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3Dメッシュを表裏反転して用いる腹腔鏡下閉鎖孔ヘルニア修復術 第77巻08号1881頁

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(1)

  臨床経験

3Dメッシュを表裏反転して用いる腹腔鏡下閉鎖孔ヘルニア修復術

高知赤十字病院外科・呼吸器外科

笹   聡一郎  山 井 礼 道  大 西 一 久 谷 田 信 行  藤 島 則 明  浜 口 伸 正

 閉鎖孔ヘルニアの治療は膀胱や子宮でのヘルニア門の被覆や人工膜材でのヘルニア門 の被覆が報告されている.しかし,再発の報告も散見され,確立した治療方法はない.

当施設では鼠径ヘルニアに対する第一選択術式としてTAPPを行っており,閉鎖孔ヘ ルニアも腹腔鏡下での修復を第一選択としている.腹腔鏡下での修復を行った 6 例に対 し,3D MAXTMLightMesh(以下 3Dメッシュ)を表裏反転してヘルニア門を修復した.

骨盤 3D-CTを用いて閉鎖筋膜面とHesselbach三角がCooper靱帯においてなす角度を 計測したところ,約160°で,3Dメッシュ長軸での弯曲を計測したところ,ほぼ同角度 であり,表裏反転することによって解剖学的に自然な形で閉鎖孔ヘルニア門を被覆でき た.また,メッシュの形状が保持されることから最小限の固定でヘルニア門の被覆が可 能であり,本疾患に対する手術として本法は非常に有用と思われた.

索引用語:腹腔鏡下閉鎖孔ヘルニア修復術,3Dメッシュ,表裏反転

はじめに

 閉鎖孔ヘルニアは痩せ型の高齢女性に好発し,全鼠 径部ヘルニアの0.07%とまれな疾患ではあるが,日常 臨床においてしばしば経験する1)~3).イレウスや下肢 痛,大腿痛の原因検索としてCTを撮像して診断され る場合が多く,本疾患の治療は腹腔内臓器を用いたヘ ルニア門の被覆や,人工膜材を用いたヘルニア門の被 覆が報告されているが,確立された治療法はない.今 回,われわれは腹腔鏡下での修復を行った 6 例に対し,

3Dメッシュを表裏反転してヘルニア門を修復するこ とで良好な術後経過を得ることができた.医学中央雑 誌で「閉鎖孔ヘルニア」「腹腔鏡下修復」をキーワー ドに1986年から2016年の論文報告(会議録を除く)を 検索した結果,本疾患に対する腹腔鏡下修復術におい て,シートの形状や特性,解剖学的有用性に言及した 報告は存在しなかった.本法を,3Dメッシュの目印 であるMマークが逆になることから,「逆M法」と名 付け,その有用性について解剖学的,文献的考察を加 え報告する.

対象および方法

 対象:2014年 3 月から2015年12月の期間で,当院に て閉鎖孔ヘルニアに対し,腹腔鏡下修復術を施行した 6 例について検討を行った.イレウスの原因精査のた めCTを撮像したところ,閉鎖孔ヘルニア嵌頓を認め た.術前に整復できた症例に対しては後日待機手術を 行ったが,腸管壊死を強く疑った症例に対しては緊急 手術を行った.術者は卒後 5 年目から35年目の普段か ら鼠径ヘルニアに対してTAPPを行っている 4 人で あった.

 方法:手術はTAPPと同じポートセッティングで 行った(Fig. 1A).閉鎖孔ヘルニア門を中心に 3Dメ ッシュが留置できる範囲の腹膜を剥離し,本来鼠径ヘ ルニアで用いるものと同側の 3Dメッシュを表裏反転 して留置した(Fig. 1B).3Dメッシュは閉鎖孔と大 腿管を中心とし,外側は内鼠径輪にかかる程度,内側 は 3Dメッシュ先端をレチウス腔に沿わせ,たわみが 生じないよう展開した.また,閉鎖動静脈神経や外腸 骨動静脈を損傷しないように注意してCooper靱帯と 下腹壁動静脈の左右にタッカーで固定した(Fig. 2).

腹膜は 3 - 0VICRYL(15cm)を用い,連続縫合にて 閉鎖した.

 2016年 4 月28日受付 2016年 6 月 1 日採用  〈所属施設住所〉

  〒780-8562 高知市新本町 2 -13-51

(2)

Fig. 1 ポートセッティングと 3D

メッシュの弯曲角度

 A:ポートセッティング(右側ヘルニア).

 B:BARD 3D Max Light[M] (右用).

 a:通常の用い方,b:本法の用い方(表裏反転),X:160°.

A B

Fig. 2 術中所見(右閉鎖孔ヘルニア)

 A:陥頓整復後.

 B:腹膜剥離後.

 C:メッシュ固定後(3Dメッシュを表裏反転).

 a:閉鎖孔,b:肛門挙筋,c:閉鎖動静脈,d:Cooper靱帯,e:大腿管,f:下腹壁動

静脈. A

B C

(3)

結  果

 症例はすべて女性で,年齢は83~98(平均86±5.6)

歳であった.術前整復できた症例には,超音波ガイド 下に整復を行った症例と,自然に整復されていた症例 があった.術中整復を行った 2 例に対しては,水圧法 での整復を行った.待機手術症例と緊急手術症例は,

それぞれ 3 例ずつであった. 3 例で両側発生を認め,

2 例で大腿ヘルニアの合併を認め,いずれも不顕性ヘ ルニアであった.手術時間は60~175(平均111.7±

42.7)分,術後在院日数は 2 ~12(平均6.8±4.1)日 であった(Table 1).全例で術中目立ったトラブル は認めず,術後合併症も認めなかった.

考  察

 閉鎖孔ヘルニアは,近年高齢化に伴い報告例が増え ており,高齢で多産,痩せ型女性に多いとされている が,若年者での発症報告例も存在する4).下肢痛と股 関節痛を訴えることが多く,その症状から,整形外科 を受診することもある.触診や視診での診断は困難で,

腸管嵌頓症例において診断が遅れると,腸管の壊死や 穿孔に至り,それに起因する感染症で重篤な経過をと ることもある.閉鎖神経圧迫症状がなくても,大腿を

後方に伸展さらに外転または内旋することによって大 腿内側の疼痛が出現すること(Howship-Romberg sign:以下HRS)は,本疾患に特徴的な所見であるが,

HRS陽性率は20~60%と,必ずしも症状を呈すると は限らないことも診断を遅らせる原因の一つと考え る1)2).スクリーニングCTで診断されることも多く,

特徴的な所見は,恥骨筋と内外閉鎖筋の間に嵌頓した 腸管が境界明瞭な類円形腫瘤として描出されることで ある1)~3)

 閉鎖孔ヘルニアの治療は手術が第一選択ではある が,定型的なものは確立されておらず,ヘルニア門の 処理についても,無処置,腹膜縫縮,閉鎖膜の縫合閉 鎖,骨盤内臓器や人工膜材によるヘルニア門の被覆が 報告されている4)5).従来は下腹部正中切開による経 腹的アプローチを選択することが多かったが,近年で は鼠径法や正中からの腹膜前腔アプローチなどの腹膜 外アプローチや,経腹的アプローチでも腹腔鏡手術を 選択することが多くなっており,単孔手術による修復 も報告されている5)6).嵌頓腸管の整復方法として,

用手的整復や超音波ガイド下での整復成功例が報告さ れており,自験例においても 2 例で超音波ガイド下に 整復し,緊急手術を回避できた.整復できなかった症 例に対しては,術中整復方法として牽引法や水圧法,

用手圧迫法が挙げられるが,腸管損傷を予防するため にネラトンカテーテルを用いた水圧法併用による整復 が理想と考える7)

 腹腔鏡下手術は,腹腔内全体を観察できることから 開腹移行の際,最小限の切開で対処することができる.

松本らの集計によると,腹腔鏡下手術を行った46例中 開腹手術に移行したものは 3 例であり,いずれも嵌頓 例で腸切除を行うための小開腹であった 8)9).  閉鎖孔ヘルニア修復を行った患者で再発の報告も散 見され,多くは消化管穿孔症例や腸切除を要した症例 で,腹膜縫縮のみ行った症例であった.しかし,子宮 Table 1 逆 M 法を行った 6 例

No. 年齢 性別 整復方法 緊急・待機 左右・両側 手術時間(分) 在院日数(日) 転帰 備考

1 85 女 USガイド 待機 両側 150 2 退院

2 98 女 USガイド 待機 両側 105 5 退院

3 86 女 自然還納 緊急 両側 175 11 転院 両大腿ヘルニア合併

4 83 女 自然還納 待機 右 60 2 退院 右大腿ヘルニア合併

5 86 女 水圧法 緊急 右 60 9 転院

6 80 女 水圧法 緊急 左 120 12 転院

平均 86 111.7 6.8

標準偏差 5.6 42.7 4.1

Fig. 3 骨盤 3D︲CT

3D

メッシュを展開した際のイメ ージ

 X:160°.

(4)

パッチやメッシュプラグを留置した症例も含まれてお り,メッシュプラグを留置した症例の再発原因として,

サイズ選択が適切でなかったことや,メッシュプラグ の時間経過による収縮が原因とも考えられた.さらに,

メッシュプラグを閉鎖孔に挿入することで,閉鎖神経 圧迫に起因したHRSを引き起こす可能性や,固定の 際に閉鎖神経を損傷する危険性もあり,容易な手技では あるが危険性を認識する必要もあると思われた10)~12). 逆に,シート状メッシュはヘルニア門を含めて広範囲 に展開でき,併存の多い大腿ヘルニア門の被覆も可能 である13).他のシート状メッシュ(PROLENE®Soft PolypropyleneMesh,パリテックス™アナトミカル メッシュ)を用いた報告も存在するが,メッシュのト リミングを要したり,メッシュ自体が形状を保持でき ないため,メッシュ固定のために必要以上の腹膜剥離 を必要とし,手技が煩雑になる可能性があると思われ た.

 自験例では,閉鎖孔ヘルニア門を中心にメッシュを 被覆する際,必要となる解剖学的凹凸と,3Dメッシ ュ弯曲の関係性について調べた.閉鎖筋膜面とHes- selbach三角がCooper靱帯においてなす角度を計測す る際,骨盤 3D-CTを用い,恥骨結合背面と上前腸骨 棘を結ぶ線とCooper靱帯とのなす角度で代用したと ころ,約160°であった(Fig. 3).さらに 3Dメッシ ュの長軸で弯曲を計測したところ約160°で,表裏反転 させることでメッシュ弯曲が解剖学的に合致した

(Fig. 1B).また,メッシュ固定に制限がある中で 3D メッシュは形状が維持されることから,最小限の固定 で確実にヘルニア門を被覆できた(Fig. 2B).シート 状メッシュでも立体的な弯曲があり,なおかつリング 付加型であることによって形状が維持されることで,

安全かつ容易にヘルニア門を被覆できると思われた.

 内外鼠径ヘルニア合併症例については,シート状メ ッシュを重ねて用いることも可能である.さらに,大 きなメッシュを用いて 1 枚でmyopectineal orifice(以 下MPO)を覆うことも考えたが,同時に内外鼠径ヘ ルニア門を十分に覆うためには,メッシュ外側を腹壁 に沿って固定する必要があり,メッシュのたわみが増 強し,術後の違和感やメッシュのずれを引き起こす原 因にもなりかねない.また,MPOを中心にメッシュ を展開すると,閉鎖孔の被覆が十分ではなく,メッシ ュ収縮に伴い,再発の危険性が高まる.本疾患はあく まで閉鎖孔ヘルニアであり,合併の多い大腿ヘルニア を同時に修復する必要性は高いが,内外鼠径ヘルニア

門の被覆は症例に合わせて検討する必要があると考え る.また,鼠径法や開腹法で本法を試みた経験はない が,コストや手技の安定性を鑑みて適応を検討してい くことも今後の課題である.本疾患は両側発生や大腿 ヘルニアの併発も多いことから,非嵌頓症例に対して 腹腔鏡下修復術を行った症例も多数報告されてい

14)~17) .簡便な手技かつ低侵襲であることより,非

嵌頓症例についても,HRS陽性患者への治療に本術 式を検討する価値はあると考える.

結  語

  3Dメッシュを表裏反転して用いる腹腔鏡下閉鎖孔 ヘルニア修復術(逆M法)について報告した.大腿 ヘルニア合併症例でも十分にヘルニア門を被覆でき,

解剖学的に自然な形で留置できることからも,現存す るメッシュでは本法は非常に有用と思われた.

 本論文の要旨は,第30回四国内視鏡外科研究会(2016 年,高松)で発表した.

文  献

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(5)

ルニアに対するメッシュ・プラグによる腹腔鏡下 修復術の 1 例.日内視鏡外会誌 2008;13:417

-421

11) 厚井志郎,佐藤典宏,森 泰寿他:閉鎖孔ヘルニ ア13例の検討.産業医大誌 2013;35:273-277 12) 山本孝夫,森内博紀,西脇由朗:閉鎖孔ヘルニ ア20症例の検討.日腹部救急医会誌 2007;27:

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13) 吉井修二,柏木秀幸,高橋直人他:腹腔鏡下修復 術を施行した両側閉鎖孔ヘルニアの 1 例.日外科 系連会誌 2011;36:90-94

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A NEW METHOD OF LAPAROSCOPIC OBTURATOR HERNIA REPAIR USING REVERSED 3D MESH

 

Soichiro SASA, Hiromichi YAMAI, Kazuhisa ONISHI, Nobuyuki TANIDA, Noriaki FUJISHIMA and Nobumasa HAMAGUCHI

Department of Surgery, Kochi Red Cross Hospital  

  For the treatment of obturator hernia, coating the hernia orifice at the bladder and uterus as well as coating of the hernia orifice by artificial membranes has been reported. However, relapses have been oc- casionally reported, and there are no established treatment methods. At our facilities, we have been im- plementing TAPP as the first choice for the surgery for groin hernias ; moreover, for obturator hernia, we have selected laparoscopic repair as the first choice. For 6 cases on whom we conducted a laparoscopic repair, we reversed 3D MAX Light Mesh (hereinafter called 3D mesh) to repair the hernia orifice. We measured the angle created by the obturator hernia and the Hasselbach triangle at the Cooper ligament by using a pelvic 3-dimensional computed tomography scan, and it was found to be about 160°. When we measured the curvature at the 3D longitudinal axis, it was almost the same angle, so that by reversing the mesh, we were able to coat the obturator hernia orifice in an anatomically natural shape. Moreover, be- cause the shape of the mesh could be maintained, it was possible to coat the hernia orifice by fixing at a minimum level. Therefore, the present method seems to be very useful as a surgery for this condition.

Key words:laparoscopic obturator hernia repair,3D mesh,reversed

 

参照

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