Hirosaki University Repository for Academic Resources
Title
成人愛着スタイルと摂食態度、ボディ・イメージの関
連性
Author(s)
馬場, 琴絵
Citation
Issue Date
2013-03-22
URL
http://hdl.handle.net/10129/5128
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author
平成
24 年度 修士論文
成人愛着スタイルと摂食態度、ボディ・イメージの関連性
弘前大学大学院 教育学研究科
学校教育専攻 学校教育専修 臨床心理学分野
2 第1 章 問題と目的 第1 節 愛着と愛着スタイルの形成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 (1) 愛着・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 (2)愛着スタイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 (3)成人愛着スタイルの違いは何をもたらすか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 第2 節 摂食障害 (1)摂食障害の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 (2)発症の要因・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第3 節 ボディ・イメージ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 第4 節 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 (1)摂食障害と愛着・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 第2 章 方法 第1 節 質問紙構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 第2 節 手続き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 第3 節 結果・考察Ⅰ:各変数の全人的状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 (1)成人愛着スタイル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 (2)他の変数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 (3)ECR-GO(一般他者版成人愛着スタイル尺度)と EAT‐26(摂食態度検査)・・・・・21 第4 節 結果・考察Ⅱ:ECR-GO(一般他者版成人愛着スタイル尺度)と他の変数の関連性 (1)相関分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 (2)愛着スタイル 4 類型と摂食態度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 (3)愛着スタイル 4 類型と体型・ボディ・イメージとの関連性・・・・・・・・・・・24 第5 節 結果・考察Ⅲ:性差の検討 (1)全変数における性差・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 (2)愛着と摂食態度の男女別因子の違い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 (3)成人愛着スタイル 4 類型における男女の違い・・・・・・・・・・・・・・・・・35 第3 章 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 【附録資料】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
3 第1 章 問題と目的 第1 節 愛着と愛着スタイルの形成 (1)愛着 愛着(attachment)とは、「人間と情緒的に結びつきたいという要求を持つ状態」(高橋, 1981)と定義され、乳幼児と母親の間の「相互関係のシステムであり、乳幼児の生存を保証 し対人関係の土台」(渡辺,1993)となり、時間や空間を超えて持続する心理的な結びつきで あり(倉光,2005)、愛着行動を通して機能する(プライア・グレイサー,2006)。愛着の形成 は、新生児のときから始まっており、特別に選ばれた人物との関係が不動のものとして確 立する過程である。ボウルビィ(1976)によれば、愛着の発達プロセスは以下の 4 つの段階に 分けられる。出生から生後2、3 か月頃までの第一段階は、人物の識別は困難であるが、近 くにいる人物に対して追視したり、手を伸ばしたりといった定位や泣く、喃語を発すると いった発信をするなどの行動を向ける。人物の識別が困難な時期であることから、対象が 誰であってもほほ笑んだり、顔を見ることで泣きやんだりする。第二段階は生後 2 か月頃 から 6 か月頃までであり、この段階では、人物の識別が徐々に可能になることから、一人 あるいは特定の人物に対して定位や発信をするが、第一段階同様にこの段階ではまだ完全 に人物を識別できるわけではないため、対象が誰であっても、愛着行動を向ける。第三段 階は生後6 か月頃から 2、3 歳頃までであり、より明確に人物を識別できるようになること から、対象によって異なる行動を向けることができるようになる。見知った対象に対して は、愛着行動を向けるが、そうではない対象に対しては警戒心を抱いたり、かかわりを回 避するなどの行動も見られる。這行や歩行によって移動ができるようになることもあり反 応の種類が急増するが、移動する際も養育者を安全基地として周囲を探索する。また、1 歳 前後からは認対象の永続性を理解したりと知的な側面も発達するため、何が苦痛を終息さ せる条件になるのか、その条件を達成するためにどのような行動をとるかなど行動に計画 性がみられるようになる。しかし、養育者の意図を理解するまでには到らず、養育者の行 動を変化させるための行動の見通しは持たない。第四段階は 3 歳前後からであり、養育者 の行動や影響を与えるものを観察し、養育者の感情や動機などをある程度推察することが できるようになる。養育者との関係が構築され始めると、愛着行動は徐々にその頻度と強 度を減少させていくとされる。養育者などの愛着対象は自分を保護してくれる存在である というイメージが子どもの中に確立されることによって、安心の拠り所がシフトすること で特に際立った愛着行動を起こさなくてもよくなる。また、短時間なら愛着対象が不在で も社会情緒的に安定してふるまうことが可能になる。 愛着はいったん形成されると容易に消されることはなく半永久的な持続性がある一方で、 生後6 か月頃から 1 歳半頃までの時期に母親あるいは主たる養育者が変わると、結ばれ始 めた愛着がダメージを受ける(岡田,2011)。遠藤(2005)は、愛着の機能について心理学的側
4 面と生物学的側面から次のように述べている。心理学的側面としては、恐れや不安などの ネガティブな情動状態を制御、低減させ自らが安全であるという主観的意識を個体にもた らし、生理学的側面かとしてはストレスなどによって一時的に崩れた神経生理学的ホメオ スタシスを定常的状態に戻すことを挙げている。換言すれば、愛着は外界からのストレス と内界の緩衝帯の役割を果たし、個体の安全と生存を高度に保障するものであると遠藤 (2005)は述べている。 岡田(2011)は愛着が形成され始める時期に死別や両親の別居によって養育者と離別した り、養子縁組によって養育者が変わったりすると、形成され始めた愛着がダメージを受け、 その後の身体的発達や情緒的発達に障害を来すと述べ、身体的な発達が障害された例とし て幼少期に食が細く病弱であることやストレスに対して脆弱であることを挙げた他に、 後々にうつや依存症、摂食障害などの精神疾患を発症した事例も紹介している。また、北 川(2005)は、先行研究から母親や主たる養育者との関係がはく奪されることによって、子ど もの行動や認知に障害を引き起こし得るとし、DSM-Ⅲ以降、愛着関係の問題や欠如に起因 する障害が「反応性愛着障害」として診断学的に認識されるようになったと述べている。 愛着は乳幼児期においてのみ重要なものではない。乳幼児期の養育者との関係が後の精 神疾患と関連することは複数の先行研究から示されており、愛着と精神病理について北川 (2005)は不安障害、摂食障害、解離性障害やパーソナリティ障害などの精神疾患と愛着の関 連を調査した複数の研究をレヴゥーしている。(2)で後述する愛着スタイルに関して、不安 定な愛着スタイルが高不安と結びつくとした研究や、不安障害者の愛着スタイルが「とら われ型」の者が多いとした研究を紹介している。
摂食障害との関連についてはCole-Detke & Kobak(1996)が摂食障害者では「愛着軽視型」
が多いことを示した。また、北川(2005)は、境界性パーソナリティ障害者の愛着スタイルは 調査対象者全員が「とらわれ型」であった研究例や縦断研究の結果、乳幼児期に「無秩序・ 無方向型」の愛着パターンに分類された者が解離性障害では最も多い結果となった研究を 紹介している。北川(2005)が紹介した研究で用いられた分類の方法は同一ではないものの、 総じて調査対象者の多くが、不安定な愛着スタイルを持つと言える。 以上から、愛着スタイルが一部の精神病理のリスク因となっていることが窺える。また、 精神分析家は子どもの最初の人間関係がパーソナリティの基礎となることを認めてき た(ボウルビィ,1976)ことからも、愛着とその後の人生におけるパーソナリティや対人 関係には関連性があると考えられる。櫻井(2006)は、親子関係は後の対人関係の形成に 深くかかわり、自分自身の親子関係を肯定的に認識しているか、否定的に認識している かということは社会に対する認識にも影響を及ぼすと述べている。 乳児期の愛着と幼児期、児童期への連続性について園田・北村・遠藤(2005)は、乳幼児期 の愛着が必ずしも永続的で不変の影響力を持ち続けるのではなく、環境や対人関係の広が りによって変質する可能性がある一方で、乳児期の親子の愛着の質が子どもの社会情緒的 発達に反映される可能性があるという 2 つの可能性を指摘している。乳児期以降の愛着対
5 象の変化に関しては、安藤・遠藤(2005)によれば、児童期の主たる愛着の対象は養育者であ るが、児童期中期頃までには友人などの親密な他者にも愛着を築くようになり、児童期か ら思春期にかけての時期は、主たる愛着対象が養育者から友人へと移行して、青年期には 情緒的サポートを得る対象が友人へと変化する。また、青年期や成人期においては愛着の 特徴である接近欲求や分離抵抗、安全基地役割を友人関係や恋愛関係、夫婦関係などの対 人関係の中に容易に見てとれると指摘している。 これらから、乳幼児期の愛着は環境や対人関係の広がりの影響を受けて、その後の情緒 的発達や対人関係に影響し、さらに乳児期以降は親以外に対する愛着へと広がっていくと 言える。成人愛着スタイルは乳幼児期の愛着パターンに対応しているのだろうか。 遠藤(2005)は乳幼児期の愛着パターンの青年期、成人期前期に至るまでの連続性は、一度 内在化された表象モデルやその固定的な性質によって支えられると述べている。また、中 尾・加藤(2006)は、人は成人になっても愛着行動を行うこと、成人愛着のパターンは乳幼児 の愛着パターンとほぼ同様であるとした。しかし、 岡田(2011)は、愛着スタイルは愛着パ ターンを積み重ねることにより確立されるものと捉え、幼いころの愛着はまだスタイルと して完全に確立したものではなく、乳幼児期の愛着スタイルと成人の愛着スタイルは区別 すべきとしている。 では、愛着のパターンやスタイルにはどのような型があるのだろうか。 (2)愛着スタイル 乳幼児の愛着パターンは養育者や見慣れない人物との分離時に乳幼児が見せる反応によ
って分類するエインズワースのSSP(strange situation procedure)による分類がある。この
方法では、乳幼児の愛着パターンは、養育者との分離場面で泣いたり混乱することはない が再会場面で養育者を避けようとする回避型、分離場面で泣きや混乱を見せるが再会場面 では積極的に養育者に身体接触を求め容易に平静化する安定型、分離時に非常に強い不安 や混乱を示し再会場面では養育者を求める一方で激しく叩いたりするアンビヴァレント型、 顔をそむけながら養育者に近づくなど接近と回避が同時に見られる無秩序・無方向型の4 型に分けられる(本郷,2007)。養育者の日常的なかかわりとの関係は次のようになる。回避 型の乳幼児の養育者は、子どもの働きかけに拒否的であることや身体接触が少なく、安定 型では子どもの欲求や状態などに対して敏感であり遊びや身体接触がある、アンビヴァレ ント型では子どもの働きかけに対する敏感さがなかったり、反応のタイミングにずれがあ ったりする、無秩序・無方向型は養育者自身が不安定であり突発的に表情や変調を来しパ ニックに陥ることもあることがある。換言すれば、回避型は養育者という安全基地を持た ないために愛着行動をとることができず、後々に反抗や攻撃性の問題が顕在化する。安定 型は、養育者が安全基地として機能しており、子どもはストレスを感じた際に適度な愛着 行動を起こすことができる、アンビヴァレント型は、養育者が安全基地として十分に機能 できないために過剰な愛着行動を見せることもある。
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成人の愛着の分類については、成人の愛着の型は面接法による分類と質問紙法によって 分類するものとがある(安藤・遠藤,2005)。前者は、成人愛着面接(Adult Attachment Interview;以下 AAI)によって、自律型、愛着軽視型、とらわれ型、未解決型という 4 つの
型あるいは、未解決型を除いた 3 つの型に分けていくものである。後者には、親密な対人
関係尺度(the Experience in Close Relationships;以下 ECR)や一般他者成人愛着スタイル
尺度(the Experience in Close Relationships inventory the generalized over version; ECR-GO)、一般他者を想定した関係尺度(Relationship Questionnaire the generalized over version;以下 RQ-GO)、愛着スタイル診断テストなど複数の質問紙がある。なお、ECR
やECR-GO、RQ-GO は後述する Bartholomew & Horowitz(1991)の 4 分類に基づいている。
Bartholomew & Horowitz(1991)は、自己観(自己に対する内的作業モデル)と他者観(他者
に対する内的作業モデル)がそれぞれポジティブかネガティブかの 2 次元によって、安定型 (Secure)、とらわれ型(Preoccupied)、拒絶型(Dismissing)、恐れ型(Fearful)に 4 分類して いる。中尾・加藤(2004)は、一般他者に対する愛着スタイルを 2 因子(「見捨てられ不安」(自 己観に対応)、「親密性の回避」(他者観に対応))で測定する「一般他者愛着スタイル尺度; ECR-GO」を作成している。自己観がポジティブであることは愛着対象から見捨てられる 不安が低いことを意味し、他者観がポジティブであることは愛着対象との親密性を回避し ないことを意味する。安定型は自己観と他者観がともにポジティブ、とらわれ型は他者観 はポジティブだが自己観がネガティブ、拒絶型は他者観はネガティブだが自己観はポジテ ィブ、恐れ型は自己観、他者観ともにネガティブなスタイルである(Table1)。
Bartholomew & Horowitz(1991)は、それぞれのスタイルについて、安定型は自分が価値 ある存在であるという自覚を持ち、他者を受け入れ他者が自分の要求に応じてくれるとい う期待を持つ、とらわれ型は自分は価値がなく価値ある他者から自分が受け入れられるこ とにより自己受容しようと努める、拒絶型は自分は愛される価値があるが他者を否定的に 捉える、恐れ型は自分は価値がなく他者も信じるに値しないと拒絶的に捉える傾向がある Table1 成人愛着スタイルの 4 類型 Bartholomew& Horowitz(1991)より作成 親密性の回避 低 高 見 捨 て ら れ 不 安 高 とらわれ型 恐れ型 低 安定型 拒絶型
7 とし、安定型ととらわれ型は、拒絶型や恐れ型に比べ愛着行動をより多く行うことを指摘 している。 それぞれの型は対人関係においても異なる特徴が見られる。岡田(2011)はそれぞれの愛着 スタイルの対人関係の特徴を、恋愛や家族との関係などを例として挙げ整理している。 (3)成人愛着スタイルの違いは何をもたらすか 岡田(2011)は、とらわれ型、拒絶型、恐れ型を不安定型愛着とし、広義の愛着障害に含め、 不安定型愛着に起こりやすい病的な現象やそのメカニズムに言及している。不安定型愛着 にはとらわれ型と拒絶型のような対極的なスタイルが含まれるが、両者は他者との信頼関 係や安定した対人関係の構築ができないなどの共通する傾向が見られる(岡田,2011)。反応 性愛着障害は、虐待や養育者が頻繁に交代したことによって特定の人物への愛着が損なわ れる母性剥奪によって生じ、岡田(2011)は不安定型愛着の中で最も重篤な状態であるとは述 べている。乳幼児期に養育者など特定の人物と愛着を形成できないことは、その後の対人 関係の形成も阻害する要因となる。愛着と対人関係について岡田(2011)は、その特性が顕著 に表れるものとして恋愛や家族との関係を挙げ、親密性を回避することで淡泊な付き合い を求めたり、過度の親密欲求からより親密な関係を求めたりするなど愛着スタイルによっ て対人関係はことなるものの、安定型以外の愛着スタイルは総じて安定した対人関係の形 成がなされないと述べている。 また、岡田(2011)は対人関係以外に愛着スタイルが影響を及ぼすものとして、ストレスに 対する脆弱性を挙げている。ストレスを自身への攻撃と捉え、反撃として自分の内外に攻 撃性を示す、傷付きやすく不安障害などを引き起こしたり、前か無かと言った両極端な認 知をすることなどから、就業をはじめとした社会生活に支障を来す(岡田,2011)また、前述 したように北川(2005)は、愛着がリスク因となり得ることを指摘している。乳幼児期の愛着 は養育者との相互作用によって形成されていくが、養育者が一貫した応答性を示さないと 乳幼児は認知過程や愛着行動の表出レベルを操作することで適応をはかろうとする。この ような防衛は成長後にも見られ、ストレス下で不安や苦痛の緩和のために環境や他者との 関係を利用することができないなどの悪循環を引き起こす(北川,2005)。北川(2005)は、成 人の精神病理と愛着の関係について、不安障害や摂食障害、うつ、解離性障害、境界性パ ーソナリティ障害との関連を指摘している。北川(2005)は、乳児が非応答的な養育者との間 でとる方略には、愛着欲求の表現を最大化する試みと最小化する試みの 2 通りがあり、前 者は苦悩や養育者の有効性の問題に防衛的に注意を向けるが、後者はそれらから防衛的に
注意をそらす。両者はともに精神病理へのリスクとなる。Cole-Detke & Kobak(1996)は、
摂食障害者の愛着スタイルを分類したところ愛着軽視型が最も多く、これは最小化方略に
よるものと結論づけられている。また、Cole-Detke & Kobak(1996)は抑うつ者の愛着スタ
イルも分類しており、抑うつ者にはとらわれ型が多かったことを報告していることから、 抑うつ者は最大化方略が関連していると述べている。
8 しかし、北川(2005)は、乳児期の愛着が即ち、精神病理のリスクとなるのではなく、生育 環境など他の要因も関連していると述べている。 第2 節 摂食障害 絶食や不食といった摂食態度や行動は摂食障害が一精神疾患として診断基準が確立され る以前から見られ、それらはそれぞれの時代や社会、文化と結びついた形で表れている。 切池(2000)は、中世ヨーロッパにおける宗教的な側面と結びついた行為としては宗教儀式や 修行としての断食を挙げ、その背景には身を清めることや死後に復活しやすくなるなどの 思想がある。文化的側面としては祭りやサーカスなどで自らの痩せ細った身体を見せ物に することで収入を得ていた断食行者をあげている。山口(2005)は、摂食障害についての最初 の医学的な記載は17 世紀後半であるが、日本で本格的に取り上げられるようになったのは 1960 年前後であり、比較的最近、注目されるようになった心身症であると述べている。1980 年にアメリカ精神医学会が作成したDSM-Ⅲの診断基準で初めて登場し、その後 DSM-Ⅳの
診断基準において神経性食思不振症(Anorexia Nervosa;以下 AN)と神経性大食症(Bulimia
Nervosa;以下 BN)、異食(Pica)に分類された。切池(2000)によれば、AN は精神的な理由 によって食欲がなくなることを指すが、患者の大半は食欲の低下や不振に悩むというより も、空腹感や食欲に抗い痩せるための摂食行動の異常を示すことから、患者は体重減少や 摂食量の低下を心配せずに、むしろこれらを望み痩せることに達成感を得ていると述べて いる。 (1)摂食障害の概要 摂食障害は前思春期から成人期初期に好発し男性よりも女性に多く、AN の有病率は思春 期女子の約0.5~1%と推測され、10 代半ばから 20 代前半にかけて発症する例が多い。一 方、BN の有病率は若年女性の約 1~3%と推測され、10 代後半から 20 代に発症すること が多い(カプラン・サドック・グレブ,1996)。DSM-Ⅳ-TR では摂食障害(eating disorder)
はAN、BN、特定不能の摂食障害(eating disorder not otherwise specified)の 3 つに分類さ
れている。AN の診断基準では、正常体重(期待される体重の 85%以上)の最低限度、または それ以上を維持することを拒否すること、体重が増加することや肥満することに対する強 い恐怖があること、初潮後の女性の場合は無月経になるなどが挙げられている。他方、BN は他とはっきり区別される時間の間にほとんどの人が同じような時間に食べる環境で食べ る量よりも明らかに多い食物を食べる、そのエピソードの間は食べることを抑制できない などのむちゃ食いエピソードを繰り返すことなどが挙げられている。AN、BN それぞれに 下位分類があり、AN は規則的にむちゃ食いや自己誘発性嘔吐、下剤の乱用などの排泄行動 を行うむちゃ食い/排泄型とそれらを行わない制限型があり、BN は自己誘発性嘔吐や下剤、 利尿剤、浣腸の誤った使用をする排泄型と、排泄行動は行わず、絶食や過度の運動などの 不適切な代償行動を行う非排泄型がある。なお、DSM-Ⅲで摂食障害に含まれていた異食
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(pica)は DSM-Ⅳ-TR では削除され、特定不能な摂食障害(eating disorders not otherwise specified)が追加されている。特定不能の摂食障害は、AN、BN の基準を満たさない摂食の 障害であり、例として女性の場合、定期的に月経があること以外は AN の基準を満たして いる、著しい体重減少にもかかわらず現在の体重が正常範囲内にあること以外は AN の基 準をすべて満たしているなどである(Table2)。 Table2 DSM-Ⅳ-TR による診断基準 神経性無食欲症(anorexia nervosa) A.年齢と身長に対する正常体重の最低限、またはそれ以上を維持することの拒否(例:期待 される体重の 85%以下の体重が続くような体重減少;または成長期間中に期待される体 重増加がなく、期待される体重の85%以下になる) B.体重が不足している場合でも、体重が増えること、または肥満することに対する強い 恐怖 C.自分の体重または体型の感じ方の障害、自己評価に対する体重や体型の過剰な影響、ま たは現在の低体重の重大さの否認 D.初潮後の女性の場合は、無月経、すなわち月経周期が連続して少なくとも 3 回欠如する(エ ストロゲンなどのホルモン投与後にのみ月経が起きている場合、その女性は無月経とみ なされる) ・制限型 現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的にむちゃ食いや排泄行動 (つまり、自己誘発性嘔吐、または下剤、利尿剤または浣腸のあやまった使用)を行った ことがない ・むちゃ食い/排泄型 現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的にむちゃ食いや排泄行動 (すなわち、自己誘発性嘔吐、または下剤の乱用、利尿剤、または浣腸の誤った使用) を行ったことがある 神経性大食症(Bulimia Nervosa) A.むちゃ食いのエピソードの繰り返し。むちゃ食いのエピソードは以下の 2 つによって特 徴づけられる。 (1)他とはっきり区別される時間帯に(例:1 日の何時でも 2 時間以内)、ほとんどの人が同じ ような時間に同じような環境で食べる量よりも明らかに多い食物をとること (2)そのエピソードの期間では、食べることを制御できない、または、何を、またはどれほ ど多く、食べているかを制御できないという感じ) B.体重の増加を防ぐために不適切な代償行動を繰り返す。例えば、自己誘発性嘔吐;下剤、
10 利尿剤、浣腸、またはその他の薬剤の誤った使用;絶食;または過剰な運動 C.むちゃ食いおよび不適切な代償行動はともに、平均して、少なくとも 3 カ月間にわたっ て週2 回起こっている D.自己評価は、体型および体重の影響を過剰に受けている E.障害は、神経性無食欲症のエピソード期間中にのみおこるものではない ・排泄型 現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は定期的に自己誘発性嘔吐をする、 または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用をする ・非排泄型 現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は、絶食または過剰な運動などの 他の不適切な代償行為を行ったことがあるが、定期的に自己誘発嘔吐、または下剤、 利尿剤または浣腸の誤った使用はしたことがない。
特定不能の摂食障害(eating disorders not otherwise specified)
特定不能の摂食障害のカテゴリーは、どの特徴の摂食障害の基準も満たさない摂食の障 害のためのものである、例をあげると、 1.女性の場合、定期的に月経があること以外は、神経性無食欲症の基準を満たしている。 2.著しい体重減少にもかかわらず、現在の体重が正常範囲内にあること以外は、神経性四 無食欲症の基準をすべて満たしている。 3.むちゃ食いと不適切な代償行為の頻度が週 2 回未満である、またはその持続期間が 3 カ 月未満であるということ以外は、神経性大食症の基準をすべて満たしている。 4.正常体重の人が、少量の食事をとった後に不適切な代償行為を定期的に用いる(例:クッ キーを2 枚食べた後の自己誘発性嘔吐)。 5.大量の食事を噛んで吐き出すということを繰り返すが、飲みこむことはしない 6.むちゃ食い障害:むちゃ食いのエピソードが繰り返すが、神経性大食症に特徴的な不適 切な代償行為の定期的な使用はない。
ICD-10 では、ANの診断基準に標準体重の 85%以下であること、あるいはQuetelet’s
body mass index*が17.5 以下とされ、体重減少は自己誘発性であり、自己誘発性嘔吐や緩
下剤の乱用、過度の運動、食欲抑制剤あるいは利尿剤の使用、器質的な障害(視床下部-下
垂体-性腺系の広範な内分泌障害、ホルモンの異常、インスリン分泌の異常)、男性の場合
の性的関心の低下が挙げられている。BNの基準はDSM-Ⅳ-TRとほぼ同様であるが、糖
11 Table3 ICD-10 による診断基準
神経性食思不振症・神経性無食欲症(anorexia nervosa)
1.体重減少が標準体重の85%以下かQuetelet’s body index*が17.5 以下。前思春期の患
者では、この期間に期待される体重増加が得られない。 2.体重減少は自己誘発性で、太りやすい食物を避けること、自己誘発性嘔吐、緩下剤の 使用、過度の運動、食欲抑制剤あるいは利尿剤を使用する 3.肥満への恐怖、身体像のゆがみが強い支配観念として存在し、自ら低い体重の限度を 設定している 4.視床下部-下垂体-性腺系の後半は内分泌障害。女性では無月経(例外として、避妊薬 などのホルモン補充療法を受けていて、性器出血が持続している場合)、男性では性的関 心や能力の低下。その他成長ホルモンの高値、甲状腺ホルモン代謝の変化、インスリン 分泌の異常などが見られることがある 5.前思春期に発症した場合、思春期発現の遅延や停止(成長の停止:少女では乳房が発達 せず、原発性無月経。少年では性器は子供のままである。回復に伴い思春期は正常化す るが、初潮は遅延する 神経性大食症(bulimia nervosa) 1.食べることに絶えず心が奪われており、食物に対する抗しがたい渇望、短時間に大量 の食物を摂取する過食のエピソードに陥る 2.食べた物で太らないように、自己誘発性嘔吐、緩下剤の乱用、過食後の絶食、食欲抑 制剤、甲状腺末や利尿剤の使用。糖尿病患者の場合、インスリン治療を怠る 3.肥満に対する病的恐怖。医師が健康的と考える病前体重よりもかなり低い体重に、自 らの目標体重として設定する。しばしば神経性食思不振症のエピソードが先行し、これ との間隔は数か月から数年にわたる。このエピソードは明瞭である場合もあるし、中程 度の体重減少や一過性の無月経を伴った形をとる場合もある *体重(kg)/身長(m)2 日本独自の診断基準として 1988 年に厚生省特定疾患・神経性食思不振症調査班は DSM -Ⅲ、ICD-9 とは異なる独自の基準を発表している。この基準では、標準体重の-20%以 上のやせ、食行動の異常(不食、多食、隠れ食いなど)、体重や体型についての歪んだ認識(体 重増加に対する極端な恐怖など)、発症年齢が 30 歳以下、女性ならば無月経、器質性疾患が ないことが挙げられている。なお、BN に対しての日本の診断基準は作成されていない (Table4)。
12 Table4 厚生省特定疾患・神経性食思不振症調査研究班 1988 年 1.標準体重の-20%以上のやせ 2.食行動の異常(不食、多食、隠れ食いなど) 3.体重や体型についてのゆがんだ認識(体重増加に対する極端な恐怖など) 4.発症年齢:30 歳以下 5.(女性ならば)無月経 6.やせの原因と考えられる器質性疾患がない (2)発症の要因 発症のきっかけとして山口(2006)は、ダイエットを機に発症し、ある程度体重が減少した 後も痩せ続けることや、明確な理由なしに食べられなくなったり、何らかの身体的疾患に より食欲が低下したことから発症することもあると述べている。いずれの場合でも痩せす ぎているという認識は薄く、病識に乏しい。山口(2006)は、AN 患者の多くは食欲がなくな るのではなく、食べたいという欲求を否定し、自ら食欲をコントロールしようとしている と述べている。身体的特徴として、体重減少に伴う月経の停止や産毛の発生、脈拍、血圧 の低下などが挙げられる。行動的な特徴としては、過度の痩身に見合わないほどの過活動 性を示したり、カロリー計算に熱中したり、自分が食べないことの代償行為として家族に 食べることを強要することもある。拒食と過食を繰り返すこともあり、過食をしていても 体重増加を抑えるために嘔吐を誘発させたり、下剤や利尿剤の乱用をすることで外見は痩 身であることもある。過食は家族に隠れ夜間にむちゃ食いをしたり、自室に大量の食物を 隠していたり、食物の類の万引きなどとして行動化する場合も見られる。このようなむち ゃ食い、嘔吐、下剤の乱用など摂食障害者の摂食態度や食行動は特徴的であることから、 摂食態度を調べることにより摂食障害者をスクリーニングすることが行われている(例えば、 切池,2000)。 摂食障害の要因・病理については、山口(2006)は身体知覚の障害やボディ・イメージの歪 み、成熟嫌悪、女性化の拒否と、それに対する防衛とその破綻を摂食障害の病理として挙 げている。 これらのうち、身体知覚の障害は、ブルック(1978)によれば、身体欲求の知覚が養育者と の相互交流のプロセスの中で発達する。例えば、子どもが空腹や不快を訴えても、母親が ほったらかしにしたり、逆に子どもの些細な不快の兆候に対して過剰に反応しすぎたりと いった不適切なかかわりにより、子どもは空腹や飢えといった感覚を学習できなくなるよ うに、子どもの欲求に適切に対応することが、子どもの身体知覚の発達が促される一方で、 身体知覚の障害が、飢え、緊張感、不快感といった感覚の学習を阻むのである。ここから、 愛着の障害が身体知覚の障害やボディ・イメージの歪みをもたらし、摂食障害が引き起こ されるという病理を考えることもできる。
13 圓田(2004)は摂食障害の原因として、若い女性が関心を持つダイエット文化や痩せを賛美 する社会、痩身であることが美しいという女性イメージなどの体型に関する誤った思い込 みを挙げ、発症モデルとして、ボディ・イメージに関連する問題が原因となるボディ・イ メージ型、食事や食行動に関連する不安や緊張が原因となる食事不安型、性に関連する不 安や疑念を抱くジェンダー・アイデンティティ型、社会的場面でのストレスが原因となる 環境不適応型の4 つのモデルを提示している。 切池(2000)は摂食障害の原因として、「母子関係発達の障害」仮説や「身体像の歪み」仮 説などを紹介している。 山口(2006)、圓田(2004)、切池(2000)に共通する要因のひとつがボディ・イメージである。 第3 節 ボディ・イメージ 上で見たように、山口(2006)、圓田(2004)、切池(2000)らはボディ・イメージの歪みを摂 食障害の一要因としているが、では、ボディ・イメージとはどのようなものだろうか。 森・小原(2003)はボディ・イメージの定義は多様であるとし、それらは「個々人のなかで みられている自分を意識し、またそれを自己として認識することによって意識されるもの であり、内的、外的環境によって変化しうるものととらえることができる」としている。 同様に柏尾(2006)も、二次性徴の加速現象に加えて身体的・精神的・社会的な変動に伴いア ンバランスになる思春期以降、身体への意識が高まり、他者から見られる自分を意識する ことがボディ・イメージに影響すると指摘している。 ボディ・イメージが森・小原(2003)、柏尾(2006)の指摘するように、他者との関係で生じ るとすれば、ボディ・イメージと愛着にも関連が見出せると考えられる。と言うのは、成 人の愛着は、一定以上の親しさを感じる他者に対して依存や親和、被尊重の欲求などの形 で向けられると考えられるからである。しかし、成人愛着とボディ・イメージの関連を扱 った研究は見出しにくい。 これに対して、ボディ・イメージと摂食障害との関連性に直接焦点を当てた実証研究と しては次のものがある。森・小原(2003)は、思春期女子(小学校 5、6 年生、中学生)を対象 とした調査によって、「摂食障害の可能性」得点が高くなるほどボディ・イメージに不満が 高くなること、「摂食障害の可能性」が高くなると実際の体型を示す BMI が増加し、理想 とする身体像と実際の身体像の差が大きくなることを示した。 ボディ・イメージからはやや離れるが、体型イメージと実際の体型、及び摂食障害の関 連要因と考えられる「痩せ願望」との関係を見た研究としては、中尾・高桑(2000)や水島 (2001)がある。ボディ・イメージと実際の体型、痩せ願望の三者の関連性を扱った中尾・高 桑(2000)では、やせ群(BMI<18.5)は自分の体型を「ふつう」と評価するのに対して、標準 群(18.5≦BMI<24.0)は約半数が「少し太っている」、肥満群(BMI≧24.0)は 8 割以上が「太
14 っている」と評価しており、痩せ願望については、やせ群では自分の体型を「今のままで よい」を、標準群と肥満群では「もっと痩せたい」を、最も多く選択することが明らかに された。 水島(2001)は、全国規模の調査により、女子中高生の 8 割以上が「やせ願望」を抱いてい ること、女性の中で実際の体型は「普通」である人が「太っている」と、「痩せている」人 が「普通」と評価するという、実際の体型と自己認識(体型イメージ)の不一致が生じている と指摘している。なお、水島(2001)は女性の平均体型が徐々に痩せてきていることやミスコ ンの優勝者が年々痩身になってきていることに触れ、ボディ・イメージの歪みが生じる背 景として、「痩身であることは美しい」という社会的価値観や、「痩身であることは自己コ ントロールができていること」という図式が形成され、それが痩せ願望を生んでいるとし て、圓田(2000)と同様の分析をしている。 第4 節 本研究の目的 (1)摂食障害と愛着 摂食障害は様々な文脈で論議されてきたが、愛着スタイルとの関連で検討していくこと が本研究のねらいである。三井(2005)は愛着と摂食障害が関連することを示す多くの研究を 紹介しているが、総じて摂食障害患者の愛着スタイルは不安定な愛着スタイルであること
が示されている。Cole-Detke & Kobac(1996)の研究では、摂食障害者群、抑うつ群、摂食
障害・抑うつ合併群、統制群としての健常者群の 4 群の愛着スタイルを分類したところ、 摂食障害者群では拒絶型が 6 割以上、抑うつ群と摂食障害・抑うつ合併群ではとらわれ型 が半数以上を占めた。 櫻井(2006)は摂食障害患者と母親の関係に着目した研究で、患者の母親の多くは過保護で 支配的であり子供に自分の理想を強く求めること、また患者はそのような母親を受け入れ られないにもかかわらず過度に依存しているという母子関係の特徴があることが見出され た調査結果を紹介している。他の研究でも摂食障害者の親子関係については、過干渉や過 保護な親であることや患者は依存的であること、母子間の信頼関係が欠如していることな ど特徴的な親子関係があることが示されている。また、摂食障害の症状を呈している女性
の父子関係について、Cole-Detke & Kobac(1996)は、父親が批判的であることや、他者か
らの援助を感じにくいこと、父性性や共感性を欠いていることなどの愛着を阻害するよう な特徴を挙げている。摂食障害者の親子関係の研究から、母子関係、父子関係ともに以上 のような特徴が見出されているが、このような親子関係は子どもの愛着の形成にも影響を 与えていることが考えられる。櫻井(2006)は、摂食障害者は母子関係や対人関係に歪みが生 じており、心理的不安や葛藤を抱えていると述べているが、前述したように、乳幼児期に 養育者に愛着を形成できるか否かは、その後の対人関係や身体的な発達、パーソナリティ
15
にも影響する(たとえば櫻井,2006,岡田,2011,遠藤,2005 など)ことから、摂食障害者 の対人関係における心理的不安や葛藤と愛着には関連があると思われる。
以上のように、多くの研究で摂食障害と愛着には関連性があることが示されたが、摂食 障害は摂食態度と相互規定的関連を持つと考えられ、実際に摂食障害のスクリーニングに
は、EAT-26(Mukai ,et al)などの摂食態度尺度が用いられている。そこで本研究ではまず、
摂食態度と成人の対人関係を特徴づける成人愛着スタイルとの関連性を検討したい。 さらに、第 1 章で触れたように、ボディ・イメージや体型、体型イメージが摂食障害と の関連も示唆されていることから、ボディ・イメージや体型、体型イメージと摂食態度、 及び、成人愛着スタイルとの関連性も見ていく必要があると思われる。また、以上の分析 を、従来研究の少ない男性にも着目して行うことも目的とした。 なお、成人愛着スタイルと摂食障害や摂食態度の関係性については、摂食障害者を対象
とした愛着スタイルの分類を行った研究(Cole-Detke & Kobac,1996 など)は見受けられる
ものの、愛着スタイル間の比較や性差の検討を行ったものは見いだせなかった。圓田(2001) は男性の摂食障害が近年増加傾向にあるとしているが、従来から摂食障害者の大半が女性 であることから、男性の摂食障害に着目した研究はさほど多くはない。 以上を踏まえ、次の3 つを仮説とした。 仮説1.成人愛着スタイルの違いによって摂食態度、ボディ・イメージが異なる。 仮説 2.自己観・他者観がともにポジティブな安定型は摂食態度やボディ・イメージがポ ジティブであり、自己観・他者観がネガティブな恐れ型はネガティブな摂食態度やボディ・ イメージを有する。 仮説3.摂食障害者の多くが女性であることから、摂食態度には性差がある。 ちなみに、愛着パターンとは、乳幼児期から積み重ねられてきた対人態度であり、他者
への基底的態度と考えられる。さらにBartholomew & Horowitz(1991)の言うように、自己
観・他者観のあり方に密接に関係する全人的な変数と考えることができる。ここでの全人 的変数とは臨床心理学が研究対象とすべき、人間の全体性と捉えることができる変数であ る。豊嶋(2004)、豊嶋・花屋(2007)、豊嶋・福島・平岡(2010)が教員養成学の研究の対象は 教師の職業的社会化であること、教員とはいえ児童・生徒に対して全人的にかかわること が求められる職業なので、人の断片的な特性や性格の変数を研究するのではなく、まず「全 人的変数」の変化を研究すべきと主張し、質問紙調査で把握できる全人的変数の中核に同 一性地位を位置づけ、対人態度も全人的な変数であるとしている。この研究が扱っている 摂食態度やボディ・イメージが後述する摂食障害に関わる変数という意味で臨床心理学的 変数であり、それと全人的変数としての愛着スタイルとの関連性を本研究は明らかにしよ うとするものである。
16 第2 章 方法 第1 節 質問紙構成 質問紙の構成は以下の通りである。 a)フェイスシート(年齢,性別,BMI) 実際の体型の指標である BMI は、計算式を示し、 身長(cm)と体重(kg)を小数点以下を切り捨て、小数点以下 1 位まで算出してもらった。 b)中尾・加藤(2004)の一般他者に対する愛着スタイルを構成する 2 因子(「見捨てられ不安(自 己観に対応する)」,「親密性の回避(他者観に対応する)」を測定するための ECR-GO)の 30 項目, 7 件法(1:全く当てはまらない~7:非常によくあてはまる)。
c) Mukai, T., et al.(1994)の摂食態度検査 26 項目版(Eating Attitude Test-26 以下 EAT-26), 6 件法(1:いつも~6:全くない)。この尺度には下位尺度はない。摂食障害患者の臨床症状を簡 便に評価することができる尺度であることから,医療機関などでスクリーニングに用いられる尺 度である。なお、分析に際しては得点を逆転させているため、高得点ほど不健康であることを意 味する。
d)Thompson, M. A., et al.(1995)のシルエット図によるボディ・イメージの測定(9 種のシルエ
ットを提示し,①標準体型だと思うもの(以下,「標準体型イメージ」),②今の自分の体型に最も 近いもの(以下,「現在の体型イメージ」),③自分の理想の体型に最も近いもの(以下,「理想体型 イメージ」)をそれぞれ択一式で回答。体型は痩せ・肥満をランダムに並べ替えて使用)(Fig.1, Fig.2)。なお,女子用質問紙には女子用シルエットのみ,男子用質問紙には男子用シルエットの みを記載した。分析に際しては,最も痩せているシルエットに1 点,最も肥満しているシルエッ トに9 点を割り当てた。③(理想体型イメージ)から②(現在の体型イメージ)を引いた値を④体型不 満度とした。この値は絶対値が大きいほど現在の自分の体型に対する不満が高く,負の値である ほど痩せ願望が,正の値であるほど肥満願望が強いことを意味する。 第2 節 手続き 平成24 年 5 月と 12 月の 2 度にわたり、開講学年が異なる講義を受講している大学生を 対象に質問紙調査を実施した。2 度の調査の有効回答数は 280(男子 128,女子 152)であり、 有効回答率は98.21%だった。 1 度目、2 度目ともに講義終了後に、男女別に質問紙を配布し、翌週の同講義終了後に回収し た。
17 Fig.1Thompson, M. A., et al.(1995)の男子用シルエット
Fig.2 Thompson, M. A., et al.(1995)の女子用シルエット
第4 節 結果・考察Ⅰ:各変数の全体的状況 (1)成人愛着スタイル 「見捨てられ不安」、「親密性の回避」ともに平均値をカッティングポイントとし、愛着ス タイルの分類をした結果、それぞれの型に約20 から 30%が分布する結果となった。全体で は「見捨てられ不安」は3.39、「親密性の回避」は 3.70 をカッティングポイントとし、分 類したところ安定型に 75 人(29.18%)、拒絶型に 66 人(25.68%)、とらわれ型に 48 人 (18.67%)、恐れ型に 68 人(26.45%)という分布になった(Fig.3)。 男子の平均値は、「見捨てられ不安」は3.23、「親密性の回避」は 3.74 となり、分布は安定 型に33 人(28.69%)、拒絶型に 31 人(26.95%)、とらわれ型に 22 人(19.71%)、恐れ型に 29 人(25.21%)となった(Fig.4)。女子の平均値は「見捨てられ不安」は 3.52、「親密性の回避」 は3.68 となり、分布は安定型に 39 人(27.46%)、拒絶型に 36 人(25.35%)、とらわれ型に 28 人(19.71%)、恐れ型に 39 人(27.46%)となった(Fig5)。
18 (2)他の変数 EAT-26 得点の平均値は 51.48 (SD=16.38)であった。EAT-26 は不健康とされる値が明確 にされていない。男女別の平均値は性差を論じる章で紹介する。 BMI の平均値は 21.57(SD=2.97)であり、この値は日本肥満学会の基準では普通体重とされる 値であった。シルエット図によるボディ・イメージの測定の平均値は、標準体型イメージが 4.92(SD=0.95)、現在の体型イメージが 5.58(SD=1.44)、理想体型イメージが 4.37(SD=1.18) となった。体型不満度は-1.22(SD=1.73)であり、全体的に痩せ願望の体型不満傾向があると言 える。男女別の平均値は性差を論じる章で紹介する。 (3)ECR-GO(一般他者版成人愛着スタイル尺度)と EAT-26(摂食態度検査)の因子分析 愛着と摂食態度との関連性をより詳しく検討するために、ECR-GO と EAT-26 に因子分 Fig.3 ECR-GO による愛着スタイルの分布 カッティングポイントを分割点で示した Fig.5 女子の成人愛着スタイル分布 Fig.4 男子の成人愛着スタイル分布
19 析を行った。ECR-GO では、既存の二下位尺度以外の軸を見出す目的で、主因子法・バリマッ クス回転により因子分析を行ったところ、6 因子が得られた。各因子は以下のように命名した。 因子Ⅰは、「私が親密になりたいと望むほどには、人は私と親密になりたいと思っていないと私 は思う」や、「私は人が私に対して好意的であるということを何度も何度も言ってくれることが 必要だ」などの他者と親密な関係でいることを望む項目と、「人にダメだなぁと言われると、自 分は本当にダメだなぁと感じる」という他者評価による被影響性を意味する項目の2 つが含ま れたことから「親密願望と他者からの評価」、因子Ⅱは「人に何でも話す(逆転項目)」、「心の奥底 で何を感じているか人にみせるのはどちらかというと好きではない」など自分の考えなどを他者 に示すか否かを問う項目が多く含まれたことから「自己開示」、因子Ⅲは「人とあまり親密にな ることがどちらかというと好きではない」や「人と親密にならないようにしている」などの他者 と親密な関係の回避についての項目が含まれたことから「親密回避」、因子Ⅳは「私があまりに も気持ちの上で完全に一つになることを求めたがるために、ときどき人はうんざりして私から離 れていってしまう」などの他者と親密な関係を望むこと項目から「親密欲求の過多」、因子Ⅴは 「誰かと付き合っていないと何となく不安で不安定な気持ちになる」など他者との関係性に関す る項目が含まれたことから「かかわり執着」、因子Ⅵは、「私は、見捨てられるのではないかと心 配だ」の一項目のみであったことから「見捨てられ不安」とそれぞれの因子を命名した。因子Ⅲ 「親密回避」と因子Ⅳ「親密欲求の過多」はともに既存の二下位尺度のうち「親密性の回避」に 含まれる項目のみで、因子Ⅰ「親密願望と他者からの評価」、因子Ⅱ「自己開示」、因子Ⅴ「かか わり執着」、因子Ⅵ「見捨てられ不安」は既存の二下位尺度のうちの「見捨てられ不安」に含ま れる項目のみで構成されていた(Table5)。 EAT-26 も主因子法・バリマックス回転で因子抽出を行ったところ、6 因子を得た。それぞ れの因子は、因子ⅰには、「胃が空っぽの状態が好きだ」や、「お腹が空いたときに食べな いようにしている」などの空腹状態を保つことや満腹を避ける行動を示す項目が含まれた ことから「満腹回避」、因子ⅱには「もっと痩せたいという思いで頭がいっぱいである」や、 「太りすぎることが怖い」などの痩せ願望や肥満することへの恐れに関する項目が含まれ たことから「肥満恐怖と痩せ願望」、因子ⅲは「食物のことで頭がいっぱいである」や、「私 の生活は食物に振り回されている」などの食物や食行動へのとらわれに関する項目が含ま れたため「食へのとらわれ」と、因子ⅳは「他の人は私のことをやせ過ぎだと思っている」 や、「他の人は私がもっと食べることを望んでいる」など他者が自分の痩せや小食を気にか けているという認知に関する項目から構成されていたことから「他者からの「食」圧」と 因子ⅴは「自分が食べる食物のカロリー量を知っている」と「カロリーを使っていること を考えながら運動している」、「食物に関して自分で自分をコントロールしている」という3 項目から構成され、いずれも摂取カロリーや食行動の自己制御を意味することから「食の 自己コントロール」、因子ⅵは「食物に関して時間をかけすぎたり、考え過ぎたりする」と 「他人よりも食事をするのに時間がかかる」といういずれも食や食行動に時間を費やすこ とを問う項目であったことから「食への時間的コミット」と命名した(Table 6)。
20 1 2 3 4 5 6 17 私が親密になりたいと望むほどには、人は私と親密になりたいと思っていなと私は思う .745 .097 .204 .027 .073 .082 5 私は、いろいろな人との関係について、非常に心配している .671 .180 .022 .094 .106 .125 9 私が人のことを大切に思うほど、人は私のことを大切に思っていないのではないかと私は心配する .660 .036 -.069 .220 .009 .055 21 私は、知り合いを失うのではないかと結構心配している .645 .202 -.008 .239 .213 .164 6 私は、知り合いが私のことをほっといて自分一人で何かすることが重なってくると腹が立ってきてしまう .514 -.204 .154 .084 .255 -.019 1 私は何時も、人が私に対していだいていてくれる気持ちが、私が人に対していだいている気持ちと同じくらい強ければいいなぁと思う .473 -.088 -.254 .128 .132 -.140 12 私には、人が私に対して好意的であるということを何度も何度も言ってくれることが必要だ .452 -.133 .032 .326 .329 .075 19 人にダメだなぁと言われると、自分は本当にダメだなぁと感じる .444 .068 .072 .053 .329 .204 4 私は、人が必要なときにいつでも私のためにいてくれないとイライラする .414 -.102 .232 .177 .343 .043 23⋆私は人に何でも話す .025 .787 .080 -.014 -.062 .122 13⋆私は、心の奥底にある考えや気持ちを人に話すことに抵抗がない .070 .722 .084 .020 -.005 .208 14 心の奥底で何を感じているかを人にみせるのはどちらかというと好きではない .141 .716 .058 -.011 -.027 -.145 28 私は人に心を開くのに抵抗を感じる .094 .572 .329 .059 .211 .044 18⋆私はたいてい、人と自分の問題や心配ごとを話し合う -.188 .512 .006 -.007 -.189 .063 7⋆ 私は比較的容易に人と親密になれると思う .060 .438 .230 -.028 -.166 .390 22 私は人とあまり親密になることがどちらかというと好きではない .015 .175 .730 .121 .225 -.072 16⋆私は、人と親密になることがとてもここちよい -.092 .092 .689 .010 -.254 .185 26 私は人とあまり親密にならないようにしている .223 .162 .592 .147 .160 -.041 27 私があまりにも気持ちの上で完全に一つになることを求めるがために、ときどき人はうんざりして私から離れていってしまう .265 .013 .140 .936 .147 -.024 29 私が人ととても親密になりたいと強く望むがために、ときどき人はうんざりして私から離れていってしまう .287 .026 .120 .630 .169 -.002 25 私は誰かと付き合っていないと、何となく不安で不安定な気持ちになる .241 -.046 -.003 .147 .651 .264 20 私は、人にもっと自分の感情や自分たちの関係に真剣であることを示させようとしているのを感じることがときどきある .206 -.098 .057 .141 .456 -.106 2⋆ 私は、見捨てられるのではないかと心配になることはほとんどない .243 .188 -.008 -.009 .172 .685 固有値 3.901 3.042 1.854 1.805 1.547 .808 寄与率 15.006 11.701 7.131 6.943 5.948 3.108 累積寄与率 26.707 33.838 40.781 46.729 49.837 因子負荷量 項目内容 第一因子「親密願望と他者からの評価」 第二因子「自己開示」 第三因子「親密回避」 第四因子「親密欲求の過多」 第五因子「かかわり執着」 第六因子「見捨てられ不安」 ⋆は逆転項目を示す なお、以下ではECR-GO、EAT-26 とも因子の指標としては因子得点を採用した。男女差 の検討の際には、男女別の因子分析による因子得点ではなく、この数値を使用する。 Table5 ECR-GO 因子分析(主因子法・バリマックス回転)
21 1 2 3 4 5 6 10 食べた後に吐く .834 .001 .250 .103 .028 -.066 29 食事の後で衝動的に吐きたくなる .829 .070 .269 .008 .020 .196 25 甘い物を食べた後で、気分が落ち着かない .552 .287 .089 .042 .070 .492 27 胃が空っぽの状態が好きだ .529 .246 .047 .058 .022 .301 19 ダイエット食品を食べる .492 .317 .275 .008 .282 .150 18 砂糖が入っている食物は食べないようにしている .488 .155 -.153 .141 .231 .093 3 おなかがすいたときに食べないようにしている .461 .356 .030 .041 .059 -.003 13 もっとやせたいという思いで頭がいっぱいである .161 .840 .166 -.123 .069 .047 16 自分の身体に脂肪がつきすぎているという考えが頭から離れない .177 .773 .228 .026 -.016 .106 1 太りすぎることがこわい .056 .712 .054 -.179 .105 .076 26 ダイエットをしている .353 .651 .076 -.114 .201 .135 4 食物のことで頭がいっぱいである .038 .213 .597 -.059 .103 .113 20 私の生活は食物にふりまわされている気がする .353 .375 .540 -.015 .153 .302 5 やめられないかもしてないと思うほど次から次へと食べ続けることがある .155 .317 .480 -.093 -.066 .282 28 食べたことがないカロリーが高い食物を食べてみることは楽しみだ .086 -.023 .470 .082 .074 -.081 15 他の人は私のことをやせすぎだと思っている .067 -.175 -.042 .808 -.040 .114 9 他の人は、私がもっと食べるようにと望んでいるようだ .112 -.073 .051 .732 .105 .093 7 自分が食べる食物のカロリー量を知っている .287 .196 .092 -.030 .673 .178 14 カロリーを使っていることを考えながら運動する .132 .365 .350 -.028 .517 .076 22 食物に関して自分で自分をコントロールしている -.015 -.026 .036 .073 .499 .034 24 食物に関して時間をかけすぎたり、考えすぎたりする .369 .328 .274 .104 .184 .549 17 他の人よりも食事をするのに時間がかかる .065 .001 .014 .230 .141 .411 固有値 4.185 3.667 1.753 1.669 1.524 .997 寄与率 16.097 14.105 6.742 6.420 5.863 3.833 累積寄与率 30.202 36.945 43.365 49.228 53.061 因子負荷量 第六因子「食への時間的コミット」 第一因子「満腹回避」 第二因子「肥満恐怖と痩せ願望」 第三因子「食へのとらわれ」 第四因子「他者からの「食」圧」 第五因子「食の自己コントロール」 項目内容 Table6 EAT26 因子分析(主因子法・バリマックス回転) 第4 節 結果・考察Ⅱ:ECR-GO(一般他者版成人愛着スタイル尺度)と他の変数の関連性 (1)相関分析 ECR-GO の二下位尺度と因子分析の結果得られた 6 因子を他の指標との関係を見るために相 関分析を行った。その結果、「見捨てられ不安」はEAT-26 得点、因子ⅴ「食の自己コントロール」 を除くすべてのすべての因子と正相関が認められた(Table 6)。「見捨てられ不安」とEAT-26 得点 が正相関であったことから、見捨てられ不安が強いほど摂食態度も不健康になる傾向が示唆され た。特に、EAT-26 の因子ⅰ「満腹回避」、因子ⅱ「肥満恐怖と他者からの評価」、因子ⅵ「食へ の時間的コミット」ではp<.01 であることから、「見捨てられ不安」の強さは食事場面だけでな く、食物のカロリー量や消費カロリー量を計算したり、食後に吐いたりするなどの食事場面の前 後における不健康な行動と関連していることがうかがえる。 「親密性の回避」は因子ⅳ「他者からの「食」圧」と正相関があることから、他者との親密な
22 関係を回避する人ほど、他者から自身の体型や食行動がとのように認識されているかを気にかけ る傾向があると言える。親密性を回避することは、他者の関係の中で心理的にも物理的にも距離 を置いた付き合いをすることになり、そのことによってメタ認知に歪みが生じることが推測され る。 次にECR-GO の因子と各指標の相関分析の結果だが、因子Ⅰ「親密願望と他者からの評価」 はEAT26 得点、因子ⅱ「肥満恐怖と痩せ願望」、因子ⅲ「食へのとらわれ」、因子ⅵ「食への 時間的コミット」と正相関が認められたことから、他者とより親密になりたい一方で、食行動 においても他者から自分がどのように認識されているかが気にかけていることが推察される。そ のことによって、摂食態度の不健康度合が増していると考えられる。また、不健康な摂食態度と して、肥満に対する恐怖心が強く同時に痩せ願望を抱き、食に振り回され過食に走ることが因子 ⅲ「食へのとらわれ」の項目内容から考えられる。 因子Ⅱ「自己開示」は、因子ⅳ「他者からの「食」圧」とのみ正相関を認めるのみであった。 他の因子はEAT26 の複数の因子と相関あるいは負相関を認めていることから鑑みても、食行動 全般と自己開示をするか否かはさほど関連性が強くないことがうかがえる。既述のように、因子 Ⅱ「自己開示」は下位尺度「親密性の回避」に含まれる項目のみから構成されているが、他者か らの食事に対するプレッシャーに対する敏感さは他者との親密性を回避する行動の上で特に自 己開示をしないことと関連があると言える。因子Ⅲ「親密回避」は、弱いながらも現在の体型イ メージと正相関を認めるほか、体型不満度、因子ⅰ「満腹回避」と正相関が認められた。因子Ⅲ 「親密回避」と現在の体型イメージが正相関であることから、他者との親密性を回避する人ほど 現在の自分の体型を肥満していると評価する傾向があると言える。因子Ⅲ「親密回避」と実際の 体型を示すBMI の間に相関が認められないことから、親密性を回避する傾向がある人は、現在 の体型が肥満しているかいないかにかかわらず、実際の体型以上に肥満と評価する傾向があるこ とが示唆されたと言える。親密性を回避する背景には、他者から受け入れられない体験すること により、絶望したり傷つくことを避けようとする心性があることがこれまでの研究で示されてい る(例えば、岡田,2011)。自分の体型を肥満していると評価することは、過小な自己評価であり、 他者との親密な関係を回避することによってより一層傷つくことを回避しようとしていると考 えられる。体型不満度については、親密を回避する人ほど現在の体型イメージが肥満しているこ とからも痩せ願望の不満度が高まると言える。 因子Ⅳ「親密欲求の過多」は、標準体型イメージ、因子ⅴ「食の自己コントロール」と弱いな がらの負相関しており、因子ⅰ「満腹回避」、因子ⅳ「他者からの「食」圧」と正相関している。 実際の体型を占めすBMI や現在の体型イメージ、理想体型イメージとはほぼ無相関であること から、過剰な親密欲求を抱いていたとしても、現在の体型イメージや理想体型イメージ、体型不 満度には影響しない。標準体型イメージは最も一般的であると同時に、他者からも受け入れられ やすい体型のイメージであることが考えられる。他者との親密性が過剰である人ほど標準体型イ メージが肥満する傾向があることから、痩身であることによって他者に受け入れられやすい体型 であろうとすることを求めるという傾向が考えられる。また、因子ⅴ「食の自己コントロール」
23 因子ⅰ 因子ⅱ 因子ⅲ 因子ⅳ 因子ⅴ 因子ⅵ 標準体型 イメージ 現在の体 型イメー 理想体型 イメージ体型不満度 満腹回避 肥満恐怖と 痩せ願望 食への とらわれ 他者からの 「食」圧 食の自己 コントロール 食への時間的 コミット 見捨てられ不安 -.103* -.008* .006** -.096 -.051* .262** .182** .184** .134* .144** -.191** .193** 親密性の回避 .008* .105* .040** .004 -.031* .086** .107** .092** -.032* .134** -.106** .083** 因子Ⅰ 親密願望と他者からの評価 因子Ⅱ 自己開示 因子Ⅲ 親密回避 因子Ⅳ 親密欲求の過多 因子Ⅴ かかわり執着 因子Ⅵ 見捨てられ不安 **…p <.01 *…p <.05 ECR-GO BMI 体型イメージ EAT26 EAT26得点 -.114** .165** -.045* .088* -.072** -.022 .076* -.015** .021** .030** -.077** .149** -.095** .016** .210** .111** .162** .134** -.088** -.085* -.034* .015** -.044 -.041* -.041** .122** .029* .146* -.009** .029 .028* .058** .225** -.050** -.003** .128** -.143** 043** .096** .177** .048** -.063** -.064** .116* .068* .179** .011 -.158* -.062** .158** -.050* -.035* .059** -.014 -.057* .054** .040** .030** .173** .000** -.174** .034** .192** .013** .186** .038** .134** -.137* -.046* -.095** -.099 .010* と弱いながらも負相関していることからも、昨今は痩身を賛美する風潮がある(圓田,2000)が、 過剰な親密欲求を抱く人にとっては、他者に受け入れられやすい体型は多少なりとも肥満してい るか、あるいは痩身であると他者に受け入れられにくいとする認知があると推察される。因子ⅰ 「満腹回避」、因子ⅳ「他者からの「食」圧」と正相関していることから、食事場面においては 食べすぎることは、他者から受け入れられないことであるとしていることが考えられ、食事量が 少ないことと関連して他者からより多く食べることを求められているというメタ認知を抱く、あ るいは、他者と親密になりたいという強い欲求がかなわないことで、不食や嘔吐に走ることが考 えられる。因子Ⅴ「かかわり執着」は、BMI と負相関が、EAT26 得点、因子ⅱ「肥満恐怖と他 者からの評価」、因子ⅳ「他者からの「食」圧」、因子ⅵ「食への時間的コミット」と正相関が見 られた。因子Ⅴ「かかわり執着」とBMI の負相関から他者との関係においてより親密になるこ とや尊重を求めるなど関係のあり方に執着する傾向がある人ほど、実際の体型は痩身になると言 える。前述の因子Ⅳ「親密欲求の過多」でも親密欲求と不食と関連が見られたことと、高得点で あるほど不健康な摂食態度であるEAT26 得点と正相関していることからも、親密欲求の強さが 食欲の減退に関連し結果として実際の体型も痩身となることが推察される。また、不健康な摂食 態度として、因子ⅵ「食への時間的コミット」と正相関していることから、少量の食事を時間を かけて食べることが挙げられるが、このような摂食態度が他者からの食事に関するプレッシャー を招いていると考えられ、因子ⅳ「他者からの「食」圧」との正相関を生み出したと考えられる。 因子Ⅵ「見捨てられ不安」は単一項目である(Table4)が、因子ⅲ「食へのとらわれ」、因子ⅴ「食 の自己コントロール」と正相関がみられることから、他者に見捨てられるのではないかという不 安を食行動によって紛らわせていることが考えられる。正相関が見られた因子ⅲ「食へのとらわ れ」、因子ⅴ「食の自己コントロール」の両因子から食事のカロリー量や消費カロリーを考える ことで食をコントロールしているという認識を抱くが、そのことが同時に食へのとらわれともな っていることが考えられる。 Table6 ECR-GO の二下位尺度及び、因子と各指標の相関分析