症例提示 剣 卓夫医員(内科学 2) 症例: M.Y.60 歳,男性(ID187-486-6 AN1247) 主訴:嚥下困難 現病歴:生来健康であった患者。平成 8 年 7 月 の検診にて胸部異常陰影指摘されるが放置し ていた。平成 9 年 5 月より咳,嚥下困難,体 重減少を来たしたため 7 月 8 日近医受診し た。胸部単純写真上で肺癌が疑われたため, 7 月 29 日当科紹介受診し,精査加療目的に て入院となった(図 1,2)。<第1回入院; 平成 9 年 8 月 1 日∼ 11 月 9 日> 8 月 4 日の気 管支鏡検査にて気管は右方より圧排され著し く狭窄していた。粘膜面は正常で生検と擦過 細胞診からは悪性所見は認められなかった。 8 月 5 日の喀痰細胞診で Class V(未分化癌) であり,遠隔転移を認めなかったため肺癌 (未分化癌)T4N2M0 Stage III B となった。8 月 5 日より 9 月 19 日まで放射線照射(66Gy) を行い,腫瘍の縮小にともない嚥下困難も改 善した。9 月 28 日より両下肢の点状出血が 出現した。血小板 5000/µl で骨髄組織が正常 であり,抗血小板抗体陰性,PAIgG(Platelet Associated IgG)188 ng/107cells(基準値 9–25)にて特発性血小板減少性紫斑病の診断 をうける。プレドニゾロン,ビンクリスチン, アザチプリンにて治療を行い,血小板数の改 善を認めた。(経過表参照) その後は外来 follow されていたが嚥下困 難が平成 10 年 1 月の初め頃より再び出現し, 1 月 4 日に飲水もできなくなったため当院入 院し,6 日に食物残渣嘔吐後より嚥下可能と なり 1 月 10 日退院となる。しかし,3 月 1 日 に同症状が再発したため食道に対するステン ト留置目的にて,3 月 17 日第 3 回目の入院と なった。 既往歴: 20 歳,虫垂炎,日本住血吸虫症によ る慢性肝炎。 家族歴:特記すべきことなし。 患者背景:喫煙 20 本/日(H8 年に禁煙),飲 食歴はなし。 入院時身体所見:身長 170 cm,体重 56.6 kg, BMI 19.3,血圧 103/94 mmHg,脈拍 96 拍/ 第 24 回山梨医科大学 CPC 記録 日時:平成 11 年 2 月 3 日(水)午後 5 時 15 分∼ 6 時 45 分 場所:臨床講堂大講義室 司会:石原 裕講師(内科学 2),川生 明教授(病理学 2)
経過中に血小板減少,イレウスを来した肺癌の 1 例
要 旨: 60 歳の男性。今回の入院(第 3 回目)の 1 年 9 カ月前,検診で胸部異常陰影を発見され, 1 年後に入院,肺癌(未分化癌,T4N2M0,Stage III B)と診断された。放射線照射(66 Gy)により腫瘍は縮小し,嚥下困難も改善されたが,両下肢に点状出血が出現,血小板減少を認め,特発 性血小板減少性紫斑病と診断された。2 カ月前より嚥下困難が再発し,入院。頻回の嘔吐があり, 小腸閉塞の診断でイレウス管を挿入した。入院 2 カ月半後,喀血があり,イレウス管よりも血液 が排出,血圧低下を来して死亡した。剖検の結果,右肺上葉原発の粘液形成型大細胞癌と診断さ れ,癌の食道,胸部大動脈浸潤に起因する大動脈穿通による食道内への出血が直接死因と判断さ れた。両側肺門と縦隔リンパ節に転移があり,血行性転移は回腸にのみ認められ,腫瘍結節の一 部が腸重積の原因であることが判明した。血小板減少の原因については,薬剤(Voltaren SR)の 可能性が指摘された。
分,体温 36.9°C,全身状態は良好,眼瞼結 膜;貧血なし,黄疸なし,頚部リンパ節;触 知せず,肺野;ラ音なし,心音;整で雑音な し,腹部;軟で圧痛なし,四肢顔面に浮腫あ り,チアノーゼはなし。 入院時検査所見: WBC 5130/µl, RBC 342 万 /µl, Hb 10.3 g/dl, Plt 13.0 万/µl, PT 105.6 %, APTT 35.6 秒, Fibrinogen 438 mg/dl, TP 5.6 g/dl, ALB 3.0 g/dl, CHE 102 IU/l, T-Bil 0.9 mg/dl, GOT 9 IU/l, GPT 3 IU/l, LDH 183 IU/l, γ-GTP 16 IU/l, ALP 164 mg/dl, BUN 27 mg/dl, CRE 0.8 mg/dl, Na 138 mEq/l, K 3.3 mEq/l, Cl 100 mEq/l, FBS101 mg/dl, CRP 5.8 mg/dl. Tumor Mark-er <H 9.7.29> ProGRP 16.4 pg/ml (46.0>), NSE 6.37 ng/ml (7.0 >), SCC 0.90 ng/dl (1.5 >), CEA 21.2 ng/dl (3.0 >), シフラ 21–14.5 ng/ml (2>) 治療経過:腫瘍による食道狭窄と考え,第 1 内 科にてステントを留置する予定であったが 4 月 1 日より頻回の嘔吐が出現し,腹部単純写 真にて小腸の拡張を認め,小腸閉塞の診断に て 4 月 6 日イレウス管挿入される。イレウス 管にて症状の改善が見られたが,排液の減少 みられず,一時抜去するが 3 日目で再度症状 出現し再挿入されている。5 月 12 日イレウ ス管よりの造影にて空腸に著明な狭窄を認め た(図 3)。造影所見より周囲からの腸間膜 リンパ節の圧排による狭窄と思われた。現疾 患に対する治療は困難であり,対症療法とし 血小板減少時の経過表(平成 9 年 8 月∼ 10 年 3 月) 図 1.外来受診時の胸部単純写真(97.7.29)
て胃瘻からのイレウス管造設目的で 5 月 29 日に上部消化管内視鏡を行った。食道はイレ ウス管の周囲を取り囲むように閉塞していた ため,はじめに食道への放射線照射を予定し た。しかし 5 月 30 日 AM8:30 喀血し血圧も低 下,一時的に補液にて改善するが,イレウス 管よりも暗赤色の排液が出現し 14:36 死亡し た。 臨床診断: 1.肺癌(未分化癌)T4N2M0Stage III B),2.小腸閉塞,3.特発性血小板減少 性紫斑病,4.慢性肝炎,5.上大静脈症候群, 6.消化管出血 剖検目的: 1.肺癌の組織診断の確認,2.原 発 巣 と 移 転 の 範 囲 , 3 .小腸閉塞の原因, 4.直接死因となった出血の部位について 発言(1) 北原史章助手(内科学 1) 当初,肺癌による食道狭窄として食道狭窄 部へのステント留置の可能性について相談が あったが,この段階でイレウスがあったため に,食道ステントはイレウス解除後と判断し, まずイレウス管を挿入した。イレウスの解除 図 3. 小腸透視(98.5.10);空腸までイレウス 管が挿入されており,その先端からの造 影にて壁面の平滑な狭窄を認める。 図 2. 入院時の胸部造影 CT(97.8.1);大動脈弓レベルにおいて 9 × 9 cm の内部のやや不 均一な mass lesion をみとめる。気管,上大静脈,食道は著明に圧排されている。
に難渋したためイレウス管からの小腸造影を 行ったところ,回腸に狭窄を認めた。この狭 窄は小腸内腔の変化がほとんどなく,腸管周 囲からの圧排によるものであり,肺癌の腸間 膜リンパ節への転移によるものと判断した。 しかし retrospective にみると,この狭窄部位 より肛門側約 3 cm のところに,径 3 cm 程の 腫瘤陰影が見られ,狭窄部位の周囲に腸管内 腔と思われる造影像が認められるため,小腸 内の腫瘤を原因とした腸重積であると診断で きる。 また日本住血吸虫症による慢性肝炎という ことに関しては,慢性肝炎という言葉は通常 ウイルス肝炎について用いるもので,もし慢 性肝炎があったというのであれば,HBs 抗 体,HBc 抗体,HCV 抗体などのデータも考 慮すべきである。 発言(2) 柳 光章助手(内科学 2) 骨髄像では巨核球が増加し血小板産生像に 乏しいことから,血小板破壊による免疫性の 血小板減少症と考えられる。その原因につい ては,その発現時期から考えると diclofenac sodium(ボルタレン)が最も考えやすいが, 1)ボルタレンによる免疫性の血小板減少症 の報告が少ない事,2)ボルタレン中止後も 長期に血小板減少が続いた事から薬剤以外が 原因であることも否定できない。肺癌患者に, 免疫性の血小板減少症が合併したとの報告は いくつか見られ,本症例も肺癌が原因であっ た可能性がある。悪性腫瘍と免疫性の血小板 減少症の合併は実際は報告ほど多くないが, なんらかの関連性(悪性腫瘍に対する抗体が 血小板とも交差反応するなど)も考えられ, さらなる症例の蓄積および検討が必要である と考えられる。 検査値分析 矢冨 裕助教授(臨床検査医学) 本症例を,いわゆる慢性型の特発性血小板 減少性紫斑病(ITP)とするには問題がある と考える。血小板減少の経過,治療に対する 反応を見る限り,薬剤による二次性血小板減 少症と考えるのが妥当である。Diclofenac な どの NSAID は薬剤性血小板減少症の起因薬 剤として重要なものである。また急な発症, 60 歳男性であることなども,ITP よりは薬剤 性を支持する。 PAIgG 高値は,免疫性血小板減少を示唆す ることにはなるが,それをもって ITP とする ことはできない。 画像診断 南部敦史助手(放射線医学) 胸部腫瘍について 胸部 CT では右上葉及び中縦隔にまたがる腫 瘤が存在している。腫瘤は不均一な造影効果 を示している。画像診断上は肺小細胞癌や悪 性リンパ腫に典型的な所見である。この症例 ではすでに細胞診で未分化癌の診断が得られ ているので,小細胞癌を第 1 に考えたい。比 較的中枢に近い気管支から発生し,粘膜下か ら壁外性に腫瘤を形成したものと推測する。 右上葉の気管支を巻き込んでいるにもかかわ らず,無気肺の所見がないのも小細胞癌に合 致する所見である。 小腸病変について 比較的粘膜面に変化が乏しい狭窄で,小腸閉 塞を来している。臨床経過も合わせて考える と肺癌の小腸転移が最も考えやすい。 病理所見と診断 近藤哲夫大学院生(病理学 2) <病理所見>(剖検番号 1247,死後 2 時間 41 分) A.肉眼的所見 1.外表:身長 171 cm,体重 63 kg。眼瞼結膜 に貧血を認める。表在リンパ節触知せず。四 肢に浮腫を認めず。 2.体腔液:左胸水 300 ml 黄色透明,右胸水 500 ml 黄色透明,心嚢水 80 ml 黄色透明,腹 水少量 3 . 心 臓 ( 220 g):左室壁 10 mm,右室壁 3 mm,梗塞巣なし。冠状動脈,弁膜に著変 なし。
4.大動脈その他の血管系:大動脈弓部に食道 との穿孔あり。腕頭動脈,鎖骨下動脈に腫瘍 の浸潤を認める。上大静脈は解剖時確認して いない。現在確認できる範囲では上縦隔は腫 瘍で一塊となっていることと右心房について いる上大静脈の一部には腫瘍の浸潤を認めな いことである。大動脈全体に軽度のアテロー ム硬化を認める。 5.肺臓(左 950 g):右上葉に最大径 10 cm の黄白色の腫瘍があり,腫瘍内部には壊死を 認める。縦隔,食道,気管,大動脈に直接浸 潤している。右上葉に 5 cm の bulla を認め る。 6.縦隔:上縦隔と肺の腫瘍は浸潤により一 塊となっている。気管分岐部では後壁より 腫瘍が内腔に浸潤,増殖しているが,気管 支は閉塞していない。 7.肝臓(1,500 g):右葉にくらべ左葉がや や大きく,表面は不整でやや大型の結節形 成がみられる。 8.膵臓:著変なし。 9.食道:上部食道の穿孔部の食道粘膜には 凝血塊が付着し,食道壁には腫瘍のびまん 性の浸潤を認める。食道静脈瘤は明らかで はない。 10.胃:内部に 1,300 ml の血液,凝血塊を認 めたが,胃には出血性病変ない。 11.小腸・大腸:回盲部から 40 cm 口側に 30 cm ほど小腸が重積をおこしており,そ の重積の先端に 3 cm の限局隆起性病変を 認める。その他 1 から 4 cm の限局隆起性 病変,限局潰瘍性隆起病変を十二指腸から 回腸にかけて 6 カ所に認める。上行結腸に 1 cm ほどのポリープを 2 個認める。 12.腎臓(左 150 g,右 150 g):両腎とも皮 髄境界は明瞭で,両腎に 10 mm の嚢胞を 数箇所認める。 13.前立腺:著変なし。 14.精巣:著変なし。 15.甲状腺(18 g)著変なし。 16.副腎(左 5.5 g,右 12 g):著変なし。 17.脾臓(300 g):うっ血あり。全体的に表 面にしわがよっている。 18.骨髄:著変なし。 B.組織学的所見 1.肺臓:右肺上葉の腫瘍は大型で多型の腫 瘍細胞が充実性に増殖し,腺上皮,扁平上 皮への分化がみられず,部分的に強い壊死 を伴う。リンパ管侵襲を強く認める。静脈 侵襲は検索範囲内で確認できない。腫瘍は 細胞質内にアルシアン青染色が陽性の粘液 を認める。腫瘍の組織型は大細胞癌,粘液 形成型とした。CAM 5.2(+),クロモグ ラニン(−)。 2.食道,大動脈:大動脈から食道に穿孔が あり,同部の大動脈壁にはリンパ球の強い 浸潤がみられ,穿孔部の食道粘膜は剥離し て壊死組織,凝血塊が付着している。また 食道壁にはびまん性に腫瘍の浸潤を認め る。 3.気管支:気管分岐部付近の腫瘍も肺と同 様の腫瘍である。 4.肺門・縦隔リンパ節:両側肺門・縦隔リ ンパ節に腫瘍の転移を認める。 5.小腸:小腸にみられる腫瘍はすべて肺の 腫瘍と同様の組織型であり,主に粘膜下層, 筋層に腫瘍の増殖があり,漿膜下までの浸 潤を認める。腫瘍の周囲にはリンパ管侵襲 が認められる。重積をおこした腫瘍表面に は壊死を認める。 6.大腸:大腸のポリープは脂肪腫である。 直腸に石灰化した日本住血吸虫卵を多数認 める。 7.肝臓:門脈域にはリンパ球の軽度の浸潤 と門脈域の線維性の拡大,線維性架橋形成 がみられ,部分的に結節形成傾向が認めら れる。また門脈域には石灰化した日本住血 吸虫卵を多数認める。 8.脾臓:白脾臓の減少があり,うっ血がみ られる。 9.腹部大動脈周囲リンパ節,腸間膜リンパ
節:検索範囲でリンパ節への転移はみられ ない。 10.骨髄:細胞髄/脂肪髄比 4 : 6 やや低形 成の骨髄で,3 系統とも通常の分化と数を 認める。組織学的には血小板減少の原因は 明らかではない。 <病理診断> 1.肺癌:右上葉,10 × 10 cm,黄白色弾性 硬,大細胞癌,粘液形成型 細胞診: YMU-C57552(喀痰,Class V,未 分化な腫瘍) 1)直接浸潤:縦隔,気管,食道,大動脈 2)血行性転移:小腸 3)リンパ行性転移:左右肺門リンパ節, 縦隔リンパ節 4)腫瘍関連病変 .食道・大動脈穿孔 .小腸重積 2.日本住血吸虫症 1)肝線維症 図 4. 右肺上葉を占める最大径 10 cm の灰白色腫瘤。腫瘍内部には壊死を伴なう。 写真では右鎖骨下動脈を巻き込んでいる。 図 5. 腫瘍の組織像。大型で多型の腫瘍細胞が 充実性に増殖。腺腔構造や扁平上皮への 分化はみられない。× 1,300,HE 図 6. 腫瘍細胞の細胞質内アルシアン青陽性像 を認める。× 1,300,PAS-Al
2)石灰化住血吸虫卵:肝臓,両肺,大腸 3.その他 1)うっ血脾 2)大腸ポリープ(脂肪腫) 3)大動脈粥状硬化症 直接死因:食道・大動脈穿孔による出血死 考察(1) 近藤哲夫(病理学 2) 1.肺癌の組織診断 本腫瘍は大型で多型な腫瘍細胞が充実性に 増殖しており,管腔形成や扁平上皮への分化 がみられず,PSA ―アルシアン青染色にて細 胞内に粘液産生を認めたので大細胞癌,粘液 形成型と診断した(肺癌取扱い規約/日本肺 癌学会)。規約では腺癌への分化を管腔形成 を指標しているが,WHO の分類では管腔形 成がなくても粘液産生があれば腺癌への分化 としており,WHO 分類では adenocarcino-ma/ solid carcinoma with mucus formation と腺癌の亜型のひとつに分類される。肺の腫 瘍には壊死を強く認め,放射線治療の影響が 考えられる。 2.原発巣と転移の範囲 原発は右肺上葉。腫瘍は縦隔,気管,食道, 大動脈周囲に直接浸潤し,肺門,縦隔リンパ 節にリンパ行性の転移を認める。この他遠隔 転移として小腸に多発の転移を認めた。腹部 大動脈周囲,腸間膜リンパ節には腫瘍の転移 はみられず,この小腸転移は血行性と推定す る。遠隔転移は小腸のみであった。肺癌の小 腸転移では扁平上皮癌の頻度が高いが,肺大 細胞癌の剖検例の 39 %に小腸転移がみられ たという報告がある。 3.小腸閉塞の原因 小腸に転移した腫瘍の一つが,小腸内に重 積をおこし小腸閉塞の原因となった。 4.出血部位と直接死因 腫瘍の浸潤により食道と大動脈に穿孔を来 したため出血をおこし,直接死因となったと 考える。穿孔部には壊死組織の付着と強い好 中球浸潤,大動脈壁にもリンパ球浸潤を認め ること,食道粘膜直下まで腫瘍浸潤が認めら れることから,この部位に腫瘍による潰瘍が 形成されたことが考えられる。 5.その他 解剖時 SVC を確認していないので,SVC 症候群があったとの確認はできなかったが, 肺の腫瘍と上縦隔はほぼ一塊となっており, SVC が腫瘍により閉塞していたことは十分 推測される。 図 7. 大動脈弓と食道の穿孔部。写真のほぼ 中央に大動脈弓側の穿孔部が見える。 図 8. 大動脈弓―食道穿孔部,画面の上が大動脈 腔。× 130,EVG
考察(2) 西山圭一助手(内科学 2) 肺癌は早期から遠隔転移を来すことが多く, 従って手術率が低く,また抗癌剤も効果が少な いため予後不良の疾患である。遠隔転移部位の 頻度としては森田らの剖検例 399 例をまとめた 報告(癌の臨床 22 巻 14 号,1976)によれば, リンパ節 92.9 %,肺 55.6 %,胸膜 51.4 %,肝 臓 44.1 %,骨 43.1 %,副腎 34.6 %,腎臓,脳 が各 28.3 %,心膜 22.6 %,縦隔 13.8 %の順に 多い。消化管への転移は少なく,胃および大腸 が各 3.0 %,小腸は 2.8 %である。また大細胞 癌に限ると小腸転移は 0 %である。従って本症 例のように大細胞癌で小腸転移を来たし,さら にイレウスに至ることはきわめて稀と考えられ る。なお,最近我々が経験した肺癌の遠隔転移 部位で稀なものとしては扁桃(小細胞癌),眼 の脈絡膜(腺癌)が各 1 例あった。 肺癌と ITP の合併は本邦では 13 例の報告が あるが,ITP が先行したものが 4 例,肺癌が先 行したものが 2 例,ほぼ同時に発症したものが 4 例でその他が 3 例であった。両者が合併する 機序は不明であるが,ITP が自己免疫機序で発 症することから腫瘍の持つ抗原性が関与する可 能性が指摘されている。これを裏付ける事実と して卵巣癌に合併した治療抵抗性の ITP が卵巣 摘出後に改善したという報告もある。肺癌症例 では治療の影響や骨髄転移のためしばしば血小 板減少を認めるが,その際は稀ではあるが ITP の合併も鑑別すべきと思われる。 図 9. 転移性小腸腫瘍。1 カ所で腫瘍による小腸重積を認めた。組織像は肺と同 様。