高校生の学習観
著者
南本 長穂
雑誌名
人文論究
巻
61
号
4
ページ
51-74
発行年
2012-02-10
URL
http://hdl.handle.net/10236/9915
高 校 生 の 学 習 観
南 本 長 穂
1.はじめに
今日,わが国の高校教育は多様化の方向で改革が進んでいる。この多様化に は,高校間の入試成績等の量的な面での優劣競争によってもたらされる格差化 と,高校間の教育内容の差異化の競争によってもたらされる個性化という 2 つの側面がみられるだろう。前者の多様化は,従来から指摘されてきた入学試 験等にあらわれる偏差値を尺度とした格差であり,例えば,「有名進学校」と か,「進路多様校」といったラベリングで捉えられている。他方,後者の多様 化は教育内容の違いを尺度とした多様化であり,例えば,普通科,専門学科, 総合学科間での違い,専門学科の中での学科の違いなど,主に教育内容の多様 化というレベルから捉えられる。 このため,今日の高校生の学習や生活を取り上げる場合には,当然,対象と なる高校の教育の実態やその教育上の特色を理解しておく必要がある。個々の 高校の教育のあり方は,高校教育の特色化という多様化が進む中,そこで学ぶ 高校生の学習や生活に独自な影響を及ぼしていると考えられるからである。 本稿では,近年の高校教育改革で生み出された,高校教育の特色化・個性化 の象徴ともなった総合学科高校を取り上げ,そこに学ぶ高校生の学習と生活に みられる特徴を明らかにしていくことにする。 なお,わが国では,総合学科高校は平成 5 年 3 月に創設された。従来から の普通学科と専門学科の 2 種類の学科に加えて,第 3 の学科として位置づけ られている。普通教育と専門教育の総合化をめざし,その特色は教育課程の編 成に際し,多様な選択科目を数多く用意し,生徒の選択の幅を拡大している点 51にある。とくに,「産業社会と人間」という科目を置き,将来の職業選択と関 連づけて進路への自覚を深めるための実践的,体験的な学習(職場体験等)を 重視している点も特徴となっている。
2.問題の設定
さて,総合学科に学ぶ高校生はどのように捉えられてきたか。これまでにな されてきた次の 2 人の研究成果をみておく。岡部善平は,平成 8 年に S 校の 総合学科で,生徒の科目選択過程を参与観察により明らかにしている。科目選 択のガイダンス科目である「産業社会と人間」において S 校で科目選択ガイ ダンスとして何に重点がおかれているか。また,生徒には科目選択時にどのよ うなパターンがみられるかを検討し,教師が指導を行う「類」や「系列」に準 じた生徒の科目選択がみられることを見いだしている。生徒の進路展望に基づ く合理的な行為による科目選択が行われていない,という指摘である(1)。 三戸親子は,総合学科の生徒の進路意識形成に関して,卒業生に 3 年間の 進路意識の変化を調査して,その特徴を明らかにしている。総合学科の特色で ある「興味・関心に基づいた進路意識」を前提とした科目選択や進路指導がな されているが,このシステムが有効性を持ちうるのは非常に限定された生徒の みであること。高校入学時に明確な進路意識を持たない生徒は高校卒業時にも 同様な進路意識の不安定な状況に陥るという指摘である(2)。 ともに創設された初期の実態に焦点を合わせ,選択科目の特質と生徒にとっ ての意義や適応過程,また,総合学科での教育は生徒の興味や関心に基盤をお く進路意識が重視されるが,必ずしも生徒の進路意識の明確化が図られていな い実態を明らかにしている。 しかし,総合学科に学ぶ高校生の視点に立つと,上記の選択制カリキュラム への生徒の適応の問題や進路意識の形成過程の問題に加えて,総合学科高校の 生徒の学習の現実や学習観,さらに総合学科高校への期待(学校観)の問題を 検討することも必要と考えられる。 52 高校生の学習観なお,高校生の学習観に関しては,教育心理学の分野での植木理恵の研究が ある(3)。市川伸一が提案した学習観を測定する尺度を踏まえて,学習観を 「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」を明 らかにしている。 しかし,本稿でテーマとする学習観は,高校生が学習に付与している意味を 明らかにすること目ざしている。それは,90 年代からわが国では,小・中学 生の「学びからの逃走」とか「階層差による学習時間の拡大」「努力の階層差 ・不平等」など,学ばない子どもの存在が問題化された(4)。また,国際的な 学力テストの結果の公表などのもとで,学力低下問題が大きな社会的関心事と なった。この状況は 2010 年代に入って依然として続き,学習時間や学習の 場,学習を支える経済的文化的背景など,学習への関心は衰えていない。 こうした子どもの学習を取り巻く社会的状況を踏まえ,本稿は,とくに高校 生の学習に焦点を合わせ,多様化を特色とする高校の中から近畿地方の A 総 合学科高校を事例的に取り上げることにした。そして,どのような生徒が A 高校に入学し,学習や活動を展開する過程を通して,いかなる学習観や高校観 を具体的に形成しているのかという,総合学科に学ぶ高校生の学習の特徴,及 び学習観を明らかにしていくことが重要だと考えた。 こうした問題設定から,調査データを用いて,次の 3 点についてとくに検 討を行う。 1つは,取り上げる A 高校及び A 高校に学ぶ生徒の特徴を捉えることであ る。 2つは,A 高校に学ぶ高校生が捉える学習の意味である。高校生の学習観に 焦点を合わせて,明らかにすることである。 3つは,学習という文脈で,A 高校に学ぶ高校生は,A 高校をどのように捉 えているのか,その高校観の一端を探ることである。 A高校での調査は,平成 23 年 3 月の学期末に,1 年次と 2 年次の生徒を対 象に実施した。各教室で担任教師が質問紙を配布し,生徒が質問紙に回答を記 入し,各人の回収用封筒に入れて厳封した後,担当教師が回収を行った。な 53 高校生の学習観
お,無効回答は 25 部。 有効回答者は,1 年次 264 名(男子 97 名,女子 167 名),2 年次 273 名 (男子 87 名,女子 186 名),合計 537 名(男子 184 名,女子 353 名)。男女の 比率は全体で男子 34.3%,女子 65.7%。総合学科高校では全国的に女子生徒 の比率が高いが,それとも符合している。
3.A 高校及び生徒の特徴
まず,A 高校の特徴を,学校要覧のデータから卒業後の進路をみてみる。 平成 22 年度卒業生(288 名)の進路は,大学 149 名(国公立 9 名,私立 140 名),短期大学 24 名,専門学校 78 名,就職 17 名(公務員 2 名,民間会社 15 名),浪人・未定等 20 名である。卒業者全体に占める比率は,大学進学者が 51.7%,短期大学が 8.3%,専門学校が 27.1%,就職が 5.9%,浪人・未定等 が 6.9%。 この卒業後の進路状況から,A 高校は大学への進学者が半数を超える(短 大を含めると 60%)点では進学校という範疇に入る。ちなみに,平成 22 年 3 月時点での大学・短大への進学率は,全国平均で 54.3% である。すなわち, A高校の進学率は,全国平均を少し超えるところに位置している。つまり, 大学・短大の進学率では,高校の進学ヒエラルキーでいえば,A 高校は中位 校に位置づくのではないか。 以下,調査結果をもとに生徒の特徴を探ることにする。 1)卒業後の進路 まず,A 高校に入学した生徒は,高校卒業後の進路をどのように考えてい るのか。表 1 は年次別に示した卒業後の希望進路である。これから,4 つのこ とがわかる。 1つは,大学への進学を決めている生徒は,必ずしも多くないこと。1 年次 で 43.5%,2 年次で 46.6%。2 つは,専門学校が 1 年次で 25.8%,2 年次で 54 高校生の学習観20.9%。3 つは,「就職か,親の職業継承ともいえる自営業等への従事」は, 年次による差はなく,1 年次が 9.8%,2 年次が 9.9% とほぼ 1 割程度である。 4つは,進路未定という生徒の比率が少し高い。1 年次が 18.2%,2 年次が 14.3%。総合学科高校における創設の理念及び教育課程編成の特徴となってい るのは,生徒の進路希望の明確化を図ることを通しての教育活動の組織化であ り活性化である。この点では進路未定の生徒が少なからず存在していること は,総合学科高校の創設理念の浸透が少し困難を抱えているということであろ う。 なお,学校要覧でみた高校卒業後の進路の状況から推測すると,この「進路 未定」と回答した生徒は,「就職」というよりも「大学」「短大」「専門学校」 へと進路を明確化していくだろうことを予想させる。 2)中学の時の成績 では,中学校在籍時,A 高校の生徒の成績はどのようであった。表 2 は中 学校での成績が学年でどの位置にあったかを聞いた。成績は 5 段階で聞いて いるが,最も多いのは「中の上ぐらい」で,1 年次が 41.3%,2 年次が 37.5 %。次いで多いのが「中ぐらい」であり,この 2 つの選択肢への回答の計で, 1年次は 59.9%,2 年次で 60.7%。この数値をみる限り,高校入学者の成績で は中位校の上位に位置づくであろう。 表 1 高校卒業後の進路 合計 34.1(183) 11.0( 59) 5.6( 30) 23.3(125) 9.9( 53) 16.2( 87) 100.0(537) χ2 =14.17 p<.05 df=5 2年次 33.0( 90) 13.6( 37) 8.4( 23) 20.9( 57) 9.9( 27) 14.3( 39) 100.0(273) 1年次 35.2( 93) 8.3( 22) 2.7( 7) 25.8( 68) 9.8( 26) 18.2( 48) 100.0(264) 1.入学が難しいかどうかはわからないが,大 学に進学する 2.入学が難しいと言われる大学に進学したい 3.短大に進学する 4.専門学校に進学する 5.就職するか,又は,家の仕事をする 6.進路はまだ決めていない,迷っている 55 高校生の学習観
ちなみに,学校要覧によると,A 高校では,1 年次の出身中学校は全部で 40 校,2 年次は同 42 校と多くの中学校から入学している。これは公立普通科高 校が同一市内からの募集で地域割が狭いのに比べて,総合学科高校は市内外か らの募集を行う広域募集といったこの県の高校入試制度のあり方による。 3)入学に際しての影響要因 つぎに,A 高校に入学した理由を聞いた。入学に影響した要因として 12 項 目を用意し,因子分析を行った(表 3 参照)。 第 1 因子として,高校の教育内容が挙げられた。とくに「9.自分の進路の 実現につながる教科・科目を入学後,自由に選択できると聞いていたから」と いう項目で,評価が高い。「とてもあてはまる」が 49.2%,「まああてはまる」 が 34.1%,この 2 つを合わせると 83.3%。同様に,「2.高校の説明会に参加 して,教育方針・内容等の説明を聞き,良い印象を持ったから」という項目 も,この肯定的な比率は 60.7%。「11.海外への修学旅行にあこがれたから」 も,49.5%,「10.発表活動に魅力を感じたから」が 38.5%。 以上の結果から,入学前に多くの生徒が総合学科の教育目標や内容に関し て,高校説明会等の機会を利用し,事前に得ることのできた各種の特徴的な情 報をもとに,高校選択を行ったことがわかる。 第 2 因子としては,まわりからの助言にかかわることが挙げられる。この 因子では,「4.高校の評判がよかったから」の項目への選択率が高い。「とて 表 2 中学校での成績は,学年でどのくらいでしたか 合計 13.4 39.4 20.9 15.1 11.2 100.0(536) χ2 =4.93 df=4 2年次 15.1 37.5 23.2 15.1 9.2 100.0(272) 1年次 11.7 41.3 18.6 15.2 13.3 100.0(264) 1.上の方だった 2.中の上ぐらいだった 3.中ぐらいだった 4.中の下ぐらいだった 5.下の方だった 56 高校生の学習観
もあてはまる」が 9.5%,「まああてはまる」が 46.4%,この 2 つを合わせる と 55.9%。また,第 3 因子としては,「消極的条件」と名づけることができる ような項目が分類された。この因子では,選択率はいずれの項目でも低かっ た。 第 4 因子としては,現実的条件が挙げられた。次の 2 つの項目,すなわち 「3.通学するのに便利だから。地元の高校だから」「1.中学校の時の成績を 考えると合格できそうだったから」では選択率が高い。「通学に便利」と「中 学校の時の成績」が進学時の影響要因に一定程度なっていることがわかる。 4)高校での満足度 A高校に入学したことをどう捉えているのか。満足を感じているのか,そ 表 3 A 総合学科高校を選んだ理由 合計 第Ⅰ因子 高校の教育内容 100.0 100.0 100.0 100.0 第Ⅱ因子 まわりからの助言 100.0 100.0 100.0 第Ⅲ因子 消極的条件 100.0 100.0 100.0 第Ⅳ因子 現実的条件 100.0 100.0 項目前の番号は,質問紙での配列順序 全くあて はまらない 5.6 16.6 19.7 22.0 6.9 24.6 29.6 24.2 44.3 37.6 25.0 7.3 あまりあて はまらない 11.0 22.5 30.5 39.3 37.1 46.0 44.5 33.0 33.9 38.4 28.3 27.4 まああて はまる 34.1 39.1 30.5 27.0 46.4 21.2 19.2 29.8 12.1 18.1 25.3 48.4 とてもあて はまる 49.2 21.6 19.0 11.5 9.5 8.0 6.5 12.8 9.5 5.8 21.2 16.8 質問項目 9.自分の進路の実現につながる教科・科目を入学 後,自由に選択できると聞いていたから 2.高校の説明会に参加して,教育方針・内容等の 説明を聞き,良い印象を持ったから 11.海外への修学旅行にあこがれたから 10.発表活動に魅力を感じたから 4.高校の評判がよかったから 5.中学校の担任教師にすすめられたから 6.家族に強くすすめられたから 8.高校卒業後に就職するか進学するかを決めてな かったが,どちらにも対応できそうだったから 12.自分が入りたい部活動が活発な(有名な)高校だ から 7.友人や親友も,同じ高校に進学するから 3.通学するのに便利だから。地元の高校だから 1.中学校の時の成績を考えると合格できそうだっ たから 57 高校生の学習観
れとも不満を抱いたのか。高校での満足度を「授業や勉強」,それ以外の「生 活」という 2 つに区分してみてみよう。例えば,「授業や勉強」には満足して いるが,「生活」には不満を抱く場合とか,逆に,「授業や勉強」に不満があっ ても,「生活」には満足な生徒もいるのではないか。多様なパターンが想定さ れる。 まず,表 4 では「授業や勉強」への満足度をみた。年次別による有意な差 はない。「とても満足」は全体では 8.6% と,少し低い数値である。「不満もあ るが,満足が大きい」が 31.8%。この 2 つの数値を合わせると,40.4%。つ まり,約 4 割の生徒は授業と勉強に一定の満足感を抱いている。なお,最も 大きな比率を占めるのが「満足と不満足が半々」で 41.2%。他方,不満群と も言える「不満の方が少し多い」と「満足していない」を合わせると 17.5% と,不満感を持つ生徒は全体的にみると少なく 2 割弱である。 また,「生活(授業や勉強以外)」への満足度をみたのが表 5 である。表 4 表 4 高校での授業や勉強への満足度 合計 8.6 31.8 41.2 9.9 8.6 100.0(537) χ2 =2.96 df=4 2年次 7.7 29.7 42.9 11.4 8.4 100.0(273) 1年次 9.5 34.1 39.4 8.3 8.7 100.0(264) 1.とても満足 2.不満もあるが、満足が大きい 3.満足と不満足が半々 4.不満の方が少し多い 5.満足していない 表 5 高校での生活(授業や勉強以外)への満足度 合計 25.3 38.7 24.2 6.5 5.2 100.0(537) χ2 =13.91 p<.01 df=4 2年次 20.9 39.2 29.7 4.8 5.5 100.0(273) 1年次 29.9 38.3 18.6 8.3 4.9 100.0(264) 1.とても満足 2.不満もあるが,満足が大きい 3.満足と不満足が半々 4.不満の方が少し多い 5.満足していない 58 高校生の学習観
の結果と比べると,満足度が高いことがわかる。「とても満足」は 25.3% であ る。そして,最も大きな割合を占めるのが「不満もあるが,満足が大きい」で 38.7%。「満足と不満足が半々」で 24.2%。以上の 3 つの回答を合わせると約 9割の生徒が一定の満足感を抱いていることがわかる。なお,表 4 とは異な り,年次別に有意差があり,1 年次では「とても満足」の比率が,2 年次では 「満足と不満足が半々」の比率がそれぞれ高い。以上の結果から,学校での生 活の満足度の高さに比べると,授業や勉強での満足度は少し低いことがわかっ た。 5)学校外での学習 次に,学校外での生徒の学習をみることにする。学校外ではどうであろう か。 表 6 は,塾や予備校にどの程度行っているかをみた。年次による有意な差 はなく,行っている生徒はほぼ 4 人に 1 人の割合である。家庭では,勉強は どの程度なされているのか。表 7 は,家庭で週に何日ぐらい勉強しているか を聞いた結果である。年次による有意な差がみられる。1 年次で「ほとんどし ない」と答えた生徒が 76.7%。2 年次のそれは 59.3%。 この数値をみる限り,学校外でよく学習しているとはいえない生徒の実態が ある。すでに,高校生の学習時間の減少を指して,学習時間量にかかわる問題 が提起されてきたが,本調査においても高校生の学校外での学習時間の少なさ 表 6 塾や予備校に行っているか 合計 0.6 2.4 12.1 9.0 75.9 100.0(536) χ2 =7.03 df=4 2年次 1.1 3.7 11.0 8.8 75.5 100.0(273) 1年次 0.0 1.1 13.3 9.1 76.4 100.0(263) 1.週に 4 日以上 2.週に 3 日 3.週に 2 日 4.週に 1 日 5.行っていない 59 高校生の学習観
が明らかにみられる(5)。 6)学習にかかわる自己評価 生徒は学習等にかかわって自分自身をどのように捉えているのか。14 の質 問項目を用意し,「自分自身について,どの程度あてはまるか」を聞いた。因 子分析を行った(表 8 参照)。4 つの因子が抽出され,次のようなネーミング を試みた。 第 1 因子として,「目標ないし学習志向」とネーミング可能な項目が挙げら れた。すなわち,「1.中学校の時よりも,高校の勉強には,興味が持てる」 という質問項目では,「とてもあてはまる」「まあまああてはまる」を選択する 生徒を合わせると 57.9% と過半数を超えているが,「7.テストや宿題のない 日でも,家では勉強している」という質問項目では,この 2 つを選択した生 徒を合わせても,13.1% と低い数値である。なお,「3.勉強でわからないこ とは先生に質問したり,聞きに行く」という質問項目では,「あてはまる」と 答えた 2 つの選択肢への回答は 38.3% と,3 人に 1 人の割合で授業への積極 的な態度を示す生徒がいる。つまり,家庭での学習に比べると,学校での授業 には積極的な態度が示されている。 第 2 因子として,「まじめ志向」とネーミング可能な項目が挙げられた。す なわち,「4.遅刻や服装などの校則を守るのは当然のことだと思う」という 質問項目では,「とてもあてはまる」「まあまああてはまる」を選択する生徒を 合わせると 75.8% に達する。高校の行動基準(校則)からの逸脱を 4 人中 3 表 7 家で週のうち何日ぐらい勉強をするか 合計 4.3 4.7 23.2 67.9 100.0(535) χ2=24.90 p<.001 df=3 2年次 4.0 7.7 28.9 59.3 100.0(273) 1年次 4.6 1.5 17.2 76.7 100.0(262) 1.ほとんど毎日する 2.週に 4∼5 日する 3.週に 2∼3 日する 4.ほとんどしない 60 高校生の学習観
人の比率で否定している。また,「11.教師からは,注意されたり,しかられ ることよりも,ほめられたり,はげまされることの方が多い」と「9.同じ年 次の生徒の中では,授業中まじめに頑張って勉強をしている方だと思う」とい う質問項目ではほぼ半数の生徒が「あてはまる」に回答している。 第 3 因子として,「人並み志向」とネーミング可能な項目が挙げられた。こ の因子は高校生活を含め,マイナスの評価を受けたくないとか,普通並みの自 表 8 自分自身について 合計 第 1 因子 目標(学習)志向 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 第 2 因子 まじめ志向 100.0 100.0 100.0 第 3 因子 人並み志向 100.0 100.0 100.0 100.0 第 4 因子 メディア接触志向 100.0 100.0 項目前の番号は,質問紙での配列順序 全くあて はまらない 41.2 13.6 8.6 8.0 25.1 1.5 7.8 8.0 1.3 6.7 11.0 1.5 8.6 18.1 あまりあて はまらない 45.8 48.0 33.5 33.0 46.7 22.7 44.7 38.2 6.9 38.7 43.6 12.5 34.1 41.5 まあまあ あてはまる 11.4 33.5 49.5 44.9 22.2 50.7 42.8 43.2 30.2 38.0 37.4 46.6 37.1 27.0 とてもあて はまる 1.7 4.8 8.4 14.2 6.0 25.1 4.7 10.6 61.6 16.6 8.0 39.5 20.3 13.4 質問項目 7.テストや宿題のない日でも,家では勉強をして いる 3.勉強でわからないことは先生に質問したり,聞 きに行く 1.中学校の時よりも,高校の勉強には,興味が持 てる 8.自分が就きたい仕事にどのようにすれば就くこ とができるかを,だいたい知っている 12.中学校の時の教師より,高校の教師の方が話やす い 4.遅刻や服装などの校則を守るのは当然のことだ と思う 11.教師からは,注意されたり,しかられることより は,ほめられたり,はげまされることの方が多い 9.同じ学年(年次)の生徒の中では,授業中まじ めにがんばって勉強している方だと思う 5.高校卒の資格がないと,仕事に就くのには不利 だと思う 2.テストの成績や運動の能力等をまわりの同級生 と比較し優れている点よりも,劣っている点が気 になる方だ 6.自分の親や家族は,教育に熱心な方だと思う 10.体育祭,文化祭,発表会などの行事には,まじめ に取り組んでいくのは当然のことだと思っている 14.ネットやメールに使う時間が多い方だと思う 13.マンガを読んだり,テレビを見るのは,同じクラ スの友だちと比べると多い方だと思う 61 高校生の学習観
己評価を求める質問項目が該当する。とくに「5.高校卒の資格がないと,仕 事に就くのは不利だと思う」では,「とてもあてはまる」を選択する生徒が 61.6%,「まあまああてはまる」を選択する生徒が 30.2%。合わせると 91.8% に達する。なお,「10.体育祭,文化祭,発表会などの行事には,まじめに取 り組んでいくのは当然のことだと思っている」の質問項目は,第 2 因子にお ける因子得点(.470)においても高かったが,第 3 因子のそれ(.483)が少し 高かったために分類上ここに位置づけた。 第 4 因子として,「メディア接触志向」とネーミング可能な項目が挙げられ た。数値をみると,マンガを読んだり,テレビを見るよりも,「ネットやメー ル」に時間を多くかけていることがわかる。
4.高校生にとっての学習(勉強)の意味
では,高校生にとって学習とはどのような意味を持つのか。量的な点からみ ると,学習量は多いとはいえない。しかし,高校における授業(学習)には一 定以上の興味を示し,まじめに学習に取り組んでいることも明らかになった。 そこで,学習の意味,ないし学習をどうみているのかという高校生の学習観 を,つぎの 3 点から探っていくことにする。 1)高校生活における学習と大学進学 学習は高校生にとってどのように位置づけられているのか。例えば,勉強 か,遊びか,あるいは部活動かなど,高校生の生活全体の中で勉強(学習)が どのような比重を占めているかを明らかにすることも重要だと思われる。しか し,ここでは,学習(勉強)という行為を自分の生活の中に,どう位置づけて いるかという学習意識,ないし,勉強の価値をどう評価しているかの問題,つ まり,高校生の学習観にせまることにする。 表 9 は,「勉強を第一に考え一生懸命に取り組まないと,高校生活は充実し ないし楽しくならない」という考え方への賛否を聞いた。つまり,勉強を生活 62 高校生の学習観の中心に置く考え方を肯定しているかどうかである。 「1.その通りである」と肯定する生徒は,1 年次で 10.2%,2 年次で 8.1%, 全体で 9.1%。「2.まあまあその通りである」と回答する生徒は,1 年次で 32.6%,2 年次で 33.1%,全体で 32.8%。この結果は,消極的であれ,勉強 を生活の中心に置く考え方を肯定する生徒が 4 割強いることを示している。 逆に言えば,必ずしも勉強中心でない「思わない」を選んだ生徒の方が少し多 いのである。 次に,表 10 は,大学等へ進学する意味(意義)を聞いた。回答をみると, 「1 の有名大学や難関大学と呼ばれる大学に進学すると,その後の人生も充実 したものになる」といった効用観を持つ生徒は,年次による差はない。ともに 12.9%。 最も選択率が高いのは,「2 の有名大学や難関大学に入学するだけでは不十 分で,その後の人生でも勉強や頑張りが求められる」とする進学観である。そ の選択率は 1 年次 45.8%,2 年次 45.2%,合計 45.5%。 なお,「3 のどの大学に入学するかはその後の人生にあまり関係しない」と する進学観を持つ生徒は,1 年次 37.1%,2 年次 40.1%,合計 38.6%。つま り,大学進学とその後の職業生活とは無関係と捉えている生徒が,3 人 に 1 人の割でいることがわかる。 なお,表 10−2 は,表 9 と表 10 のクロス表である。高校生活を勉強第一と 表 9 「高校生の時には,勉強を第一に考え一生懸命取り組まないと,高校生活は充 実しないし楽しくならない。」という考えについて,どのように思うか。 合計 9.1 32.8 36.8 15.1 6.2 100.0(536) χ2=3.09 df=4 2年次 8.1 33.1 36.8 14.3 7.7 100.0(272) 1年次 10.2 32.6 36.7 15.9 4.5 100.0(264) 1.その通りだと思う 2.まあまあその通りだと思う 3.あまりそうだとは思わない 4.まったく思わない。勉強以外にも 楽しくて充実することはあると思う 5.なんとも言えない 63 高校生の学習観
考える生徒ほど,有名大学や難関大学の進学と,その後の人生の充実とは関連 性が高いと考える傾向があることがわかる。逆に,高校生活を勉強第一と考え ない生徒ほど,大学進学とその後の職業生活とを関連づけていない比率が高い という傾向がみられる。つまり,大学への進学をどう捉えるかといった進学観 の違い,大学進学と大学卒業後の人生の送り方(主に職業生活)との関連の捉 え方の違いも,高校生活を勉強第一と考えるか,考えないかという勉強の位置 づけ方(勉強の意義の捉え方)との間に影響関係があることがわかる。 表 10 最近,大学を卒業しても就職が難しい時代になったといわれます。大学等に進 学することについて,どのように考えていますか。 合計 12.9 45.5 38.6 3.0 100.0(536) χ2=2.75 df=3 2年次 12.9 45.2 40.1 1.8 100.0(272) 1年次 12.9 45.8 37.1 4.2 100.0(264) 1.今までの時代と同じく,有名大学や難関大学 に入学し,卒業すると,就職の際に有利で, 会社で出世できるし,経済的に恵まれた,充 実した生活が送れると思う。 2.有名大学や難関大学に入学しただけでは意味 がなくなってきている。大学でも一生懸命に 勉強し,就職した後も,仕事で頑張らない と,充実した生活は送れない。 3.どの大学に入学するかはあまり関係ない。将 来の仕事や所得(賃金)や生活の充実は,本 人の努力や実力しだいである。 4.その他 表 10−2 高校生活を勉強第一と考えるかどうか別にみた,大学進学観 合計 100.0(49) 100.0(176) 100.0(311) χ2 =35.44 p<.0001 df=6 その他 4.1 0.6 4.2 低い 効用観 32.7 30.7 44.1 中程度の 効用観 30.6 55.1 42.4 高い 効用観 32.7 13.6 9.3 1.その通りだと思う 2.まあまあその通りだと思う 3.そうだとは思わない,その他 64 高校生の学習観
2)高校での成績観 ところで,成績(テスト等)の良い,悪いはどのようなことによって決まる と考えているのか。次に,生徒の成績へのみ方,つまり成績観をみていくこと にする。 表 11 は,自らの成績(テスト等)が良い場合とか,悪い場合に,そのこと をどのように捉えているのか。良い時とか,逆に悪い時にその原因をどこに求 めるのか。つまり,原因帰属論の考え方を参考にし,家庭の経済力等の要因を 加味し,次の 5 つの選択肢を用意し,自分の考えに近いものを,この選択肢 から 1 つ選んでもらう回答形式で聞いた。その選択肢は次の通りである。 1.その人の生まれつきの頭の良さ。 2.努力(勉強時間)が多いか,少ないか。 3.教師(塾教師も含め)の教え方が上手いか,下手か。わかりやすいか, どうか。 4.テストに出た問題を自分の勉強でやったことがあるか,ないか(傾向と 対策しだい)。 5.勉強部屋があるとか,塾や予備校に行くことができる等の家庭の経済力 結果をみると,選択率がもっと高いのが,2 の「努力(勉強時間)」の多寡 である。実に 76.4% という高率である。次いで,4 の「傾向と対策しだい」 表 11 高校での成績(テスト)の良い,悪いはどのようなことによって決まると思い ますか。 合計 7.1 76.4 4.5 12.0 0.0 100.0(534) χ2 =7.11 df=3 2年次 6.6 80.8 3.0 9.6 0.0 100.0(271) 1年次 7.6 71.9 6.1 14.4 0.0 100.0(263) 1.その人の生まれつきの頭の良さ 2.努力(勉強時間)が多いか,少ないか 3.教師(塾の教師も含め)の教え方が上手い か,下手か。わかりやすいか,どうか 4.テストに出た問題を,自分の勉強でやったこ とがあるか,ないか(傾向と対策しだい) 5.勉強部屋があるとか,塾や予備校に行くこと ができる等の家庭の経済力 65 高校生の学習観
(12.0%)である。これに比して,1 の能力に関する「生まれつきの頭の良さ」 が 7.1%。また,家庭の文化資本ともいえる勉強への援助という点での「家庭 の経済力」の選択は皆無である。さらに,顕著な数値は,3 の「教師の指導 力」である。1 年次 6.1%,2 年次 3.0%,全体で 4.5% と低い。もちろん,5 つの選択肢から 1 つを選ぶ回答形式なので,複数回答形式ならば,もう少し 比率は高くなったと考えられるが,成績の良し悪しの原因が教師の指導力であ ると捉えていない点は重要である。 例えば,最近のわが国で実施される小・中学生対象の学力調査の都道府県別 結果に注目が集まっており,その得点の高低は,ともすれば各県の教師の指導 力や指導のあり方,教育のあり方への批判に向かっている。しかし,高校生は 自らの「努力(勉強時間)」の多寡と捉えており,「教師の指導力」とはほとん ど捉えていないということである。 特徴的なのは,高校生の 4 人中約 3 人の割でテスト等の成績は本人の努力 によると考えていること。なお,こうした努力の多寡が成績の良し悪しの原因 だと捉えるみ方は,調査対象にした高校生には非常に強い傾向がみられる。す なわち,この結果を,すでにみてきた家庭での勉強の状況(表 7),勉強第一 の生活を送っているかどうか(表 9),大学への進学観(表 10)などとクロス 分析を行ったが,有意な相関はみられない。つまり,家庭で勉強しているかど うか,勉強第一の高校生活を送っているかどうか,大学に入学することをどの ように考えるかといったこととはほとんど関係性がなく,テストの成績の良し 悪しはもっぱら自らの「努力(勉強時間)」の多寡によると捉えているのであ る。 3)生徒の教師への対応 学習との関連において,生徒は教師への対応で,どのような特徴を示してい るのか。表 12 は,「高校の時に,教師の指示を守らず反抗したり,校則を破 るような生活態度では,高校での勉強(成績)は良くならないし,社会に出て も(仕事に就いても)うまくいかない。」への回答である。つまり,普段の生 66 高校生の学習観
活態度と勉強(成績)との関連性を問うている。 年次による有意な差はない。「その通りだと思う」が 1 年次 24.6%,2 年次 27.6%,合計 26.1%,これに「まあまあその通りだ」を加えた肯定的回答の 合計は,1 年次 68.2%,2 年次 63.3%,合計 65.7%。つまり,3 人中約 2 人 の割合で,普段の生活態度と勉強(成績)との関連性があるという考えを肯定 する。生活と勉強は別でないと捉える生徒が多い。 さらにこの結果を,先の表 9 とのクロス分析をしたのが表 13 である。 勉強第一と考える高校生は,生活態度の問題においても,教師の指示や校則 に従わないようでは成績も良くならないと捉えている。すなわち,勉強第一と 考える生徒では,53.1% が上記の回答をしている。これに対して,勉強第一 表 12 「高校の時に,教師の指示を守らずに反抗したり,校則を守らないような生 活態度では,高校での勉強(成績)は良くならないし,社会に出ても(仕事 に就いても)うまくいかない。」という考えについて,あなたはどのように 思いますか。 合計 26.1 39.6 21.6 4.5 8.2 100.0(536) χ2 =3.66 df=4 2年次 27.6 35.7 22.8 4.8 9.2 100.0(272) 1年次 24.6 43.6 20.5 4.2 7.2 100.0(264) 1.その通りだと思う 2.まあまあその通りだと思う 3.あまりそうだとは思わない 4.まったく思わない。 5.なんとも言えない 表 13 高校生活を勉強第一と考えるかどうか別にみた,教師への対応を通した成績向 上観 合計 100.0(49) 100.0(176) 100.0(311) 100.0(536) χ2 =50.60 p<.0001 df=4 (表 12 の成績向上観) 3.否定的 22.5 20.5 43.7 34.3 2.まあまあ肯定 22.4 46.0 38.6 39.6 1.強く肯定 53.1 33.5 17.7 26.1 1.その通りだと思う 2.まあまあその通りだと思う 3.そうだとは思わない,その他 計 67 高校生の学習観
と考えていない生徒では。この数値は 17.7%(「その通り」への回答率)であ る。有意な差がみられる。つまり,高校生活を勉強第一と考える生徒ほど,教 師の指示や校則を守って勉強をすることが大切であると考える傾向があること がわかる。逆に,高校生活を勉強第一だとは考えない生徒ほど,教師の指示を 守ったり校則を破ることと成績の向上とは関連性が少ないと考える傾向があ る。 つぎに,表 14 は,「理由もなく遅刻や欠席,早退が多かったり,高校の決 めた時間通りに行動できない生徒は,仕事に就いた時にも,遅刻し,約束の時 間を守れないので,仕事に適応できない。解雇されること(仕事をクビになる こと)も起こる。それで,高校では生徒に時間を守ることを強く求めることは 重要なことである。」という考えを設定し,回答を求めた。 年次による有意な差はない。「その通りだと思う」が 1 年次 49.6%,2 年次 49.6%,合計 49.6%,これに「まあまあその通りだ」を加えた肯定的回答の 合計は,1 年次 87.5%,2 年次 89.3%,合計 88.4%。つまり,9 割近い生徒が この考えを肯定している。 さらにこの結果を,先の表 9 とのクロス分析をしたのが表 15 である。 高校生の時には勉強第一だと考える生徒では,その 69.4%(「その通り」へ の回答率)が生徒に遅刻や欠席,早退等を含め,時間を守らせる規範の指導は 大切だと考える傾向にある。他方,高校生活では勉強第一ではないと考える生 徒では,この数値は 41.8% と少し低い。そして,このクロス分析では,有意 表 14 「高校では生徒に時間を守ることを強く求めることは重要である。」と言う考 えについて,あなたはどのように思いますか。 合計 49.6 38.8 5.4 1.9 4.3 100.0(536) χ2 =2.33 df=4 2年次 49.6 39.7 4.0 1.8 4.8 100.0(272) 1年次 49.6 37.9 6.8 1.9 3.8 100.0(264) 1.その通りだと思う 2.まあまあその通りだと思う 3.あまりそうだとは思わない 4.まったく思わない。 5.なんとも言えない 68 高校生の学習観
な差がみられた。すなわち,高校生活を勉強第一だと考える生徒の方が,高校 で時間を守ることを強く求める指導に対して肯定的な反応をする比率が高いの である。このことから,教師への対応という点で,勉強第一の高校生活を肯定 する生徒ほど,教師の指導に対して受容的な態度を示していると言える。 表 16 は,授業の中で,教師による説明や解説をしっかり聞いて,まじめに 勉強することの必然性ないし必要性について聞いた。この質問項目は,授業に おいては当然のこととされていることを,生徒自身は自らどのように解釈し, こうした行動をとるのであろうか。それを探ることにする。 年次別に有意な差はない。最も選択率の高いのは,教師への対応のし方も, 自分の将来を考え,学力の必要性を感じるからという理由である(1 年次 36.7 %,2 年次 39.0%)。教師との関係性では,自分将来のためという功利性に基 づき行動している。 次で,教科に関する専門的知識を教師が十分に備えているといった教師の専 門性をあげている(1 年次 18.2%,2 年次 22.4%)。これに続く選択項目は, 教師への信頼性である。すなわち,「教師の説明や話をよく聞いて勉強すると, よくわかり,テストの成績が良くなるから」である。1 年次 8.0%,2 年次 5.9 %。以上の 3 つの質問項目を選択した生徒を合わせると,ほぼ 70% である。 なお,その他の 5 つの選択肢,すなわち,教師の人間性,伝統的社会的な 正当性,教師との関係性,教師の行使する強制性と報賞性に関しては,いずれ も選択率は高くない。 表 15 高校生活を勉強第一と考えるかどうか別にみた,時間を守る規範指導への対応 合計 100.0(49) 100.0(176) 100.0(311) 100.0(536) χ2=30.50 p<.0001 df=4 (表 12 の成績向上観) 3.否定的 6.1 4.0 16.7 11.6 2.まあまあ肯定 24.5 38.1 41.5 38.8 1.強く肯定 69.4 58.0 41.8 49.6 1.その通りだと思う 2.まあまあその通りだと思う 3.そうだとは思わない,その他 計 69 高校生の学習観
5.高校をどうみているか
さて,A 高校に通う生徒は学習に取り組む場である A 高校をどのように捉 えているのか。生徒の高校観を探ることにする。 まず,表 17 は,生徒が考える良い高校とは,理想の高校とは,どのような 条件を備えた高校であるかを,15 の質問項目を用意し,尋ねた結果である。 因子分析を行い 3 つの因子を見いだした。 第 1 の因子は,「良い人間関係に恵まれること」に関連している。例えば, 「9.クラスの生徒同士の人間関係が良い高校」「7.進路や勉強,友人関係の 悩みなどきめ細かく相談にのってくれる先生がいる,相談しやすい高校」「2. 冗談も言えてうちとけて気軽に話せる先生が多い高校」等,生徒間,あるいは 生徒と教師の間での関係性の良さを求めている。この因子には 6 つの質問項 目が分類されているが,どの質問項目においても,「とてもあてはまる」と 表 16 高校での教師との関係から考えて,授業の中では,教師の説明や話しを,生徒 は,なぜ,しっかりと聞いて,まじめに勉強しなければいけないと,思います か。(1 つ選択) 合計 37.9(203)(学力の必要性) 20.3(109)(専門性) 12.9(69)(信頼性) 6.9(37)(人間性) 6.2(33)(正当性) 5.4(29)(強制性) 3.5(19)(教師との関係性) 3.5(19)(報賞性) 3.4(18) 100.0(536) 2年次 39.0 22.4 11.0 5.9 5.5 6.6 2.6 3.7 3.3 100.0(272) 1年次 36.7 18.2 14.8 8.0 6.8 4.2 4.5 3.4 3.4 100.0(264) 5.自分の将来のために,学力が必要だから 1.生徒が学ぶ教科の専門的知識を,教師はす でに学んでおりじゅうぶんな知識を持って授 業をしているから 6.教師の説明や話をよく聞いて勉強すると, よくわかり,テストの成績が良くなるから 3.教師一人ひとりのもつ人間的魅力に惹かれ て,生徒は勉強に取り組むから 2.「教師の言うことを聞くのはあたりまえ」と いう感じで,生徒は教師に接しているから 8.授業でまじめに勉強しないと,教師から注 意され,叱られ,評価(内申等)も悪くなるから 7.熱心に授業をしている教師を見ると,まじ めに勉強しないと悪い気がするから 4.授業でまじめに勉強すると,教師から良く 思われ,評価(内申等)も良くなるから 9.その他 項目前の番号は,質問紙での配列順序 70 高校生の学習観「まあまああてはまる」とを選択した比率の合計は,80∼90% に達している。 第 2 因子には,A 高校の「教育上の特色」を示している質問項目が分類さ れている。いずれの質問項目も,A 高校の教育上の特色といえるものである。 例えば,総合学科発表会などにかかわる「12.学習成果発表会などの機会が あり,生徒が発表する力,プレゼン力を身に付ける,知識習得だけでない高 校」とか,インターンシップ等に代表される活動や行事の「実験や実習,職場 体験学習や就業体験など,いろいろな学習や活動が教室外で行われる高校」等 は,この高校の特色そのものである。8 割強の生徒がこうした高校の教育上の 特色を評価していることがわかる。とくに,普通科とは異なる総合学科高校の カリキュラムの特色である「4.自分の進路選択にあわせて,教科や科目を自 由に選択できる(選択幅の大きい)高校」に対する評価は高い。「とてもあて はまる」と「まあまああてはまる」とを選択した比率の合計は,92.4% にも 表 17 良い高校とは,理想の高校とは,どのような条件を備えた高校か 合計 第 1 因子 良い人間関係に恵まれて 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 第 2 因子 A 高校の特色を生かして 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 第 3 因子 社会的期待の応えて 100.0 100.0 100.0 100.0 項目前の番号は,質問紙での配列順序 無答 0.2 0.4 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 全くあて はまらない 0.7 2.2 2.6 1.3 1.9 3.2 1.5 0.7 3.9 4.5 0.4 0.9 1.3 0.7 10.4 あまりあて はまらない 7.1 6.7 14.9 9.1 12.8 16.2 14.2 14.5 18.8 33.9 7.1 16.8 11.9 9.7 41.2 まあまあ あてはまる 33.5 32.6 44.9 49.7 40.2 49.5 51.2 48.0 42.6 45.1 42.1 49.2 46.7 50.5 39.9 とてもあて はまる 58.5 58.1 37.4 39.7 44.9 30.9 33.0 36.5 34.5 16.4 50.3 33.0 39.9 38.9 8.4 質問項目 9.クラスの生徒同士の人間関係が良い高校 3.文化祭や体育祭で,生徒も教師も盛り上がる高校 7.進路や勉強,友人関係の悩みなどきめ細かく相談にの つてくれる先生がいる,相談しやすい高校 2.冗談も言えてうちとけて気軽に話せる先生が多い高校 11.問題行動をする生徒やイジメをする生徒がいない高校 8.部活動に熱心な取り組みをしている高校 12.学習成果発表会などの機会があり,生徒が発表する力, プレゼン力を身に付ける,知識の習得だけでない高校 13.実験や実習,職場体験学習や就業体験など,いろいろな 学習や活動が,教室外でおこなわれる高校 14.修学旅行等で,外国に出かける国際交流の盛んな高校 15.特定の教科(英語,理科,数学,音楽等)に,特別に力 を入れる(大学等と連携し,時間数も多い等)高校 4. 自分の進路選択にあわせて,教科や科目を自由に選択 できる(選択幅の大きい)高校 5. 大学への学校推薦も多くあり,進学実績が良くて,大 学への受験指導に熱心な高校 1. 教え方の上手な先生が多い高校 6. 就職に際して有利な資格がたくさん取れる高校 10.校則が厳しく,規律ある生活や学習ができている高校 71 高校生の学習観
達している。 第 3 因子は,「社会的期待に応え」と名づけた。近年,高校教育をめぐる課 題として取り上げられる社会的な期待である,進学実績,教師の資質能力,就 職指導,そして,規律ある高校生活にかかわる質問項目が含まれる。なお, 「10.校則が厳しく,規律ある生活や学習ができている高校」を肯定する選択 率は,他の質問項目の選択率と比べると,少し低い数値となっている。 なお,この A 高校の教育上の特色である第 2 因子に関して,得点化を行 い(6)。その得点別に,A 高校に入学したことを良かったと評価するかどうか をみたのが,表 18 である。 結果をみると,得点別に有意な差がある。すなわち,高得点群,つまり第 2 の因子を構成する質問項目で,肯定の選択率の高い生徒ほど,A 高校に入学 したことを「たいへんよかった」と評価している。その比率は 51.1% に達し ている。これに対して,A 高校の教育上の特色に関して,あまり高い評価を 与えていない生徒では,A 高校に入学したことを「たいへんよかった」と評 価している生徒の比率は,14.1% に過ぎない。 つまり,A 高校が生徒の提供している教育上の特色に対して,生徒が高い 評価をしている生徒ほど,入学したことを良かったと評価している傾向が明ら かとなった。こうした点から良好な高校観を,生徒が持つかどうかは,高校入 学に際して進路希望をおこなう高校の教育上の内容やその特色をよく理解する ことが,いっそう求められることになる。 表 18 A 高校の特色化の因子得点別にみた A 高校への評価 合計 100.0(133) 100.0(246) 100.0(156) 100.0(535) χ2=92.50 p<.0001 df=8 なんとも 言えない 4.5 8.9 13.5 9.2 他の学科が よかった 1.5 2.8 12.2 5.2 あまり差は なかった 2.3 6.1 11.5 6.7 まあまあ よかった 40.6 63.4 48.7 53.5 たいへん よかった 51.1 18.7 14.1 25.4 1.高得点群 2.中得点群 3.低得点群 計 72 高校生の学習観
6.おわりに
本稿は,大学進学階層では中堅に位置する A 高校の生徒の学習観,すなわ ち,学習(勉強)する意味を明らかにすることを通して,高校生の学習の問題 点や課題を探ってきた。そして,特に次のようなデータに着目した。 1つは,今日の高校生にとって,高校での学習(勉強)はどのように位置づ けられているのか。表 9 の結果によると,高校生活の中で,学習(勉強)の 比重が高くない現状がみられた。 2つは,学習(勉強)の結果・成果としての成績(テスト結果)の良し悪し は,何によって決定されているか(表 11)。努力の多寡によると考えている。 3つは,学習(勉強)を促し,促進させる要因と考えられてきた上級学校 (特に大学)に進学をどのように意味づけしているか(表 10)。大学進学が必 ずしも学習(勉強)を促す強い要因とはなっていない。 4つは,高校での生活態度のあり方が,高校での学習(勉強)や卒業後の生 活の送り方にも一定程度影響すると考えている(表 12)。 5つは,高校生が,教室の中で,まじめに学習(勉強)に取り組む意味を, 教師との関係のあり方から探った(表 16)。 今後,大学進学ヒエラルキーを勘案しての事例の抽出や学科等の差異を踏ま えて,多様化するわが国にの高校教育の現状との関連から,より精密に高校生 の学習観にせまっていく予定である。 注 ⑴ 岡部善平,2005,『高校生の選択制カリキュラムへの適応過程−「総合学科」のエ スノグラフィ−』風間書房. ⑵ 三戸親子,2001,「総合学科における生徒の進路意識形成」『教育社会学研究』第 69集,東洋館出版社,pp.103−122. ⑶ 植木理恵,2002,「高校生の学習観の構造」『教育心理学研究』50, pp.301−310. 市川伸一,1995,「学習動機の構造と学習観との関連」『日本教育心理学会第 37 回総会発表論文集』p.177. 73 高校生の学習観⑷ 例えば,佐藤学,2000,『「学び」から逃走する子どもたち』岩波書店.苅谷剛 彦,2001,『階層化日本と教育危機−不平等再生産から意欲格差社会へ−』有信 堂高文社.苅谷剛彦,2008,『学力と階層』朝日新聞出版.苅谷剛彦,2010, 「教育の格差拡大と学歴社会の変貌」苅谷剛彦,濱名陽子,木村涼子,酒井朗 『教育の社会学』(新版),有斐閣,pp.257−272.本田由紀,2004,「学ぶことの 意味−「学習レリバンス」構造のジェンダー差異」苅谷剛彦・志水宏吉編『学力 の社会学−調査が示す学力の変化と学習の課題』岩波書店,pp.77−98. ⑸ 苅谷剛彦,2000,「学習時間の変化」樋田大二郎他『高校生文化と進路形成の変 容』学事出版出版,pp.149−164.など. ⑹ 第 2 因子に分類された質問項目について,回答を「とてもあてはまる」4 点, 「まあまああてはまる」3 点,「あまりあてはまらない」2 点,「全くあてはまらな い」1 点として得点を与え,5 つの質問項目の得点を合算し,18∼20 点を高得点 群,15∼17 点を中得点群,14 点以下を低得点群としている。 なお,本調査は,平成 23 年度科学研究費補助金基盤研究(C)(研究課題番号, 22530937)により実施した。 ──文学研究科教授── 74 高校生の学習観