~自分で守ろう、自分のからだ~
子宮頸がん・乳がんの啓発教育
岡部あさみ・衣川由美子・熊谷麻子・全梨花・園田美和・下前真衣子・西岡咲輝・野田晶子・福山真理 1. 目的・背景 本邦における子宮頸がんの罹患数は年間16,422 人(2005 年、上皮内がん含む)、死亡数は年間 2519 人(2009 年)である。注目すべきことは罹患率、死亡率ともに、20 歳~30 歳代の若年層で増加して いることである。罹患率は2000 年以降急激に増加しており、死亡率は女性全体として減少傾向に あるにも関わらず1980 年以降、30 歳代では増加している。近年開発されたワクチンによって、ヒ トパピローマウイルス(HPV)16 型、18 型による子宮頸がんの発症は大幅に予防できるようにな り、2009 年 12 月に本邦で接種可能となった。また、定期的な検診が子宮頸がんの進行阻止のため に非常に有効であることも分かっており、検診費用の一部を公費で負担する自治体も増えてきてい る。 一方、乳がんの罹患数は日本人女性の23 人に 1 人であり、40 歳代をピークとした壮年期に多い。 また、2009 年における死亡数は 11,918 人であり、現在、乳がんは女性の壮年期のがん死亡原因の トップである。乳がんによる死亡率を減少させるためには、早期発見のための自己触診や定期的な 検診(マンモグラフィー)が不可欠である。 これらの疾患が予防・早期発見可能であるのにも関わらず、本邦での子宮頸がん・乳がん検診受 診率が約20%程度に留まっていることは、重大な問題である。アメリカでは乳がん検診受診率は 70%以上、子宮頸がん検診受診率は 80%以上であり、他のヨーロッパの国々と比較しても本邦の 数値は圧倒的に低い。本邦の子宮頸がん・乳がんの検診受診率を向上させるためには、より早期に これらの疾患に関する正しい知識を身につけ、予防、検診の重要性を理解することが急務である。 そこで私たちは、本実習の目的を高校生への子宮頸がん・乳がんの予防啓発教育とした。 2. 対象・方法 <事前学習> 1) 2010 年 7 月 13 日 子宮頸がんレクチャー(高橋健太郎先生 周産期医療学講座教授) 2) 2010 年 9 月 6 日 愛荘町保健センター 子宮頸がん・乳がん検診見学・インタビュー 愛知高校見学 3) 2010 年 9 月 15 日 がん検診担当者会議(第3 回) 4) 2010 年 10 月 5 日 乳がんレクチャー(田中彰恵先生 草津総合病院保健管理センター医長) <啓発教育> 5) 2010 年 11 月 24 日 愛知高校での授業実施 i. 対象 愛知高校3 年生の生徒(在籍数女子 43 名、男子 41 名)を対象に、男女別のグループに分け、 子宮頸がん・乳がんの授業(50 分)を行った。出席した 32 人の女子は 3 つのグループに分け、 男子は34 人を 1 グループとした。 ii. 愛知高校からの要望 愛知高校の先生方からは、子宮頸がんや乳がんのみならず、性感染症についても授業を行って 欲しいという要望があった。iii. 内容
今回の授業では、高校生に「子宮頸がん・乳がんの予防と検診についての正しい知識を身につ けてもらう」ことを目標とした。そのために以下のような工夫をした。
a) 男女別での講義
男女別で講義をしたのは、男子と女子で伝えたいことや強調したいことが異なったからで ある。女性では子宮頸がんと乳がんを強調し、男子ではSexually Transmitted Disease(S TD)を強調した。男子に対する講義は、本学医学科 4 回生の男子学生 4 人の協力を得て行 った。女子に対する講義は、質疑応答をしやすい環境をつくるために3 グループに分け少人 数で行った。 b) トピックの順番 高校生に関心をもってもらえるようにトピックの順番を工夫した。まずは、高校生にとって 最も身近である「避妊」や「STD」の話をし、『自分のからだを自分で守ろう』ということ を強調した。次に女性特有の病気というテーマで「子宮頸がん」、「乳がん」についての説明を した。前者の原因ウイルスは性行為によって感染しうるということと、ワクチンがあること、 そして両者とも早期発見の大切さやステージによって治療法が異なるという話から、検診のす すめなどを行った。乳がんに関しては乳房の模型を使って、触診セルフチェックの練習をした。 最後に、「避妊・STD・子宮頸がん・乳がん」の話をまとめ、命の大切さについて伝えて、 講義を終えた。 c) 授業前・授業後アンケートの実施 授業前後に知識確認のためアンケート調査を実施した。授業前アンケートは、授業当日の朝 のショートホームルーム中に担任の先生に配布と回収を依頼し、授業後アンケートは、授業直 後に私たちが直接配布し、回収した。授業前後とも、出席した全ての生徒から回答を得た。授 業前後の回答の比較には、χ2検定を用いた(有意水準p=0.05)。 3. 結果・考察 <アンケート結果について> 授業直前と直後で行ったアンケートの結果を示す。 質問の数字とアルファベットは、それぞれ女子アンケートと男子アンケートに対応する。なお、下記 以外の結果の詳細は添付資料に記した。 質問 3/C「性感染症を予防するために一番効果的な方法は?」 男子の場合、質問に対する正答率は授業後には100%になった。女子の場合、授業後正答率は 100% には至らなかったが、授業前に比較して増加した。ここで注目したいのは、授業後に、『性器を洗 う』や『膣外射精』などの誤った知識を持っている生徒が男女ともに0 人になったことである。誤 った知識を持っていた生徒は少数であったが、授業を聞いて理解したといえるであろう。 質問 D「コンドームはいつ着けるのが正しいですか?」(男子のみ) 授業前から正答率は高率であったが、授業後には 100%になり、コンドームの適切な使い方を理
コンドーム無しでの性行為で感染することはほとんどの生徒が知っていたものの、授業後にも 『触る』、『キス』などの誤った解答をした生徒が減少しなかった。これは、私たちの授業の仕方に 問題があったと言わざるを得ない。エイズの症状や感染様式についてさらに丁寧に分かりやすく説 明する必要があった。 質問 5・質問 I「性行為をすることでがんになることはある?」 授業前は男女とも『ない』と解答する生徒が多かったが、授業後には正答率が有意に増加した(図 1a、1b)。 図1a 質問 5:「性行為をすることでがんになることはある?」(女子) 図1b 質問 I:「性行為をすることでがんになることはある?」(男子) 質問 7、9 「子宮頸がんワクチンを受けたいと思いますか?」(女子のみ) 両質問ともに授業前では、『どちらでもない』と回答した生徒が多かったが、授業後では『どち らでもない』という回答が減少し、『受けたい』が有意に増加した(図2、3)。 * *
図2 質問 7:「子宮頸がんワクチンを受けたいと思いますか?」 図3 質問 9:「子宮頸がんや乳がんの検診を受けたいと思いますか?」 授業前の結果は、子宮頸がんと乳がんとはどのような病気なのか、また、ワクチンや検診にどの ような効果があるのかを理解していなかったためであると考えられる。授業後の結果は、生徒たち がワクチンや検診により子宮頸がんや乳がんを予防・早期発見できる事を知り、自分自身の体を守 る意識が以前よりも高まったためであると考えられる。 しかし、授業後『どちらでもない』と回答した生徒は減少したものの、依然として数人存在した。 そのような生徒たちの意識をどのように変化させるか、また、意識の変化が今回の授業だけで終わ ってしまうのではなく、実際に検診へと行動させるような働きかけがこれからも重要である。
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*• HIV 検査を受けるべきかの相談 • 月経不順についての相談 思春期である高校生は、性に対して非常に敏感であり、さまざまな反応が見られた。一部の生徒 の間では授業中のディスカッションは活発に行われたが、その一方で性についての話題に拒否的な 反応を示す生徒も見られ、生徒間での授業に対する温度差が見られた。性に関する興味や不安は生 徒ひとりひとりによって異なり、それぞれに的確に対応するのは、今の私たちの知識や経験では難 しいと感じた。 <授業の進め方について> 男女で授業を分けたことによってスムーズに授業を進めることができた。 女子では少人数での 授業だったので、生徒一人一人の反応をしっかりと見ることができ、一体感のある授業をすること ができた。一方、男子では全員まとめての授業となってしまったため、できるならば男子も少人数 で行った方がよかった。 さらに、伝えたい内容が多すぎたため、生徒間に理解度のばらつきがあった。授業の最後に「ま とめ」のスライドを入れ、伝えたい内容をより簡潔で明確にするべきであった。知識の定着を確認 するためには、授業直後のアンケートだけではなく、一定期間をおいてから再度アンケートを実施 することが望ましい。 <今後の課題について> 本実習では、事前アンケートの結果を授業前に把握できず、その内容(生徒の理解度)を授業に 活かす事ができなかった。また、生徒に事前に知りたい内容を考える時間を与えることができなか った。 加えて、今回は1 回のみ授業を行ったが、基礎知識編、応用編などと授業を複数回に分ければ、 さらに生徒の理解を深める事ができたであろう。 最後に、対象学年の選択に関しては議論の余地がある。授業の対象を高校生としたのは、小・中 学生では、講義が扱う内容が性というデリケートなものであり、話せる内容の吟味が難しいことが 問題に挙がったためである。また、愛知高校からの要望もあり、今回は3 年生が対象となった。し かし、東京都幼小中高心性教育研究会の実態調査(2005 年)によると、初交経験率が中学 2 年生 で5%を超えていることから、今後は対象学年をより低学年に設定することを考慮すべきである。 <実習成果報告会での質疑応答について> 1)乳がんのリスクファクターについて 「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン」によると、以下のリスクファクターが挙げられ ている。 リスクファクター エビデンスレベル リスク 出産経験 未経験者 確実 上がる 経験者 下がる 初産年齢 高い 上がる 低い 下がる 授乳経験 なし 上がる あり 下がる 授乳期間 長い 下がる アルコール ほぼ確実 上がる 喫煙 可能性あり 上がる 夜間勤務 上がる 配偶者の死 上がる 脂肪摂取 閉経後 上がる
2)日本人の検診受診率の低さの理由について 日本人女性は、ヨーロッパ諸国の女性のように産婦人科の主治医を持っておらず、若いころか ら定期的に産婦人科に行く習慣がない。 アメリカでは、医療保険会社が主導し、子宮頸がんと乳がんの検診料が無料となっている。ま た、検診を受けることにより、保険料が割引されるなどの特典も付いている。ヨーロッパでも 子宮頸がん・乳がんの検診料が無料であることが多い。一方、本邦では公費助成(一部自己負 担が残る)の対象が住民票を登録している市町村での受診に限られるという制約があるため、 場合によっては全額自己負担になることもある。 欧米に比べて子宮頸がん・乳がんのキャンペーン活動が不足している。 4. 結論 愛知高校3 年生に対する子宮頸がん、乳がんに関するアンケート調査結果から授業前後で、性行 為からがんを発症する可能性があることを知った生徒、子宮頸がんワクチンを受けたいと思う生徒、 子宮頸がん、乳がんの検診を受けたいと思う生徒が有意に増加した。 実習中の生徒の反応や質問、実習後にも保健室に私たちの授業に関する質問をしに行く生徒がい るという報告から、私たちの目標であった子宮頸がん、乳がんの予防に関する啓発教育は成功した といえる。 疾患の知識がなければ、予防や検診の重要性は分かるはずもない。よって、私たちは、より多く の女性に正しい知識を身につけてもらうために、今回のような啓発活動があらゆる年齢層に対して 行われることを願う。 5. 謝辞 子宮頸がんのレクチャー及び高校生への授業内容について様々な助言を下さった高橋健太郎先 生(周産期医療学講座教授)、乳がんのレクチャー及び草津総合病院保健管理センターを見学させ てくださった田中彰恵先生(草津総合病院健康管理センター医長)、愛荘町保健センターでの子宮 頸がん・乳がん検診の見学と聴き取りをさせていただいた己浪真紀先生をじめとする同保健センタ ースタッフの皆様、愛知高校の諸先生方・生徒のみなさん、男子学生対象の授業を行ってくださっ た河野浩人さん、佐々木宏太さん、波戸岡純さん、広島大樹さん、そして最後に実習を通して私た ちにご指導して下さった北原照代先生(社会医学講座衛生学部門)に厚く御礼申し上げます。 6. 参考文献 1) 「子宮頸がん(しきゅうけいがん)」 http://ganjoho.ncc.go.jp/public/cancer/data/cervix_uteri.html (2010/12/08 アクセス) 2) 「最新がん統計」http://ganjoho.ncc.go.jp/public/statistics/pub/statistics01.html (2010/12/08 アクセス) 3) 「低い日本の検診受診率」http://www.gankenshin50.go.jp/campaign/outline/low.html (2010/12/08 アクセス)