技術・家庭科〔家庭分野〕
自分と環境との関係性の探求を通して,社会・世界と関わりながら,
未来を見据えた意思決定を行うことができる生徒の育成
―ESD を視点とした食生活学習の開発―
日浦 基子・川上 祥子 1 主題設定の理由 (1) 共通研究主題との関連 本校家庭科では,共通研究主題「深い学びを引き出し,これからの時代に求められる資質・能力を育 むカリキュラム・デザイン」のもと,育成すべき資質・能力を明確にし,それらを育成するための手立 てに重点を置いた実践研究を行っている。 前回研究では,「これからの時代に求められる資質・能力」を養うために,「ESD の視点をもつこと」 に着目し,衣生活領域のカリキュラムを作成した。 そこで,「深い学び」を引き出すために,「パフォーマンス課題」,「討論を鍵とした探求活動」を 学習活動に取り入れた。パフォーマンス課題を小単元ごとに設定することで,既習の知識や技能を活用 し,未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力を育成し,探求の技能が発揮できると期待した。 また,討論を鍵とした探求活動を行うことで,生徒が相互に考えを深め,より多くの視点をもち,問題 をより発展的に解決することができると考えた。 学びの深まりの鍵となるのは,「生活の営みに係る見方・考え方」である。この「見方・考え方」を, 習得・活用・探求という学びの過程の中で働かせることを通じて,より質の高い深い学びにつなげるこ とが重要である。 家庭科の「生活の営みに係る見方・考え方」を 働かせることは,家族や家庭,衣食住,消費や環 境などに係わる生活事象において,協力・協働, 健康・快適・安全,生活文化の継承・創造,持続 可能な社会の構築等の視点から解決すべき問題 をとらえ,よりよい生活を営むために工夫するこ とと考えた。 そして,前回研究で作成した衣生活領域のカリ キュラムでは,生徒のワークシートの記述から, 授業で得た知識だけでなく,次への課題(他の衣 服)に目が向いている生徒,つまり,深い学びが でき,生活の課題へ自ら取り組む生徒が見受けら れた。また,授業後,さらに不要な衣服を見つけ, 再度リメイク作品を製作した生徒や自主レポー トを作成する生徒がみられたことから,実生活への定着が進んでいることも確認できた。このように, 成果がみられたことから,食生活領域においても有効であると考えた。 (2) 家庭科の本質との関わりより 家庭科の本質は,自分の生き方を選びとらせ,生活者としての自立を目指すことである。 つまり,生活の主体者である児童・生徒に,自分自身と環境(人・狭義の環境・物)との関わりを考えさ せる中で,自己概念を確立させるとともに,自己の生活を営む理論となる(家庭)生活の見方・考え方を 獲得させることである。また,「家庭生活の見方・考え方となる理論を獲得していくこと」は「家庭生活 を科学的に認識すること」である。 将来世代にわたるよりよい生活の実現のためには,ESD が必要であり,持続可能な社会の構築を意識す ることは,家族・家庭,衣食住,消費や環境等の家庭科の各内容の学びをつなぐ軸になりうる。 ESD は,持続可能な開発のための教育である。これは,「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうこ となく,現在の世代のニーズを満たす開発のための教育」である(2002・ヨハネスブルグサミットより)。 図1 家庭科における ESD技術・家庭科〔家庭分野〕
自分と環境との関係性の探求を通して,社会・世界と関わりながら,
未来を見据えた意思決定を行うことができる生徒の育成
―ESD を視点とした食生活学習の開発―
日浦 基子・川上 祥子 1 主題設定の理由 (1) 共通研究主題との関連 本校家庭科では,共通研究主題「深い学びを引き出し,これからの時代に求められる資質・能力を育 むカリキュラム・デザイン」のもと,育成すべき資質・能力を明確にし,それらを育成するための手立 てに重点を置いた実践研究を行っている。 前回研究では,「これからの時代に求められる資質・能力」を養うために,「ESD の視点をもつこと」 に着目し,衣生活領域のカリキュラムを作成した。 そこで,「深い学び」を引き出すために,「パフォーマンス課題」,「討論を鍵とした探求活動」を 学習活動に取り入れた。パフォーマンス課題を小単元ごとに設定することで,既習の知識や技能を活用 し,未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力を育成し,探求の技能が発揮できると期待した。 また,討論を鍵とした探求活動を行うことで,生徒が相互に考えを深め,より多くの視点をもち,問題 をより発展的に解決することができると考えた。 学びの深まりの鍵となるのは,「生活の営みに係る見方・考え方」である。この「見方・考え方」を, 習得・活用・探求という学びの過程の中で働かせることを通じて,より質の高い深い学びにつなげるこ とが重要である。 家庭科の「生活の営みに係る見方・考え方」を 働かせることは,家族や家庭,衣食住,消費や環 境などに係わる生活事象において,協力・協働, 健康・快適・安全,生活文化の継承・創造,持続 可能な社会の構築等の視点から解決すべき問題 をとらえ,よりよい生活を営むために工夫するこ とと考えた。 そして,前回研究で作成した衣生活領域のカリ キュラムでは,生徒のワークシートの記述から, 授業で得た知識だけでなく,次への課題(他の衣 服)に目が向いている生徒,つまり,深い学びが でき,生活の課題へ自ら取り組む生徒が見受けら れた。また,授業後,さらに不要な衣服を見つけ, 再度リメイク作品を製作した生徒や自主レポー トを作成する生徒がみられたことから,実生活への定着が進んでいることも確認できた。このように, 成果がみられたことから,食生活領域においても有効であると考えた。 (2) 家庭科の本質との関わりより 家庭科の本質は,自分の生き方を選びとらせ,生活者としての自立を目指すことである。 つまり,生活の主体者である児童・生徒に,自分自身と環境(人・狭義の環境・物)との関わりを考えさ せる中で,自己概念を確立させるとともに,自己の生活を営む理論となる(家庭)生活の見方・考え方を 獲得させることである。また,「家庭生活の見方・考え方となる理論を獲得していくこと」は「家庭生活 を科学的に認識すること」である。 将来世代にわたるよりよい生活の実現のためには,ESD が必要であり,持続可能な社会の構築を意識す ることは,家族・家庭,衣食住,消費や環境等の家庭科の各内容の学びをつなぐ軸になりうる。 ESD は,持続可能な開発のための教育である。これは,「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうこ 図1 家庭科における ESD技術・家庭科〔家庭分野〕
自分と環境との関係性の探求を通して,社会・世界と関わりながら,
未来を見据えた意思決定を行うことができる生徒の育成
―ESD を視点とした食生活学習の開発―
日浦 基子・川上 祥子 1 主題設定の理由 (1) 共通研究主題との関連 本校家庭科では,共通研究主題「深い学びを引き出し,これからの時代に求められる資質・能力を育 むカリキュラム・デザイン」のもと,育成すべき資質・能力を明確にし,それらを育成するための手立 てに重点を置いた実践研究を行っている。 前回研究では,「これからの時代に求められる資質・能力」を養うために,「ESD の視点をもつこと」 に着目し,衣生活領域のカリキュラムを作成した。 そこで,「深い学び」を引き出すために,「パフォーマンス課題」,「討論を鍵とした探求活動」を 学習活動に取り入れた。パフォーマンス課題を小単元ごとに設定することで,既習の知識や技能を活用 し,未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力を育成し,探求の技能が発揮できると期待した。 また,討論を鍵とした探求活動を行うことで,生徒が相互に考えを深め,より多くの視点をもち,問題 をより発展的に解決することができると考えた。 学びの深まりの鍵となるのは,「生活の営みに係る見方・考え方」である。この「見方・考え方」を, 習得・活用・探求という学びの過程の中で働かせることを通じて,より質の高い深い学びにつなげるこ とが重要である。 家庭科の「生活の営みに係る見方・考え方」を 働かせることは,家族や家庭,衣食住,消費や環 境などに係わる生活事象において,協力・協働, 健康・快適・安全,生活文化の継承・創造,持続 可能な社会の構築等の視点から解決すべき問題 をとらえ,よりよい生活を営むために工夫するこ とと考えた。 そして,前回研究で作成した衣生活領域のカリ キュラムでは,生徒のワークシートの記述から, 授業で得た知識だけでなく,次への課題(他の衣 服)に目が向いている生徒,つまり,深い学びが でき,生活の課題へ自ら取り組む生徒が見受けら れた。また,授業後,さらに不要な衣服を見つけ, 再度リメイク作品を製作した生徒や自主レポー トを作成する生徒がみられたことから,実生活への定着が進んでいることも確認できた。このように, 成果がみられたことから,食生活領域においても有効であると考えた。 (2) 家庭科の本質との関わりより 家庭科の本質は,自分の生き方を選びとらせ,生活者としての自立を目指すことである。 つまり,生活の主体者である児童・生徒に,自分自身と環境(人・狭義の環境・物)との関わりを考えさ せる中で,自己概念を確立させるとともに,自己の生活を営む理論となる(家庭)生活の見方・考え方を 獲得させることである。また,「家庭生活の見方・考え方となる理論を獲得していくこと」は「家庭生活 を科学的に認識すること」である。 将来世代にわたるよりよい生活の実現のためには,ESD が必要であり,持続可能な社会の構築を意識す ることは,家族・家庭,衣食住,消費や環境等の家庭科の各内容の学びをつなぐ軸になりうる。 ESD は,持続可能な開発のための教育である。これは,「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうこ となく,現在の世代のニーズを満たす開発のための教育」である(2002・ヨハネスブルグサミットより)。 図1 家庭科における ESD 家庭 1つまり,「一人ひとりが,世界の人々や将来世代,また環境との関係性の中で生きていることを認識し, 行動を変革するための教育」と定義される(2006 国内実施計画より)。 国立教育政策研究所は,ESD の視点に立った学習指導の目標として,持続可能な社会の構築に関わる課 題を見いだし,それらを解決するために必要な能力や態度を身に付けるとしている。 そこでESD は,家庭科にとって学びの本質に迫る切り口であると本校家庭科では捉えている。 家庭科におけるESD で重視する点は,「持続可能な社会の構築を意識した意思決定」である。つまり, 自分と環境との関係性において生じた問題に対して,家政学の各分野で解明された法則・理論に基づき, より科学的な意思決定を行い,その解決を考えさせていくことである。生徒たちが,「現在の私たちの家 庭生活」を世界的視点から位置づけ,未来とのつながりを意識した意思決定を行うように促すことが必要 である。 食生活領域の学習内容をESD の三つの側面,環境・経済・社会(文化)のつながりを考慮しながら,カ リキュラムを分類したのが次の図である。 そして,それぞれの側面で,ESD の視点を明確にするために,「持続可能な社会づくりに関わる課題を 見いだすための視点」(国立教育政策研究所)を示した。 (3) 生徒の現状と課題 これまでの研究で,知識は習得しているが生活面での体験が乏しい生徒が多いことが分かっている。そ して,現状からも,家庭の仕事をほとんど行っておらず,自分と家庭生活,地域との関係性を考えられて いないといった様子が見受けられる。 また,環境と人間の生活との関わりについて,知識を得ているが自分の実生活とのつながりが深く理解 できておらず,継続的に実生活の行動に学習内容が生かされていない生徒が少なくないことが,授業後の ワークシートの記述から推測できる。つまり,知識として,「自分と環境との関係性の探求を通して,社 会・世界と関わること」を習得しているが,家庭生活で行うすべてのことが社会・世界,未来に影響を与 える要因であるということが,自分の問題として理解できていないのではないかと考える。 家庭科で身につけた力が,家庭,地域から最終的に社会の中で活かされ,社会を生き抜く力となってい くために必要な実践的な態度を養うことが課題である。そして,社会とのつながりの中で,生産・流通・ 消費の過程を考えながら,ESD の視点で意思決定をし,実践していく力が必要である。 (4)前回の研究とのつながり 前回の研究は衣生活領域でカリキュラムをデザインした。小単元のはじめにパフォーマンス課題を提示 することは,課題を意識しながら学びを深めることができた。そして,それぞれが工夫しながらパフォー マンス課題に取り組み,その課題を互いに紹介し合うことで,新たな視点を取り入れることができた。生 徒の深い学びを引き出すためには,生徒にとって近い将来,直面するかもしれない現実的なパフォーマン 図2 家庭科における ESD の視点 環境の保全 経済の開発 社会(文化)の発展 食品の選択と加工 地域の食文化 サステイナブルクッキング
食
生
活
多様性:日本型食生活 郷土料理 旬 地域の食文化 有限性:調理実習 (資源・エネルギー) 相互性:食料自給率 フードマイレージ 食品の衛生と安全 公平性:食料自給率 食料問題 (フェアトレード) 責任性:環境に配慮した調理 ゴミの分別 地産地消 連携性: 子ども食堂(社会の取組を知る) 家庭 2図3 学習構造図 ス課題を提示するなど,課題設定を工夫することが重要であると考える。 また,家庭科の視点だけでなく,様々な教科で培ってきた力で生活を多角的とらえ,知識をより深め, 自分の生活に活かせるように,他教科とのつながりや学習順序をさらに検討し,授業を工夫していきたい。 また,小学校での調理実習の様子を記録したVTR を食生活領域の授業に導入することで,身近なところ から問題を発見し,これからの学習課題をみつけることができた。また,高校の学習内容についても調査・ 検討を継続し,小中高の学びのつながりにも再注目していきたい。 現在,岡山大学ではSDGs の達成に貢献する活動に取り組み,持続可能な社会の実現を牽引していくと している。今回の研究では,入学後最初の授業で「宇宙と私たちの生活」について学び,水を通して環境 について考え,SDGs を紹介することで,持続可能な社会の実現への意識をもたせた。この意識を家族・ 家庭,衣食住,消費や環境等の家庭科の各内容の学びをつなぐ軸にして,家庭科の学びを深めていきたい と考えている 以上の理由により,今回の教科研究主題を決定した。また,資質・能力を教科横断的に育成するため, 学習の順序を工夫や他教科との連携も視野に入れて,研究を進めたいと考える。 2 研究仮説 目指す生徒像 「自分と環境との関係性の探求を通して,社会・世界との関わりながら,未来を見据えた意思決定を行 うことができる生徒」 以下のⅠ〜Ⅴを取り入れた授業を実施することは,「ESD の視点で意思決定ができる力」を育て,めざ す生徒像の育成に有効であると考えた。 この「ESD の視点で意思決定ができる力」が身についたと判断できる具体的な生徒の行動・様子を項目 化し,アンケートを作成して検証することで,食生活領域に関するよりよい生活の実現に向けて,生活を 工夫し創造する 資質・能力(コンピテンシー)を測定できると考えた。 アンケート項目は57項目である。 Ⅰ 科学的根拠に基づいた知識,技能の習得 Ⅱ 生活を多角的にとらえる視点の定着 Ⅲ 生活の課題を解決するパフォーマンス課題へ の取り組み Ⅳ 討論を鍵とした探求活動 Ⅴ ESD の視点で自分と環境との関係性を追求し, 意思決定できる食生活領域の内容編成 3 研究計画 (1)対象生徒 平成 30 年度 1年生 180 名 2年生 178 名 令和元年度 1年生 180 名 2年生 178 名 3年生 178 名 (2)授業計画 平成 30 年3月〜 「私たちの食生活」 (3)検証方法 ・パフォーマンス課題を作成し,ルーブリック評価 ・事前・事後アンケート結果比較(4 件法) ・ワークシートによる授業後のふり返りと記述式アンケートの分析 家庭 3
図4 加工について 図5 実験手順 図6 実験の様子 4 実践授業の例 (1)授業の概要 実践授業では,題材「食品の選択と保存」の中の「加 工食品」に焦点を当て,仮説に基づいた授業を行った。 「加工」は人類の歴史において,大きな役割を担っ てきた。食糧である農産物や海産物等を食べられるよ うに食品に加工(一次加工)することで,生命維持の 源としてきた。また,その食品に様々な加工(二次加 工)を加えることで,食品の保存性を高める,食べやすく味を改良する,栄養価を高める等,人類の生活 を 豊かにしてきた。つまり,「加工」は持続可能な社会構築のために食糧を最大限に有効活用させることが できる手段である。「加工」について理解を深めることは,これから未来に起こりうる諸問題において,限 りある資源を有効活用し,食べる可能性を広げる等,人間の健康と福祉のために有効な手立てであると考 える。 授業では,加工の意義目的を,科学的根拠に基づいた知識として捉えるために,食品(牛乳)の加工実 験を取り入れた。また,実験結果や資料に基づいた話し合い活動(討論:仮説Ⅳ)を通して加工の意義・ 目的を考えさせた。さらに ESD の視点で意思決定し,生涯を見通した生活の営みを行う実践力を付けさせ たいと考え,加工食品の良さ(意義・目的)が,環境,経済,社会,世界,未来とどのように繋がっている かを考えさせた。(仮説Ⅴ) (2)授業で行った実験 牛乳からA カッテージチーズ,牛乳(生クリーム)から B バターを作る実験を行った。(図5,図6) (3)生徒の反応(ワークシートの振り返りより) 〇そのままだと見た目が悪かったりして売り物にならない食べ物を加工食品にすると,見た目を気にせ ず,味はおいしいから良い。 〇実験でできたものが何であるかを考えるとき,それぞれの匂いや自分の知っている知識を使って予想 するのが楽しかった。 〇加工することで栄養の分類が変わる。 〇商品価値が上がり,高く売ることができるため,経済効果が上がる。 〇栄養が凝縮する。効率よく栄養が取れるようになる。 〇発酵によって栄養価を高めることは健康に良い。 〇発酵などでよい菌を増やし,健康になれる。 〇加工することで,一度に多くの量を食べることができ,また,栄養素が より吸収しやすくなる。 〇加工することで,別の食べ物になる。 〇なぜ,牛乳からバターを作ることができるのか,理科的な視点か ら考えてみたい。 家庭科4 家庭 4
(4)実践発表会後の授業改善点 〇生徒たちは話し合いにより ESD の視点で加工食品の良さを共有し,持続可能な社会の構築との繋がり に気づくことが出来た。しかし,さらに話し合いを深めるために,時間をさらに確保し,カリキュラム を見直し,1時間の授業内容を整理したいと考える。カリキュラムの見直しとしては,実験や観察を通 して加工食品の良さに気づかせ,次時の林檎プロジェクトで加工食品の種類やその意義を整理するこ ととする。授業内容の整理としては,観察・実験の材料を一つの食品(牛乳)に絞り,他の食品(大 豆)」については資料を工夫することとした。 〇加工食品の良さが環境・経済・社会・世界・未来とどのように繋がっているかを深く考えさせるため に,岡山大学教育学部河田哲典特任教授の資料をもとに提示する資料を作成し直した。 5 実践結果と考察 (1) 事前事後のアンケート結果から 事前事後のアンケートをt検定で検証した。 表1 保存に関するアンケート 質問項目 事前平均値 事後平均値 p値 食品を長く保存させるための工夫を知っている 2.85 3.42 0.0000 食品を長く保存させるための工夫を実践している 2.49 2.86 0.0008 食品を上手に保存させることができる 2.67 2.9 0.0230 保存に関するアンケート(表1)について 1%水準で有意であった。また,「食品を上手に保存させるこ とができる」については 5%水準で有意であった。このことから,食品ロスを減らすため,食品を長く保存 するための工夫を知り,実践できるようになったと考えられる。 表2 環境に関するアンケート 質問項目 事前平均値 事後平均値 p値 食材が作られているときの環境への影響を知っている 2.42 2.73 0.0043 水やエネルギーをあまり使わない料理を知っている 2.18 2.51 0.0030 また,環境に関するアンケート(表2)についても 1%水準で有意であり,「自分の食べている食品にど れぐらい資源やエネルギーが使われているかを調べたい。」では有意傾向であることから,授業後に環境へ の意識がさらに高まったと考えられる。 表3 経済に関するアンケート 質問項目 事前平均値 事後平均値 p値 安価な食品が安価である理由を知っている 2.84 3.31 0.0000 加工食品を購入するとき,どこで加工されたのかを確認している 2.52 2.89 0.0012 経済に関するアンケート(表3)についても 1%水準で有意が見られ,授業後に行った別のアンケートで は「フェアトレード商品を買いたい」という意見の生徒がみられ,食生活と経済との関わりについても考え られている。 表4 加工食品に関するアンケート 質問項目 事前平均値 事後平均値 p値 加工食品が長期保存できる理由を知っている 2.59 3.43 0.0000 加工食品をよく利用している 2.85% 3.33 0.0000 加工食品はあまり利用しないほうがよい 2.51 2.01 0.0000 加工食品に関するアンケート(表4)についても 1%水準で有意であり,授業を通して加工食品の良さに 気づき,自分の生活に取り入れているのではないかと考える。特に,課題で伝統的な加工食品を調べ,レポー トにまとめることで伝統的な加工食品を受け継いでいくことの重要性を知り,また,食品の種類や意義を知 家庭 5
ることで加工食品の安全性に気づくことができたと考える。その結果,加工食品を利用しないほうがよいと いう考えが減ったと考えられる。 (2)パフォーマンス課題から パフォーマンス課題において,生徒たちは限られた食材から献立を考え,ESD の視点から無駄なく食材 を使い食品ロスを防ぎ,より豊かな食生活になるように料理名や調理法の工夫も多く見られ,意欲的に課 題に取り組むことができました。さらに,おいしく作ることで食べ残しを減らす,シェアしやすい料理で 食事の役割の一つであるコミュニケーションを円滑にする,日本食だけでなく様々な国の料理を作ること で文化交流を図るなど多様な視点で取り組むことも出来ていた。また,その場で食べきれないので加工食 品にして,長期保存を試みる生徒もいた。そして,献立を考えるだけでなく,家庭で実際に作ったり,自 宅の冷蔵庫にある食材で家族の食事を作ったりした生徒もみられた。多くの生徒が楽しんでパフォーマン ス課題に取り組むことが出来たことから,パフォーマンス課題は生活を多角的にとらえるためにも有効で あると考える。 (3)授業後の記述式アンケートから ①対象生徒 平成 30 年度 2 年生 178 名 ②回答の分析 「持続可能な社会の構築に向けて,食生活の授業後,出来るようになったこと,実践していることな どを出来るだけ具体的に書きましょう。」という質問から,以下のような回答が得られた。 環境を意識した生活をほとんどの生徒が送ることが出来ていることが分かった。また,環境だけで なく,経済や社会(文化)を意識した生活を送ることが出来ている生徒も多く見られた。 特に,「フェアトレード商品を買うようになった。」「フェアトレードについて調べたリ,商品を 図7 パフォーマンス課題 〇必要な分だけ買って廃棄することがなくなった。 〇食材を適切な場所で保存して,腐らせないようにした。 〇食器についた汚れをふき取ってから洗うようにして,水の無駄遣いを防いだ。 〇エコバックを持参して,レジ袋は出来るだけ使わないようにする。 〇すぐに使う食材は消費期限が近いものを選ぶようになった。 〇値段と品質が見合っているか考えて購入する。 〇必要なものだけ買うようにしてお金の無駄にならないように出来た。 〇原材料を確認する。 〇きちんと認定証マークがついているものを買う。 〇産地を気にしている。 〇加工食品を手作りするようになった。 〇アレルギー表示を見て,安全を確認するようになった。 家庭 6
探したりした。」など,自分の生活が世界と繋がっていることを意識した行動が出来ている生徒も見 られた。このことから,環境への意識は定着したが,経済と社会(文化)への意識は芽生えた段階と言 える。 しかし,「なぜ家庭科を学ぶのか」という問いに対して,以下のような回答が多数得られた。 このことから,多くの生徒が家庭科の学びと持続可能な社会づくりの関わりを意識していることが分か った。 (4)保護者アンケートから 生徒に書かせた記述式アンケートに保護者の欄を設け,「中学校家庭科の学習内容について,ご家庭で 話題になること,お子様がご家庭で活かせていることがあれば教えてください。」と質問し,回答を求め た。 保護者から上記のような回答があり,生徒が学んだことを家族に伝え,家庭で実践しようとしているこ とが分かった。また,保護者のコメントが生徒の気持ちや行動に良い影響を及ぼしているため,生徒の目 に触れる形で保護者のコメントを募集するようにしていきたい。 (5)研究協議会から 授業後の研究協議会では参加者から多くの意見をいただき,実験・観察・資料分析を取り入れた授業展 開は,科学的根拠のある知識を習得させる効果があり,多くの学びを得られるということを,授業を通し て共有できた。 6 成果と課題 研究発表会後も図8のように PDCA サイクルを用い,他教科との関連も再検討してシラバスを見直し, 授業内容の改善を継続した。そこで,他教科との繋がりを効果的に活かすために,指導する側が他教科の カリキュラムを把握することが大切だと考え,他教科の授業見学をし,他教科のシラバスを用いて履修時 期の検討を行った。また,ESD の視点である持続可能な社会の構築のための3つの側面の環境と経済,社 会(文化)との繋がりを深く考えさせ,自分の生活において具体的な行動が実践できる授業づくりをして いくために,単元構成を見直し,SDGs を意識して環境だけでなく,経済・社会(文化)についても深く 考えられるようにしていこうと考え,実践を続けた。 〇将来より良い家庭を築き,衣・食・住生活を充実させ,持続可能な社会を実現させるため。 〇衣・食・住生活を学ぶ中で SDGs などと結び付けて考えて,持続可能な社会をつくっていく ことができるようになるため。 〇買い物をする時,旬のものを見たり,産地を調べたり学習したことを思い出しながら会 話することが増えました。ゴミを減らすことも一緒に考え,リサイクルを頑張っています。 〇我が家では ESD の視点で考えると,特に食品ロスをしないことが話題になっています。 手作りのお弁当,食品の有効活用など家庭の味や家庭の団らんを大事にしています。 〇子供から食材の生産地や旬について質問されることが多くなりました。 ○生徒のまとめの発表を聞くと,想像以上の広く深い視点で捉えており,深い学びが実現 できていると感じた。学習の仕方にも多くの工夫があり,大変刺激された。 ○実験や観察,データなどを使って学習しており,結果や事実を示して,判断させようと していた。又,単なる知識ではなく,体験をもとに長期記憶になるように配慮されていた。 ○生徒の発言の中に他教科の学習(社会)のことや,食生活だけでなく高齢者を思いやっ たりするなど,物事を多面的にみて,“自分なりの答え”を見つけ出せていて,深い学びが 実現できていたと感じた。 家庭 7
このように研究発表会後に継続して授業実践を行い,本年度のアンケート「食生活で実践しているこ と」で,以下のような回答があり,自らの生活をより豊かにしていく工夫をするなど,経済・社会(文 化)を意識した行動がみられる生徒が多くなった。 また,生徒の振り返りはもちろんだ が,保護者のアンケートによる回答が 家庭での生徒の姿をみるのに有効であ った。そこで,学んだことが家庭でど れだけ実践出来ているかを知るため に,アンケートや家庭科通信の返信欄 などから,折に触れ保護者からのコメ ントをいただけるよう工夫している。 引き続き,評価分析してカリキュラム 編成の見直しに役立てていきたい。 さらに,パフォーマンス課題のテー マや評価のためのルーブリックの検討 も引き続き行って,教科のカリキュラムマネジメントに役立てたいと考える。 技術・家庭科(家庭)は家庭生活と密接に関わる教科であり,技術・家庭科(家庭)の学びを家庭で実 践し, 社会を支える一員としてその学びを社会・世界に発信していくことが重要である。それが持続可 能な社会をつくることに繋がると考えるため,今後も授業研究を続けていきたい。 参考・引用文献 1)文部科学省(2008)『中学校学習指導要領』 2)文部科学省(2008)『中学校学習指導要領解説 技術・家庭編』 3)文部科学省(2017)『中学校学習指導要領』 4)文部科学省(2017)『中学校学習指導要領解説 技術・家庭編』 5)国立教育政策研究所(2016)『資質・能力[理論編]』東洋館出版 6)国立教育政策研究所(2015)『「持続可能な開発のための教育(ESD)」はこれからの世界の合い言葉 みん なで取り組む ESD!-持続可能な社会づくりを目指した取組に向けて―』 7)佐藤園(2010)『家庭科授業構成研究』家政教育社 8)佐藤園(2015)『今なぜ,教科教育なのか』文渓社 9)西岡加名恵(2015)『逆向き設計で確かな学力を保障する』明治図書 10)西岡加名恵(2016)『「資質・能力」を育てるパフォーマンス評価』明治図書 11)岡山大学教育学部附属中学校(2016)『研究紀要 第 51 号』 12)西原尚江,井元りえ,妹尾理子,志村結美,佐藤裕紀子,大矢英世,加賀恵子,佐藤典子,楢府暢子(2017) 『家庭科における ESD の構成概念および学習内容の明確化―小学校・中学校・高等学校の教科書分析を 基に―』日本家庭科教育学会誌,60(2):76-86 13)海老原清,渡邊浩幸,竹内弘幸(2017)『栄養科学シリーズ NEXT 食べ物と健康,食品衛生 食品加工・ 保蔵学』講談社 図8 ○環境のためだけでなく,地域経済や農業の活性化のために地産地消を心がけている。 ○食品をすぐに使うときは消費期限が短く,安いもの(割引のもの)を買う。 ○料理をおいしくするために食材の切り方や料理のアイデアなどを調べ,食品ロスを減らすよ うにしている。 ○余った食品などは加工すると同時に食のバリエーションを増やし,食生活を楽しむようにし ている。 家庭 8
資料1
本 時 案 (計画 第三次の 2)
目 標
〇実験や観察を通して,加工食品の良さに気づくことができる。【知識・技能】 〇持続可能な社会の構築の視点で加工食品と食生活との繋がりを意識し,行動しよ うとしている。【主体的に学習に取り組む態度】学 習 活 動
指導・支援と留意点
評 価 等
1 前 時 の学 習 を 振 り返り,本時のねら いを確認する。 2 実 験 や観 察 を 通 して,加工の意義に 気づく。 (1)加工の良さに気づ くために,加工実験 を行う。 (2)実験による食品の 変化を観察し,加工 の良さに気づく。 (3)6種類の加工食品 を観察し,加工方法 や特徴から,加工食 品の良さに気づき, 共有する。 1 生鮮食品について質問をすることで,前時の復 習をする。朝食の画像を提示し,身近な食品から 加工食品に気づけるようにする。 2 加工の意義に気付けるように,加工食品の良さ に気づきやすい身近な加工実験を準備する。 (1)加工実験を行うことで,加工方法の科学的根拠 を 明らかにし,加工の良さに気づきやすくする。 (2)加工による食品の変化に気づけるように,五感 をつかって観察し,考察するように声をかける。 「なぜ加工をするのか?」をたずねることで, 加工の良さについて考えやすくする。 (3)実験以外の加工の良さを見つけられるように, 6 種類の加工食品を提示する。 加工前の食品 加工後の食品 大豆 きな粉 大豆 納豆 大豆 豆腐 牛乳 ヨーグルト 牛乳 カッテージチーズ 牛乳(生クリーム) バター 実験や観察を通して加工食品の良さをみつけ,持続可能な社会との繋がりを考えよう 資料提示:納豆,ヨーグルト,きな粉,豆腐 (納豆菌,乳酸菌による発酵)(炒って擂る) (凝固剤によるたんぱく質と油分の凝固) 実験1:牛乳からカッテージチーズを作る (酸によるたんぱく質の凝固) 実験2:生クリームからバターを作る (クリーム中の脂肪球の凝集) 家庭 93 資料から,目に見 え な い 加 工 の 良 さ が あ る こ と に 気 づ く。 (1) ヒントカードか ら,目に見えない加 工の良さに気づく。 (2)気づいた加工の良 さを発表し,共有す る。 4 持 続 可能 な 社 会 の 構 築 の 視 点 で 加 工 食 品 の 良 さ と 食 生 活 の 繋 が り を 考 え,発表する。 5 本 時 のめ あ て を まとめる。 6 本 時 の学 習 を 振 り返り,次時の学習 の見通しをもつ。 3 目で確認できない加工の良さを見つけ,加工の 良さをさらに深められるように,補足資料を提示 する。 (1)補足資料をヒントカードとして,提示する。 〇大豆と大豆製品の栄養成分表示のグラフ 〇牛乳と乳製品の栄養成分表示のグラフ ヒントカードを資料として提示することで,観 察や実験では気づきにくい点を補う。 ・食べやすくなる・食感がよくなる ・おいしくなる ・栄養価があがる ・腸内環境を整える (2)資料から気づいた加工の良さを発表すること で,多くの意見を共有し,自分の考えを深められ るようにする。 4 本時の学習内容を確認し,実験や観察,資料か ら考察した加工食品の良さから,持続可能な社会 の構築の視点で,加工食品がもつ可能性(資源の 有効利用,経済性の価値など)について気づき, 加工食品と食生活の繋がりについて理解できる ようにする。 〇発表することで,多くの意見を共有し,自分の 考えが深められるようにする。 ・保存性が高まる。 ・見た目が悪い食材も気にならなくなる。 ・おいしくない食材もおいしくできる。 ・栄養価が良くなる。 ・食べやすくなる。(消化が良くなる。) ・別の食べ物になる(食品群が変わる) ・天候に左右されず供給できる。 ・経済性の価値を生み,人間の健康と福祉に寄 与する。 5 加工食品と食生活の繋がりを意識した行動に ついて,自分の言葉でまとめるように指示する。 6 本時の振り返りを振り返りシートに記入する。 〇次時は林檎ジャム作りを通して,加工食品に ついて深めていくことを告げる。 知識・理解 実 験 や 観 察 を 通 し て,加工食品の良さ に 気 づ く こ と が で きる。(ワークシー ト・話し合い・発表) 主体的に学習に取り組む態度 持 続 可 能 な 社 会 の 構 築 の 視 点 で 加 工 食 品 と 食 生 活 と の繋がりを意識し, 行 動 し よ う と し て いる。(ワークシー ト・発表) 家庭 10