の40%以上であることで最⼤の効果が⾒込まれ る。⼀⽅、グラム陰性菌をターゲットにした場合は、time above MICが薬剤投与間隔の40% で効果が現れ、80%で最⼤の効果を認める。 体内分布: 尿中、胆汁中、肺、胸膜腔、⼼膜腔、腹腔、関節腔への移⾏が認められる。 胆汁排泄率(胆汁濃度/⾎清濃度)のよい薬剤としてセフトリアキソン(ロセフィン)、セフォ ペラゾン(セフォペラジン、セフォビッド)が知られている。 髄液移⾏性(髄液濃度/⾎清濃度)の優れる薬剤としては、セフタジジム(モダシン) (20〜 40%)が知られている。しかし、その他の薬剤の⾮炎症時の髄液移⾏性はあまり期待できな い。ただし、⾮炎症時の髄液移⾏性が良好でないが原因菌に対する抗菌性を考慮して、セフォ タキシム(セフォタックス,クラフォラン)、セフトリアキソン(ロセフィン)は細菌性髄膜炎 で良く⽤いられている。 半減期・排泄・⽤量調整: 多くのセフェム系薬剤の半減期は、ペニシリン系より⻑く通常、1〜3時間程度である。セフト リアキソン(ロセフィン)は、例外的にさらに半減期が7時間と⻑く、外来で1⽇1回投与にて
⽤いられることが多い。 また、ほとんどのセフェム系抗菌薬の主な排泄経路は腎排泄であり、腎機能障害患者での⽤量 調節には注意を要する。例外として、セフトリアキソン(ロセフィン)、セフォペラゾン(セ フォペラジン、セフォビッド)は、胆汁、腎臓の両⽅で排泄される。 適応菌種: 第1世代セフェムの適応菌種は、広域ペニシリンと⽐べてペニシリナーゼに安定であり、 好気性グラム陽性球菌に対して抗菌活性がある。特に、ペニシリナーゼ産⽣ブドウ球菌に 対して抗菌活性を認めるため、MSSAの第1選択として⽤いられることが多い。腸球菌(D 群レンサ球菌)を除くレンサ球菌にも抗菌活性を持つ。⼤腸菌、クレブシエラ属、プロテ ウスなどの陰性桿菌にも有効であるが、セファロスポリナーゼに不安定であり、さまざま な耐性菌の報告もあるため、使⽤は軽症で薬剤感受性を認める場合に限られている。 第2世代セフェムは、第1世代と⽐較して、グラム陰性桿菌であるインフルエンザ菌、嫌気 性菌に対して抗菌活性を広げた代わりにグラム陽性菌に対して抗菌活性が弱まっている。 第3世代セフェムは、第2世代と同様、インフルエンザ菌と嫌気性菌に抗菌活性を持ってい る。第2世代よりも、エンテロバクター属、シトロバクター属、バクテリオイデス属に対 して抗菌活性が優れるが、⼀般的にはMSSA、緑膿菌に対する抗菌⼒が弱い。ただし、第 3世代セフェムは、薬剤ごとに抗菌活性が異なり、セフタジジム(モダシン)は緑膿菌へ の抗菌活性を持つ。また、セフトリアキソン(ロセフィン)は、肺炎球菌、インフルエン ザ菌、髄膜炎菌への抗菌活性を認める。従って、セフトリアキソン(ロセフィン)は髄膜 炎の治療に⽤いられることがある。 第4世代セフェムは、第3世代セフェムの弱点であるMSSA、緑膿菌に対する抗菌⼒を認 め、広域な抗菌活性を持つ。ただし、通常⽤量では緑膿菌への抗菌活性は、第3世代のセ フタジジム(モダシン)より劣る。 βラクタマーゼ阻害薬配合セフェム系抗菌薬は、スルバクタム・セフォペラゾン配合薬 (スルペラゾン)で、第3世代セフェムにβラクタマーゼ阻害薬を配合した薬剤である。 なお、すべてのセフェム系抗菌薬は腸球菌に対して抗菌活性を持たない。 主な臨床的適応: 第1世代セフェムの適応は、市中感染の⽪膚軟部組織感染症、単純性尿路感染症、胆道疾患、 ⼿術の術前投与などである。 第2世代セフェムの適応は、特にインフルエンザ桿菌を原因菌に含む市中肺炎などで⽤いられ る。また、嫌気性菌に抗菌活性を持つセファマイシン系薬であるセフメタゾール(セフメタゾ ン)は、グラム陰性菌と嫌気性菌の混合感染を起こしやすい腹腔内、⾻盤内感染症に⽤いられ ることが多い。 第3世代セフェムの適応は、第1世代セフェム、第2世代セフェムにて効果を認めないβラクタ マーゼ産⽣グラム陰性桿菌が原因菌となる尿路感染、院内肺炎、髄膜炎などである。患者のコ ンプライアンスが問題になる淋菌感染症では、1回の投与効果が⻑いセフトリアキソン(ロセ フィン)はよい適応であり、また、緑膿菌の感染症を疑う場合に、セフタジジム(モダシン) はよい適応である。 主な副作⽤: 抗菌薬の中では副作⽤は総じて少ない。最も重要なものはアレルギー反応である。なお、ペニ シリン系とセフェム系のアレルギー交差反応は1〜7%程度であり、ペニシリン系にアレルギー を認める場合は基本的には多剤を⽤いることが望ましい。 ほかに、発疹、下痢などの副作⽤を認める。 主な相互作⽤: アルコールとの併⽤で、ジスルフィラム(嫌酒薬)様作⽤が⽣じ潮紅、悪⼼、頻脈などの症状 を訴えることがある。 添付⽂書記載の禁忌・副作⽤情報: 抗菌薬(セフェム系 第1世代): 重要な副作⽤: ショック、アナフィラキシー(0.1%未満)、急性腎不全(0.1%未満)、溶⾎性貧⾎ (0.1%未満)、偽膜性⼤腸炎(0.1% 未満)、中毒性表⽪壊死融解症(toxic epidermal necrolysis、TEN)、⽪膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群) ((0.1%未満)、間質性肺炎、PIE症候群(0.1%未 満) その他の副作⽤:
発疹、じん⿇疹、紅斑、搔痒、発熱、リンパ腺腫脹、関節痛等、顆粒球減少、好酸球 増多、⾎⼩板減少、⻩疸、AST(GOT)上 昇、ALT(GPT)上昇、ALP上昇、悪⼼、 嘔吐、下痢、軟便、腹痛、⾷欲不振、胃不快感等、⼝内炎、カンジダ症、ビタミンK ⽋乏症状(低プロトロンビ ン⾎症、出⾎傾向等)、ビタミンB群⽋乏症状(⾆炎、⼝ 内炎、⾷欲不振,神経炎等)、頭痛、めまい、全⾝倦怠感 (以上はセファレキシン[L-ケフレックス⼩児⽤顆粒]の添付⽂書の情報をもとに作成) 抗菌薬(βラクタマーゼ阻害薬配合セフェム系): 重要な副作⽤: ショック、アナフィラキシー様症状(呼吸困難等)、急性腎不全、偽膜性⼤腸炎、間 質性肺炎、PIE症候群、中毒性表⽪壊死融解症 (toxic epidermal necrolysis、 TEN)、⽪膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、⾎液障害、劇症肝炎、肝機 能障害、⻩疸 その他の副作⽤: 発疹(斑状丘疹性⽪疹等)、搔痒、じん⿇疹、紅斑、⾚⾎球減少、⾎⼩板増多、⽩⾎ 球減少、好酸球増多、貧⾎、AST(GOT)、 ALT(GPT)、ALPの上昇、ビリルビン の上昇、下痢、軟便、悪⼼・嘔吐、けいれん、⼝内炎、カンジダ症、発熱、頭痛、⾎ 尿、ビタミンK⽋乏症状(低プロ トロンビン⾎症、出⾎傾向等)、ビタミンB群⽋乏 症状(⾆炎、⼝内炎、⾷欲不振、神経炎等)、低⾎圧、⾎管炎、注射部静脈炎、注射 部痛 (以上はスルバクタム・セフォペラゾン配合[スルペラゾン静注⽤0.5g]の添付⽂書の情報 をもとに作成) 2:カルバペネム系抗菌薬 [ID0012] ポイント(薬理・病態): カルバペネム系抗菌薬は、ペニシリン系抗菌薬と同様、βラクタム系抗菌薬の⼀種で、細菌の 細胞壁の合成を阻害することにより殺菌的に抗菌活性を持つ。その特筆すべき特徴はグラム陽 性菌からグラム陰性菌まで幅広い抗菌スペクトラムを持つことであり、重症・難治性の感染症 の治療に⽤いられる。 注射薬としては、メロペネム(メロペン)、イミペネム・シラスタチン配合薬(チエナム)、 パニペネム・ベタミプロン配合薬(カルベニン)、ビアペネム(オメガシン)、ドリペネム (フィニバックス)などが存在する。 また、経⼝薬としては、テビペネム(オラペネム)が存在し、⼩児の中⽿炎、副⿐腔炎、肺炎 に適応を限定するかたちで発売されている。 投与⽅法・抗菌活性: 注射薬のカルバペネムは、抗菌活性は時間依存的で、post-antibiotic effect(PAE)を認めな い薬剤であるため、治療の際には、time above MICを最⼤化することで抗菌活性が最⼤化さ れる。グラム陽性菌をターゲットにした場合は、time above MICが薬剤投与間隔の40%以上 であることで最⼤の効果が⾒込まれる。⼀⽅、グラム陰性菌をターゲットにした場合は、time above MICが薬剤投与間隔の20〜30%で効果が現れ、40〜50%で最⼤の効果を認めるとされ る。 また、テビペネム(オラペネム)の薬効と最も相関するパラメーターはAUC/MICであることも 知られている。これはテビペネム(オラペネム)の持つPAEによるものと推察されている。 体内分布: カルバペネム系抗菌薬の注射薬に関しては、尿中、胆汁中、肺、胸膜腔、⼼膜腔、腹腔、関節 腔への良好な移⾏が認められる。また、テビペネム(オラペネム)の⽿漏への移⾏はおおむね 良好である。 半減期・排泄・⽤量調整: カルバペネム系抗菌薬の注射薬、テビペネム(オラペネム)の半減期はともに、1時間程度で ある。⾎中濃度を保つには頻回の投与が必要になる。 適応菌種: カルバペネム系抗菌薬は、上述のように、グラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅広い抗菌スペ クトラムを持ち、MRSA、Enterococcus faecium、Stenotophomonas maltophiliaと、Serratia marcescensを除くほぼすべての菌に抗菌作⽤を持つ。 MSSA、ブドウ球菌、肺炎球菌、溶連菌、⼤腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、アシネトバクターなど に対しても優れた抗菌⼒を持つ。近年、緑膿菌のカルバペネムに対する耐性菌化が進んでいる
ため注意が必要である。 また、テビペネム(オラペネム)は、緑膿菌、アシネトバクター、Enterococcus feeciumを 除き、幅広い菌種に抗菌活性を持つが、適応が⼩児の中⽿炎、副⿐腔炎、肺炎に限定されてい るため保険上の適応菌種はそれらの起因菌となっている。 主な臨床的適応: 注射薬に関しては、基本的には他の薬剤で治療が困難な重症・難治性の院内肺炎、細菌性髄膜 炎、などの治療に⽤いられることが実臨床では多い。 テビペネム(オラペネム)に関しては、⼩児中⽿炎、副⿐腔炎、肺炎に限定している。 主な副作⽤: 他のβラクタム系抗菌薬と同様、副作⽤は総じて少ない。カルバペネム系に特徴的な副作⽤と して、イミペネム・シラスタチン配合薬(チエナム)によってけいれんが誘発されるという現 象が認められている。 主な相互作⽤: バルプロ酸の⾎中濃度が低下することが知られており、バルプロ酸との併⽤は禁忌とされてい る。 添付⽂書記載の禁忌・副作⽤情報: 禁忌: バルプロ酸ナトリウム投与中の患者 重要な副作⽤: ショック、アナフィラキシー、急性腎不全等の重篤な腎障害、劇症肝炎、肝機能障害、⻩ 疸、偽膜性⼤腸炎等の⾎便を伴う重篤な⼤腸炎、間質性肺炎、PIE症候群、けいれん、意 識障害等の中枢神経症状、中毒性表⽪壊死融解症(toxic epidermal necrolysis、 TEN)、⽪膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、汎⾎球減少、無顆粒球症、溶⾎ 性貧⾎、⽩⾎球減少、⾎⼩板 減少、⾎栓性静脈炎 その他の副作⽤: 発疹、発熱、じん⿇疹、紅斑、搔痒、発⾚等、熱感、顆粒球減少、好酸球増多、⾎⼩板減 少または増多、⾚⾎球減少、ヘモグロビンの減少等、好塩基球増多、リンパ球増多、好中 球増多、単球増多、ヘマトクリットの減少、異型リンパ球出現等、AST(GOT)、 ALT(GPT)、LDH、 ALP、LAP、γ-GTP、ビリルビン、尿ウロビリノーゲンの上昇、コ リンエステラーゼ低下等、⻩疸、BUN、クレアチニンの上昇、尿中β2-マイクロ グロブリ ンの上昇、尿蛋⽩陽性、下痢、嘔気、嘔吐、腹痛、⾷欲不振、⼝内炎、カンジダ症、ビタ ミンK⽋乏症状(低プロトロンビン⾎症、出⾎傾向等)、ビタ ミンB群⽋乏症状(⾆炎、 ⼝内炎、⾷欲不振、神経炎等)、⾎清カリウム上昇、頭痛、倦怠感、不穏、⾎清ナトリウ ム低下、⾎清カリウム低下、CK(CPK) 上昇、トリグリセリド増加、胸部不快感、⾎中 尿酸減少または増加、注射部位反応(炎症、疼痛、硬結等)、ミオクローヌス、せん妄 (以上はメロペネム[メロペン点滴⽤バイアル0.25g]の添付⽂書の情報をもとに作成) 3:グリコペプチド系抗菌薬 [ID0013] ポイント(薬理・病態): グリコペプチド系抗菌薬は、細菌の細胞壁の合成を阻害することにより殺菌的に抗菌活性を持 つ薬剤である。グリコペプチド系抗菌薬には、バンコマイシン(塩酸バンコマイシン)、テイ コプラニン(タゴシッド)が存在し、バンコマイシンには経⼝薬と注射薬、テイコプラニンに は注射薬が存在する。 グラム陽性菌全般に抗菌スペクトラムを持つが、実臨床現場では、リネゾリド(ザイボック ス)、アルベカシン(ハベカシン)、リファンピシン、ST合剤、ミノマイシンなどとともに、 MRSAの治療に⽤いられることが多い。 近年ブドウ球菌のバンコマイシン耐性化がすすんでおりMICのやや⾼い菌が増加する傾向にあ る。⼀⽅、テイコプラニン(タゴシッド)の耐性菌はほとんど確認されていない。 投与⽅法・抗菌活性: グリコペプチド系抗菌薬は、抗菌活性は時間依存的で、post-antibiotic effectを認める薬剤で あるため、治療の際には、AUC/ MICを最⼤化することで抗菌活性が最⼤化される。ただし、 通常は投与量の設計の⽬的ではAUCは測定せず、投与直前⾎中濃度(トラフ値)により代⽤を する事が多い。 バンコマイシンの投与量に関しては、腎機能正常例では1回15〜20 mg/kg(実測体重)を12
時間毎に投与する。なお、1⽇3g以上の投与は慎重に⾏い1⽇4gを上限とする。バンコマイシ ンをあまり急激に投与するとレッドマン症候群を発症することがあるため、それを回避するた めに、1 g以上の投与では1時間以上をかけて投与する必要がある。また、1gを超える量に関し ては500 mgあたり30分以上を⽬安に投与時間を延⻑する。透析患者においては、初⽇は15〜 25 mg/kg(実測体重)を1回投与する(専⾨家は20〜25 mg/kgを推奨している)。なお、バ ンコマイシンは透析で除去されるため、その後は、透析⽇のみに透析後に通常量の半量(7.5 〜10 mg/kg)の投与を⾏う。持続的⾎液ろ過透析中の患者においては、通常の透析患者と同 様に初回投与を⾏い、その後は24時間ごとに通常量の半量(7.5〜10 mg/kg)の投与をしな がら週1回程度⾎中濃度の評価を⾏い、⽤量を調節する。持続的腹膜透析関連腹膜炎患者に腹 腔内投与する場合には、無尿の場合は15〜30 mg/kgを無尿ではない患者には25%増量した量 を5〜7⽇おきに投与する。 バンコマイシンのTDMに関しては、4⽇以上バンコマイシン治療を⾏う可能性のある場合を⾏ う。特に、⾼⽤量投与時、重症感染症例、腎機能障害例(透析も含む)、肥満または低体重を 認める患者、分布容積が予測困難な特殊病態症例では評価が必要である。腎機能正常で1⽇2回 投与の場合、初回は⾎中濃度が安定した頃である3⽇⽬の4〜5回投与直前の採⾎で評価し、そ の後は1週間に1回の評価を基本とし、⾎⾏動態が不安定な場合や⾼⽤量の投与を⾏っている患 者、腎機能低下を認める患者、腎障害のリスクが⾼い患者では、より頻回の評価を⾏う。トラ フ値の測定には投与前30分以内の採⾎をし、トラフ値が10〜20μg/mLにするように投与設計 を⾏う。特に、ピーク値が60〜80μl/mL以上、トラフ値が30μg/mL以上であると副作⽤が増 えることが知られている。なお、MRSA肺炎の治療成功率はバンコマイシンのAUC/MICが400 以上に達したことと相関しており、重症感染(菌⾎症、⼼内膜炎、⾻髄炎、髄膜炎、院内肺 炎、医療・介護関連肺炎、重症⽪膚軟部組織感染)では、AUC/MICを400以上に保つため、副 作⽤に注意しつつトラフ値を15〜20μg/mLのレベルで維持することが提唱されてもいる。な お、トラフ値20 μg/mL以上は腎毒性の発現が⾼率となる。重篤な感染症や⼼内膜炎、⾻関節 感染症などの複雑性感染症の場合は、早期に⾎中濃度を上げるために初回のみローディング ドーズ25〜30mg/kgを考慮する。バンコマイシンのMICが2 μg/mLのMRSAが原因菌の場合 は代替療法を考慮し、MICが4 μg/mLの場合は他の治療を選択する。ただし、その際にはテイ コプラニンでは交差耐性の可能性があることに注意する。なお、通常ピーク値を測定する必要 は少ないが、必要な場合は点滴終了後1〜2時間後に測定し、ピーク値は25〜40μg/mLにコン トロールをする。 テイコプラニン(タゴシッド)の投与⽅法に関しては、添付⽂書の記載では、「成⼈にはテイ コプラニンとして初⽇400mgまたは800mgを2回に分け、以後1⽇1回200mgまたは400mg を30分以上かけて点滴静注する。」と記載されている。しかし、初回のTDMでトラフ値を15 μg/mL以上とするためには、通常この⽤量では不⾜しており、2⽇間400 mg(6 mg/kg)1⽇ 2回の連続投与もしくはそれ以上の⽤量が必要となる事が多い。症例ごとに投与量を検討す る。 腎機能低下患者、透析患者、持続的⾎液ろ過透析でも、初⽇よりローディングドーズを含め3 ⽇間は腎機能正常者と同じ投与を⾏う。その後は投与間隔の延⻑または1回投与量の減量を⾏ う。透析患者では透析⽇に透析後に3〜6 mg/kgを、持続的⾎液ろ過透析患者では48時間毎に 3〜6 mg/kg投与(または1回3mg/kg連⽇投与)を維持⽤量の⽬安として投与し、週1回程 度、⾎中濃度を評価し調節する。なお、低アルブミン⾎症では、投与量から予想されるよりも ⾎中濃度が低くなることがある。 テイコプラニン(タゴシッド)のTDMに関しては、4⽇以上の治療を受ける患者で考慮する。 テイコプラニン(タゴシッド)の⽬標トラフ値は10〜30μg/mLである。なお、専⾨家は15 μg/mL以上を推奨している。特に、重症例や⼼内膜炎、⾻関節感染症などの複雑性感染症で は、⽬標トラフ値を20 μg/mL以上に設定する。なお、トラフ値が30μg/mL以上で効果が上昇 するという報告はなく、40〜60μg/mL以上では、腎障害、⾎液毒性、肝障害などの副作⽤が 報告されている。したがって、30 μg/mL以上で維持することは推奨されていない。初回⾎中 濃度の評価は負荷投与を⾏った症例では腎機能に関わらず3⽇間投与後、通常は4⽇⽬に採⾎を ⾏う。また、前⽇に1⽇2回の負荷投与を⾏った場合は、トラフ値の採⾎は最終投与から18時 間以上経過してから⾏う 体内分布: バンコマイシン、テイコプラニンは、ともに分⼦量も⼤きく、リネゾリド(ザイボックス)と ⽐較して組織移⾏性がよくない。 バンコマイシンは経⼝から投与された場合に、腸管から吸収されない。 適応菌種: グラム陽性菌に対して好気性、嫌気性を問わずに抗菌⼒を認める。⼀⽅、表層構造に外膜を持
つグラム陰性菌では、薬剤が細胞内へ透過するのを障害されるため効果がない。 主な臨床的適応: 経⼝のバンコマイシン投与は、クロストリジウムディフィシル感染症と、MRSA腸炎に⽤いら れる。 注射薬のバンコマイシンとテイコプラニンは、主にMRSA感染症やペニシリン耐性肺炎球菌感 染症に⽤いられる。 添付⽂書記載の禁忌・副作⽤情報: バンコマイシン: 警告: 本剤の耐性菌の発現を防ぐため、「⽤法・⽤量に関連する使⽤上の注意」の項を熟読 のうえ、適正使⽤に努めること。 重要な副作⽤: ショック(0.1%未満)、アナフィラキシー様症状,急性腎不全、間質性腎炎、汎⾎球 減少、無顆粒球症、⾎⼩板減少、中毒性表⽪壊 死融解症(toxic epidermal necrolysis、TEN)、⽪膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、剥脱性⽪膚 炎、第8脳神経障害,偽膜性⼤腸炎、肝機能障害、⻩疸 その他の副作⽤: 発熱、発疹、潮紅、悪寒、じん⿇疹、搔痒、好酸球増多、⽩⾎球減少、⾎⼩板減少、 貧⾎、AST(GOT)上昇、ALT(GPT)上昇、ALP上昇、下痢(48%)、悪⼼ (28%)・嘔吐(34%)、⾷欲不振、BUN上昇、クレアチニン上昇、⼝内炎、⾆炎 (以上はバンコマイシン[塩酸バンコマイシン散0.5g]の添付⽂書の情報をもとに作成) テイコプラニン: 原則禁忌: アミノグリコシド系抗⽣物質、ペプチド系抗⽣物質またはバンコマイシン類に対し過 敏症の既往歴のある患者 アミノグリコシド系抗⽣物質、ペプチド系抗⽣物質またはバンコマイシン類による難 聴またはその他の難聴のある患者 重⼤な副作⽤: ショック、アナフィラキシー様症状、第8脳神経障害、中毒性表⽪壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis、TEN)、⽪膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、 紅⽪症(剥脱性⽪膚炎)、無顆粒球症、⽩⾎球減少、⾎⼩板減少、急性腎不全、肝機 能障害、⻩疸 その他の副作⽤: 発熱、発疹、AST(GOT)上昇、ALT(GPT)上昇、ALP上昇、γ-GTP上昇、⻩疸、 LDH上昇、ビリルビン上昇、好酸球増多、貧⾎、⽩⾎球 減少、BUN上昇、⾎清クレ アチニン上昇、⾎圧低下、動悸、⾎圧上昇、⾷欲不振、下痢、嘔吐、悪⼼、痙攣、注 射部位疼痛、静脈炎、悪寒、頭痛 (以上はテイコプラニン[注射⽤タゴシッド]の添付⽂書の情報をもとに作成) 4:アミノグリコシド系抗菌薬 [ID0014] ポイント(薬理・病態): アミノグリコシド系抗菌薬は、30S ribosomal subunitに不可逆的に結合し、蛋⽩合成を阻害 することにより、主に殺菌的に抗菌活性を持つ薬剤である。 アミノグリコシド系抗菌薬は、その抗菌活性によりさらに細かく以下のように分類される。 ①抗結核作⽤を持つ、カナマイシン(カナマイシン)、ストレプトマイシン(硫酸ストレ プトマイシン) ②抗グラム陰性桿菌⽤のリボスタマイシン(ビスタマイシン) ③抗緑膿菌⽤のトブラマイシン(トブラシン)、アミカシン(アミカシン硫酸塩)、イセ パマイシン(エクサシン)、ジベカシン(パニマイシン)、ゲンタマイシン(ゲンタシ ン) ④淋菌のみに適応を持つスペクチノマイシン(トロビシン) ⑤抗MRSA⽤のアルベカシン(ハベカシン) アミノグリコシド系抗菌薬は、緑膿菌を含む広範囲のグラム陰性桿菌、グラム陽性球菌に対 し、幅広い抗菌スペクトラムのため多くの疾患に適応を持つ。その反⾯、嫌気性菌には抗菌活 性を持たず、また、腎障害や⽿毒性などの副作⽤が認められる。 投与⽅法・抗菌活性:
アミノグリコシド系抗菌薬は中毒域が狭い薬剤であるため、TDMの対象となる。⾎中濃度の測 定は、筋⾁注射の場合投与後45〜60分後に、点滴静注の場合には投与後30分後に⾏うことが 通常である。 アミカシン・ゲンタマイシン・トブラマイシンの投与量に関しては以下を参考に投与する。 アミカシン: 1回15 mg/kgを24時間毎に投与する。透析患者では、48時間毎の3.0 mg/kgの投与 を基本とし、TDMで調節する。なお、透析⽇は透析後に薬剤を投与する。持続的⾎液 ろ過透析患者では、初回負荷量10mg/kg投与後、維持量として7.5 mg/kgを24〜48 時間毎の投与を⽬安とし、TDMで調節する ゲンタマイシン、トブラマイシン: 1回5〜7 mg/kgを24時間毎に投与する。透析患者では、48時間毎の1.0〜2.0 mg/kgの投与を基本とし、TDMで調節する。なお、透析⽇は透析後に薬剤を投与す る。持続的⾎液ろ過透析患者では、初回3mg/kg投与後、維持量として24〜48時間毎 の2 mg/kg投与を⽬安とし、TDMで調節する。 ゲンタマイシン(感染性⼼内膜炎); 1 mg/kgを12時間毎または8時間毎に投与する。 アミカシン・ゲンタマイシン・トブラマイシンの、TDMに関しては、5⽇以上投与する可能性 がある場合や⾼齢者、感染性⼼内膜炎患者、⽶国⽤量など添付⽂書⽤量を超えて使⽤する場 合、腎機能低下例、腎毒性のある薬剤の併⽤や造影剤を使⽤している患者で⾏う。アミカシ ン、ゲンタマイシン、トブラマイシンではCpeak/MIC≧8〜10が必要とされている。なお、 TDMに際し、Cpeak(⾎中濃度と組織中濃度と平衡となるまで待って採⾎した値)とトラフ値 を測定し、Cpeakは有効性の評価に、トラフ値は腎毒性発現の評価に⽤いる。通常、初回採⾎ は投与開始2〜3⽇⽬で⾏い、その後⼀週間に1回程度で⾏う。透析中の患者に関しては、初回 を除き透析後に抗菌薬を投与する。トラフ値の採⾎は原則透析前に⾏う。Cpeakは⾮透析患者 と同様に測定する アミカシン: ⼀般細菌感染症: ⽬標Cpeak濃度:56〜64 μg/mL ⽬標トラフ値:1⽇1回投与時:<1 μg/mL 1⽇分割投与時: <10 μg/mL ゲンタマイシン: ⼀般細菌感染症: ⽬標Cpeak濃度:20 (15〜25)μg/mL ⽬標トラフ値:1⽇1回投与時:<1 μg/mL 1⽇分割投与時: <2 μg/mL 感染性⼼内膜炎: ⽬標Cpeak濃度:3〜5 μg/mL ⽬標トラフ値:1⽇1回投与時:- 1⽇分割投与時: <1 μg/mL トブラマイシン: ⼀般細菌感染症: ⽬標Cpeak濃度:20 (15〜25)μg/mL ⽬標トラフ値:1⽇1回投与時:<1 μg/mL 1⽇分割投与時: <2 μg/mL アルベカシン(ハベカシン)の投与⽅法に関しては、添付⽂書には、「成⼈にはアルベカシン 硫酸塩として、1⽇1回150〜200mgを30分〜2時間かけて点滴静注する。」と記載されてい る。ただし、腎機能正常者における重症感染症では、⽬標濃度を達成するためには300 mg(5.5〜6.0 mg/kg)が必要とされる可能性が⾼いが、逆に副作⽤が増える可能性も有り、 症例ごとに選択を⾏う必要がある。 アルベカシン(ハベカシン)のTDMに関しては、1⽇1回投与で5⽇間以上治療を⾏う可能性の ある場合に実施する。PK-PD臨床および細菌学的効果の評価は、ピーク濃度[Cpeak/最⼩発育 阻⽌濃度(MIC)]で⾏うことが望ましいが、現実の臨床経過はCmax/MIC≧8が相関し、⽬標 Cmax濃度(最⾼⾎中濃度)として、9〜20 μg/mLが設定されるが、専⾨家は、Cpeak(⾎中 濃度と組織中濃度と平衡となるまで待って採⾎した値)で評価し15〜20 μg/mLを⽬標とする ことを推奨している。腎機能障害の観点からトラフ値は2 μg/mL未満とする 通常、初回採⾎は投与開始2〜3⽇⽬で⾏い、その後⼀週間に1回程度で⾏う。透析中の患者に 関しては、初回を除き透析後に抗菌薬を投与する。トラフ値の採⾎は原則透析前に⾏う。 Cpeakは⾮透析患者と同様に測定する アミノグリコシド系抗菌薬全般としては、抗菌活性は濃度依存的であるため、治療の際には、 AUC/ MICまたはCmax/MICを最⼤化することで抗菌活性が最⼤化される。その⽬標は、 Cmax/MIC 8〜10 、AUC/ MIC 100以上とされている。また、PAEも認めている。
また、βラクタム系やバンコマイシン等の薬剤との併⽤で相乗効果を認める。緑膿菌の加療な どで⽤いられる際も併⽤されることも多い。