Ⅰ.はじめに
中央教育審議会は、教員が備えるべき資質能力として「今後の教員養成・免許制度の在 り方について(答申)」1 )において、指導案の作成や模擬授業・場面指導の実施を促して いくことを求めた。さらに「これからの教員に求められる資質能力として、教科や教職に 関する高度な専門的知識と新たな学びを展開できる実践的指導力」2 )を挙げた。その後、 教職実践演習が導入(2013)されている。このような背景から、教員養成系大学において 保健体育教師を目指す学生の実践的指導力向上のために模擬授業を取り入れた授業が多く 実施されるようになり、その事例紹介や実践報告およびその授業についての学習効果も数 多く見受けられるようになったと思われる。3 , 4 ) しかし、これまでの研究において、その多くは体育学習における模擬授業の報告であ り、保健学習についての報告は、今だ少ないのが現状のように思われる。 高井5 )は、保健模擬授業の効果について「授業を重ねていくにつれ、教師の話す技術 や行動などの授業技術の向上」が見られたことを報告している。また齋藤6 )は保健「模 擬授業後の学生による相互評価により、指導技術など授業を見る観察眼が養われるととも に教師の行動に改善がみられる」との効果があったことを報告した。そのような中、長田 ら7 )は初の保健体育専攻の学生を対象とした研究において、保健学習の模擬授業におけ る省察の結果「授業展開力」に関する記述数の割合が、前半おこなった模擬授業に比べ後 半に減少したこと。また、保健科教育的省察力において「授業構成力」「教材研究力」の 記述が模擬授業後半で記述数が増加したことを報告した。 植田8 )は、保健授業における16項目からなる「学習過程評価票」を開発した。 1 〜 4 は、仲間との協力的な学習、5 〜 8 は、認識と知識・理解、9 〜12は、興味・関心・意欲、 13〜16は、自己学習を問うものだとしている。この評価票は、保健授業をおこなった教師 が自己の授業を分析・評価することを意図して開発しており、教師が授業終了後に、児 童・生徒に調査をおこない「はい」を 3 点、「どちらでもない」を 2 点、「いいえ」を 1 点 として点数化し、16項目の総合得点の平均点を算出し、授業計画の作成や改善、指導と評中等保健体育科教育法Ⅲにおける
保健学習の模擬授業に関する一考察
─教師を目指す学生としての気づきに着目して─
三浦 美知子
価の一体化への手がかりとすると良いとしている。従って、この評価票は①授業の特徴を 明らかにすること。②授業の有効性を明らかにすること。③授業を改善するためのフィー ドバック機能を有していることだとしている。 これらを踏まえ、本学における保健体育教員免許状取得希望者により実施された保健学 習の模擬授業において植田9 ,10)が開発した「学習過程評価票」の調査をおこなった結果、 新たな疑問が浮上した。それは「学習過程評価票」の高得点者と筆者による評価が、必ず しも一致しない場合があるという事実である。 筆者における評価は、平野11)による「見取り」を採用した。「見取り」の見方は「①事 実にもとづく②子どもの内面を見る③子どもに共感し、ありのままの子どもをまるごとと らえる④子どもの全体像を見取る」である。三浦12)は、幼小連携における子どもの連続・ 不連続の問題点において、子どもの観察の仕方を追求した結果、平野の「見取り」の見方 を、「子どもが小学生になっていく連続性に着目」した見方であるとしている。その見る 見方を本授業における受講学生への評価方法として援用した。しかし、評価方法が異なっ ていたとしても評価結果が大きく変わることは考えにくい。 そこで本研究においては、評価方法に違いはあるものの生徒役学生による「学習過程評 価票」調査結果と筆者における評価結果が一致しない場合があることについて、その違い がどこから生じるのかを探るために、模擬授業後に生徒役学生により自由記述された「教 師を目指す学生としての気づき」を詳細に見ていくこととした。見ていく対象は、より違 いが明確になる可能性を探るため「学習過程評価票」獲得点数の上位得点者グループと下 位得点者グループを選出した上で、川喜多13)によるKJ法を用いて検討し、筆者との違い を解釈することとした。
Ⅱ.「中等保健体育科教育法Ⅲ」における授業実践の概要
1 .授業概要 本授業では、生徒一人一人が生涯に渡り健康であることを目指すことができるよう、学 習指導要領を踏まえた上で、思考を促す保健授業展開の方法を身に付けるために、学習材 の作成および学習指導案の作成、模擬授業の実施および振り返りを繰り返しおこなうこと により、中学校・高等学校の授業実践力を身に付けることを目指す。 2 .到達目標 ・学習指導要領を踏まえ保健授業における学習材の作成および学習指導案の作成ができ る。 ・学習指導案に基づいた模擬授業の展開ができる。 ・録画データ・生徒役の振り返りシートなどから、次の授業に向けた改善に取り組み、次 につなげようとする。3 .授業計画(15回の授業計画) ( 1 ) 第 1 回目 オリエンテーション、授業概要、課題選択 先ずは、レクリエーションにより全学生間の心の距離を短くするための活動をおこ なった。その上で、全15回授業の大まかな流れを提示し、模擬授業で担当する課題 (小単元)を仮決定した。 更に「保健体育教師」になりたい理由・その思いの強さ・そのための決意の自由記 述を課している。この自由記述内容は、最終日に15回授業の振り返りや今後の道しる べとして資料提供される。 ( 2 ) 第 2 回目 ワークショップ型模擬授業の体験 本授業の担当教員である筆者が、講義形式ではない全員参加型授業の一例として、 50分模擬授業をおこなうことで今後、学生が模擬授業を計画・実行するにあたっての 一助となることを願うねらいがある。 ( 3 ) 第 3 回目 身に付けたい実践力 指導計画づくり(年間計画、単元計画、 1 単位時間指導計画) 指導計画づくりの方法をPowerPointおよび配布資料などから講義形式での講義を おこなった上で、実際の指導計画づくりに取りかかった。 ( 4 ) 第 4 〜 6 回目 1 回目模擬授業(10分)ビデオカメラ撮影 90分の授業内において毎回 5 〜 6 人が教師役となり、一人10分ずつの模擬授業を展 開する。残りの学生は、生徒役となり模擬授業を受ける。10分の模擬授業が終了する ごとに、生徒役学生は「生徒役からのコメントカード」の記述が課せられる。その カードは、時間内に教師役学生に渡される。教師役学生は、「生徒役からのコメント カード」「録画データ」などを参考に「10分模擬授業振り返りシート」を作成し翌週 提出する。尚、10分模擬授業の学習指導案は指導日当日に提出され、翌週添削をおこ なった上で返却した。返却された指導案は次の模擬授業に反映させることが課せられ る。その後、直ちに20分or30分の模擬授業指導案作成に取りかかる。 ( 5 ) 第 7 回目 1 回目模擬授業の総括、 2 回目模擬授業学習指導案の作成 本授業担当教員である筆者による個々へのフィードバックを全体に向けて「良かっ た点」と「課題」に分けておこなう。次に、 2 回目模擬授業に向けた指導計画の作成 方法および学習指導案記述方法を講義形式でおこなった上、各自が作業に取りかか る。 ( 6 ) 第 8 〜14回目 2 回目模擬授業(20分or30分)ビデオカメラ撮影 90分の授業内において毎回 2 〜 3 人が教師役となり、一人20分 or 30分の模擬授業 を展開する。残りの学生は、生徒役となり模擬授業を受ける。20分 or 30分の模擬授 業が終了するごとに、生徒役学生は「学習過程評価票」および「教師を目指す学生と しての気づき」への記述が課せられる。10分模擬授業同様、時間内に「学習過程評価 票」は教師役に渡される。教師役は「学習過程評価票」「録画データ」などを参考に
「リフレクションシート」を作成し翌々週提出する。提出方法は、wordによる文字入 力の場合は印刷プリント、もしくは手書きプリントとした。尚、20分 or 30分の模擬 授業指導案は、模擬授業日 2 週間前までに提出し、添削を受ける。提出方法は、G メールもしくは手書きによる直接提出とした。この「添削(筆者)→修正(模擬授業 者)→提出」という流れを一人につき 2 〜 3 回繰り返した。模擬授業日当日に修正を 繰り返し加えた学習指導案の印刷プリントを提出する。模擬授業終了後、直ちに、最 終課題である50分授業を想定した学習指導案の作成に取りかかる。提出は、15回目の 最終日にword文字入力の場合は印刷プリント、もしくは手書きプリントとした。 ( 7 )第15回目 全体の総括 授業の振り返りおよび次期学習指導要領改訂のポイントについて講義を予定してい たが大幅に縮小し、学生たちの諸事情により一人の学生による50分模擬授業をおこ なった。
Ⅲ.研究の方法
1 .調査の期間・対象授業・対象学生 2016年度春学期、O大学で開講された「中等保健体育科教育法Ⅲ」を受講した中学校、 高等学校保健体育教諭免許状取得予定の学生16名を対象とした。これらの学生は、入学 2 年次春学期に「中等保健体育科教育法Ⅰ」を、2 年次秋学期に「中等保健体育科教育法Ⅱ」 を受講済みの 3 年次春学期に当たる学生たちである。 2 .調査の方法 2 回目となる20・30分模擬授業において、生徒役学生が模擬授業毎に終了次第、記述し た「学習過程評価票」と「教師を目指す学生としての気づき」を詳細に見取っていった。 手順としては、先ず「学習過程評価票」215枚の集計をおこなった。16項目からなる「学 習過程評価票」は、植田に倣い全て「はい」を 3 点、「どちらでもない」を 2 点、「いいえ」 を 1 点で点数化し、問 1 〜 4 、 5 〜 8 、 9 〜12、13〜16の 4 観点の項目の平均点と16項目 の総合得点の平均点を算出した。 さらに、生徒役学生による「教師を目指す学生としての気づき」において自由記述され た内容について、川喜多のKJ法により分類した。分類の方法は、自由記述された内容を 全て文字入力し、意味のあるまとまりごとのカードを作成した。カードは、同様・類似性 のありそうなものを模造紙上にまとめ小グループ化した。それを貼ったり、はがして移動 させたりを繰り返し、それぞれのグループに表札を付けた。この表札を以下では「上位カ テゴリー」その仲間を「下位カテゴリー」とした。尚、生徒役学生による「教師を目指す 学生としての気づき」の自由記述については、「良かった点」「課題」を概ね同じ位の量を 記述するよう求めた。自由記述された内容は先に得られた「学習過程評価票」における全体の得点が高かった教師役学生と得点の低かった教師役学生間に何らかの違いを見出すた めに、それぞれ高得点グループと低得点グループを作成し比較検討解釈を試みた。
Ⅳ.結果と解釈
1 .生徒役学生から見た「学習過程評価票」評価の結果と解釈 表 1 は、生徒役学生が、模擬授業終了ごとに課せられた「学習過程評価票」である。 表 2 は、その集計結果であり、アルファベットのABCは、教師役一人一人を指してお り、獲得評価の高かった順にアルファベットで示している。 全ての項目における個々への評価は、概ね「はい」( 3 点)を記述する生徒役が多かっ たが、一部に「どちらでもない」」( 2 点)「いいえ」( 1 点)を記述する生徒役が見受けら れた。例えば、問 1 〜 4 「仲間と協力的」項目では、一斉指導である講義形式の授業をお こなった授業について「いいえ」( 1 点)と回答していた。問 5 〜 8 「認識、知識、理解」 表 1 .20・30分保健模擬授業の教授─学習過程評価票(植田1998) (表中のアンダーラインは筆者が加筆した)項目では、対象生徒の立場からではなく、大学生の知識から回答しているように思われ た。これは、模擬授業の対象生徒のレディネス把握ができていないとも解釈できた。問 9 〜12「興味、関心、意欲」でも、大学生レベルでのレディネスによる記述と解釈できる生 徒役が見受けられた。問13〜16「主体的な学習」では、特に問14への「いいえ」「どちら でもない」の記述が多く見受けられた。これは、分からないことが無かったと捉えている のか、判断しかねた。 表 2 で得られた結果により、獲得点数の高かった 4 人を高得点グループ、獲得点数の低 かった 4 人を低得点グループとした。グループ分けしたことにより低得点グループは模擬 授業前半、高得点グループは模擬授業後半におこなっている場合が多いことが判明した。 獲得点数に差が生じたことについて、模擬授業前半の模擬授業者は、保健の模擬授業を ほとんど見たことが無いこと。授業への準備期間が後半と比べて短いこと。初めての経験 による不安や緊張が極度に高いこと。さらに生徒役学生の授業を見る観点や「学習過程評 価票」への記述が不慣れだったこと。加えて筆者が模擬授業の回数が進むにつれて模擬授 業者に課するハードルを上げていったことなどが考えられた。そのようなことを踏まえ 「教師を目指す学生としての気づき」の自由記述について詳細に見ていくこととした。 2 .生徒役学生記述「教師を目指す学生としての気づき」の分類と事実 図 1 〜 2 は、 2 回目模擬授業における生徒役学生による「教師を目指す学生としての気 づき」への記述内容をKJ法により整理分類して示したものである。上記において上位カ テゴリーとして「教師の活動」「授業の内容」「授業計画」に分類できた。 「教師の活動」は、模擬授業中の教師に関わる活動で、発言の内容やフィードバックの 与え方、声の大きさ、接し方、板書の方法や字のキレイさなどである。「授業の内容」は、 学習指導要領の観点別評価である、関心・意欲・態度や知識・理解など授業にどのように 取り組むことができ、どのような力が身に付いたのかなどの記述である。「授業計画」は、 表 2 .20・30分保健模擬授業 学習過程評価票の授業毎の平均と全体の平均
図 1 .学習過程評価表高得点グループの自由記述(全124記述)
授業内容・方法などの授業準備に関わる記述であり授業形態についての記述も含まれる。 それらの記述内容を「肯定的記述内容」と「課題・提案などの記述内容」とに分類した。 ( 1 ) 「教師を目指す学生としての気づき」回収枚数・記述内容数 「学習過程評価票」高得点グループの回収枚数は47枚124記述だった。一方、低得点グ ループは56枚110記述だった。模擬授業欠席者並びに記入漏れなどから集計枚数に差異が 生じたにも関わらず、高得点グループの記述数が低得点グループの記述数を上回った。 ( 2 ) 高得点グループ 1 )高得点グループの「肯定的記述内容」からの事実 「肯定的記述内容」は、124記述中、101記述(81.4%)だった。特に上位カテゴリー「教 師の活動」は54記述(43.5%)と 4 割強を占めた。その下位カテゴリーを見ていくと「声 の大きさ・聞き取りやすさ」15記述(12.1%)と一番多く、続いて「接し方・声かけ」の 良さが12記述(9.7%)「フィードバック」の良さ 8 記述(6.5%)「板書」の工夫 8 記述 (6.5%)「指導技術」の上手さ 7 記述(5.6%)と続く。また、上位カテゴリー「授業計画」 では24記述(19.4%)であり、下位カテゴリーでは、用意周到な「授業準備」が14記述 (11.3%)と多く、続いて、生徒主体で工夫された「授業形態」10記述(8.1%)だった。 さらに上位カテゴリー「授業の内容」では19記述(15.3%)その下位カテゴリーである「関 心・意欲・態度」「知識・理解」がそれぞれ 7 記述(5.6%)「思考・判断」は 5 記述( 4 %) という結果となった。 2 )高得点グループの「課題・提案などの記述内容」からの事実 「課題・提案などの記述内容」は、23記述(18.5%)だった。そのような中で、多い記 述が上位カテゴリー「授業計画」14記述(11.3%)その下位カテゴリー「授業準備」 7 記 述(5.6%)「指導技術」「授業形態」と続く、上位カテゴリー「教師の活動」では 7 記述 (5.6%)下位カテゴリー「話し方」「フィードバック」、上位カテゴリー「授業内容」 2 記 述(1.6%)下位カテゴリーは「展開」のみだった。 3 )高得点グループ総体的な事実と解釈 最も多かったのが、「教師活動」の中でも「声の大きさ・聞き取りやすさ」だった。生 徒役学生は、声が良く通っていることや強弱、強調したい場面で声を張るなどメリハリを つけることで生徒を引き付けていたと捉えているように解釈できた。「フィードバック」 では、例えば「生徒一人一人に正確で丁寧なフィードバックをしていた」などの記述や 「接し方・声かけ」での、机間巡視時に肯定的な声がけをしていた記述内容から、個を意 識した前向きな対応が生徒役の意欲につながっていると考えられた。さらに、同「接し 方・声がけ」の記述では「グループで、意見が出ずに悩んでいる時の丁寧なアドバイス。 これは、教師自身が良く内容を理解していなければできないこと」とあり、これは授業準 備がしっかりなされていたことを裏付ける記述だったと解釈できた。その「授業計画」の 「授業の準備」で生徒役は、図や絵、写真など言葉や文字だけでなく、視覚から訴えるこ とで、より伝わりやすさを感じ「図を使って説明することで理解力が深まった」「絵を用
いたので分かりやすかった」「内容をしっかり調べてあったので信憑性の高い内容で良 かった」など説明方法への工夫が伺える記述となったのであろう。また「授業形態」で は、ペア・グループ学習や全員参加型で思考を揺るがすような手法を用いたことで、授業 を楽しく、しかも「自分の考えをはっきり持った上で、他人の意見を聞くことができたか ら、常に考えることをしながら授業に取り組めた」の記述や「日常に生かすことのできる 知識」の獲得に繋がる記述になったと考えられる。また「授業内容」では「スムーズな流 れ」前時との「つながり」「授業のまとまり」さらに「授業内容のレベルが良かった」な どレディネスの把握の良好さも感じていた。さらに「観点別評価」につながる内容の記述 も 2 割程度見られた。 一方で、少数ながら「フィードバックをあらかじめ考えておくなど準備が必要」や「指 導案?多く見ていた印象」「黒板を見ながらの説明が多かった」「用具の不足」など授業準 備不足を指摘する記述も見られた。さらに「班ごとに発表させる順番を変えてみては」 「ワークシート」の作成の仕方などを提案する記述や「授業形態」の無意味さの記述も見 られた。 以上のように、高得点グループでは「肯定的記述内容」の方が「課題・提案などの記述 内容」の記述を大きく上回っていた。特に「声の大きさ・聞き取りやすさ」「接し方・声 かけ」「フィードバック」など直接生徒と関わりのある「教師の活動」と「授業計画」に 目が向けられていた。さらに記述内容が多義に渡っていることから、模擬授業全体をまん べんなく見て取れたと解釈でき、生徒役学生が模擬授業経験を積み重ねることで、教師の 立場に置き換えて見る見方・観察力が養われていったと解釈できた。 ( 3 )低得点グループ 1 )低得点グループの「肯定的記述内容」からの事実 「肯定的記述内容」は、110記述中、80記述(72.7%)だった。上位カテゴリーの中では「教 師の活動」が39記述(35.4%)と最も多かった。その下位カテゴリーを見ていくと「板書」 (12.7%)「話し方」(7.2%)「接し方」「巡視」「教師の雰囲気」の順に続いた。また、上位 カテゴリー「授業内容」は20記述(18.1%)で、その下位カテゴリーは「関心・意欲・態度」 7.2%)「「思考・判断」「知識・理解」の順に続いた。さらに、上位カテゴリー「授業計画」 は15記述(13.6%)その下位カテゴリーは「授業準備」(2.7%)「教材の工夫」だった。 2 )低得点グループの「課題・提案などの記述内容」からの事実 「課題・提案などの記述内容」は、30記述(27.2%)だった。上位カテゴリー「教師の 活動」は、21記述(19%)で、その下位カテゴリーは「話し方」13.6%「声がけ」「生徒 への配慮」がそれぞれ( 3 %)、次の上位カテゴリーは「授業計画」の 5 記述(4.5%)で、 その下位カテゴリーは「授業準備」(2.7%)「教材の工夫」だった。さらに次の上位カテ ゴリーは「授業の内容」で 4 記述(3.6%)その下位カテゴリーは「知識・理解」「思考・ 判断」「発問」「展開」がそれぞれ 1 記述だった。
3 )低得点グループ総体的な事実と解釈 最も記述数が多かったのは「課題・提案などの記述内容」上位カテゴリー「教師の活動」 の「話し方」15記述だった。例えば「話し方の硬さ」や「教師が使う一人称について」「口 癖」「声のメリハリ」「体育教師なら元気よく」などが課題として挙げられていた。一方で 「肯定的記述内容」の上位カテゴリー「教師の活動」の「板書」14記述で「字がキレイ」「大 きくて見やすかった」や「話し方」の 8 記述「丁寧な話し方で先生らしかった」「聞き取 りやすかった」「説明をしたい時は注目を集めてから」などが多かった。「授業計画」の 「授業準備」11記述「図、写真など」「ワークシート」「様々なカード」「授業内容」などの 準備に時間がかけられていること。さらに「授業内容」の「関心・意欲・態度」では「硬 い内容なのに楽しく授業を受けれたので良かった」「分かりやすく集中できる授業でした」 「日常のことを題材に扱っていたので親しみが持てた」などの記述が見られた。「思考・判 断」では「生徒に考えさせながら授業を進めていたため」「考える作業をする」「生徒自身 に目標設定させることで身近に感じられる授業になっていた」「授業の流れもねらいに 沿っていた」などの肯定的記述も見受けられた。 ( 4 )高得点・低得点グループにおける総体的事実から見えた評価結果の違いの解釈 「学習過程評価票」を記述するにあたって、良かった点と課題を半々ずつ記述するよう 繰り返し伝えていたが、どちらのグループも「肯定的記述内容」が圧倒的に多かった。特 に高得点グループの記述数が顕著だった。低得点者は模擬授業の前半に集中し、高得点者 は後半に集中していたことから、高井(2010)や斎藤(2009)の報告とも一致する結果と 解釈できた。「肯定的記述」において「教師の活動」の中でも「板書」「話し方」は低得点 グループが多く、高得点グループは少なかった。「課題・提案記述」において「教師の活 動」では低得点グループが多く、高得点グループでは、極端に少なかった。これは長田 (2016)の「授業展開力」が後半で減少したこととも一致していると思われ、授業経験を 重ねることでダイレクトに見える外側からの観察から「授業内容」や「授業準備」など内 側からの観察力が養われていったと解釈できた。 しかし観察力の向上が見られたとは言え、授業を見る見方において模擬授業の前後半に 限らず、「授業準備」や「授業内容」についての記述が圧倒的に少ない事実、また「教師 の活動」についての記述が多いとしても例えば「板書」について「字がキレイ」のみなら ず、「板書の目的・内容・方法・出すタイミング」など様々な観点から見ていくことや「見 る基準や規準」についての違い、これが筆者と生徒役の評価結果が必ずしも一致しない結 果につながったと解釈できた。
Ⅴ.まとめと今後の課題
本研究では、保健学習の模擬授業において、生徒役による評価が筆者の評価と一致しな い場合があることについて、その違いを探るために「学習過程評価票」の高得点者と低得点者グループを選出した上で、その模擬授業者の生徒役らによる自由記述を分類・検討 し、筆者との評価結果の違いを解釈した。その解釈は、以下の通りである。 1 .「学習過程評価票」について ( 1 ) 獲得点数で分類すると、概ね低得点グループは模擬授業を前半に、高得点グ ループは後半におこなっていた。 ( 2 ) 全項目において、概ねの生徒役は「はい」( 3 点)と回答していた。 ( 3 ) 問 1 〜 4 の評価が低い場合、授業形態が「講義形式」の一斉指導の場合が多 かった。 ( 4 ) 問 5 〜12の評価を低くする生徒役は、学生のレディネスで回答している場合が 多かった。 ( 5 ) 問14の評価を低くする生徒役が多かった。 2 .生徒役による「教師の立場からの気づき」の記述について ( 1 ) 「肯定的記述内容」と「課題・提案記述内容」を同じ程度記述することを課し ても「肯定的記述内容」が圧倒的に多く、なおかつ高得点グループの記述数が 顕著だった。 ( 2 ) 上位カテゴリーとして「教師の活動」「授業の内容」「授業準備」が挙げられた。 ( 3 ) 高得点グループの「肯定的記述」では「声の大きさ・聞き取りやすさ」「接し 方・声掛け」「フィードバック」など直接生徒と関わりのある「教師の活動」 に 4 割強が挙げられた。「授業計画」「授業内容」へも 2 割前後の目が向けられ ていが「課題・提案」への記述は「授業計画」が最も多いが 1 割程度だった。 ( 4 ) 低得点グループの「肯定的記述」では「板書」が最も多く、次いで「話し方」 「接し方」など直接、見聞きする項目で 3 割 5 分を占めた。「授業の内容」「授 業準備」は 1 割強から 2 割だった。「課題・提案」は「教師の活動」の「話し方」 が 1 割強で最も多かった。 これらのことから、授業経験を重ねることで観察力の向上があったものの、授業を見る 見方「授業準備」や「授業内容」についての記述が圧倒的に少ない事実、また「教師の活 動」についての記述が多いとしても例えば「板書」について「字がキレイ」のみならず、 「板書の目的・内容・方法・出すタイミング」「授業展開と関連性・つながり」など様々な 観点から見ていくことや「見る基準や規準」についての違い、これらが筆者と生徒役の評 価結果が必ずしも一致しない結果につながったと解釈できた。 本研究においては、今回の授業実践における一部からのアプローチに過ぎなかった。今 後は、授業実践の一つ一つを関係性の中で捉えていくことが課題となると考えている。 中央教育審議会(2015)は「これからの学校教育を担う資質能力の向上について」〜学 び合い、高め合う教員育成コミュニティーの構築に向けて〜(答申)」14)において、学習
指導要領改訂の視点から育成すべき資質・能力として 3 つの柱を打ち出した。「何ができ るようになるか」「何を学ぶか」「どのように学ぶか」特に「アクティブラーニングの視点 からの授業改善」に注目したい。今後は、よりプロセスを大切に学生一人一人に寄り添い ながら、保健体育教師への道のりをほんの一部ではあるが、ともに歩んでいけたらと切に 願っている。 参考・引用文献 1 ) 中央教育審議会(2006.7.11.)「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」 2 ) 中央教育審議会(2012.8.28.)「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策につ いて(答申)」 3 ) 日野克博、谷本雄一(2009)「大学の模擬授業並びに教育実習における省察の構造」愛媛大学教 育学部保健体育紀要 6 .pp41−47. 4 ) 木山慶子(2016)「教員養成における模擬授業の学習成果の検討─学生による授業分析を用いた 省察から─」群馬大学教育学部 芸術・技術・体育・生活科学編51.pp83−93. 5 ) 長田光司、友川幸(2016)「保健学習の指導力向上のための模擬授業の効果と課題」〜省察の変 容に着目して〜.学校保健研究58.pp33−38. 6 ) 高井聰美(2010)「保健教育(保健学習)における模擬授業の効果」関西女子短期大学紀要20. pp23−28. 7 ) 齋藤ふくみ(2009)「保健学習の模擬授業におけるピアティーチング効果の検討─相互評価の分 析と発問分析から─」日本養護教諭教育学会誌12( 1 )pp89−96. 8 ) 植田誠治(1998)「小学校保健授業の教授─学習過程評価票の開発─」学校保健研究40.pp75− 81. 9 ) 植田誠治(1998)前掲書 10) 森昭三、和唐正勝編著(1987)「保健の授業づくり入門」大修館書店pp.340−342. 11) 平野朝久(1998)「はじめに子どもありき─教育実践の基本─」学術図書株式会社 12) 三浦美知子(2008)「子どもの学びにおける見取りに関する研究─幼小の連携に着目して─」東 京学芸大学修士論文 13) 川喜多二郎(1986)「KJ法─渾沌をしてから語らしめる」中央公論社 14) 中央教育審議会(2015.12.21.)「これからの学校教育を担う資質能力の向上について」〜学び合 い、高め合う教員育成コミュニティーの構築に向けて〜(答申)」