地域高齢者が日常で感じる「安心要因,不安要因および解決法」に関する探索的研究 自殺の多い北東北地方の高自殺率地区高齢者への訪問調査から
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(2) 8 region, a Japanese city that, since 1997, has recorded high suicide rates. Using participatory action research and a qualitative data analysis approach called SCAT(Steps for Coding and Theorization), we examined the inhabitants’ views towards “meaning for life”. The results of these studies showed that the elderly living in the area have a specific value that “working creates meaning for life”. They also have a specific feeling of comfort when the mutual communication between family members and the neighbors exists. Participants also reported having a feeling concerned when they found the decrease of body functions and loss of communication with younger inhabitants. We also found that the mutual bonding among family members and neighbors could solve such difficult situations and feelings. Empowering this mutual bonding may play an important role for preventing suicide in this area, and to build an ideal community with joy and comfort. Similar to the report by Oka, activities aimed to strengthen the bonding among the inhabitants would contribute to the empowerment of the protective factors of suicide. Key words:suicide prevention, Community model, Qualitative research, SCAT(Steps for Coding and Theorization) 自殺予防,コミュニティモデル,質的調査,SCAT(Steps for Coding and Theorization) Ⅰ.はじめに. 施している中で,この地域の高い高齢者自殺率. 日本の自殺死亡者数は,1998 年に初めて 3 万. (1994 年当時,11 人中 8 人が 65 歳以上)の改善. 人を超えて以降 14 年間(2012 年を除く)その水. のために実際の支援に必要とされる定性的検討を. 準で推移している。欧米の先進諸国と比べて人口. 試みた。一般的に,問題の特徴(繰り返し生起す. 10 万人当たりの自殺死亡者は高く,深刻化した自. る現象や細かな構成要素の集まりとして把握,測. 殺問題の改善に向けて様々な取り組みが行われて. 定しやすい事物など)を捉えるためには対象の量. いる 。これまでの国内の自殺予防対策は,医療. 的な側面に注目し,数値を用いた記述分析を伴う. モデルを中心とし行われ,1985 年新潟県でのうつ. 定量的研究. 1-5). 11, 12). を行うが,しかし,「自己記入式. 病の早期発見を目的としたうつ病キャンペーン・. 質問紙」を用いて行う量的調査では数値では捉え. うつ病の早期発見と対処(スクリーニング)が始. きれない人間の情緒や思考,言動の意味などまで. まって以来 ,多くの地域で同様の取り組みが実. 調べることには限界があり ,日常性に潜在化し. 施されてきた. 6). 13). 。医療モデルを中心とした取り組. た社会実像の抽出と解釈,新しい方向性を見出す. みの有用性は,スウェーデンのゴートランド報告. 探索的な調査においては,インタビュー法のよう. によって支持されてきたが ,しかし,今はうつ. な対象者にニーズを定性的に把握する方法が適し. 病を対象とした医療モデルの効果検証および根本. ていると言われているからである 。. 的な自殺対策の見直しが求められている 。. 本研究では,北東北地方の高自殺率地区に在住. 地域においての自殺対策には,うつ病や自殺を. している高齢者の自殺予防対策の一環として,日. 中心的対象に据えて危険因子を把握する医療モデ. 常に潜在化している「安心要因と不安要因および. ルによる対策とうつ病や自殺要因の特定に限定せ. 解決法」を明らかにする目的で探索的研究を実. ずに住民が安心して生活できる要因を把握し,解. 施した。質的データ収集には,大谷が提唱する. 決に向けての実践方法を考えるコミュニティモデ. Steps for Coding and Theorization(以下 SCAT). ルによる対策がある。. の手法を用いた 。なお,本調査では,住民が自. 我々は,人口 9 万人ほどの北東北地方の高自殺. 主的に参加して,互いに気持ちを伝え合い,そし. 率地区でコミュニティモデルによる取り組みを実. て支え合うことを通して地域の問題点に関心を持. 7,8). 9). 10). 14). 15).
(3) 地域高齢者が日常で感じる「安心要因,不安要因および解決法」に関する探索的研究 9. つことができる参加型アクションリサーチ手法. 16). て自由に飲食できるようにし,緊張をほぐすよう な雰囲気を作って自由に発言できるように配慮し. を用いた。. た。また,承諾を得て Itv 内容を IC レコーダで Ⅱ.方法. 録音した。. 1. 対象者. 3. 分析方法. 2010 年 8 月に北東北地方の高自殺率地区に在. Itv 内 容 の 分 析 に 当 た っ て, 各 Itv 終 了 直 後. 住 し て い る 65 歳 以 上 の 高 齢 者 9 人( 平 均 年 齢. の記憶の新しい時期に内容を逐語録にし,大谷. 79.6 歳± SD5.5,男性 1 人・女性 8 人,1 人暮ら. の SCAT の 技 法 を 用 い て 質 的 分 析 を 行 っ た 。. し 2 人・家族と同居 7 人,自死遺族も 1 人)を対. SCAT とは,①発話者のテクストを記載,②テ. 象に,SCAT の手法を用いて定性的調査を実施. クストの中の注目すべき語句を取り上げる(②の. した。対象者選定については,自助組織(2003. 作業により着目すべき点が明確になる) ,③テク. 年に発足)のメンバーによる住民への周知および. スト中の語句を別の言葉に言い換える(③の作業. 参加協力が行われ,インタビュー(以下 Itv)調. により前に記入した語の「背景・条件・原因・結果・. 査へ自主的参加を表明した人を対象とした。. 影響・比較・特性・次元・変化など」を検討す. 2. 調査方法. る),④現れてきた構成概念を記述する,その後,. 2010 年 8 月に,本調査協力者である大学院生. ストーリーラインの記述(④に記述した構成概念. 11 人とともに北東北地方の高自殺率地区におい. を紡ぎ合わせて書き表す) ,最後にストーリーラ. 15). て「学生キャラバン」を行った 。地区訪問の前. インを断片化し,このデータから言えることを整. には,住民への関わり方や地域の特性(自殺の. 理する理論記述の分析プロセスである。本調査で. 実態を含む) ,自殺予防の意義,参加型アクショ. は,カテゴリーをあらかじめ決定した半構造化質. ンリサーチの技法説明,傾聴・共感についての. 問を行い SCAT による分析を行い,その「テー. 研修を 2 日間行った。研修後には,保健師が中心. マ・構成概念」をカテゴリー化した。カテゴリー. となって行う自殺予防活動,自助組織のメンバー. 化の方法としては,「テーマ・構成概念」意味に. との交流,Itv 対象者との顔合わせを行った。Itv. も注意を払いながら,分析を行った。特に,カテ. のための家庭訪問時には,学生 2 人と自助組織の. ゴリー項目(安心要因,不安要因,解決法)に. メンバー1 人(地域弁が分からない時の通訳も兼. 沿って意味あるコードを抽出し,それぞれの意味. ねて)が 1 つのチームになって実施した。本研究. する内容が類似するものをサブカテゴリー,カテ. に当たっての Itv については, 「安心要因と不安. ゴリーとして分類し,データが示す意味の本質を. 要因および解決法」について半構造化された項目. 探った。また,Itv に参加した 9 名のデータの共. を設定し,調査対象者の意見を引き出しやすくし. 通性についても着目し,分析を行った。データの. た。①この地域で安心して生活できているか(安. 中で,新たなコードについては,「価値観」とい. 心要因) 。②困ったことは何か(不安要因) 。③ど. うカテゴリーで区分した。 「価値観」という新規. のようにしたらよいか(解決法) 。. カテゴリーが追加された理由として,半構造化さ. 対象者には,Itv の前に調査の趣旨と目的,プ. れた Itv 項目とは異なる内容が含まれていたのと. ライバシーの保持,自由意志による Itv 参加と途. その内容の多くが高齢者世代の生き方や常識など. 中退場ができることを口頭で説明し,調査参加へ. に関わる内容だったからである。コード化からカ. の同意を得た。また,あらかじめ家庭訪問の結果. テゴリー化に至る一連の作業では,身体教育学研. をまとめて発表すること,ただし個人名は一切の. 究者 1 人,精神科医師・臨床心理士 1 人,Itv に. らないので,プライバシーが侵害されることはな. 参加した大学院生 1 人で行い,見解が一致するま. いことを住民からの了承を得た。調査にかかる所. で合議した。. 17). 要時間は 30 分間で部屋には飲み物と軽食を置い.
(4) 10 Ⅲ.結果. 果,Itv 項目①においては 8,項目②においては. 北東北地方の高自殺率地区に在住している高齢. 4,項目③においても 8 サブカテゴリーを抽出す. 者の日常性に潜在化している「安心要因と不安要. ることができた。各カテゴリー内の構成項目は表. 因および解決法」について定性的分析を行った結. 1 に示した。. 表 1 安心要因,不安要因,解決法などに関するカテゴリー・サブカテゴリーと代表的なコード例 (各カテゴリー別,1例ずつ) カテゴリー. 安心要因. サブカテゴリー. 下位サブカテゴリー. 病院が近場にある. ・. 周りに医療機関が存在. 福祉の支え. ・. 毎日,ディサービスでの健康管理. 趣味活動. ・. 畑仕事による余暇時間. 自然環境のよさ. ・. 自然豊かな地域での生活の満足. 寄り添いの場があること. ・. 地域での知人が多く,支えあう. 地域の支え. ・. 村人の優しさによる安心した暮らし. 気持ちが通じ合う人間関係. ・. 気持ちが通じ合う女性同士の仲間. 家族のつながり・身内の支え. ・. 近所に暮らす兄弟との支えあい. 孤独への不安 対人関係面. 健康面 不安要因. 環境面. そのほか. 解決法. 価値観. 代表的なコード. 周囲からよそ者扱い. 家族の協力がない. 子どもが東京にいるため緊急時の助けの欠如. 若者たちとの交流の減少. 子ども・若者と地域のお年寄りとの交流の希薄さ. 抑うつ気分. 同級生の死による喪失感. 身内の自殺. 夫の自殺によるうつ状態. 身体機能の低下. 病気による家族への遠慮と迷惑感情による焦り. 病気をかかえている. 病気が原因での引きこもり. 車の騒音. 家の地理的位置によるが車の騒音. 高齢者の運転. 加齢による安全運転への心配. 地域に仕事がないこと. 村に仕事がないため,若者が地域から離れる. 豊かさによる刺激. 豊かな自然への管理の大変さ(草刈りなど). 現場を知らない農政行政. 何でも一つにまとめようとする行政への不満. 息子の嫁が決まらない. 息子の嫁が地域で見つからないことへの焦燥感. 自立した生活の実現. ・. 自分から行動し,関係を作る積極さ. 場の共有. ・. 老人会などへ積極的に参加. ソーシャル・サポート. ・. 一人暮らし高齢者への訪問. 見守り. ・. 身体機能の低下の共有. ・. 踊りや老人会参加による安否確認 (今は元気だが)今後のための地域住民との交流. 傾聴・共感. ・. 安心感に結び付く悩み相談相手の存在. 人との交流・絆づくり. ・. 積極的な地域文化活動への参加. 現象受容による気持ちの活性化. ・. 友達との死別から認知の修正による気持ちの変化. 苦あれば楽あり. ・. 苦しい時はあるが,皆で乗り越えた経験. 仕事中心. ・. 仕事ができる状態と生きがいの関係性. 境遇に従順になれ. ・. 辛い状況への忍耐と受容による克服. 伝統の継承. ・. 伝統的な価値観や歴史を受け継ぐ若者の欠如. 過酷な労働の受容. ・. 過酷な労働への受容. 昔の子どもへの労働の使役. ・. 若いころは個人の自由なく家業を引き継ぐ.
(5) 地域高齢者が日常で感じる「安心要因,不安要因および解決法」に関する探索的研究 11. 1.「テーマ・構成概念」について まず,Itv の内容をどのように分析したかにつ. つかの例も記す。 【A さん : ストーリーライン】. いて 1 例をあげる。85 歳の女性 D さんで,1人. 若いころは仕事一筋の厳しい生活だった。今は. 暮らしである。. 時代の変化をうけとめながら若者たちを見守る。. 最初に, 「この訪問は,この町の住民の人々が,. 死の恐怖はあるが,人とのつながりを確かめなが. 日ごろどのようなことを考え,何を感じて暮らし. ら生きることを楽しんでいる。身内の家族の支え. ているのか,安心して生活できているのか,困っ. だけでなく,近隣の人たちの支えによって安心し. たことはないのか,そして,あるとすればどのよ. た生活ができている。もちろん気持ちを伝え合う. うにしたらよいのか,解決法がイメージできるの. 人が少なくなったり,将来のことを考えると不安. かなどについて教えていただければと思います。. にはなるが,それはそれとして。. 硬く考えずに思いつくままに自由にお話してもら えればありがたいです。」という前置きから話が 始められた。D さんの語った内容はテープ起こ しをした上で,以下のように分析された。まず. 【理論記述】 人とつながることが,死の恐怖を受け入れなが ら生の欲望を発揮することを可能にしている。 【C さん : ストーリーライン】. は,テクストである。 「心配は山ほどあるよ。心. 若いころは個人の自由はなく家業を引き継い. 配することは山ほどあるけど,今のところは,一. だ。農業を中心に未成年者も働き,厳しく苦しい. 番ふさわしんだなぁ,と思って。ただ,自分の. 時代だった。貧乏子沢山があたりまえの時代だっ. からだが自由きかなくなったから,自分で,い やぁ,こんなの今まで想像したのが,情けなく. た。 【理論記述】. なったなぁ,と思うの。自分が,からだが,自由. 手作業のため,人手を多くする意味で子沢山と. がきかなくなったから。」. なった。. この文面の内容から注目すべき語句として,. 【E さん : ストーリーライン】. 「ただ,自分のからだが自由きかなくなったから,. 家族で毎日のように電話で交流している。それ. 自分で,いやぁ,こんなの今まで想像したのが,. が気持ちの支えになっている。地域での就労困難. 情けなくなったなぁ,と思うの。 」という文面で. が家族を地理的に分離させている。公民館で踊り. あった。そして,これを言い換えて「からだの自 由が利かなくなったから,情けなく思う」とし. を習って楽しんでいる。 【理論記述】. た。これにより原因と結果の捉え方が明確になっ. 家族の交流が生きる支えとなっている。地域の. た。そして,これをさらに説明するようなテクス. 就労困難が家族を地理的に引き離す悪循環を形成. ト外の概念として, 「身体機能低下による心理的. している。. 劣等感」という言葉で表し,最後には「身体機能. 【F さん : ストーリーライン】. と心理の関係」というテーマ・構成概念を抽出し. 若いころは大勢の家族の中でにぎやかに過ごし. た。テーマ・構成概念が終了した後,次にストー. てきたが,夫の自殺によりひとりになり,うつ状. リーラインを記述し,さらに,理論記述を行っ. 態に陥った時期もあったが,今は少し持ち直し. た。また,この例のテーマ・構成概念は「身体. た。その事実を受け入れて毎日仏様をおがみ,夫. 機能の低下」というサブカテゴリー・下位サブカ. と話をしたり,夫が好きだった歌を聴いてさびし. テゴリーとして再度分類され,理論記述を参考に. さを紛らわしたり,とりあえず現実を受け入れて. 「不安要因」というカテゴリーに当てはめること ができた。大谷によれば,ストーリーラインとそ. 毎日を生きている。周囲の支えも大きい。 【理論記述】. こから得られた理論記述を行うことが解析におい. 仏とお話しする,歌を歌う,そして孫に支えら. て重要と言われていることから,以下ほかのいく. れることがうつ状態の改善に寄与した。自己受容.
(6) 12. 【若者たちとの交流の減少】. 《昔の子どもへの労働の使役》 図 1 各項目のカテゴリー内の関連図. がかえって生きる気力を与える。 【G さん : ストーリーライン】. 念」を参考に分類され, 「理論記述」の内容を確 認しながら最終的にカテゴリーに分類することが. 独居生活を営んでいるが子どもたちに支えられ. できた。以下にカテゴリー{ },サブカテゴリー. ながら楽しく生活している。しかし,身体機能の. 《 》,下位サブカテゴリー【 】として内容分析. 衰えには対策を講じてはいるが,不安は隠せな. 結果を説明する。. い。過疎化と孤立化で地域生活は大変になってい. 2.{安心要因}について. る。地域外からきた人間とみられているので,友. 「地域で安心して生活できているか ?」という. 人が少ない。しかしその少ない友人に支えられて. 問いに対して,サブカテゴリーの 1 つとして,. 感謝。 【理論記述】. 《家族のつながり・身内の支え》があった。悩み があった時に身内の誰かに悩みを伝えたり,1人. 家族間の心の支えが高齢者の生きる支えと安心. 暮らしであっても身内の誰かが定期的に家庭訪問. につながっている。. してくれることが安心感につながっていることが. 以上「テーマ・構成概念」のまとめた例とし. わかった。また,近隣の人たちとの交流も大きな. て 5 名のストーリーラインを整理し,その上,ス. 支えになっていて,これは《地域の支え》のサブ. トーリーラインから現われる仮説としての理論記. カテゴリーから確認することができる。 《寄り添. 述を記した(ストーリーラインにおける下線は. いの場があること》《気持ちが通じ合う人間関係》. 「テーマ・構成概念」を指す) 。 「安心要因」と「不. も安心感と関係ある可能性が考えられた。そのほ. 安要因」 , 「解決策」のカテゴリーのもとでデータ が整理され,この 3 つに「価値観」を加えた 4 つ のカテゴリーそれぞれに対してサブカテゴリーや 下位サブカテゴリーがまとめられた。サブカテゴ リー・下位サブカテゴリーは「テーマ・構成概. か,《福祉の支え》《自然環境のよさ》《趣味活動》 《病院が近場にある》が抽出できた(図 1)。 3.{不安要因}について(この項目だけに下位サ ブカテゴリーを示す) まずは,《健康面》での【身体機能の低下】が.
(7) 地域高齢者が日常で感じる「安心要因,不安要因および解決法」に関する探索的研究 13. 1つの不安要因として現われた。加齢に伴う身体. Ⅳ.考察. 機能の低下が「今後どうなってしまうのだろう,. これまでの自殺対策は主に, 「うつ病」に対す. 家族に迷惑になってはいやだ,いずれ死に至る」. る教育啓発と早期発見,早期治療が取り組みの中. などの現実的な不安としてつながっていたのであ. 心であったが,我々は,地域に暮らす住民一人ひ. る。また,【病気をかかえている】 【抑うつ気分】. とりの考えや経験を大切にし,地域の生の声を. 【身内の自殺】との関連性も考えられる。 《環境. 拾いあげるコミュニティモデルで取り組みを行っ. 面》では, 【高齢者の運転】 【地域に仕事がないこ. た。自殺者が多いこの地域で自殺の要因特定だけ. と】【豊かさによる刺激】 【車の騒音】が不安要因. ではなく,安心した暮らしのために必要な要因に. として抽出できた。 《対人関係面》では, 【若者た. 焦点を当て,「住民自身が考え・自らの生活を振. ちとの交流の減少】 【家族の協力がない】 【孤立へ. り返り・互いに困っていることを出し合う」 ,そ. の不安】があり, 《そのほか》では, 【息子の嫁が. の上で地域の課題や解決法を見つける方向性で探. 決まらない】【現場を知らない農政行政】も困っ. 索的検討を行ったのである。これによって,家族. たことに含まれた(図 1) 。. ならびに近隣との「絆づくり」が 1 つの重要な. 4.{解決法}について. キーワードとして現われた。高齢者にとって身内. {解決法}のカテゴリーは, 《人との交流・絆づ. である家族の一員がいつでも自分のことを気にか. くり》 《傾聴・共感》 《ソーシャル・サポート》 《場. けている時,また,近隣の人が同じような気持ち. の共有》 《見守り》 《自立した生活の実現》 《身体. を自分に向けてくれる時,安心感を得ることがわ. 機能の低下の共有》《現象受容による気持ちの活. かった。また,悩みがあった時に,誰かがその悩. 性化》の 8 項目のサブカテゴリーとして構成され. みを受容し,傾聴することが大きな心の安心感に. た(図 1) 。. つながり,そのためには,傾聴と共感の基本的な. 5.{価値観}について. スキルを身につけることが重要な取り組みの 1 つ. 図 1 で示しているように, {価値観}のカテゴ. である方向性が示された。稲村は,「人と人との. リーを構成するサブカテゴリーとして《仕事中. 心の絆の大切なことは,昔から誰でもが知ってい. 心》 ,すなわち「仕事をすることが生きる意味で. る(略)。現代という時代は,(略)人と人との心. ある」という捉え方が認められた。さらに,これ. の絆はますます弱まり,機械や情報の氾濫がそれ. と関連して《過酷な労働の受容》が得られた。A. に代わっている」と述べており18),傾聴・共感の. さんや C さんの発言の中には「過酷な労働をす. 認識とスキルは実際生活で広く必要とされている. ることが当たり前の人生」があり, 「労働への使. ことがわかった。このような傾聴と共感の基本を. 役」を受け入れて生活してきた可能性と,それが. 多くの住民に啓発することが効果的な自殺予防対. 現在の高齢者が若かったころの共通した価値観で. 策につながると考えられる。さらに,今回の調査. もあったと思われる。高齢者にとっては日常「仕. は,参加型アクションリサーチ手法を用いること. 事してっか ?」という挨拶があり,それをお互い. で,住民が自主的に参加して,互いに気持ちを伝. に確認し合うことで生活の支えになっていたかも. え合い,そして支え合うことを通して地域の問題. しれない。また, 《伝統の継承》 《苦あれば楽あり》. 点に関心を持つことができたのが 1 つの特徴であ. の考え方が身についていて,そのような状況を受. る。自殺の多い地域で,9 人の高齢参加者が積極. け入れながら, 《境遇に従順になれ》という思い. 的・協力的に「生きること」について前向きに話. で,今を生き続けている可能性がうかがわれた。. してくれたのは,非常に興味深い。参加者の中に. そのほか, 《昔の子どもへの労働の使役》もあっ. は,2 名(A,H さん)が1人暮らしで,1 名(F. た(図 1) 。. さん)が自死遺族であったことから前向きに生き ることへの強い思いがあったと思われる。Itv 内 容を見ると,1人暮らしであっても,家族の誰か.
(8) 14 が自分のことを心配して定期的に顔を見に来た り,近所の人たちが毎日のように寄ってくれて話 をすることが大きな支えになっていること,特 に,自死遺族であった F さんは,うつ状態から 人との関わりを楽しみながら生活できるように なった理由には,周りとのつながりが大きな支え であったことがわかった。このような参加者から の意見を通して,地域での自殺対策を考える際 に,地域で暮らす人たちの意見を聞くことで対策 に必要な答えを見出すことができる可能性を示 し,これは,地域で残存している住民間の絆が大 きな自殺抑制効果につながる可能性を報告した岡 ら の研究と一致している。 19). Ⅴ.まとめ 今回の調査では,人と人との絆を大切にするこ と,高齢者本人の問題への気づきから行動へ移す ことが 1 次予防視点での自殺予防対策になると考 えられた。今後,さらに参加型アクションリサー チを活用することで住民が自主的に参加して地域 の問題点に気づき,住民同士で問題解決・改善に 協力し合えるようにコミュニティモデルによる取 り組みを続けたい。 ●引用文献 1) Oyama H, et al. Community based prevention for suicide in elderly by depression screening and follow-up. Community Ment Health J. 40; 249-263,2004. 2) Oyama H, et al. Community-based prevention through group activity for elderly successfully reduced the high suicide rate for females. Psychiatry clin neurosci. 59;337-344, 2005. 3) Motohashi Y, et al. Lowering suicide rates in rural Japan. Akita Journal of Public Health. 2; 105-106, 2005. 4) Oyama H, et al. Preventing elderly suicide through primary care by community-based screening for depression in rural Japan. Crisis. 27;58-65, 2006. 5) Oyama H, et al. Local community intervention through depression screening and group activity for. elderly suicide prevention. Psychiatry clin neurosci. 60;110-114, 2006. 6) 高橋邦明ほか.新潟県東頸城郡松之山町におけ る老人自殺予防活動―老年期うつ病を中心に. 精神経誌.100 (7) ;469-485,1998. 大山博史ほか.岩手県浄法寺町における高齢者 7) 自殺に対する予防的介入 : うつ状態スクリーニ ングと住民啓発によるアプローチ.精神医学. (45) ;37-47,2003. 大野裕(研究代表者)ほか.うつ状態のスクリー 8) ニングとその転帰としての自殺予防システム構 築に関する研究.平成 11-12 年度厚生科学研究 補助金障害保健福祉総合研究事業.2001. Rutz W, et al. An general educational program 9) on depressive disorders for general practitioners on Gotland; Background and evaluation. Acta Psychiatr Scand. 79;19-26, 1989. 10) 保健衛生ニュース.地域精神保健で保健師の増 員を提言,東京.2012,p30. 11) 秋田県由利町本荘保健所由利町福祉課.高齢者 の心の健康づくりと自殺予防事業 . 高齢者自殺調 査結果報告書.1996. 12) 渡邉直樹ほか.高齢者自殺予防の考え方と実践; 秋田県由利町における調査結果から.Geriatric Medicine.40 (10) ;1453-1459,2002. 13) 片桐隆嗣.質的調査の技法.北澤毅ほか編,< 社 会 > を 読 み 解 く 技 法, 福 村 出 版, 東 京,1998, p23-44. 14) Gilmore GD, et al. Need assessment strategies for health education and health promotion, Dubuque: Brown & Benchmark, 1989. 15) 大谷尚.4 ステップコーデイングによる質的デー タ分析手法 SCAT の提案 - 着手しやすく小規模 データにも適用可能な理論化の手続き―名古屋 大学大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学) . 52 (2) ;27-44,2007. 16) Reason P. Three approaches to participative inquiry, In N.K.Denzin & Y.S.Licoln(Eds.) , Strategies of qualitative research, Sage, London, 1998. 17) 渡邉直樹.地域における自殺対策の効果的要因 の研究.関西国際大学紀要.11;137-146,2010. 18) 稲村博.心の絆療法.誠心書房,東京,1981. 19) 岡檀ほか.高齢者自殺希少地域における自殺予防 因子の探究―徳島県旧海部町の地域特性から―. 日本社会精神医学雑誌.19 (2, 3) ;199-209,2010..
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