ノート
I 緒 言 ウラン取扱施設では,排水中に基準値以上のウランが 含まれていないことを確認するために,排水のウラン汚 染検査が必要とされている。このため,通常ウラン取扱 施設では,排水を貯蔵し,そこから十分な量の排水をサ ンプリングして乾固し,Į 線計測を行うことで排水中ウ ラン濃度の定量を行っている。ウランの法令上の排水基 準は 20 mBq cm–3と定められており1),施設により異な るが,一般にその 100 分の 1 程度の検出下限が担保され ている方法で分析される。すなわち,求められる検出下 限と装置の検出下限を考慮して,分析に用いる供試量が 決定される。一方で,作業の過程でウランに汚染された 可能性のある溶液が多数発生し,そのそれぞれが少量で あった場合,この方法でウランを迅速に定量するのは困 難な場合がある。例えば,東京電力福島第一原子力発電 所の廃炉現場でウランに汚染された可能性のある溜まり 水等が発見された場合,汚染マップの作成やその溜まり高田 由美*
1,高村 晃大*
1, 2,上床 哲明*
1, 2,酒井 康弘*
2,吉 井 裕*
1, # (2020 年 7 月 7 日受付) (2021 年 1 月 8 日採択)Screening Method for Uranium in Liquid Sample by X-ray Fluorescence Analysis of Graphene Oxide Adsorbing
Uranium
Yumi TAKATA,*1 Kodai TAKAMURA,*1, 2 Tetsuaki UWATOKO,*1, 2 Yasuhiro SAKAI*2 and Hiroshi YOSHII*1, # 6LQFHWKHVSHFL¿FDFWLYLW\RIXUDQLXPLVYHU\ORZLWLVQRWHDV\WRDQDO\]HQXPHURXVOLTXLGVDPSOHVFRQWDLQLQJDVPDOODPRXQW RIXUDQLXPDQGLWLVHIIHFWLYHWRLPSURYHWKHRSHUDWLRQDOHI¿FLHQF\E\SUHVFUHHQLQJWKHXUDQLXPXVLQJDVLPSOHPHWKRG:H expect that the proposed method, wherein uranium in a liquid sample is adsorbed on graphene oxide, collected by a membrane ILOWHUDQGDQDO\]HGE\;UD\IOXRUHVFHQFHLVVXLWDEOHIRUVFUHHQLQJVXFKDOLTXLGVDPSOHFRQWDLQLQJXUDQLXP+RZHYHU JUDSKHQHR[LGHFRPSULVHVVPDOOSDUWLFOHVWKDWFORJWKHPHPEUDQH¿OWHUGXULQJFROOHFWLRQ:KHQVRGLXPSHUFKORUDWHLVDGGHG WRWKHVDPSOHWKHVDOLQLW\FRQFHQWUDWLRQLQFUHDVHVDQGJUDSKHQHR[LGHDJJUHJDWHVUHQGHULQJWKH¿OWUDWLRQSURFHVVHDVLHU,Q WKLVVWXG\LWZDVFRQ¿UPHGWKDWWKHDGGLWLRQRIVRGLXPSHUFKORUDWHWRWKHVDPSOHVKRUWHQHGWKHJUDSKHQHR[LGHFROOHFWLRQWLPH DQGGLGQRWDIIHFWWKHÀXRUHVFHQW;UD\DQDO\VLVUHVXOWV7KHORZHUOLPLWRIXUDQLXPGHWHFWLRQE\WKLVPHWKRGLVDSSUR[LPDWHO\ 0.42 ng mL–1, which is equals to 0.042 mBq cm–3 when converted to the radioactivity concentration under conservative FRQGLWLRQV7KLVLVDSSUR[LPDWHO\RIWKHHIÀXHQWVWDQGDUGYDOXHIRUXUDQLXPLQGUDLQDJHZDWHU
KEY WORDS: uranium in liquid sample, screening, X-ray Àuorescence, graphene oxide, aggregation, salinity concentration, ¿ltration, peak ¿tting.
ウラン吸着酸化グラフェンの蛍光 X 線分析による
液体試料中ウランのスクリーニング法
*1 (国研)量子科学技術研究開発機構高度被ばく医療センター;
千葉県千葉市稲毛区穴川 4–9–1(〒 263–8555)
Center for Advanced Radiation Emergency Medicine, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology 4–9–1 Anagawa, Inage-ku, Chiba-shi, Chiba 263–8555, Japan.
*2 東邦大学;千葉県船橋市三山 2–2–1(〒 274–8510)
Department of Physics, Faculty of Science, Toho University 2–2–1 Miyama, Funabashi-shi, Chiba 274–8510, Japan.
水の処理のため,個々のウラン濃度を迅速に定量するこ とが求められるが,上記の方法でウランを定量すること は難しい。このため,多数試料の迅速な分析が可能な手 法でスクリーニングを行い,この結果に基づいて精密分 析の必要性を判断し,精密分析における条件設定を行う ことで,作業効率を向上させることが有効である。 ウランのように比放射能が極めて低い核種において は,Į 線計測のような放射線計測よりも,原子数を対象 とした分析方法の方が有利である。誘導結合プラズマ質 量分析法(Inductively coupled plasma-mass spectrometry: ICP-MS)は原子数を対象とする代表的な分析手法で あり,環境試料中の微量ウランの分析に利用されてい る2–9)。蛍光 X 線(X-ray Àuorescence: XRF)分析もまた, 原子数を対象とする分析方法である。XRF 分析では, 入射 X 線により試料中の標的原子を励起し,放出され る蛍光 X 線を測定することにより,元素の定量分析を 行う(Fig. 1a)。XRF 分析は ICP-MS に比べて 5 ∼ 6 桁 程度感度が低いものの,装置が安価なうえ,ICP-MS で 必要なアルゴンガスなどが不要でランニングコストも低 いこと,測定により試料がほとんどダメージを受けない 非破壊検査であること,非接触測定なので測定により 装置が汚染されないことと言った利点がある。そこで, われわれはこれまでに,少量のウラン汚染水を XRF 分 析の一種である全反射蛍光 X 線(Total reÀection X-ray Àuorescence: TXRF)分析により定量する手法を開発し てきた10–15)。TXRF 分析は入射 X 線を浅い角度で入射し て試料表面で全反射させることで,散乱線の発生を抑 え,高感度な分析を可能にした(Fig. 1b)16)。試料の高 い平滑さが要求されるものの,検出感度としては通常の XRF 分析よりも 2 ∼ 3 桁程度優れている。これまでの 研究で,最も高感度な測定を実現したのは,酸化グラフェ ン(Graphene oxide: GO)により 20 mL ほどの溶液から ウランを抽出すると同時に濃縮して TXRF 分析を行う 手法であり,この方法における検出下限は 0.15 ng mL–1 であった14, 15)。 XRF 分析や TXRF 分析では核種分析はできないので, これを放射能濃度に換算するためには同位体組成比が 必要となる。すなわち,ウランの主要な同位体である 234U,235U,238U のうち,比較的半減期の短い234U(半減 期 2.46 × 105年)や235U(半減期 7.04 × 108 年)の割合 が高いほど,放射能濃度に換算した場合の値が高くな る。一般に,軽水炉用核燃料では235U の割合が 3% 程度 になるように濃縮されているので,より保守的に,235U の割合を 5% と想定した。この場合234U の割合は 0.037% で,残りの 94.963% が238U(半減期 4.47 × 109 年)とな る17)。このような条件で TXRF 分析におけるウランの 検出下限 0.15 ng mL–1を検出下限放射能に換算すると 0.015 mBq cm–3 となる。これは,ウランの法令上の排水 基準の 1,300 分の 1 にあたる。 TXRF 分析でこのように高感度な測定が可能となっ た要因は,GO の高いウラン吸着能にある。GO は少量 で高いウラン吸着能を示すため,近年注目を集めてい る14, 15, 18–21)。われわれの過去の研究14, 15)では,20 mL の 試料溶液に 600 ȝL の 4 mg mL–1 GO 分散液を加えてウラ ンを吸着させ,メンブレンフィルターでこれを捕集した のちに 500 ȝL の溶出液(2 mol L–1硝酸)に GO 捕集フィ ルターを浸してウランを溶出させた。すなわち,GO で のウラン回収率が 100% ならばウランは 40 倍に濃縮さ れたことになる。そして,そこから 10 ȝL をスライドガ ラスに滴下し,乾燥して TXRF 分析に供した。ところ が,ここで一つ問題が生じた。GO は平板状の構造を持 つ微粒子で,メンブレンフィルターで捕集する際に目詰 まりを起こしてしまい,捕集に非常に長い時間を要する。 GO は塩分濃度の高い溶液中では Na+ が仲介することで Fi g. 1 Setup for the (a) XRF and (b) TXRF analyses. In
XRF analysis (a), a part of the X-rays incident on the sample at an angle of approximately 45° is scattered on the sample surface, and another part excites the target element, resulting in XRF emission. Therefore, a high background signal derived from scattered X-rays is observed in the XRF spectrum. In TXRF analysis (b), X-rays are incident on the sample surface at a very shallow angle, most of which DUH WRWDOO\ UHÀHFWHG RII WKH VDPSOH VXUIDFH DQG VRPH RI them excite the target element in the sample, resulting in the emission of XRF. Although high sample smoothness is required, a very low background spectrum can be obtained.
凝集することが知られており,この場合,目詰まりを起 こしがたくなり,迅速に捕集できるようになる。しかし, この時,溶出液中の塩分濃度も上昇するため,スライド ガラス上に滴下した試料溶液の乾燥残渣に塩が析出し, 平滑な試料とすることが困難である。 そこで,検出感度は劣るが試料の形状に影響されにく い従来の XRF 分析を適用することを考えた。この場合, ウランが吸着した GO を捕集したフィルターからウラン を溶出させてスライドガラス等に滴下する必要はなく, フィルターそのものを測定対象とできるため塩の析出は 問題にならない。このことは,副次的な効果をもたらし た。すでに述べたように TXRF 分析では 500 ȝL の試料 溶液から 10 ȝL を分取してスライドガラスに滴下してい る。すなわち,作製した試料溶液の 50 分の 1 しか測定 に用いていないことになる。一方で,XRF 分析ではよ り多くの試料を測定対象とできるため,信号強度の増大 が期待される。信号強度が増大すれば検出下限は改善さ れると期待されるが,この方法によるウランの検出下限 は明らかになっていない。また,XRF 分析において過 塩素酸ナトリウム添加が測定結果に影響しないことは自 明ではない。Na KĮ 線(1.04 keV)や Cl KĮ 線(2.62 keV) は U LĮ 線(13.61 keV)と競合しないが,これらがマト リクス成分となり,試料内での U LĮ 線の散乱をもたら して信号強度が低下する可能性や,バックグラウンド信 号が増大して検出下限が悪化する可能性が否定できな い。さらに,GO が凝集することにより,そのウラン吸 着能が低下しないことについても確認が必要となる。 そこで本研究では,ウランが吸着した GO を捕集した フィルターの XRF 分析を行うため,XRF 分析装置の X 線照射野程度の大きさになるようにフィルターを折りた たんで,厚さを統一するためにマイラ膜と粘着テープで パウチする試料作製法を開発した。次に超純水に過塩素 酸ナトリウムを加えて Na+濃度を調整した溶液に GO 分 散液とウラン含有多元素標準溶液を添加して,Na+濃度 の指標として用いた塩分濃度計指示値とウランを吸着し た GO のメンブレンフィルターでの捕集時間の関係を調 査した。また,塩分濃度計指示値を 3% とした溶液につ いて,GO のウラン回収率に依存しない標準試料を作製 し,その結果との比較から GO で捕集されたウランを定 量した。それらの測定において,測定時間は統計誤差低 減のために 3,600 秒としたが,実試料の分析では測定時 間を 300 秒程度とするため,この条件での測定も行い, スペクトルを比較するとともに,その結果から検出下限 を求めた。 II 実 験 1. 試薬・機器等 実験に用いた超純水は,メルク(株)製の純水装置 Milli-Q®
Integral 5 ultrapure water puri¿cation system から採
水した。ウラン含有標準液として,それぞれ 10 ȝg mL–1
のコバルト,銅,セシウム,トリウム,ウランを含む XSTC-1407(SpexCertiPrep Inc., NJ, USA)を用いた。GO にはシグマアルドリッチジャパン合同会社製の GO 分散 液(4 mg/mL, dispersion in H2O)を用いた。試料溶液の Na+ 濃度の調整には過塩素酸ナトリウム(富士フイルム 和光純薬(株))を用いた。ここで食塩ではなく過塩素 酸ナトリウムを用いたのは,水への溶解度が高いため である。食塩も過塩素酸ナトリウムも溶液中で Na+を 生じるため,Na+による GO の凝集を促す効果は同等で あると考えられる。Na+濃度の測定には塩分濃度計 YK-31SA((株)マザーツール)を用いた。この塩分濃度計 は導電率測定方式を採用しており,Na+イオン量を測定 していることとなる(不純物による導電率の変化は無視 できる)ので,塩分濃度計の指示値が等しい食塩水と過 塩素酸ナトリウム水溶液で Na+濃度は等しいと考えられ る。試料溶液の pH 調整には,高純度硝酸 TAMAPURE-AA-100(68%)(多摩化学工業(株))の希釈液及び容 量分析用 8 mol L–1水酸化ナトリウム水溶液(富士フイ ルム和光純薬(株))の希釈液を用いた。考察の冒頭部 分で詳説するように,ピークフィッティングにおいてパ ラメータの一部を固定するために,関係する各元素単独 の試料のスペクトルを測定する必要がある。そのために, ストロンチウム標準液,ビスマス標準液,鉛標準液,臭 素溶液(富士フイルム和光純薬(株))の希釈液を用いた。 試料の乾燥にはウルトラドライ((株)リガク)を用い た。この装置はヒーターによる加熱と真空ポンプによる 減圧により試料を効率的に乾燥させることができるが, 減圧を行うと試料が膨らむなど変形する場合があったた め,本研究では 80℃に設定したヒーターでの加熱のみ 行った。測定に用いた蛍光 X 線分析装置については II.3 節で詳説する。この蛍光 X 線分析装置において,X 線 照射野の観察にはガフクロミックフィルム22–25)XR-QA2
(Ashland Inc., NJ, USA)を用いた。なお,一般にガフク ロミック線量計の像の読み取りは高性能スキャナーで行 い,画像解析によって線量を算出するが,本研究ではガ フクロミック線量計を照射野の直径を求めるためにのみ 使用しており,画像解析は不要なので市販のデジタルカ メラで撮影した。
2. 試料作製 超純水に塩分濃度計で塩分測定しながら過塩素酸ナト リウムを加え,塩分濃度計指示値を 1%,2%,3%,4%, 5% に調整した。これらの溶液を 100 mL トールビーカー に 75 mL ず つ 入 れ,GO 分 散 液 600 ȝL と XSTC-1407 50 ȝL(ウラン量は 0.5 ȝg)を添加した後,pH をそれぞ れ 5 に合わせた。これらの試料は,各塩分濃度計指示値 に対して 6 個ずつ作製した。また,各塩分濃度計指示値 において,XSTC-1407 の代わりに同量の超純水を添加 したコントロール試料も作製した。スターラーで 10 分 間攪拌した後,0.1 ȝP 径 PTFE 製メンブレンフィルター に通液して,ウランが吸着している GO を捕集した。こ の GO が捕集されたメンブレンフィルターを縦横 1/3 ず つ 1/9 に折り,乾燥させたうえで,XRF 分析用パウチ素 材で密封した(Fig. 2)。 XRF 分析用パウチ素材は本研究のために開発した ものである(Fig. 3)。外径 40 mm,内径 25 mm,厚さ 500 ȝP のリング状の厚紙の片面に,中央の穴をふさぐ ようにポリプロピレン製片面粘着テープを貼りつけてお く。また,厚紙リングの反対側には,リングと同型(中 央に内径 25 mm の穴が開いている)の両面テープを貼 りつけておく。1/9 に折りたたんだメンブレンフィルター をこのリングの中央に乗せ(片面粘着テープの上に置く ので固定される),厚紙リングの両面テープの剥離紙を はがして,3 ȝP 厚マイラ膜を張り付ける。最後に,厚 紙リングの外縁に沿ってマイラ膜を切ることで,厚紙か ら試料を切り離して取り出す。このようにすることで, 非常に薄い試料にすることができる。実際に作製された 試料の厚さは,約 700 ȝP であった。メンブレンフィル ターを 1/9 に折るのは,次節で述べるように XRF 分析 装置の入射 X 線が,できるだけ多くの試料に照射され るようにするためである。 標準試料との比較により試料溶液中ウラン濃度を決定 するために,標準試料を作製し,その測定を行った。塩 分濃度計指示値が 3% である過塩素酸ナトリウム水溶液 を用い,XSTC-1407 を加えることなく,ここまでの試 料作製法と同じ方法で,pH 調整,撹拌,GO の捕集を行っ
た。これを,マイラ膜を貼った台紙上に置いて,XSTC-Fi g. 2 Schematic of the sample preparation process. た。これを,マイラ膜を貼った台紙上に置いて,XSTC-First, a uranium-containing multi-element standard solution and GO dispersion were added to various concentrations of sodium perchlorate aqueous solution, and the pH of the solution was DGMXVWHGWRDSSUR[LPDWHO\$IWHUVWLUULQJIRUPLQ*2DGVRUELQJXUDQLXPZDVFROOHFWHGE\DPHPEUDQH¿OWHUDQGIROGHG )LQDOO\WKHIROGHG¿OWHUZDVVHDOHGZLWKWKHVHDOLQJPDWHULDOVKRZQLQFig. 3.
1407 を超純水で希釈してウランを濃度 1.25 ȝg mL–1 と した標準液希釈液を 400 ȝL ずつ滴下した。これにより, 0.5 ȝg のウランが滴下されたことになる。なお,400 ȝL の溶液をフィルター上の GO 捕集部分に滴下すると,お よそ全体にまんべんなく溶液がいきわたった状態にな る。この状態でウルトラドライを用いてある程度乾燥さ せてから,1/9 に折り,さらに乾燥させて,厚紙リング を貼り付けて試料とした。この試料には確実に 0.5 ȝg の ウランが均一に存在しているので,ウランの XRF 信号 強度の比較から,試料溶液中のウラン濃度を決定できる。 ストロンチウム単独のスペクトルを得るために,われ われの先行研究26–28)に基づき,直径 5.5 mm に切り出し た定量ろ紙 5A(アドバンテック東洋(株))に,濃度を 100 ȝg mL–1 に調整したストロンチウム標準液希釈液を 10 ȝL 滴下し,XRF 分析用パウチ素材で密封した。同様 に,ビスマス標準液希釈液,鉛標準液希釈液,臭素溶液 希釈液による試料も作製した。ウラン単独の試料を作製 することはできないので,XSTC-1407 を用いて試料を 作製した。XSTC-1407 中のウラン濃度は 10 ȝg mL–1な ので,これを 10 ȝL 滴下して乾燥させる操作を 10 回行 うことで,ストロンチウムなど他の元素の場合と同量の ウランを含む試料とした。 3. 蛍光 X 線測定 XRF 分析にはスペクトリス(株)マルバーンパナリ ティカル事業部製の卓上型蛍光 X 線分析装置(Epsilon 4)を用いた。X 線管のターゲットは銀であり,制動 X 線に加えて銀の特性 X 線での励起も可能である。とり わけ,Ag KĮ 線(22.16 keV)は,ウランの L3殻電子の イオン化しきい値(17.17 keV)よりわずかに高いため, L3殻電子を効果的に励起することができる。分析に用 いる U LĮ 線(13.61 keV)は L3殻電子励起後の脱励起 過程で放出されるものなので,この装置は U LĮ 線の測 定に有利である。X 線管の定格出力は 15W であり,管 電 圧 を 50 kV に 設 定 し た 場 合, 最 大 300 ȝA の 管 電 流 を得ることができる。検出器にはエネルギー分解能が 約 135 eV(Mn KĮ 線)であるシリコンドリフト検出器 (Silicon Drift Detector: SDD)が用いられている。XRF 測 定では,入射 X 線の経路上に金属薄膜を一次 X 線フィ ルターとして設置し,入射 X 線のスペクトルを変更す る。本装置には,7 ȝP 厚のチタン,100 ȝP 及び 200 ȝP 厚のアルミニウム,100 ȝP 厚の銀,300 ȝP 及び 500 ȝP 厚の銅という 6 種類の素材を用いた一次 X 線フィルター が備えられており,ユーザーはその中から目的に応じた フィルターを選択する。本研究では,先行研究29)に基 づいて厚さ 300 ȝP の銅製一次 X 線フィルターを選択し た。ただし,この先行研究において,フィルターに使用 されている銅箔に微量のビスマスが含まれていることが 明らかとなっており,このため,測定されたスペクトル には銅だけでなくビスマスのピークが見られることがあ る。 本装置には,10 個の試料を同時に装置内に配置でき るターレットが備えられている。Fig. 3 の XRF 分析用 パウチ素材は,このターレットに収まるように設計され た。測定ではターレットによって試料が順番に照射位置 に運ばれて XRF 測定が行われる。測定の間,試料はス ピナー機構により回転するように設計されている。通常, XRF 分析装置では試料の斜め上または斜め下から X 線 を入射するため,照射像は楕円形となり,均一な照射と はならない。本装置では,試料を回転させることにより この問題を解決している。本装置の入射 X 線を,直径 38 mm の円形に切り出したガフクロミックフィルムへ 照射した際の像を Fig. 4 に示す。楕円形の照射像が回転 しているため,照射像は二重の同心円状となっている。 このとき,内側の円の直径は約 8 mm,外側の円の直径 は約 15 mm である。その外側では X 線が入射されない ため,そこに試料があっても XRF 信号に寄与しない。 GO を捕集したメンブレンフィルターの直径は 47 mm で
Fi g. 4 ;UD\ LUUDGLDWLRQ ¿HOG PHDVXUHG E\ WKH *DIFKURPLF ¿OP
あり,そのまま XRF 測定を行うと,大部分の GO には X 線が照射されない。そこで,メンブレンフィルターを 1/9 に折って試料とした。折り方が試料ごとにわずかに 異なるため,その相違は計測された U LĮ 線の信号強度 のばらつきとなる。 XRF 分 析 に お い て, 管 電 圧 は 50 kV, 管 電 流 は 300 ȝA に設定した。測定時間は原則として 3,600 秒と した。本研究では,過塩素酸ナトリウムの添加がスペク トルに与える影響を慎重に検討するために測定時間を 3,600 秒としているが,ウラン汚染水のスクリーニング 分析で 1 試料の測定に 3,600 秒を費やすのは妥当ではな く,一般に,測定時間は 300 秒程度に設定される15)。そ こで,一部の試料については測定時間を 300 秒とした測 定も行った。 III 結 果 Table 1 に示すように,ウラン吸着 GO の捕集に要し た時間は,塩分濃度計指示値 1% の試料では比較的長 く,2 ∼ 5% の試料では短かった。ウランを 0.5 ȝg 含み, 塩分濃度計指示値が 3% である試料に対する測定された XRF スペクトルの一例を Fig. 5 に示す。約 7 keV 以下の 低エネルギー領域と約 20 keV 以上の高エネルギー領域 においてバックグラウンド信号が上昇している。このう ち低エネルギー領域におけるバックグラウンド信号は入 射 X 線の散乱線が SDD 内部でコンプトン散乱を起こし たことに由来する。すなわち,NaI(Tl) シンチレーショ ン検出器や HPGe 半導体検出器による Ȗ 線スペクトロ メータにおけるコンプトン散乱の寄与に相当する。高エ ネルギー領域のバックグラウンド信号は,入射 X 線の 制動 X 線成分が試料により弾性散乱(レイリー散乱や トムソン散乱)及び非弾性散乱(コンプトン散乱)され たことによるものである。X 線管の管電圧は 50 kV に設 定されているので,入射 X 線の制動 X 線成分はずっと 低いエネルギー領域にまでわたって存在する。しかし, 一次 X 線フィルターに 300 ȝP 厚の銅を用いているため, その吸収特性が加味されて,このようなスペクトル形状 となっている。Cu KĮ 線(8.04 keV)はこの一次 X 線フィ ルターから発せられた銅の蛍光 X 線である。強い Ag KĮ 線(22.16 keV)と Kȕ 線(24.94 keV)は X 線管のア ノードに由来する銀の特性 X 線が試料により弾性散乱 されたものである。これらのピークの低エネルギー側に 幅の広いピークがそれぞれ見られるが,これらは Ag KĮ 線と Kȕ 線が試料によりコンプトン散乱されたものであ る。試料に加えた過塩素酸ナトリウム中の塩素に由来す る Cl KĮ 線(2.62 keV)が観測されている一方で,ナト リウムに由来するピークは観測されていない。これは, 本装置に備えられている一般的なベリリウム窓を装備し た SDD では 1.04 keV の Na KĮ 線がベリリウム窓で吸収 されるためである。 Fig. 6a と 6b に,コントロール試料と 0.5 ȝg のウラン を含む試料の代表的な XRF スペクトルの,U LĮ 線のエ ネルギー領域の拡大図を示す。これらの試料における 塩分濃度計指示値は 3% である。コントロール試料の XRF スペクトルには Pb Lȕ 線(12.61 keV)と Sr KĮ 線 (14.16 keV)が現れている。本研究で用いた GO は天然 のグラファイトから合成したものであり,鉛やストロン チウムが吸着していることがある。これらのピークは そのような鉛やストロンチウムに由来している。さら に,Fig. 6a には Bi Lȕ 線(13.02 keV)も観測されている。 すでに述べたように,これは一次 X 線フィルター素材 として用いた銅箔の中に不純物として混入していたもの とみられる。Fig. 6b では,これらに加え,U LĮ 線と Th Ta ble 1 Relationship between salinity concentration of
sample solution and collection time of GO by membrane ¿lter and found uranium content.
Salinity concentration (%)
Collection time (min)
Found uranium content ȝJ 1 25 0.49 ± 0.05 2 3 0.50 ± 0.02 3 1.5 0.48 ± 0.02 4 1.5 0.51 ± 0.03 5 1.5 0.52 ± 0.02
Fi g. 5 Observed XRF spectrum for the water sample FRQWDLQLQJ ȝJ RI XUDQLXP ZLWK D VDOLQLW\ FRQFHQWUDWLRQ of 3%.
LĮ 線(12.97 keV)が観測されている。本研究では,ウ ランを添加するために XSTC-1407 を用いたが,この標 準液にはトリウムが含まれており,トリウムはウランと 同様に GO に吸着するため,このピークが現れたものと 考えられる。Th LĮ 線は,装置由来の Bi Lȕ 線と重なっ ており,エネルギーが極めて隣接しているため,これら のピークを分離することはできない。U LĮ 線のピーク は左右対称ではなく低エネルギー側に裾を引いた形状と なっている。これは,このピークが U LĮ1線(13.61 keV) と LĮ2線(13.44 keV)が重なったものであることに由 来 す る。Th LĮ 線 も Th LĮ1線(12.97 keV) と LĮ2線 (12.81 keV)が重なったものだが,Th LĮ 線のすぐ低エ ネルギー領域に Pb Lȕ 線が存在するため,低エネルギー 側の裾は明確でない。Pb Lȕ 線は Lȕ1線(12.61 keV),
Lȕ2線(12.62 keV),Lȕ3線(12.80 keV),Lȕ4線(12.31 keV)
などが重なっている。このうち,Lȕ1線と Lȕ2線は極め て隣接しており,1 つのピークとして扱う方が良いので Pb Lȕ 線を Lȕ1線,Lȕ3線,Lȕ4線の 3 つのピークが重なっ たものとした。Fig. 6a に見られる Bi Lȕ 線も,Pb Lȕ 線 と 同 様 に Lȕ1線(13.02 keV),Lȕ2線(12.98 keV),Lȕ3 線(13.21 keV),Lȕ4線(12.69 keV)などが重なったも のだが,Lȕ1線と Lȕ2線は完全に重なって 1 つのピー クになっているものとみなし,Bi Lȕ 線は Lȕ1線,Lȕ3 線,Lȕ4線の 3 つのピークが重なったものであるとした。 Fig. 6b の,低エネルギーの領域には U Ll 線(11.62 keV) と Br KĮ 線(11.92 keV)も見られる。臭素化合物は天 然に広く存在し,クリーンルームで実験を行わない限り XRF スペクトルにわずかなピークとなって現れること が多い。Br KĮ 線が見られているということは,Br Kȕ 線(13.29 keV)も存在していると考えられるが,一般 に Kȕ 線は KĮ 線の 1/10 程度の強度しかないので Fig. 6a のスペクトルにおいて U LĮ 線の低エネルギー側に存在 するはずの Br Kȕ 線は明瞭ではない。 Fig. 7 に,0.5 ȝg のウランを含む塩分濃度計指示値 3% の試料を,測定時間を 300 秒として測定したスペクトル を示す。Fig. 6b と比べてばらつきは大きいが,スペク トルの特徴に大きな違いはない。 IV 考 察 Fig. 5 に示すように XRF スペクトルにおいてバック グラウンド信号の形状は複雑である。これは,バックグ ラウンド信号の発生源が主に自然放射線である Ȗ 線エネ ルギースペクトルの場合と異なり,XRF スペクトルで はその大部分が入射 X 線の散乱線であることに由来す る。このため,XRF 分析装置には一般に解析プログラ ムが備えられており,バックグラウンド信号の推定と差 し引きのアルゴリズムについては各社がしのぎを削って いる。このような解析プログラムにおけるアルゴリズム Fi g. 6 Enlarged view of the observed XRF spectra for the (a)
FRQWUROVDPSOHDQGEWKHZDWHUVDPSOHFRQWDLQLQJ ȝJ of uranium. For both samples, salinity concentration was 3%.
Fi g. 7 Enlarged view of the XRF spectrrum observed for WKHZDWHUVDPSOHFRQWDLQLQJ ȝJRIXUDQLXPDWDVDOLQLW\ concentration of 3% with an accumulation time of 300 s. The peaks of the U Ll%U.ĮDQG6U.ĮOLQHVDUHQRWFOHDU
は非公開であり,解析がブラックボックス化している。 一方で,Fig. 6 に示すように,狭いエネルギー範囲に着 目した場合,バックグラウンド信号は比較的平坦である。 また,XRF スペクトルのピークはガウシアン型の関数 で表現できるので,われわれはこれまでの研究で,独自 のフィッティング関数によるピークフィッティングを 行ってきた10–15)。この中で,ピークは f (x) = ʌ/2wI e–2
(
x – xc W)
2 (1) とガウシアン関数で表現した。ここで,x は X 線のエネ ルギー,パラメータ I,w,xcはそれぞれピーク強度,ピー ク幅,ピークトップのエネルギーを表している。ピーク 幅 w は 半 値 全 幅(Full Width at Half Maximum: FWHM)により,w = FWHM2ln2 と表される。ピークトップにおけ る信号強度は ʌ/2wl (cps) なので,I はピーク強度を司る パラメータであるが,ピークトップにおける信号強度そ のものではない。これらのパラメータのうち,xcは文献 値30)に固定する。また,ピーク幅 w は各元素の含有量 に依存しないので,各元素単独の試料を測定したスペク トルにおいてピークフィッティングを行うことで決定し た値に固定する。このようにすると,フィッティングパ ラメータは I のみとなる。 これを踏まえ,本研究で測定された XRF スペクトル に対するピークフィッティング関数を f (x) = y0+ Ax +
Ȉ
peaks Ii ʌ/2wi exp{
– 2 (x – xci– dx) 2 wi2}
(2) と設定した。式(2)において,初めの 2 項はバッ クグラウンド信号を表している。Fig. 6 に示すように, フィッティングを行う範囲において,バックグラウンド はほぼ平坦なので,一次関数で表すこととした。第 3 項 における総和記号は,想定されるすべてのピークに対し て和をとることを意味している。想定されるピークとし ては,前節で述べたように U LĮ1線,LĮ2線,Ll 線,Th LĮ1線,LĮ2線,Br KĮ 線,Kȕ 線,Pb Lȕ 線,Bi Lȕ 線, Sr KĮ 線があるが,このうち Pb Lȕ 線と Bi Lȕ 線は Lȕ1線, Lȕ3線,Lȕ4線の 3 つのピークが重なったものとした。ピー ク幅 wiを各元素単独の試料の測定により固定できるこ とはすでに述べたが,同一元素におけるピーク強度比も 各元素の含有量に依存しないので固定できる。例えば, ウランのピークとして U LĮ1線,LĮ2線,Ll 線があるが, これらのピーク強度比は試料中のウラン含有量に依存し ない。そこで,XSTC-1407 滴下による試料を測定した XRF スペクトルに対して多重ガウシアンフィッティン グを行い,U LĮ2線の強度 IULĮ2と U Ll 線の強度 IULlを ULĮ1線の強度 IULĮ1の定数倍で表すことができる。この比 を固定することにより,ウランに関してのパラメータは U LĮ1線の強度 IULĮ1のみとなる。これらの検討を踏まえ て固定したパラメータの一覧を Table 2 に示す。また, 式(2)の第 3 項の中の dx はエネルギー校正のわずかな ずれを補正するためにスペクトル全体をシフトさせるた めのパラメータで,すべてのピークに対して共通である。 各塩分濃度計指示値でのコントロール試料,0.5 ȝg の ウランを含む試料,塩分濃度計指示値 3% で作製した標 準試料の各スペクトルの,11.5 keV ∼ 14.5 keV の領域を 切り出して,式(2)によるピークフィッティングを行 い,各ピークの信号強度がそのピークの面積として得ら れた。ここで,式(1)に示すガウシアン関数は無限遠 方でも値を持つので,ピーク面積を得るためにはピーク 範囲を決定する必要がある。式(1)の I を 1 に変えると, この式は正規分布を表すこととなり,その標準偏差 ı と 式(1)の w の間には w = 2ı の関係がある。そこで,ピー クの範囲を xc± 3ı = xc± 1.5w とした。U LĮ 線は,LĮ1線 と LĮ2線が重なったものなので,その面積の合計を U LĮ 線のネット信号強度 Inet(cps) とした。同じエネルギー 範囲において式(2)における第 1 項と第 2 項の和をと り,これを U LĮ 線に対するバックグラウンド信号強度 IBG(cps) とした。
塩分濃度計指示値と Inet,IBGの関係を Fig. 8 に示す。
エラーバーは 6 試料での結果の標準偏差である。この図
Table 2 Fitting parameters for equation (2).
peak xci (keV) wi (keV) Ii U Ll 11.62 0.165 0.079·IU 8/Į1 13.61 0.171 IU 8/Į2 13.44 0.208 0.182·IU 7K/Į1 12.97 0.161 ITh 7K/Į2 12.81 0.177 0.163·ITh %U.Į 11.92 0.160 IBr %U.ȕ 13.29 0.176 0.143·IBr 3E/ȕ1 12.61 0.160 IPb 3E/ȕ3 12.80 0.167 0.08·IPb 3E/ȕ4 12.31 0.153 0.064·IPb %L/ȕ1 13.02 0.163 IBi %L/ȕ3 13.21 0.250 0.173·IBi %L/ȕ4 12.69 0.202 0.141·IBi 6U.Į 14.16 0.167 ISr
からわかるように,1% から 5% までの塩分濃度計指示 値の範囲内において,Inetは誤差の範囲で一致しており, このことは IBGでも同様である。Inetはウラン添加量に比 例するが,IBGはウラン添加量に寄らず一定であり,ウ ラン添加量 0.5 ȝg において両者がほぼ等しくなってい るのは偶然である。過塩素酸ナトリウムを添加したこと により U LĮ 線が散乱されたり吸収されたりした場合や, GO のウラン吸着能が低下した場合は塩分濃度計指示値 の上昇とともに Inetが低下すると考えられるが,そのよ うにはなっていない。また,添加した過塩素酸ナトリウ ムの影響で入射 X 線の散乱線成分が上昇する場合,塩 分濃度計指示値の上昇とともに IBGが上昇すると考えら れるが,そのようにはなっていない。このように,過塩 素酸ナトリウムを添加して Na+濃度を上昇させたとして も,測定結果に変化がないことが明らかとなった。本研 究では,Na+濃度が上がると GO が凝集し,メンブレン フィルターでのろ過が容易になることから,測定試料の 塩分濃度に応じて過塩素酸ナトリウムを加えて Na+濃度 を上昇させて,凝集した GO をメンブレンフィルターで 捕集する方法を提案しているが,この時,Table 1 及び Fig. 8 の結果から,塩分濃度計指示値は 3% まで上昇さ せることとした。ここで,本研究では前もって Na+濃度 を調整した溶液を用いたが,実試料の分析を行う際には 75 mL の試料溶液に過塩素酸ナトリウムを加えていくの で,目標の塩分濃度計指示値を超えることなく Na+濃度 を調整することは至難の業である。しかし,Fig. 8 に示 すように,塩分濃度計指示値が 1% から 5% の範囲では 分析結果が Na+濃度に依存しないので,目標を 3% に設 定し,これをわずかに超えることがあっても 5% を超え なければその試料をそのまま用いることができる。この ことは,Na+濃度調整を容易に行いうることを意味して いる。 0.5 ȝg のウランを含む各塩分濃度計指示値での試料 における Inetを,標準試料における Inetと比較すること により,GO によるウラン捕集量を算出し,Table 1 に 併せて示した。GO によるウラン捕集量は誤差の範囲で 0.5 ȝg に一致しており,このことは,本研究の条件にお いて GO でのウランの回収率が 100% であったことを意 味している。 XRF 分析における測定時間に明確な基準はないが, 多数の試料を分析することを考えると,測定時間は 300 秒程度とすることが妥当である。そこで,塩分濃度計指 示値 3% の試料について,実際の測定時間を考慮して測 定時間を 300 秒として再測定を行った(Fig. 7)。測定さ れたスペクトルに対し,式(2)によるピークフィッティ ングを行い,ピーク面積として U LĮ 線のネット信号強 度 Inetと,同じエネルギー範囲のバックグラウンド信号 強度 IBGを得た。XRF 分析では,Ȗ 線計測などと異なり バックグラウンド信号強度が高いので,ネット信号強度 がバックグラウンド信号強度のばらつきの 3 倍を超える 試料量を検出下限とする。このため検出下限(Minimum Detection Limit: MDL)は MDL =3m Inet IBG t (3) と表される9–14)。ここで,m は試料の質量又は濃度で あり,m の単位と MDL の単位(ȝg,ȝg mL–1など)は 一致する。また,t(s) は測定時間である。式(3)を用い て MDL をウラン濃度として算出すると,約 0.43 ng mL–1 となった。われわれの先行研究13–15)と同様に,最も保 守的と考えられる235U が 5% 含まれるとした同位体組 成比を仮定して,この MDL を放射能濃度に換算する と 0.043 mBq cm–3となった。これは,法令排水基準の約 500 分の 1 である。TXRF 分析における検出下限を放射 能濃度に換算した結果が 0.015 mBq cm–3と,法令排水基 準の約 1,300 分の 1 であったこと14)と比べると,検出感 度の点では劣っているが,Na+濃度の調整により GO の 捕集が迅速に行えることと,その後の脱塩が不要である という点で,TXRF 分析よりもはるかに簡便な分析が可 能となった。
Fi g. 8 Relationship between the salinity concentration of WKH VDPSOH VROXWLRQ DQG QHW LQWHQVLW\ RI WKH 8 /Į SHDN RU background intensity in the same energy region.
V 結 論 試料溶液に過塩素酸ナトリウムを加えて塩分濃度計指 示値を 3% 程度に調整することで,添加した GO の凝集 を促し,これをメンブレンフィルターで捕集して XRF 分析することで,法令排水基準の 500 分の 1 程度のウラ ンを迅速に検出する手法を開発した。法令排水基準の 1,300 分の 1 程度の感度でウランを検出できる TXRF 分 析法に感度では劣るが,短いろ過時間あるいは脱塩が不 要であるという点において TXRF 分析よりもはるかに 簡便である。また,前処理や測定に要する時間が短いと いう点において,Į 線計測法や ICP-MS に対しても優位 性を持つ。ただし,蛍光 X 線分析法では核種分析が不 可能であるため,本法は,あくまで多数試料が発生した ような場合の簡易スクリーニング法ととらえ,ここで汚 染の可能性が示された場合は ICP-MS などによる精密分 析を行うことが求められる。このように,本法は比較的 少量の汚染水が多数発見された場合のスクリーニングに 有効な手法であり,東京電力福島第一原子力発電所廃炉 現場などでの活用が期待される。 謝 辞 本研究は,原子力規制委員会原子力規制庁「令和 2 年 度原子力発電施設等安全技術対策委託費(東京電力福島 第一原子力発電所の放射性廃棄物の特性評価に関する検 討)事業」として実施しました。この事業において,有 識者による検討会委員として,(一財)九州環境管理協会 の百島則幸理事長,大阪市立大学の 幸一教授,日本原 燃(株)の佐々木耕一センター長には検討会の席でさま ざまなご助言をいただきました。深くお礼申し上げます。 利益相反の開示 開示すべき利益相反状態はない。 参 考 文 献
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