平成
26年
度
学位論文
就労場面における
HFPDD者
の主観的報酬知覚に関す る調査研究
∼尺度作成か ら定型発達者 との比較まで∼
兵庫教育大学大学院修士課程 学 校 教 育 研 究 科 人間発達教育専攻 臨床心理学 コースMl107 7F
陶貴 行
次
I.序
論・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 。11.は
じめに 。・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 。12.高
機能広汎性発達障害について 。・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・43.う
つ病 について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54.う
つ病への行動活性化療法による介入 。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65.行
動活性化療法 のアセ スメン トと Environmental Reward Observation Scale・ ・・・86.発
達障害お よび うつ病への職業 リハ ビリテー シ ョンに よる支援・・・・ ・・・・・ ・107.本
研 究の 目的・・ ・・・ ・・・・ ・・ ・・ ・・・ ・・・・・・ ・・・・ ・・・・・ 。12H.研
究1・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・ ・・・ ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ 。151.方
法・ ・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・ ・・・・・・・ ・・・・ ・・ ・・・・ ・・151)目
的2)予
備調査3)調
査対象4)調
査 内容5)調
査期間お よび調査手続 き6)分
析2.結
果 ・・ ・・ ・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・・・・・・・181)就
労版 Environmental Reward Observation Scaleの 因子構 造の検討2)就
労版 Environmental Reward Observation Scaleの 信頼性 の検討3)就
労版 Environmental Reward Observation Scaleの 構成概念妥 当性 の検討3.考
察・ ・・・・ ・・ ・・・ ・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・・211)就
労版EROSの
作成 と因子分析 の結果 につ いて2)尺
度 の信頼性 と項 目の検討 について3)各
項 目の因子負荷量 について4)就
労版EROSの
構成概念妥 当性 の検討 について5)就
労版EROSの
有用性 についてIH.研
究2・ ・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・251.方
法 。・ ・・・ ・ ・・・ ・ ・ ・・ ・・ ・・ ・ ・ ・・・ ・ ・・・ ・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・251)目
的2)調
査対象3)調
査 内容4)調
査期間お よび調査手続 き5)分
析2.結
果・ ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・・・・ ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・251)HFPDD者
と一般就労者の就労版 Environmental Reward Observation Scaleの 得点分布2)HFPDD者
と一般就労者の就労版 Environmental Reward Observation Scaleの 比較3)就
労状況 と勤務条件,満
足度お よび抑 うつが就労版En宙ronmental Reward Observation Scaleに 与える影響 の検討3.考
察・ ・・・・・・・ ・・・ ・・・・・・・ ・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・ 。331)就
労版 EROSと CES Dの 得点分布 について2)HFPDD者
と一般就労者 の就労版 EROSの 比較 について3)就
労状況 と勤務条件,満
足度,お
よび抑 うつが就労版 EROSに 与える影響について4)研
究2の課題 と今後の展望IV.総
合考察・ ・・ ・・・・・・ ・・ ・・・・ ・・ ・・・ ・・ ・・ ・・・・・・・・・・・・・・371.HFPDD者
の職場 における障害特性 と抑 うつ との関連2.HFPDD者
の職場での主観的報酬知覚について3.職
場 での主観的報酬知覚 と就労状況,勤
務 条件,満
足度お よび抑 うつの関連 につい て4.本
研 究の限界 と課題点V.引
用文献・・・ ・・・ ・・・・ ・・・・・・・ ・・・ ・・ ・・ ・・・・・・・・ ・・・・・ ・42VI.付
録 ・・ ・・ ・・ ・・・・ ・ ・・ ・ ・・ ・・ ・・・ ・ ・・ ・・・ ・・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・ 。47I.序
論 は じめに 2004年の発達障害者支援法の制定によ り,保健 医療,福祉,教
育,職
業等 に関係す る施策, 関係行政部局,支
援機 関・施設等が有機 的な連携 を測 り,発
達障害のある者への支援が推進 され てお り,障
害者 の就労支援 において も注 目が高 まつている.発
達障害は一見 してわか り に くい障害であ り,環
境への適応能力 に困難 さが伴 うに もかかわ らず,通
常の学級や職場 に おいては他 の多 くの定型発達者たち と同等の適応能力 を求め られ ることが多い。そのため, 学習 面や行動面,対
人関係 において様 々な適応 困難 な状態 を示す場合 が多 く,本
来の障害特 性 を背景 とした学習面,行
動面,対
人 関係 にお ける様 々な失敗経験 の積み重 な りや発達障害 の特性 に配慮 を しない不適切 な対応 の繰 り返 しな どによ り,精
神的ス トレスや不安感 の増大, 自信や意欲 の喪失,自
己評価や 自尊感情の低下 を生 じさせ, さらなる適応 困難 を招いて しま う (笹森 。伊藤 。廣瀬 。梅 田 。大城・植木 田・ 渥美 ら,2012).さ
らには,そ
の よ うな適応 困 難 か ら二次的 な障害 として,外
在化障害や 内在化障害 を生 じることが問題 となつている。外 在化障害 とは,極
端 な反抗,暴
力,家
出,反
社会的犯罪行為な ど行動上 の問題 が生 じるこ と で,そ
の ことが繰 り返 され ると,反
抗挑戦性障害,行
為障害へ と発展 してい くことが指摘 さ れ てい る。内在化障害 とは,不
安,気
分の落 ち込み,強
迫症状,対
人恐怖,引
きこも り等 の 状態 を示 し,情
緒的問題 として 自己の内的な苦痛 を生 じる.そ
の結果,分
離不安障害,社
会 不安障害,気
分障害,強
迫性障害等 といった精神疾患 の診 断へ と至 るこ とが少 な くない (笹 森 ら,2012).ま
た,上
記の よ うな内在化障害 と外在化障害はきれいに分かれ て生 じてい る と い うよ りは,混
在す ることが指摘 できる。長尾(20H)は
気分障害 と発達障害 との併存障害 の考 え方 において,発
達障害 において,
うつ と反抗挑戦性 障害,行
為障害の併存が21∼83%
に見 られ るとしている。 このよ うに発達障害を取 り巻 く問題 としては,そ
の一次的な障害特 性 のみ な らず,二
次的 に生 じる,あ
るいは併存す る障害が問題 となつている.障害者雇用 にお ける高機能広汎性発達障害 (High Functioning Pervasive Developmental
Disorder:HFPDD)者
を取 り巻 く問題 のひ とつに,二
次障害 による離転職 の繰 り返 しが多 く存 在す るこ とがあげ られ る。発達障害者支援法では,早
期発 見 。早期診断 。早期対応 を重視 し てお り,発
達障害は当事者 が気づ きや 自覚 を持 ちに くい障害であることが示唆 され てい る. 望月 (2009)による と,受
障時期 が低年齢 であ る発達障害 と中途障害で ある高次脳機能 障害 を対比 した とき,後
者 にあるよ うな 「受障前にできた こ とができな くな る」 といつた中途障 害 固有 の障害の 自覚や認識 は前者 には生 じない ため,HFPDD者において職業上の問題 を抱 えな が らも障害 を障害 として認識 していないケースに対 しては,ま
ず 自己理解 の促進 を行い,同
時 に障害特性 に応 じた障害者雇用や福祉 にかか る支援 を選択す るとい うことが,支
援 の課題 となる と してい る。発達障害者 の就労支援 の課題 に関す る研究 (望月,2009)で
は,「発達 障 害 のある青年 。成人 に関す る就業・生活実態調査」 と してア ンケー ト調査 を実施 してお り, その中で,就
業へ の移行 に関 して次の ことを示 してい る.①
常勤の職 に就 く者や福祉施設通 所者 お よび入所者 においては卒業後 の進路 が現在 の状況 と関連 が深 く,一
方 で短時間労働者 や在 宅者 は卒業時 の進路 を継続 してい る者 が少 な く,進
路変更が起 こつてい る。② 一般扱 いでの就労者はその就労継続 において
,通
常教育 の進路指導だけでは円滑な移行 が難 しい状況 にあ り,特
別支援学校 の紹介 に よる障害者雇用 での就職者 と一般扱 いでの就職者 を比較す る と,前
者 の方 が継続 してい る事例が多い.③
作業所や授産施設 (現在 の就労継続B型
施設) 通所者 を大き く分類す ると,学
校卒業時か ら継 続 して利用 してい る者 と様 々な進路先での失 敗 を背景 に現在 に至 る者 とがあ り,い
ずれ も施設 を経 由 した就職 は少 な く,ま
た将来設計の 支援 において,後者 については二次障害の併発等 も考慮す る必要がある。④現在 の状況が「在 宅」 となっている者 の学校卒業後の進路 として,大
学,短
大,専
門学校 な どの進学 と就職並 び に職業訓練,在
宅 な どがあ り,学
校卒業時点の全 ての進路先 か ら「在宅」が示 され ていた. この よ うに,在
学 中か ら障害への気 づ きを促す よ うな支援 の有無に よつて,初
職 の継続や進 路先 での失敗 と在宅の状態へ戻 るとい うことが左右 され ることが指摘できる.こ
の よ うな状 況 に対 し,望
月 (2009)は,学
校卒業時点で一般扱 いの就職 に こだわった結果,離
転職 を繰 り返す 中で, 自己効力感 の低下や不適応状態,抑
うつ症状 を示す ことによって障害特性 に気 づ くとい う状況に注意が必要で,そ
の背景 に発達障害による影響が強い場合 には,障
害特性 に即 した支援 を選択す ることが,問
題 の改善に必要であると指摘 している. 厚生労働省 が3年
ごとに全国の医療施設 に対 して行 つている 「患者調査」によると,平
成8年
には 87.5万 人だつた うつ病 と気分障害の推 計患者数の総数 は,平
成23年には 173.7万 人 と 15年 間で約2倍
に増加 している (厚生労働 省大臣官房統計情報部,2011).「 患者調査」 は,医
療機 関にかかってい る患者数 の統計デー タであるが,
うつ病患者 の医療機 関への受診 率は低 い ことがわかってお り,厚
生労働省 は,実
際 には これ よ り多 くの うつ病患者 がい るこ とを推測 している.一般精神科外来 を受診す る患者 のなかに,発達障害 の特性 を持 つてい る者 が比較的多い と報告 されてお り (吉田・ 吉 田 。内山,2003),た
とえば,統
合失調症や気分 障害,パ
ー ソナ リテ ィ障害な どによつてメンタルヘルスサー ビスを利用 している患者のなか で,3.4%が
自閉症 スペ ク トラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)も
併存 してい る と診断 され,ま
た彼 らを含 め7.8%に
ASDの存在 が疑われてい る (Fraser R,Cooton S,Gentle E,Angus B,2012).つ
ま り,人
口の1∼2%と
され る有病率に対 し,一
般精神科受診 してい るASDの特性 を持つ者 は高い割合 で存在 す る とみ られ てい る (宇野・尾崎,2012).
また国内の横断調査で も,知
的障害 を伴わない高機能の広汎性発達障害 (PervasiveDevelopmental Disorder:PDD)者
のH%に
大 うつ病性障害や気分変調性障害な どの う つ病性障害を認 める と報告 されてお り, さらに年齢 が重なるに連れて,ア
スペルガー障害で あ ることが,よ
りうつ病の頻度 を高めると考え られ ている (並木・杉 山 。明翫,2006).縦
断 調査 では、幼児期 に PDDと 診断 された者 を成人期 (平均40歳)ま
で追跡 した結果,自閉症群 お よび一般人 口群 では3%前
後が うつ病 の診断 で精神科 の治療 を受 けていたのに対 し,ア
ス ペルガー障害や特定不能のPDD群ではH%に
及 ぶ と報告 されてい る (Mouridsen SE,Rich B, Isager T, Nedergaard N」 , 2008) . この よ うに,ASDや
HFPDDな どの発達障害のなかで,早
期 に適切 な診断や治療 的教育 を 受 けることな く成人 し,社
会 に出てか ら不適応 を繰 り返 して,
うつ病 な どの二次障害 を呈 してい る者 は少な くない.HFPDD者
は, うつ病や 不安障害 の生物学的脆弱性 を抱 えてい ることが これ までの研究で明 らかにされてい るが
,そ
の障害特性 ゆえに環境負荷の高い生活 を送 るこ とが指摘 でき,心
理社会的要因による うつ病や不安障害への影響 もあると考え ら れ る (遠藤 。染矢,2012)。 また,発
達障害お よび併存症 としての うつ病や不安障害 には, 障害特性 や症状 に対 して よ り適切 な支援が必要 で,そ
のために社会全体による包括的な支 援体制 が求め られ てい る。しか しなが ら,HFPDDな
どの発達障害についての認識 は,小
中学 校 の現場や大人 になつた就 労支援の現場 な どでは非常に高まつてきているものの,高
校 に 入学 した途端 にこの よ うな支援 はほぼな くな り,地
域 の社会資源 の役割 も自治体 によつて ば らつ きが生 じてい る (遠藤・染矢,2012).知
能の高い発達障害者 で大学へ進学す る者 も あるが,個
々人に応 じた特別な配慮 は更に乏 しくなつてお り,一
部 の大学を除いて,長
期 的で一貫 した支援 を受 ける体制が整 ってい るとは言 えない状況にある。また,発達障害 につ いて診断 を受 けるタイ ミングが児童期,思
春期 。青年期 とは限 らず,診
断のない中でそ の 障害特性 にあった療育や社会的配慮 を得 られず に,社
会的な場面 において困難 さを抱 くこ とで二次的に うつ病や不安障害の リスクを抱えることが指摘できる。 障害者 の就労支援 において も,近
年発達障害者への就労支援 の件数 は増加傾 向にあ り, 成人のHFPDD者の うち二次障害 として,気
分障害,不
安障害 な どのネガテ ィブ情動性 にか か る診断がついている者は少 な くない.そ
のため,HFPDD者
に対す る就労支援 において, HFPDDの 障害特性 に対す る合理的配慮だけではな く,
うつ病や不安障害な どの障害特性 も 合 わせ て対応 してい く必要性 がある。 しか しなが ら,職
業 リハ ビ リテー シ ョンにおいて, HFPDDの 障害特性その ものへの支援方法は体系化 されてい る一方,二
次障害 としての気分 障害や不安障害 も含 めた総合的な支援方法 についての体系化はまだな されていない。 発達障害者の就労支援 の状況 としては様 々なサー ビスが展開 されてお り,就
労 に向けた トレーニ ングか ら復職 に関す るプログラム,職
場での直接的な介入支援 があ り,発
達障害 を専門に支援 をす ることでサー ビスの差別化 を行 つている事業所 もある。また,ハ ロー ワー クの障害者 の職業紹介実績 において も,発
達障害のある者,も
しくは併存障害 として精神 障害のあ る者 が分類 されているであろ う,「
そ の他 の障害者」お よび 「精神障害者」のそ れ ぞれ のカテ ゴ リー ご との就職件数は、年々増加 の一途 をた どつてい る。この よ うに,義
務 教育終 了後 にそれ ぞれ の経緯 を経て,就
労支援 を受 ける選択 をす る発達障害者 は年 々増加 してお り,そ
れ は同時 に併存障害のある発達障害者への支援 も増加 していることを意味 し ている。そのため,就
労支援 において,発
達障害 の特性 のみ を支援す るのではな く,実
際 に は,併
存す る うつ病や不安障害 に対す るケア も求 め られている と言 える。 しか しなが ら, 一次的な発達障害固有の障害特性への配慮や環境調整 を行 うことで,ス
トレス負荷 を軽減 す るこ とはで きて も,そ
れ だけでは併存 してい る抑 うつや不安 な どのそれぞれ の症状 に十 分 な対応 とな らない ことが指摘 できる。 うつ病治療 においては薬物療法が 中心であるが,薬
物療法だけでは寛解 にいた らない症 例 の存在 も問題 となってお り,ま
た抑 うつ症状 の持続 によつて,社
会的孤立や孤独感,対
人 関係 上の問題 を引き起 こす ことで さらなる症状の悪化につなが ることが指摘でき,薬
物 療法 に加 えて心理療法 を行 うこ とで,症
状 の改善や再発予防効果がある と多 く報告 され てい る。この うち
,認
知行動療 法 (cognitive behavioral therapy:CBT)は 心理教育,セ
ル フモニ タ リング,行
動活性化,認
知再構成 とい つた技法 を用い, うつ病エ ピソー ドヘの治 療的介入や慢性期への治療的介入 と再発予防に有効であることが実証的研究によつて明 ら かになっている (American Psychiatric Association,2000).近年,医
療機 関な どでは 集団での CBTも 実施 され てお り,個
人 CBTと 同等 の効果 があることが報告 され,抑
うつ症 状 の改善 のみな らず,社
会的機能 の改善に も効果 がある との結果が示 されてい る (松永・ 鈴木・岡本・ 吉村 。国里 。神人・吉野 。西 山・ 山脇,2012).HFPDD者
において も抑 うつ 症状や社会的機能の改善を 目的 とした介入 は必要だ と考え られ るが,HFPDD者
が持つ社会 性 の障害,コ
ミュニケー シ ョン障害,想
像力の障害お よびそれ に伴 う行動の障害があるこ とを考慮す ると,心
理教育,セ
ル フモニ タ リング,行
動活性化,認
知再構成 といつた CBT の各技法 において,そ
れ らの障害特性 に合わせ た工夫が必要であると考 えられ る。あるい は,個
人 の特性 のあ り方 に よっては,効
果 を得 に くい技法 もあるか も しれ ない. 一方,職
業 リハ ビ リテー シ ョンでは,個
人因子 と環境 因子それ ぞれ に対す る介入がある。 前者 としては職業準備性の向上,コ
ミュニケー シ ョン能力 の向上,ビ
ジネスマナーな どの ビ ジネススキル付与,障害特性 への 自己理解促進や ジ ョブマ ッチ ングに関す る介入お よび助言, 職業選択 にかか る職業指導 な どがあ り,後
者 には勤務時間な どの勤務条件 の調整,職
場 での 直接的な介入 によるジ ョブ コーチ支援,で
きる仕事 に配置す るための業務の切 り出 しや職務 の再配置,就
職 した企業 に対す る理解促進 のた めの社 内啓発や研修 の実施,生
活支援 にかか る関係機 関や家族 との連携,医
療 との連携体制 の構築な どがある。 これ らは HFPDD者 の就労 お よび職場への定着 に対 して一定の効果 をあげている。 以上の よ うに,HFPDDに
併存す る抑 うつや不安 な どに対 して,CBTに
よる専門的な介入 に よ って,症
状の緩和や改善が期待 で き,そ
れ とともに職 業 リハ ビリテー シ ョンによる介入 の結 果,就
労継続 に必要な個人へ のスキル付与や環境調整 がな され ることに よつて,環
境 か らの ス トレス負荷 を下げることが期待で きる.し
か しなが ら,HFPDDそ
の ものの障害特性 を把握 し,そ
の個人の もつ生活上の文脈 をひ もといて,抑
うつや不安 といつた症状 に介入 してい く ことは容易ではない。特に うつ病 においては,抑
うつ とア ンヘ ドニア (興味または喜び の喪 失)と
いった二大症状があ り,こ
の うち抑 うつ症状だけにアプ ローチす るだけで,ア
ンヘ ド ニアが機能 している状態では予後が改善 しにくい ことも考 えられ る.特
に就労支援 において は,働
くとい うことはそ もそ も楽 しい ことばか りではな く,興
味 。喜び を維持 した り,高
め た りす ることが難 しい場合 もある。 高機能広汎性発達障害 について 高機能広汎性発達障害 とは,知
的障害 を伴わ ない広汎性発達障害の ことで,そ
の主な特徴 と して,①
社会性 の障害,②
コ ミュニケー シ ョンの障害,③
想像力の障害が挙げ られ る.DSM
Vで
は,自 開症 スペ ク トラム障害 としてま とめ られ ている.HFPDD者はその障害特性 に よつて 社会的場 面での適応的 な行動 の選択 が困難 とな ることが課題 となつてい る. 対象 。年齢 。方法 な どの違 いか ら報告 は様 々であるが,6∼
20歳の場合 、29%に
大 うつ病性障害
,8%に
双極性障害 を認 めた もの(Mukaddes and Fateh,2010),16∼ 60歳 の場合,53%に
気分障害 の併存,34%に
抗 うつ薬での治療歴 が ある とい うもの (Hofvander B,Delorme R,Chaste P, NydOn A, Wentz E, Stahlberg O, Herbrecht E, Stopin A, Anckarsater H, Gillberg
C,Rastam M,Leboyer M,2009)が
ある.生
物学的背景 としては,PDD者
では抑 うつや不安 の 調整 に関与す るセ ロ トニン神経系の異常が示唆 され てお り,血
小板 中のセ ロ トニ ン濃度 の上 昇や脳 内セ ロ トニ ン・ トランスポー ターの減少 な どにおいて,定
型発達者 とPDD者で生物学 的な差異が報告 されている (遠藤・ 染矢,2007)。 また,自
閉症児の親の40%,第
一親等の38%が
大 うつ病性障害 を発症す ることが報告 されているが,こ
の うち64%は
自閉症児の出生 前 よ り大 うつ病 を発症 してい ることか ら自閉症児 を抱 えた ことによる心理的要因のみでは説 明がつ かず ,遺伝的素因 も強 く影響す る と想定 されている(Smalley SL,McCracken」 ,TanguayP,1995)。 また心理社会的要因 としては
,こ
ころの理論 (他者 の心理状態 を推測す る力)獲
得後 に, 自己 と他者の違 いに気づ くよ うになるが,生
来の共感性 の乏 しさ,客
観的視点 の乏 しさか ら否定的な 自動思考 を認 めることが多い (遠藤 。染矢,2012)こ
とが指摘 されている。 この よ うに、生物学的,遺
伝的,心
理社会的な様 々な背景か ら,PDD者
に抑 うつ症状が併存 し やす い こ とが推察 され る. また,二
次障害 としての精神 障害の診断であつて も,そ
の基準は定型発達 を基本 とした も のであ り,発
達障害でそのまま適用す ると判断が困難 な場合 も少な くない。 したがつて,発
達障害者 を対象 として併存疾患を診断・評価す る際には,①
発達障害 と併存疾患の症状の重 な りや類似性,②
発達障害の特性による症状のマスク,③
言語的コミュニケーシ ョンによる 表出の問題、④言語的 コミュニケーシ ョンによる理解の問題,⑤
自己の状態に関するセルフ モニタ リングの問題がある (日本 うつ病学会治療ガイ ドライン,2013;p.12)こ とが指摘でき る.こ
の うち,自
記式質問紙においては,言
語的コミュニケーションによる理解の問題, 自 己の状態に関するセル フモニタリングの問題が大きく関与すると考えられ,場
面を想像 しや す くした り,抽
象的な表現をより具体化す る工夫が必要であると考えられる. なお,カ ウンセ リングにおいても,PDDの
認知特性や コミュニケーションの特性に酉己慮す る 必要がある.伝
統的な精神療法の手法にあるよ うな内省や洞察を求める方法はASD者のカ ウ ンセ リングには用いないことが無難であ り (宇野・尾崎,2012),Marcus(2005)は
そのよ う なカ ウンセ リングとの相違点 として,①
単刀直入にASD特性を取 り上げて話をすること,②
自己開示す ることも多 く,伝
統的なカ ウンセ リングで強調 されているような治療者 と被治療 者 としての立場を明確にした関係が曖味にな り得 ること,③
指示的アプローチであること, ④視覚的なツールを用いること,⑤
来談者 との生活を共にする第二者 との連携 を図る必要性 が高いことを上げている.こ
れはCBTにおける心理教育,協
同実証主義,視
覚的ツール を用 いたホームワーク,社
会的相互作用を検討することなどとの共通点があるように思われ る。3.っ
つ病について うつ病 の定義 は一義的 に決 め られ てお らず,
日本 うつ病学会治療 ガイ ドライ ン (伊賀 。大 森・ 小笠原・ 尾崎・神庭 。杉 山 。冨 田・野村・ 渡邊,2013)で
は,厳
密 な臨床研 究の対象 と4. され ることの多い大 うつ病 (DSM Ⅳ
)を
うつ病 と位置づけてい る。本論文において もうつ病 とある ところは大 うつ病 とす る。 日本 うつ病学会治療 ガイ ドラインでは, うつ病 を,軽
症 う つ病 、中等症 。重症 うつ病 (精神病性 の特徴 を伴わない者),精
神病性 うつ病 に分類 し,双
極 性障害は含 んでいない.軽
症 うつ病 とは,DSM
Ⅳ TRにお ける大 うつ病エ ピソー ドの うち,軽
症 とされ る者 を指 し,大
うつ病 の診断 に必要 とされ る9項
目の症状 の うち 「抑 うつ気分」 も しくは 「興味、喜びの著 しい減退」の少 な くとも1つを含む,5つ
以上 (かつ余分はほん とど ない)の
症状 を同 じ2週間以上の間にほ とん ど一 日中,ほ
ぼ毎 日有 し,加
えて就労や就学状 況,家
事 な どにお ける機能障害等が軽度の者である.ま
た,気
分変調症や適応障害 と診 断 さ れ る者 は ここには含 まれない。中等症・重症 うつ病は精神病性 の特徴 を伴わない者 を言い, 薬物治療抵抗性 うつ病や再発性 うつ病 を含 め,軽
症例 に比べて よ り重篤で医療介入 の緊急性 が高 く,し か も初回治療 で完全寛解 にいた らない ことも多い症例である。精神病性 うつ病は, うつ病 の中で妄想 と時に幻覚 を伴 う一群であ り,治療法や予後の違いか ら ICD 10やDSM―Ⅳ の 診断基準の中で も精神病症状ない し精神病性の特徴 を伴 うもの として特定用語が与えられて い る。 うつ病 の診断において,症
状 に基づ く操作的診断基準は,症
状 による診断 に依拠す るこ と で,1つ
の診断区分 に多様 な病態が混在す るため,原 因別 である伝統的診断体系 と比較 して, 原 因 を考慮 した治療 につなが りに くく治療方針 が立 ちに くかつた.そ
のため、 この欠点 を補 うためにDSM―Ⅳ―TRでは多軸診断を導入 してお り,精
神障害の診断(I軸
)に
加 えて,パ
ー ソナ リテ ィ障害 と知的障害 (Ⅱ軸),身
体合併症 (Ⅲ軸),心
理社会的因子 (Ⅳ軸),全
般機 能(V軸
)を
評価す るこ とを前提 に してお り, I軸
にお ける気分障害の診断だけではな く,併
存す る精神 障害の有無 を評価す るこ とで,患
者 を多面的 に捉 え,治
療方針 を立てることと し てい る。気分障害の場合 に,併
存 しやすいI軸障害 として,パ
ニ ック障害,社
交不安障害, 強迫性 障害,物
質使用障害,広
汎性発達障害や 注意欠陥 。多動性障害について も検討す る。 また, Ⅱ軸障害 としては,境
界性パー ソナ リテ ィ障害や知的障害な どを検討す る (日本 うつ 病学会治療 ガイ ドライ ン,2013.). うつ病 の治療 は脳 の機能変化 を改善す るために薬物療法が行われ るが,病
状の回復期,維
持期 には薬物療法 を継続 しつつ,CBTあ
るいは対人関係療法 を併用す るこ とがある.薬
物療法 に加 え,こ
れ らの精ネ申療法 を併用 した場合,薬
物療法 単独 に比べて再発予防効果が高い こ と が立証 されてお り (Cuijpers P,Dekker」,Hol10n S.D, Andersson C,2009),CBTは
,①
うつ病エ ピソー ドヘの治療 的介入
,②
慢性期へ の治療的介入 と再発予防 に有効である と実証 的研 究 に よって明 らかになってい る (American Psychiatric Association,2000).うつ病への行動活性化療法による介入
うつ病 は抑 うつ気分 とアンヘ ドニアを二大症状 とす るが, これ によ り気分の落 ち込みが長 期 にわたって持続す る。 この よ うな気分 の落 ち込みが持続す る個人差 に対す る説明 と して,
Nolen Hoeksema(1991)が 提唱す る反応 ス タイル理論 (Resoponse Styles Theory)力 `ある。 反応 スタイル とは
,抑
うつ気分 に対す る個人の反応型 の個人差の ことで,考
え込み型反応,気晴 らし型反応
,問
題解決型反応,危
険活動型反応 が ある.考
え込み型反応は,抑
うつ気分 を感 じてい る時に, 自分の抑 うつ症状や,抑
うつの原因・意味 。結果に注意 を焦点付 ける行 動や認知 と定義 され,抑
うつ を持続 させ,重
症化 させ るとされている.気
晴 らし型反応 は, 抑 うつ気分 を感 じてい る時 に,抑
うつ気分や抑 うつ症状か ら注意 をそ らす よ うな行動や認知 であ り,抑
うつ をよ り短 く,軽
度 にす る とされ る (伊藤・竹 中 。上里,2002).つ
ま り,気
晴 らし型反応 よ りも考え込み型反応 をす る方が, よ り抑 うつが持続 。悪化す る と考えられ る。 反応 スタイル理論 は,抑
うつ気分の持続要因について,抑
うつ気分 に対す る反応 スタイル の 差異 とい う観 点か ら検討 してお り,こ
れ は気分 と行動 とのフィー ドバ ックループに関す る研 究 と近似 した問題 を扱 っている と考 え られ る (国里・ 山 口・ 鈴木,2008).Carver&Scheier(1999)に
よる と,行
動 を動機 づ けるフィー ドバ ックループには,接
近型 と回避型 があ り,前
者 はポジテ ィブな情動 と接 近行動 を増や し,後
者 はネガテ ィブな情動 と 回避行動 を増やす。 この二つのフィー ドバ ックループについて,Gray(1981)は
神経科学的 な観点か ら2つ
の脳 内動機づけシステム として行動活性化 システム (behavioral activa tionsystem:BAS)と 行動抑制 システム (behavioral inhibition system:BIS)の 理論 を作 り上 げ
てい る
.BASは
報酬の呈示 (も しくは罰 の除去)に
よつて活性化す る脳 内システムで,ポ
ジティブ情動や 目的達成 のための接近行動 を引き起 こ し
,BISは
罰 の呈示 (も しくは報酬の除去)に よつて活性化す る脳 内システムで,ネ ガテ ィブ情動や回避行動 を引き起 こす.国里 ら(2008)
による と
,考
え込み型反応 は抑 うつ気分 を持続 させ るループ構造 を とつてお り,そ
れ には,平常時の BISと BASの両側 面が関連 し
,一
方の気晴 ら し型反応 は BASと の関連 があるこ とを 報告 してい る.こ
の ことか ら,考
え込み型反応 スタイルは,積
極的 に問題 に接近 してい く時 に不利益 を被 るよ うなネガテ ィブな側 面についての考 え込みを実行 し,体
験 の回避 をす るこ とで,抑
うつの持続 が維持 され る可能性 があ り,気
晴 らし型反応 スタイル は,抑
うつ気分時 にその個人に とって報酬 となる事柄 に従事す ることで抑 うつ気分 を低減 させ る可能性 がある (国里・ 山 口・ 鈴木,2008). 近年,ア ンヘ ドニアは うつ病 の予後 を悪化 させ る要因 とされ (McFarland,Shankman,Tenke,Bruder,Klein,2006),注
目され てい る.不
安 と抑 うつ に対す る統合 的なアプ ローチにおい ては,ネ
ガテ ィブ情動の高 さは多 くの感情障害 に共通 しているが,ア
ンヘ ドニアのよ うなポ ジテ ィブ情動 の低 さは抑 うつ症状,も
しくは社 交不安症状 において特異的に認 め られ ること が指摘 されてきてい る(BrOwn,Chorpita,Barlow,1998).治
療的介入 において も,ネ
ガテ ィブ情動 の低減 に焦点 を当てた介入 だけでな く,ポ
ジテ ィブ情動の増加 に焦点 を当てた介入 が提案 されてきてお り,そ
のひ とつに行動活性化療法がある.Martell&Addis&」
acobson(2001)に
よれ ば,行
動活性化療法では, うつ病 の人 に認 め られ る典型的な行動パ ター ン (例えば,活
動の減少,不
眠 も しくは過眠,食
欲不振や過食, ネガテ ィブな考 えの反勿)は
, うつ病 の症状 (例えば,気
分の落 ち込み,多
くの活動 にお け る喜びの消失)を
伴 い, うつ病 を悪化 させ る と見立ててい る。 また,長
期的 に見 る と良い影 響 を もた らす可能性 が ある生活上の問題へ の対処 を妨害 し,受
動的 に生活 に関わ ることを維 持 させ る と見立てる。つ ま り,生
活上のネガテ ィブな出来事が正の強化 の不足 と行動 レパー5 トリー の減少 をもた らした結果
,そ
れ に伴 ううつ病の様 々な症状は,二
次的に生 じる不適応 な対処 を行 うきつかけ とな り, うつ病 を維持 させ る と言 える。 この よ うに行動活性化療法 で は, うつ病 を何 らかの欠損モデル (神経伝達物 質のバ ランスの崩れ,認
知の歪み,無
意識 の 葛藤, 自尊心の低 下)で
見立てず,
うつ病 にあ る人の持つ生活や経験 な どの文脈 の中の一連 の行動か ら捉 える文脈的アプ ローチを とり,そ
の中に行動理論 と行動的介入 を効果的に組み 込む。 したがつて,行
動活性化療法では, うつ病 の文脈 で生 じた活動 の減退,反
す う,引
き こも りな どに対 して,代
替手段 となる新 しい行動 レパー トリー を検討 し,変
化への創造的 な 経路 を提案す る (Martell et al.,2001). そ もそ も,比
較的 「単純 な」行動的技法 によつて うつ病 を効果的に治療 できる とい う発想 は新 しい ものではな く,初
期 の行動的アプ ロー チでは,正
の強化 を受 ける確率の減少 と個人 の レパー トリーにある回避行動の増加 に対す る一連の反応 として うつ病 を概念化 してお り, 1970年 代 にこのアプ ローチを支持す る多 くの研 究が行われ,楽
しい出来事を増やす ことが効 果的な治療 であることが明 らかに され ていた (Martell et al.,2001).し か しなが ら,こ
の よ うな行動的アプ ローチ と異な り,行
動活性化療法 によるアプ ローチは,単
に楽 しい出来事 を増やす ことを 目的 とす るのではな く,個
人の活動,文
脈,気
分 の関係 に焦点 を当ててデー タを集 め,人
々が 自らの生活の中で何 を してい るか,短
期 的な結果 と長期的な結果 は何 か, それぞれ がクライエ ン トの気分 に どんな影響 を与えているかについて知 り,文
脈 ごとの機 能 分析 に基づいて,活
性化 のアプ ローチ を行 う (Martell et al.,2001).こ の時,そ
のアプ ロ ーチを行 つた結果,症
状へ の効果や個人の行動 の変化 をアセスメン トし,長
期的な結果 が得 られ るよ うな行動の活性化 となってい るか どうか検討す ることは とて も重要である。アセス メン トを行 う際に,個
人 の症状や状態像 につい て評価す る方法のひ とつ に 自記式質 問紙 が あ る。しか し,そ
の多 くは,定
型発達者 を基準 と した ものであ り,HFPDD者
に とつては質問項 目 の表現な どによって妥 当な回答が得 られ に くい懸念がある.行動活性化療法のアセスメン トと Environmental Reward Observation Scale
行動活性化 でターゲ ッ トとな るア ンヘ ドニア を沢1定す る尺度 としては,Fawcett Clark
Pleasure Capacity Scale(Fawcett,Clark,Scheftner,Gibbons,1983)があるが
,質
問紙 の 項 目数 が多 く,文
化差が大 きい点が指摘 されてい る(Snaith,Hamilton,Morley, Humayan, Hargreaves,Trigwell,1995)。 また, この尺度 においては,ア
ンヘ ドニア 自体が うつ病の症 状 である ことを考 える と,そ
の症状 を評価す る指標 として使用す ることはできて も,行
動 に 随伴す る正の強化 が減 ってい るか とい う行動活性化 のメカニズムの検討 には向かない(国里 ら,2011)。 また,MacPhillamy&Lewinsohn(1982)が作成 したll■出来事質問票 は,320項
目の 快 出来事 について経験 の頻度 と快度 を求め るもので,網
羅的 に環境 中の報酬 を検討 し,行
動 に随伴す る正の強化 について測定す る尺度であ る。しか し,実 施 には1時
間ほ どかか るため, 介入 の効果測定 として継続 的 に測定す ることが難 しい点や各項 目がすべての人 において快事 象 ではない こ と,正
の強化がある活動はすべて快活動であるとは限 らない とい う問題 が指摘 され てい る(ManOs,Kanter,Busch,2010).以
上の点 を踏 まえ,Armento&Hopko(2007)は
,よ り効率的で
,妥
当性,信
頼性 のある,行
動 に随伴す る環境 中の正の強化 について主観 的に 評価す る 自記式質問紙 Environmental Reward Observation Scale(EROS)を 作成 してい る。その作成においては
,行
動 に随伴す る正の強化子 について,①
潜在的に強化 され得 る出来事の 数,②
環境 にある強化子の利用可能性,③
強化 を引き起 こす よ うなオペ ラン ト行動の三つの 側面か ら項 目収集 を行 つてい る.EROSは
個 々の快事象 に対す る反応 ではな く,個
人が生活す る環境 中で経験す る強化子が多いか少 ないか, どの くらい 自分の行動 に対 して正 の強化子が 随伴 してい るか ど うかについて主観 的かつ全体的 に評価 を行 う(国里 ら,2011). 行動活性化療法において,主
観的 な報酬知覚 をモニ ターす ることは,介
入手続 きが価値 に 従 つた行動 を増や してい るのか,タ
ー ゲ ッ ト行動 を行 うことで十分な正の強化 を受 け られ た とクライエ ン トが感 じることができているのか検討す ることができる (国里 ら,20H)と
あ り,EROSは介入方法 のアセ スメン トや その治療効果 の評価指標 として使用 され,国里 ら(2011) はその 日本語版 を作成 している。 日本語版EROSは,原
版 EROS同 様,10項
目の 自記式質 問紙 で,4件
法 (「1全
くそ う思わない」∼ 「4と て もそ う思 う」)で
, 1因子構造 を示 してい る。 その内容は,①
「生活上の多 くの活動が楽 しい」,②
「最近、私は経験 した多 くの出来事によ つて不幸になつていることに気がついた」,③
「一般に、私は自分の時間の過 ごし方にとても 満足 している」,④
「生活の中で楽 しみを見つけることは私にとって簡単だ」,⑤
「ほかの人 はもつと満 ち足 りた生活を送つているように見える」,⑥
「かつては楽 しかつた活動がもはや 満足できない」,⑦
「私は楽 しい気分になるような趣味をもつと見つけられたらと思 う」,③
「私は自分の成果に満足 している」,⑨
「私の生活は退屈だ」,⑩
「私が行 う活動はたいてい 好ま しい結果になる」である。国里 ら(2011)は 日本語版EROS作成の結果,原
版 と同様に 1因 子構造が認められ,因
子的妥当性が確認できたこと,信
頼性の検討において内的整合性,再
検査信頼性 ともに十分な値であつたことを示 した.し
か し,原
版 とは異な り,項
目2と 項 目7の
因子負荷量がやや低 く,項
目反応理論による項 目検討においては,項
目2と 項 目7の
識 別力がやや低い値を示 し,境
界特性値に関 して,項
目2は
困難度が高く,項
目7は
困難度が 低い傾向があつたことか ら, 日本においては項 目2や
項 目7は
極端な反応を引き起こす可能 性があると指摘 した。また, 日本語版 EROSは,抑
うつ 。不安症状・行動抑制傾向との負の相 関,行
動賦活傾向 との正の相関を示 し,構
成概念妥当性が確認 されている. しか し,質
問項 目を見てわかるように,EROSは
介入によつて活性化 された行動を取つた結 果 として個人の生活空間全体における主観的な報酬知覚が変化 しているかを評価する質問紙 である。この質問項 目の内容は,広
く個人の生活空間を含めて評価できる反面, どのような 場面を想定するかによつて質問に対す る回答に迷 うことが懸念 される。特にHFPDD者 の場合, 1愛味な表現の理解が苦手なことや想像力の障害が影響す ることで,判
断に迷いが生 じ,回
答 することが難 しくなることが懸念 され る。例えば項 目①の 「生活上の多 くの活動が楽 しい」 について見た ときに,「生活」とい うのが どの場面をイメージす るかによつて答 えが異なるか もしれず,判
断できなくなるかもしれない。以上か ら,HFPDD者
が質問に回答 しやす くするに は,項
目表現の具体化が必要であると考えられ る.6
発達 障害及び うつ病への職業 リハ ビリテー シ ョンによる支援 国際労働機 関(ILO)に
よると,職
業 リハ ビ リテー シ ョンとは,「継続的かつ総合 的 リハ ビ リテー シ ョン過程の うち,障
害者 が適 当な就業 の場 を得,か
つそれ を継続す ることができ るよ うにす るための職 業的サー ビス,例
えば,職
業指導,職
業訓練,お
よび選択的職業紹介 を提供す る部分を言 う,」 と定義づけ られている。また,そ
のサー ビスについては,1985年
にILOが
「障害者の職業 リハ ビリテーシ ョンの基本原則」で,障
害者 の身体的・精神的・ 職 業的 な能力 と可能性 について明確 な実体 を把握 す ること (職業評価),職
業訓練や就職 の可能 性 に関 して障害者 に助言す ること (職業指導),必
要 な適応 訓練,心
身機能の調整,ま
たは正 規の職業 訓練 あるいは再訓練 を提供す るこ と (職業準備 訓練 と職業訓練),適
職 を見つ けるた めの援助 をす ること (職業紹介),特
別 の配慮 の もとで仕事 を提供す ること (保護雇用),職
場復帰が達成 され るまでの追指導 をす るこ と (フォ ローア ップ)の
5つをあげてい る。 障害者職業セ ンターでは,職
業指導お よび職 業評価 を実施 した後,職
業 リハ ビリテー シ ョ ン計画を立て,職
業準備支援や ジ ョブ コーチ支援,職
場復帰支援 (リ ワー ク支援)な
どの各 サー ビス を提供 してい る. 職業準備 支援 では通所 による通勤訓練,一
定 の作業負荷への耐性 をつけることや適職 を検 討す るための作業支援,求
職活動 に役立つ知識 を身 につ けるための講座 な どが提供 され てお り,こ
の うち発達障害者向けには ワー クシステ ム・ サポー トプ ログラムが実施 されてい る. ワー クシステム・サポー トプ ログラムでは通常の職業準備支援 の内容 に加 え,問
題解決技能 トレーニ ング,職
場対人技能 トレーニ ング, リラクゼー シ ョン技能 トレーニ ング,マ
ニ ュア ル作成技能 トレーニングが実施 されている.こ
の よ うに,支
援 の内容 としては就労 してい く 上で必要 な作業耐性や体力の向上,ス
トレス対処技能の付与,障
害特性 に応 じた勤務条件や 職務 内容 を検討す るジ ョブマ ッチングな どが提供 されている.こ
の よ うな支援の後 に,就
職 が決 まった際 には実際の職場 にジ ョブコーチが赴 き,職
場 での定着支援 を実施す るジ ョブ コ ーチ支援へ と移行 してい くことが多い。 望月(2012)は発達障害者就 労支援研 究 を総括 し,発
達障害者 の職業 リハ ビリテー シ ョンの 課題 を考察す る中で,次
の知見を示 してい る。①成人期の支援 の考 え方をわか りに くくして い る背景 には,障
害へ の認識 を得 るこ とや 障害受容 な どか ら発達 とともに状態像 が変化 して い くとい うことが予後 の事態 を好転 させ る可能性 に対す る期待や診断時期の遅れに結びつい てお り,こ れは発達障害固有の問題 とも言 える。②就業支援 を効果的に行 うために,ま ずは, 職業選択時点 にお ける職業適性・職業興味等 を客観的に基準に照 らして評価す ることが必要 であ る.さ
らには,職
業 リハ ビ リテー シ ョンの支援 の利用可能性 について も的確 に評価 す る ことも重要 となる.障
害者雇用 に際 し,企
業の配慮 を必要 とす る場合,支
援者 は,当
事者側 の問題の把握 と企業における環境整備 の課題 を明 らかにす ることになる。③職業準備 の課題 達成 支援 は,作
業 の習得 と対人行動 スキル の習得 か ら構成 され るものであ り,模
擬 的な職場 や現実の職場 を活用 した段階的な支援 を必要 とす ることが多い.就
業前支援,就
業支援,適
応支援 とい った一連の経過の中で段階的支援 を構想す る場合 には,支
援機 関 と企業 との連携 が必要 となる.④
職業 自立を支援す る うえでは,企
業就労が求 める要件 を支援 目標 にお いた職 業準備 の過程が必要 となるため
,発
達障害者への就労支援 において学校か らの移行が重要 で あ り,「学校」を仲介す る仕組みの構築 こそが要 となる.加
えて,卒
業後の若年雇用支援機 関や 医療機 関 と障害者就労支援機 関 との連携 の必要である.⑤
学校卒業後いわゆる 「職 リハ サー ビスを選択 していない」発達障害のある若者のために,職
業 リハ ビ リテー シ ョンを選択 肢 として示す役害1や仕組みが必要である.⑥
発 達障害のある者 が一般企業で適応・ 定着す る ための要件 は、企業において 「できる仕事」に配置 され,担
当業務や作業工程 が本人の特性 を考慮 されていること,個
別・具体的な支援が行われ ること,支
援機 関等か ら支援 と助言 を 得 るこ と,の
3′点に集約 され る. この よ うに,発
達障害者への職業 リハ ビリテー シ ョンサー ビスは,職
場への適応 を 目的 に 個人 の職 業選択の意思決定や職場定着 にお ける技能向上,職
場環境 の整備 において支援 を行 つてい るが,「できる仕事」への配置や障害受容や障害開示 において問題 を抱 える発達障害者 へ の支援 においては,そ のよ うな支援の実施その ものが難 しいことが示唆 されている。また, 支援 のない環境下で離転職 を繰 り返す発達障害者が失敗経験 による自己効力感 の低下を中心 と した二次障害を呈 していることも指摘 されてお り,教
育か ら職業 リハ ビ リテー シ ョンヘ の 円滑な移行が重要であるこ とが示唆 されている。 一方,
うつ病患者への職業 リハ ビ リテー シ ョンサー ビス と して,就
労に向けたサー ビス と しては発達障害者 同様,職
業準備支援や ジ ョブ コーチ支援 の提供 がな され てい るが,体
職 中 の うつ病患者への復職支援 として リワー ク支援 が挙げ られ る。障害者職業セ ンターでは,休
職 中の支援対象者,雇
用事業主,主
治 医の三者合意 を もとに,職
場復帰 の コーデ ィネー トを 行 う中で職 業 リハ ビリテー シ ョン計画お よび事業主支援計画の策定が行われ る。 コーデ ィネ ー トにおいて支援 目標や支援 内容,支
援期 間が決 まった ら, リワー ク支援が実施 され る。リ ワー ク支援の流れ としては,基
礎評価 (本人の状態像 の把握,職
場環境 の分析,主
治医か ら の病状 に応 じた必要な支援 方法の聴取な ど)が
行 われ, リワー ク支援計画が策定 され る。 リ ワー ク支援計画に基づいて,ま
ず はセ ンター内支援 にて通所 に よる体力 向上の支援,作
業支 援,ス
トレス対処 にかかる支援 (SSTや アサーシ ョン,リ ラクゼーシ ョンスキル の付与)な
ど が行 われ る. セ ンター内支援 を実施す る中で,症
状 の改善やセ ンター内での活動 が安定 した後 に,元
の 職場へ の リハ ビリ出勤が開始 され る.最
初 は実際の業務 をす るのではな く,一
定時間,負
荷 の少 ない活動 を職場で行 うな どのスモール ステ ップか らは じめ,徐
々に業務の切 り出 しによ る,責
任や複雑 な指示 の少 ない業務 を実施す る ことが多い.リ ハ ビリ出勤後,支
援対象者 の 状態 の最終確認,就
業上の配慮 に関す る意見書 の作成 な どが行 われ,雇
用事業主に よつて職 場復帰 の決定がな され た ら,職
場復帰後 のフォ ロー ア ップが行 われ る。厚生労働省が2005年 に作成 し,中
央労働 災害防止協会 に設 け られ た検討委員会 によって2009年に改定 され た 「′い の健康 問題 によ り休業 した労働者 の職場復帰支援の手引き」では,職
場復帰 は,異
動等 を誘 引 として発症 したケー スを除いて,元
の慣れた職場へ復帰 させ ることが原則 である とし,復
帰後 は労働負荷軽減 し,段
階的 に元へ戻す な どの配慮 が重要である と してい る。 またその中 で,就
業上の配慮 の例 として,短
時間勤務,軽
作業や 定型 業務への従事,残
業・深夜業務 の禁止
,出
張制限,交
替勤務制限,危
険作業・運転業務 。高所作業・窓口業務・苦情処理業務 な どの制限,フ
レックスタイム制度の制限または適用,転
勤についての配慮などを上げてい る。このような職場復帰支援はメンタルヘルス運動における二次予防に位置づけられるが, 五十嵐 (2010)はこのようなプログラムは,①
自らの症状の把握 と病状の安定度を測 り,悪
化の徴候 を見て,早
期対応のための症状や体調の管理を行 うこと,②
疾病教育による客観的 な自己の症状の観察,③
再発予防に向けての病気の理解 と症状のモニターが出来ることに加 え,な
ぜ病気 になつたのかを洞察で きること,④
気分障害 に特徴的な認知の歪みや考 え方, 物事 の受 け取 り方 に関す るパ ター ン化 され た思考を修正す るための心理的手法の習得,⑤
病 気療養 中には対人関係 が家族や友人 に限定 され て しま うことか ら,集
団での協同作業 を通 じ て コ ミュニケー シ ョンを回復 され ることを挙げてい る. 以上 の よ うに,職
業 リハ ビ リテー シ ョンでは,発
達障害 においては,「できる仕事」,す
な わ ち障害特性 に応 じたマ ッチ ングを重視 してお り,
うつ病 にお ける復職支援 においては元 の 慣れ た職場への復 帰 を原則 としてい る.実
際には障害特性 と職務 のマ ッチ ングも重要で あろ うし,慣
れ た職場 あるいは個人がモチベーシ ョンやや りがいな どを保 て る職場 に戻 ることも 重要 であろ う。ここで重要な ことは,個人の もつ文脈 において,精
神的 な健康 を保 つために, 個人が職場 において, どの よ うに主観的な報酬知覚 を感 じているかを検討す ることと,環
境 整備 を同時に検討 してい くことと考 え られ る。つま り,今
ある職場環境 で,必
ず しも個人 の 主観的報酬知覚が改善 され るか どうかは分か らず,行
動活性化が見 られ ない場合 にはア ンヘ ドニアが維持 され る可能性 がある。一方,環
境 への介入 の結果,で
きる仕事があって も,そ
の仕事 を遂行 した結果 に,主
観 的な報酬 を感 じるこ とがで きない こ ともあるか もしれ ない。 特 に,HFPDD者
の場合,慣
れ た環境 であるが ゆえにこだわ りが改善 され ない場合や,周囲の理 解 を得 られ に くい よ うな逸脱行動が あつた場合 には,で
きる仕事があつて も,職
務以外 の環 境調整 が うま くいかない こともあ り得 る.職
業 リハ ビ リテー シ ョンによる介入 において も, 個人 の もつ文脈 に沿つた行動 の活性化やそれ を支 える環境調整 がで きてい るかをアセス メン トす ることは,HFPDD者
の障害特性その ものに対応す るだけでな く,う つ病 を維持 してい る機 能へ の介入 ともな り,そ
の改善が期待できる.そ
のため,職
業 リハ ビリテー シ ョンにお いて も,個
人 の環境 中の主観的な報酬知覚 をアセ スメン トす ることは,そ
の支援が文脈 に沿 つた ものか,症
状 を維持 している機能 に対 して適切 な介入 となつてい るか を評価す ることに資す る と考 え られ る。7
本研究の 目的 上述 の とお り,生
物学的,遺
伝的,心
理社会的な要因か ら,HFPDD者
には うつ病が併存 しや す い と言 える。HFPDD者 において も うつ病治療 では薬物療法が行 われ る。 しか し,薬
物療 法 に よつて抑 うつ症状への改善が見 られ て も,ア
ンヘ ドニアに よつて生活上の行動は不活性 の状 態 が維持 され てい るこ とが懸念 され る.行
動活性化療法 は,
うつ病 を維持 してい る行動 の機 能 に着 日 し,個
人 の文脈 に沿 つた行 動 の改善 を 目標 とす るため,
うつ病 の予後 を悪化 させ る ア ンヘ ドニアに対 し,う
つ病 を維持 してい る行動パ ター ンか ら,個
人が報酬 を感 じられ る結 0果 に結 びつ く行動パ ター ンを代替 できるよ う介入 してい く。 この時
,単
に快 出来事 を増や し てい くだけでは,そ
の結果 が回避行動を強化す る可能性 もあ り,個
人が持つ うつ病エ ピソー ドの文脈 に沿つた行動 を改善す ることで,ア
ンヘ ドニアを改善 させ る.こ
の よ うに適応行動 を増やすためには,個
人が報酬 を感 じられ る介入 となってい るか評価 してい く必要がある。 HFPDD者において も,適応行動 の正の強化 は、ポジテ ィブ情動の増加 に資す ると考 え られ る。 しか しなが ら,上
述 の よ うに,単
に快出来事の増加 を観察す るだけでは,そ
の行動が社会的 場 面にお ける集団の価値 に沿つていない場合や 回避行動である場合 は,結
果的 に社会適応 の 改善やHFPDD者
個人 の二次障害の改善 にはつ なが らない ことが懸念 され る.さ
らに,HFPDD
者 はその障害特性 か ら,総
合的 な問題解決や客観的な視点 を持つ ことに困難 さがあ り,文
脈 に沿つた適切 な行動 を選択す ることに失敗 しやすい傾 向にあると考 えられ る.そ
のため社会 的場 面で受 け入れ られ るター ゲ ッ ト行動 を行 つた結果,十
分 な正の強化 を得 てい る とい うこ とで,HFPDD者個人の主観的 な報酬知覚が増加す るか とい うことを検討す る必要があるだ ろ う。 そのためには HFPDD者の社会的場面における環境 中の主観的な報酬知覚 を沢1定す る凡度 が必 要で ある.し
か し,HFPDD者
に とつては, 日本語版EROSの項 目 (例えば、項 目1の 「生活上 の多 くの活動」や項 目2の
「経験 した多 くの出来事」な ど)で
は,表
現 の理解 が難 しい こ と や場面が限定 され ないが故 に,具
体的な判断がつかない こ と (例えば,「職場 では1だ
が,家
では4」 な ど)が
懸念 され,ア
セス メン トの意 図 と回答内容 にずれ が生 じうる。そのためそ の障害特性 を考慮 した上で理解 しやすい項 目内容 となってい る必要があると考え られ るが, 不適応行動 の リスクが多い各社会適応場面での、環境 中の主観的報酬知覚をモニターす るた めには,質
問項 目内容 を見 た ときに,社
会的な場 面それ ぞれ での主観 的報酬知覚 の程度 の把 握 がで きるよ うに,検
査者 がアセスメン トしたい場面について,被
験者 であるHFPDD者
が 自 然 と主観的に限定できるよ うな工夫が必要だ と考 える。 近年,発
達障害者 の社会適応 にお ける支援技法が様 々に議論 され る中,そ
の介入結果 にお いて,個
人 の主観的報酬知覚 をアセ スメン トす る研 究はまだ少 ない。HFPDD者の主観的報酬知 覚 を測 る尺度 でその変化 をモニ ターす るこ とは,社
会適応 を促す発達障害者 向けの訓練 プ ロ グラムや個別 に計画立て られた支援等 を実施す る過程 において,介
入手続 きを調整す る手掛 か りの一つ となるだろ う。また,HFPDD者
の主観 的報酬知覚尺度は,介
入 の効果測定のみ な ら ず,HFPDD者
の環境 中の報酬知覚 を研究す る調査への一助 にもなるだろ う。 以上か ら本研 究では,就
労場 面に限定 した主観 的報酬知覚 について調査 を行 い,就
労場 面 にお ける行動活性化の介入 の評価指標 としてのアセ スメン トツール として就労版 の EROSを 作 成 し,そ
こで得たデー タか ら,就
労場 面の主観 的報酬知覚 についてHFPDD者
と一般就労者 と の比較 を行 うことを 目的 とす る. そ のため,研
究1では 日本語版 EROSを元 に就 労版 のEROSを作成 し,そ
の信頼性 と妥 当性 を検討す る。妥 当性 においては,就
労版 EROSと 抑 うつや 不安,行
動抑制 。賦活傾 向な どとの 関連 か ら構成概念 妥 当性 を検討 し,
うつ病 の行 動理論 に よる介入 を行 う上で活用 で きる尺度 であるか を検討す る. 研 究2で
は,一般就労者 とHFPDD者 とで就 労版 EROSに ついて比較 を行 うことを 目的 とす る.また
,一
般就労者 との比較 だけではな く,HFPDD者
間において,就
労支援 の利用 の有無,障
害 者 手帳 の有無,卒
業形態や在職期間の別 といつた条件 間において,就
労版 EROSに 差があるかⅡ
.研
究 11.方
法1)目
的 研 究1では EROSの 項 目を元に,HFPDD者
が理解 しやすい質問項 目を作成 し,HFPDD者
の就労 場 面にお ける報酬知覚の測定尺度作成 とその信頼性・ 妥 当性の検討 を行 う。 質 問項 目の作成 にあた っては,予
備調査 を実施 した。また,予
備調査の結果 について,指
導 教員 1名,お
よび臨床心理学 を専攻す る大学院生6名 と項 目変更に関す る検討 を行なった.2)予
備調査 ① 日本語版 EROSの 実施 とイ ンタビュー HFPDD者4名,定
型発達者 4名 に対 し,国
里 ら(2011)が作成 した 日本語版 EROSの 全 ての 項 目を提示 しなが ら,「各質問で意味がわか りに くい ことがあれ ば,わ
か りに くい とお つ し ゃつて くだ さい。 また,質
問の意 味はわかるけ ども, 1∼
4で
答 えに くい場合 は,そ
うお つ しゃつて くだ さい。」 と教示 し,一
項 目ずつ 口頭 で実施 した。 日本語版 EROSの回答方法 は4件
法で あつた,そ
の後イ ンタ ビュー にて質問項 目に関す る答 えに くさや表現の意味理 解 について,あ
らか じめ準備 していた質問,「言葉 の意味がわか りに くい質問が有 りま した か?」,「言葉 の表現が曖味で、なん と答 えていいか迷 う質問は有 りま したか?」,「 (答えに くい質問について)表 現が もつ とこ う変われ ば答 えやすい とい うのは有 りま したか?」,「場 面 を特 定、例 えば職場や学校 な ど具体的 な場所 を想 定 して、答 えるな ら答 えやす い です か?」,「 1の質 問 “生活上 の多 くの活動が楽 しい"の
質問での生活 とは どの場面 を想像 し ま したか?」,「 1の質問の場面が職場 な ど特 定の場 面 を想定 したな ら答 えは変わってい ま したか?」 を 回頭で実施 した。 ② 結果 イ ンタ ビュー の結果,HFPDD者 お よび定型発 達者 の全員か ら生活等の広義 の場面を想定す るよ りも,職
場 な どの よ り限定的 な場 面 を想 定す る方 が質問に答 えやす い との回答 を得 た。 また,「生活の場面 を職場な どの場面に特定 したな ら答 えが変わつたか」の質問で も,全
員 か ら答 えが変わつていた との回答が得 られ た。なお,日本語版EROSで困難度 が極端 に低 か つた項 目7については特に気 になる点があるよ うな回答 はなかつた.HFPDD者 か らは 日本語 版 EROSで 困難度 が極端 に高か つた項 目2の文章構成 が読み取 りに くい との見解 が得 られ た. それ ぞれ の項 目においては,「生活」「活動」「成果」の言葉 の意味が分か りに くく,「好 ま しい結果」の表現 については どの よ うに答 えていいか迷 うとい う回答が得 られ た。一方, 定型発達者へのイ ンタ ビュー において も,各
項 目にお ける 「成果」「活動」「満 ち足 りた生 活」の言葉 について,意
味が分か りに くく,表
現が曖味で答 えに迷 うとい う回答が得 られ た。以上の結果か ら,項
目の表現 を就 労場面 に限定す ることで回答 しやす くな るこ とや ど の場面を想定す るかによつて主観的報酬知覚が変わ る可能性が示唆 され た。 このイ ンタビュー結果 をもとに,日 本語版 EROSの 質問項 目内容に具体的な就労場面 とい う条件 を付加 す ること
,質
問紙項 目中の表現や構 文について,読
みやす さや具体的表現へ の変 換 を行 うこ とを検討 した。その結果 に基づいて,就
労場面の主観的報酬知覚尺度 (以下,就
労版 EROSと い う。)を
作成 した (Table l).ま た,こ
の尺度 を HFPDD者 4名,定
型発達者 4 名 に対 し,再
度実施 した。その結果,各
質 問項 目の表現が理解 しやす くなつた との回答 を得 た。3)調
査 対象 機縁法 によ り,調
査者の知人 を通 じて就労 している一般就労者 290名か ら調査協力を得た。 ア ンケー トは 249名 か ら回収 し(回収率85%),就労版 EROSの 回答 について記入漏れや不備 のあ つた回答 を除 き,246名
(男性 103名 、女性 143名 ;平均年齢 41歳,範
囲 19歳 ∼71歳)を
因 子分析 の解析対象 とした.構
成概念妥 当性 の検討 のために調査 した就労版 EROS以 外 の尺度 の回 答 について記入漏れや不備 のある回答 を除 き,234名
(男性 100名 ,女性 134名 ;平 均年齢 40 歳,範
囲 19歳 ∼71歳)を
単相 関分析 の解析対象 とした.Table l
日本語版 EROSの 項 目と就労場面の主観的報酬知覚尺度の項 目NO。