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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 佐 野 智 人

学 位 論 文 題 名

台風による自然撹乱が北方森林生態系の炭素交換量 および蓄積量に与える影響

学位論文内容の要旨

  森林 生態 系 は主 要な 温室 効 果気 体で ある 二酸 化 炭素(C02)の 吸収 源( シン ク )とし て期待され て いる が, 様々な自然撹乱や伐 採などの人為撹乱にともなう 植生と環境の変化により, 森林生態系 の 炭素 収支 が大きく変化するこ とがわかってきた。台風は東 アジアの森林生態系におけ る主要な撹 乱 要因 であ り,しばしぱ壊減的 な強風被害を与えてきた。今 後,地球温暖化にともない 強大な台風 の 発生 割合 が増加することが懸 念されている。また,日本で は伐採適齢期を超えた人工 林が増加し て いる が, このような森林は風 倒害を受ける可能性が高いと いわれている。しかし,台 風などによ る 強風 被害 が森林生態系の炭素 収支に与える影響に関する研 究例はほとんどなく,実測 に基づぃた 定量的な 評価が求められている。

  2004年9月に 台風18号が 北海 道西 岸を 通 過し ,北 海道 各 地の 森林 に被 害総 面 積37,000 haに及 ぶ 大規 模な 風 倒被 害を もた ら した 。本 研究 では , 台風18号 により壊減的な被害を受け た苫小牧国 有 林の 約50年生のカラマツ林風 倒害跡地を対象として,撹乱 後の2006〜  2009年に植生 ,微気象,

炭 素蓄 積量 お よびC02フラ ック スの 測定を行い,植生遷移の 初期過程に韜ける炭素収支 の変化を定 量 化す ると ともに,撹乱前の実 測データを利用して,台風に よる自然撹乱が北方森林生 態系の炭素 交換量お よび蓄積量に与える影響を 明らかにすることを目的とした。な韜,本研究サイトでは,2000 年 から 北方 森 林の 炭素 循環 機 能に 関する調査研究が実施さ れ,バイオマスや微気象,COzフラック ス など の測 定 が行 われ てき た が, 台風18号 によ り 樹木 の90%以 上が 倒伏 し, 研 究が中 断された。

そ の 後 , 風 倒 木 は 搬 出 さ れ , 枝 や 寝 返 り し た 切 株 な ど は そ の ま ま 残 さ れ た 。

1) 撹乱 によ り, 本 研究 サイ トは カラ マツ林からエゾイチゴが優占 する群落へと変化した。撹 乱前 の林 床に は オシ ダや シラ ネワ ラ ピな どの シダ 類 が繁 茂し ていたが ,撹乱にともないシダ類は 減少 し, これ ま で観 察さ れな かっ た エゾ イチ ゴが 繁 茂す るよ うに なっ た 。地 上部 バイ オマス(AGB)の 年最 大値 は ,撹 乱前 の91 Mg ha―1か ら撹乱2年後(2006年)には2.7 Mg ha−1にまで減少した 。一 方,葉面積指数(LAI)の年最大値は9.4m2rrl‑2から3.7 II12 III‑2まで減少したが,その減少割合は AGBほど 大き くは な かっ た。 その 後,AGBは2009年に かけ て増 加を 続 けた が,LAIはほとんど 変化 しな かっ た 。こ の原 因と して , エゾ イチ ゴの2年 目茎 が増 加した ことと,1年目茎とのフェノ ロジ ーの違いが示唆された 。

2)撹 乱に よっ て群 落 構造 が大 きく 変化 し ,LAIが 低下 した結果,微気象 環境が変化した。撹乱後 は 夏期 の地 温 が上 昇し ,そ の 日較 差も 大き くな っ た。 また,群落高付近 における昼間の大気飽差 (VPD)も上 昇す ると と もに ,夏 期に 土壌 水 分が 低下 する 傾 向が 認め られ た。 地 表面を覆う植物が     ―1376−

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減少 した ことにより,土壌表面に到 達する日射量が増加し,地温 が上昇したと考えられる。 また,

植生 の減 少によって蒸散量が減少す るー方,土壌面からの蒸発量 は増加し,結果として土壌 が乾燥 する よう に なっ たと 考え ら れる 。

3)自動開 閉型の大型チャンバーシス テムを用いて,2006〜  2008年の無積雪期間に純生態系生産量 (NEP)を 連 続 観 測 し た 。2006年 のNEPは ,6‑‑7月にO gCm−2d・1付 近で あっ た が,2007年は5月 か ら7月 中 旬 ま で 正 の 値(C02シ ン ク) を維 持し た 。2008年 は, 観測 開 始直 後の7月 上旬 には0gC ヂp程 度 で あ っ た が , そ の 後8月 ま で 減 少 を 続 け た 。8月 以 降 のNEPは3年 間 と もに 同様 に 変化 し ,9月下 旬に0 gCm・2d―1近くまで増加し た後,再ぴ減少した(C02ソ ース)。生態系呼吸量(RE) は 地温 と同 様 な季 節変 化を 示し ,8月に 最 大値 に達した。また,REの季 節変化は3年間でほぽ同様 で あ っ た 。 生 態 系 光 合 成 量(GPP)は,2006年は8月 上旬 に,2007年 は6月下 旬に 年最 大値 に 達し た 。ま た, 年 最大GPPは2006年 より2007年 の方 が30%程 度大 き かっ た。2008年にっいては,観測 開 始直 後の7月 上旬 にGPPは 最も 大 きか った 。3年間 の共 通観 測 期間 (6月28日〜11月11日 ,4.5 カ 月間 )に お けるGPPとREの積 算値 は, そ れぞ れ411士27,489土5gCm・2と なり ,有 意な 年 次間 差 は認 めら れ なか った 。ま た, 撹 乱前3年 間(2001〜2003年 )の 渦相 関 法に よる 測定 結果 ( 平均 値 )と 比較 す ると ,GPPは64%,REは51%, それ ぞれ 減少 した 。 その 結果 ,積 算NEPは159土57 gC やからー80土30 gC rri‑2に減少した 。なお,2007年にっいて5〜6月の観測結果も含めて年積算値を 推定した ところ,NEPは‑31 gCm一2y―1となったが,残置された切 株の分解にともなうC02放出 を考 慮 する と, 風 倒害 跡地 の年 積算NEPは‑91 gCやy‐1と推 定さ れ た。 切株 から のC02放 出量 はREの 約5%であ った。

4)刈取りなどの生態学 的方法により求めた撹乱後の 地上部純ー次生産量(NPPー)の平均値は145 gC m一2y―1で,経年変化はほとんどなかった。また,NPPAの半分以上がエゾイチゴによるものであった。

撹乱 後の 土壌 炭 素量(0〜20 cm深 〕は43.7 Mg ha―1で,撹乱前後でほと んど変化しなかった。リ ター バッ ク法 よ り求 めた 残置された枝と側根 からの炭素放出量は,2006年にはそれぞれ71,27 gC m−2yー1であったが,2009年には33,18 gC rn‑2 y‑lに減少した。さらに,切株からのC02放出量を加 えると,2007年の 年積算NEPは一22 gCm・2y−1と推定された。チャンバー 法による推定値との差が 69 gCやyー1ある が, 台 風に よる 大規 模な 撹 乱に より ,カ ラ マツ 林がCOoのシンク(2001〜2003年 の 平 均NEP:276 gC m‑2y―1) か ら 比 較 的 弱 い ソ ー ス に 変 化 し た こ と が 明 ら か と な っ た 。

5) 撹乱 にと も なうLAIの 減 少と 植生 の変 化 によ り, 夏期 の最 大GPPは30〜 45 pmolやs−1か ら8

〜12 pmolm・2S―1に大きく減少した。また, 夏期の地温の上昇と日較差の増大は,REを増加させる 効果 を 持つ 。し かし ,夏 期 の土 壌水 分の 低 下はREを低下させた。 一方,撹乱により群落高の 大気 が昼 間 乾燥 し(VPD上 昇) し ,GPPを 減少 させ た。このように,台 風による撹乱は,RE (C02放 出)

より もGPP (C02吸収 )に大きな影響を 与え,結果としてNEPの低下 を招いた。既往の研究より ,撹 乱後10年程 度は エゾ イチ ゴ が繁 茂し ,高 木 類の成長が抑制される と予測される。そのため, 本研 究サ イ トのC02収支 も大きく変化せず ,弱いCOzソースか,C02の放 出と吸収が釣り合った状態 がし ばらく続く可能性 がある。

  台風 に よる 大規 模な 風 倒被 害を 受け たカ ラマツ林におい て,植生遷移の初期過程に おける炭素 収支 を定量化することができた。 また,撹乱前のデータと比 較することで,風倒による撹 乱が炭素 交換 量および蓄積量に与える影響 を評価することができた。 本研究は,撹乱後の森林生態 系におけ る炭 素管理に対して有益な知見を 提供できると考える。

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(3)

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    平野 高司 副 査    教 授    浦野 愼一 副査   教授   波多野隆介

学 位 論 文 題 名

台風による自然撹乱が北方森林生態系の炭素交換量 および蓄積量に与える影響

  本 論 文 は6章 か ら なり ,図38, 表12,引 用文 献69を含 む106ベー ジの 和文 論文 で, 参考 論 文3編 が 添 え ら れ て い る 。

  森林生態系は二酸化 炭素(C02)の吸収源として期 待されているが,撹乱によって炭素収支が大 きく変化することがわかってきた。台風は東アジアにおける主要な撹乱要因であり,しばしば壊減 的な強風被害を与えてきた。今後,温暖化にともない強大な台風の発生割合が増加することが懸念 されている。また,日本では伐採適齢期を超えた老齢林が増加しているが,このような森林は風倒 害を受ける可能性が高い。しかし,強風被害が森林生態系の炭素収支に与える影響に関する研究例 はほとんどない。本研 究では,2004年の台風18号により壊減的な被害を受けた苫小牧のカラマツ 林風倒害跡地を対象に ,撹乱後の2006〜2009年に植生,気象,炭素蓄積量およびC02フラックスを 測定し,植生遷移の初期過程における炭素収支の変化を定量化するとともに,撹乱前の実測データ を利用して,台風による自然撹乱が北方森林生態系の炭素交換量および蓄積量に与える影響を明ら かにすることを目的と した。

  研究サイトはエゾイ チゴが優占する群落へと変化した。地上部パイオマス(AGB)の年最大値は,

撹乱前の91 Mg ha―1から撹乱2年後には2.7Mg ha―Iまで減少した。一方,葉面積指数(LAI)の年 最大値は9.4m2 ur2か ら3.7m2m・2に減少したが,その減少割合はAGBほど大きくはなかった。そ の 後 ,AGBは2009年 に か け て 増 加 を 続 け た が , LAIは ほ と ん ど 変 化 し な か っ た 。   撹乱によって群落構 造が大きく変化した結果,環境が変化した。撹乱後は地温が上昇し,その 日較差も大きくなった。また,群落高付近における昼間の大気飽差が上昇し,土壌水分が低下する 傾向がみられた。植生が減少したため土壌表面に到達する日射量が増加し,地温が上昇したと考え られる。また,植生の減少によって蒸散量が減少する一方,土壌面からの蒸発量は増加し,結果と して土壌が乾燥するよ うになったと考えられる。

  自動開閉チャンバー を用いて,2006 ‑‑2008年の 無積雪期間に純生態系生産量(NEP)を連続観測 した。2006年のNEPは,6〜7月にゼ口付近であった が,2007年は5月から7月中旬まで正の値(C02 シンク)を維持した。2008年は,7月上旬にはほぽゼロであったが,その後8月まで減少を続けた。

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(4)

8月以降のNEPは3年間ともに同様に変化し,9月下旬にゼ口近くまで増加した後,再び減少した。

生態系呼 吸量(RE)は 地温と同 様な季 節変化を 示し,8月に最大に達した。生態系光合成量(GPP) は,2006年は8月 上旬に,2007年は6月下旬 に年最大 値に達 した。ま た,年 最大GPPは2006年よ り2007年の方 が約30%大きか った。3年間 の共通観 測期間 (約4.5カ 月間) のGPPとREの積算値 は,それぞれ411土27,489士5 gCmー2となり,有意な年次間差は認められなかった。また,撹乱前 3年間 の渦相関 法によ る測定結 果と比 較すると ,GPPは64%,REは51%,それぞれ減少した。その 結果,積算NEPは159土57 gCm・2から―80土30 gCm・2に減少した。なお2007年について,切株の 分 解 に よ るCOz放 出 を 考 慮 し て 年 積 算NEPを 推 定し た と こ ろ, ー91 gCm―2y‑lと な った 。   生態学的方法により求めた撹乱後の地上部純一次生産量は145 gC m‑2 y‑i'で,経年変化はほとん どなかった。撹乱後の土壌炭素量(0〜20 cm深)は43.7MgC ha−Iで,撹乱前後でほとんど変化し なかった。残置された枝と側根からの炭素放出量は,2006年にはそれぞれ71,27 gC m‑zy―1であ ったが,2009年には33,18 gCm―2yー1に減少した。さらに,切株からのCOz放出量を加えると,2007 年の年積算NEPはー22 gCm−2y―1と推定された。チャンパー法による推定値との間には少し差があ るが,台風による大規模な撹乱によりカラマツ林がCOzシンク(276 gCm―2y−1)から比較的弱いソ ースに変化したことが明らかとなった。

  台風による大規模な風倒被害を受けたカラマツ林において,植生遷移の初期過程における炭素 収支を定量化することができた。また,撹乱前のデータと比較することで,風倒による撹乱が炭素 交換量および蓄積量に与える影響を評価することができた。本研究は,撹乱後の森林生態系におけ る炭素管理に対して有益な知見を提供できると考える。よって,審査員一同は佐野智人が博士(農 学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認めた。

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