• 検索結果がありません。

アレルギー疾患に対する知識と理解 : 教員養成大学生への調査から

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "アレルギー疾患に対する知識と理解 : 教員養成大学生への調査から"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. アレルギー疾患に対する知識と理解 : 教員養成大学生への調査から. Author(s). 山田, 玲子; 松山, 磨美; 津村, 直子. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 61(2): 157-164. Issue Date. 2011-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2330. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第61巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.61,No.2. 平成23年2 月 February,2011. アレルギー疾患に対する知識と理解 一教員養成大学生への調査から−. 山田 玲子・松山 磨美*・津村 直子 北海道教育大学札幌枚 医科学看護学教室 千歳市保健福祉部*. KnowledgeandUnderstandingofAllergies. −ASurveyofTeacher−TrainlngCourseStudents−. YAMADAReiko,MATSUYAMAKiyomi*andTSUMURANaoko DepartmentofClinicalScienceandNursing,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. *DepartmentofPublicHealthandSocialWelfare,Chitose. 概 要 近年,アレルギー疾患の児童・生徒が増加している。しかし,学校側の対応は遅れており,適切な対応が されていないことに起因する問題が指摘されている。教員がアレルギー疾患についての正しい知識と理解の. もとに,アレルギー疾患児に対応することが課題となっている。そこで本研究では,将来教員を目指す学生 の多い教員養成大学において,アレルギー疾患についてどれほどの知識と理解があるのか,その実態を調査 し,その結果から大学でのアレルギー疾患に関する教育について検討する際の資料を得ることを目的とした。 その結果,自身の既往歴や家族歴に関わらず,アレルギー疾患について関心がある学生が非常に多い一方 で,知識や理解を持つ人が少ないことが把握された。アレルギー疾患は,家庭だけではなく学校でも周りの 人たちの理解と協力が必要である。経験的に知識を獲得するだけでなく,教師を目指す全ての学生がアレル ギーについての基本的な知識を習得する機会を十分にもてるような対策が必要である。. Ⅰ.はじめに 近年,気管支炎,アトピー性皮膚炎,食物アレ ルギー,花粉症など,アレルギー疾患の児童生徒. ると,喘息に握っている児童生徒は73万人,アト ピー性皮膚炎は70万人で,いずれも20人に1人で あることが分かった1)。 一方,学校側の対応は遅れており,適切な対応. が増加している。平成16年に行われた文部科学省. がされていないことに起因する問題が指摘されて. の小・中・高校生のアレルギー疾患実態調査によ. いる。アレルギー疾患は予防的な日常生活により. 157.

(3) 山田 玲子・桧山 磨美・津村 直子. 症状の改善を図ることが重要であるため,家庭だ. てどのような知識と理解があるのか,その実態を. けではなく学校でもアレルギー疾患児を支援する. 調査し,大学でのアレルギー疾患に関する教育に. 環境が必要である2)。したがって,教員自身が,. ついて検討する際の資料を得ることを目的とし. アレルギーについての正しい知識と理解を持ち,. 7,′、. アレルギー疾患児に対応することが緊急の課題と なっている。. Ⅱ.対象および方法. 先行研究3)4)では,学校におけるアレルギー疾 患児への理解と対応について,小・中学校の現職. 北海道教育大学札幌校の学生368人を対象に,. 教員を対象に調査を行っている。そこでは,アレ. 自記式無記名の質問紙調査を実施し,286人から. ルギー疾患に関する関心および知識,アレルギー. 回答を得た(回収率77.7%)。調査期間は2007年10. 疾患の発作時の対応,学級における配慮などに関. 月であった。倫理的配慮として,個人情報の厳正. する実態が把握された。アレルギー疾患に関する. な管理,回答により不利益が生じないことの保証,. 知識においては,理解の程度に個人差がみられ,. 使用日的を質問紙に明記し,この回収を持って同. さらに知識の絶対的不足や誤った理解などもあ. 意を得たものとした。. り,その原因として正しい情報を得る機会が少な. 調査内容は,①アレルギー疾患の既往歴,②ア. いことが指摘されている。また,アレルギー疾患. レルギーに対する意識,③アレルギーに関する知. の発作時の対応を知っているのは,気管支喘息と. 識,④教員になった際の学級での対応,⑤アレル. アトピー性皮膚炎で約5割,アレルギー性結膜炎,. ギー疾患の発作時の対応,である。. 花粉症,アレルギー性鼻炎,じんましん,食物ア. 調査結果の分析は,「既往歴」「家族歴」「教員. レルギーにおいては4割以下となっている。学級. 志望」「教育実習経験」の有無の二群間でズ2検定. における配慮についても,配慮されている分野と. を用て解析し,有意水準5%をもって差があると. されていない分野があり,学級特有の事柄におい. した。. てまだまだ十分な配慮がなされていないことも把 握された。. Ⅱ.結 果. 学校現場がこのような状態にあるならば,これ から教員になろうとする者が学校現場に入る前. 1.アレルギー疾患の既往歴・家族歴. に,アレルギー疾患児に対応するための知識や技. 対象者のアレルギー疾患の既往については,. 術を習得しておくことは非常に重要である。. 48.6%(139人)があると答えている。また,その. そこで本研究では,将来教員を目指す学生が多. 時期については,「子どもの時から」が67.6%(94. い教員養成大学において,アレルギー疾患につい. 人),「子どもの時はなかったが今はある」が13.6%. 表1:アレルギーへの意識と教員志望との関連 ア 教員志望. 関. 心. ある どちらとも ない. レ. ル. ギ. ー. ヘ. 知. 識. ある どちらとも ない. の. 意. 識. 知 識 欲 ある どちらとも ない. ある 150(71.1) 21(10.0) 40(18.9) 62(29.3) 58(27.5) 91(43.2) 171(81.1) 22(10.3) 18(8.6) ない 41(55.4) 15(20.2) 18(24.4) 24(32.4) 15(20.3) 35(47.3) 51(68.9) 8(10.8) 15(20.3) 検定. *. n.S.. *. *p<0.05. 158.

(4) アレルギー疾患に対する知識と理解. (19人),「子どもの時にはあったが今はない」が. 表2:アレルギーに関する語句の理解度 人数(%). 17.3%(24人),無回答1.4%(2人)であった。 語 句. 家族歴については,ある人が42.7%(122人),. 意味を知っている 言葉は知っている 知らない. ない人が55.2%(158人),無回答が2.1%(6人)で. アレルギー体質 196(68.5) 84(29.4) 6(2.1). あった。. アレルゲン. 126(44.1) 92(32.2) 68(23.8). 副腎皮質ステロ ルモン 60(21.0) 100(35.0) 126(44.1) イドホ 2.アレルギー疾患に対する意識. アレルギーについて‘関心がありますか(以下 関心)’という質問に対し,「ある」と答えた人は 66.7%(191人),「どちらともいえない」12.6%(36 人),「ない」20.6%(59人)であった。また,アレ. ルギーについての‘知識があると思いますか(以. 抗原抗体反応 137(47.9) 63(22.0) 86(30.1) 化学物質過敏症 152(53.1) 63(22.0) 71(24.8) アレルギーマーチ 1(0.3) 38(13.3) 247(86.4) アナフィラキシー 107(37.4) 49(17.1) 130(45.5) アレルギー性緊 張・弛緩症候群. 23(8.0) 58(20.3) 205(71.6). 下知識)’という質問に対し,「ある」と答えた人 は30.1%(86人),「どちらともいえない」25.5%(73 人),「ない」44.7%(127人)であった。さらに,. られなかった。. 次に,アレルギーに関する問題15間を○×で解. アレルギーについての‘知識を得たいと思います. 答してもらったところ,‘アレルギー疾患児には. か(以下知識欲)’という質問に対して,「思う」. 落ち着けない,じっとしていられないなどの症状. と答えた人は77.6%(222人)であり,「どちらとも. がある’や‘だるい,何もする気力がないなどの. いえない」10.5%(30人),「思わない」11.9%(34. 症状がある’などで正答率が低く,特にアレル. 人)であった。. ギー疾患の精神面への影響については,知識が乏. 上記の‘関心’‘知識’‘知識欲’の3項目と. しい結果となった(表3)。. ‘既往歴’および‘家族歴’との関連を調べたと. また,これら15間と‘教員志望の有無’‘教育. ころ,双方とも有意差は認められなかった。一方,. 実習経験の有無,における関連をみるためにズ2. 同様に上記3項目と‘教員志望の有無’との関連. 検定を行ったが,どの問題においても有意差は認. を調べたところ,‘関心’‘知識欲’の2項目で. められなかった。. 有意差が認められた(表1)。. 次に,アレルゲンになり得る食物16品目をあげ,. 対象者にアレルゲンになると思うかどうかを複数 3.アレルギー疾患に関する知識 アレルギーに関する語句(7項目)について,. 回答で尋ねた。その結果,‘卵’(90.9%)‘牛 乳’(87.1%)‘ピーナッツ’(66.1%)‘ェビ・カ. その理解度を聞いたところ,‘アレルギー体質’. ニ’(62.2%)‘大豆・大豆製品’(55.2%)の5品. や‘化学物質過敏症’などは「意味を知っている」. 目は半数以上の人がアレルゲンになることを知っ. とした人が半数以上いたのに対し,‘アレルギー. ていたが,その他の食物に関する認知度は半数以. マーチ’や‘アレルギー性緊張・地溝症候群’. 下であり,‘穀類’(45.8%)‘魚類’(31.8%). ‘アナフィラキシー’には「知らない」という回. ‘キウイ’(29.4%)と徐々に低くなり,‘きの. 答が多かった(表2)。. こ’(19.6%)‘肉類’(17.1%)‘芋類’(15.4%). また,理解度が低かった語句の内の‘アレル. ‘バナナ’(15.0%)‘栗’‘たけのこ’‘アボガ. ギーマーチ’と‘アレルギー性緊張・弛媛症候. ド(各9.4%)‘砂糖’(7.0%)においては,アレ. 群’の2つの語句の理解度と‘教員志望の有無’. ルゲンとなることがほとんど知られていなかっ. ‘教育実習経験の有無’における関連をみるため. にズ2検定を行ったが,双方ともに有意差は認め. た。. 次に,アレルギー疾患児が増加している要因に. 159.

(5) 山田 玲子・桧山 磨美・津村 直子 表3:アレルギーに関する問題の正答率 人数(%). 問. 題. 正 解 不正解 分からない. アレルギー疾患は体質に関係している. 239(83.6) 8(2.8) 39(13.6). アレルギーのある人が予防接種を受けるときは医師などに相談する必要がある 263(92.0) 6(2.1) 17(5.9) アレルギー疾患は身体だけではなく精神面にも関係している. 133(46.5) 82(28.7) 71(24.8). 一般にクラス(小中学校)に2,3人程度アレルギー疾患児がいる. 143(50.0) 68(23.8) 75(26.2). 衣類は木綿製品より化学製品のほうが身体によい. 239(83.6) 3(1.0) 44(15.4). 食品の保存料や着色料などもアレルギー反応を起こす. 245(85.0) 5(1.7) 36(12.6). 思春期になってアレルギー反応が消失すると,それ以降に症状はでない. 200(69.9) 8(2.8) 78(27.3). 発作やかゆみに対する不安から神経質の子に多い. 68(23.8) 113(39.5) 105(36.7). アレルギー疾患児には落ち着けない,じっとしていられないなどの症状がある 53(18.5) 135(47.2) 98(34.3). 乳児の時に皮膚症状があると喘息の有病率が多い. 71(24.8) 27(9.4) 188(65.7). ダニ対策として市販の殺虫剤で殺す. 201(70.3) 23(8.0) 62(21.7). アレルギー疾患児にはだるい,何もする気力がないなどの症状がある. 65(22.7) 100(35.0) 121(42.3). アトピー性皮膚炎には薬用の石けんがいい. 105(36.7) 68(23.8) 113(39.5). ランニングなどの鍛錬は喘息の治療に効果がある. 120(42.0) 66(23.1) 100(35.0). 準備体操を行うことで運動からの喘息発作を防ぐことができる. 119(41.6) 56(19.6) 111(38.8). ついて5項目をあげ,複数回答で要因であると思. ない」11.2%「配慮しなくてよい」4.5%であった。. うものを尋ねた結果,‘住環境の変化’(70.6%). ‘クラスの仕事当番(特に飼育係など)を決める. ‘食生活の変化’(69.9%)‘大気汚染の進行’. ときに配慮する(以下仕事当番)’では,「配慮す. (60.8%)‘遺伝’(47.9%)‘精神的ストレス’. る」88.5%「どちらともいえない」8.0%「配慮. (36.4%)であり,最近アセトアルデヒドなどが問. しなくてよい」3.5%であった。‘洗剤,薬品,. 題となったこともあり,環境面を要因と考える人. 食品などを扱うため,実験・実習の時に配慮する. が最も多い結果となった。. (以下実験実習)’では,順に90.9%,6.3%,2.8%. これらのアレルギーに関する知識や情報をどの. であった。‘掃除の時に配慮する’では順に. ように習得したか(情報源)を複数回答で尋ねた. 64.4%,21.3%,14.3%であった。‘教室に花・. ところ,「テレビ・ラジオ」48.6%,「医療機関」. 植物を置かない(以下植物)’では,47.9%,. 39.5%,「新聞・雑誌」30.1%,「インターネット」. 41.6%,10.5%であった。‘香水・化粧などの使. 15.4%,「書籍」10.1%,「アレルギーに関する授. 用を控える’では,78.0%,16.4%,5.6%であっ. 業・講習会」0.3%であった。. た。‘教室で動物を飼わない’では,71.0%, 26.2%,2.8%であった。. 4.アレルギー疾患児への学級における配慮. 対象者に自分が教員となったとき,アレルギー. これら7項目と‘教員志望の有無’‘教育実習. 経験の有無,における関連をみるためにズ2検定. 疾患児がいる学級において配慮する必要がある項. を行ったが,双方ともに有意差は認められなかっ. 目を7つあげ,実際に配慮するかどうかを尋ねた。. た。. その結果‘チョークの粉などによる影響を少なく. するために座席の位置を配慮する(以下座席位 置)’では,「配慮する」84.3%「どちらともいえ. 160. 5.アレルギー疾患の発作時の対応 アレルギー疾患の発作時の対応を知っているか.

(6) アレルギー疾患に対する知識と理解. 表4:アレルギー疾患発作時の対応の仕方. 族がいなくても,アレルギーに関心のある学生が 人(%). 疾 患 名. 知っている 知らない. 多いことがわかった。これは,近年のアレルギー. 屏息者の増加やアレルギーに関連する事件が増え. 気管支喘息. 66(23.1) 220(76.9). アトピー性皮膚炎. 66(23.1) 220(76.9). アレルギー性結膜炎. 57(19.9) 229(80.1). 項目と‘教員志望の有無’との関連を調べたとこ. 花粉症. 56(19.6) 230(80.4). ろ,‘関心’‘知識欲’の2項目で有意差が認め. アレルギー性鼻炎. 49(17.1) 237(82.9). られた(表1)。一方で,教員を志望しているか. じんましん. 39(13.6) 247(86.4). らといって,アレルギーに関する知識を有してい. 食物アレルギー. 27(9.4) 259(89.2). ると自信をもって言えない学生が多いことが把握. ていることなどが影響していると考えられる。 また,上記の‘関心’‘知識’‘知識欲’の3. された。これは,前述したようにアレルギーに関. どうかを,7疾患について尋ねた(表4)。その. する知識を学ぶ機会があまりないことが影響して. 結果,7疾患すべてにおいて「対応を知っている」. いるのではないかと考える。教員になってから知. とする回答が20%前後と低率だった。教員を対象. 識を得るのではなく,教員になる前にもアレル. とした先行研究5)と比較しても,学生を対象とし. ギー疾患に関する基本的な知識を得る機会をもて. た本調査の方が全般的に「知っている」とする回. るように,大学の授業科目の中にアレルギーに関. 答が2∼3割ほど下回っていた。その中でやや高. する内容を入れるよう検討する必要があると考え. 率だったのは‘気管支喘息’‘アトピー性皮膚. る。これは,学校で唯一の健康の専門家である養. 炎’でともに23.1%,一方,かなり低率だったの. 護教諭を目指している学生のみではなく,クラス. は‘食物アレルギー’の9.4%であった。. に1∼2人はアレルギー疾患を持つ児童生徒がい ることを考えると,教員を目指している全ての学. Ⅳ.考 察 1.アレルギー疾患に関する意識について. アレルギーについて‘関心’があると答えた人 は66.7%であるのに対し,アレルギーについての ‘知識’があると答えた人は30.1%に過ぎなかっ. 生に向けて開講する必要があるだろう。さらに, ‘知識欲’を持っている人が多いことから,知り たい,調べたい,と思った時すぐに行動できるよ. うに,大学内の図書にアレルギー疾患やアレル ギー疾患児に関する書籍を増やすなど,環境面で の整備も重要であると考える。. た。また,アレルギーについての‘知識欲’があ. る人は77.6%であり,教員を対象とした先行研究3) と同様に,アレルギーについての‘知識欲’や ‘関心’があるにも関わらず,‘知識’を得る機. 2.アレルギー疾患に関する知識について アレルギー疾患に関する語句の理解度について は,‘アレルギー体質’だけではなく,‘アレル. 会がほとんどないかあまりないという状況の反映. ゲン’‘化学物質過敏症’についても意味または. と推測される。さらに,今回対象とした学生にお. 言葉を知っている人が7割以上を示した。新聞報. いては,実際にアレルギー児と接した経験がない. 道でアセトアルデヒド過敏症について取り上げら. ことや疾患に関する知識が少ないことによる自信. れるなど,よく耳にする語句であることを反映し. のなさが影響したのではないかと考えられた。. た結果といえるだろう。一方,‘アナフィラキ. アレルギーに対する‘関心’の有無と‘既往 歴’および‘家族歴’との関連を調べたところ,. 両方とも有意差は認められず,自分自身がアレル ギーの既往がなくても,またアレルギー疾患の家. シー’. については学校給食による死亡事故も発生. しているが知らない人が5割近かった。さらに ‘アレルギーマーチ’や‘アレルギー性緊張・弛. 横症候群’は知らない人の割合が一層高かった。. 161.

(7) 山田 玲子・桧山 磨美・津村 直子. これらは,突発性の事故や発育・発達に関わる内. が高い食品でも,アレルゲンとなる可能性がある. 容であり,‘アレルギー体質’や‘化学物質過敏. こと知っている人は5割程度であった。食物アレ. 症’とともに,学校教育に携わる人は理解してお. ルギーに関しては,突発的に発生することもある. くことが望ましい語句であろう。. ため,アレルゲンとなる物質が多種多様であるこ. また,理解度が低かった語句の内の‘アレル ギーマーチ’と‘アレルギー性緊張・弛横症候 群’の2つの語句の理解度と‘教員志望の有無’ ‘教育実習経験の有無’との関連では,双方とも. とを十分理解し,日頃から情報に敏感になってお く必要があるだろう。. また,アレルギーに関する知識を得る情報源に ついては,「テレビ・ラジオ」が多く「授業・講. に有意差は認められなかった。教員を志望してい. 習会」が極端に少なかった。マスメディアを通し. るから,実習を経験したからアレルギーに関する. て断片的な情報を取り入れている人が多いことが. 語句の理解度が高いという結果にはならなかっ. 把握された。しかし,教員になる学生には,より. た。しかし,前にも述べたようにクラスに1∼2. 正確でまた系統的に学ぶことができる「授業・講. 人はアレルギー疾患児がいることを考えると,教. 習会」や「書籍」から知識を得て,理解を深める. 員になってからではなく学生の内に,特に教員を. ことが望ましいと考える。そのためには,やはり. 志望する学生に関しては,自らが進んでアレル. 大学における環境作りを積極的に進めていくこと. ギー疾患に関する知識を獲得したいという意志を. が重要となるだろう。. 持てるように,大学教育の中で講義や講習会など を開催したり,また教育実習だけではなく,様々. 3.アレルギー疾患児の学級における配慮と発作. な場面で多様な子供たちと接する機会がもてるよ. 時の対応について. うなプログラムをたてることが必要だろう。. 学級において配慮する項目で高率だったのは. 次に,アレルギーに関する正誤問題に関しては,. ‘実験実習’‘仕事当番’‘座席位置’であり,. 特にアレルギー疾患の精神面への影響について,. 低率であったのは‘植物’であった。アレルギー. 理解が乏しい結果となった。アレルギー疾患の心. 疾患児にとっては,花粉も症状を誘発したり,悪. 理精神面への関与を示す例としてあげられていた. 化させたりする要因となるため,植物への配慮も. 「落ち着けない」「じっとしていられない」など. 必要である。一方,教員を対象とした先行研究3). の緊張症状,逆に「だるい」「何もする気力がない」. では‘座席位置’‘仕事当番’‘実験実習’が他. などの弛横症状を呈するアレルギー性緊張・弛横. の項目と比較すると低率であり,本調査とは異な. 症候群に関連する項目については非常に低かっ. る結果となった。今回の対象者である大学生では,. た。緊張・弛横症状をアレルギー疾患との関連で. 小中学校での経験を身近に振り返ることができ,. 考えない場合,単に怠業や問題行動として扱われ. これら学校特有の事項について児童生徒の立場か. 不適切な対応が取られてしまうであろう。先行研. ら考えることができるため,高率になったことが. 究6)7)8)でも碇起されているように,教員はアレ. 考えられる。しかし,教員を対象とする調査では. ルギー疾患が学習,行動,身体・精神的な問題な. 一般的に知られている誘発因子について「配慮す. どに関与しているという知識を習得しておくべき. る」という回答が多かった。いずれにしても,学. であると考える。. 級にアレルギー疾患児がいる場合には,その子の. 次に,アレルゲンとなる食品については,ほぼ. 状況に合わせて配慮する項目を検討する必要があ. 9割の対象者が知っていた「卵」「牛乳・乳製品」. るだろう。さらに配慮する項目を決める際には,. はアレルギー症状を起こしやすい食品として広く. 対象児の主治医などの医療関係者や保護者,学校. 知られていることが確認できた。一方で「大豆」. 関係者が連携をとり,適切な対応方法を検討する. や「穀類」など学校給食の献立に使用される頻度. ことが望まれる。そのため,教員は学校内だけの. 162.

(8) アレルギー疾患に対する知識と理解. 連携に留めるのではなく,他職種とも協働して対. 育・発達に関わる語句は約半数の人が知らな. 応を検討できるよう,日頃からコミュニケーショ. かった。. ン能力やコーディネートカを付ける努力が必要と なるだろう。. 次に,発作時の対応については,7疾患すべて. 3)アレルギーに関する正誤問題に関しては,. 特に精神面への影響について理解が乏しい結 果となった。「落ち着けない」「じっとしてい. において「対応の仕方を知っている」とする回答. られない」などの緊張症状,逆に「だるい」「何. が20%前後と低率だった。教員の対象とした先行. もする気力がない」などの弛横症状を呈する. 研究3)と比較しても,2∼3割ほど下まわってい. アレルギー性緊張・弛横症候群に関連する項. た。アレルギー疾患発作時の対応については緊急. 目については,正答率が非常に低かった。こ. 性を要するものであり,基本的な知識や対応の仕. れらを正しく捉えていないと,単に怠業や問. 方を学生のうちに習得しておくことで,実際に教. 題行動として扱われ不適切な対応が取られる. 育現場で活かすことができると考える。そのため. 可能性もあるため,教員を目指す学生はアレ. には,前に述べたように大学での講義に積極的に. ルギー疾患が学習や行動,精神的な問題など. アレルギー疾患に関する内容を組み込んだり,講. に関与していることを理解することが必要で. 習会の開催や関連図書の充実などの手立てが必要. ある。. となるだろう。. 4)アレルギーに関する知識を得る情報源につ いては,「テレビ・ラジオ」が多く「授業・. Ⅴ.結 語 大学でのアレルギー疾患に関する教育について. 講習会」が極端に少なかった。マスメディア から断片的な情報を取りいれている辛が把握 されたが,教員になる学生には,より正確な. 検討する際の資料を得ることを目的として,教員. 知識が必要となるため「授業・講習会」や「書. 養成大学の学生を対象に調査を行った。自記式無. 籍」から理解を深めることが望ましい。. 記名の質問紙を用い,アレルギー疾患の既往歴・. 5)アレルギー疾患の発作時の対応について. 家族歴,アレルギー疾患に関する意識および知識,. は,7疾患すべてにおいて「対応の仕方を知っ. 学校におけるアレルギー疾患児への対応,アレル. ている」人が非常に少なかった。発作時の対. ギー疾患発作児の対応について調査した結果,い. 応について学生のうちに習得しておくこと. くつかの知見を得たので報告する。. が,緊急時の対応に有用であると考える。. 1)対象とした大学生の中でアレルギーについ. 以上のことから,今後大学においては,アレル. て知識があると答えた人は3割と少なかった. ギー疾患に関して,基本的な知識と具体的な手当. が,アレルギーへの関心・知識欲は約7割の. と対応方法を学ぶ機会がもてるよう,授業や講習. 人が持っており,既往歴や家族歴の有無に関. 会を積極的に計画したり,学生自らも学習できる. わらず多いことが明らかになった。アレル. ように関連図書を充実させるなど,環境を整えて. ギーに関する情報を得る機会が少ないことが. いくことが重要である。. 知識不足と関係があると考えられた。. 2)アレルギーに関する語句の理解度では,. 引用・参考文献. ‘アレルギー体質’‘アレルゲン’‘化学物. 質過敏症’は7割以上の対象者が‘意味また. 1)大西誠:ぜんそく73万人・アトピー70万人一学校側 の遅れ目立つ−アレルギー疾患で文科省が初の実態調. は言葉を知っている’と答えている一方で,. ‘アナフィラキシー’や‘アレルギー性緊 張・弛横症候群’のように突発性の事故や発. 査,内外教育,8−9,2007 2)西牟田敏之:学校生括環境とアレルギー,アレルギー. の臨床,11(7),495−498,1991. 163.

(9) 山田 玲子・桧山 磨美・津村 直子. 3)小谷スミ子,内藤照美,伊藤知子:小学校教員のア レルギー児に対する理解と対応 第4報アレルギーに 関する知識の習得,新潟大学教育人間科学部紀要 自. 然科学編,7(1),87−101,2004 4)下村義夫,井田江利子,鈴木薫ほか:学校における アレルギー疾患の対応についての碇案,日本教育保健. 研究会年報,7,321,2000 5)松浦資長,斎藤太,藤村美保,飯田恭子:気管支喘 息に対する小中学校の教師の対応,学校保健研究,38, 179−192,1996. 6)Rapp,D.:AllergiesTheHiddenTheHealthy Child,11;27−28,1990. 7)Glines,D.&Rapp,D.:AllergiesandProblem Students,HealthEducation,19(2),34−38,1988 8)大矢幸弘,益子育代,赤澤晃:アレルギー児と不登校, 子どもの健康科学,3(1),48−54,2002 9)近藤富雄:養護教諭と患者からみた小中学校での小 児気管支喘息発作の状況,小児保健研究,155,309,1996 10)藤沢隆夫:小児喘息と学校生括,アレルギーの領域, 5(6),702−707,1998 11)角田和彦:食物アレルギーとアナフィラキシー, 45−47,芽ばえ社,2003 12)小田島博:なおも増え続けるアレルギー疾患一学校 保健の問題点と対策,アレルギーの臨床,20,711−716, 2000 13)赤坂徹:家庭や学校でできる子どもの気管支喘息の. 治療と対策,アレルギー,54(8.9),1004,2005 14)杉本日出雄:学校体育とアレルギー疾患,日本小児 アレルギー学会誌,17(3),276−283,2003 15)秀道弘,亀好良一,田中稔彦:学校におけるアトピー. 性皮膚炎・アレルギー疾患に関するアンケート調査結 果報告,広島医学,58(1軌 800−812,2005. (山田 玲子 札幌校准教授) (桧山 磨美 千歳市保健福祉部) (津村 直子 札幌校教授).

(10)

参照

関連したドキュメント

 少子高齢化,地球温暖化,医療技術の進歩,AI

1991 年 10 月  桃山学院大学経営学部専任講師 1997 年  4 月  桃山学院大学経営学部助教授 2003 年  4 月  桃山学院大学経営学部教授(〜現在) 2008 年  4

講師:首都大学東京 システムデザイン学部 知能機械システムコース 准教授 三好 洋美先生 芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科 助教 中村

学識経験者 品川 明 (しながわ あきら) 学習院女子大学 環境教育センター 教授 学識経験者 柳井 重人 (やない しげと) 千葉大学大学院

Photo Library キャンパスの夏 ひと 人 ひと 私たちの先生 文学部  米山直樹ゼミ SKY SEMINAR 文学部総合心理科学科教授・博士(心理学). 中島定彦

関谷 直也 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター准教授 小宮山 庄一 危機管理室⻑. 岩田 直子

  総合支援センター   スポーツ科学・健康科学教育プログラム室   ライティングセンター

  池田  史果 小松市立符津小学校 養護教諭   小川 由美子 奥能登教育事務所 指導主事   小田原 明子 輪島市立三井小学校 校長   加藤