氏 名 渡邊 敦 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博4甲 第164号 学 位 授 与 年 月 日 平成27年3月18日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻
学 位 論 文 題 名 In vivo and in vitro resistance of t(17;19)-acute lymphoblastic leukemia to chemotherapeutic agents mediated by P-glycoprotein as a downstream target of E2A-HLF chimera. (17;19 転座陽性急性リンパ性白血病は E2A-HLF 融合遺伝子の下 流標的であるP 糖蛋白を介して in vivo と in vitro で化学療法剤 に抵抗性を示す) 論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 桐戸 敬太 委 員 准教授 長井 薫 委 員 講 師 篠﨑 陽一
学位論文内容の要旨
(研究の目的) 小児の急性リンパ性白血病(ALL)のうち、17;19 転座 t(17;19)と 1;19 転座 t(1;19)は、19 番染色 体上のE2A遺伝子が、前者ではHLF遺伝子と後者ではPBX1 遺伝子と融合し、それぞれE2A-HLF と E2A-PBX1 を形成している。t(1;19)-ALL の予後は化学療法の進歩によって著しく改善したが、 t(17;19)-ALL の予後は依然として極めて不良であり、E2A-HLFが治療抵抗性に関与していると推測 される。我々は t(17;19)-ALL において E2A-HLF が細胞障害因子の TRAIL に対する受容体の発現 を誘導し、その結果として同種造血幹細胞移植によってTRAIL を介した移植片対白血病効果が期待 できる可能性を報告した。したがって、t(17;19)-ALL において、同種造血幹細胞移植の準備が整う までの少なくとも約半年間に、化学療法で寛解状態を維持することが臨床的に重要である。そこで本 研究では、t(17;19)-ALL の化学療法抵抗性の機序の解明とその克服を目指して解析を進めた。 (解析対象) (1)予後因子の解析は、既報の t(17;19)-ALL 症例 21 例と新規発症の 1 例を対象とした。 (2)薬剤感受性の解析は、t(17;19)-ALL 細胞株の 4 株と t(1;19)-ALL 細胞株の 11 株を対象とした。 (方法) (1)t(17;19)-ALL 症例の予後因子を Kaplan-Meier 法で解析した。time RT-PCR で定量解析し、同じ東京小児癌研究グループ L-1406 プロトコールで加療された t(1;19)-ALL19 例の MRD 推移と比較した。
(3)daunorubicin(DNR)と vincristine(VCR)によるアポトーシスの誘導を AnnexinV/7-AADを用いた flow cytometry 法で解析した。
(4)DNR 、 VCR 、 dexamethasone(Dex) 、 L-asparaginase(L-Asp) 、 mafosfamide(Maf) お よ び cytarabine(Ara-C)に対する各細胞株の IC50値をalamar blue assay 法で測定した。
(5)BCL2 family 遺伝子と、ABC transporter 遺伝子の発現を real time RT-PCR 法で解析した。 (6)P-gp の細胞外汲み出し機能を、calceinAM を用いた flow cytometry 解析で評価した。
(7)P-gp遺伝子のsingle nucleotide polymorphism(SNP)を細胞株から抽出した genomic DNA を用 いてPCR 産物のダイレクトシークエンス法で解析した。
(8) Tyrosin kinase inhibitor(TKI)に対する各細胞株の IC50値をalamar blue assay 法で測定した。
(結果) (1)化学療法のみで加療された全例が 2 年以内に再発し、特に初診時に高カルシウム血症を合併する 症例で早期に再発する傾向を認めた。 (2)寛解導入療法中の MRD 解析では、t(17;19)-ALL 症例は t(1;19)-ALL 症例に比べて著しく高レベ ルのMRD を認めた。 (3)t(17;19)-ALL 細胞株は t(1;19)-ALL 細胞株に比べて、DNR と VCR による細胞死誘導が有意に抑 制されていた。
(4)t(17;19)-ALL 細胞株は t(1;19)-ALL 細胞株と比べて DNR と VCR の IC50値が有意に高く、Dex,
MAF, L-Asp および Ara-C に対しても耐性傾向を示した。寛解導入療法に用いられる 5 剤と、Ara-C を加えた 6 剤について、各薬剤の IC50値の順位をスコア化して合計点を解析したところ、いずれも
t(17;19)-ALL 細胞株は t(1;19)-ALL 細胞株に比べて有意に高値であり、t(17;19)-ALL の化学療法耐 性がin vitro でも確認された。
(5)BCL-2 family 遺伝子の発現レベルは t(17;19)-ALL 細胞株と t(1;19)-ALL 細胞株の間で差を認めな かった。一方、ABC-transporter 遺伝子のうちP-gp遺伝子の発現が t(17;19)-ALL 細胞株で有意に 高く、臨床検体でも同様であった。
(6)P-gp 陽性 t(17;19)-ALL 細胞株の HALO1 では P-gp 阻害剤である nilotinib、verapamil、 cyclosporine A のいずれの添加でも濃度依存性に calcein の蛍光が増強され、P-gp が機能的に作動し ていることが確認された。また、t(17;19)-ALL 細胞株の DNR および VCR に対する感受性も、P-gp 阻害剤との併用で克服された。
(7) t(17;19)-ALL 細胞株において P-gp の発現レベルと SNP 型に関連性は認められなかった。 (8)t(17;19)-ALL 細胞株は、TKI のうち imatinib と nilotinib には耐性で dasatinib に対してはわず かに感受性を示したものの、その感受性はt(1;19)-ALL 細胞株より有意に低かった。 (考察) t(17;19)-ALL では、P-gp によって細胞外へ薬剤が汲み出されることが強い化学療法耐性の一因と 考えられ、P-gp に対する阻害剤を併用することで DNR や VCR に対する抵抗性が部分的に克服され ることが確認された。興味深いことに、P-gp 遺伝子の P-glycoprotein のプロモーター領域には、 E2A-HLF が結合する可能性のある塩基配列が存在することから、E2A-HLF が直接的に P-gp 遺伝 子の発現を誘導している可能性について現在解析中である。
(結論)
t(17;19)-ALL は in vivo においても in vitro でも強い化学療法耐性を示し、その機序として P-gp による薬剤汲み出しが関与していることが明らかになった。従って、P-gp に対する阻害剤を化学療 法に併用することで、t(17;19)-ALL に対する化学療法の効果が高まる可能性が期待される。
論文審査結果の要旨
1. 学位論文研究テーマの学術的意義 本研究は、小児急性リンパ性白血病(ALL)の中でも予後が不良である、t(17;19)転座陽性 ALL を取り 上げ、予後不良に至るメカニズムの解明を試みたものである。論文内では、まず、自施設および国内 の臨床試験において蓄積された症例の臨床データに基づいて、t(17;19)転座陽性 ALL が他のタイプと 比べ、予後が不良であることが示されている。また実際の症例の経過より、この疾患では通常の化学 療法後にも、腫瘍細胞が残存していることが提示された。この現象より、申請者は t(17;19)陽性 ALL 細胞は既存の抗がん剤に対して抵抗性を有することを予想し、株化された細胞株をもとにして、各種 抗がん剤に対する感受性を in vitro で解析した。その結果、こられの細胞ではドキソルビシン(DXR) およびビンクリスチン(VCR)に対する感受性が特異的に低下していることを確認した。この理由とし て、薬剤耐性タンパクである p-glycoprotein(P-gp)に着目し、その発現レベルを比較したところ、 t(17;19)陽性細胞株ではその発現が上昇していることを見出している。この P-gp の発現上昇は、 t(17;19)を有する臨床症例由来の白血病細胞検体でも確認されている。最後に、臨床へのフィードバ ックとして、P-gp の阻害剤作用を有する Nilotinib あるいは Verapamil を併用することにより、抗 がん剤の感受性を回復させうることを示している。 以上、本研究は臨床上の疑問点をもとに、その解明を目指し、さらにはその成果を 臨床にフィードバックすることまで進めることができた点で、完成度が高くまた臨床的にも意義のが ある研究であると評価できる。 2. 学位論文及び研究の争点,問題点,疑問点,新しい視点等 提示されているデータおよび発表に対して、審査員から以下のような疑問点・問題点の指摘があった。 (1)本研究の骨子は t(17;19)陽性 ALL では P-gp の発現上昇をきたし、薬剤耐性を獲得するとのこ とである。しかしながら、P-gp の発現上昇にいたる分子生物学的なメカニズムが明らかになってい ない。この点については、さらなる解析の継続が必要である。 (2)t(17;19)陽性 ALL ではカルシウムの増加も伴うことが多いとの発表であるが、カルシウム濃度 の変化が P-gp の発現や機能に影響する可能性はないのか。 (3)実際の ALL の治療には P-gp の影響を受けにくい L-アスパラギナーゼやサイクロフォスファミ ドなどの薬剤も併用されているにもかかわらず、治療成績が不良であることは、P-gp の発現亢進以 外のメカニズムが関与している可能性を考慮すべきである。 なお、発表者は、これらの指摘に対しても、得られているデータの限界および発表には用いられてい ない実験結果なども交えて適切に対応していた。 3. 実験及びデータの信頼性 研究の手法は的確であり、その原理についてもスライドを用いて解説するなど十分に理解されている と判断された。薬剤感受性のデータについても、複数回の実験を行いそれを統計的に解析したとされており、信頼性は高いと評価できる。 4. 学位論文の改善点 本文中の略語の扱いについて、一部修正が必要な箇所が認められた。また、Figure の提示について もグラフの縦軸、横軸が何を示すかが示されていない箇所があること、また薬剤濃度の提示の仕方が 図ごとに異なっている点の指摘があった。これらの箇所について修正の上、再度学位論文として提出 されることが望ましいと判断された。