[R-621] 放射光を用いた表面分析技術の紹介
SPring-8
の最近の話題から
兵庫県の播磨科学公園都市には,世界最高性能の放射 光を生み出すことができる大型放射光施設 SPring-8 (Super Photon ring-8 GeV)や X 線自由電子レーザーを発 生させる SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Elec-tron Laser)という国内外の産学官の研究者らに開かれ た共同利用施設があり,ナノテクノロジー,バイオテク ノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。以 下では,最近の話題1)からいくつか紹介する。 ナノメートルスケールの深さ方向分解能で,組成や元 素の化学結合状態を検出するのにきわめて有効な測定手 段の一つに X 線光電子分光法がある。この装置に,高 空間分解能の付与,電圧印加機構を組み合わせることに よる動作中の化学結合状態の変化の検出,さらには試料 測定室に差動排気機構をもうけて,大気圧に近い状態で の測定を可能にするなどにより,その応用先も格段に広 がっている。最近では,Takagi ら2) が,大型放射光施設 SPring-8で硬 X 線を用いた準大気圧光電子分光装置を 改良し,世界に先駆けて完全大気圧下での光電子分光測 定に成功しており,燃料電池,バッテリー,また生体試 料など固体/液体界面などへの応用が期待される。
SACLAを用いたものでは,Mitrofanov ら3) が,Ge-Sb-Te薄膜で,原子がピコ秒スケールで瞬間移動する様子 の観測に成功している。また,Yamashita ら4)が,常温 においてセレノメチオニンを導入した ACG と Stem と いう二種類のタンパク質の μm サイズの結晶から構造を 決定に成功している。原子や分子の瞬間的な動きを観察 できる SACLA を利用することで,新しい材料の創出や 難病の原因解明と薬の創出などが期待される。
文
献
1) http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/ 2) Y. Takagi et al. : Appl. Phys. Express 10, 076603 (2017). 3) K.V. Mitrofanov et al. : Sci. Rep. 6, 20633 (2016). 4) K. Yamashita et al. : IUCrJ 4, 639 (2017).(東京都市大学 野平博司)
[R-622] 表面プラズモンポラリトンを利用し
たテラヘルツ帯オンチップ伝送線路
技術の展開
表面プラズモンポラリトン(SPP)は金属-誘電体界 面に局在する金属自由電子の集団的な遥動であり,伝搬 型 SPP は光と同様に電磁的なエネルギーを運搬し,か つ光の回折限界以下の微細な導波構造を伝搬することが できる特徴を持つ。このため,伝搬型 SPP の波を情報 伝達の担い手にした光集積回路や光・電子集積回路など の小型・高速の次世代情報処理素子が実現できると考え られており,表面プラズモンとその応用に関する研究分 野が急速に発展している。この研究は,光と電波の中間 周波数帯にあたるテラヘルツ波(100 GHz∼10 THz)に おいても浸透しつつあり,近年,Si CMOS 集積回路プ ロセスを用いた,周期的な溝(groove)構造を持つオン チップ SPP 伝送線路が報告されている1) 。 高周波信号が導体を流れる際,電流が表面に集中する 表皮効果に加え,誘電損失が周波数に比例して顕在化す る。集積回路製造プロセスにおける最上位,最下位層メ タルを信号線,グランド面として利用する従来のオンチ ップ伝送線路(マイクロストリップ,コプレーナ線路) において,シリコン絶縁膜の誘電損失が伝搬損失の増大 の一つの原因となる。報告の伝送線路は表面を伝搬する SPPを利用することでこの損失を抑制し,線路構造の SPP分散関係を検証,テラヘルツ帯で広帯域・低損失の SPP伝送線路を提案している1) 。また隣接した 2 線路に おけるクロストークも抑えられることも実証した。同構 造を利用した SPP―コプレーナ線路変換器や2),共振器 なども開発が進んでいる3) 。 テラヘルツ波は次世代の高速無線通信技術として応用 が期待され,化合物半導体やシリコン CMOS 集積回路 を用いた送受信回路の開発が活発化している。この回路 における新しい伝送線路技術としても利用できることか ら,今後の展開が期待される。文
献
1) Y. Liang, H. Yu, H. C-. Zhang, C. Yang and T.J. Cui : Sci. Rep. 5, 14853 (2015).
2) Y. Liang, H. Yu, H. C-. Zhang and T. J-. Cui : Proc in IEEE Asia Pacific Microwave Conf. (2015) p. 1. 3) Y. Liang, H. Yu, G. Feng, A.A.A. Apriyana, X. Fu and
T.J. Cui : IEEE Trans. Microwave Theory Tech. 65, 2762 (2017).
(情報通信研究機構 原 紳介)
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