透析 患者 におけ る腹腔 鏡下 胆嚢摘 出術 の経験
岡 山 中央 病院 内科 高 井 研 一,谷 合 一 陽,高 取 克 彦, 大 田 祥 子,国 富 三 絵 岡 山 中央 病 院外科 松 岡 順 治,黒 瀬 〓 雄,小 島 一 志 (平成8年3月19日 受 稿) Key words:腹 腔 鏡下 胆嚢 摘 出術,透 析 緒 言 透析 技術 の進 歩 は透析 患 者 の長期 生 存 を可能 に したが,そ れに伴 い外 科 的 治療 の機会 も増 えて きて いる.胆 石症 は 日常 よ くみ られ る疾 患 であ るが,透 析 患者 もその例 外 では ない.欧 米 で開 発 された腹腔 鏡下 胆嚢 摘 出術1)2)は種 々の利 点か ら今 や 胆石症 治療 の 主 流 とな ったが,貪 血や 出 血傾 向を有 す る透 析 患者 に対 して腹腔 鏡下 胆嚢 摘 出術 を施行 す るこ とは相 対 的禁 忌 とされ てお り,術 前,術 中術 後 に細 心 の注 意 をは ら う必要 があ る.今 度我 々 は胆石 症 を合併 した透析 患 者 に対 して腹 腔鏡 下胆嚢 摘 出術 を施 行 したの で, その経験 を報 告 す る. 症 例 表1に 著者 らが経験 した3症 例 を まとめ た. 以 下 に各症例 の概 略 を述べ る. 症例1. 40歳 女性 透 析 歴3年 現 病歴 並 びに経 過:平 成2年 右 季肋 部痛 が 出 現 ・諸検査 にて 胆石症 と診 断 された.以 後 度 々 腹痛 を繰 り返 して いた.腹 痛 が次 第 に増 強す る ため 手術適 応あ り と判 断,平 成3年5月 腹 腔鏡 下胆嚢 摘 出術 を施 行 した.術 式 は著者 らがす で に報 告3)した方 法 で行 った.術 前術 後 に抗凝 固剤 と して メ シル酸 ナ フ ァモス タ ッ トを使 用 した. 術 後4日 目にはペ ン ロー ズ ドレー ンを抜 去 した. 合 併 症 な く経 過 良 好 に 推 移 し術 後11日 目 に 退 院 し た. 症 例2. 58歳 女 性 透 析 歴9年 現 病 歴 並 び に 経 過: SLE腎 症 に て 昭 和59年 透 析 導 入.数 年 前 よ り右 背 部 痛 あ るた め 諸 検 査 施 行,胆 石 症 と診 断 さ れ た,術 前 のERCP像(図 1)で は 胆 嚢 は 造 影 され ず,疼 痛 も 増 強 す る た め 手 術 適 応 あ り と判 断 さ れ 平 成5年4月 腹 腔 鏡 下 胆 嚢 摘 出術 を施 行 し た.術 式 は 症 例1と 同様 で,抗 凝 固剤 と して 術 前,術 後 に メ シル 酸 ナ フ ァ モ ス タ ッ トを使 用 し た.合 併 症 な く経 過 良 好 に 推 移 し術 後12日 目 に 退 院 した. 症 例3. 80歳 男 性 透 析 歴5年 表1 症 例 現 病 歴 並 び に 経 過:平 成6年11月 未 に 嘔 吐 心 窩 部 痛 自覚,黄 疽 も 認 め られ た た め 入 院 と な る. 体 温38.9℃,血 液 検 査 所 見 は 白 血 球11,300, GOT 422I,U. GPT 408I,U. ALP 275I,U.総 ビ リル ビン5.1mg/dl,血 中 ア ミラー ゼ349l ,uで あ っ た.腹 部 超 音 波 で は 胆 嚢 壁 も肥 厚 して い た(図2).急
156 高 井 研 一:他7名 性 胆 嚢 炎 と 診 断 し 緊 急 の 経 皮 経 肝 胆 嚢 ドレナ ー ジ を施 行 し た.吸 引 胆 汁 液 か らMRSAが 検 出 さ れ た.抗 生 剤 投 与 後ERCPを 施 行,総 胆 管 内 の 小 結 石 を内 視 鏡 的 乳 頭 切 開 術 に よ り摘 出 した. 術 前 のERCP像(図3)で は 胆 嚢 内 に 小 結 石 を 多数 認 め た が,総 胆 管 内 に は結 石 は 認 め な か っ た.症 状 軽 快 後12月20日 型 通 り腹 腔 鏡 下 胆 嚢 摘 出 術 を施 行 し た.術 前,術 後 抗 凝 固 剤 と して メ シル 酸 ナ フ ァ モ ス タ ッ ト を使 用 した.翌 年1月 3日 に は ドレ ー ン か らの 排 液 を 認 め な くな り, こ の 時 点 で 外 科 的 処 置 を終 了 した.図4に 摘 出 した 胆 嚢 と 多数 の 胆 嚢 内 結 石 を 示 す. 図1. 症 例2の 術 前 のERCP像 胆嚢 は造 影 され て い ない.総 胆 管 に は結 石 は認 め られ な い. 考 察 腹 腔 鏡 下 胆 嚢 摘 出 術 は術 後 疼 痛 が きわ め て 少 な い.手 術 創 が ほ と ん ど残 ら な い,早 期 離 床 が 可 能 で あ る等 の い くつ か の 利 点 を 有 して い る.そ の た め 欧 米 は も と よ りわ が 国 に お い て も急 速 に 普 及 し て い る.我 々 も1991年 よ り腹 腔 鏡 下 胆 嚢 摘 出 術 に と り組 み そ の 有 用 性 に つ い て 又 そ の 合 併 症 に つ い て 報 告 し て き た3)4). 図2. 症 例3の 入 院時 腹 部 超 音 波像. 胆 嚢 内に 小結 石 を 多数 認 め る.胆 嚢 壁 は 肥 厚 してい る. 図3. 症例3の 術 前 のERCP像. 胆 嚢 内に小 結 石 を 多数 認 め る.総 胆 管 内 に は 結 石 陰影 は認 め られ な い. 元 来慢性 腎不全 患 者は 出血傾 向が あ り,胆 石 症 に対 しては そ の手術 適 応 は慎 重 に決 め られ て
い た .ま た,最 近 に な り体 外 衝 撃 波 結 石 破 砕 術 が 注 目 さ れ て き て い る.体 外 衝 撃 波 結 石 破 砕 術 は開 腹 操 作 を必 要 とせ ず 有 用 な方 法 で は あ るが, そ の 適 応 に は 限 界 が あ る.そ の た めminimally invasive surgeryの 観 点 か ら腹 腔 鏡 下 胆 嚢 摘 出 術 の 有 用 性 が 注 目 さ れ,各 施 設 で 透 析 患 者 や CAPD患 者 に 対 して 腹 腔 鏡 下 胆 嚢 摘 出 術 の 報 告 が 見 ら れ る様 に な っ て き た5)6).今 回 著 者 らが 経 験 した3例 の う ち2例 は 年 齢 が40歳, 58歳 と比 較 的 若 く,術 中,術 後 共 に 特 に トラ ブ ル も な く 順 調 に 経 過 した. 3例 目 は ま ず 高 齢 で あ っ た こ と,次 に胆 嚢 炎 の 合 併,総 胆 管 結 石 症 の 合 併 に よ り術 中組 織 の 脆 弱 性 の た め 肝 床,胆 嚢 縁 よ り の 出 血 に悩 ま され た.し か し,術 後 は 通 常 よ り 外 科 的 処 置 が 少 し長 び い た が さ した る合 併 症 も な く経 過 し た.中 島 ら も7)報告 し て い る様 に 腎 不 全 患 者に 対 す る腹 腔鏡 下手 術 を施行 す る際 には 出血傾 向 の みな らず組 織 の脆 弱性 等 も存在 す る ため,臓 器 の把持 に は細心 の注意 をは らい,そ の剥 離 は慎重 に行 い,出 血 した際 に は丁 寧 な止 血操 作 を心掛 け る等 すべ て に充分 な 注意 をは ら う必 要 があ る.そ うす るこ とに よ り腹腔鏡 下 胆 嚢摘 出術 は透 析 患者やCAPD患 者に も充分 耐 え うる術 式 と考 え る. 図4. 症 例3の 摘 出 した 胆嚢 と多数 の 色素 石 結 論 3名 の 透 析 患 者 に 腹 腔 鏡 下 胆 嚢 摘 出 術 を 施 行 した.術 後 問 題 とな る 合 併 症 も な く経 過 し た. 腹 腔 鏡 下 胆 嚢 摘 出術 は 胆 嚢 摘 出 を 必 要 とす る透 析 患 者 に 対 してminimally invasive surgeryと
して の 観 点 か ら有 用 な 術 式 と考 え ら れ る.
文 献
1) Dubois F, Icard P, Benthelot G and Levard H: Coelioscopic Cholecystectomy. Prelimnary report of 36 cases. Ann Surg (1990) 211, 60-62.
2) Perissat J, Collet D and Belliard R: Gall stones: laparoscopic treatment-cholecystectomy, cholecys tectomy and lithotripsy. Surg. Endosc. (1990) 4, 1-5.
158 高 井 研 一:他7名
3) Kurose M, Hamazaki K, Takai K, Hayashi N, Kaneshige T, Yerdel MA, Sakagami K, Mimura H and Orita K: Laparoscopic cholecystectomy report of 30 cases. Hiroshima J Med Sci (1992) 41, 43-47.
4) Kurose M, Hamazaki K, Matsuoka J, Takai K, Kaneshige T, Mareira LF, Mimura H and Orita K: Common bile duct injury during laparoscopic cholecystectomy. Acta Med Okayama (1993) 47, 351-353.
5) 佐 藤 良 延,宮 形 滋,原 田 忠,小 暮輝 明,西 沢 理,由 利 康裕,藤 枝 信 夫:胆 石 症 を有 す るCAPD患 者 に対 す る腹 腔鏡 下 胆 嚢 摘 出術 の経 験.透 析 会 誌(1994) 27, 1087-1090.
6) Holley JL, Udekwu A, Rault R and Pirarino B: The risks of laparoscopic cholecystectomy in CAPD compared with hemodialysis patient. Peritoneal Dialysis International (1994) 14, 395-396.
7) 中 島一 郎,佐 藤純 彦,星 野 智 昭,小 池 太郎,赤 松 真,新 開真 人,春 口洋 昭,佐 藤 雄 一,北 島久視 子,君 川 正 昭,唐 仁 原全,中 川 芳彦,渕 之上 昇 平,寺 岡 彗,阿 岸 鉄 三,太 田和 夫:腎 不全 患 者 に対 す る腹 腔鏡 下 外 科 手 術.腎 と透 析(1994) 36, 66-67.
Laparoscopic
cholecystectomy
in 3 cases
of hemodialysis
patients
Kenichi
TAKAI, Kazuhi TANIAI, Katsuhiko
TAKATORI,
Sachiko
OHTA, Mie KUNITOMI, Kazushi
KOJIMA,
Masao KUROSE and Junji
MATSUOKA
Okayama Central Hospital 2-18-19
Hokancho
Okayama 700, Japan
Laparoscopic cholecystectomy has proven to be a safe and effective treatment for sympto matic gall stone disease. However, laparoscopic cholecystectomy in hemodialysis patients is considered to be relatively contraindicated because of anemia and bleeding tendency. We performed laparoscopic cholecystectomy in three patients being treated by hemodialysis for chronic renal failure. No significant complications were observed after surgery. Laparoscopic cholecystectomy should be considered for hemodialysis patients requiring cholecystectomy.