イタリア協奏曲Italianisches Konzert B.W.V.971の分析と演奏

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(1)Title. イタリア協奏曲Italianisches Konzert B.W.V.971の分析と演奏. Author(s). 中谷, 弘; 浅井, 良之. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. C, 教育科学編, 48(1): 337-348. Issue Date. 1997-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/2205. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 北海道教育大学紀要 (第1部C) 第4 8巻 第1号. 平成9年8月. lo fHokka i do Uni i i Sec Journa i tyofEduca t l t Ver s on1C)Vo on( .48 ‐I ,No. Au t 主犯s ,1997. イ タ リ ア 協 奏 曲l i tauan sches Konzert B .W.V. 971の分析と演奏. 中. 谷. 弘・浅. 井. 良. 之. はじめに ピ アノ 曲 の学習 にお い て 対位 法 による 楽 曲と して は J S バ ッ ハ の「小 前 奏 曲 と小 フー ガ 「2 声イ ン ヴ ェ , 」 ,.‐ 「 ンシ ョ ン・3 声 シ ン フォ ニ ァ」 平 均 率 ピ アノ 曲集」 を用 い て 進 め ら れる こ の 「イ タ リ ア協 奏 曲 は 「ク 。 」 ラ ヴィ ー ア 練習 曲集 第2 巻」 と して 出版さ れた。 練習 曲集 と は い っ ても ツ ェ ルニ一 等 の19世 紀の 練習 曲とち が っ て, こ の 「協 奏 曲」 は, 指 のメ カ ニ ッ ク な 技 術 の習 得 だけ に と どま ら ず .バロ ッ ク 音楽 の 表 現 を学ぶ 曲 , と して位 置 づ けら れる。 例 え ば1 ・3 楽章 で は 「リ トルネロ 形 式 につ い て 2 楽 章 で はバ ロ ッ ク 音 楽のカ 」 ,. ン ,ターピレな演奏表現を実際にどのよう におこなうかなどあげられる。 この点から本学の学生指導において も有効な教材として認識し取り上げてきた。 しかし バッハの作品を演奏するためには 曲の形式 時代様 , , , 式をめ ぐる様々な文献, 曲の様々な校訂によるテキスト 鍵盤作品以外の作品などの研究 その上に立った , , 数多くの経験, な どにおいて古典派・ロマン派とはまた異なっ た幅広 い学習が必須のこととなる 本稿では 。 「イタリア協奏曲」 の1・2楽章をとりあげ 様々な表現方法について楽譜を様式に則 って読みとり, 演奏 , するために様々な点から考察をおこなう。. 1. この曲に用いられた 「協奏曲」 「リトルネロ形式〕 について. 1 ・協 奏曲 の 時 代 変化. ・. 「協 奏 曲 は トリ オ ・ ソ ナタ か ら コ ンチ ル ト・ グロ ソヘ ェ 」 ッ , や がて独 奏協 奏 曲へ と 移りハイ ドン やモ ー ツ ァ ル トを 経 て 現在 にい たる。 しか しそ の 「協 奏」 の 意 味は時代 によ り 異 なる 。 「バ ロ ッ ク 音 楽 の コ ンチ ェ ル トの 概 念 と 19世紀 の コ ソロ・ ンチ ル トの れは し ば しば混 同 して 捉 え ら そ ェ , れている。 実 際 に はそ の名 称 の他 に こ れとい っ た共通点 はな いの に そ も そ も コ ンチ ェ ル トと は 17世紀 , 。 、 初 頭 にお い て, た だ 単 に シ ンフ ォ ニ ア や コ ンチ ェ ン ト ゥ ス つ ま り “協和 した調 べ” や ”音楽を演奏する器楽 ア ン サ ン ブ ル” と 同 じ意 味 の 言 葉 で あ っ た。 コ ン チ ェ ル ト と いう 言 葉 の 概 念 は 本 来 ”コ ン セ レー レ” , , ( わ ・ 合 せ と る ) いう 言 葉 に 由 来 して いる。 更 に す で に プ レ トリ ウス 以 来 そ の 語 源 と して 認 conserer e , , め ら れて き た ”コ ンチ ェ ルター レ” ( t conc er a r e・ 競 争する、 張り 合う) と いう 言葉 が上 げら れる だ ろう。 - 中 略- バロ ッ ク の コ ンチ ェ ル トは “支 配 的な立 場 にある ソリス ト” と そ れを伴 奏する オ ー ケス トラ によ っ , て成 り 立 っ て いる 独 奏 曲 で は な い の であ る た と え 今 日 “コ ンチ ェ ル ト” と いう 言 葉 がこ のよう なイ メ ー 。 , ) 1 ジを 持 っ て いる と しても( 」. その歴史的経過をまとめると次のようになる。 a ・ ヴ ェ ネ ツィ ア でカ ンツ ォ ー ナ・ ダ・ ソ ナー ル と 呼 ばれた 数個 の 楽 器の 合奏 曲 は や がて ソナ タ と 呼 ば れ , 337.

(3) . 弘・浅 井. 中 谷. 良 之. る よう にな っ た。. b・バロック時代のもっ とも重要な室内楽曲として, 独立した3声部からなるソナタがトリオソナタと呼 ば れる。 その 声部 は, ほ ぼ同 じ音 域の 上 2声 部 (ヴ ァ イ オリ ン, ヴィ オー ル, オー ボエ な ど) とそ れを支 える. 低音部という3声楽曲の形で記譜されるが, 更に1個の和音楽器 (チェンバロ, オルガンな ど) が低音部に しるされた数字低音に基ずいて即興的に和音を充填する。 このことから実際の演奏には普通4つの楽器を必 要とするため, 古典派以降の ピアノ トリオ他の三重奏曲とは楽譜の書法, 演奏方法が異なる。 1714出 版)の12曲 によ っ て, トリ オ・ ソ ナタの 上 の 2声部 を「コ ンチ ェ ル ティ ーノ (独 c・コ レッ リ の作 品6(. 奏群)」 とし, それに弦楽合奏 (リ ピエーノ) を配したコンチェ ルト・グロツソ (合奏協奏曲) の形 が, 確 立 さ れた。 1709出 版) の 後半 の6 曲をそ の 始め と して、 コ ンチ ェ ル ト・ グロ ツ ソの コ ンチ ェ ル d. ト レ ッ リ の 作 品 8 ( ティ ーノ の 中の1つ の ヴァ イ オリ ンが 際立 っ て 独奏 的 にな っ てく る こ と によ っ て, 独 奏 コ ンチ ェ ル トが形 を. 成してきた。. 「 ヴィ ヴァ ル ディ や ア ル ビノ 一 二 らの手 で, 独 奏 コ ンチ ェ ル トは急- 緩 - 急 の3 つ の 楽章 をも っ た リ トル. ネロ形式」 を軸とする形に仕上げられていった。 2・ 「リ トル ネ □形 式」 につ いて 「リ ト ル ネ ロ 形 式 ( l l i t of orne o rm [英]) は18世紀初頭の合奏協奏曲およ び独奏協奏曲に多く用いられた。 」 r. 「 この形式においては, 奏者全員の合奏により繰り返し (リトルネロして) 奏される リトルネロ主題」 と, 独奏者により奏されるソロ部分とから構成される。このソロ部分はリトルネロに対して対照的楽句の場合と, リトルネロの音楽的装飾・発展の場合とがあり,特に後者はヴィ ヴァルディの協奏曲にその典型が見られる。 この形式は17世紀イタリアのオーケストラ伴奏付きのアリアに用いられたもので, 器楽による序奏がリトル ネロと呼ばれた。 表I ヴィ ヴァルディ (リトルネロ形 鋤 との対照表 h の調性 c (樽 表中平強は J h イタリア協奏曲) ‐S .Ba J 第1楽章 ( a c ‐B .S 小. 節. ITUtti. l 1~30 … トウツ テイ :. 30{る2 …. 2÷ ÷ 9 0 5 90^‐103. 103^v128. 9 2 9 { ÷ 1 3 1 146 139^-. 1項 3 ÷ }1蘭 I E欝~192. 338. 調. solo. ソロ. トウツアイ ソロ. トウ ツ アイ. ソロ. トウツ テイ. ヴィ ヴァルディ の形式. Fd u r (主調D. 主調. Fdur 一 Cd u rC属調D. 主郭勧いら屋諺匿もしくは耳誓手芸議題. 謝 F短‘ l(平行 り Cd u r → dlml. 屋説もしくは平行長調. dlmll → Cd u r備弱め ソロと 短い トウ ツ テイ音. Bd u r (下属調D 一. ソロ トウ ツアイ. 性. F 一 G. Fd u r(主調D. 一 Cd u r(属調D. Fdur o扇印 Fd u r. 【 1運壷隠 羽行短 娠調など. 一 窮 境r. 主調 主調.

(4) . イタリア協奏曲l l i i he tB t a an s c sKonzer .W.V .971の分析と演奏 第3楽章 Prest. 小. 節. 1~24 25. ITutti. トウツブオ. 5. 65 76. ソロ. .トウ ツブイ 、 ソロ. 76÷÷92. 92^}126. トウツアイ. 127^一139 140^v154. ソロ トウ ッ テイ. 155^v186 187^v210. solol. ソロ. トウツ テイ. 調. ヴィ ヴァルディ の形式. 性. Fd 一 暖 D u r(主喜 Fdur一 Cd u r (属議D Cdur. 蝋. 主調から風説もしくは平行長調. 屋認もしくは平行長調. d 聞1 1(平行 ぱ観ゴ粉 d 田ゴー1. ソロと短いトウツテイ音. ll ÷→ apmll dp o o. .短調など 王厘観 平行. a 聞u → Fdur o扇町 FdurC 主喜 一 匿 D. Fd w. - 醐一一. 主調 主調. 表2 ブランデンブルク協奏曲 第5番@W I 0 0 )劫 第1楽章 A 5 1 I r o 2分の2拍子 e g. 小 節 1′~9. Tutti. トゥ ツアイ. 9′ ~1 9 ÷ 一20 19. ソロ. トウ ツ 丁イ ソロ. 謡ー 鱈 ー. 2鰐甥. 2 9~3 1. トゥ ツ ティ. 三毛園. Ddur 一 AdurC 属調Dへ. ヨ三園から履諺周もしくは斗誓手 遍憲閤. Ad ur 備霞め. 属調もしくは平行長調. Adur Adur hm l( l S F 蟹 行短調D o. トゥ ツ テイ. bmo11 一 Dd 馬 D r(主司 u. ソロ. Dd 庭弱震 D u r 一 Ad u r(. ソロと短いトゥッティ部扮の 明交”. ソロ と ト ゥブティ. Adur 一 DdurC 主調D. “ 下層認 羽 徹聴調など. トゥ ツ ティ. 2 ′ Y2 1 9 2 7. ヴィ ヴァルディ の形式. Dd ur C主調D. トゥ ツ丁イ. ソロ. 1鴻一2 1 8. 調 性. solo. ソロ トゥ ツ ティ. Ddur Dd r u. d魂目節 ( 商事 当り. チェンバロの竣矩妻( 8 0小節) Ddur o醐助. 主調. 捌. ソロ が アリ ア に対応 し, ト ゥ ツ ティ がリ トルネ ロ に対応 する。 ソロ が 自由 に変化す る の に対 し 全員 の 合 , 奏 (ト ゥッ ティ) が ほ ぼ同 じリ トル ネ ロ 主 題 を 繰り 返 す の が特 色 であ る 「普 通 は 最 初 と最 後 の トゥッ ティ 。. だけがリトルネロの素材を完全に提示する。 2つ目のトゥツティは概して短く その他はしばしば断片的で , ) と さ れる 2 あり, リ トルネ ロ か ら採 ら れ たモテ ィ ー フ が伴 奏 に使 わ れる こ とも多 い( 」 。. 「主題の繰り返し」 は古典派のロンド形式にも見られるが ロンド主題の繰り返しの場合のように 主調 , , 339.

(5) . 中 谷. 弘 4妾 井. 良 之. だ けではなく, 最 初 と最 後のリ トルネロ を 除いて 毎 回異 な っ た調 で 繰り 返 さ れる。 表 1に ヴィ ヴ ァ ル ディ の 用 い たリ トル ネロ 形式 とイ タリ ア協 奏 曲の ト ゥッ ティ と ソロ, 表2 に ヴィ ヴ ァ ル ディ の用 い たリ トルネ ロ 形 式 とバ ッ ハ の ブラ ン デン ブル グ協 奏 曲第5 番 の ト ゥ ツ ティ とソ ロ, お よ びそ れ らの調 性 関連 を示す。 この よう な 経 緯の 後, バ ッ ハ は, ヴ ァ イ マ ー ル, ケ ー テ ン時代 を通 じて, 当 時流 行 して い たイ タリ アの 協. 奏曲, とりわけヴィ ヴァルディの協奏曲を熱心 に研究し, 「調和の霊感」 作品3を例にとる と,.第3番ト長 調 を 「チ ェ ン バ ロ 協 奏 曲 へ 長 調 bwv978一 に, 第 8 番イ 短調 を 「オ ル ガ ン協 奏 曲イ 短調 bwv593」 に, 第 9 番 ニ 長調 を 「チ ェ ン バロ 協 奏 曲ニ 長 調 bwv972一 に, 第10番 ロ 短調 を 「4 つ の チ ェ ン バ ロ の ため の協 奏 曲イ 短調 bwvl065J に, 第11番 ニ 短調 を 「オ ル ガ ン協 奏 曲ニ 短調 bwv596一 に, 第12番 ホ 長調 を‐「チ ェ ン バロ協 奏 曲ハ 長調 bwv976一 にそ れ ぞ れ編 曲 して いる。 ま た そ の成 果 は6 曲の 「ブラ ン デン ブルク 協 奏 曲」 や 3 曲 の 「ヴ ァイ オリ ン協 奏 曲」 と な っ て 残 さ れた。 この協 奏 曲の 書式 を一 台のク ラ ヴィ チ ェ ン バ ロ に転用 し, い. わば協奏曲の範型を示したのがこの 「イタリ ア協奏曲」 にほかならない。. ロ ・ 「イ タ リ ア協 奏 曲」 につし、て 「ク ラ ビー ア 練習 曲第 2部 二つ の手鍵 盤 をもつク ラ ヴィ チ ェ ンバ ロ の た め の イ タリ ア趣 味 による協 奏 , ,. 35 曲およびフランスふう序曲から成り,愛好家の心の愉しみに供されるよう…」というタイトルが記され、17 i neと言葉が書かれ, 年に出版された。 出版印刷されたオリ ジナル版には協奏曲の終わりにイタリア語のf i フラ ンス 風序 曲 にお いて は, そ れに対応 するf n という 言 葉 が書 か れて いる。. ここからはイタリアとフランスの様式趣味をふまえ, それを2段鍵盤のクラヴィーア1台で実現しよう し ていることがうかがえる。 事実この作品は, その輝かしい表現と完成された書法のゆえに作曲者の生前から 高い評価を受けた。「仰々しく混乱し ‐た様式によって彼の作品から自然的要素を取り去り, 技巧の過多によっ て 作 品の 美 しさ を曇 らせ ている」 と1737年 に ”批判 的音 楽家” 誌 上で バ ッ ハ を非 難 した シ ャ イ べ でさ えも,. この曲については 「この種の作曲様式で考えうる最も優れた仕方でつくられているのですべての偉大な作曲 家たち, すべての経験ゆたかなクラヴィーア奏者たち, さらにはクラヴィーアおよび音楽一般の愛好者達の ( 3 ) あ い だで有名 になる であろう と, 私 は信 じて 疑 わな い」 とのべ て いる 。 モ ー ツ ア ル トも こ の 曲の 楽 譜 を 持 っ て い た。 「当 時 トー マス 学 校 合 唱 隊員 の な か にい た フリ ー ドリ ッ ヒ・ ロ ホリ ッ ツ が40年 近く 後 に思 い出 と して述 べ た ところ によ れ ば, モ ー ツ ア ル トはバ ッ ハ の モ テ ッ ト 『主 に向 か いて 歌 え』 を聞 き, 非常 に興 味を 持 っ た こ と が伝 え ら れて いる。 モー ツ ア ル トはそ れ以前 にも フ ァ ン・ス ピー テ ン男 爵 によ り バ ッ ハ の 『フ ー ガの 技 法』 『オ ル ガン トリ オ』 を知 り, 彼 の 遺 品 の 中 には 『イ タリ ア協 ( 4 ) 奏 曲』 を 含 む 『ク ラィ ピー ア 練習 曲』 の 第 2部 がみい ださ れた 。」 こ の 曲は1737年 に再 出 版さ れた。 そ れ が 人気 があ っ た こ と による も の か, 誤 植 が多 か っ たの で 再販 した の. かは不明である。. n l・使用楽譜について ピアノ学習者がバッハの作品を演奏するとき, 最も基本的な事項として, どの出版社の楽譜によって勉強 う問題を考えることになる。 をはじめるか, 原典版か, またはどの校訂版か, とい‐ 原典版として4種類, 校訂版として2種類を参照 した。 a) 原典版. 340.

(6) . イ タ リ ア 協 奏 曲l l i i t tB a an s chesKonzer ‐W‐V ‐971の分析と演奏. ① Wiener UrtextEd i i t on , 日 本 の 版 で は (ウ ィ ー ン原 典 版イ タリ ア協 奏 曲57音 楽 之 友 社) 第 一 楽 章 にお い. ては特に形式上の4つの展開とほぼ一致。 各見開き 8 Pで印刷配置されている。 形式を視覚的にとらえやす い。 装 飾 音 につ い ては, 3 種 類 の 出典 をも と に丁 寧 に解 説さ れて いる。 ②. Pet ers UrtextNr . 4464フリ ー デマ ン・ バ ッ ハ の ため に書 か れ た装 飾 音 の 奏 法 が マ ニ ュ ス ク リ プ トの 形. で載せられ, 初版譜と再版譜の相違について注がある。 ③ Henl 160短 い 注 があ り, 第 1 楽 章109小 節, 左 手16分音 符 2個 目 につ いて初 版譜 は C, 再 版譜 で は t e Ur ext. ゼ ク エ ン ツ と 考え ら れる の で Es とな っ て いる こ とが 記 さ れて いる。. ④B a renreiter Urtext24, 日本の版では (全音 楽 譜 出 版社) pet t er s Ur extNr ‐ 4464と 同 じ注 が脚 注と して ≧ 訳さ れて いる。. 以上4種類の原典版の譜面上の特徴は次のようである。 第 一 楽章 ・ どの判 も テ ンポ 表示 な し,30小 節 目 の For i t ano の 表示 があ る。49小 節 目の E 音 につ い て は, e ,P Wi ion は小 さく フラ ッ トが付 けら れ, Pe t i t ener Urtext Edi t er sと B a r enr e er は上 に小 さく フラ ッ トと疑 問. 符 が付 けら れ, Hen l e はな にも 記 入 がな い。 第二 楽章 ・ Hen l r で示 し, 他 は波 線 で 表示。 e は 7小 節 の トリ ル をt. b) 校訂版 ⑤バッハ集W. 春秋社. 井口元基校訂、. 1小 節 目ス タ カー ト, 2小 節 目テヌ ー ト, 3 小 節 目1拍 目 裏 から アク セ ン トと小 節 終りま で のス ラ ー, 4 小 節 目ス ラ ー, そ の 他ク レ ッ シ ェ ン ド, ソス テヌ ー トな どさま ざま な ア ー ティ キ ュ レー シ ョ ン他 が書き加 え ら れている。 8小 節 目 か ら小 節 を 跨い だス ラ ー がつ いて いる が, バ ッ ハ の 様 式で はこ のよう なス ラ ー を付 け. ない。 注に装飾音の奏法他が記されている。 最後の4小節間のバスにオクターブ重複の音が小さく追加され て書 か れて いる。 15小 節 か ら の16分音 符 の 連 続 は1拍 ごと に, ス タ ッ カ ー ト一つ, 残 り の3つ の 音 にス ラ ー が付 い ている。 ⑥ Bre i tkopfNr ‐ 4313. ロ マ ン派 の 作 曲家, ピ アノ の 巨 匠と して 有名 なF ・ ブゾー ニ が校 訂 した版 である。 ピ アノ でこ そ可 能な 強 弱 ニ ュ ア ンス を始 め と して左 右 の ペ ダルの 指示 1 3 楽章 のリ トルネロ 主 題 の , , ,. 終結部およびに2楽章1拍目裏と2拍目におけるバス のオクターブ重複, 15小節からの1 6分音符の連続はこ の版だけが拍を跨いでスラーが付いている, など、 19世紀的な表現様式を示している点で大変興味深いが, 現代のバッハ研究とその演奏からは大きく異なったものである。 な お、 第1 楽 章109小 節, 左 手16分 音 符 2個 目 につ い て は Hen 160の 注 にあ る よう に, Es に弾く l t t e Ur ex こと が 理論 的 に誤 り と はい え な い。 ①, ② ④ の版 で は 「C」 と書 か れ その 他 の 版 は 「Es 」 と して いる。 , ,. W・第1楽章 1・構成 ヘ長 調, 4 分の 2拍 子。 原 典 にはテ ンポの 指 示 がさ れて い な い が 当 時のイ タリ ア・ ヴェ ネ ツィ ア の ヴィ ,. ヴァルディの形式 (急-緩-急) に照らしても, 曲想からも, 作曲者が中庸なアレグロを想定したことは明 らかである。 オーケストラの総奏を思わせる雄壮なリトルネロ主題で主楽節が開始され これが主調で終止 , したのち, いっそう好情的なソロ主題をもつ副楽節がこれと対照をなして登場する。 中間にやや展開部風な 部分をはさみながら, リトルネロの主楽節とソロの副楽節が交互に現れ, この楽章は力強くしかも整然と進 んでいく。 対照的な楽想のあいだにもひそかに動機的な関連が保たれ, それがバッハ特有の密度の高い統一 341.

(7) . 中 谷. 弘・浅 井. 良 之. 感を生み出すのである。 曲はほぼ同じ長さの4つの展開部からなり, ことに, 終わりの第W展開部は第ロ展開部のソロ楽節に主楽 節 (1~30小節) の忠実な再現として構成され, この楽章を両翼からがっちり固めるという安定した構造を 示 して いる。. 第1展開部は, リトルネロおよ びソロ楽節からなり, 両者の主題提示はもとより, 動機展開や楽句形成に 関しての構成基盤の設置という意義の上にも立っている。 リ トルネ ロ 楽節1~30小 節, ソ ロ 楽節30~52小 節 1~ 8 主調 Fdur ヘ 長調, 5 度 高く 最初 の 4 小 節 が 繰り 返さ れる。. 第ロ展開部-第1展開部の構成 に準じた, いわ ば模写といった構造を示し, リトルネロ楽節を拡張し, 反対 にソロ楽節に新しい主題を取り入れて縮小している。 第m展開部ではリトルネローソローリトルネロという配列構造により, 次の第W展開部がソロ ーリ トルネ ロ という第1展開部とは逆の配列をきたす。すなわちソローリ トルネロの配列。この第m,W展開部(曲の後半) ) 5 の配列構造の変化が, 曲全体の構造上に変化と統一をもたらしている( 。 2・第1楽章の演奏について バ ッ ハ がこの 曲の演 奏 楽 器 と して想 定 したチ ェ ン バ ロ は 「モ ダンチ ェ ンバロ」 の よう に レジス ター による. 様々な音色を持たず, 2段鍵盤, つまり基本的には2種類の音色しかなかった。 また現代の ピアノのように ダンパ ー ペ ダル, シ フティ ン グペ ダル を持 た ず, 何 より も タ ッ チ によ り 一つ 一つ の音 の 強弱 をコ ン トロー ル する こ と が出 来な か っ た。 この ため, フ レー ズ の初 め と 終わ り は音 の立 ち上 がり と消 音 によ り、 ま た フ レー ズ の 中 で は レガー ト, ス タ ッ カー ト, な どによ り 表 現 をお こなう。 こ れは例 え ばシ ョ パ ン, ラ ベ ル, メ シア ンな どの 曲 で は ダン パー ペ ダル, 厚 い 低音 の 響 き, その 上 に乗 っ た様々 な和 音 の色 合い に よ り 表 現 をお こな. い, プロコフィ エフでは打楽器的要素を取り入れた表現をおこない, それぞれピアノ だからこそ可能な表現 を最 大 限に生 か している とい える が, バ ッ ハ の 曲 にお い て は 事情 が大 い に異なる。 バ ッ ハ の 音 楽 は, 典 型 的. には使用楽器を指定していない 「音楽の捧げ物」 「フーガの技法」 のように, 楽器の音色によらず, 音の動 きそのものの表現力を どのように構成して演奏するかに重点がある。 強いて絵画に例をとれば, 油絵よりも 単色 の デ ッ サ ン, 水墨 画 に近 い もの である。 しか し, こ の こ と は古典 派・ ロ マ ン派の 曲 だ け を弾 いて き た学. 生にとっ てはどのように学習するとよいのか分かりにくい。 そこでリトルネロ主題は管弦の合奏, ソロ部分 5小節からの左手の単声につい はバイオリン, オーボエなどの音色を想定する, また右手だけでなく例えば1 て は フ ァ ゴッ トを,30小 節 か らの左 手の 8 分音符 の2 声 の刻 み は1 番 と2 番 の バイ オリ ン,右 手の 旋 律 はオー ボ エ な どを 想 定 し, 75小 節 右 手 の 1 つ のス タ か一 トとス ラ ー でつ な が れた 3 つ の16分 音 符 の アー ティ キ ュ レー シ ョ ン はバイ オリ ンの弓 使 い を当 て はめ て みる, な ど様々 な楽 器の音色, 奏 法 をあ て はめ てみる こ と が,. 学習法と してまず考えられる。 曲の 構造, フ レー ジ ン グに関 して は, f t ano とあ る の は第二 鍵 盤 を指す。 e とある の は 第 一鍵 盤 を指 し, Pi or. この2種類の音色により総奏と独奏部とを弾き分け, 1台の楽器による協奏曲様式として演奏することにな るわけであるが, その鍵盤の使用 法について次のように記されている。 「イタリア協奏曲では休止符ではっ 67 きりさせられている移行を別 とすれば, およそすべての箇所で上拍で鍵盤を取り替えるの が見られる。 ( 9小節) においてのみ, 下行5度の歌謡性を害わないために, 移り目は 小節1拍目) ただ1つの場合 (第12 6 ) とい た フ レー ジン グにつ い ての 分析や ブ ゾー ニ版 井 口版な どを 参考 に考 える 強拍 にある( っ 。 」 , , 「 )」 で ブラ ン f t or e そ の 上 で ピ ア ノ で演 奏 する 技 法 と して; リ トル ネ ロ 楽 節 で は強 弱 で い え ば フォ ルテ (. デンブルク協奏曲第5番の第1楽章の出だしの如く総奏をイメー ジし, 第1楽章は4分の2拍子ではあるが 342.

(8) . イ タ リ ア協 奏 曲l i i l t tB a an schesKonz er .W.V .971の分析と演奏. 8 分の 4拍 子 のよう に8 分 音符 を 基 本と し, しっ かり した 深い タ ッ チ の レガー トで演 奏 し, 響 き を確 保する。. 0小節も同様。 続く1 6分音符はレガートの深いタッチと響きで, 総奏をイメージした音響を目指す。 始 52~6 めのリトルネロ楽節30小節間と最後のリトルネロ楽節30小節間は全く同じものである。 この主題は主調で提 示 さ れ た4小 節 が属 調 で 繰り 返 さ れる「ドミ ナ ン ト形式」であり,バ ッ ハ 以 後頻 繁 に用 い ら れる こ と にな っ た。. この4小節間はそれぞれ2小節のAとBの2つの動機からなる。 Aでは緊張が高まり, Bでは弛緩を作る。 このような緊張と弛緩の構造を続く部分でも表現する。 ソロ 楽節 では強 弱 より は2 段 鍵 盤 によ る 「音色」 の 変化 がよ り期 待 さ れて いる。 第1 ・3 両楽 章 とも に 第 m展 開部 は ソ ロ ・ カ デンツ部 と考 え, 特 に106~129小 節 の 左 手 に抑揚 と適度 の アク セ ン トを付 ける。 ラ ン ド. フスカの演奏では音色を切り換えて表現している。 な お 第 3 楽章 Pre t・ につ い て は, 第 1 楽章 の 形 式 をお お よ そ 再 現 して お り, リ トル ネ ロ主 題 はこ こ でも s. 最初と最後において完全な姿を現す。 最後のソロ楽節は一層豊かに飾られているが, 構成は第1楽章と同じ であるので詳細については省略する。. V・第2楽章 1 ・ 形 式、 リ ズ ム と 歌唱 的 な奏 法 につ い て 「 1723年 に 『イ ン ヴェ ンシ ョ ン』 の 教育 目 標 が 「歌 唱 的 (カ ンター ビ レ) な奏 法」 であ っ た。 - 中略- バ ッ. ハはこの点で, 自分自身にも弟子たちにも多くを要求した。 歌唱的な奏法に対して彼がいかなる基準を課し 7 ) た か は, チ ェ ンバ ロ用 と 指 定 さ れた 『イ タリ ア協 奏 曲』 の 中 間 楽 章 があ ま す と ころ な く 教 え て く れる( J 「 始め に 形 式リ ズ ム 的様相」 と して述べ ら れた シ ュ レゼー ルの 論 文 の 一部 を 紹 介 し, そ こ か ら3 点, 解 釈 に. ついて考察を行い, バッハが想定した 「歌唱的な奏法」 を学習する方法の一つを考えたい。 ‘イ タリア協奏曲” の緩徐楽章は伴奏付き単声音楽であるが ソプラノで 9小節にわたるレチタティ ー 「 , , ボがく り ひろ げら れる。 こ の レチタ ティ ー ボは、 しなや か で気 ま ぐれな 運動 によ っ て か ず かず のま わり 路 , を した 後, 属 音 のイ 音 か らオク タ ー ブ低 い 主 音 の二 音 へ と 滑り 下りる。 しか しこの 連 続 的な プロ セス の な か に, いく つ かの 波, つ ま り 緊張 の 瞬 間とそ れ につ づ く相 対 的 弛緩 の 瞬 間を 識別 する こ と ができる。 ほと ん ど. 分節化の見られないこの流れるような調べ に, きわめて明確に分節されたバスが対置される。 このバスは上 のようなリ ズム型に基づいて構築され (譜例1) これらの音型は, この楽章を通 して ごくわずかに変形され る だ けである。 上 声 で は, リ ズ ム のアク セ ン トはすべ て, 拍節 上 は弱 い音 の 上 にくる。 た だ し 上 声の フ レー ,. ズの冒頭と終止の部分は例外で, 最初のに音と最後の二音は拍節の上で強い音である。 ソプラノの下でバス のリ ズムがはたす役割は, 他でもなく, 上声の調べが飾り模様をくりひろげる際の骨格を, 無傷のままに保 つ こと にあ る か ら である。 伴奏 の 構造 が押 韻 の 構造 に例 え ら れる とす れ ば, い っ さ い の周期 性や い っ さい の 厳 格な シ ンメ トリ ー の 梼 外 で展 開さ れる 主 旋律 のフ レー ズ のリ ズ ム は, 演 説文や グ レ ゴリ オ聖 歌 の 自 由なリ. ズムに近い。 上声の分節 (区切り) が下声の分節とまったく一致しないことに注目しよう つまり バスに 。 , ) 8 弛 緩す な わち 波 の 谷 が生 じる と き ソ プラノ には 緊張 が生 じたり ある い はその 逆 にな っ たり する。 ( 」 ,. 譜例I. 343.

(9) . 中 谷. 弘 4妾 井. 良 之. a) . 「上 声 の調 べ が飾 り 模 様 をく り ひろ げる」 「い っ さ いの周 期 性 や い っ さ い の 厳 格な シ ンメ トリ ー の 跨. 外で展開される主旋律のフレーズ」 は 「装飾」 に関してこの曲で学ぶ大きな課題であると考えられる。 以 下, こ の 時代 に 「装 飾」 につ い て 述べ ら れて き た 事項 を引用 する。 K . F . エマ ニ ュ エ ル. バ ッ ハ か ら 「よ い演 奏 は三つ の主 要条 件 が守 られな け れ ばなら ない。 適切 な指 づ. かい, よい装飾, よい解釈である。 何ぴとも装飾音の必要性を疑わない-中略-それらは音符を繋 ぎ, いの ちを与え, そして必要な時に音符に独自の強勢と重要性を賦与する。 それらは音符を快い物にし, 従ってそ の音への特別な注意を呼びさます。 また, 音符の意味を明かにし, 悲しい気分であれ, 喜ばしいもの, ある よいものにすることができ, いはその他の気分であれ,その気分をつねに高める。それらは凡庸な作曲をより・ ( ) 9 そ れら がな け れ ば, 最 良の 旋律 で もう つろ で, お も しろ み がな い 」 ” “ ク ー プラ ンか ら「私 は自 分の 曲 に ぴっ たり する 装 飾 音 を苦 労 して 書き,そ れら につ い て は ク ラ ヴサ ン奏 法. として知られている専門論文に十分わかりやすい説明を述べておいたというのに, これらの曲を学んだ人た ちが私の明言した願いに従うことなく装飾音を弾くのを聴くのには, いつも驚かされる。 これは許しがたい 不注意だが, 装飾音を任意に, あるいは気ままにつけてはいけないのだから, なおさらである。 私は言明す るが、 私の曲は私が記したとおりに弾かなければならない, そして私の記したこと一切が追加も削除もなし に文字通りに守られないかぎり, わたしの曲は真の趣味をもつ人びとにけっ して明確な印象を与えないだろ ) 9 う( 」. 「装 飾 に は フラ ンス 式 とイ タリ ア式 の 二つ の流 派 があ っ た。 フラ ンス 的趣 味 は作 曲家 が指 示 した ポー ル ・ ド・ ヴ ォ ア, トリ ル, 力 ダンス, モ ル デン ト, バ ッ トマ ン, フ ラ ッ テ, そ の他 の装飾 音 をす べ て, 精 確 に弾. くことを要求した。 他のものを付け加えることは許されなかっ た。 イタリ ア的趣味はこれらの装飾音に加 え て, 随意の装飾音も認めていたが, それには対位法に知識と個性的な想像力が必要だっ た。 それらは変奏, 旋 回, アラ ベス ク, グロ ッ ポ, フィ ラ ータ, リ バ ッ ト ゥ ー タ, そ の他 多く の多 様 な旋 回的 意 匠の も の か ら成 ) ( 9 り立 っ て い て, あ らゆる 種類 の装 飾 音 を混用 した “混 合技 法” と 呼 ばれ る も の を 形成 して い た 」. 「フランス音楽家と同じように バッハはイタリア人とは反対に彼の装飾音をほぼすべてきちんと書き込 , んで, 演奏者に気ままに弾く余地をほとんど残さなかっ た。 バッハはフランス人よりさらに徹底して正確さ を要求し, かつまた演奏を容易にするため に, 装飾音の大部分を普通の音符で書きあらわした。 このことを シャイベはつぎのように非難している。 「あらゆる装飾音, あらゆる小さな飾り, 演奏の方法に属する と人 が考えているあらゆることを, 彼はすっ かり音符で明示する。 このことは彼の曲から和声の美しさを奪うだ ( ) 9 けでなく, 旋 律 を もす っ かりお お い かく して しま っ て いる 」 バ ッ ハ が細 かく 指 定 した記 譜 につ い て, も し装 飾 音 を記号 で しる したな ら ば どう なる か, と してラ ン ドフ ス カ は 譜例 2 - b を作 成 し, つ ぎの よう に述べ て いる。. “イタリア協奏曲” のアンダンテには記号か小音符で書けたはずの装飾音が10 「 0以上もあり (バッハがそ う したのは1 6だけで, うち二つが小音符) その他に, この作品のイタリア的趣味にふさわしく豊富な任意装 ( ) 9 飾音 がある こ とが, わ かる の である一 以 上, ラ ン ドフス カ の 「装 飾 音 につ い て一 か ら引用 。 b) . 「上 声で は, リ ズ ム の アク セ ン トはす べ て, 拍 節 上 は弱 い 音 の上 にくる」 こ れ に関 して は ア ルノ ンク ー ルの 次の意見 が参 考 になる。 「バ ロ ッ ク期 の独 奏コ ンチ ェ ル トで は 緩徐 楽章 は し ば しば器 楽 による 歌 曲 ある い は アリ ア と して着 想 , , さ れている。 伴 奏 は大概、 非 常 に簡潔 で バ ッ ハ の協 奏 曲の 場 合 はオス ティ ナー ト・ バス の上 に奏 でら れる。 つ ね に 同 じオス ティ ナー トのモ ティ ー フ が一 定のリ ズ ム を要 求 して い るた め に, ニ 見 こ れと は 関 連 がない よ う に思 わ れる ヴ ァ イ オリ ンの ソ ロ は, バス の上 を 自 由 に動 き 回り, さ ら にこ こ に はバロ ッ ク 的な ル バー ト奏. 法が要求されている。 それはまさに “音の装飾や先取を感動的に施す” ことなのである。 このようなことは 344.

(10) . イ タリ ア 協 奏 曲l l i i tB t a an s chesKonzer ‐W.V .971の分析と演奏. 当 時の 教則 本, とり わ け レオ ポ ル ト・モー ツ ア ル トの ”ヴ ァ イ オリ ン奏 法” に書 か れて いる。. 『 ‐ 趣味の心得のない者の多く は, 独奏部の伴奏に際して決して÷定のテンポを保とうとしないで, つねに 主 声部 に つ いて い こう と しま す。 た と え その名 に恥 じな い真 の ヴィ ルテ ィ オ ー ゾに伴 奏 をつ ける 場 合 であ っ. ても,そして彼が装飾や音符の先取のすべてを巧みにかつ感動的に行う術を知っていてもそれに惑わされてラ きあげようとしてい 伴奏者は決して遅くなったり速くなったりしては行けません0 さ もなく ば, 独奏者が築, る もの が, 伴 奏 によ っ て 破 壊さ れて しまう こ と になり か ねな い の です か ら。 そう で な けれ ば テ ン ポは ソリ ス トのル バ ー トで台 無 しに なっ て しまう で しょ う。 そ れは拍 節 にきち んと従 わ な い レチ タティ ー ボのよう に弾 ) 10 い て い る の で す か ら』 ( 」. 以 上 の ラ ン ドフス カ, ア ルノ ンク ー ルの 2 人の意見 をふま え, フ レー ズ の 始め がルバー ト したた め に遅 れ て発 音 さ れ ている と す れ ば, そ の骨 組み を意 識する た め に, フラ ンス 式 とイ タリ ア式 の 二つ の装飾 音 を取 り. 去り, さらにリズムを単純化したものを作ると, 譜例2-aのようになると考えられる。 c ・ 「こ の バ ス▼は上 のよう.な・ リ ズ ム 型 に基 づ い て構 築 さ れ・ 前 にあ げた シ ュ レー ゼ ルの よう に (譜例 1) グルー ピ ン グする と, リ ズ ム の捉 え か た と して興 味深 い と は い え, 8分 の6 拍 子 にな っ て しまう。 この よう な8 分 の6拍 子 に見 える 記譜 と して は, バ ッ ハ の バイ オリ ン協 奏 曲第2 番, 第2 楽章, 4 分の3. 拍子がある。 その内声パートには付点4分音符と符鈎で結ばれた8分音符で書かれているが, 8分音符, 16 分音 符 による 低 音部 にお い て は, 1拍 づ つ 譜 桁 でま とめ ら れ, 3 拍 子 と して 書 か れている。 休符 を はさ んで奏 さ れる 保 続 低音 の例 と して は, ヴィ ヴ ァ ル ディ の協 奏 曲 「四季」 の第 一 曲「春一 第二 楽 章、 独 奏 ヴ ァイ オリ ン, 合 奏群 の 第一, 第二 ヴ ァ イ オリ ンの 主 に3 度 の 開き に よる和 声 伴奏, ヴィ オ ラ に よる 「吠. える犬」 を表す保続低音があげられる。 ア ン ダンテの 指 示 があ る が, こ の 記 号 は グロー ヴ音 楽 辞典 によ れ ば 「平 均 率 ピアノ 曲集 第一 巻24番↓の 「前 奏 曲」 に バ ッ ハ 自 身 によ っ て 記 入さ れた 「ア ン ダン テ」 のよう に, 17 , 18世 紀 には8 分音 符 の バス の 歩み を 正確 に等 しい長 さ と して は っ きり演 奏 する 「様式」 の 記 号 と して用 い ら れた。 この こ とか らも 8 分音符 2つ. でまとまりを作ることが想定される。 より重要なこととして和声の構成を見ると, 1~8小節はD音が保続し, その上に3度をなす2声により 1- V - エ が順 次 進行 する。 こ のよう な 長 い 保続音 上 の 2 声 による和 声 進 行 は, 27 , 44 , 48小 節 の 3 回の 段. 落以外つねに現れる。 以 上 の3 点 か ら, この 曲の ト音 記 号部 分 には バイ オリ ンま た はオー ボエ その他 の 「独 奏」 パ ー トが, ヘ 音 「 記 号部 分 には バイ オリ ンと ビオ ラ によ る 「内 声」 , 及 び にチ ェ ロ, コ ン トラ バ ス による 低 音」 パー トが- 緒 に書 か れて いる と見 る こ と がで きる。. 2・第2楽章の構成 譜例1 主音の保続低音の上 に工, Vが交替する前奏が3小節。 8小節目 Fdur の W, 9小 節 目 Fdur のV が借用 さ れる。 10小 節 目 dmo l lのW - W, 11小 節 目 V, こ こ で バス が完 全4 度 上行 し, 9小 節 目 で 完 全 終 止 し, 独. 奏部も2拍目にア ポジアトゥーラ をともなっ て終止する。 13小節目から Fdur , 16小 節 か らB - A 一 G と バ スが下降し19小節目から8小節間Fdurの属音が保続低音となり, また19小節目から内声部は小節毎にE- F 一 G, F 一G - A, G- A - B と 3 回上行 し, 22小 節 か ら は同 じく 3 回, 長2 度 づ つ 下 降する。 こ のよう ‐ 33小 節 は な上 行 と 下 降は 後 半 にも 現 れる。 27小 節 で完 全 終止 した後, dmo l 1と なる。 32小 節 は dmo lのW l , Fdur の V の 上 の 1 拍 目 で 独 奏 部 が属 調 の 属 和 音 を 弾 き, 次 の 小 節 の 1 に 完 全 終止 す る。 そ の和 音 が Bdur. のVに読み替えられ, 35小節の主和音に完全終止するが, ここでも独奏部は属和音を弾き33小節と共に和声 345.

(11) . 中 谷. 弘 4妾 井. 良 之. 的な緊張を強める。 これに平行して, 内声部は31小節から35小節まで続けて4回, 上行して緊張を強める。 バ ス は31小 節 か らD 一 G - C ーF ー B ーE と 完 全5 度 づ つ 下 降する。 主調 の dmo l lに は36小 節 の 江度 によ っ. て復帰する。 以下37小節から8小節間主調の属音が保続低音となり, 45小節がピカルディ ーの工度となった 後, 主音が保続きれ48小節でバスが半音下降した後完全終止する。 以上この楽章はバス の保続低音の 上に, 順次進行により波の動きの ような上行下降を行う3度の開きを 持ったアルト, テノール2声からなる内声部があり, 更にその上にリ ズム, 音高ともに装飾された独奏部と いう声部があること, 前半に長い平行調があり, 後半33~35小節に和声的な緊張がピークを作り, 続いて長 い属音の保続低音があることなどが特徴としてあげられる。 3・第2楽章の演奏法について 第1楽章と同じく, 属和音-主和音の進行や保続低音の機能を感じて表現することは当然であるが、 更に 非和声音の中でもアクセントを付けるなど,演奏者にその扱い,表情が任されている「アポジアトゥーラ」と, 表現の緊張と弛緩に関する 「アナクルーズ・デジナンス」 その他の点から考察する。 a ・ 「ア ポ ジ ア ト ゥ ー ラ」 (よ り かかり 音・ 俺 行 音). 「和音現出に際して 和音構成音の上部に隣接する音が和声外音として強勢される 強拍あるいは半強拍 , , 1 1 ) に見 ら れる もの である( 」. 典型的な例としては, 8小節2拍目のCはバスと7度関連となり, B, D, Fの和声に2度下降進行して 解決し, また12小節2拍目のC#はD, F#, A, の和声に2度上行進行して解決するものとして現れる。 0小節2拍目裏のAはトリルが付き強調されているこ 所によっては経過音として考えられる場合もあるが, 1 と によ り, 11小 節 3拍 目のA はバス と 7 度 関 連, 音価 が長 い こ と によ り ア ポ ジ ア ト ゥ ー ラ と 解釈 できる。 そ の他 には20小 節 1拍 目のB,21小節 1拍 目のF,23小 節 1拍 目の F,38小 節 1拍 目 のF,39小 節 1拍 目 のA, 40小 節 1拍 目の B, 等 がア ポ ジ ア ト ゥ ー ラ と 解 釈 で きる。 こ れ らはい ず れも ア ポ ジア ト ゥ ー ラ の音 にアク セ ン トを付 け, ディ ミ ニ ュ エ ン ドしな が ら滑 ら か に2度 進行 させ る。 b . 「ア ナ ク ル ー ズ . デ ジ ナ ン ス」. 「旋 律 の頭 がアク セ ン トであ る こ と は非 常 に稀 である 一 般 に は アク セ ン トの前 にそ れを準備 する 一群 の 。 音 があ る。 そ れをア ナク ルー ズ とよ ぶ。 一 方 アク セ ン トの 後 に は デジナ ンス と いう も の がつ づ く, そ れは多 く の音 か らな っ ている こと がある。 した が っ て, アナク ルー ズ, アク セ ン ト, デ ジ ナ ンス という 図式 が成 り ) 12 立 つ( 」. 3小節目から始まる 主旋律にはアナクルーズ がない。 2拍目のGからの下降はデジナンスであり, 緊張が ゆる む フ レー ズ な の で, ス ラ ー の 始め の G にも アク セ ン トを付 けず ディ ミ ニ ュ エ ン ドし, 3拍 目 最 後 のF が そ れま での デジナ ンス の エ コー の 始ま り な の で, 少 しアク セ ン トを付 け5小 節 目1拍 裏ま で ディ ミ ニ ュ エ ン ドす る。 2拍 目 Gか ら 短い ア ナク ルー ズ と アク セ ン トが2 回あり 6小 節 1拍 目 がここま での 段 落 をつ ける 拍 と なる。 2 ・3拍 がア ナク ルー ズ とな り E音 が アク セ ン トとなる。 以 下ア ナク ルー ズ は 波型 の 線, アク セ ン トは丸, デ ジ ナ ンス は直 線によ っ て 記 入す る と, 譜例 2 のよう になる。 c . 「記譜 さ れた ル バー ト」. 11小節1拍目のG音は遅れた, 12小節3拍目裏のD音は早めにずれたルバートと解釈できる。 このような ル バー ト は 「ヴ ァ イ オ リ ンと オ ー ボエ の た め の協 奏 曲」 bwvl050 (2 台 ピ アノ の ため の協 奏 曲 と 同 じ曲). の第2楽章にも頻繁に見られる。 d・跳躍して上行する音程について 小 小 節 は前 のア ポ ジ ア ト ゥ ー ラの ア 11 , 15 , 19小 節 そ の他 で6 度 跳 躍 上行 し, 続 い て下 降す る。 20 節, 38 346.

(12) . イタリア協奏曲l l i i t a an s ch e sKonzertB .W.V.971の分析と演奏. クセントを生かしてオクターブ跳躍上行する。30小節には減5度, 7度を含む分散和音の上行があり、 4 3小 節には短9度の分散和音の上行がある。 これらの部分における到達音は表現力を持った音程として扱う。 e・内声部の音色 43小節その他, 内声部がひらがな音まで下がって3度の和音を構成し, しかも上声と2オクターブも離れ る場合がある。 もしもハープシコー ドならば, その豊富な上部倍音を持っ た音色により響きの問題はないだ ろうが, ピアノの場合には上声とのバランスに注意しないと響きが重くなりすぎる。 譜綴 り2. - ぷ (+~~. Q. エ. 丁. ÷. 礎輪. ▽. ジ. がり だ れ. 『. 土. 1. ヌた り r. 暫フ. --- -、 → 帯0. o. o. ー r. t 7. 0 ′、:;〆 ≧。 笠 ↓. 罰’. 7 一 十. 丁. 0 -. 0. コ. 一。. ー. r. 。. がフ叉 、、、 ^^^~. ′. ・. ヤ・ .. 33. 。 〆 』ね;; ‐、、 ~. 。. 体}÷ ¥ト. ▽. 食〕巧. r. ち. 〉。 →. 巧. 〆{. o. ‐ 〔JID. ~ん^ん. 巧 347.

(13) . . 中. 谷. 弘・浅. 井. 良 之. f・装飾音の理解 ) を加えて演奏する ) の演奏表現と次に記号によっ た装飾音 (譜例2-b 旋律の骨組みだけ (譜例2-a などにより, 装飾音の意味と奏法を意識させる。 先にランドフスカから引用したように, バッハは装飾音を 丁寧に書き込んでいるが, 演奏家が独自の変奏を行った実例, 例えばヘンデルのオル ガン協奏曲第4番の第 3 楽章, 第 8番 の 第3楽 章, 第 9番 の 第2 楽章, 第10番 の第3 楽 章,(コ レ ギウム ・ ア ウ レウム とR ・ エ ヴ ァ ー ハ ル トのオ ル ガンそ の 他) や、 ヴィ ヴァ ル デイ の 「四 季・ 夏」 の 第2 楽 章 等 (N ・ア ルノ ンク ー ル, N・ マ. リナー等) を聞かせ、 旋律の骨組みと装飾について理解を深めさせたい。. おわりに イ タリ ア協 奏 曲 は 「協 奏 曲」 「フォ ル テ ・ ピ ア ノ」 な どの 概 念 につ い て, 楽 器 につ い て, 演 奏 技術 につ い. てな ど, 古典派・ロマン派と異なる。 しかし, この曲を教材とすることにより, 単に機械的に音を連ねるだ けで はなく, 一 つ の音, 一 つ の フ レー ズ の 意 味を 理解 して演 奏す る こ と の 大切 さ を知る こと がで きる。 この. ことは ピアノで様々な 「音楽」 を表現するために, 基本的かつ限なく 重要な学習項目である。 本稿ではその ような視点に立ち, 「協奏曲」 「曲の構成」 「装飾音」 「原典版・校訂版」 など 「イタリア協奏曲」 をめぐる事 項を検討しその演奏に当たっての注意事項を検討した。 今後 「平均率 ピアノ 曲集」 のような多声部楽曲、 パ ルテ ィ ー タ, イ ギリス 組 曲な どの 古典 舞 曲の演 奏 と解 釈 につ いて 考 察 をお こな い たい。. 力. る・. やミ ア アカデ p 2 r. 2 99 ミュージッ , p, 60 .ク株式会社, 1. 1993 , p , 168 pp , 25 , 27. メ 「歴史の変遷におけるバッハ」 白水社, 1976 , 57 , pp ピアノ名曲の演奏解釈工」 1 , 62~7 , pp 名. 」 ピ. 1. 2 ) グローブ音楽辞典 7巻, ( ( 3 ) 角倉一郎他編, 「バッハ鎖」 4 ( ) 「現代のバッハ像」 収録, ( 5 ) 市田儀一郎 「最新 ピアノ 講座 ぐ. . . ’典 ち 像 新. 1 ( ) アーノンクール, 「音楽は. }王. ( 6 ) ヘ ルマ ン ・ ケ ラ ー, 「フ レー ジ ン グと ア ー ティ キ ュ レー シ ョ ン」 音 楽 之 友 社, 1969 , p , 84. 35 ( 7 ) 「現代のバッハ像」 収録, H・ベッセラー 「開拓者としてのバッハ」 白水社, 1976 ,p ,2 73 76 ( 8 ) 「バッハの美学」 収録, ポリス・ ド・シュレーゼル, 白水社, 19 , pp , 171一1 「 3 一 1 4 3 9 8 1 1 ( 9 ) ランドフスカ, 装飾音について」 みすず書房, 1 1 , pp , 回. bd ア ルノ ンク ー ルi , p , 63. 5 回 池内友次郎。 「和声外音」 音楽之友社, 196 ,p , 63 「 4 1 回 ジャン‐エティ エンヌ・マリー, 生きている音楽」196 ,8 , 音楽之友社, p. (中谷弘. 本学教授. 釧路校). (浅井良之 本学助教授 釧路校). 348.

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