幼稚園教育実習における指導と学生の学び
― 開始から6年目を迎えて ―
A Instruction of the Practice Training of Kindergarten’s Teacher
A Report of 5 Years since the Beginning of the Course
大條 あこ
OEDA Ako
キーワード: 幼稚園、教育実習、保育者養成 1.はじめに 本学では、乳幼児の健全な発達成長を支える専門職である保育者養成を行なうため、健 康福祉学群保育専修が2006年に開設された。幼稚園教職課程は2008年度に導入され、保育 士資格に加え、第一種幼稚園教諭免許取得が可能となった。そして、2010年11月から教育 実習が開始し、今年で6年目を迎える。 現在、幼稚園教諭免許は、幼稚園だけでなく、認定こども園の就職にも必要となったた め、学生達は、今後、保育所の認定こども園移行への可能性も含め、免許取得の重要性を認 識している。本学の教職課程は必修ではなく任意であるが、定員50名の学生ほぼ全員が登 録し、2回の教育実習を成し遂げ、卒業時、保育士資格と共に幼稚園免許を取得している。 教育実習は、感受性と柔軟性とを十分に兼ね備えた20代の若者にとって大きな体験と なっている。計4週間という短い期間に彼らが人間的に大きく成長する姿を見ると、教育 実習は、資格取得のためだけでなく、彼らの人格形成にも大きく寄与していると感じる。 筆者は教育実習開始時から指導担当教員として、学生指導に携わってきた。初年度の教 育実習は、体制が未熟であったことに加え、教育実習Ⅱの前に東日本大震災が起こり、大 学が休講になったり、学生や実習先の園も震災の影響を受け不安定になるなど、教育環境 として、大変困難が多い実習であった。しかしその後、回を重ねるに従い、徐々に本学の特 徴を生かした指導法が整い、学生達が努力し、力を十分発揮できる実習になってきている と感じる。 本編は、教育実習が開始から今年6年目を迎えるにあたり、これまでの5回の実習を振り 返り、その指導法の特徴を明らかにすることで、今後の課題や、指導の方向性を探るもの である。 2.教育実習の概要 最初に、本学の実習がどのような形で行なわれているか、概要を述べる。 (1)実施時期と期間 本学では2、3年次に保育実習が3回実施され、それに続いて、3、4年次に2回、教育実 習が実施されている。学生達は、2年次の後半から4年次の前半まで、約1年半の間に、5 回実習に行く。各実習の実施時期は下記のとおりである。教育実習は、計4週間の実習を、 教育実習ⅠとⅡに分けて、各2週間ずつ、原則、同じ園で行なっている。
実習の名称 時期 保育実習Ⅰ(保育所) 保育実習Ⅰ(施設) 保育実習Ⅱ(保育所)あるいは保育実習Ⅲ(施設) 教育実習Ⅰ(幼稚園) 教育実習Ⅱ(幼稚園) 2年次2月頃 3年次5月頃 3年次8~ 9月頃 3年次11月頃 4年次6月頃 (2)教育実習の目的 幼稚園教育実習は、幼稚園の文化に触れ、幼児教育を学んだり、保育者として実際に子 どもに関わることで、子ども理解を深め、幼稚園教諭としての保育者の役割を学ぶことが 目的である。また、これまで大学で学んだ理論や技能を、総合的に適用したり、応用したり することで、理論と実践の統一を図り、実践力や応用力を向上させることを目的としてい る。 (3)各実習の内容 教育実習Ⅰでは、主に、幼稚園の生活の流れや幼児の教育活動を具体的に体験し、その 過程において、幼児と関わることで幼児理解を深め、保育者の援助の意図の理解に努める。 学習の形式は、見学実習、観察実習、参加実習が中心となり、一部の学生は部分実習として、 子ども達の前で絵本の読み聞かせをしたり、子どもと一緒にゲームをするなど、一斉活動 を担う。 教育実習Ⅱでは、教育実習Ⅰで学んだ子ども理解や保育者の援助の意図への理解を更に 深めると共に、集団活動における指導技術の向上を目指し、より責任を持った立場で保育 に取り組む。担任に代わって保育を担う場面では、事前に綿密な指導案を立案し、環境の 構成、指導の展開などを考慮しながら行なう。学習の形式は、参加実習、部分実習及び園児 の一日の活動を担う責任実習が中心となる。責任実習の主活動では、製作、ゲーム、うた、 楽器演奏など様々な活動を長時間行なう。 3.本学のシステムにみられる特徴と学生の学びの様子 次に、本学の教育実習のシステムにみられる大きな特徴を5点挙げ、その特徴による学 生の学びの様子について述べる。 (1)特徴1 実習先として、学生が希望する園を申請できる。 本学では、学生自身が実習園として希望する園がある場合、本人の実習への取り組みの 積極的姿勢につながると考え、実習依頼時、候補のひとつとして検討している。学生の希 望の主な理由は、「出身園であるから」「保育内容に興味があるから」「地元での評判が良い
から」「就職を考えているから」などである。 出身園での実習には、いろいろな特徴がみられる。第一に、保育者という職種を選んだ 理由は、本人の幼稚園での原体験を動機とすることが多いため、その場所に戻り、追体験 することは、動機の根拠を客観的にみつめる良い機会となる。そして、自分が小さい頃、受 けていた保育を、保育者として改めて体験することで、そこに様々な保育者の意図や配慮 が隠されていたことを知り、自分の成育歴とのつながりの中で仕事への理解が深まる。ま た、実習生は、その土地で育っていることから、土地の文化や雰囲気を周知しており、幼稚 園の地域の中で担う機能についても実感を持って理解することができる。学生が在園して いた当時の担任がまだ在籍している場合は、担任の多くは本人を記憶しており、園もその 学生の背景を知って、指導することができる。しかし、卒園生としての難しさもあり、学生 がこれらの特徴を生かした、より良い実習をするためには、当然のことながら、学習のた め来ているという強い自覚を持ち、自分を律することが大切であり、卒園生としての慣れ が出ないよう、きちんと大学で指導していく必要がある。 (2)特徴2 計4週間の実習を2回に分けて実施する 本学は計4週間の実習を連続せず、2週間ずつ、2回に分けて行なっているが、そのこと により、学生は教育実習ⅠとⅡの間の期間を、具体的イメージを持ちながら、準備期間と して有効に使うことができている。例えば、ピアノの伴奏において、教育実習Ⅰで実際に 子ども達の前で弾いた学生は、演奏技術だけでなく、子どもに笑顔を向けて弾くなど、保 育的観点から何が足りなかったかに気づき、次の実習まで練習方法を変えて、工夫するこ とができている。日誌の記録において考察が不足していると指摘を受けた学生は、自らの 日誌を見返し、実際の自分の日誌の事例を使って、もう一度、考察を書き直すことで、どの ような視点が足りなかったかを明確につかむべく、学習を深めている。また、一回目の実 習で大きな失敗をした学生は、自分を立て直し、リベンジに向けて取り組む期間があるた め、失敗の経験をそのままにせず、良い結果に変えられるチャンスを与えられている。 2回に分けて実習を行なうことは、大学での指導期間も長期にわたるため、その緊張感 の継続が学生に辛く感じられることもあるようだが、昨今は、2週間の実習であっても病 欠が生じるなど、健康面で課題が多い学生が少なくないため、体力的にも、2週間が実習 に集中できる適切な期間であると思われる。 (3)特徴3 教育実習Ⅰ・Ⅱを、同園で実施する。 教育実習Ⅰ・Ⅱを同園で実施することにより、以下4点の特徴が見られる。 ①教育実習Ⅰでその園の文化をある程度、理解しているため、教育実習Ⅱにおいて戸惑 いが少ない。また、一部の子ども達も実習生を覚えているため、スムーズなスタートをきり、 初日から思い切って、積極的に動くことができる。そして教育実習Ⅱの責任実習で作成す る指導案も、その園の文化や特徴をふまえた、より有効な案を事前に練ることができる。
園側も教育実習Ⅰで既に学生の特徴や傾向を知っているため、指導に安定感がある。 ②園側が、教育実習Ⅱとのつながりを考えながら、責任実習の内容を一部、教育実習Ⅰ に前倒しで取り入れることができ、学生はより丁寧に責任実習の準備を進められる。例え ば、ピアノの初心者にとって、新曲を短期間で弾くことは技術的に大変厳しいが、教育実 習Ⅰでピアノの部分実習を早めに行なうことにより、教育実習Ⅱでの負担をかなり軽減で きる。ピアノの技術に関しては、学生が精神的に追い詰められてしまうことがしばしばあ るため、負担が軽減されることは良い流れであり、結果、最終の技術到達度も高い。 ③教育実習Ⅱでは、学生は教育実習Ⅰで明らかになった自己課題の克服を目指すが、園 もその自己課題を把握しているため、学生の努力に対して適切なフィードバックがなされ る。学生は、自分の過程に対して与えられた評価に、大きな自信を得る様子がみられる。例 えば、教育実習Ⅰでは積極的に動けなかった学生が、教育実習Ⅱでは、初日から思い切っ て動くよう努力し、園から「別人のよう」と驚かれ、高い評価を得たケースもある。学生は、 より自覚を持って自己課題に取り組む傾向がみられ、そのように取り組んだ学生は、教育 実習Ⅱにおいて、良い結果を得ていることが多い。 ④二回の実習で、同じ子どもと出会うため、半年間の発達の違いを肌で感じることがで きる。子どもは半年間でも大きく成長するため、できること、できないことが変わり、言葉 かけや援助の方法も異なってくる。同じ子どもであるが故に、学生はその変化を如実に体 験でき、驚きと共に、生きた知識として発達を印象的に学ぶことができる。 (4)特徴4 保育実習先行型の学びである 本学では、すべての保育実習が終了した後に教育実習が実施される、保育実習先行型の カリキュラムとなっている。そのため、幼稚園の最初のイメージが、保育所との対比によ る影響を受ける。保育実習で福祉施設としての生活を中心とする保育を見てきているため、 その直後に、教育機関である幼稚園の保育を経験すると、その教育的雰囲気に圧倒される。 教育実習後、学生達からはしばしば以下の感想が聞かれる。 ① 降園時間が、保育所よりずっと早いにも関わらず、活動内容が多く、密度が濃い。時間 がとぶように過ぎる。 ② それぞれの活動の始まりや終わりがはっきりしており、メリハリがある。進められるテ ンポも速い。 ③ 活動の意図がより明確に打ち出されており、子ども達への言葉かけもより教育的であ る。 ④ 子ども達が、先生の指示に従って、スムーズに動く。子ども達のケンカがより少ない。 もちろん、これらは、彼らの数少ない保育所と幼稚園体験による狭い経験からの感想で あり、幼稚園、保育所という制度の違いでなく、園の指導法や、保育者や子どもの個性によっ ても決まってくるが、このような傾向は、体験的に筆者にも感じられる。また、筆者が、以 前、幼稚園先行型の実習指導をしていた時は、学生から「保育園は、何をやっているか見え
なくて、困った。子どもが話を聞いてくれず、こちらに注目させるのが難しい。けんかが多 い。」などの、逆の感想を耳にすることもしばしばあった。 では、実際にどのような場面で、学生が上記の違いを感じているのか、いくつか例を述 べる。 ①「保育内容の量の多さと密度の濃さ」の特徴は、日誌を書く際、書く事がたくさんあり 過ぎて、何を選んでよいかわからないという悩みに見られる。そのため何から何まで書こ うとし、寝不足に陥り、日中の活動に差し支えるケースもある。取捨選択しても、全体の記 述量は保育所より多くなり、時間的には最初は保育所の約1,5倍かかることが多い。(保育 所日誌の記述に4時間かかっていた学生は6時間かかる。)そのため、書く事が苦手な学生 には、寝不足に陥らないよう、改善への指導が必要となる。 ②「活動のメリハリや、テンポの速さ」にも学生は驚く。幼稚園では、お帰りの前の短い 時間を利用して、歌、簡単なゲーム、絵本の読み聞かせ、お帰りの支度など、次から次へと 活動がこなされる。これだけの活動を集中して盛り込めるのは、保育所とは異なって保育 時間が短い幼稚園だからこそ可能なカリキュラムであろう。 ③「活動の意図がより明確に打ち出されている」理由としては、様々な活動場面で「なぜ そのような援助をしたか、しばしば理由を聞かれることが挙げられる。例えば、実習生が 自分で準備した保育教材を指導教官に提示すると、教材の是非だけでなく、「なぜこのクラ スの子どものために、それを選んだのか。」理由を問われる。また、日誌においても、保育 者の行動の記述だけでなく、目的や理由も書き加えるよう指示される。それに対して、学 生は返答できず、戸惑うことがしばしばあり、そこで初めて、自分が意図を意識せずに、雰 囲気で保育方法を決めていたことに気づく。そして、保育方法の決定には、発達的理解や 目の前の子どもそのものへの理解、また幅広い教材への知識が不可欠であることを、身を もって知ることになる。 「言葉かけがより教育的である」ということに関しては、保育者が子どもに正解を伝える のではなく、子どもが自ら気づく言葉かけをするよう、指導されるケースが多いことが挙 げられる。その場合、「~しなさい。」「~してはいけない。」という表現を使用せず、「そう すると、どうなっちゃうかな?」「どうしたら、いいかな?」など、いろいろな例を挙げな がら、子ども達が自分で考えて結論を出せるよう、根気強く導かなくてはならない。それ まで、子どもへの助言において、「それをしてはいけないよ。」など、ストレートな表現をし てきた学生は、なかなかその表現法に移行できず、言葉の選択に苦労する様子がみられる。 また言葉遣い自体も、幼稚園は、文章の語尾を「~しよう。」ではなく「~しましょう。」な ど「ですます調」で統一しているところも多く、その場合、日頃使い慣れない言葉遣いに、 学生は戸惑う。 子どもの降園後の時間を利用して、その日の反省や指導案への指導が入念になされ、学 生への指導時間も長い傾向にあることも、より教育的と感じられる理由のひとつである。
④「子ども達が、先生の指示に従って、スムーズに動く。」という点に関しては、絵本の 読み聞かせなど、部分実習の例においてよく聞かれる。「保育所では、本を読み始めても、 子どもがなかなか集中してくれなくて、注目させるのに苦労したけれども、幼稚園では「本 を読みます。」と言い、本を提示しただけで、全員が本に注目してくれた。静かに聞いてく れて、びっくりした。」などの声が、しばしば聞かれる。 また、「けんかが少ない」ということに関しては、物の取り合いの場面でも、子ども自ら 譲り合ったり、じゃんけんをして順番を決めたりするなど、自分達で解決する姿に、驚く ことがしばしばある。 (5)特徴5 実習報告書の作成および実習報告会の開催 実習後の特徴的な学びの活動として、実習報告書の作成と実習報告会の開催の二つが挙 げられる。どちらも、学びの総括として、子どもの具体的事例に触れながら、教育実習Ⅰ・ Ⅱを通して、どのような学びや気づきがあったかや、自分の成長について、また、明らかに なった自己課題についてまとめる。 実習報告書は年度ごとに1冊にまとめられ、次に実習に行く3年生など、下級生にも配布 され、後輩へのワンポイントアドバイスが、最後に付け加えられる。実習報告会は、一人約 5分の持ち時間の中で、下級生、同級生、教員の前で発表し、その後、質疑応答や意見交換 がなされる。また、別途、3年生対象に、実習のアドバイスをする時間も設けられており、 3年生は個別に4年生に質問することができる。発表内容は、一部、実習報告書と重複する が、自分が強調したい部分をより詳細に伝えることが求められる。実際に使用した教材を 持参し、見せながら説明するなど、より臨場感豊かに事例が語られるのが特徴である。 4年生は、この2種類の原稿を作成することにより、改めて自分の実習の意味を問い直す ことができる。1年間という大きな流れの中で、達成できたことを確認したり、失敗した 経験の中にも、大切な意味があったことを理解したりする。このように無意識に行なわれ ていた自分の行動について振り返り、言語化することは、その後の成長に向けての確かな 足がかりとなり、それは後に続く就職活動にも活かされている。 また、実習報告書、実習報告会は、どちらも自分の体験を他人が聞いてもわかるように、 客観的に描写することが要求されるため、文章表現の技術向上にもつながっている。実習 報告会のリハーサルでは、学生同士が、「事例がわかりにくい。」「話す際、語尾が上がって、 聞きづらい。」「原稿ばかり見ている。」など、互いに改善すべき点を指摘しあう。自分の発 表への周りからの反応を知ることで、文章の稚拙さや表現の癖を改善する姿がみられる。 また、他人の発表を聞くことは、視野の広がりにもつながっている。 実習報告書と実習報告会は、実習が直前である3年生にとって、身近に感じられる等身 大の見本となる。実際に先輩達がどのような準備をし、どのような苦労をしたかを知るこ とは、実習への具体的イメージを持つための生きた教材となっている。実習報告書には、 教育実習Ⅱで行なった責任実習に関する記述も多いため、責任実習が近づくと、自分の指
導案作成へのヒントとしても活用している。 4.指導内容と学生の学びの様子 (1)実習へ積極的に取り組む姿勢を育てるための指導 学生達が実習に行くにあたって、最も気になる点のひとつに、彼らが持つ実習そのもの に対する強い恐れの気持ちがある。これは、本学の学生に限ったことではなく、昨今の学 生の傾向として、幼稚園でも話題になることがある。学生達は周りから自分がどう見られ ているかを過度に気にし、緊張のあまり、実習そのものに集中できない様子がしばしば見 受けられる。注意を受けることも苦手なため、園の中には注意する際に、やわらかい表現 で示唆する程度に留めているところもある。 確かに実習生の立ち位置は複雑であり、大変難しい。慣れない環境の中でどのように動 くかを自分で判断し、しかもその行動が評価される。子どもの背景もわからず、関係性も できていない中で、適切な援助を求められる。子どもにとっては先生であるが、職場の先 生にとっては学生であり、園を訪れる保護者にとっては園側の人として振る舞わなくては ならない。これまで学校という同年齢の人間関係が主であった彼らにとって、多様な人間 関係が入り混じる環境は心細く感じられるであろう。 そのような状況の中、指導教官から端的に間違いを指摘されたり、笑顔が自分に向けら れない、褒められないなど、様々なことが、学生には思いの外、堪えてしまうようだ。それ らは、現場の先生にとって無意識の行動であることも多く、現場の忙しさとも関係してい る。授業の中では、様々な事例を紹介しながら、実習生としての立ち位置を客観的に把握 するよう指導するが、それでも学生達は、実習を恐れ、行く前に不安を覚える。 また、学生は、本来、実習で学ぶべき学習内容とは関係ないことで悩んでいることもある。 例えば、「毎朝、お茶を淹れる業務を頼まれたが、自分が淹れる前に、さっさと自分で淹れ てしまう先生がいる。きっと自分のお茶が飲みたくないからだ。」「先生方は打合せのとき、 お菓子を食べて楽しそうにしていたが、近くで作業していた実習生にはお菓子が配られな かった。」など、現場で充分に大切にされていないという印象を持つと、強い孤立感を抱く。 より良い実習を行うためには、学生が勢いを持って実習に飛び込めるかが、ひとつの重 要な側面となる。そのために様々な指導方法を試みたが、その中で特に有効であったと思 われる2点の指導方法について、以下、述べたい。 ① 事前準備において、充分な量の課題を、綿密に仕上げさせる。 実習指導の授業では、完成度が要求される課題を数多く、課している。実際に実習が開 始されると、学生自身は当たり前と思ってやってきたこれらの作業が、現場で好意的に受 け止められることから、現場との親和性の中で、良いスタートをきることができる。この ように、まず最初に、学生にある程度の成功体験をさせることが、実習への勢いを作るた めに、大変有効である。他の養成校と同時期に実習をする場合は、双方がどの程度、準備を
してきたかが、如実に園に見えてしまうため、その点においても、充分な準備をすることは、 学生にとって大きな安心感につながっている。 課題は、ほぼ毎回授業で出され、次の週までに仕上げる形をとっている。そして、少人数 制の特色を活かし、各々の課題の進捗状況を細かくチェックし、不足分があったり、補充 が必要な学生には、個別指導により課題の完成度を高めている。学生は他の授業に比べ、 束縛感や強制感が強いことを感じながらも、チェックの細かい指導により、期間中に何と か課題をこなすことができている。 ② 現場での本質的な目的を思い出させる。 「実習は嫌だけれども、免許を取るために仕方がないから行く。」という消極的な気持ち の学生は、周りからの評価に囚われ、失敗に陥る傾向がより強い。また、学生達は実習が近 づくにつれ、何ができるか、できないかで頭がいっぱいになり、近視眼的になっている。 そのため、実習直前には、「いろいろな準備を重ねたものの、実習の究極の目的は、目の 前の子どもと、いかに豊かな時間を持てるかどうかがポイントである」ことを強調し、本 質を思い出させている。この視点は、学生が多少力を抜き、現場で頑張ろうという発想に 切り替えることを可能にし、失敗に囚われて硬直してしまうことを防ぐことに役立ってい る。 例えば、ピアノを懸命に練習していた学生が、本番でピアノが止まってしまった場合も、 「目の前の子どもと豊かな時間を持つ」ために何をしたら良いか考えることで、パニックに ならず、アカペラで子どもと楽しく歌い続けてみたり、「先生うまく弾けなかったけど、一 生懸命練習して、今度はもっとうまく弾けるようにがんばるね。」と子ども達と会話したり するなど、より柔軟で、保育の観点から見ても適切な解決法を思いつくことができるよう になる。厳しい指導を受けて後ろ向きになりそうな時も、それを自分に言い聞かせ、子ど もへの関わりに集中しようとすることで、気持ちが萎縮することを防ぎ、自分のペースを 保つことができる。技術的なことを教えたり、事前準備を入念に進めることは大切である が、最後には本質的なことを伝え、実習に送り出すことが、学生が生き生きと実習に取り 組める大きなひとつのコツであると考える。 (2)その他の指導 その他、指導において重要と考え、試みている点を以下3点、挙げる。 ① 書く力を育てる。 実習の過程で、学生達に是非つけて欲しい力として「書く力」がある。特に、学生の多くは、 良い学びや気づきを得ていながら、それらを言語化することが苦手であり、残念に思われ る場面がしばしばある。今のところ、そのことが、日誌の記述で最も克服すべき課題となっ ている。考察は、今後、現場に就職してからも、子どもの育ちをみつめるうえで必要とされ る力であるため、園側からも熱心な指導がなされている。 そのため、授業では、子どもの内面や保育者の意図を読み取らせる事例を用いながら、
感想と考察についての違いを理解する演習を行なっている。これは最終的に、教育実習Ⅱ で達成されれば良いと考えるが、これまで、教育実習Ⅱでも、なかなか満足するレベルま で至る学生は多くなかった。そこで、その対策として、昨年から教育実習ⅠからⅡへと段 階的にレベルを上げていく形ではなく、教育実習Ⅰの時点で最終目標を要求し、一気にハー ドルを高く設定した。すると、教育実習Ⅰでは書けないものの、その時の模索の経験が活 かされ、教育実習Ⅱでは、考察を書く事ができるようになってきている。園からの評価も、 子ども理解や日誌記述の項目において、向上が見られる。このように、指導内容は学生の レベルに合わせて徐々に挙げていくのではなく、テーマによっては、学生にとって難解に 思われる課題を、最初からぶつけることも効果的であることを知った。 これ以外にも、日誌では、書く力として要点をつかむ力も求められる。前述したが、書く ことがあり過ぎて、記入に膨大な時間がかかってしまうケースでは、意味を考え、優先度 を決め、取捨選択する力が必要となってくる。それまで思いついたことをすべて書き、何 が重要かをあまり考えてこなかった学生にとっては、自分が保育において何を大切に考え ているかを取捨選択する良い練習となっている。 本学は、書く力をつけるための主なものとして、幼稚園研究レポート、実習課題、実習報 告書、実習報告会発表原稿の作成を行なっている。幼稚園研究レポートは、保育実習先行 型であることから、学生が保育園との比較からではなく、幼稚園そのものを見ることをね らいとし、事前学習として課している。内容は、幼稚園そのものについて基礎的知識を再 確認する学習及び自分の実習園の保育内容から気になるキーワードを見つけ、それを調べ る学習のレポート2種となる。実習課題は、教育実習Ⅰ、教育実習Ⅱそれぞれの、自分の目 標、課題を700字程度にまとめ、園に提示する。実習報告書及び、実習報告会の字数は、そ れぞれ、約2000字、1600字の量となっている。 このように、折々、自分の考えをまとめる機会があることで、徐々に学生は、経験と理論 を結びつけることができるようになってくる。そして、保育について語る際、「保育はこう あるべき」という固定的な表現から、自分の体験を織り交ぜながらの広がりと柔軟性をもっ た表現へと移行する。このことは5回の実習体験を重ね、保育に関して多様な視点を身に つけた賜物といえるだろう。 ② 社会人としての振る舞いを意識させる。 実習には、社会人になるための人格形成としての学びも多く含まれる。現場では、学生 には、社会人としての振る舞いが求められるため、保育に関する知識の獲得だけでなく、 外部との関係性の中で、大人としてどのように動くべきか、判断する力が求められる。 そのため、授業では、「より良い後進を育てたい」という現場の思いも伝えながら、実習 生に望まれる態度や、実習生がどのような位置にあるかなど、現場からの視点も伝えてい る。 教育実習Ⅱでは、Ⅰに比べ、こなさなくてはいけない課題の数も膨大になるため、学生 はその量に圧倒されるが、それは「来年、実習生が社会に出ても、実際に担任が務まるよう
に」という現場からの強い思いがあるからこその熱心な指導であることを伝え、学生の前 向きな取り組みを促している。また、四年制の場合、短大生と1~ 2歳差があるため、短大 に対して、より年上としての振る舞いも期待される。例えば、実習生全員で協力して何か の作業をする時は、束ねる役を引き受ける役割が期待される。実際、短大生より落ち着い ていると、園から評されることも多い。 学生と保護者との関わりも、学生が、社会の中でのこの仕事の意義を感じる良い機会と なっている。例えば、保護者から、「子どもが帰ってくると、いつも嬉しそうに実習生の話 をしている。」などの報告を受けると、自分の存在意義を感じ、ここでの自分と子どもとの 出会いそのものが、子どもにとって意味があることを実感するきっかけとなる。 教育実習Ⅰでなんらかの課題で大きく躓いた場合、その学生に社会人としての視点を持 たせることは、学びの上で大変大きい。その際、挫折の体験が、その後、むしろ本人の社会 への適応能力になるような指導をこころがけている。躓きは、社会に出たら珍しくないこ とであっても、学生本人にとっては、今までの人生で経験したことがない挫折として、深 刻に受け止められがちである。そのため、丁寧に個人面談を重ね、チャレンジすることの 意味や、失敗しながら学んでいく大切さも伝え、再度、気持ちを切り替え、勇気をもって教 育実習Ⅱに取り組めるよう指導している。多くの学生が、実習の失敗を学びのチャンスに 変え、コモンセンスや社会への適応能力を身につけて、逞しくなっていくことができてい る。 ③ 学生同士の共有の時間を効果的に取り入れる。 授業形式は講義形式が主であるが、内容によっては、互いに準備した学習内容を共有し 合うことを大切にし、折々取り入れている。例えば、個々で作り上げてきた指導案や教材 などは、共有することで、アイデアの引き出しが増えるだけでなく、互いに刺激を受け、「自 分もがんばろう」という心理的効果が強く生じる。自分が実際に手を動かして取り組んだ 課題であればあるほど、共有の際に充実感も伴うため、学生自身の満足度も高く、次の課 題への主体的な取り組み姿勢への誘引となる。授業は厳しく、ハイペースで進むため、共 有の時間を設け、学生間に「みんなで一緒にがんばっている」という雰囲気を作り上げる ことが、授業内容の均一なレベルを保つためにも必要である。 また、実習直後に、率直に互いの経験を語り合う時間も大切にしている。これは、お互い の実習の共通点や相違点を知ることで、自分の実習を客観的に見直すための大切な作業と なっている。この学び合いにより、学生個人の否定的な感情も、より速やかに消化される 傾向がある。 6.今後に向けて 既に述べたように、この5年間に指導方法もある程度、形になり、学生達は実習で実力を 発揮し、一定の成果をあげることができるようになってきた。多くの学生は、実習を終え
ると、二週間という短い期間にも関わらず、顔が引き締まり、より保育者らしい表情になっ て、大学へ戻ってくる。これは、全力で取り組み、やり抜いた達成感の証であろう。 しかし、今後、学生達が、より力強い総合力をつけていくためには、学習方法において、 更なる改善が必要と考える。特に学生達は、準備段階において情報を与えてもらうことに 慣れ、自ら遂行する力が弱いことが、目下の課題である。 例えば、多くの学生が、具体的な行動につなげるまでのプロットを作り上げることが苦 手であり、授業でも、課題提示の際、おおまかな流れを示しながら必要性を説き、その後、 各々で準備を進めるように指示しても、焦る気持ちはありながら、方法がわからず取りか かれないことが多い。一方、具体的な方法を本人達がイメージできるところまで、こちら で入念に枠組みを作り、方法を示せば、素直さを持つ彼らは、一生懸命、課題に取り組むこ とができる。しかし、このようなお膳立てあっての遂行力は、真の力ではないため、今後、 社会で活躍していくためには、その「お膳」自体を、学生が自分で作り上げていける取り組 みに変えていかなくてはいけないと感じる。 現在は、残念ながら後者の指導方法であり、厳しい枠組みと、密できめ細かい事前指導 の組み合わせから指導が成り立っており、むしろ、教員側が入念なお膳立てをしていると いえるだろう。これは、実習中の積極性を引き出すために、まずは、充分に準備させること を優先しているからである。学生はこの指導方法に負担を感じながらも、その後、恐る恐 る実習に行くと、現場からの肯定的なフィードバックにより弾みをつけ、思い切って、前 へ一歩踏み出す勇気を得ることができている。現在、その達成感が更なるチャレンジ精神 を導き、教育実習ⅠからⅡにかけて、良い展開を作り出せているため、この展開への流れ を崩さずに、どのようにしたら学生自身がお膳立ての部分も担えるかが、今後の指導にお ける課題となる。学ぶプロセスも自ら構築できる、目的達成に向けて創造的遂行力を持つ 学生を育てていきたい。 また、近年、現場からの四年制大学への期待や、社会からの保育者への期待も大きくなっ てきている。その期待に対しても、養成校は応えていけるよう、努力しなくてはいけない。 筆者は、今後、更に求められる力として①コモンセンスのある行動ができる力②自分で判 断し、主体的に動くことができる力③保育の目に見える部分だけでなく、その奥にある本 質的意味を捉え、言語化できる力の3つを挙げたい。現在、学生達がこれらの力を、卒業時 に充分に身につけているとは言い難いため、他の養成校との差別化も意識しながら、今後、 向上を目指していく。 実習における学生達の成長にはめざましいものがあり、学生達は様々な人間力とも呼べ る力を身につけることができる。大学の教室での学びとは異なるその学習機会を十分に生 かしていくことが、保育専修における4年間の学びを振り返った際、ひとつの大きな魅力 となると考える。現在、保育専修は、少人数制であるため、学生一人ひとりの気質を丁寧に 見ながら、手塩にかけて育てることが、可能となっている。『どんな時も子ども達の一番の
味方である』という視点を失わない保育者を養成するためにも、まず学生自身が、丁寧な 指導により、自分自身が大切にされていると感じることが、重要な教育の要素であると考 えるため、今後もそのことを強く認識し、有効な指導方法を模索していきたい。