招待論文
触媒反応支援化学気相堆積法による酸化亜鉛薄膜の堆積
安井
寛治
†a)田島
諒一
†寺口
祐介
†里本
宗一
†加藤
孝弘
†Zinc Oxide Thin Film Growth by Catalytic Reaction Assisted Chemical Vapor
Deposition
Kanji YASUI
†a), Ryouichi TAJIMA
†, Yusuke TERAGUCHI
†, Souichi SATOMOTO
†,
and Takahiro KATO
†あらまし 白金ナノ粒子表面での水素・酸素の触媒反応による燃焼で生成した高温の水分子を利用した化学気 相堆積(CVD)法を考案した.この CVD 法において高エネルギー水分子ビームとアルキル亜鉛ガスとの反応 により生成した酸化亜鉛(ZnO)プリカーサを用いてサファイア基板上に ZnO 結晶膜を堆積させたところ,室 温で189 cm2/Vs の大きな電子移動度を有し低温で半値幅 1.0 meV の強いバンド端発光を示す高品質な結晶膜 を得た.亜酸化窒素(N2O)を微量添加したところ,更に大きな電子移動度を示す高品質な ZnO 結晶膜を得た. 本論文では白金触媒での反応,CVD 装置構造を説明するとともに,得られた ZnO 結晶膜の結晶性・配向性や電 気的特性,光学的特性について報告する. キーワード 触媒反応,化学気相堆積法,酸化亜鉛,結晶性,電気的特性,光学的特性
1.
ま え が き
酸化亜鉛(ZnO)は,直接遷移型で3.37eVのワイ ドバンドギャップ,60meVの大きな励起子束縛エネル ギーを有すること[1],そしてAl, Ga等のドーピング により10−4 Ωcmオーダーの低抵抗膜が得られる[2] 等の特徴を有する.そのため新しい紫外発光デバイ ス[3]や太陽電池やフラットパネルディスプレイの透 明導電膜[4]への適用など様々な応用研究が展開され ている.特に分子線エピタキシー(MBE)法やパルス レーザ堆積(PLD)法による半導体特性を有する高品 質なZnOエピタキシャル膜の成長について多数報告 され[5]∼[8],光・電子デバイスへの適用の道が開かれ つつある.将来の光・電子デバイスへの実用化を見据 えたとき,装置構造が単純で安価であり,大面積基板 への適用が容易なCVD法による高品質結晶膜の成長 法が望まれるが,一般的にMBE法やPLD法に比べ †長岡技術科学大学技学研究院電気電子情報工学専攻,長岡市 Department of electrical, Electronics, and Information En-gineering, Nagaoka University of Technology, 1603–1 Kami-tomioka, Nagaoka-shi, 940–2188 Japana) E-mail: [email protected] その結晶品質は低い[9].その理由の一つとしてZn原 料であるアルキル亜鉛等の有機金属化合物ガスと酸素 原料に適すると思われる酸素や水分子との反応性が高 すぎるため,気相中で未成熟な反応が生じることが考 えられる.またMBEやPLD法に比べ,基板に供給 されるプリカーサのエネルギー状態が低く,基板表面 でのマイグレーションが十分ではないために高品質の 結晶膜が得られ難いのではないかと考えられる.我々 は,従来の気相反応を抑制するという手法とは逆に, セラミクス粒子に坦持した白金ナノ粒子表面での水素 と酸素の発熱反応により高エネルギー水分子を生成 し,有機金属ガス分子と気相中で反応させ,生成した 高エネルギーZnOプリカーサを供給する方法を考案 し,サファイア基板上にエピタキシャル成長を試みた. その結果,室温での電子移動度が最大で189 cm2/Vs という大きな値を示す結晶膜が得られ,また低温での フォトルミネッセンス測定においてバンド端発光の半 値幅が1.0 meVと非常に小さな値を示すZnO膜が得 られた.そこでこの良好な電気的・光学的特性の原因 と考えられる結晶性や配向性について調べた.また, 電子移動度の膜厚依存性が強く見られたため,その特 性の原因と思われる結晶性・配向性の膜厚依存性につ
実 験 で 用 い た 白 金 触 媒 は ヘ キ サ ク ロ ロ 白 金 酸 (PtCl6)とジルコニア粒子(0.4∼0.6mm径)を純 水中で撹拌後,エバポレータにより水分を除去,その 後電気炉中で酸化・還元し作製した.CVD装置の概 略図を図1に示す.作製した触媒を触媒容器内に充て んし真空チャンバー内に設置,そこへ水素及び酸素ガ スを供給できる構造になっている.触媒容器内の白金 触媒表面で水素と酸素ガスを反応させ,高温水分子 を生成する.この高温水分子を真空チャンバー内にラ バールノズルから噴出させスキマーコーンにより高 エネルギー分子を選別した後,別のノズルからチャン バー内に供給した有機亜鉛化合物ガスと反応させ高 エネルギープリカーサを生成,基板に供給した.基板 位置での膜堆積が生じる面積は約25mmφ,一方基板 の大きさは17mm× 7mmである.基板表面温度は 500∼600◦Cでa面サファイア基板上に低温バッファ 層等を挿入せず直接成長させた.本実験では亜鉛原料 にジメチル亜鉛(DMZn, 99.9999%),酸素原料には 上述したように高純度水素(H2, 99.99999%)と高純 度酸素(O2,99.99995%)より生成した高エネルギー 水分子を用いた.水分子の発生は四重極質量分析計 (Q-mass)を用いてモニターしている.成長時のチャ ンバー内圧力は0.4–0.8Paであった.基板温度は基板 表面にクロメルアルメル熱電対をセットし測定してい るが,ヒーターにより基板を加熱した後水分子ビーム を吹き付けると若干温度が低下するため膜堆積開始前 に所定の温度になるようにヒーターの加熱を調節して いる.図2に水素と酸素ガス供給後の触媒容器内の温 度を示す.図から分かるようにガス供給後1∼2分後に 急激に温度が上昇し1000◦C以上になる.しばらく温 度が不安定であるが10分程度で温度の揺らぎが小さく なり安定するのでスキマーコーンと基板間にあるシャッ ターを開け膜堆積を開始する.堆積時間は2∼60min, 得られたサンプルの膜厚は0.1∼8.0μmである.ZnO 結晶膜の結晶性・配向性の評価にはX線回折測定装 図 1 CVD装置の構造
Fig. 1 Schematic of the CVD apparatus used in this study.
図 2 触媒容器内温度の時間変化
Fig. 2 Catalytic cell temperature during catalytic reaction between H2and O2on Pt nanolparticles.
置(RIGAKU SmartLab)を,電気特性はVan der Pauw法によるHall効果測定装置(ECOPIA HMS-5000)を用いて80K∼室温で,そしてフォトルミネッ センス(PL)は分光器(HORIBA JOBIN YVON, LabRAM HR-PL)及び励起光源としてHe-Cdレー ザーの325 nm線を用い室温及び5K,または10Kに て測定を行った.膜中の不純物の定量には二次イオン 質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectrometry,
SIMS,ULVAC-PHI Inc.,PHI ADEPT-1010)を用 いて行った.
3.
実験結果及び考察
3. 1 電気伝導特性 得られたZnO膜について室温にてHall効果測定を 行ったところ全ての試料はn形であった.1時間の堆 積で得られたa面サファイア基板上のZnO膜の電子移 動度は100–189 cm2/Vsと大きく,残留キャリア(電 子)密度も1× 1018 cm−3以下と半導体レベルのキャ図 3 ZnO膜の室温での電子移動度と電子密度 Fig. 3 Relationship between electron mobility and
residual electron concentration. (Ref.1: [10], Ref.2: [11], Ref.3: [7], Ref.4: [12], Ref.5: [5], Ref.6 [8], Ref.7: [13], Ref.8: [14])
リア密度を示した.図3にa面サファイア基板上に1 時間堆積したZnO膜の電子移動度と電子密度の関係 を示す.サンプルの厚さは1.5∼4.0μmである.また 比較のためこれまでMBE法,PLD法,Laser-MBE 法,そしてMOCVD法で良好な特性を示すと報告さ れた論文のデータも示している.図内のRef番号は 1からの通し番号となっており本論文の参考文献との 対応をFigure captionに示した.また図中の曲線は, ドナー不純物密度に対するアクセプタ不純物密度の 比(補償度)を0から0.9の幾つかの値で仮定して求 めた移動度のキャリア密度依存性である.これまで報 告されているZnO結晶の物性値を用いて様々な散乱 メカニズムを考慮した理論式から求めたが,特に音響 フォノン散乱の値を決める変形ポテンシャルの値が, 文献により大きく異なる[15]ことから変形ポテンシャ ルの値をパラメータとして,補償度NA/ND= 0,残 留キャリア密度1015cm−3のときの移動度がバルク単 結晶で報告されているμH= 230 cm2/Vsとなるよう 値を決めた.ただ転位による散乱は考慮していない. MBE法やPLD法で得られたZnO膜の膜厚はいずれ も1μm以下であり,また移動度の大きなZnO膜では 基板とエピ層の間にバッファー層を挿入しているのに 対し,本CVD法ではサファイア基板上への直接堆積 であり単純な比較はできないが,図から分かるように 他の手法のZnO膜に比べ本CVD法によるZnO膜は 補償度が低く,欠陥等に由来すると考えられるアクセ プタ密度も低いことがうかがえる. 図 4 X線回折パターン (a) 2θ = 30–40◦, (b) 2θ = 70–82◦ Fig. 4 X-ray diffraction patterns of ZnO/a-Al2O3
film. (a) 2θ = 30–40◦, (b) 2θ = 70–82◦
図 5 ZnO(0002)のω ロッキングカーブ Fig. 5 ω-rocking curve of ZnO(0002).
3. 2 結晶性及び配向性
図4に600◦Cでa面サファイア基板上に成長した
ZnO膜のX線回折パターン(2θ/ωスキャン)を示す.
(a)はZnO(0002)回折周辺,(b)はZnO(0004)回 折周辺のパターンである.この試料は膜厚1.90μmで 電子移動度162 cm2/Vsの結晶膜である.図から分か るように非常に強いZnO結晶由来の回折ピークが観 測され,また(0002), (0004)面以外の回折は見られず c軸配向以外のドメインは存在しないと推察される. また(0002)面の回折角は2θ = 34.42◦と同じ装置で 測定したバルク単結晶の回折角2θ = 34.41◦に非常に 近く,成長温度が低いためか残留応力が少ないと推察 される.図5に図4と同じ試料の(0002)回折のロッ キングカーブを示す.図から分かるように,ロッキン
Fig. 6 φ-scan curve of ZnO(10-10) peak.
図 7 室温でのフォトルミネッセンススペクトル
Fig. 7 PL spectrum of a ZnO film at RT.
グカーブの半値幅は272arcsecと小さく良好な配向性 を有していた.φスキャンにより面内配向性を調べた ところ図6のように(10-10)回折は60◦間隔で現れ, 30◦回転ドメインに由来するピークは見られなかった ことから,面内配向性にも優れていることが分かった. 3. 3 発 光 特 性 図7に基板温度500◦Cで成長させた試料の室温で のPLスペクトルを示す.膜厚は4.0μmで電子移動度 は168cm2/Vsである.バンド端の発光ピークエネル ギーは2.95eVで,その半値幅は104meVと小さかっ たことからレーザー光の吸収された表面層の結晶のバ ンド端の乱れは少ないと考えられる.図8に図7と同 じサンプルの5KでのPLスペクトルを示す.バンド 端の発光スペクトルは,3.3603eVで最も強いピーク を示し,半値幅は1.0 meVであった.この波長範囲 にはH (3.3628eV),Al (3.3608eV),Ga (3.3598eV)
に由来する中性ドナー束縛励起子(D0X)発光が存 在すると報告されている[1]が,X線回折パターンの
(0002)回折ピークが2θ = 34.45◦ と若干広角側にシ フトしていたことから膜面内に弱い引っ張り応力が存
図 8 低温 (5K) フォトルミネッセンススペクトル
Fig. 8 PL spectrum of a ZnO film at 5K.
図 9 電子移動度の膜厚依存性
Fig. 9 Electron mobility vs. film thickness.
在すると推察されること,またSIMS測定によると 膜内に1017cm−3オーダーの水素が含まれているこ とから,この発光ピークは水素不純物による中性ド ナー束縛励起子(D0X) による発光ではないかと考えて いる.3.3603eVのメインピークから低エネルギー側 に約72meV間隔で3.2897eV,3.2163eV,3.1449eV,
3.0729eV,3.0023eVにピークが観測される.これは
D0Xの1LO,2LO,3LO,4LO,5LOのフォノンレ プリカと考えられる.更に3.3757eVに自由励起子 FXA(n = 1),3.421eV付近にFXA(n = 2)によると 考えられる発光が見られることからレーザー光で励 起したZnO膜表面層の結晶品質は非常に良好である と考えられる.バルク単結晶の自由励起子のピークエ ネルギーは3.3771eV (FXAn−1(Γ5))及び3.3757eV (FXAn−1(Γ6))と報告されており[16],図8では両者 を分離して観測できていないがこれらの値に比べ低エ ネルギーとなっており,このことからも膜面内に引っ 張り応力が残存していると考えられる. 3. 4 ZnOエピタキシャル膜の膜厚依存性 図9,図10に様々な堆積時間で作製したZnO膜の
図 10 電子密度の膜厚依存性
Fig. 10 Electron concentration vs. film thickness.
図 11 ZnO(0002) 2θ–ω 回折の半値幅の膜厚依存性
Fig. 11 FWHM values of ZnO(0002) 2θ–ω diffraction vs. film thickness. 室温における電子移動度及び残留キャリア(電子)密 度の膜厚依存性を示す.図9から分かるように膜厚 が100∼400nmの試料では,膜厚の増加に伴い移動 度は大きく増加した.膜厚が800nm以上では移動度 の増加は緩やかとなり2000nm以上でほぼ飽和した. また図10から分かるように電子密度も移動度と同様 に膜厚が100∼400nmの試料では,1018cm−3のオー ダーと大きかったが,800nm以上では1017cm−3の オーダーで密度の減少は緩やかとなり2000nm以上で 1-3× 1017 cm−3以下と小さくなった.電子密度の膜 厚依存性から成長初期段階において高密度の欠陥を含 む層が形成され,その後結晶成長が進むにつれ結晶性 が向上し低欠陥の層が成長していると考えられる.そ こでX線回折のZnO(0002)ピークの半値幅とωロッ キングカーブの半値幅の膜厚依存性を調べた.図11に ZnO(0002) 2θ–ω回折の半値幅の膜厚依存性を,図12 に同じく(0002)回折のωロッキングカーブの半値幅 の膜厚依存性を示す.図11から分かるように300nm 程度まで半値幅は急激に減少し,その後減少は緩やか 図 12 ZnO(0002)ω ロッキングカーブの半値幅の膜厚依 存性
Fig. 12 FWHM values of ZnO(0002)ω-rocking curve vs. film thickness. になり500nm以上でほぼ飽和した.それ以上は装置 の分解能によって差異が見られなくなったものと思わ れる.このことから膜厚の増加とともに結晶粒径は急 激に増加していると考えられる.図12から分かるよ うにロッキングカーブの半値幅は300nm程度まで急 激に減少し,その後減少は緩やかになり2000nmでほ ぼ最小値を示した.このことから300nmの膜厚まで は結晶性やc軸配向性は悪く,それに伴って粒界が多 くまたその性質が悪いことが予測される.800nm以 下の薄膜の移動度が小さいのはこの成長初期層の結晶 性,配向性の影響によるものと考えられる. 3. 5 N2Oドーピング特性 p型膜の成長を目指して反応部にDMZnとともに N2Oガスを供給することで,ZnO結晶膜に窒素ドー ピングを試みた.このN2Oガス圧力をパラメータと して,(A) 0,(B) 3.2 × 10−3,(C) 3.1 × 10−2,(D) 9.7 × 10−2Paの条件で作製した.膜厚は(A) 8.0μm, (B) 6.0μm,(C) 7.5μm,(D) 6.0μmである.図13に 得られたZnO結晶膜のAFM像を示す.N2Oを添加 していない試料(A)に対し,N2Oを添加した試料で は明らかに表面の粒構造が大きくなっておりc軸配向 を示す六角錐形状の大きなファセットが観察された. このことからN2Oガスの添加によりZnO膜の結晶成 長が促されていると考えられる. またデータは示していないがZnO(0002)回折のロッ キングカーブの半値幅は,試料(A)で205 arcsecで あったのに対し,試料(B)では146 arcsecと小さくな りN2Oガスの添加によりc軸配向性も向上した. 各試料についてHall効果測定を行ったところ,全て の試料でn型を示しp型ZnO膜を得ることはできな
図 13 N2O添加 ZnO 膜の AFM 像 Fig. 13 AFM images of N2O doped ZnO films.
図 14 N2Oドープ膜の電子移動度の温度依存性
Fig. 14 Temperature dependence of electron mobility of N2O doped ZnO films.
図 15 N2Oドープ膜の電子密度の温度依存性
Fig. 15 Temperature dependence of electron concentration of N2O doped ZnO films.
かった.各試料の電子移動度の温度依存性を図14に,
電子密度の温度依存性を図15に示す.いずれの試料
も室温(290K)において190 cm2/Vs
以上の大きな
図 16 N2Oドープ膜の低温 (10K) PL スペクトル Fig. 16 PL spectra of N2O doped ZnO films at 10K.
電子移動度を示したが,特に試料(B)は234 cm2/Vs と最も大きな値を示した.温度特性に関してはいずれ の試料も温度の低下とともに移動度は単調に増加し, 100Kで最大値を示し更に低温になると減少した.低 温領域ではノンドープの試料(A)に比べ,N2Oを添加 した全ての試料の移動度は大きな値を示し,試料(B) は100Kで1100cm2/Vsと最も大きな値を示した. 低温領域では結晶性の良好な層のキャリア密度が減 少するために,欠陥密度が高く温度依存性の少ない基 板界面近傍の成長初期層の特性が現れてくると考えら れる.そのためN2Oを添加することで特に成長初期 層の欠陥が低減したのではないかと推察される.電子 密度はノンドープの試料(A)に対してN2Oを添加し た試料(B),(C),(D)で低い値を示した.その理由と して結晶性の向上により欠陥に由来するドナー密度が 減少したことや膜中に窒素が添加されたことによりド ナーを補償したのではないかと考えた. 図16に15Kにおける各試料のPLスペクトルを示 す.いずれの試料も3.360 eVに最も強い発光のピー クが観測された.このピークは図8の発光ピークと同 様に中性ドナー束縛励起子D0Xによるものと考えて いる.また,D0X の発光ピークの半値幅はN2O無添 加の試料では0.9 meVであるのに対し,N2O添加試 料では0.7 meVと小さくなった.N2O添加試料にお いて特にHe-Cdレーザで励起される結晶膜表面から 1μm以下の層の結晶品質が非常に良好であると推察さ れた.N2O圧力が最も高い条件で作製された試料(D) のSIMS測定データを図17に示す.まず膜中に取り
図 17 試料 (D) (6.0μm) の SIMS 分析結果
Fig. 17 Depth profile of sample (D) by SIMS.
込まれている不純物としては水素及び炭素がそれぞれ 1∼1.5 × 1018 cm−3,1.5∼2× 1018 cm−3検出され た.この取り込まれた水素のうちいくらかがドナーと して働いているものと考えられ,15KのPLスペクト ルで3.360 eVに観測された発光はこの水素ドナー由 来のものであると考えられる.一方,N2O圧力の最も 高かった試料(D)でもN原子の密度は2× 1017cm−3 以下とSIMSの測定限界以下でありドーピングされて いることを確認できなかった.ただ,N2O添加膜にお いて粒径の増大や結晶性の向上が確認されていること から,N2OまたはN2Oから生成された分子やラジカ ルが膜表面でZnOプリカーサのマイグレーションを 促すサーファクタントの役割を果たしているのではな いかと推察される.
4.
む す び
白金ナノ粒子表面での水素と酸素の自己発熱反応を 利用して高エネルギーH2Oを生成し気相中でDMZn と反応させ高エネルギープリカーサを生成,サファ イア基板に供給した.同時に気相中でN2Oガスを添 加し,膜中に窒素の添加を試みた.そして作製した ZnO膜について評価を行った結果,結晶性,配向性 がすぐれ,1時間堆積膜において電子移動度は最大で 189cm2/Vsを示し,低温でのPLスペクトルの半値 幅は1.0meVと非常に小さく電気伝導特性も発光特性 も非常に良好であった.N2Oガスの添加により結晶粒 径が増大しc軸配向性も向上した.p型ZnO膜を得 ることはできなかったものの,N2Oを添加すること で更に電子移動度が向上し,またPLスペクトルの半 値幅が減少した.このことからN2Oを添加すること で結晶中の欠陥が減少し欠陥に由来するドナー濃度が 減少することが示唆された.本CVD法は白金触媒表 面での反応により生成した高エネルギー水分子を用い たものであり,低温でMBEやPLD法に匹敵する高 品位のZnO結晶膜を作製することができる省エネル ギー性に優れたCVD技術である.そのため他の金属 酸化物薄膜への応用についても非常に期待される. 謝辞 本研究の一部は,東京エレクトロン株式会 社 及 び( 独 )日 本 学 術 振 興 会 科 学 研 究 費 基 盤 研 究 (No. 24360014),挑戦的萌芽研究(No. 24656032) の助成を受けて行われた. 文 献[1] B.K. Meyer, H. Alves, D.M. Hofmann, W. Kriegseis, D. Forster, F. Bertram, J. Christein, A. Hoffmann, M. Straßburg, M. Dworzak, U. Haboeck, and A.V. Rodina, “Bound exiton and donor-acceptor pair re-combination in ZnO,” Phy. Stat. Sol. (b), vol.241, pp.231–260, Jan. 2004.
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