• 検索結果がありません。

ヴィルヘルム・マイスターの修業時代について : 迷いの旅路

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "ヴィルヘルム・マイスターの修業時代について : 迷いの旅路"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. ヴィルヘルム・マイスターの修業時代について : 迷いの旅路. Author(s). 東谷, 文雄. Citation. 北海道教育大学紀要. 第一部. A, 人文科学編, 22(1): 66-82. Issue Date. 1971-09. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/3989. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . Vol .22 No .I. i i i lof Hokka t ido Uni on t A) t on (Sec Journa r ve s y of Educat. Sept . ,1971. ヴ ィ ル ヘ ル ム ◎マイ スタ ー の修 業時 代. について --. 迷. 東. い. 谷. の. 旅. 文. 路. --. 雄. 北海道教育大学札幌分校独語学研究室. Fumio H.GASHtYA : Ube lm Meisters Lehr lhe jahre r wi. l , 二人の道連れ ) 1 「さ あ, 謎 が 来 ま し た よ.」 (2 .4 . S.98). と, この作品に登場する女性群像のうち, 最も妖艶で, みずみず しい魅力に溢れた, 大きな朱色の 蝶 の よ う な 女 優 フィ リ ー ネ に よ っ て, 一 つ の 謎 と して ヴィ ル ヘ ル ム の 前 へ 連 れ て 来 られ た ミ ニ ョ ソ. が, 作中のいかなる人物にもまして作者ゲーテの心をどんなに深くとらえていたかは, ゲーテの晩 年における次の言葉からもうかがい知ること ができよう. 「ス タ ー ル 夫 人 は ミ ニ ョ ソを 単 に 一 つ の エ ピ ソ ー ドと し か 解 して い な い け れ ど も, 実 際 は こ の 作 品 全 部 が ミ ニ ョ ソの た め に 書 か れ て い る の だ。 マイ ス タ ー は 必 然 的 に 沸 き 立 ち, よ ろ め き, 屈 折 ) す る よ うに み え な け れ ば な ら な い.」2 こ の よ う に ゲ ー テ が 深 い 愛 着 を も っ て 描 き 出 した ミ ニ ョ ソ は, ゲ ー テ の 心 を 故 郷 と し て 生 ま れ 出 た. 不可思議な形姿であり, 作中の主人公 ヴィ ルヘルムに影のように寄 り添い, 遂には灯火をあこがれ 求めてその身を焼き尽くす可憐な白蛾のように滅びゆく存在であるが, ひとしく ゲーテの心を故郷 とする竪琴ひきの老人と共に, ヴィ ルヘルムの魂をその根源において強く とらえ, また一方に於 て は, ヴィ ルヘルムの調和的人 間形成を陰に陽に導いてゆく 塔の結社 の人々と 峻烈な対立を示す形姿 として, 作中でも最もロマ ン的な色彩濃く描かれている. このミ ニ ョ ソと, 彼女に影の如く まつわる竪琴ひきの表わす謎は一体何であろうか. 二三の解釈 を あ げ て み よ う。 A. ビー ル シ ョ ウ ス キ ー は 次 の よ う に 述 べ て い る。. 「私達の運命に意味深くおそいかかっては来るが, 人間の認識 や規定の届かない神秘な力を, ゲ ーテはミニ ョ ソや竪琴ひきを以て文学に表現した. 一つの力は私達自身の 中からのぼっ て来る。 それは私達自身の魂の眼に見えぬ奥底に横たわ っている--これ はミニ ョ ソに 具体化 さ れ て い る. 他の一つの力は外部にある. その最も純粋な, 最も高い代表が, 竪琴ひきとして現われてい ) る.」3. 次にF. グソ ドルフによれば, この二人 は 「相寄り添いながらも, 本質的には出来る限り遠く離れ ) 反 機 し合 い, 共 に 暗 黒 な 運 命 を 背 に して 立 っ て い る。 ま た ハ イ ネ マ ン は, 「ミ ニ ョ ソの た め-眺 て」4 ) シラ ー の ゲ ー テ 宛 書 簡 を 援 用 し て, 「こ の 純 粋 な 詩 的 な 人 物 は, そ の 寂 しい 姿, そ の 惚 と な っ た」5. 神秘的な存在, その純粋さと天真のなかに, 彼女がいかなる年齢段階にあるかを実に純粋に表わし 66 -.

(3) . 第 22 巻 第 1 号. 北海道教育大学紀要(第一部A). 昭和4 6年9月. ている。 彼女が極めて純粋な哀愁と, 真に人間的な悲哀感をそそるの は, 彼女の中に人間性以外の 6 ) と, ひたす らその純粋性を讃 美し, さらに, 「彼女の, そして 何物も表わされていないからだ。」 その父親 (竪琴ひき) の残酷な運命からでなく ては……天命の怖るべき威力を, そして運命と人間 の性格の神秘的な結合を, 人生の悲劇性を, 実に心うつ真実 な言葉も描いている歌」 を生み出せな ) か っ た の だ と 説 い て い る。7 こ の よ うに ミ ニ ョ ソと 竪 琴 ひ き の 姿 は, い ろ い ろ な 角 度 か ら光 を 投 射 さ れ, 二 人 の よ っ て 立 つ 場. と, 彼等のひく黒い影の意味が探 られ続けて来た。 しかし最も適確に彼等の件む場を明らかに解明 し て い る の は, 前 掲 の グ ソ ドル フ の 言 葉 で あ り, ま た エ ー ミ 【 ル リ シ ュ タイ ガ ー の 「ミ ニ ョ ソと 竪 琴 ひ き は, ヴィ ル ヘ ル ム に 影 の よ う に つ き ま と っ て, 暗 黒 の 夜 に 通 ず る 門 を さ し ) 示 す の だ」8. という陰々滅々たる気分を含んだ言葉であろう。 ミニ ョ ソの歌も竪琴ひきの歌も, 共に人の胸に泌み入る深い嘆きの響きに満ちている 他の人達 には頑固に心を閉ざしながら, 彼女にと って救いと守護の神であるヴィ ルヘルムに は胸を開いて可 憐にとりすがる男装のミニ ョ ソと, 暗色の長衣をまとい, 神秘的な白いひげに囲まれた唇から, 涙 を誘わずにはおかない歌を口ずさむ竪琴ひきは, 共に原罪と死の恐怖の上に立つ存在であり, 個の 調和的完成の理想を抱きながらも彼等に心をひかれ て 共に同一の地平を低迷するヴィ ルヘルムは, つねに彼等が指し示す 「暗黒の夜に通ずる門」 へ導き入られる危機の中にある 事 実, 「ヴィ ル ヘ ルムをめぐって事件が何らかの転回をとる際に, ゲーテは二人の性格に潜在している豊かさを意識 ) ているし, 彼等 が事件 の局面を変転させてゆく場面で は, 「彼等の性格の豊か 9 して表面に出させ」 さ全体がそれこそ多彩な変化を帯びて浮き出ているのである。 そしてこれらの場面 はすべて内的な 動きに充ちており, 従っ て常に叙事的な重要性を持 っているから, そこに描かれた人物の 生彩ある l o ) というG。ノ レカーチの 特質や, 他の人物に対する関係は, 意識的表現以上の効果をあげている。」 指摘はまことに当を得ているように思われる, キ まる び へ の 運 命 を 負 っ た ミ ニ ョ ソの 姿 は, 多 く の 研 究 者 達 に よ っ て ひ た す ら な 憧 帳 の 象 徴 と し. て, 殆ん ど白日下の考ぐ像のように美しく ,透明に説かれ てきている. 彼女 は レモ ンの花咲く国をあこ がれ, 未来を讃え, かの山と雲のかけ橋を夢みる。 彼女には過去がない。 その意味でもミニ ョ ソは グソドルフの言うように, 未来を持たない竪琴ひきの老人と相寄り添いながらも 「本質的には出来 る 限 り 遠く 離 れ て」 い る し, G。 プ ラ ン デ ス の 解 す る よ う に, 「真 の エ ヴ ァ」 と も い う べ き フ ィ リ. ) 何故 ならばフィ リーネにはひたすら現在があるだけなのだから 一方, 竪琴 ーネとも対立する一1 ひきに は過去が-- 未来とはその流動の方向を逆にする過去が, あるだけである。 この作品の第二 部から第五部まで, その低迷の過程に於 て特にこの二人と離れ難く結 びつい ているヴィ ルヘルム は, 演劇界以外に自己を形成発展させる場はないの だという彼の重大な錯誤から, 彼のね がぅ調和的形 成の意志とは逆に, 生の不調和への道を辿ろ うとする。 その究極にあるもの は, 愛するロッ テのた めにその魂を燃焼 し尽く したヴェルターが辿った滅びへの道である。 滅びゆくもの はい つ も 美 し く, また無惨である。 浸は, のがれ得ぬ暗黒を前にした者 が光を求める ほろ びゆくこの二人, ミニ ョ ソと竪琴ひきの憧‘ 環--一死を見つめて生きる者の生への憧標であり, この二人をその根底に於 て結びつけているも 憧一 のは, 奥深く暗く秘め られた近親相姦の作因によっ て 極めて意義深くそしてまた残酷に表現されて いる自然と道 義の接点に於ける生の最深の秘 義である。 この二人が相寄り添 って立つのは, いわば 生の負の極なのである。 これに対して, ヴィ ルヘルムに真の意義ある活動への自覚を促し, 演劇界 からの脱出を 絶えず助言してゆく 塔の結社 の人達がよっ て立つ極は, ひたすらに生きる こ と を 思 - 67 」.

(4) . Vo 1 ・22 No .・. ion I A) 1o i i ido Un~er f Hokka t t journa ty of Educa s on (Sec. Sept ・ ,1971. い, 下位の地平を低迷する者がその迷妄と錯誤からさめて自らの限界を知り, その自覚の上に立っ て実践的な有益な行為に出ようとする意志と活動を重要視する世界である。 ここではその精神的な 努力の面で, 環境と自己との相互関係の中での個性の展開をめ ざす前進的な力が讃えられる. 従 っ て塔の結社の世界 はミニ ョ ソと竪琴ひ きがよって 立つ生の負の極に対立する生の正の極と呼ぶこと が で き よ う。. 自己の調和的完成をめざして, この一 つの極間を左右にふれ動く ヴィ ルヘルムの魂が呈する様相 は, いわば外力を受けてふれ動く振子の錘である。 ミニ ョ ソと 竪琴ひきは, 演劇の世界に低迷する ヴィ ルヘルムの魂をとらえ て, 底知れぬ暗黒の夜の門へひき入れようとする。 一方塔の結社の人達 は, この負の力に対抗 して絶えず ヴィ ルヘルムを正の極へひ き戻そうとするので, 両極間には必然 的に彼の魂をめく っ ての対立が生まれ, この相対立する力の場を ヴィ ルヘルム は右に左にふれなが ら迷妄の旅を続けて行く。 このふれ迷う錘の糸をひいて, 次第により高い地平へとひき上げて行く も の は, ヴィ ル ヘ ル ム の 脳 裏 に や き つ い て い た 美 しく 優 しい ナ タ ー リ エ の 姿 で あ る.. ファウス トはその胸に互いに相争う二 つの魂を抱いて, 最初は個人的愛欲の充足を求め,欲望のま まに愛欲の海に沈倫するが, 後にその境地を脱出して純化高界し, 遂には天国に迎え入れられる. ヴィ ルヘルムもまた個の調和的完成を求めて, 最初はマリアーネとの愛から出発し, 演劇の世界を 低迷するが, 後にその世界から脱出して, より高次の理性的行動の世界に入り, 更に新 しい出発を するに至る。 内なる根源的衝動を表わすミニ ョ ソと竪琴ひきの系列に属する諸形姿に対立 して, そ れとなく ヴィ ヘルムの迷いの道程を修正 する道標となり, 彼の辿る全道程をつ なく一筋の糸となっ て, 外的にこの作品全体を締めくくる塔の結社の理性的な諸力 は, この作品の指導原 理ではあるが その主題ではなく, またミニ ョ ソと竪琴ひきの悲劇的な死への回帰もこの作品の主題とはなり得な い。 と す れ ば, ゲ ー テ が 意 図 した も の は や は り 彼 が そ の 晩 年 に エ ッ カ ー マ ン に 語 っ て い る よ う に,. 1 2 ) なのであろう。 しかし, この作品全体をつな 「単なる概念ではどうしても始末できにくいもの」 3 ) と い うミ ニ ョ ぐ一 筋 の 糸 で あ る 塔 の 結 社 の 動 き と, 「そ の た め に こ の 作 品 全 部 が 書 か れ た の だ」1 ソの ヴィ ル ヘ ル ム を め ぐ る 動 き の あ と を, 主 人 公 ヴィ ル ヘ ル ム と 同 様 に 迷 妄 の 中 に あ り な が ら 辿 っ 4 1 ) の底 流に 手指 の一 端を浸す こ とが で きるの では な か ろ う て 行く と き, こ の 「は か り 難 い 作 品」 . 2 . 迷 い の 旅 路 死して生きよ/ この不可思議にふれぬ限り いつまでも人間は 5 ) 地上の夜の悲 しい客人にすぎぬ1 まるうど. 第一巻で塔の結社に対立して登場する負の極 は, 等しく滅びへの道を辿る運命を抱いている意味 で, ミ ニ ョ ソと 竪 琴 ひ き の 地 平 に 立 つ 女 優 マ リ ア ー ネ で あ る. ヴィ ル ヘ ル ム は 「切 望 と 期 待 と に よ っ て マ リ ア 【ネ に ひ き つ け られ た 当 初 か ら, も う 新 しい 生 命 を 感 じ, 自 分 が 別 人 に な り 始 め て い る. 1 ように感 じていた.」( .33) そして 「彼の精神は恋する娘を自分と共に高めようと努めた」 .9 .S 1 のである。 ( ) しかしマリアーネは自分の属する俳優の世界の惨めさも, 自分自身が欲 .33 .9 .S 望と同時に愛と畏敬の念を起こさせることのない女であることも熟知 していた。 虚偽と 虚 栄 に 満 ち, すさんだ放縦な生活を冷静に眺めるとき, 「自分の心の中をのぞいて探 してみても, 精神はか らっ ぽで, 心を支えてくれるものもなかった. この状態が悲 しければ悲 しい程一層烈 しく 彼女は情 - 68 一.

(5) . 第 22 巻 第 1 号. 北海道教育大学紀要(第一部A). 昭和4 6年9月. 愛を傾けて愛人のヴィ ルヘルムにすがりついた。 いや, 恋人を失う危険が日毎に近付く につれ, 日 毎 に 情 熱 は つ の っ た。」 (1 .9 . S.34) 一 方 ヴィ ル ヘ ル ム は, 「自 分 が も う 久 しく 脱 出 し た い と 願 っ. ていた停滞的な惰性的な市民生活から彼をひっ ぱり出すために, 運命がマリアーネを通 して彼に手 を 差 しの べ てく れ た の だ」 (1 .9 . S.35) と 錯 誤 す る. マ リ ア ー ネ ヘ の 愛 に 陶 酔 した 彼 の 眼 は, 燃. え上がる情熱 の火の華やかさだけに奪われて, 周囲の容赦のない暗黒に気付かない。 彼の胸がマリ アーネヘの情熱に燃え立つとき, 彼の生きる世界は負の極に立つマリアーネ と, 彼女をめく る演劇 の世界 しかなかった. 或夜, マリアーネヘの手紙を持っ て, 彼女の許を再び訪ねようと往来へ出たところで, 彼は 「見 知 ら ぬ 男」 に 出 会 う。 (1 。68) こ の 男 は ヴィ ル ヘ ル ム の 心 を 捉 え た 滅 び ゆく 形 姿 マ リ ア ー ネ . 17 .S. に対抗する塔の結社の一員である。 ヴィ ルヘルムが運命こそは我々を支配し, 万事を我々の最善へ と導いてくれる力だと主張するのに対し, この 「見知らぬ男」 は 「この世界の組織は必然と偶然とで出来ています。 人間の理性は両者の間に割りこんで, 両者を 支配することを心得ています. 理性は必然的なものを自らの存在の根拠として取り扱 い, 偶 然的 なものを左右 し, みちびき, 利用することを心得ています。 理性がしっ かりとゆるがぬ限り, 人 1) 1 間は地上の神と呼ばれるに値しますJ ( 。7 .S .17 と理性の優位を強調 し, 偶然が生み出す結果に神の摂理という名を与えて自らの努力による向上を 放棄する者を憐れむべき存在とする。 第一巻では ヴィ ルヘルムという錘はマリアーネという負の極 に 大 きく ふ れ て い る。 そ して 塔 の 結 社 の 働 き か け は 殆 ん ど ヴィ ル ヘ ル ム を 自 覚 さ せ る に 至 っ て い な し・。. 第二巻の初めの章で, ヴィ ルヘルムはマリアーネに裏切られたと思いこみ, 彼の全存在をゆすぶ られる。 低い次元に於 てではあるが, その現実的な実業家としての活動を通 して正の極に属すると 解されるヴェルナーは, 市民階級の代表とみなしてよいであろうが, 彼は好機逸す べ からずと気負 い た ち, 「い ま い ま しい 情 熱 と い う 怪 物 の 心 臓 に と どめ を さ して や る う と, む き に な っ て 火 と 剣 と. をつかみ」 「猛烈に残酷に一歩一歩攻め立て, 一時しのぎの安易なごまかしを少 しも 相 手 に 許さ ず, 絶望のあまり逃げ込もうとするあらゆる避難所への道を塞いだ。 それで自然はその愛児を破滅 さ せ るに しの び ず, 他 面 か ら活 路 を 開 い て や る た め, ヴィ ル ヘ ル ム を 病 気 に した」 の で あ る。 S (2 . 1. , 77). 健 康 を 回 復す る と ヴィ ル ヘ ル ム は, マ リ ア ー ネ ヘ の 傾 斜 か ら立 ち な お る 手 段 と して, 非 常 な 熱 意 を 以 て 家業 に 身 を 入 れ る。 ヴ ェ ル ナ ー は 対 極 マ リ ア ー ネ を 打 ち 負 か して ヴ ィ ル ヘ ル ム を 正 道 に ひ き. もどしたかに見えたが, 彼は大きく誤算していた。 商用の旅に出た ヴィ ルヘルムは運命の少女ミ ニ ョ ソに出会う。 ミニ ョ ソ--この謎 の少女には語 るべき過去もなく, 享受す べき現在もない。 未成熟なその容姿についてのゲーテの描写 は, 未来と それが必然的に持 〕未知の可能性を秘めた未完成の持つ 特徴を極めて巧みにミ ニ ョ ソの姿に象徴し て い る。 (2 ) そのミニ ョ ソを彼は綱渡り芸人の一座から買い取 った。 それ以来彼女 は 。98f .4 .S . メ リ ー ナ の 一 座 に加 わ っ て あ て も な い 旅 を す る ヴィ ル ヘ ル ム に 献 身 的 な 奉 仕 を す る よ う に な り, そ. の姿態は次第に魅力を増 し, ひそかに彼の心を捉えてゆく。 或日, 旅役者の一人からマリア ーネの消息を聞き, 激 しく動揺するヴィ ルヘルムの魂の危機に, ミニ ョ ソは彼の帰りを待 っていて彼を慰めるために卵踊りを 「すばしこく, 軽快に迅速に正確に踊 っ た。」 (2 .115) そ して ヴィ ル ヘ ル ム は, 「こ れ ま で ミ ニ ョ ソに 対 して 抱 い て い た 感 情 を, こ .S .8. の瞬間にま ざまざと感 じた. 彼はこの寄るべない子供を養女として自分のふところに引き取 って我 が腕に抱き, 父の愛を以て彼女の心の中に生の喜びを呼びさましてやろうと切望した。」(2 。 .8 .S - 69 一.

(6) . VO I .I .22 No. ion IA) iver i lo f Hokka ido Un i t t Journa s on (Sect y of Educa. Sept . ,1971. 116) こ こ で も ヴィ ル ヘ ル ム の 心 は マ リ ア ー ネ の 場 合 と 同 様, ミ ニ ョ ソを 高 め よ う と して か え っ て 負 の 極 に 大 きく 傾 い て しま う の で あ る。 彼 は ミ ニ ョ ソ の 志 向 す る と こ ろ を 明 ら か に 知 ら な い ま ま に, 彼 と 同 色 の 服 を 彼 女 の 望 み 通 り 作 っ て 与 え る が, こ の こ と も ま た ミ ニ ョ ソ と ヴィ ル ヘ ル ム の 魂. の接近を示す一つの証左とみてよいであろう。 ここに至って再び塔の結社員がこれに対立する正の 力として登場する。 牧師の姿をしているその人物は, 第一巻の場合と同様に, 依然として ヴィ ルヘルムが運命を讃美 するのに対 して, 微笑 しながら反論する。 「運命 は高貴な, しかし高価な家 庭教師ですよ。 私ならむ しろ, いつも人間的な教師の理性にた よ る で し ょ う。」 (2 .121) .S .9. 結局この対話の趣旨は第一巻のそれと同巧異曲であって, 塔の結社はまだヴィ ルヘルムの心に決定 的な影響は与えていない。 しかしこのことは, 消極的な見方では あるが, ヴィ ルヘルムの心に塔の 結社員の働きかけを積極的に拒否 しようという構えもまた出来上が っていないことを示 し, 更にま た ヴィ ルヘルムが思いのままに行動 しながらも, 外部からの影響に対 しては極めてすぐれた感受性 を持っ ていること, 即ち精神的に大きく成長する可能性を持っ ていることを暗示 している。 第十一章で, ミニ ョ ソに影の如くつきまとういま一人の不可思議な形姿, 竪琴ひきの老人が登場 し, そ の 意 義 深 い 歌 と 哀 切 な 調 べ に よ っ て ヴィ ル ヘ ル ム の 心 を ひ き つiけ て し ま う。 ヴィ ル ヘ ル ム. は, 彼の性格の弱さが生み出した優柔不断の不快さ, 妖艶なフィ リ ネを彼からさらって行った若 者への嫉妬など, 彼にとりつい たいくつかの悪霊を追い払うために, 竪琴ひきを宿に訪ねる。 彼が 粗末な宿の柱にもたれて, 竪琴ひきの涙と共に歌う哀愁の調 べに耳を傾け, 深く心を動かされたの は次の歌であった。 涙と共にパ ンを味わい しこと無きもの なやま しき夜よるをおのが床に 泣 き あ か した ろ こ と な き も の は,. おんみ ら, 天の力を知らず。 お ん み ら は 我 らを こ の 世 に お く り,. あわれなる者に罪を重ねさせ, 苦悩にまかせてかえりみず。 こ の世 に は 報 い な き 罪 は な け れ ば。 (2 . S。136) . 13. 竪琴ひきは, 人間存在の根源としてある衝動, す べての精神的なものを破壊 し, 理性の喪失へと 導く不可思議に してまた不可避的な力に打ち負かされずにはいない人間の運命を悲痛に歌い, すぐ れて感受性の強い ヴィ ルヘルムの魂は, その歌の哀切な調べの流れにひきさらわれて, 生の原点へ の退行を示すのである。 竪琴ひきの老人は, さらに静かな序曲を奏して, この根源的な力の恐ろ し さを知り, その力からの離反を企てた者が代償として 受ける恐ろ しい孤独が生む苦悩をさらに歌い 続けるのであっ た。 彼の魂は孤独の苦 しみに耐えず, 再び人間との結び付きをあこがれ求め, その タ ンタ ロ ス 的 な 生 へ の 渇 き は, 哀 愁 を こ め た 歌 の 響 き と 共 に, 青 い 焔 と な っ て 狂 お しく 悶 え, 冷 た. く無惨に燃焼する。 孤独に悩む者あらば, - 70 -.

(7) . 北海道教育大学紀要 (第一部A). 第 22 巻 第 1 号. 昭和46年9月. 悲 しや, た ち ま ち ひ と り な らん。. 人はみなお のが じし命と恋を楽しみて, ひとの痛みを思わず よ し, さらば/. 我が苦しみに委ねん〆. た だ一 度 な り と も, ま こ と. 心ゆくばかり孤独とな らば, 我 は つ い に ひ と り に あ らず。 い と しき 乙 女 は ひ と りな り や と,. 恋する人の忍び寄りてうかがう如く, 昼となく夜となく 苦 しみ は, ひ と り な る こ の 身 に 忍 び 寄 る。 あ あ, こ の 身 い つ の 日 か おく つ き の 内 に ひ と り と な らば, ) 苦 しみ も 我 を ひ と り と な さ ん / (2 . 。 S.137 f . 13 ラ エ ル テ ス ヘ の友 情, フ ィ リ ー ネ ヘ の 傾 斜, ミ ニ ョ ソヘ の 愛 着, メ リ ー ナ と の 金 銭 上 の 関 係, 謎. の竪琴ひきとの知己, その謎解きへのおさえ難い好奇心もあって, 演劇の世界への執着はまことに 絶ち難いものがあったが, 長い間あれこれ思案の末, 彼の心は遂に一座を立ち去る決意へと傾く。 しかし, そこヘミ ニ ョ ソが入って来て, その胸に長い間固く秘められ,ひそかに培われた恋を, 「遂 に 機 会 に め ぐま れ て」 打 ち 明 け る。 (2 。142) そ して 「ヴィ ル ヘ ル ム の 心 も, こ の 上 なく 受 . 14, S ) 彼 は ミ ニ ョ ソの 手 を 取 っ て 語 り か け る. け 入れ や すく な っ て い た。」 (a 。a , 0。 「ね え, お ま え。 お ま え も 僕 の 苦 痛 の 一 つ な の だ よ。 ) で も僕 は 去 らなく て は な ら な い の だ。」 (a 。a , 0,. だが, 彼の心は既に竪琴ひきの歌によって, 負の極へ大きく傾斜していたのであった。 竪琴ひき と そ の 根 底 に 於 て 深く 結 び 付 い て い る ミ ニ ョ ソに と っ て, こ の ヴィ ル ヘ ル ム の 心 の 状 態 は ま さ に 好. 機であった。 彼女は両手を彼の手に委ね, 頭を彼の膝にのせ, ヴィ ルヘルムが彼女を抱き しめて接 吻 す る と, ミ ニ ョ ソ も 彼 の 首 に し っ か り と しが み つ い た が, 彼 の 腕 の 中 で 「そ の 全 身 が 涙 の 川 の 中. に刻々と解けて行く かとさえ思われる」 程の不安を彼に与えたので, (2 .143) 彼はミニ ョ .S .14 ソを一層固く抱 きしめて叫ぶ。 「ミ ニ ョ ソ, お ま え は 僕 の も の だ よ。′ 僕 の も の だ よ。〆. こ う 言 っ て そ れ が お ま え の 慰 め に な る の な ら。 お ま え は. ) 僕 は お ま え を 手 許 に お い て, 決 して 離 した り しな い よ。〆」 (a .a . ○。. ミニ ョ ソは ヴィ ルヘルムの魂を彼女の涙の中に溶解させた。 彼は迷妄の旅か ら脱出する好機を, 激 しい 感 情 に 押 し流 さ れ て, い ま や 自 ら放 棄 して しま う。 遂 に 彼 は ミ ニ ョ ソの た め に, メ リ ー ナ の 一. 座に留る決意をする。 そのとき戸の外で静かに 竪琴が響く。 ミニ ョ ソと竪琴ひきは遂に ヴィ ルヘル ムの魂を捉 えたのであった。 それ故にこそ, 第三巻の冒頭に, 一抹の哀愁をこめながらも美 しく高らかに, ミニ ョ ソの歌声は ひたすらなあこがれと無類の魅力をもって響くのである。 君や知る, レモ ン花咲く国, - 71 一.

(8) . VO I ,1 .22 No. lo f Hokka i i i do Un ion (Se ion I A) f Educat Journa ty o [ ver s c. Sept . ,1971. 暗き葉かげに黄金のオ レンジの輝き, なごやかなる風, 青空より吹き, テ ンニ ン花は静かに, 月桂樹は高く そびゆ。 君 や 知 る, か しこ.. ′ かなたへ, かなたへ. 君と共にゆかま し, あわれ, 我が愛 しき人よ. ( 3 .145) .S ,1 この歌もまた, ミニ ョ ソの 容姿と共に, 彼女の特質である未来 と瞳傷をみ ごとに象徴 していること は, 作者の次の言葉からも明らかであ る. ′ とい の句は神秘的に, つつま しげに歌われ, かなたへ, かなたへ. う句には, おさえ難い憧慢がひそんでいた. 共にゆかまし と い う と こ ろ は, 或 は 願 う よ う に, 或は迫るように, 或は促すように, 或はいろいろと約束するように, 趣きを変えて彼女は歌 「 君や知る, かしこ. っ た.」 (3. 1. S.146). 経営の危機に瀕したメリーナの一座が伯爵の城へ招かれてその危機を脱 したとき, ヴィ ルヘルム の前に伯爵の書記ヤルノ ーと名のる 塔の結社員が現われる. 彼は毒を以て毒を制すべく, ヴィ ルヘ ル ム に シ ェ ィ ク ス ピ ア の 劇 を 与 え る こ と に よ っ て 演 劇 の 真 髄 を 知 らせ, シ ェ ィ ク ス ピア を 通 して 彼. を行為への意志へと導いて行く. 「活動的な生活に移る決心を棄ててはいけません. あなたに恵まれている貴重な歳月を還 しく利 用するように急いで下さい. …… あなたは一座から脱け出 したが っているものと私は判断します し, そう見えます. …… もしあなたが, あなたの力と才能を我々の仕事に捧げよう, 骨折りも, 必要とあれば危険もいとなわないというのでしたら, ちょ うど折よくあなたを或地位につけられ ) る の です. そ の 地 位 に つ い た こ と を あ な た は 後 悔 な さ ら な い で し ょ う.」 (3, 11. S.192 f .. ヴィ ルヘルムの 心はヤルノ 【への感謝 に傾きかけた. ヤルノ は ぶ っ き ら 棒 で は あ っ た が, ヴィ ル ヘルムに彼が必要とす る新 しい思想を与えてくれた. ヴィ ルヘルムは世間では自分の考えたように 事が運ばれては行かないことに気付き始め る. 「人間というものは,力や働きや観念などの発達に近付きつつある時,おりおり一種の困惑に陥る も の で あ る. そ れ か ら容 易 に 彼 を 救 い 出 す こ と が 出 来 る の は, よ い 友 達 で あ る.」 (3 . 8. S.180). だから, よい友達の助けがなければ, 彼は 「定 め の 目 的 地 へ 骨 の 折 れ る 遠 い 回 り 道 を しな け れ ば な る ま い.」 (a ) . ○. .a. さらに, 尊敬するヤルノ ーは容赦なく, 「ヴィ ルヘルムの愛情を何の駈け引きもなしにひきつけた ) 即ちヤルノ ーと生活信条と鮮烈な対立を示すミ ニ ョ ソと竪琴 人間的な二人連れ」 (3 .194 ,11 .S ひき に深い執着を示 している ヴィ ルヘルムの生活態度を痛烈 に非難する. 「きっ ぱり言いますがね, どうしてあなたがあ んな連中と事を共にしてゆけるのか, 私 にはこれ まで合点がいかなかったのです. あなたがただどうにか暮らして行くために, 旅がらすの大道芸 人と, 男だか女だか分らない馬鹿な小娘に心をひかれているのを, たびたび見て胸く そが悪くな り腹 が 立 ち ま した よ.」 (3 .11. S.193). 7 日青知らずのヤルノ ー」( .462) は, 生への遅 しい意志と峻烈に対立する滅び行くものへの ,6 .S 盲目的な執着を前途有為の ヴィ ルヘルム に許すことが出来なかっ たのである. しかし, ヴィ ルヘル ムは心中でヤルノ ー に対 して激 しい怒りを爆発させる程に, 深く滅び行く ものに愛着 していた. ′貴様が友達になれるなんてとんでもないうぬぼれだ. ′貴様が俺に何 「血も涙もないこの俗人め. を提供 しようと, そんなものはすべて, 俺をあの不幸な二人に結び付けている感情には及びもつ 一 72 一.

(9) . 第 22 ,巻 第 1 号. .. 北海道教育大学紀要 (第一部A). ,昭和46年9月. ′」 かないのだ, 貴様からどんな目にあわされるか,早いうちに気が付いたのはなんという幸福だ. (3 ・194) ,11. S. 彼はミ ニ ョ ソを抱きしめて叫ぶ. この時の彼の言葉, そしてミニ ョ ソの喜びの表現に注意する必要 があろう. もの動きをからだ全体で表現するミニ ョ ソの魂は直接にヴィ ルヘルムの魂 を捉える。 作 者がミニ ョ ソにその心を十分に表現する 言葉を与えていないのは, 思うに極めて精撤な詩人のたく ) 彼女が象徴する人間存在の根源的なものは, 自己を語り 4 みによるものであろう. ( .262 ,16 ,S 表わす十分な言葉を必要と しないからである. 彼女にはただ歌こそ がふさわしい。 それ故にミニ ョ ソはその心を身体の表情で語り, 或は切々たる歌によせて, 直接 にヴィ ルヘルムの魂に働きかける の だ. 「い や, 俺 達 は どん な こ と が あ っ て も 別 れ な い ぞ。′. お ま え は 可 愛 い, い い 子 だ ね 世 間 の も っ と. もらしい分別なんかに負けて, おまえを捨てたり, おまえが 私にとってどんなに貴い かを忘れた り は しな い よ.」 (a ) . ○. .a. 「彼はこの子の示す烈 しい愛情のしぐさを, いつもは拒んでいたのだが, 今日は思い が けなく 彼が 愛情を示 したので, ミニ ョ ソは喜んで彼にひしとすがりついた。 それで彼はや っとのことで彼女か ) ら離れることが出来た程だった.」(a .a .○ . 第四巻の初めに, 竪琴ひきはヴィ ルヘルムにその暗い素性の一端を 打ち明ける。 ′ 私を追いかけている復讐はこの世 「私の恐ろしい秘密には触れないで, 私を放免 して下さい. ない運命のものなのです の裁判官のではありません. 私は仮借 . 私は留ることは出来ません. 留 っ てはならないのです……私はあなたの許 にいれば安全です. しかしあなたが危険です. あなた は 誰 を 身近 に か か え て い る の か 御 存 じな い の で す.」 (4,1. S, 208) ヴィ ル ヘ ル ム の 誠 意 に 報 い る た め に, 竪 琴 ひ き は 自 ら を ヴィ ル ヘ ル ム か ら 遠 ざ け よ う と した. しか し ヴィ ル ヘ ル ム は 老 人 を ひ き と め て 言 う.. 「僕の幸福に仲間入りしなさい。 あんたの黒い霊と僕の白い霊と, どちらが強いか見ようではあ り ま せ ん か.」 (4 . 209) .1 .S. 伯爵の城を去 って, 次の目的地への近道を辿る途中, 山中の森で一 座は強盗の一団に襲われ, ヴ ィ ルヘルムは重傷を負 った。 血まみれの彼に外科医の手当を受けさせた上, 着ていた外套を彼にか け与えてくれた通りが かりの白馬の美女の面影が, 消 し難く ヴィ ルヘルムのまぶたにやきつき, そ の気高い姿は第八巻に至るまで, いつもヴィ ルヘルムの脳裏にあ って, 無意識の中にも彼の導きの 星として輝きつ づ ける. 彼はその導きの星の存在の意 義を明確に把握してはいないが, 長い迷妄の 旅程にあって, 幾度か破滅の深淵のヘリに近付きな が ら, 自己の調和的形成をめざしてたゆまなか っ た の は, 実 に こ の 永 遠 の 女 性 と も い う べ き ナ タ ー リ ェ が, ヴィ ル ヘ ル ム の 魂 を ひ い て 高 み へ と の. ぼらしめる潜在的な牽引力とな っ ていたのである. このような ヴィ ルヘルムの形成過程は, ゲーテの不朽 の大作フ ァウストの発展過程の底流とその 軌を一にしているように思われる. 人間の胸中 には常 に二つの魂が住み, 互いに争い, 迷 い を 生 む. 迷いは人間の生と精神の努力とが分ち難く結び付いているところから生ずる。 人間が理性の光 を自らの手で消さない限り, 彼の前には向上の道 が開かれている. ただ重要なのは, 到達 した現在 に満足 し切 ってしまうことなく, より高きものへの意志 を常に抱いて たゆまず努力するところ にの み人間の生の価値が生まれるのだという認識である。 その価値が正 であるため には, また負の価値 も なく て は な らな い. こ こ で 「フ ァ ウ ス ト」 第 一 部 天 上 の 序 曲 の 中 の 主 の 言 葉 に つ い て み よ う.. どうかすると, 人間の活動はたゆみがちにな ってしまう, 人間は絶対的な無為と休息を求める. - 73 岬.

(10) . vo 1 .22 No .・. lof Hokkaido Uni i ty of Edu journa i t s ( 蟹辻i on (Sec on I A) ver. Sept . ,1971. だ か ら私 は, つ つ い た り 引 っ ぱ っ た り して,. 1 ) 6 悪魔の仕事に精を出す仲間を与えておくのだ. この 「仲間」 こそが人間の生に絶えざる変化, たゆみない 努力, そ して 「永遠の発展と生成をやめ ) の力を誘い出す大いなる負の価値なのである. 1 7 ぬ大きな創造」 美 しい導きの星ナタ ーリェとの再会を願う心が ヴィ ルヘルムの胸中で燃える が, 手がかりはなか た っ . ヴィ ルヘルムは彼女から与えられた外套の中に, 伯父の安否を優 しく 尋ねる趣きを記 した紙 片を見出 し, 「これだけでもうこの間の麗人が ,目の前に現われた時のように, 心を高められる気が した J (4 .1I S.240) こ の 時 ミ ニ ョ ソ は 竪 琴 ひ き と 共 に, 心 を こ め て あ こ が れ の 歌 を う た う.. あこがれを知る人のみぞ, 我が悩みを知りこそすれ/ ひ と り, な べ て の. 歓びより隔てられ, ながめこそすれ, 青空のかなた. あわれ/この身を知り, いつく しみたもう人, 今は遠きかなたにいます. 眼はくるめき, はらわたは燃ゆる, あこがれを知る人のみぞ, f / (4 我が悩みを知りこそすれ. .1I S.240 .) 「彼の魂の中で, はっ きりしたものと, お ぼろげなものとが交替し, 果て しない 願 望 を か き 立 て 1) が, 彼は行く先を見出すことが出来なかった。 「彼はもつれた運命の糸の不思 た」(4 .24 .11 .S ) 彼は負傷の全快 議な結び目が, 解けるか, ばらばらに切れてしまえばよいと願 っ た。」 (a . ,a .○ もまたずに, 「運命によっ てまた しても余りに 長くひきとめられていた無為の状態からのがれるた め に」 (4 ,242) ゼ ル ロ ー の 許 へ と, ミ ニ ョ ソ と 竪 琴 ひ き の 「奇 妙 な」 三 人 連 れ で 急 い で 出 ,12 .S. 発する. 目的地に到着 した ヴィ ルヘルムはメリーナの一座を救済するために, 都会の劇場主 ゼルローと提 携 してハム レッ トを演ずることになるが, 友人ラエルテスに案内された都 会の活動を見て, 初めて 活動というものから精神的な深い影響を受ける. 彼は再び岐路に立っ た. 「さあ, これで俺はまた子供の時現われた二人の女神の間の岐 路に立っ たぞ. 一人はもはやあの 時のようにみすぼらしく は見えない し, もう一人はもはやあんなにきらびやかには見えない. ど ・る. どちらの側からも外部の誘因は十 ちらに従うことにも, おまえは一種の内的使 命を感 じてし 分に強い. 心を決めることはおまえには不可能に思われる。 外から何らかの重味が 大 き く なっ て, お ま え の 選 択 を 決 め てく れ れ ば い い と お ま え は 願 っ て い る.」 (4,19 , S.276). そ して, 日毎 に慕情をつのらせてきたミニヨ ソと, 竪琴ひきの老人は, 彼の心を決める秤にとって 「小 さ な 重 み では な か っ た」 (4 .19 . S.277) が, 彼 の 新 しい 女 友 達 ゼ ル ロ ー の 妹 であ る ア ウ レー リ ェ を 訪 ね る と き, 何 故 か 「彼 の 秤 は ま だ 左 右 に ゆ れ て い た.」 (a ) .a , 0. 第 五 巻 で は, ア ウ レ ーリ ェ ヘ の 敬 慕 と, ハ ム レ ッ ト上 演 の 大 成 功 に よ っ て, ヴィ ル ヘ ル ム の 魂 は. しば しの満足を得る。 彼は演 劇の世界で活動する決意を固め, 市民社会との訣別の手紙を市民社会. - 74 一.

(11) . 第 22 巻. 第1号. 北海道教育大学紀要(第一部A). 昭和46年9月. の 代 表 と も み な し得 る ヴ ェ ル ナ ー に 送 っ た 。. 「市民は一つの仕方で有用になるため, 他のすべてを放置しておかねを ならないが故に 彼の本 , 質の中には調和はないし, あってはならないことが前提されている …… 僕は市民に生まれたた . めに拒まれている他ならぬ天性のあの調和的完成に対 し, さからい難く心をひかれている …… . それで, 公人になり, 広い社会で人に喜を れ, 活躍 したいというこみ上げる欲望が日毎におさえ 難く な る の を僕 は 否 定 しな い。 … … そ う い う す べ て の も の が 僕 に と っ て は 舞 台 の 上 で の み 見 出 ,. されるのだ し, 舞台という唯一の世界でだけ僕は思いのままに行動 し, 自分を形成 して行く こと S が 出 来 る の だ。」 (5 。) ,3. 。291 f. 自己形成についてのこの美的幻想こそは, まさに彼の重 大な錯誤であった ゼルローとの契約に署 。 名する瞬間, ふとナターリェの姿が ヴィ ルヘルムの脳裏に現われ, 彼は自分が 何をしているのか無 自覚 の 中 に 署名 を 終 え, そ の あ と でミ ニ ョ ソが そ っ と 彼 の 腕 を お さ え て い た の に 気 付 く ミ ニ ソ ョ 。. の舞台嫌いと, この制止行為の目的は, 彼女の本質からいっ て, 勿論のこと彼女に対 立する塔の結 社への道をヴィ ルヘルムに勧めて辿らせることにあるのではなく, 彼女はあこがれの南 の国への旅 を求 め て, ヴィ ル ヘ ル ム の 北 の 町 に 留 る う と す る 契 約 へ の 署 名 を 妨 げ よ う と した の で あ. た ろ う こ っ. とは, 第五巻第一章に明らかである. 彼女は 「誰か旅行する人があると, ただ北へ行く のか 南へ , 行くのかと尋ね……とりわけヴィ ルヘルム が旅行の話をすると, 彼女は非常に注意深く なって 話 , が 他 の 事 柄 に 移 る と, い つ も 悲 しが る よ う に 見 え た」 の で あ る (5 1 S 283) 。 . , .. ヴィ ルヘルムの敬慕の情をかち得ていたアウレーリェの死は, 彼の心に深い衝撃を与えずにはい なかった. 生の喜びに舞う蝶のようなフィ リーネとは全く対照的に, 彼女は死に直面 している存在 として本質的にミニ ョ ソと竪琴ひきの側に立つが, 優れた資質を持って精神的な高みに視線を向け ながら, 満たされぬ思いに心をひずま せて, 道義的な自虐精神によっ て自ら滅びへの道を辿って行 く。 彼女は生きる勇気を持てと励ますヴィ ルヘルムに向って言う. 「いいえ, 私の一番手近な希望を奪わないで下さい。 私は長い間待っていました 喜んで死を抱 。 き しめ よ う と 思い ま す。」 (5,16. S ,355) しか し, ア ウ レーリ エ は 彼 女 の ロ タ ー リ オ ヘ の 手 紙 を ヴィ ル ヘ ル ム に 託 す こ と に よ っ て , 彼を最 終. 的に演劇界での低迷から脱 出させ, 塔の結社の世界へ媒 介し, また幼児 フェーリ ック ス を彼にひき 渡すことによっ て, ヴィ ルヘルムに新 たな未来を与える役割を果たして死んだ 彼女は負荷を帯び 。 た振子が, 他の負荷を帯びた振子を反撤するように, 自らは負の極に属しなが ら, 自らを滅ぼ して ヴィ ル ヘ ル ム を 対 極 へ と 向 わ せ た の で あ る こ の 意 味 で ア ウ レ ー リ ェ は 高 め られ た マ リ ア ー ネ と 。 , 呼 び得 る よ う に 思 わ れ る。 ミ ニ ョ ソ は, ア ウ レー リ ェ と の 約 束 を 果 た す べ く 旅 の 支 度 を す る ヴィ ル. ヘルム に, 行く先は南か北かと問い, 北と聞く と, 「そ れ じゃ, 私 は こ こ でお 帰 り を 待 っ て い る わ 」 。. と, 彼にマリアーネのかたみの真珠 の首飾りをねだり, 彼はそれを拒否することができなかっ た 。 (5.16, S。356) 愛 す る ミ ニ ョ ソは 彼 か ら マ リ ア ー ネ の 思 い 出 の 首 飾 り を 奪 っ た が , 苦悩を負った ア ウ レー リ ェ は, 彼 に マ リ ア ーネ の 忘 れ が た み を 残 して 逝 っ た 。. 第五巻に登場する塔の結社員は医師で, 死の幻想に苦 しむ竪琴ひきと, 狂気のアウ レーリェの治 療を手がけ, ヴィ ルヘルムに 「美しい魂 の告白」 の手記を手渡す。 医師はその職能を通 して 充実 , した生をめ ざして活動する人々の領域と, 死に直面 して立つ人々の領域 即ち生と死 の二領域にわ , たる人間存在の包括的把握の可能性を示す存在 である。 ヴィ ル ヘ ル ム はミ ニ ョ ソの 激 しい 接 吻 を 唇 に 受 け, 「マイ ス タ ー さ ん ′ 。 く にまた帰っ て来てね J (a ) .a . ○. - 75 -. 私 達 を 忘 れ な い で, す.

(12) . VO 1 .l ,22 No. i i ion I A) do Univer l of Hokka i ty of Educat journa s on (Sect. Sept . ,1971. ・て, ロターリオを訪ねるゴヒヘの旅にのぼ る. 第六巻 「美しい魂 という言葉に無量の思いを胸 に抱し に入る直前におかれたミニ の告白」 ョ ソの次の歌は, 暗黒と沈黙の夜の門に向かって件む彼女の神 秘的な本質をみ ごとに歌いあげている. 語れとはのたまうな, 黙せとこそは告げ給え. もだ 我が秘め ごとは我がつとめなれば. 我が心の限り, 君にこそ示さん願いは切なれど, さ だ め の許 さ ぬ 悲 しさ よ. (5. 16. S .356) 第 六 巻 「美 しい 魂 の 告 白」 は, E. シ ュ タイ ガ ー 及 び F. グ ソ ドル フ が そ れ ぞ れ 明 確 に 主 張 して. ) 作品の前半部の演劇の世界と, 後半部の新 しい世界とを明瞭 に区分すると共に, この 8 いる通り,1 一 つの世界をつなく 一つの重要 なかけ橋としての役割を果た している。 手記の主人公フィ リス は極端に内面 に向かう存在であり, 魂の問題を通 して大きく死へ傾斜 して い る と こ ろ か ら, ミ ニ ョ ソ と 竪 琴 ひ き, 更 に ア ウ レ ーリ ェ の 系 列 に 連 な る, し か し フ ィ リ ス は 生 の. 不条理をひたすら神との交渉によって克服 し, 精神的孤高の位置に到達した人間の形姿である. も はや彼女には竪琴ひきが持つ苦悩は存在 しない. しかし, 生と死の二領域に関与する医師をその職 とする塔の結社員は, フィ リスの 「そのような感情は……いわば私達を空虚 にし, 私達の存在の基 15 ) フィ リスの叔父は理性的な生き方 につい ての信念と教 礎を破壊するものだ」 と説き, (6 .4 .S 育上の理由から, 子供達をフィリス に近付けないように配慮する。 しかし, 塔の結社員 達は, 必ず しも彼等の信条に相反する立場をとる もの, 対立するものを徹底的 に否定するのではない. 優れた ものに対 しては, たとえ自分達 にそぐわぬもの であれ, 自分達と峻烈 に対立するものであれ, それ らに対する理解と愛情を惜 しまない. フィ リスの 叔父は言う. 「私が尊敬す るのは, 自分の欲するところをは っ きりと知り, たえず前進 し, 目的に達する方法 を 知 り, そ れ を つ か み, 利 用 す る こ と を 心 得 て い る 人 間 だ.」 (6. S.405). 「人間は狭く 限られた境遇 に生まれついている。 単純で手近で, はっ きりした目的 なら, 見通す こ と が で き る. す く 手に取れる手段 なら利用することにもなれている. だが広いところに出るや .406) 否 や, 自 分 が 何 を 欲 して い る の か, 何 を な す べ き な の か 分 ら なく な る.」 (6. S. この手記 「美 しい魂の告白」 を通 して, ヴィ ルヘルムの魂は, 彼の調和的形成を導く 一つの前提 となり,.一つの典 型となるもの に触れることが 出来たし, それはまた確かに彼の全生活の上にかな づ 8 りの影響を与えたのであった. ( .518) 彼は外界の事物を明確 に認識 し, それ に基 いて活 .S .3 動すること, 即ち自己の存在の限定性を自覚 し, その中での着実な完成をめ ざ して努力することの 重要さを知り, 「手近なこと」 への関心を高めて行く. この意 義深い魂のかけ橋を渡っ て, ヴィ ル ヘルム が入って行く第七巻, 第八巻の世界は, 第五巻までの色彩と物音に満ちた感性の世界とは異 なり, 影絵的な色調と, 物語りの趣きに満ちた理性優位の世界である。 「そこでは演劇はもはや何 の意味も有 せず, そ して新 しい地層として, 従来 ヴィ ルヘルムの形成への努力や運命を包んでいた 1 9 ) がある。 演劇に対立 し, 平行 し, 或は君臨する世界」 第 七 巻 で, ロ タ ー リ オ に ア ウ レ 【リ ェ の 手 紙 を 手 渡 した ヴィ ル ヘ ル ム が 眠 り に 沈 ん だ そ の 明 け 方 に 見 た 夢 は, 竪 琴 ひ き と フ ェ ー リ ッ ク ス, ヴィ ル ヘ ル ム と ナ タ ー リ ェ の 運 命 を ま ざ ま ざ と 暗 示 して )新 しい世界に入っ た ヴィ ルヘルムは, 塔の結社員 である医師か ら竪琴ひき い る.(7. 1, S,425 f .. の身の上話の一端を伝えられる。 竪琴ひきの老人の恐ろ しい孤独 は, 友情と愛を彼にとって最も恐 ろ しいものとしながら, なおもそれを求めて苦 悶する。 彼の精神は過去の 罪におびえながら, 生の 一 76 -.

(13) . 第 22 巻. 第1号. 北海道教育大学紀要(第一部A). 昭和4 6年9月. 根源への回帰を希求 して苦悩するのだ。 老人は次のように告白する. 「私には, 自分の前 にも後にも, 無限の闇のほかは何も見えません。 その闇の中で私はこの上な く 恐 ろ しい 孤 独 に捉 え られ て い る の で す。 … … 神 の 光 は 一 筋 も こ の 闇 の 中 の 私 に は さ しま せ ん。. 私は涙の限りを自分ひ とりで自分のために泣く のです。 友情と愛ほど私にとっ て恐ろ しいものは ありません。 ……この一つの幽霊も, ただ私を苦しめるために, 結局この大変な存在の貴重な存 ) 36 f 在意識を私から奪うために, 深淵から出て来たにすぎないのです.」 (7 。 。4 .4 .S 医師は更に言葉を続ける。 「あの人の一番大きな幻想は, 自分はどこにでも不幸を持ち込むということ, 自分は無邪気な男 の 子 に い っ 殺 さ れ る か も 知 れ な い と い う こ と です。 … … あ ん な に 惨 め な 身 の 上 で あ り な が ら 生 き るこ と を 限 りなく 愛 してい る の で, あ の 子 供 に 対 す る 反 感 も そ こ か ら 起 っ た も の の よ う で す。」 (7 . 4. S.437). これは滅び行く者が生の喜びに満ちて成長 して行く者に対 して抱く恐れであり, その恐怖が生み出 す 負 の 幻想 で あ っ た。 竪 琴 ひ き は か っ て 火 事 騒 ぎ の 中 で フ ェ ーリ ッ ク ス を 殺 そ う と した こ と が あ っ. ) そ して第八巻に至 って遂に彼はその幻想から狂って自ら死を選ぶ 運 命 を 辿 た。 (5 30 。3 ,13 .S る。. 新しい世界に迎え入れられた ヴィ ルヘルムは, ロターリオの活動的な精神に触れて活動の意義を 考え, 荘園主テ レー ゼの活気に満ちた美 しさ, 豊かな情操, 確固と した意志と実行力に深い 傾愛を 覚える. しかしそのテレーゼに も, その美 しい両の眼に涙をたたえて, 沈み行く夕陽を凝視する愛 ゆえの苦悩があった。 ヴィ ルヘルムは, 彼女が烈 しい変動に出会ってなお心の平穏を失わないのに 感 嘆 す る。 (7. 6 . S。458). 「運命と和合するため に, それまでの全生活を放棄 しないで済む人はなんと幸福なんだろう/」 (7,6, S .459) こ の テ レー ゼ の 許 に ヴィ ル ヘ ル ム はミ ニ ョ ソを 託 そ う と 考 え る。 「そ れ 以 上 に よ い 手 に 委 ね られ る こと は 不 可 能 だ」 と い う ロ タ ー リ オ の 提 案 で あ っ た。 (7.7. S .469) しか し, ミ ニ ョ ソは ヴィ ル ヘ ル ム の 許 に 留 る こ と を 願 い, 彼 が 彼 女 の 教 育 の た め に そ う す る の だ. と言い聞かせると, 「自分の教育なら, 愛するためにも悲 しむためにも十分にでき て い る」 が, S (7,8 , ,488) も し ヴィ ル ヘ ル ム が 彼 女 を 手 許 に お く こ と を 欲 しな い の で あ れ ば, 「い っ そ 竪琴 ひ き の お じい さ ん の と こ ろ へ や っ て 下 さ い。〆 ぼ っ ち な の です も の。」 (7 , 8, S.489). 可 哀 そ う に, あ の 人 は ほ ん と に 一 人. だが彼女は老人の眼だけを恐れていた。 (a ) 彼女は老人の眼に, 彼がいつも凝視 している死 。○ ,a . - の陰影と共に, 死への恐れと生への悲痛なまでの 爆帳を見ていたのであろうか。 相寄り添っ て等 し く死を見つめながら, 未来を夢みるミニ ョ ソは未 知の死 にあこがれ, もはや未来を持た ぬ竪琴ひき の老人は死を恐怖する。 この点についてのグソ ドルフの解釈は正 しく的を射てい るよう に 思 わ れ る. ヴィ ル ヘ ル ム が 事 情 を 詳 細 に 説 明 して, 聞 き わ け て く れ る よ う に 頼 む と, ミ ニ ョ ソ は 答 え る。 「分 別 っ て む ご い も の ね。 情 の 方 が い い わ。 私 は あ な た の 行 け と 言 う と こ ろ へ 行 き ま す。 で も あ な た の フ ェ ーリ ッ ク ス は 私 か ら離 さ な い で。〆」 (7, 8. S。489). ミニ ョ ソの胸には, たぎるがままの感情のみが生きて, 理性は住む場を持たない。 ヴィ ル ヘ ル ム は ヤ ルノ ー に 勧 め られ て 塔 の 結 社 の 修業 証 書 を 授 け られ, 今 や は っ き り と フ ェ ー リ. 7 ックス の父として我が子を胸に抱きしめ, 司祭は彼に修業時代の終了を宣告する。 ( 。407) ,9 .S 第 八 巻 で, ヴィ ル ヘ ル ム は あ こ が れ の ナ タ ー リ ェ に 再 会 し, 彼 女 は ミ ニ ョ ソ の そ の 後 の 変 化 に つ い て 語 る。 ミ ニ ョ ソ は 偶 然 の 機 会 か ら, そ れ ま で 嫌 っ て い た 女 の 服 装 を す る よ う に な っ た。 彼 女 は. - 77 -.

(14) . vol .22 NO .・. l。f Hokka ido Univer i f Educa ion (Sec Journa i t t t s on I A) yo. sept ・ ,1971. その長い軽い白い服を脱ぐことを拒んで, 何とも言えない透明感を含んだ優美さを以て死の予感を 歌う。 こ の 姿 の 如 く な る 日 ま で, こ の 装 い を 許 しま せ,. 白き衣を脱がさでおき給え/ うるわ しきこの世を離れ, 石むるに急ぎ下り行く我なれば. (8 .515) ,2 .S 白衣のミニ ョ ソは, 以前の彼女とは全く別な現われかたを していると伝えるナタ【リェの姿は, ヴ S ィ ル ヘ ル ム に と っ て, 「殆 ん ど 彼 自 身 を 作 り 変 え よ う と す る か の よ う で あ っ た.」 (8 . 2. .516). さきに竪琴ひきの老人の本質の一端が塔の結社の医師から語 られたように, 再びミニ ョ ソの本質 の一端が医師によっ てヴィ ルヘルム に伝えられる. 「あのよい子の風変りな性質は, 殆んど全く深い憧帳から出来上がっているのです. 故国を見た いという願いと, あなたに対する思慕とがあの子の唯一の現世の願いだと 言っても よ い で しょ う.」 (8 .522) . 3・ s. このミニ ョ ソをナタ ーリェは, 他の塔の結社員の仕方とは全く異なっ た仕方で扱った. しかし塔の 結社員達は, 「それが私の道だというので, あの方達は, 私の道を行く私を少 しも妨げず, 私の願う一切のこ と に 好 意 を示 して 下 さ る 程 寛 大 な の で」 あ っ た. (8.3. S.527) ナ タ リェの影響でミニ ョ ソは他の人達への仲間入りをたびたび願うようになっ ていた し, ヴィ ル. ヘルム に対 しても再び心を開き, 快活さを増 しているように見えたのであるが, 彼女の最後は近か っ た. ヴィ ルヘルムの心が無 意識の中に美 しき導きの星ナタ リェにひかれな がらも, 現実にはテ レーゼに傾斜 して行くにつれて, ミニ ョ ソが暗黒の夜の門に入るを まるびの歩みもまた早められてい た. ヴィ ル ヘ ル ム ヘ の 愛 に 燃 え た テ レ ー ゼ が, 彼 に 激 しく 接 吻 した と き, ミ ニ ョ ソの 「も う 長 過 ぎ f) ミ ニ ョ ソ は そ の 憧 る く らい に 打 っ て き た 胸」 は 遂 に そ の 鼓 動 を 止 め た の で あ る. (8. 5 . S.543 .. 帳の対象である ヴィ ルヘルムをテ レー ゼに奪われて, もはやその生存の意義を失っ たのであった. そ してミニ ョ ソの死を予知 していた医師は, 優れた技術の限りを尽く してその遺体を美 し く 保 存 し, その葬儀の日に, 白衣をまとったミニ ョ ソは過去の間の大理石の棺の中に沈んで, 静かに く遠 の 眠 り に つ く. (8,8. S.578) そ の 後 しば らく して, ミ ニ ョ ソの あ と を 追 う よ う に, 竪 琴 ひ き の 老 人 も, 自 分 が フ ェ ー リ ッ ク ス. を殺 したという負の幻想から, 遂に我と我がのどを切 って, ミ ニ ョ ソの烈 しい燃焼の姿とは対照的 に, 無惨な姿で冷たい死の淵へ孤独のうちに沈み込んで行っ た. 彼の悲痛なまでの生へのあこがれ は, フ ェ ーリ ッ ク ス の 未 来 に 満 ち た 生 を 否 定 しよ う と して か え っ て 自 ら 敗 退 し, 滅 び へ の 道 を 辿 っ た の で あ る. (8.10. S .604). ナターリェの手を得, 彼女の優れた性質を深く自分の心に刻み込み, 「身にあまる幸福を, そ し て こ の 世 の 何物 に も か え 難 い 幸 福 を か ち 得」 な が ら, (8 . 610) .10. S. ヴィ ル ヘ ル ム は, 自 分 の 領. 地に塔の結社の人々と共に留 って活動することもせず, さらに新 しい悩みを抱いて, なにものかに 追 わ れ る よ う に, し か し新 しい 予 感 に 満 ち て, 高 め られ た ミ ニ ョ ソと も い う べ き 美 しい 導 き の 星 ナ. ターリェを故国に残 し, 再び塔のかなた に道を求めて, 新たなる迷妄の旅にの ぼる.. - 78 -.

(15) . 北海道教育大学紀要(第一部A). 第 22 巻 第 1 号 3,. 流. 昭和4 6年9月. 動. この作品の成立と発展に大きく関与 し, すく れた影響を与えているシラーは, 塔の結社の組織を 高く評価 し, これこそ作品中で最も尊重す べきものと考えていたので, 作者ゲーテ がこの結社の機 構をもっ と作品の前面 に押 し出して, それが作品の結末を決定的 に支配することを望んだことであ ろう。 彼はゲーテ がこの作品を終結するにあたって, 主人公 ヴィ ルヘルムが遂に到達する明確な目 0 ) 更 に, 指 導 理 念 の も っ と 明 瞭 な 宣 言 を 欠 い て い る こ と を 不 満 と して 標 の記 述 を 欠 い て い る こ と,2 1 ) 2 ゲ しか し作 者 ー テ は, シラ ー の 希 望 す る 方 向 を 作 品 の 結 末 に 与 え ず, 主 人 公 ヴィ ル ヘ ル ム い る。. は, 彼にとっての永遠の女性ナターリェの手を得ながら, 新たな予感 に満ちて, より高次の迷いの 2 2 )と ゲ ー テ は シラ ー 旅 路 に の ぼ っ て 行 く。 こ の こ と は 「両 者 の 根 本 的 な 性 格 の 相 違 に よ る も の だ。」 に 答え て い る。 主 人 公 ヴィ ル ヘ ル ム が ナ タ ー リ ェ と 結 ば れ, 愛 児 フ ェ ー リ ッ ク ス に 母 な る 人 を 与. え, 自らは大きな領地 を所有して, より高き地平 に立つ市民として, 世のための活動をみのらせて 行く結末を何故に作者はとらなかっ たのであろうか。 それは, 人間の形成 に伴う絶えざる動揺と変 化の相が, また, 遂に明確な解決 を知らずに無限に紡錘を続ける運命を負う人間の姿が, いつもゲ ーテを捉え, 彼の魂 を魅了 していたからであろう。 第七巻の結びで, 司祭は ヴィ ルヘルムの修業 時 代の終りを宣 したが, ゲーテは第八巻を結ぶに当っ て, 主人公を再 び新たな修業時代へと出発させ た の で あ る.. 前章では, 塔の結社 に到達するヴィ ルヘルムの迷いの旅路のあとを, ミニ ョ ソと竪琴ひきの老人 への愛着を主にして辿ってみたのであるが, この二人がよって立つのは生の負の極であり, 対立す る 塔 の 結 社 が よ っ て 立 つ の は 生 の 正 の 極 と み る こ と が で き よ う。 そ して ヴィ ル ヘ ル ム は こ の 両 極 間. を, 他からいろいろな外力を加えられるがままに, 絶えずその振幅を変えながら振動 し, 一本の導 きの糸に結ばれて上へ上へと引き上げられて行く振子であり, その振動の軌跡が 彼の人間形成の過 程 で あ る と 考 え られ よ う. E. シ ュ タイ ガ ー は, ヴィ ル ヘ ル ム の こ の 生 の 波 動 と も い う べ き 形 成 過. 3 2 ) 植物の生命現象 に於ては, その根底にある葉が一定の 程の中に, 植物の変態の法則をみ ている。 リ ズムを以て展開と集約の過程を, 六段階 にわたっ て反復し, 遂に種子 に到達すると ゲーテは考え ているが, 人間の形成過程 に於ても, 同様な精神の展開と集約の現象がみられるのだという解釈 で あろう。 ヴィ ルヘルムの形成過程を通 して, さまざまな展開と集約, そ してそれに伴う変容は, 止 む こ と な く 高 ま り つ つ 流 動 す る 生 の 波 動 と, 波 動 に 伴 うリ ズ ム を 生 ん で い る。 こ の 生 の リ ズ ム, こ. ) と言っているこの作品の主題 2 4 れこそ が作品の底流であり, ゲーテが 「私自身にも皆目分らない」 と も い う べ き も の で は な か ろ う か。 T. マ ンが そ の 作 品 「ワイ マ ル の ロ ッ テ」 の 中 で, 老 ゲ ー テ を して 次 の よ う に 語 ら せ て い る の は ま こと に 心 憎 い ば か り に ゲ ー テ の 心 を つ か ん で い る と 思 わ れ る。. 「変化こそ一切なのです。 事物は変化 しながら自他の立場を交換し合います……変容ということ こそ, 私が最も愛 し, 心の最も奥底深く秘めているもの, 私の大きな希 望で, 最も深い欲求なの 5 ) で す J2. 以前からゲーテの胸中に抱懐され, 醸成されていた人本主義思想が, イ タリャ旅行によ って成熟 発 展 して 行 っ た の に 伴 い, 「ヴィ ル ヘ ル ム o マイ ス タ ー の 修 業 時 代」 も ま た, も は や 単 に ゲ ー テ の. 生活感情の表出と してではなく, 彼の生活傾向の証蹟へと転質発展して行ったのである。 「ウル ◎ ) に 於 て, 演 劇 的 使 命 に 情 熱 を 燃 え 立 た せ る 第 二 の ヴ ェ ル タ ー と も い う べ き ヴィ ル ヘ 6 マイ ス タ ー」2 ル ム は, 「修業 時 代」 に 於 て は 「い わ ゆ る 悪 い 社 会 を, よ い 社 会 に つ い て 言 い た い こ と を 入 れ る た ) と して, そ の 中 に い わ ば 若 き 未 熟 な フ ァ ウス ト と も 考 え ら れ る 姿 で, 「生 の 変 転 が - 2 7 め の 容 器」. - 79 -.

(16) . VO I .22 No .I. lo Journa f Hokka ido Univer i i i ty of Educat t s on IA) . on (Sec. Sept . ,1971. 2 8 ) の中をさまよい歩き, 彼に作用する外界の変化に応 じて, 自 千にも及ぶさまざまな人生の課題」 らも絶えず動揺 し変化 して行く。 実にヴィ ルヘルムの迷いの旅路のあとは, 一言にして言えば, 生 に対する愛ゆえに錯迷す る魂の波動の軌跡であり, また生の根源にひそむ暗い魔神的な激動をはら むものとの悲惨なたたかいを通 しての変容の記録でもあった。 生は大河を行く水の姿のように, 絶えず新たな変化を生んで行くが, その不断の流動変 化するも のの根底にあるもの は同一の主題をなすものであ る。 即ち, 生が絶えざる変化をもって出現させる ものは, 変容という動的な法則の支配下に於ける生の, いろいろな時点に於ける変化の現われであ るに過ぎない。 ミニ ョ ソと竪琴ひきの老人も, こう した変化の現われであり, 彼等と対立する塔の 結社の人々の形姿も, 結局はその立場を交換 した変化の現われなのである. その変化が負の現われ であろうとも, また正の現われであろうとも, 常にそれ以上のものに越えて出ようとするとき, 即 ち, より高次の変容への意志を持って行為するとき, その変化は真 に生の意義と正の価値を持つの である。 次に掲げる二連の詩の中に, ゲーテ は生の変容の最も内面的な必然性を壮大に歌いあげて い る.. 被造物が自らを 鎧って凝固せぬために よるお それらを創り直そうと 永遠の生命の活動がある 今までなかったものが生成 しようとする きよらかな太陽に向かおうと 色彩に満ちた大地に向かおうと いかなる場合にも休止があってはならない 絶えず活動し 絶えず創造の行為をつづ け 先ず自らを形成 し やがて変容する ただ見た目にのみ瞬時の静止がある 永遠なるものがすべて の中に休みなく働く 一切は存在の中に固執 しようとすれば 9 ) 崩壊 して無に帰 しなければならぬ2 <註> l l lhe lm Me i 3hr i i i t 1 ) Goethe: Goethes Werke en 亘, Wi er s t s sL f ahr e an .7 , Bd , Romanen und Nove ,Chr. 2) 3) 4 ) 5 ) 6 ). v ~egner ver 1 burg ag ] ば . .98. , Ha ,1965 ,S 第2章中 ( ) 内の数字はすべてこの Text の (巻, 草, 頁数) を示す.. ビーダーマン編. 菊地英一訳. ゲーテ対話録 虹, 白水社, 東京, 1 963 .271 ,S ,. l A1 ごsChe ver ber l t Bi l schowsky: Goe inchen e the ag . 日. Bec .2 .147 f . , C , Bd , Mi ,S ,1919 Fr i ich Gundo”: Goe l in,1920 edr the , Georg Bondi , Ber , S.351.. ハイネ マン著 大野俊一訳. ゲーテ伝同 岩波文庫, 東京, 昭33 3 ,15 ,S .. Sch i 1 1 i i the t i 1 i er: Br ef e an Goe s an We r ver1ag, Hamburg, 1965, S.235・ (2 gne ,1 , Bd , Chr , Ju , 1796) id 7) ハ イ ネ マ ン :ib . lsta iger: Goe lant i l ich the i 8) Emi s Ver ag r .2 ,136. , At , Bd , Zi ,1956 ,S. 0) G, ルカーチ著:菊盛英夫訳 ルカーチ著作集 4 ゲーテとその時代, 白水社, 東京,1 9)1 96 9 2 9 ,1 ,S . i l i l in s Ver 11 e ch Re ) Georg Brandes: Goed・ s ag , Er , Ber ,1922 , S,361 . l-Ver l t Goethe 1 2) J ag sbaden e , P, Eckermann: Gesprache mi ,127, (18 ,1825) ,lnse , Wi ,1955 ,S , Jan 1 3) ビ ー ダー マ ソ :ibid, id 14) Ecke rmann:ib .. - 80 -.

(17) . 第 22 巻 第 1 号 15) 16) 17) 1 8) 1 9) 20) 21) 2 2) 23) ) 24 25 ) 26 ) 27) 29). 北海道教育大学紀要(第一部A). l i 6s t t d , S,19, (Wes cher Divan) Goe the: We rke , B ,2 t340~343) d ,S Goethe: Werke .18, (Faus ,B .3 t3 i id 4 6) b ,19, (Faus .S dl f iid s id iger:i b .515 f , E,St a .S ,139, 及び F. Gun o : b id f:ib F, Gundol ,515. ,S i d the i f an Goe i l l Sch e e r s Br .S,243~247 (8, 7. 1796) ,ib ) f 1 7 9 6 ib S 1 0 id ( 1 9 2 7 5 , . , , , l l ,10, 8. 1796) s hi i fe: Bd Goethes Br e .2 , S,236, (an c er id,S iger:i b 1 6 3 E,st a , , id, b Bcker i nann:i i burg ー i scher B”chere ・298, . ロ ー ar t ei n vve ,s ,1967 Tho ann: L0t , Ham . ゴ ー as N[ , Fi i \ / 生 1 he1m で ra s vvi t che sendung e er s Theat s id 28) Bckermann:ib .(25, 12, 1825) ,S .149 f 1 d AI es) S d B k 6 9 1 3 Goe the: We e r , , . . . (Einsun な お, Text の訳文は, 高橋健二, 大山定一両氏のものを拝借させて頂いた。. - 81 -. 昭和4 6年9月.

(18)

参照

関連したドキュメント

中村   その一方で︑日本人学生がな かなか海外に行きたがらない現実があります︒本学から派遣する留学生は 2 0 1 1 年 で 2

問についてだが︑この間いに直接に答える前に確認しなけれ

2.1で指摘した通り、過去形の導入に当たって は「過去の出来事」における「過去」の概念は

関係委員会のお力で次第に盛り上がりを見せ ているが,その時だけのお祭りで終わらせて

存在が軽視されてきたことについては、さまざまな理由が考えられる。何よりも『君主論』に彼の名は全く登場しない。もう一つ

わからない その他 がん検診を受けても見落としがあると思っているから がん検診そのものを知らないから

児童について一緒に考えることが解決への糸口 になるのではないか。④保護者への対応も難し

ヒュームがこのような表現をとるのは当然の ことながら、「人間は理性によって感情を支配