1.は じ め に
全身性自己免疫疾患は,自己抗体などの免疫学的 異常を背景に,複数の臓器に慢性あるいは再発性の 炎症を引き起こす疾患群であり,全身性エリテマ トーデス(systemic lupus erythematosus; SLE),多発
性筋炎⊘皮膚筋炎(polymyositis/dermatomyositis; PM/ DM),強皮症,血管炎症候群,混合性結合組織病 などに代表される.診断技術の普及に伴って罹患患 者数は増加傾向にあり軽症例も増加しているが,臓 器障害によって生命が脅かされたりQOL が重度に 障害されたりする症例も依然として少なからず存在 する.特に,SLE に合併する腎病変や中枢神経病変, PM/DM に合併する間質性肺病変,強皮症に合併す 総 説
全身性自己免疫疾患の臓器合併症の予後と免疫治療の進歩
保 田 晋 助,河 野 通 仁,嶋 村 抄 苗,栗 田 崇 史,小 谷 俊 雄,渥 美 達 也
Prognosis and progress in immunotherapies for organ involvements
in systemic autoimmune diseases
Shinsuke Yasuda, Michihito Kono, Sanae shimamura, Takashi Kurita, Toshio odani and Tatsuya atsumi Division of Rheumatology, Endocrinology and Nephrology, Hokkaido University Graduate School of Medicine
(Accepted December 10, 2015) summary
Treatment of organ involvements accompanied by systemic autoimmune diseases is still challenging for clinicians, reminding the existence of unmet needs. Among them, lupus nephritis (LN), neuropsychiatric lupus, interstitial lung diseases (ILD) complicated with polymyositis/dermatomyositis (PM/DM) or systemic sclerosis (SSc) are the most severe conditions with poor prognosis. Because of the rarity and severity of the disease status, and of variety in evaluation methods, randomized clinical trials tend to be difficult in recruiting patients, in designing protocols, and in meeting primary endpoints. In such tough conditions, superiority of IVCY over corticosteroids alone for LN has been established, which is now going to be replaced by mycophenolate mofetil (MMF). Moreover, non-inferiority of tacrolimus to MMF is reported and efficacy of biologics such as Rituximab and Abatacept for LN is under investigation. In contrast, PM/DM-ILD is not suitable for randomized controlled trial because of the severity/acute progression in some patients. Intensive immunosuppressive regimen is recommended for those with poor prognostic factor(s). Cyclophosphamide has limited efficacy in SSc-ILD. Hematopoietic stem cell transplantation elongated patient survival and improved ILD, but with high treatment-related mortality rate. Efficacy of rituximab and MMF has been reported in small-sized trials. In this review, previously established treatment as well as emerging immunotherapies for organ involvements will be discussed. Our experiences in autoimmune settings also will be introduced.
Key words immunosuppresants; targeted therapy; systemic lupus erythematosus; inflammatory myositis; scleroderma 抄 録 全身性自己免疫疾患に合併する臓器病変に対する有効性の明らかな治療法は少なく,解決しなければならないア ンメットニーズが存在する分野である.特に,ループス腎炎,精神神経ループス,多発性筋炎⊘皮膚筋炎や強皮症 に合併する間質性肺病変はしばしば重篤となり生命予後を規定する.症例の少なさや病態の重篤さなどからランダ ム化臨床研究が難しい事が多い.こうしたなか,ループス腎炎に関しては,シクロホスファミド間欠静注療法がミ コフェノール酸モフェチルなどの経口免疫抑制薬に代替されつつあり,さらに生物学的製剤による治療研究が行わ れるなどようやく新たな展開を向かえつつある.一方,皮膚筋炎に合併する間質性肺病変については急速進行性で 予後不良の一群があり,ランダム化比較試験は組みにくい.強皮症合併間質性肺病変に対して,シクロホスファミ ドの効果は限定的であるが,造血幹細胞移植は治療関連死の問題がある.これらループス腎炎以外の領域でもミコ フェノール酸モフェチルや生物学的製剤による治療効果が少しずつ示されている.本稿では著者らの経験も紹介し ながら,膠原病患者の臓器合併症の予後と難治性病態に対する免疫抑制治療の発展・展望について概説したい. 北海道大学大学院医学研究科免疫・代謝内科学分野
る肺高血圧症,肺線維症や消化管病変などは生命予 後を規定する要因でもあり,より正確な病勢の把握 と適切な治療介入が求められる. 本稿では,著者らの経験も紹介しつつ,これら全 身性自己免疫疾患に合併する重症臓器合併症を制御 すべく臨床研究・治療薬の開発がどのように行われ てきているかについて解説し,また今後の展望につ いても触れたい. 2.SLE の臓器病変 ループス腎炎の予後
ループス腎炎(LN; lupus nephritis)は SLE にお いて最も頻度が高い臓器合併症の1 つであり,成人 SLE 症例の約 30−60%に合併する.当科で 1984 年 から2010 年の期間に腎生検を行った SLE 患者 186 例の標本を国際腎学会⊘腎病理学会(ISN/RPS)に よる2003 年分類に従って再分類し,12 年の平均観 察期間をもって治療内容,生命予後および腎予後を 後向きに解析した1).各組織型の頻度では,III, IV 型の増殖性腎炎とV 型およびその複合型で 6 割強 を占めており,ステロイドに併用された免疫抑制薬 ではシクロホスファミドとタクロリムスが多かった (図1 A, B).10 年生存率は 95.7%であり,一見悪 くないようにもみえるが,若年者が多いため標準化 死亡率としては3.59,死因の半数が感染症であり, 治療薬や管理などにまだまだ改善の必要があること を痛感した.10 年腎生存率は 94.3%であり,腎死 を予測する独立したリスク因子として,「男性」お よび「尿蛋白≧3.5g/gCr」が抽出された.腎病理に て「Class IV または IV+V」である群は,他の組織 型と比較して腎予後が有意に不良であったが,多変 量解析では同項目は残らなかった.以前より寛解し にくく再発しやすいとされてきたClass IV+V 単独 でみると,やはり他の組織系と比較して腎予後が悪 いことが確認された(図1 C). LN に対する寛解導入期の免疫抑制治療 シクロホスファミド(CY: cyclophosphamide): 米国において,LN に対する治療がステロイド,ア スピリンとヒドロキシクロロキンしかなかった状 況に,1960 年代頃から AZP, CY などの使用が検討 されるようになってきた.1980 年前後から,米国 NIH を中心とした前向き試験でステロイド単独治 療に対するCY 間欠静注療法(IVCY)の有用性が 示されるようになり,90 年代にかけて一般的な寛 解導入療法として確立された2).しかし,いわゆる NIH プロトコールを用いた寛解導入治療において, 高用量CY による無月経や発癌性などの問題点が明 らかになってきた.IVCY に関しては,低用量のプ ロトコール(CY 500mg/body/ 2 週× 6 回)を用いて も同等の寛解導入効果が示されたことから3),少な くとも腎炎をターゲットとしたIVCY では低用量プ ロトコールが主流になってきていると考える. ミコフェノール酸モフェチル(MMF; mycophe-nolate mofetil):2000 年に香港のグループから増殖 性LN に対する寛解導入療法として MMF が CY と 同等の完全寛解(尿蛋白<0.3 g/day)達成率を持つ ことが報告された4).2005 年には米国からも MMF がIVCY と比較して同等以上の寛解導入効果を持つ ことが示され,特にMMF では重篤な感染症や無月 経をほとんど認めないなど副作用のプロファイル優 れていた5).2010 年の Isenberg ら6)の報告では,治 療反応率(ネフローゼでは尿蛋白<3 g/day,ネフ ローゼに至らなければ50%以上の改善)は MMF, IVCY 群でほぼ同等であったが,特に黒人・ヒスパ ニックではMMF 群の治療効果が優れているなど, 図1 ループス腎炎(自験 186 例)の後ろ向き観察研究 A. 国際腎学会/腎病理学会(ISN/RPS)分類を用いた組織型.B. 免疫抑制薬の使用率.C. 組織型別腎生存率.
治療反応性に民族間で差がある可能性も示された (図2 ). 日本リウマチ学会が主体となって,本邦における ループス腎炎に対するMMF 実態調査を行った7). 国内ではMMF は 3 g⊘日まで増量されるケースは少 なく,1.5− 2 g⊘日で寛解導入されことが多かった. TAC との併用も 35%の症例で行われていた(図 3 ). これをふまえて日本リウマチ学会からステートメン トが出され,ループス腎炎に対するMMF の使用が 公知申請承認の運びとなった.有害事象について は,帯状疱疹・サイトメガロウイルス感染などの感 染症が散見されている.血球減少もみられており注 意が必要であるが,下痢に関しては投与量が少ない ためか比較的稀であった.実際に処方する際には, MMF には強い催奇形性があること,避妊を確実に 行う必要がある点を説明する必要がある. カルシニューリン阻害薬:本邦では,特にタクロ リムス(TAC)が頻用され効果をあげている8).国 際的にはまだまだエビデンスが少ないが,Class III, IV, V 型の LN に対する寛解導入効果を IVCY と比 較した検討ではTAC, IVCY 群間における完全寛解 率に差はなかった9).同じくLN に対する寛解導入 効果をMMF と TAC とで比較した臨床試験では, 尿蛋白<1 g/day または ACR 基準である尿蛋白< 0.2 g/day のいずれの基準を用いた完全寛解達成率 においても同等であった10)(図4 A).同試験では, 尿蛋白,補体,抗DNA 抗体価の推移についても MMF-TAC 間でほぼ同等であった(図 4 B).TAC は妊婦にも比較的安全に用いることができ(添付文 書上,妊娠時は禁忌と記載されているのでやはり 充分な説明が必要である),第一選択になる場面も 多い.ただ,耐糖能異常や腎障害が明らかな場合は TAC よりも MMF を優先すべきと考える. LN 維持期の免疫抑制治療 LN の寛解維持療法では,国際的には少量ステロ イドにMMF または AZP を併用するのが一般的で ある.寛解維持療法における両者の有用性について は,MMF の優位性を示す報告と,同等とする報告 がある11, 12).MMF の維持量は国際的には 2 g⊘日程 度とされるが,本邦では1 −1.5 g⊘日程度で維持さ れることが多かった7).AZA の維持量に関しても, 2 mg/kg が目標とされるが,日本人では肝障害や血 球減少などの問題でなかなか2 mg/kg まで増量でき ない場合が多い.国内では以前より保険適応もある TAC やミゾリビンによる維持療法が行われている 場合が多いと考えられる. LN の治療方針 初発のLN 患者で 0.5 g⊘日以上の蛋白尿や細胞性 円柱など糸球体腎炎を疑わせる所見があれば腎生検 図2 ループス腎炎(III, IV, V 型)の寛解導入療法におけ る,MMF と IVCY の比較 治療反応率(ネフローゼでは尿蛋白<3 g/day,ネフロー ゼに至らなければ50%以上の改善)を人種別に示す.文献 6 より改変引用. 図3 本邦における,成人ループス腎炎に対する MMF の使用実態 A. MMF の開始量・最大量・維持量を示す.エラーバーは標準偏差.B. MMF に併用された免疫抑制薬の使用頻度. 文献7 をもとに作図.
を考慮すべきである.補体成分や免疫グロブリンの 沈着,形態学的特徴などからループス腎炎として矛 盾がないことを確認し,ISN/RPS 分類で III, IV およ びV 型ではステロイドおよび免疫抑制剤による治 療を行う.アメリカリウマチ学会による2012 年の ガイドライン13)等を参考に治療薬を選択する.現 時点では増殖性ループス腎炎に対する寛解導入にお けるIVCY と MMF は同等の扱いとなっている.つ まり,どちらかを投与して無効であれば他方に切り 替えるという戦略で,いずれも無効であった場合に リツキシマブかカルシニューリン阻害薬を選択する. IVCY については高用量でも低用量でもよいが,高 用量IVCY も 6 ヶ月まで行った後に他剤による維持 療法へと移行する.MMF の寛解導入時の用量に関 しては,ガイドライン上アジア人では2 g⊘日程度が 適当と見積もられているものの,日本人では公知申 請による適応拡大のため用量設定試験は実施されて おらず,今後の検討課題である. 全般的な傾向としては,免疫抑制薬を初期から併 用し,またステロイドパルス療法を導入しつつステ ロイドの初期投与量および総投与量を少なくするこ とが求められている.CY に関してはその有効性は さることながら長期投与による発癌性や卵巣機能不 全が問題となり,有害事象のプロファイルが比較的 良好なMMF の効果が同等とされる昨今,臨床の現 場でCY は選択されにくくなってくる可能性が高い だろう.CY を積極的に選択する状況としては,急 速進行性糸球体腎炎,半月体形成性糸球体腎炎と呈 した場合や,中枢神経ループスやループス肺臓炎, 血管炎など他の重症臓器病変を合併した場合が考え られる. 生物学的製剤と今後の展望 LN に対する初期のリツキシマブ治療研究である LUNAR 試験はおそらくデザインのまずさもなどか ら所期の効果を示せなかったが,新たな第III 相試 験が現在進行中である(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT01673295).ステロイドの使用を短期的なパル ス療法のみにとどめ,MMF とリツキシマブで寛解 導入するプロトコールも提案されており14),新たな LN 治療の方向性を示唆するものとして大変興味深い. アバタセプトのLN に対する II/III 相試験では完 全寛解の定義が尿蛋白0.26 g/gCr 以下と厳しかった こともあって期待された有意差を示せなかったが, 現在一般的なエンドポイントを設定したグローバル 試験が行われており,その結果が待たれる(Clinical-Trials.gov Identifier: NCT01714817).また,非腎炎患 者を対象として米国においてSLE 患者に対する適 応を取得したbelimumab が実臨床において LN に対 する治療効果を持つかどうかについても,今後の報 告を待ちたい. その他の臓器病変
精神神経ループス(NPSLE; neuropsychiatric SLE) は罹患率も少なくなく,生活の質を大きく損なう恐 れのある重篤な臓器合併症であり,ステロイド治療 開始後に顕在化することなどから診断に苦慮するこ とも多い.米国リウマチ学会による分類は提示され ているものの,診断に用いることのできる分類基準 がなく,前向き研究も困難であることから経験的に ステロイドパルス療法やIVCY が用いられているの が現状である.他の重篤な合併症である血管炎・肺 胞出血・血球貪食症候群やループス腹膜炎等に関し ては,さらに患者数が少ないことから少数のケース スタディに頼らざるを得ない状況と言える. 図4 ループス腎炎に対する MMF, TAC による寛解導入治療 A. MMF 群,TAC 群における,治療開始 6 ヶ月時点での 寛解率の比較.B. 検査値の推移.文献 10 をもとに作図.
3.多発性筋炎⊘皮膚筋炎に合併する 間質性肺病変(PM/DM-ILD)の予後と治療 PM/DM-ILD の予後 ILD は PM/DM 患者の約 50%と非常に高頻度に合 併し,かつ死因の最多を占める.PM と DM に伴う ILD(PM/DM-ILD)の予後を比較した場合,後者の 方が重篤な臨床経過をたどる傾向があり,治療には しばしば抵抗性である.これまでに報告された, PM/DM-ILD 患者における予後不良因子をまとめた (表1 ).全般的な予後は,3 年生存率が欧米の報告 で74.7%,アジアからの報告で 61.6%など極めて不 良である. 当科に入院または通院歴のあるPM/DM-ILD 症例 52 例を平均 4 年間フォローアップした後ろ向き検 討では,21%の症例で ILD が改善,20%で増悪, うち6 例が死亡していた.一方,他の膠原病では SLE 症例に改善した患者が比較的多く,強皮症・血 管炎症候群では不変であった患者が多くを占めてい た事からも,PM/DM-ILD は膠原病に合併する肺疾 患の中でも増悪が懸念される一群であるといえる. 当科で入院加療を要したPM/DM-ILD 症例について 再発,死亡または重篤な感染症に関する予後不良因 子を検討したところ,DM, CADM,急速進行性の 発症,広汎な肺病変および蜂巣肺が抽出された.ま たこれらの危険因子の組み合わせにより5 年以内の 死亡または再発を高い精度で予測可能であり,ROC 解析では危険因子2 個以上をカットオフとした場合 の感度は81.3%,特異度は 76.7%であった15). PM/DM に出現する自己抗体 PM/DM にみられる疾患特異的自己抗体として, 抗Jo-1 抗体に代表される抗アミノアシル tRNA 合 成 酵 素(ARS) 抗 体, 抗 signal recognition particle 抗体,筋症状を欠くかほとんど認めない皮膚筋炎 (CADM: clinically amyopathic dermatomyositis)との 関連が深い抗MDA5 抗体(抗 CADM-140 抗体), DM との関連が深い抗 Mi-2 抗体,悪性腫瘍合併 DM に出現する抗p155/p140 抗体があげられる. 抗ARS 抗体:PM, DM 両者に検出され,間質性 肺炎・多関節炎・機械工の手・発熱・Raynaud 現象 などを呈することが多く,抗ARS 症候群と呼ばれ る一臨床病型と関連している.抗ARS 抗体は,最 も高頻度に認められる抗Jo-1 抗体をはじめとし, 抗PL-7 抗体,抗 PL-12 抗体,抗 EJ 抗体,抗 OJ 抗 体,抗KS 抗体など十数種類の抗体が報告されてい る.なかでも抗PL-7 抗体,抗 PL-12 抗体陽性例は 予後不良とされる. 抗MDA5 抗体:CADM 症例の血清から分離され た筋炎特異自己抗体であり,日本人症例の報告によ ると急速進行性間質性肺炎の合併によく相関するこ とが示された16, 17).抗MDA5 抗体陽性の ILD は極 めて予後不良であり,その約半数が6 ヶ月以内に呼 吸不全で死亡するとされる.病勢は血清フェリチン やIL-18 とよく相関し,活性化マクロファージの病 態への関与も示唆される. PM/DM-ILD の免疫抑制治療 PM/DM-ILD に対する治療は高用量ステロイドと 免疫抑制剤を組み合わせて行うが,約半数の患者は ステロイド単独治療には抵抗性であり,約20%の 患者はILD の増悪をきたす.従って,筋炎特異的 自己抗体や予後予測因子を組み合わせることによ り,早期から強力な免疫抑制治療に踏み切るべき予 後不良症例を病初期にいち早く判断することが重要 である.ただ,使用すべき薬剤やその組み合わせに ついてはコンセンサスが得られていない. CY:経口または静注 CY は PM/DM-ILD に対し ても経験的に用いられ,観察研究では高い臨床効果 が報告されている. カルシニューリン阻害薬:カルシニューリン阻害 剤はこの10 年で PM/DM-ILD に対して寛解導入療 法及び維持療法として広く用いられるようになり, その有効性が明らかになりつつある. シ ク ロ ス ポ リ ン(CsA) は 1980 年 代 か ら PM/ DM-ILD に対して使用されており,特にステロイド 抵抗症例への有効性が報告されている.Nagasaka 表1 これまでに報告された PM/DM に伴う 間質性肺病変の予後不良因子 皮膚筋炎 診断時のFVC 低値 DLco 低値 CADM,抗 MDA5 抗体陽性 好中球優位の肺胞洗浄液 UIP 手指潰瘍 Hamman-Rich 型の肺病変 抗Jo-1 抗体陰性 高フェリチン血症 低アルブミン血症
FVC; 努力肺活量,DLco; 一酸化炭素拡散能,CADM; clinically-amyopathic dermatomyositis, UIP; usual interstitial pneumonia
ら18)の報告で,32 名の PM/DM-ILD 患者に対して 寛解導入療法として2 週間以内に CsA が併用され た症例を後ろ向きに解析,32 名中 29 名が「partial effective」以上と判定された. 1999 年に Oddis ら19)が治療抵抗性のPM-ILD に 対するTAC の有効性を報告して以来,PM/DM-ILD の治療抵抗例に対する高い有効性が報告されてい る20).本邦では東京医科歯科大が中心となってTAC の治療効果を評価する前向き医師主導治験が行わ れ,2013 年に PM/DM-ILD に対する治療薬として認 可された.TAC の薬理作用は CsA の約 100 倍であ り半減期も長く,腎移植,肝移植,骨髄移植では, ラ ン ダ ム 化 比 較 試 験(RCT; randomized controlled trial)で TAC の CsA に対する優位性が示されてい る.
著者らは49 例の PM/DM-ILD を対象とした後ろ 向き観察研究で,propensity score を用いて TAC の 併用療法が従来治療と比較してイベントフリー生 存期間及び無再発生存期間を有意に延長すること を示した21).さらにTAC 治療群の多変量解析を 行ったところ,独立した有意な予後不良因子とし て蜂巣肺,皮膚筋炎,FVC 80%以下,急速進行性 といった項目が同定された.これらは肺線維化に関 連する因子を多く含むことから,いわゆるwindow of opportunity を逃した結果,治療反応性が得られな かった可能性が示唆される.予後不良因子を複数有 する症例や抗MDA5 抗体陽性例では,より発症早 期からTAC を含む強力な免疫抑制剤の多剤併用療 法で寛解導入を試みる必要があると考えられる. 他の免疫抑制薬:AZA, MMF などが経験的に用 いられており,小規模の後ろ向き観察研究や症例報 告でその臨床効果が報告されている.免疫グロブリ ン大量静注療法は筋病変に対する効果は確立してい るものの,ILD に対する治療効果は明らかでない. 近年ではTNFα 阻害薬やリツキシマブなど生物学的 製剤による治療も試みられているが,いずれも症例 報告に留まる. ステロイド,カルシニューリン阻害薬,IVCY3 剤併用療法:抗MDA5 抗体陽性となる CADM,中 でもフェリチンが高値の症例では急速進行性かつ極 めて治療抵抗性となるため,ステロイドとカルシ ニューリン阻害薬の併用だけでは奏功しないことが 多い.これらの最重症例に対して高用量ステロイ ド,カルシニューリン阻害薬,IVCY の 3 剤併用療 法で治療を開始する強化療法の有効性が報告され始 めている.まだ小規模な観察研究が主あるが,著者 らの経験からもこの治療によって生存率が向上する ことが示唆されている(図5 )15). PM/DM-ILD の治療方針 PM/DM-ILD 患者では,自己抗体によりある程 度病型が分類できることが分かってきている.抗 MDA5 抗体陽性 ILD ではステロイド・IVCY・TAC (施設によってはCsA を優先する場合もあるかもし れない)の3 剤併用治療で開始,抗 ARS 抗体陽性 例ではステロイド・TAC の 2 剤併用で開始するこ とを基本に考えて良いと思われる(図6 ).ただ, ARS 陽性症例であっても予後不良因子を持つよう であればより強力な治療を行うべきと考えられる. 実臨床では自己抗体の結果を得るまでに時間を要す るので,患者の予後不良因子・画像所見や進行の早 さを見極めて初期治療を選択する必要がある.特に, CADM 合併 ILD 患者のなかには治療介入の遅れが 致命的となるケースもあり,予後不良因子をもつ群 に対して早期からの3 剤併用治療を積極的に導入す ることが肝要と思われる.特にこの領域では,ステッ プアップ治療では病勢に追いつかないことがあり, 可能な限りステップダウン治療を選択すべきである. 4.強皮症,強皮症合併間質性肺病変の免疫治療 強皮症の臓器病変では,間質性肺病変が最も頻度 が高く死因としても第一位である.肺高血圧症につ いては治療薬の進歩もあり予後が改善してきている 図5 当科における PM/DM 合併間質性肺病変に対する 3 剤併用療法と従来治療の比較 イベントフリー生存率をKaplan-Meier 法で解析した.
し,強皮症腎クリーゼは本邦での頻度は低く,早期 に気づけば対応可能な病態となったが,これらを除 けば,単一の薬剤で強皮症患者全般における自然経 過を明らかに改善することが分かっている治療は未 だ見いだせていない. CY:最も問題となる間質性肺炎・肺線維症の治 療については,欧州リウマチ学会によるレコメンデー ションではCY が推奨されている22).経口CY(< 2 mg/kg/日)群において% FVC(努力肺活量)がプ ラセボ群と比較して優位に保たれていたが,中止後 にはCY の優位性が消失していた23).強皮症合併肺 線維症に対して低用量ステロイド+IVCY 6 回施行 後にアザチオプリンで維持した積極的治療群とプラ セボを比較した試験において,治療開始1 年後の% FVC が積極的治療群において保たれる傾向を認め た24). メトトレキサート・AZA・MMF:メトトレキサー トは,前出のレコメンデーションで皮膚硬化に対し て用いても良いとされているが,ILD 合併症例に関 してはむしろ使いにくいケースが多いだろう.AZA, MMF については,ILD に対する維持療法としての 効果が期待される.特にMMF については,CY 無 効例に対するILD 改善効果も示されている25).カル シニューリン阻害薬による内皮障害が懸念される強 皮症では,MMF は選択しやすい薬剤といえるだろ う(ただし保険適応なし). 造血幹細胞移植:強皮症患者を対象とした造血幹 細胞移植をCY 間欠静注療法と比較した欧米におけ る第II 相試験において,HSCT 群で皮膚所見と呼吸 機能の改善を認めた26).本邦においても九州大学を 中心に全身性強皮症に対する自家末梢血幹細胞移植 療法が行われ,その皮膚所見およびILD に対する 有効性が報告されている27).当科でも同様に,皮膚 所見の改善28)を認め,従来治療群と比較してCT 所 見上ILD の悪化を阻止できていた(小谷ら,投稿 準備中).近年,RCT にて造血幹細胞移植が IVCY と比較して強皮症患者の生命予後を有意に改善さ せることが示されたが,約10%の治療関連死を認 めた29).潜在性の臓器病変による臓器予備能の低下 が,比較的高い治療関連死の原因となっていると考 えられる.実際に,移植中の心停止による治療関連 死が複数例で経験されている30).当科でもCY によ る重度の心筋障害を経験しており,移植前の心機能 が正常でも起こってくることから予測が難しい治療 合併症として注意を要する.将来的に原病に伴う臓 器障害をきたしやすい患者を予測できるようになれ ば,早期に強力な治療を行うべき患者を選択可能と なると期待されるが,短期的にはより心毒性の低い プロトコールへの変更が望まれる. 著者らは,強皮症患者においてILD を合併する 群としない群における末梢血の遺伝子発現を比較し, ILD 合併例で HLA-DRB5 の発現量が高いことを 見いだした.さらに遺伝学的検討を追加し, HLA-DRB5*01:05 アレルの頻度が ILD 合併強皮症で有意 に高いことを,北海道大学および東京女子医大の二 つの患者群において示した(図7 )31).このような 強皮症関連ILD のリスク遺伝子は他にも報告があ るが,呼吸機能の悪化と関連するかどうかについて は今後明らかにしてゆく必要がある. リツキシマブほか:少数例の検討ではあるが, リツキシマブの皮膚硬化・ILD に対する効果が報 告されている.リツキシマブは強皮症患者のIL-6, IL-15, IL-17, IL-23 など炎症性サイトカインを低下 させ32),自己抗体の力価を低下させるとも報告され ている33).なお,強皮症に対するリツキシマブとプ ラセボの効果を比較するRECOVER 試験,(Clinical Trials.gov Identifier:NCT01748084),膠原病に合併す るILD に対するリツキシマブと IVCY の効果を比較 するRECITAL 試験が進行中である(ClinicalTrials. gov Identifier: NCT01862926).皮膚硬化に対する新 たな治療としてリオシグアト,トシリズマブによる 臨床治験も進行中で,これらはILD を対象とした 試験ではないが,線維化阻止作用,抗炎症作用が期 待されている. 5.お わ り に 全身性自己免疫疾患における臓器病変のなかに は,予後不良で治療方が確立されていないアンメッ トニーズがまだまだ存在する.膠原病の臓器病変の 図6 自己抗体・予後不良因子に基づいた PM/DM-ILD の 治療方針(案)
中で,RCT を最も組みやすい LN をターゲットとし た治療においても,エンドポイントの設定が必ずし も単純ではなく,これまでの治験でもさまざまな指 標が混在して使用されている.評価法をある程度整 備する,また対象患者の選択を適切に行うことで, これまでに有効性を示せなかった薬剤を見直すこと も必要だろう.SLE の症状・臓器病変は多様性に 富むため,関節リウマチのような寛解基準は設定し にくいが,最近,ひとつの治療目標としてLLDAS (lupus low disease activity state)が提示され(表 2 ), 試験的にその有用性も示唆されている34).こうした 基準の達成率と長期予後との関連が明らかになれ ば,関節リウマチに準じたTreat to Target ストラテ ジーを導入できるかもしれない.PM/DM-ILD につ いては急速に悪化する一群があることからRCT に は不向きであり,当面は得られるエビデンスに基づ いて予後不良群に対して強力な免疫抑制治療を早期 に導入しつつ経験値を積んでゆくことが重要と思わ れる.強皮症ILD に関しては,頻度が高く生命予 後を規定するにもかかわらずリスクベネフィットバ ランスの良い治療がないのが現状である.やはり現 在進行中の臨床試験の結果を待ちつつ今の時点で可 能な治療を行ってゆくことになるが,将来的には移 植が必要な患者と免疫抑制薬や生物学的製剤で進行 を阻止できる患者を予測することも必要と考えられ る.最大のアンメットニーズの一つともいえる精神 神経ループスに関しては,診断および活動性の評価 に関する指標がほとんどなく,当面は観察研究に学 ぶところが大きいだろう. 関節リウマチ治療にブレイクスルーが訪れている 一方で,華々しい話題に欠けるのが全身性自己免疫 疾患に伴う臓器病変の治療である.それぞれの施設 で免疫抑制薬を併用することなどによって対応して いるのが現状であるが,こうした状況を把握してそ れぞれの病態に対する最良のプロトコールを明らか にすることが現時点での課題である.一方で,病態 への理解と有効性の高い薬剤を探索するトランス レーショナル研究・臨床研究は着実に進んできてい る印象があり,近い将来,難治性病態で難渋する患 者にも大きな福音がもたらされることを期待したい.
表2 LLDAS(lupus low disease activity state) の定義 疾患活動性 1. SLEDAI-2K ≤ 4 かつ主要な活動性臓器病変(腎・中枢 神経・心肺・血管炎・発熱)がなく,溶血性貧血,活 動性消化管病変がない 2. 前回評価時と比較して新たな SLE に伴う症候がない 3. SELENA-SLEDAI に基づく医師による全般評価 (0 − 3) ≤ 1 免疫抑制治療 4. 副腎皮質ステロイドの現在の投与量(プレドニゾロン 換算) ≤ 7.5 mg/日 5. 一般的な免疫抑制薬か承認された生物学的製剤が維持 量で問題無く用いられている 文献34 より一部改変引用 図7 強皮症患者における ILD の有無による HLA-DRB5 のアレル頻度 文献30 より作図.
文 献
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