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セルフマネジメント能力向上により行動変容へ繋がった COPD 患者の一症例

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Academic year: 2021

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セルフマネジメント能力向上により行動変容へ繋がった

COPD 患者の一症例

中野  叶

1)

 石原 智恵

1)

 安藤 真次

1)

1)臼杵市医師会立コスモス病院リハビリテーション部・理学療法士

〒875-0051 大分県臼杵市大字戸室1131-1 Kanai…Nakano1) Tie…ishihara1) Shinji…Ando1) 1)Usuki…Medical…Association…Cosmos…Hospital・PT

要 旨

【はじめに】… 患者が疾患の管理を自分自身で行い,日常生活や QOL を維持し,重症化を予防する ために必要な行動を起こすための動機や技術,自信(自己効力感)を育てることが重 要であると報告されている.今回,本人の性格や役割に着目したセルフマネジメント 教育を行うことで行動変容へ繋がった症例を経験したため報告する. 【症例提示】… 60 代前半の男性.疾患名は肺炎.既往歴としてリウマチ肺,慢性閉塞性肺疾患(以下: COPD)があり,在宅酸素療法(以下:HOT)を実施している. 【方  法】… 急性期の段階よりコンディショニングを開始し,徐々に全身持久力トレーニング・筋 力トレーニングを開始.また,本人の性格を生かしたセルフマネジメント教育を実施. 【結  果】… セルフマネジメント能力向上が図れた結果,低酸素を起こさない動作の獲得に繋がっ た.また,区長の役割が負担になっていると自己にて判断し,役割を他人へ引き継ぐ という行動を起こした. 【結  語】… セルフマネジメント教育は疾病管理のみでなく本人の生き方・価値観を変化させるも のであり,本人の強みを生かしたアプローチが重要である. Key Words:呼吸リハビリテーション;セルフマネジメント教育;行動変容

症例研究

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28 大分県理学療法学 第 14 号 【はじめに】 セルフマネジメント教育の目的は患者が疾患に 対する理解を深め維持期(生活期)及び増悪期に おけるセルフマネジメント能力を獲得し,患者と 医療者が協働で疾患に取り組む姿勢を向上させる ことである.患者が疾患の管理を自分自身で行い, 日常生活や QOL を維持し,重症化を予防するた めに必要な行動を起こすための動機や技術,自信 (自己効力感)を育てることが重要である1).また, 納得して自分の意思で行うアドヒアランスの向上 にむけたアプローチが必要不可欠である2) 今回,本人の性格や役割が労作時の低酸素状態 を助長している事に着目し,セルフマネジメント 教育により行動変容へ繋げる事ができた症例を経 験したためここに報告する. 【倫理的配慮】 本研究における説明を本人へ行い,同意を得た. 【症例紹介】 年齢:60 歳代前半 性別:男性  現 病 歴:X-1 年 12 月 か ら HOT 導 入.X 年 6 月 末より呼吸困難あり,7 月中旬 38.0℃発熱,肺炎 の診断で当院へ入院. 既往歴:リウマチ肺(41 歳),COPD(50 歳) 経過:長期ステロイドを服用している経緯もあり, 広域の抗菌薬使用し治療開始.その後肺炎は改善 してきたが,約 1 週間後に薬疹・熱発出現し,抗 菌薬を変更して治療継続.熱発に関してはリウマ チの影響が考えられたため,ステロイド増量とな る.薬疹に対しては抗菌薬変更から約 1 週間で全 身状態の改善を認めた. リハビリは 5 病日目より介入.熱発・薬疹出現し た期間は運動療法を一時中断し,コンディショニ ングを中心に介入.状態改善後より運動療法再開 となった. 性格:責任感が強く真面目.せっかちな一面もあ る. 生活歴:妻と娘の3人暮らし.家では庭の草とり・ 竹切り・墓掃除などを行う.社会的役割として区 長としての役割を担っている. 区長の仕事内容:月 1 回の会議に出席,イベント の企画・運営,配布物を近所に配る   【初期評価(7 病日目)】 身 長:164cm  体 重:54.8 ㎏ BMI:20.4kg/m²  CRP:17.19mg/dL 血液ガス:(pH)7.47,

(PaCO ₂)33mmHg,(PaO ₂)60mmHg,(HCO ₃) 24.0mEq/L 客観的所見(安静時):呼吸困難+ 努力性呼吸 +(呼吸が浅く,頻呼吸)頸部筋緊張亢進 酸素投与量:1.5L/ 分(安静時・動作時) 安静時 SpO ₂:96% 連続歩行(点滴台把持):(距離)10m,(SpO ₂) 96%→ 80%,(修正 Borg:呼吸困難)4,(リカ バリー)3分 FIM:82 点(排尿:尿器使用して自立,排便: 車椅子トイレ使用,入浴:未実施) NRADL:21 点,(排泄の動作速度や息切れの項 目で減点,入浴・病室内や病棟内移動はできない 状況にあった) 修正 MRC 息切れスケール:3 本人の訴え: ・「区長の仕事があるから早く家に帰らないと.」 ・「自分がいないと周りに迷惑かける.」 ・「息は上がるけど我慢できるから動ける.」 セルフマネジメントの行動変容ステージ:無関心期 【中間評価(27 病日目)】 酸素投与量:1.5L/ 分(安静時・動作時) 安静時 SpO ₂:97% 連続歩行(サークル):(距離)100m,(SpO ₂) 97%→ 88%,(修正 Borg:呼吸困難)3,(リカ バリー)1 分 30 秒 握力 :18kg/10kg CS30:6 回 5m 歩行(サークル):9.8 秒(快適歩行速度) TUG(サークル):41.93 秒(快適歩行速度) 【問題点】 初期評価・聞き取りから,問題点として①役割 が実現できない事への不安や焦り,②低酸素によ る悪影響の理解不足,③労作時の低酸素,④過活 動,⑤動作スピードが速い,⑥ SpO ₂と自覚との 解離,⑦せっかちな性格をあげた.今回は特に① ②③に着目してアプローチを行った(図 1). 【呼吸リハビリテーション】 1.セルフマネジメントへの介入 (ⅰ)行動変容に対して 本症例はセルフマネジメント教育を受けた経験 がなく,聞き取りの中で「息は上がるけど我慢で きるから動ける」との発言が聞かれており,セル フマネジメントに対しての行動変容ステージは無

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関心期であった.そのため,低酸素により引き起 こされる身体への悪影響や,臓器障害のリスクに ついての説明から行った. (ⅱ)性格・心理面について 本症例はせっかちな性格があり,1 つ 1 つの動 作が速いことが問題であった.しかし,聞き取り より感じた几帳面で真面目な性格が強みであると 考え,指導の前には目的を伝えることを意識して 介入した. また,動作時は自覚症状だけではなく具体的な 酸素飽和度の数値(SpO ₂:90%以上)を提示し, 自己管理できるように促した. 心理的には,日常生活や家庭・地域での役割が 『できない』という点に意識が向いており,本人 の不安や焦りを生み,動作時の酸素飽和度の低下 を助長していた.そこで,『できない』ことに向 いている意識を変えるため,まずは日常生活が楽 に行えるという成功体験を積み重ねていくことか ら開始した. (ⅲ)動作指導について 担当作業療法士と協働し,休憩のタイミング・ 動作速度・口すぼめ呼吸の方法について指導を 行った.歩行中の休憩のタイミング,入浴や更衣 動作中の呼吸の連動方法などを繰り返し練習し た.また,本人へ定着しやすいように 3 つのポイ ントとして①きつくなる一歩手前で休憩すること ②動作をゆっくりすること③正しく呼吸すること を繰り返し伝え,本症例の几帳面で真面目な性格 を考慮し,担当スタッフの中で声掛けを統一して 行った.本症例は自覚症状と SpO ₂の数値に解離 があったため,SpO ₂の数値(90%)を参考に指 導を行った.また,息こらえしないよう,動作の 中で連動した呼吸方法を指導した. 2.身体機能面への介入 本症例は低負荷の運動においても努力性呼吸が 認められ,運動耐容能の低下が生じていた.呼吸 練習や呼吸体操等のコンディショニングから開始 し,徐々に全身持久力トレーニングの割合を増や した.負荷量はパルスオキシメーターでの SpO ₂ の確認と自覚症状として修正 Borg スケールを用 いた.SpO ₂の下限 88%を基準に介入し,修正 Borg3 ~ 4 での負荷で実施した.また,運動中の 客観的な呼吸困難や呼吸状態の評価も行った. 【最終評価(57 病日目)】 CRP:2.51mg/dL 客観的所見:動作時の口すぼめ呼吸 酸素投与量:1.5…L/ 分(安静時・動作時) 安静時 SpO ₂:98% 連続歩行(点滴台把持):(距離)130m,(SpO ₂) 98%→ 88%,(修正 Borg:呼吸困難)4,(リカ バリー)1 分 図1 本症例の ICF

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30 大分県理学療法学 第 14 号 FIM:113 点(排泄は病棟内トイレ自立) NRADL:40 点 →初期では『できない』項目が多かったが,本人 が工夫することによって『休憩しながらであれば できる』や『ゆっくりであればできる』項目が増 えた(入浴や屋内歩行など). 握力 :19kg/14kg CS30:17 回 5m 歩行(点滴台把持):7.02 秒(快適歩行速度) /4.38 秒(最大歩行速度) TUG(点滴台把持):19.40 秒(快適歩行速度) /13.69(最大歩行速度) 訴えの変化: ・「きつくなる 1 歩手前で休まないと.」 ・「区長の仕事は他の人に引き継ごうと思う.無 理したらまた入院になるなぁ.」 セルフマネジメントの行動変容ステージ:実行期 【考察】 本症例は,低酸素による体への悪影響の理解が 乏しく,労作時に低酸素状態が生じていても日常 生活動作を続ける方であった.また,聞き取りの 中で,本人の役割に対する責任感を強く持ってお り,以前の生活に戻ることができるのか,役割を 果たすことができるのかという点に不安や焦りを 感じている事が分かった.介入当初は家での役割・ 区長の役割の両方を果たすことが本人の中での目 標であった.しかし,病棟での活動範囲はベッド 周囲のみとなっており,理想と現実に差が生じて いた.そのため,日常生活や家庭・地域での役割 が『できない』という点に意識が向いていた事が さらに本人の不安や焦りを生み,動作時の低酸素 を助長していると考えた(図 2). そこで今回,セルフマネジメント能力向上に向 け,本人の性格や役割に着目してアプローチを 行った.本人の『できない』ことに向いている意 識を変えるために,まずは日常生活が楽に行える という成功体験を積み重ねていくことから開始し た. 自己効力感は,行動の成功体験が重要であり, 実行可能な行動目標を立てることが重要であると 報告されている2).本人の性格を生かした声掛け や,SpO ₂の数値・自覚症状に合わせた生活動作 を繰り返し行う事で,低酸素に注意した動作が身 に付き,日常生活動作の向上へと繋がったと考え る.そして,本人が動きの工夫・自己管理をする ことで,「楽に生活ができる」という気づきが生 まれた. 図2 介入前の本人の認識

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また,COPD は労作時に気流閉塞による動的 肺過膨張等に起因する呼吸困難によって身体活動 が制限され,運動耐容能の低下と健康関連 QOL が障害されると報告されている1).本症例は低負 荷の運動で息切れが生じ,運動耐容能の低下を認 めていた.重症例において,呼吸練習や柔軟性を 改善する運動などコンディショニングと基礎的な ADL トレーニングを行いながら,低負荷の全身 持久力や筋力トレーニングより開始することが望 ましいとされている1).本症例においても,急性 期の段階ではコンディショニングを行い,正しい 呼吸パターンでの運動を実施し,コンディショニ ングが自主で行えるようになってからは,全身持 久力トレーニングの割合を増やし適切な負荷量で 実施できたことで運動耐容能の向上に繋がったと 考える. 介入当初は『家での役割・区長の役割の両方を 果たすこと』が本人の中での目標であったが,介 入後は『日常生活を安定させること』へと目標の 変化がみられた. セルフマネジメント教育の目標は①長くしかも 快適な生存を可能ならしめるための技術の向上, ②問題点の把握,認識する能力の改善,③自身の 健康を守るという信念を築き上げることであると 報告されている2).本症例はセルフマネジメント 能力向上により,①低酸素による身体への悪影響 の理解,②動作スピードが速いことや過負荷な動 作によって生じる身体への負担の理解,③日常生 活の中で休憩を入れるタイミングが定着し,自分 で工夫することで日常生活が楽に行えるという気 づきへ繋がったと考える. これら 3 つの気づきを踏まえて,自分の『でき ること』・『できないこと』への現実検討を行った 結果,区長の役割は今の自分にとって負担になっ ているという判断に繋がった.そして,本人の意 思で区長の役割を他人へ引き継ぐという選択を し,行動へ移した(役割の再選択)と考える(図 3).セルフマネジメント教育は再発予防・疾病管 理のみでなく,本人の生き方や価値観を変化させ る可能性があることを本症例より学んだ. 【引用文献】 1)植木純,神津玲,他:呼吸リハビリテーショ ンに関するステートメント.日本呼吸ケア・リ ハビリテーション学会誌,第 27 巻,第 2 号, 95-114,2018. 2)高橋修一:呼吸リハビリテーションマニュア ル 患者教育の考え方と実践.日本呼吸ケア・ リハビリテーション学会呼吸リハビリテーショ ン委員会,第 1 版,株式会社照林社,東京都, 2007,pp5-12,pp31-38. 図3 介入後の本人の認識の変化

参照

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