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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 理 学 ) 高 坂 繁 弘

    学位論 文題名

Phase Transition DynamlCSOfKHC03     StudiedbyLightScatte:l     `  rlng

(光 散乱によるKHC03の相転移ダイナミクスの研究)

学位論文内容の要旨

  水素結合系結晶における同位元素効果の起源を明らかにするためにKHC03の相転移 ダイナミクスを光散乱によって研究した。KHC03は結晶中に水素結合によるネットワ ーク構造を持たないため、相転移機構に対して水素結合ネットワークに起因する複雑な 効果が無い。この単純な構造の特徴は、水素結合自体による同位元素効果の研究を可能 にした。さらに、水素結合中の2つの安定な位置の間のプ口トンの運動は(HC03)2ダイ マーのフリップ‐フ口ップ運動と強い相関を持っため、ダイマーの運動を観測すること でプ口トンの運動を検出できる。本研究ではダイマーの運動を光散乱によって調べるこ とでプロトンの運動における同位元素効果を重水素化結晶KDC03の結果と比較して明 らかにした。

  X線構造解析の研究と超音波研究の結果の間にあった矛盾を解決するために、相転移 温度(TN)近くの横波音響C66モードのブリルアン散乱スペクトルを観測した。その結果、

C66モードが相転移点においても凍結しないことを見出し、構造解析の結果が支持され、

KHC03はantiferrodistortive相転移すると結論された。さらに、ダイマーのフリップーフ ロップ運動のブリルアンゾーンセンターのモードとしてQFモードを導入し、C66モード の 不 完 全 な 凍 結 をQFモ ー ド と の 双1次 結 合 に よ っ て 定 量 的 に 説 明 し た 。   プ口トン の運動の同 位元素効果 を調べるた め、KHC03とKDC03のQFモー ドのブリ ルアン散乱スペクトルを観測した。図1にこの結果より得られた緩和時間の逆数を示す。

観 測され たKDC03のQFモ ードの運動 はKHC03のそ れよりも一 桁程度遅い ことが,明 らかになった。さらに、緩和時間の波数依存性を調べた結果、中性子で観測する波数領 域 におけるQFモー ドの緩和時間も求めることができ、図2に示すようにKDC03のそれ は中性子散乱の結果と良い一致を示した。KDC03の波数の大きい領域での緩和時間は、

KHCOユのものより約2倍大きい。このように、QFモードの同位元素効果が初めて示さ れ、ダイマーの運動に水素結合自体に起因する同位元素効果があることが結諭された。

  このようにして説明された相転移機構に基づくと、せん断応カの印加により相転移そ

(2)

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の も のを 制 御で き る こと が期待さ れる。そ のために 、KHCOユにせ ん断応カ を加え、 相 転 移 機構 を 制御 す る こと を試みた 。それは 、TNで凍結 するダイ マーのゾ ーン境界 モー ド(QAモー ド )とQFモー ドの エネルギー の差は小 さいので 、せん断 応カをKHC03に 加え る こ と で 、QFモ ー ド と の 双1次 結合 を 通 じてQFモ ー ド のエ ネ ル ギー をQAモ ー ドの そ れ よ り小 さ くす る こ とが できるか らである 。したが って、せ ん断応カ の下でQFモ ード が凍 結したferrodistortive相を実現することが期待できる。せん断応カをKHCOユに印加 し た 状態 で 、ブ リ ル アン 散乱実験 を行なっ た結果、 期待どお り臨界応 カに至る までQF モー ドは応カ とともにソ フト化し た。図3に 示される ように本 実験で得 られた応力‐温 度相 図から、 臨界応カよ りも大き な応カ

に よ り 誘 起 さ れ るferrodisotortive相 も 新 し く 発 見 さ れ た 。 こ れ ら の 結 果 に よ り 、 応 カ に よ っ て 相 転 移 機 構 を 制 御 で き る こ  p     .u

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と が 結 諭 さ れ た 。  ∞

  本 研 究 に よ っ て 、KHC03お よ びKDC03  亀     丶 − ‐ ノ

の ダ イ マ ー の 運 動 の 同 位 元素 効 果 の起 源  マ     p

は 水 素 結 合 自 体 に 起 因 す る こ と が 結 論 さ れ た 。

    △T(均

図2中性子で観測される波数領域のQFモードの緩和 時間の逆数の温度依存性。□はKHC03、●はKDC03、

△はKDC03の中性子実験で観測されたものを表す。

    △T (K)

図1観 測されたQFモードの 緩和時間の逆数の温 度 依 存 性 。 ロ はKHC03、 ● はKDC03を表 す 。

    Temperature (K)

3KHC03xy‑せ ん 断 応 力 . 温 度 相 図oI: disorder相、II: antiferrodistortive 相、III: ferrodistortive相。

(3)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査    教 授    八 木 駿 郎 副 査    教 授    徳 永 正 晴 副査    助 教授    市 川瑞 彦 副査    助 教授    辻 見裕 史

     学 位 論 文 題 名

Phase Transition Dynamics of KHC03     Studied by Light Scatter‑i      ー   11ng

(光散乱によるKHC03 の相転移ダイナミクスの研究)

  水素結合を含む物質は自然界において水から宇宙塵に至る広い範囲で存在し、その物性に水素結 合が果たす役割は極めて重要である。特に物質における相転移現象には水素結合の動的性質(ダイ ナミクス)が顕著に反映されることが多く、数多くの研究の対象になっている。しかしながら多く の場合水素結合は物質中で3次元的空間構造を持っネットワークを構成し、観測される物理量にそ の空間構造に起因するものと水素結合そのものに起因するものが重畳し、ダイナミクスを解明する ことが困難になっている。

  本論文では水素結合それ自身のみが相転移機構に関与するメカニズムを明らかにするために、水 素結合によるネットワーク構造を持たない結晶KHC03の相転移ダイナミクスを光散乱によって研 究した。この結晶の構造上の特徴は、水素結合中の2つの安定な位置の間のプロトンの運動が (HC03)2ダイマーの方位に関するフリヅプ.フロップ運動と強い相関を持つ点にある。従ってダイマ ーの運動を光散乱法で観測することでプロトンの運動を検出できる利点がある。この特徴を利用し て本論文においてはダイマーの運動を光散乱で調ベ、それによルプロトンのダイナミクスにおける 同位元素効果を重水素化結晶KDC03の結果と比較して明らかにした。

  まずX線構造解析の研究と超音波研究の結果の間にあった矛盾を解決するために、相転移温度(TN) 近くの横波音響C66モードのブリルアン散乱スベクトルを観測した。その結果、C66モードが相転移点 においても凍結しないことを見出すことに成功し、構造解析の結果を支持することでKHC03の相転 移はantiferrodistortiveであることが結論された。

  次にダイマーのフリップ.フロップ運動のモードとしてQFモード(ゾーンセンターモード)とQA モード(ゾーン境界モード)を導入し、C66モードの不完全な凍結をQFモードと音響モードの双1次 結合によって定量的に説明することに成功した。さらにプロトンの運動における同位元素効果を調 べるため 、KHC03とKDC03のQFモ ードのブ リルアン 散乱スベ クトルを観測した。図1にこの結 果より得 られた緩 和時間の 逆数を示す。観測されたKDC03のQFモードの運動はKHC03のそれよ りも一桁程度遅いことが明らかになった。さらに、緩和時間の波数依存性を調べた結果、中性子散 乱法で観測される波数領域におけるQFモードの緩和時間も求めることができ、図2に示すように KDC03のそれは実際の中性子散乱実験の結果と良い一致を示した。KDC03の波数の大きい領域で の緩和時間は、KHC03のものより約2倍大きい。このように、QFモードの同位元素効果が初めて

(4)

示され、ダイマーの運動に水素結合自体に起因す る同位元素効果が反映されていることが結論され た。

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    △T (K)

図1.観測されたQFモードの緩和時間fの     逆 数 の 温 度 依存 性。 ロ;KHC03     ●;KDC03)

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AT (K)

2.中 性子 散 乱 で 観測 され る波数 領域の     QFモ ード の 緩 和 時間fの 逆 数 の 温度     依存性。(□;KHC03,●;KDC03,△;

    中性子 散乱実 験によるKDC03のも の)

  このようにして解明された相転移機構に基づくと、 せん断応カの印加により相転移そのものを制 御で きる こと が可 能で ある 。そ れは 、TNで凍 結す るQAモードとQFモードのエネ ルギーの差が小さ い ので 、せ ん断応カ をKHC03に加えることで、

モ ード のエ ネル ギー をQAモー ドの それ より低 くすることができるからで ある。この状態が実 現 す る とQFモ ー ド が 凍 結 し たferrodis‑

tortive相 を生 じることが期待できる。著者は せ ん 断 応 カ をKHC03に 印 加 した 状態 でプ リル ア ン散 乱実 験を 行う こと によ り、QFモ ードが せ ん断 応カ の増 加と とも にソ フト 化す ること を 観測 した 。その結 果、図3に示されるように 応力.温度相図が実験的に 得られたことから、

臨 界応 カよ りも 大き な応 カに より 誘起 される ferrodisotortive相が存在 することが新しく発 見された。これらの結果に より、せん断応カの 印 加 に よ っ てKHC03の 相 転 移機 構を 制御 でき ることが結論された。

  こ れ を 要 す る に 、 著 者 は 、KHC03お よ び KD C03のダ イマ ーの 運動 のダ イナ ミク スにつ いてその緩和時間の差は水 素(重水素)結合自 然に起因するヒいう結論を 得たものであり、水 素 結合 を含 む物 質系 に対 して その 相転 移機構 の 微視 的な 解明 をし た貢 献は 大な るも のてあ る。

せ ん 断 歪 み とQFモ ー ドと の双1次 結合 を通 じてQF

    Temperature(Iく)

図3. KHC03xyせ ん 断応 力 一 温 度相 図 。     I; disordered相,II; antifrrodis     tortive相,HI;ferro(1もtoItive相。

よって著者は、北海道大学博士(理学 )の学位を授与される資格あるものと認められる。

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図2に実験装置の概略を,表1に主な実験条件を示す.実