東方孝之編『インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析』調査研究報告書 アジア経済研究所 2018年
第1章
インドネシアの都市圏概要
∗
(中間報告)
東方 孝之
†橋口 善浩
‡ 要約: 本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の 中間報告である。この章では2010年人口センサスおよび2011年行政村センサス (Podes)の情報を用いて、インドネシアの都市圏の特徴をまとめている。まず、イ ンドネシア統計庁(BPS)の定義による都市データと、本研究会で用いている人口集 積に注目した都市圏データとの差異を確認した上で、都市圏がジャワ島に集中してい ることや、他方で、ジャワ島外の都市圏は数、規模ともに小さくなるものの、平均教 育年数でみるならばジャワ島の都市圏を上回る傾向がある、といった特徴を紹介す る。また、日本や米国との比較からは、三大都市圏への人口集中という日本と共通し た傾向が見いだされるものの、人口規模と順位の関係(Zipf’s Law)の比較からは、 日本や米国とは異なり、大規模な都市圏への人口集積が過大となっている可能性を指 摘する。次に、人口集積の負の側面を探るべく、2011年行政村センサスの情報と組 み合わせて、過去1年間の環境汚染(水質汚染ならびに大気汚染)の状況を確認した 上で、最後にこの中間報告書全体の内容を紹介する。 キーワード:都市圏、インドネシア、人口規模、順位、人口集積、環境汚染 ∗本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。ま た、本研究の一部は科研費25871152(代表:東方孝之)の助成を受けている。 †アジア経済研究所(IDE-JETRO): [email protected] ‡アジア経済研究所(IDE-JETRO): [email protected]はじめに
都市化を通じた貧困削減について検討しているWorld Bank and IMF (2013)のよう
に、途上国において都市化が急速に進んでいることを反映して、その影響を探る分析が 増えている(1)。ただし、都市の定義は国ごとに大きく異なっていることから、国際間での 比較が困難な状態にある(2)。特に、途上国では人口の集積に関する情報が不足しているた め、日本や欧米諸国を対象にこれまで精力的に重ねられてきた分析、例えば人口の集積 (都市圏)の情報を用いた集積の(不)経済の影響の分析にまでほとんど手がつけられて いないのが現状であろう。 本研究会の目的の一つはこうしたギャップを埋めることにある。この研究会では、 OECD (2012)の定義をベースに構築されたインドネシア都市圏パネルデータを用いて、 途上国での都市化がもたらす影響についての分析を進めている。 今回の中間報告では、この研究会で利用している都市圏データについての情報を整理 し、インドネシアにおける都市化についての理解を深めるとともに、現在進行中の分析内 容について部分的に紹介する。ただし、都市圏データについても改善の余地があることか ら、この中間報告で紹介する分析結果についても、今後のより詳細な分析を重ねるなか で、その内容に変化が生じる可能性のあることをここで断っておきたい。 本稿の構成は次の通りである。第1節では、本研究会で利用したインドネシア都市圏 データの定義を説明した上で、政府統計に基づく都市データとの違いを確認する。第2 節ではインドネシアの都市圏の特徴について、その成長や、就業者の従事していた産業・ 教育水準、そして環境面などについてまとめる。そして最後に中間報告書所収の各章の内 容を簡単に紹介して締めくくりとする。
第
1
節
インドネシアの都市と都市圏
最初に、本研究会で用いている都市圏データについて説明する。本研究会で分析に 利用している都市圏データは、先進国の都市圏(3) と比較しうるようにするため OECD(1)Journal of Urban Economicsの2017年3月号(第98巻)はUrbanization in Developing Countries: Past and Presentという特集を組んでいる。
(2)国際比較の試みの一例として、衛星写真などを利用して夜間に確認される光の情報をもとに都市圏を推測
しているDemographia World Urban Areas(http://www.demographia.com/db-worldua-index.htm)が
ある。
(3) 日本で分析に利用されている代表的な都市圏データは都市雇用圏(UEA:Urban Employment Area)
であり、次のようにデータが作成されている。まず、国勢調査の調査区を基準に、4000人/km2以
上の地区が隣接しており、隣接する地区全体で人口が5000人以上の地区を人口集中地区(DID:
(2012)が提案した定義を参照して、次のように構築されたものである。インドネシア統
計庁(BPS)が作成した地図情報(Peta Digital 2012)ならびに人口センサスの個票デー
タをもとに、(1)行政村(Desa/Kelurahan)の人口密度が1500人/km2 以上で、かつ、
(2)その基準を満たした行政村が隣接する地域の総人口が10万人を超える場合に、都市
圏とみなしている。また、都市圏は、総人口が150万人以上の場合に巨大都市圏(Large
Metropolitan Areas)、50万人以上150万人未満を大都市圏(Metropolitan Areas)、20
万人以上50 万人未満を中規模都市圏(Medium-sized Urban Areas)、10 万人以上30
万人未満を小規模都市圏(Small Urban Areas)と区分している。
2000年人口センサスおよび1999年行政村センサス(Podes)を用いて作成した2000 年都市圏データによれば、2000年時点では7巨大都市圏、16大都市圏、23中規模都市 圏、そして30小規模都市圏の合計76都市圏を確認できる。これが、2010年になると、9 巨大都市圏、17大都市圏、25中規模都市圏、34小規模都市圏の合計85都市圏に増加し ている。2000年には都市圏人口は6350万人(総人口比31.6%)だったが、2010年には 8260万人(同35.6%)と1900万人以上の増加となっている(4)。 都市圏データとの違いを確認するため、次に、インドネシア統計庁(BPS)による都市 の定義をみておこう。インドネシア統計庁は、行政村ごとに都市化指数(最大値26)を計 算し、指数の値が10ポイント以上となった場合にその行政村を「都市(perkotaan)」、そ うでない場合に「農村(pe(r)desaan)」と区分している。ポイントは、(1)人口密度(500 人/km2で最小値の1ポイント、8500人/km2で最大値の8ポイント)、(2)農業従事世 帯割合(70%以上で最小値の1ポイント、5%未満で最大値の8ポイント)、(3)公共施 設(幼稚園や中学校、高校、病院や市場)などへのアクセスのしやすさ(最小値0、最大 値10)、にもとづいて配分されている(5)。こうして推計された都市人口割合は2010年に はほぼ5割に到達していたとみられる。 上 の 市 町 村 を 郊 外 都 市 と み な し 、こ の 中 心 都 市 と 郊 外 都 市 か ら 構 成 さ れ る 都 市 圏 を 都 市 雇 用 圏
(UEA:Urban Employment Area)としている(中心都市のDID人口が5万人以上なら大都市雇
用圏、1 5万人なら小都市雇用圏と呼ばれている)。日本の都市圏については総務省統計局の解説
(http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/users/kubun.htm#pos4)や金本・徳岡(2002)などを参照。
(4)都市圏データについての詳細はHashiguchi and Higashikata (2017)やHigashikata and Hashiguchi
(2017)を参照のこと。なお、第2章では隣接ではなく、行政村の重心からの距離を使って都市圏の範囲を 確定するという方法も試みた上で、分析結果に大きな違いが生じているかどうかについても確認してい る。 (5)この定義が用いられるようになったのは管見の限りでは2000年の人口センサスからである(BPS 2001)。 それ以前には、たとえば1990年代半ばには、次のような3つのカテゴリーに分けてスコアを計算して都 市ないしは農村の判別をしている。(1)人口密度は500人/km2未満で1ポイント、5000人/km2以上で 10ポイントと10段階で評価し、(2)農業従事世帯は96%以上で1ポイント、25%以下で10ポイント、 そして、(3)都市施設は、まったく存在しない場合に最小値の2ポイント、8種類以上存在する場合に最 大値の10ポイント、が割り振られる。この合計値が16ポイント以下の場合にはその行政村は農村、23 ポイント以上の場合には都市、17ポイントから22ポイントの間におさまった場合には発展の程度を確認 したうえで判別する(BPS 2000)。
上記の統計庁と同じ定義を用いて都市人口割合の変化を分析した橋口・東方(2016)は、 2002年から2011年にかけての行政村パネルデータを用いて、都市化指数が平均して1.31 ポイント増加していること、また、その内訳は、農業従事世帯割合の減少(0.69ポイント) と公共施設などへのアクセスの改善(0.55ポイント)でほぼ説明されるとしている。 ここで 2010年の都市圏データと統計庁による都市データとを地図上で見比べてみよ う。図1が都市圏を、図2が都市に区分された行政村をそれぞれ示している。図1から は、都市圏がジャワ島に集中していること、それに対してジャワ島外では位置すら確認す ることが難しいことが分かる(ジャワ島外の都市圏の位置については第2節で紹介する)。 一方、図2では、やはりジャワ島に多くの都市を確認できるが、ジャワ島外にも多く存在 することが分かる。また、都市圏と同じ場所に都市に区分された行政村が集まっているこ とも確認できるが、他方で、飛び地のように散らばっている地域も多い。 以上、この節では都市と都市圏との違いについて確認してきたが、次節では都市圏の特 徴に焦点をあててもう少し詳しくみてみることにしよう。
第
2
節
都市圏の特徴
1
ジャワ島に集中する都市圏
図1から明らかなように、ジャワ島に都市圏が集中していることから、本節ではまず、 ジャワ島に注目して都市圏の特徴をみていくことにしよう。ジャワ島およびバリ、西ヌ サ・トゥンガラの一部を含む範囲を拡大したものが図3である(都市圏の名前は、その所 在地の主要行政区域名をもとに暫定的に付けたものである)。2010年時点で51都市圏と 全体の6割にあたる都市圏がジャワ島に存在している。 表1はジャワ島内の都市圏の特徴をみるべく、都市圏内の所在地(州)、人口、人口成 長率、就業者の平均教育年数、産業別就業者割合をまとめて、人口規模の大きい順に並べ たものである。表からは、Jabodetabek都市圏(ジャカルタ首都圏)の人口規模ならびに 人口成長率の大きさが際立っていることが分かる。年率2.5%という人口成長率は一国の 平均成長率である1.5%を1%ポイント上回っている。人口規模ではジャカルタ首都圏の 3割未満しかないものの、Bandung都市圏やSurabaya都市圏の人口は500万人を超え ており、島内では4番目(インドネシア全体では5番目)に大きいYogyakarta都市圏の 人口を大きく上回っている。 ここで日本や米国の都市圏の分布と比較してみよう。米国の都市雇用圏情報によれば、 500万人以上の都市圏が9か所、300万人以上では17か所も存在する(6) これと比べて、(6) ア メ リ カ 合 衆 国 国 勢 調 査 局(United States Census Bureau)の 2010 年 人 口 セ ン サ ス
日本では500万人以上の都市圏は東京、大阪、名古屋=小牧の3都市圏しかなく、名古屋 に続く都市の規模が小さい(4番目は人口256万人の京都)という特徴が指摘されている (金本・藤原 2016)。都市圏の定義が異なる点に注意しなければならないが、インドネシ ア(総人口は日本の2倍、米国の半分程度である)においても、500万人以上の人口が集 中している都市圏は3か所にとどまっており、米国よりも日本に類似している点は興味深 い(300万人以上でもMedanを含む4か所)。ただし、日本では三大都市圏に日本の総人 口の4割が集中しているのに対して、インドネシアでは17%にとどまっている。 もう少し詳細に都市圏の人口規模について確認してみよう。図4は都市圏の人口規模 と順位の関係についてプロットしたものである。参考までに日本の2010年の都市圏デー タも加えているが、傾き(絶対値)を比較するとインドネシアの方が大きく、また、1を 上回っていることが分かる(7)。この単純な比較からは、もし傾きが1であることが効率的 に人口が配分されていることを意味するのであれば、インドネシアでは大きな都市圏への 人口の集中が過大となっている可能性を指摘できよう。 次に、人的資本の集積を調べてみよう。図 5はジャワ島を事例に、行政村別に就業者 の平均教育水準を算出したものである。都市圏と重なるように色が濃くなっていることか ら、都市圏には周辺よりも教育水準の高い、高校卒業程度の就業者が集まっている様子 が確認できる。また、表 1からは、人口規模でみて最大のジャカルタ首都圏在住の就業 者の平均教育年数は10.4年と、他の都市圏と比べて特にその教育年数が抜きん出て高く なっているわけではないことが分かる(ただし、ジャワ島内の都市圏のみをサンプルに用 いた場合、人口規模と就業者の平均教育年数との間に正の相関関係を確認できる)。なお、 ジャカルタ首都特別州内に限定した場合でも、その就業者の平均教育年数は10.8年と大 きく違いはない。後述するように、就業者の平均教育年数は、ジャワ島外の多くの都市圏 でジャカルタ首都圏値よりも高くなっていることを考えると、ジャカルタ首都圏では人的 資本の集積が進んでいないように見える点が興味深い。 最後に産業別就業者割合をみると、ジャワ島内の都市圏では第2次産業従事者の割合が 相対的に高くなっている。インドネシア全体では第1次産業従事者が40.8%、第2次産 業が17.4%、そして第3次産業が41.8%を占めている。また、製造業では10.7%となっ ている。この全国平均値と比較すると、ジャワ島の都市圏では、たとえば人口規模でみて 上位10番目までの都市圏の平均値は28.7%、20番目までだと28.1%と、3割近くが第 2次産業従事者で占められている。製造業部門に限定した場合には、上位10番目までの 平均値は21%、20番目まででは20%とその割合は全国平均のほぼ倍となっている。そ して、次項でみるように、ジャワ島外の都市圏では第2次産業従事者の割合が低く、製造 (7)都市の人口規模と順位の関係(Zipf’s Law)については、ベキ乗則に従う場合には傾きが1になること
を導出したKrugman (1996)や、44か国のデータをもとに傾きを推計したRosen and Resnick (1980)、
業従事者割合も多くが一桁台にとどまっていることと比較すると、ジャワ島の都市圏の第 2次産業および製造業従事者割合が相対的に高くなっていることを確認できよう。
2
ジャワ島外の都市圏
表2はジャワ島外の都市圏の特徴を確認するため、基本的に島ごとに人口規模の大きい 都市圏から順番に並べたものである(図1ではジャワ島外の都市圏の位置が分かりにくい ため、本項ではスマトラ島、カリマンタン島、スラウェシ島の都市圏のみ図を拡大して位 置を表示する。)。 まず、表からは、ジャワ島外では都市圏は基本的に州都に存在していること、ただし、 中カリマンタン州と西スラウェシ州、西パプア州、パプア州には都市圏が存在していない ことが分かる。島ごとにもう少し詳しくみていくと、スマトラ島にはジャワ島外の全都市 圏の半分にあたる17の都市圏を確認できる(図6)。そのうち5都市圏は北スマトラ州に あるが、その1つに、人口規模でみるならばジャワ島外では最大で、かつ、ジャワ島外唯一の巨大都市圏(Large Metropolitan Areas)でもあるMedan都市圏が含まれている。
インドネシアの都市圏全体のなかでも、Medan都市圏はSurabaya都市圏に次いで4番
目に大きい。
次に、カリマンタン島に目を転じると、その5つの都市圏は海岸近くに存在している
(図 7)。そのうちTarakan、Samarinda、Balikpapanの3都市圏は石炭や原油・ガスと
いった天然資源の豊富な東カリマンタン州の都市圏である(8)。全都市圏を対象に、鉱業部
門従事者の割合が高いところから順番に並べると、上位にはBalikpapan(従事者割合7.8
%)、Samarinda(同5.5%)、Pangkal Pinang(同4.0%)、Tarakan(同3.1%)と続
くが、東カリマンタンの3都市圏がランクインしている。 最後に、スラウェシ島であるが、島内には、西スラウェシ州を除いて、すべての州に一 つずつ都市圏が存在している(図8)。スラウェシ島の都市圏の大きな特徴は、Gorontalo 都市圏以外は、平均教育年数が11年前後ときわめて高い水準にあり、また、第3次産業 従事者割合も8割以上となっている点であろう。このスラウェシ島で観察される特徴、す なわち、就業者の平均教育年数の高さと、第3次産業従事者の割合の高さは、ジャワ島外 の都市圏全般に認められる特徴でもある。表2と表1を比較すると、ジャワ島外の都市圏 では、就業者の平均教育年数は多くが10年を超えており、全般的にジャワ島内の都市圏 よりも高くなっている。ジャカルタ首都圏の就業者の平均教育年数は10.4年とジャワ島 の中では最も高いが、ジャワ島外では9都市圏を除く全ての都市圏の教育年数はその水準 を上回っている。そして、就業者の従事する産業をジャワ島内の場合と比較すると、第3 (8) ただし、州の分立が2012年に法律で認められたことにより、Tarakanは現在、新設された北カリマンタ ン州に属している。
次産業の占める割合が7割から8割程度と相対的に高くなっている(9)。 以上からは、ジャワ島外の都市圏は人口規模では見劣りするものの、人的資本(教育水 準)については、ジャワ島よりもむしろ集積が進んでいるという傾向が確認できる。この 集積の経済の影響については、その一端を第3章で紹介する。
3
環境汚染
最後に、これまでみてきた都市圏データと2011年の行政村センサス(Podes)データ とを組み合わせて、都市圏における環境汚染(集積の不経済)を簡単に探ることにしたい。 Podesには「過去1年間に環境汚染があったか」という質問項目が含まれている。その 回答をもとに、まず、大気汚染が報告された行政村と都市圏とを重ね合わせたものが図9 である。大気汚染を報告した行政村の重心に赤くマークが入っているが、ジャワ島に集中 している様子を確認できる。2011年の調査時には全行政村のうち9%に大気汚染の報告 があったが、都市圏に含まれる行政村に限定するならば、17.1%と倍近くになっている。 一方、水質汚染について同様に確認したものが、図 10である。大気汚染とは異なり、 カリマンタンやスマトラの内陸でも多くの水質汚染が報告されている点が興味深い。水質 汚染は全行政村の10.5%が報告しているが、都市圏に限定するならば17.7%となってお り、やはり都市圏内では汚染を報告している行政村の多いことが分かる。 では、環境汚染の原因は何だろうか。Podesには環境汚染の原因についての質問項目も あるが、そこでは家庭からの排出物か、工場からか、もしくはその他か、という3つの選 択肢が用意されている。その回答を確認すると、インドネシア全体では、大気汚染の原因 は「その他」が62.4%を占めて最大となっており、次いで、30.8%が工場廃棄物、そし て家庭廃棄物が6.8%となっている。都市圏に限定した場合は、「その他」が49.5%を占 めて最大に、そして工場廃棄物が44.3%、家庭廃棄物が6.2%と続くように、傾向として は同じだが、工場廃棄物の占める割合が高くなっている。次いで、水質汚染についてその 原因を確認すると、「その他」が37.2%、家庭廃棄物が33.6%、工場廃棄物が29.2%と いう順番で並んでいる。これが、都市圏内の行政村では、工場廃棄物が48.6%を占めて 最大に、次いで、家庭廃棄物が31.9%、残りが「その他」となっている。 ここでの簡単な分析からは、インドネシアにおいても都市圏での環境汚染というかたち で集積の不経済が確認されること、また、その原因としては、「その他」に含まれている 項目が分からないため詳細な分析は難しいが(たとえば森林火災による煙害なども含まれ ていることが予想される)、工場廃棄物が大気汚染・水質汚染の原因の半分近くを占めて (9)より詳細にみていくと、たとえば、情報・通信産業部門従事者のシェアを都市圏間で比較した場合には、上位にはBalikpapan、Manado、Makassar、Jabodetabek、Pekanbaru、Kendariが並ぶが、Jabodetabek
いること、そして水質汚染には家庭からの廃棄物も3割と大きな割合を占めていることが 確認できる。なお、都市圏での環境汚染に関しては、第2章でCO2排出量に注目してよ り詳細な分析を行っている。
おわりに:中間報告書の内容について
本章では、2010年人口センサスならびに2011年行政村センサスを利用して、インドネ シアの都市圏の特徴をまとめた。第2章以降では本章で紹介した都市圏データを活用し て、以下に紹介するようなトピックについて、より詳細な分析を試みている。 前節では、行政村単位の情報をもとに都市圏の水質や大気の汚染状況を確認したが、第 2章では環境汚染と都市化の関係について、二酸化炭素排出量と都市圏情報とを組み合わ せた分析を試みている。また、分析の際には、都市圏の定義に変更を加えた場合、分析結 果に大きな違いが生じるかどうかも確認している。これまでの暫定的な分析結果によれ ば、規模の経済によりもたらされるエネルギーの効率的な利用(コンパクトシティ理論) は確認されず、むしろ、都市圏の拡大が都市人口一人当たりのCO2 排出量を増大させる 傾向にあったことが示唆される。 第3章では人的資本の外部効果ならびに移住者(都市圏への転入者)の特徴を分析して いる。本章で紹介した各都市圏の平均教育年数の情報と賃金情報とをマッチングさせて地 域横断的に分析し、高卒以上の就業者割合が高い都市圏ほど中卒の就業者であっても賃金 が高くなっている様子を紹介している。また、都市圏への人的資本の集積過程を探るべ く、都市圏への移住者の教育水準や移動距離、そして無業求職率に注目して、2000年時 点の都市圏の特徴との相関関係をまとめている。 第4章では、インフラ整備を担当する地方自治体の特徴に注目した分析を行っている。 本章でも紹介したように、インドネシア統計庁の定義に従った場合には、公共施設などへ のアクセスが容易になったことにより、都市化(都市人口割合の増加)が進んできた。イ ンドネシアでは1998年にそれまで開発独裁体制を敷いていたスハルト政権が崩壊し、急 速に民主化が進んだが、その民主化の一環として地方分権制度が急遽導入された。第4章 では、この地方分権の導入を外生的なイベントとみなして、初期時点の地方自治体の特徴 (民族多様性)に注目した分析を試みている。暫定的な分析結果から、地方分権導入前に 民族多様性が高かった地域ほど、その後、地方分権化後には道路の質で測った公共財の供 給水準が低くなっていた可能性を指摘する。 最後に、本章を含めてこの中間報告書で紹介されている内容は、二年研究会の暫定的な 分析結果をもとにしたものである。ベースとなっている都市圏データについても逐次改善 していく予定であるため、今回の報告内容については今後の厳密な分析次第では結果に違 いが生じることもあることを、念のためあらためて断っておきたい。参考文献
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図 1 インドネシアの都市圏( 2010 年) 出所)筆者作成。 注)都市圏の定義については本文参照のこと。
図 2 インドネシアの都市部( 2010 年) 出所)筆者作成。 注)ここでの都市とは、 2010 年人口センサスにおいて都市と識別されていた行政村である。インドネシア統計庁( BPS )による都市の定義は本文参照のこと。
図 3 ジャワ島の都市圏( 2010 年、バリおよび西ヌサ・トゥンガラの一部を含む) 出所)筆者作成。
図4 インドネシアの都市圏の人口規模と順位の関係(2010年)
出所)筆者作成。
注)実線はインドネシアをサンプルに用いた場合の近似曲線、破線は日本のケース。単回帰の係数の下にある角
括弧内の数値は標準誤差を示す。日本の都市圏データ(2010年)は東京大学空間情報科学研究センターから入
図 5 ジャワ島の行政村別平均教育水準( 2010 年、バリおよび西ヌサ・トゥンガラの一部を含む) 出所)筆者作成。 注) 2010 年人口センサスをもとに就業者の行政村別平均教育水準を計算した。サンプルサイズが 20 以上の行政村のみを用いている。
図6 スマトラ島の都市圏(2010年)
図7 カリマンタン島の都市圏(2010年)
図8 スラウェシ島の都市圏(2010年)
図 9 インドネシアの大気汚染( 2011 年) 出所)筆者作成。 注)大 気 汚 染 の 情 報 は 2011 年 の 行 政 村 セ ン サ ス( Podes )を 利 用 。 「 過 去 1 年 間 に 大 気 汚 染 が あ っ た 」と の 回 答 が あ っ た 行 政 村 に 印 が つ い て い る 。都 市 圏 は 2010 年 時点。
図 10 インドネシアの水質汚染( 2011 年) 出所)筆者作成。 注)水 質 汚 染 の 情 報 は 2011 年 の 行 政 村 セ ン サ ス( Podes )を 利 用 。 「 過 去 1 年 間 に 水 質 汚 染 が あ っ た 」と の 回 答 が あ っ た 行 政 村 に 印 が つ い て い る 。都 市 圏 は 2010 年 時点。
表1 ジャワ島の都市圏(2010年) 都市圏名 州 人口 人口成長率 平均教育年数 第1次産業 第2次産業 第3次産業 (万人) (%) (年) (%) (%) 製造業 (%) Jabodetabek ジャカルタ首都特別州,西ジャワ州 2652.9 2.53 10.4 3.2 29.7 23.0 67.1 Bandung 西ジャワ州 730.9 1.80 9.7 8.2 32.1 24.9 59.7 Surabaya 東ジャワ州 637.4 1.08 10.1 6.5 32.0 25.4 61.5 Yogyakarta ジョグジャカルタ特別州,中ジャワ州 245.4 1.06 9.7 14.6 22.4 14.4 63.0 Cirebon 西ジャワ州 203.8 0.67 7.5 16.6 27.3 15.9 56.1 Semarang 中ジャワ州 174.5 1.21 10.2 4.9 27.9 20.8 67.2 Solo 中ジャワ州 167.1 0.82 9.6 10.3 33.8 26.1 55.9 Malang 東ジャワ州 155.4 1.04 9.6 9.1 26.2 16.7 64.6 Tegal 中ジャワ州 149.1 0.19 6.9 27.6 19.0 12.6 53.4 Pekalongan 中ジャワ州 148.8 0.42 7.3 16.4 36.8 30.5 46.8 Tasikmalaya 西ジャワ州 130.9 1.34 8.3 15.6 28.2 20.7 56.2 Jepara 中ジャワ州 115.7 1.21 8.3 8.5 52.7 43.7 38.8 Banyumas 中ジャワ州 96.3 0.95 8.1 16.4 26.1 16.7 57.6 Cianjur 西ジャワ州 75.8 1.23 8.0 25.0 17.4 7.8 57.6 Sukabumi 西ジャワ州 75.5 1.15 8.8 13.1 27.6 18.5 59.4 Kota Kediri 東ジャワ州 53.2 0.62 9.3 14.3 28.0 19.2 57.7 Kuningan 西ジャワ州 44.7 0.58 8.4 21.0 14.2 5.6 64.7 Pasuruan 東ジャワ州 43.8 0.76 7.5 20.2 28.5 20.8 51.3 Kendal 中ジャワ州 39.5 0.47 7.7 32.4 20.5 14.4 47.1 Tulungagung 東ジャワ州 39.3 0.52 8.6 19.2 30.8 22.6 50.1 Kota Probolinggo 東ジャワ州 34.5 1.04 7.9 21.8 19.8 12.9 58.4 Jember 東ジャワ州 34.0 1.09 8.8 14.6 12.6 7.0 72.8 Cilegon バンテン州 29.0 2.02 10.0 5.5 35.8 24.8 58.8 Magelang Tengah 中ジャワ州 28.4 0.51 9.7 9.2 20.4 13.5 70.4 Madiun 東ジャワ州 27.6 0.37 10.0 11.3 15.7 7.7 73.0 Purwakarta 西ジャワ州 27.2 2.49 10.3 5.8 43.4 32.9 50.8 Cilacap 中ジャワ州 25.5 0.44 8.9 18.2 25.9 7.1 55.9 Blitar 東ジャワ州 25.1 0.70 9.0 20.5 19.6 10.0 59.9 Ketanggungan 中ジャワ州 24.0 0.04 5.5 39.5 10.8 4.0 49.7 Kebumen 中ジャワ州 19.5 0.26 8.4 16.0 30.6 22.6 53.4 Wonosobo 中ジャワ州 18.5 0.44 7.3 22.0 18.1 8.3 59.9 Nganjuk 東ジャワ州 17.8 0.58 8.6 26.1 15.6 8.3 58.3 Salatiga 中ジャワ州 17.7 0.82 9.9 6.9 25.6 17.5 67.4 Sumedang 西ジャワ州 17.0 1.25 9.5 11.8 20.2 8.2 68.0 Cipanas 西ジャワ州 16.3 1.38 7.7 27.6 16.1 4.1 56.3 Majalengka 西ジャワ州 16.3 0.63 7.6 15.3 36.7 28.2 48.0 Pandeglang バンテン州 15.0 1.82 8.7 18.2 16.2 9.1 65.6 Banjarnegara 中ジャワ州 14.9 0.27 6.9 33.0 26.3 17.0 40.7 Muntilan 中ジャワ州 14.4 0.79 8.0 25.9 17.0 9.0 57.1 Tuban 東ジャワ州 14.3 0.95 8.6 20.4 17.6 7.6 62.0 Lumajang 東ジャワ州 13.5 0.53 8.8 16.8 14.8 6.9 68.4 Pamekasan 東ジャワ州 13.4 1.27 9.0 21.2 14.1 6.6 64.7 Banyuwangi 東ジャワ州 13.0 0.39 9.1 9.8 18.1 7.9 72.2 Indramayu 西ジャワ州 12.9 0.56 7.4 28.6 12.2 4.9 59.2 Probolinggo 東ジャワ州 12.8 0.65 6.9 36.4 14.8 4.9 48.8 Demak 中ジャワ州 12.2 0.68 8.0 24.3 21.9 12.5 53.8 Bondowoso 東ジャワ州 11.9 0.52 8.0 24.4 11.7 4.2 63.9 Lebak バンテン州 11.3 2.50 9.6 7.5 18.1 8.0 74.4 Ponorogo 東ジャワ州 11.3 0.55 9.8 11.8 13.6 4.5 74.6 Kediri 東ジャワ州 11.1 0.46 8.7 25.8 15.8 9.7 58.5 Bumiayu 中ジャワ州 10.0 0.10 7.7 26.8 14.7 7.6 58.5 出所)筆者計算。 注)人口成長率は、2010年時点の都市圏の地理的範囲を基準に、2000年から2010年にかけての10年間の人口 の変化の指数平均を計算したもの。平均教育年数は、都市圏ごとに15歳以上の就業者の教育年数の平均値を計 算している。
表2 ジャワ島外の都市圏(2010年) 都市圏名 州 人口 人口成長率 平均教育年数 第1次産業 第2次産業 第3次産業 (万人) (%) (年) (%) (%) 製造業 (%) スマトラ Medan 北スマトラ州 305.9 1.27 10.9 5.9 22.1 11.5 72.1 Palembang 南スマトラ州 134.7 -0.16 10.6 3.3 20.2 4.9 76.5 Bandar Lampung ランプン州 85.1 1.60 10.6 4.6 16.9 5.7 78.5 Pekanbaru リアウ州 72.4 3.70 11.4 3.5 15.1 3.6 81.5 Padang 西スマトラ州 65.6 1.06 11.4 4.6 15.2 3.8 80.2 Jambi ジャンビ州 43.4 1.76 10.8 5.0 19.1 4.8 75.9 Batam リアウ群島州 41.6 4.86 11.1 1.0 39.0 27.8 60.0 Banda Aceh アチェ州 26.9 3.27 12.3 2.9 14.1 2.9 83.0 Bengkulu ベンクル州 22.1 -0.22 11.4 6.9 12.1 2.7 80.9 Pematang Siantar 北スマトラ州 21.9 -0.45 11.0 5.6 16.8 9.5 77.6 Tebing Tinggi 北スマトラ州 14.1 1.28 10.2 6.8 17.7 9.7 75.5 Pangkal Pinang バンカ・ブリトゥン群島州 14.0 2.50 10.4 3.7 20.4 3.3 76.0 Bukittinggi 西スマトラ州 13.4 1.44 10.6 5.8 18.2 12.8 76.0 Tanjung Balai 北スマトラ州 13.2 0.95 9.1 25.8 8.3 4.2 65.9 Dumai リアウ州 12.8 2.57 10.6 2.4 16.6 7.4 80.9 Metro ランプン州 11.4 2.04 10.6 12.5 13.3 4.1 74.2 Padangsidimpuan 北スマトラ州 10.4 0.19 10.9 10.6 8.6 1.9 80.8 バリ、ヌサ・トゥンガラ Denpasar バリ州 125.5 3.79 10.6 4.5 21.0 12.4 74.5 Mataram 西ヌサ・トゥンガラ州 87.1 2.00 7.6 21.0 16.4 6.1 62.6 Lombok Timur 西ヌサ・トゥンガラ州 64.2 1.21 6.4 42.7 16.2 9.8 41.1 Kupang 東ヌサ・トゥンガラ州 29.3 3.19 11.0 5.6 11.7 1.9 82.7 Buleleng バリ州 11.9 1.54 9.2 9.5 15.9 5.5 74.5 カリマンタン Banjarmasin 南カリマンタン州 59.7 1.52 9.8 2.4 17.6 7.8 79.9 Samarinda 東カリマンタン州 46.9 2.16 10.5 4.2 21.5 4.5 74.3 Balikpapan 東カリマンタン州 46.3 2.63 10.8 2.0 23.0 3.3 75.0 Pontianak 西カリマンタン州 45.9 1.28 10.3 5.1 16.8 4.2 78.1 Tarakan 東カリマンタン州 12.8 3.75 9.7 21.2 18.6 6.5 60.2 スラウェシ Makassar 南スラウェシ州 145.0 1.99 10.9 2.2 17.5 5.0 80.2 Manado 北スラウェシ州 32.9 0.22 10.9 2.6 13.7 2.2 83.7 Palu 中スラウェシ州 24.5 1.93 11.3 3.2 14.4 3.1 82.5 Gorontalo ゴロンタロ州 22.2 2.67 9.2 7.5 13.9 5.5 78.6 Kendari 東南スラウェシ州 12.7 3.56 11.9 1.7 10.1 2.4 88.2 マルク Ambon マルク州 19.4 5.77 11.6 3.1 9.3 1.5 87.5 Ternate 北マルク州 13.7 1.32 11.5 3.0 11.9 2.6 85.1 出所)筆者計算。 注)人口成長率は、2010年時点の都市圏の地理的範囲を基準に、2000年から2010年にかけての10年間の人口 の変化の指数平均を計算したもの。平均教育年数は、都市圏ごとに15歳以上の就業者の教育年数の平均値を計 算している。
東方孝之編『インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析』調査研究報告書 アジア経済研究所 2018年
第
2
章
インドネシアの都市化と温室効果ガス
*(中間報告)
橋口 善浩
†東方 孝之
‡ 要約: 本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間 報告書である。本研究会は,インドネシアの最小の行政単位であるDesa/Kelurahan (以下,行政村と呼ぶ)レベルの人口と面積データを用いて,都市の地理的な範囲, 位置およびその強度を数値化・可視化するとともに,都市の拡大が企業の生産性,農 村家計の所得,環境問題等に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている。本 稿はその中間報告として,行政村レベルのCO2排出量データベースの構築作業の成 果および都市化と環境負荷問題に関する暫定的な分析結果を報告する。今回の分析 結果に従えば,都市の拡大は都市人口一人当たりのCO2排出量を増大させる傾向に あった。キーワード:都市圏,City Clustering Algorithm, CO2排出量,小地域データ,GIS
はじめに
都市化は温室効果ガス(二酸化炭素,CO2)の排出量削減に寄与しているのか。この問 題に対してコンパクトシティ理論に従えば,都市化の進展により規模の経済が働き(たと えば,一人当たりのガソリンスタンドの数,電線の長さ,道路の面積などが減少),それ によりエネルギーの利用効率は高まる(一人当たりCO2排出量は減少する)と考えられ *本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。ま た、本研究の一部は科研費25871152(代表:東方孝之)の助成を受けている。 †アジア経済研究所(IDE-JETRO): [email protected] ‡アジア経済研究所(IDE-JETRO): [email protected]ている。コンパクトシティが注目されている理由はそこにある。しかし,一方で都市の高 密度化は深刻な交通渋滞を招き,それがコンパクトシティの経済効果を打ち消すほどの環 境負荷を与える可能性もある。また,豊かな都市に住む人はより資源インテンシブな消費 パターンをとる傾向にあるとすれば,そのような都市住民の消費行動も都市のCO2排出 量の増加に寄与すると考えられる(1)。 都市化がCO2排出量に与える影響については,1990年代初頭から現在に至るまで多 数の実証研究が蓄積されている。その多くは国別パネルデータを使って都市人口比率と CO2排出量の関係を計量経済学的に分析したものである。分析結果はやや混在している ものの,概して言えば,都市人口比率の増加はCO2排出量を増やすという結果が多い。 一方,都市レベルのデータを使った研究では逆の結果を示すものもあり,使用するデータ の種類や推定方法などによって結果が変わる可能性を示唆している。 既存研究の一つの問題は,都市の定義が各国ごとに異なるため国際比較が難しい都市 人口のデータを使用していること,そして,(そのことが理由でもあるが)都市の定義変 更が分析結果に及ぼす影響を分析していない点にある。この点について,Oliveira et al
(2014)は国家統計の都市の定義に依らず,City Clustering Algorithmを使って都市の
境界を定義している。彼らが採用した方法は,緯度0.1度×経度 0.1度のグリッドセル単 位の人口データを使用して,(1)一定の人口密度を越えるグリッドセルを抽出し,(2)そ のグリッドセルの中で地理的に近接するものを一つの都市クラスターと定義するもので ある。小地域データから都市圏を算出するこの方法はボトムアップアプローチと呼ばれ, OECD (2012)も同様の方法を採用している。しかし,OECD (2012) の場合,ステップ (2)で地理的近接性からクラスターを検出した後,さらにステップ(3)として,そのク ラスターが一定の人口規模以上の場合に,都市と定義する方法を採用している。 Oliveira et al (2014)はアメリカのデータを用いて都市部におけるCO2総排出量と人 口の関係を分析するとともに,都市の定義変更に対する分析結果の頑健性を確認してい る。具体的には,次の式
log CO2i
=
α+
β log POPi+
εi (1)を推定し,パラメータβが1を超えるかどうかの分析をしている。CO2iとPOPi は都市 iのCO2排出量と人口,εiは誤差項である。推定の結果,βは1.38程度であり,都市部 における1%の人口増加は1.38%のCO2排出量の増加をもたらすことを明らかにした。 また,都市の定義を変えても結果は大きく変わらないことも確認している。 この中間報告書では,OECD (2012)とOliveira et al (2014)を参考に,ボトムアップ 型の方法でインドネシアの都市圏を算出し,都市の拡大がCO2排出量に与える影響を分 (1)この分野の理論的なバックグランドや実証研究のサーベイについては,例えば,Martinez-Zarzoso and
析する。具体的には,まず行政村レベルの人口データと地図情報を使って都市圏を算出 し,その上で都市の人口規模とCO2排出量の関係を(1)式を使って分析する。次節でイ ンドネシアの都市圏とCO2排出量データベースの作成方法を説明した後,(1)式の推定結 果を報告する。
第
1
節
インドネシアの都市圏と
CO2
排出量データ
使用するデータセットは2つある。1つはインドネシアの都市圏データベースであり, これは2000年・2010年の人口センサス(Sensus Penduduk)と行政村レベルの地図情報を用いて作成したものである。もう 1つはFFDAS(Fossil Fuel Data Assimilation
System)で公開されているインドネシアのCO2排出量データである。以下,それぞれの データについて説明する。
1
都市圏データ
OECD (2012) が提案した都市の定義を参考に,行政村レベルの人口と面積データを 使って次の手順でインドネシアの都市圏を算出した。 1. 行政村レベルの単位面積当たり人口(すなわち,人口密度)が一定値 (D∗) 以上の 行政村を抽出。 2. D∗ 以上の人口密度をもつ行政村で,一定の地理的範囲内(l∗) で近接している行政 村の集合は一つのクラスター(塊)とみなし,そこに含まれる行政村の人口および 面積を集計する。 3. クラスター単位で集計された人口が10万を越える場合,そのクラスターを1つの 都市圏とみなす。 人口データは2000年と2010年の人口センサスを使用し,行政村の面積は2012年版デ ジタル地図データベース(Peta Digital)を使って算出した(2)。表 1と表2は上の方法で算出された2000年と2010年の都市の数(Num),都市人口(Pop),都市面積(Area),
都市のCO2排出量(CO2)である。行政村別のCO2排出量データの計算方法について
は次節で説明する。都市の大きさは2つのパラメータ(D∗ と l∗)に依存するため,各 パラメータに複数の値を与えて,それぞれの都市圏を算出することを試みた。具体的に は,D∗
∈ {
1000/km2, 1500/km2, 2500/km2, 3500/km2}
,l∗∈ {
Adj,2km,3km,4km ,5km}
と定義した。l∗ が距離(2km–5km)の場合,各行政村の中心点を結ぶ直線距離が (2)いくつかの行政村で2000年人口センサスデータが欠損しているため,その部分は1999年の行政村セン サス(Podes)のデータで補った。その距離以内であれば,それらを近接とみなすという定義である。l∗
=
Adjの場合は直線 距離で近接関係を決めるのではなく,行政村が同じ境界線を共有している,すなわち,隣接 関係にあるときにそれらを近接とみなすという定義である。たとえば,D∗=
1500/km2, l∗=
3kmのとき,都市圏の数は76,都市人口は総人口の約32%,都市面積は総面積の 0.8%,都市CO2排出量は28%を占めている。2
CO2 排出量データ
前節の方法で定義された都市圏に対してCO2排出量を算出するには行政村別のCO2 排出量データが必要であるが,現時点でそのようなデータベースは公開されていない。そ こで本稿はFFDASが公開しているCO2排出量のグリッドセルデータを使用し,それを 行政村レベルのデジタル地図データベース(Peta Digital)に統合することで,行政村別 のCO2排出量データベースを構築した。これによりCO2排出量の詳細な地理分布が把 握できるとともに,都市圏ごとのCO2排出量の計算も可能となる(3)。表3と図1はFFDASから取得したインドネシアのCO2排出量と世界銀行のWorld
Development Indicators (WDI)のそれを比較したものである。二酸化炭素換算はCO2 排出量を二酸化炭素の重量で計測したものであり,炭素換算は炭素の重量で計測したもの である(4)。一貫してFFDASの値は小さいものの,2007年まではWDIの数値とほぼ同様 のトレンドを描いている。しかし,2008年以降,両者は明らかに異なる動きを示してい る。FFDASはCO2排出量の国家統計,リモートセンシングによる夜間光,人口,発電所 などのデータを用いてグリッドセル単位でCO2排出量を計測しているが,なぜ2008年 以降にこのようなトレンドの違いが生じるのか。さらなる調査が必要である。 図2と図3は行政村レベルのデジタル地図でCO2排出量の分布を可視化したものであ る。ジャワ島のCO2排出量は他と比較して突出しており,とくにジャカルタ周辺の濃度 は高い。他島でも州都などの都市部とみられる地域を中心にCO2排出量は高い。また, 2000年から2010年にかけてCO2排出量の多い地域が全国レベルで拡大している。イ ンドネシアにおける都市の拡大はCO2排出量の削減に寄与しているのか。次節では,行 政村レベルの都市人口およびCO2排出量データを使って都市化とCO2排出量の関係を 示す。
(3)FFDASは,アリゾナ州立大学のKevin Robert GurneyとSalvi Asefi-Najafabady,メルボルン大学の
Peter Rayner,そしてパデュー大学のBedrich Benesが構築したデータベースであり,全世界のCO2排
出量データが公開されている。データは緯度0.1度×経度0.1度のグリッドセル単位であり,1997年か
ら2011年まで利用可能である。詳細はAseï ˇn ˛A-Najafabady et al (2014)を参照。
(4)二酸化炭素CO2の分子量は44であり,その内訳は炭素Cが12,酸素Oが16となっている。CO2と
第
2
節
都市化と
CO2
排出量の関係:推定結果
図 4と図5 は(1) 式の βの 95%区間推定値をプロットしたものである。2000年と 2010年の2つのクロスセクションデータに分けた上で,都市の定義パラメータ(D∗,l∗) の値を変えながら最小二乗推定を行った。図の横軸はl∗,縦軸はβの95%区間推定値で あり,D∗ の値に応じて4つのプロット図を示している。一部で信頼区間に1を含むとこ ろもあるが,概ねβの推定値は統計的有意に1を越えている。図中の赤のラインは,各 ボックス内にプロットされている10個の上限・下限推定値(◦
)の平均を表している。赤 のラインは,2000年・2010年の両方で人口密度の閾値 D∗ が高くになるにつれて緩やか に上昇する傾向があり,これは高密度の都市ほど都市人口当たりのCO2排出量が高い可 能性を示唆している。この暫定的な分析結果に従えば,インドネシアにおける都市化はエ ネルギー利用の効率化に寄与しているとは言えず,むしろ大都市ほど資源を浪費し,温室 効果ガスを過剰に排出している可能性がある。おわりに
本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間 報告として,インドネシアの行政村レベルのCO2排出量データベースの構築作業および 都市化と環境問題に関する暫定的な分析結果を報告した。今回の分析結果に従えば,イン ドネシアの都市化は必ずしもCO2排出量の削減に寄与しているとは言えず,都市の拡大 は都市人口一人当たりのCO2排出量を増大させる傾向にあった。しかし,これはあくま で暫定的な結果であり,本稿で紹介したデータベースや計量分析の手法には解決すべき課 題が残されている。今後はデータベースを拡充させることで,より精緻に都市化が環境に 与える影響とそのメカニズムを明らかにしたい。引用文献
Asefi-Najafabady, S., P. J. Rayner, K. R. Gurney, A. McRobert, Y. Song, K. Coltin, J. Huang, C. Elvidge, and K. Baugh (2014) A multiyear, global gridded fossil fuel CO2 emission data product: Evaluation and analysis of results. Journal of Geophysical Research: Atmoshpheres, 119: 10213-10231.
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図1 CO2排出量の比較
(出所)筆者作成。
(注)年間CO2排出量について,FFDAS(Fossil Fuel Data Assimilation System)とWorld Development
図 2 2000 年の CO2 排出量 ( 出 所 )筆 者 作 成 。 ( 注 ) CO2 排 出 量 デ ー タ は FFDAS ( Fossil Fuel Data Assimilation System )デ ー タ ベ ー ス か ら 取 得 ( http://hpcg.pur due.edu/FFDAS/map.php ) 。単位は,炭素換算された1平方メートル当たりの年間 CO2 排出量である。
図 3 2010 年の CO2 排出量 ( 出 所 )筆 者 作 成 。 ( 注 ) CO2 排 出 量 デ ー タ は FFDAS ( Fossil Fuel Data Assimilation System )デ ー タ ベ ー ス か ら 取 得 ( http://hpcg.pur due.edu/FFDAS/map.php ) 。単位は,炭素換算された1平方メートル当たりの年間 CO2 排出量である。
図4 CO2排出量の都市人口弾力性(β):2000年
(出所)筆者作成。
(注)◦はβの信頼区間推定値の上限値と下限値を表す。赤の点線は各ボックス内にプロットされた信頼
図5 CO2排出量の都市人口弾力性(β):2010年
(出所)筆者作成。
(注)◦はβの信頼区間推定値の上限値と下限値を表す。赤の点線は各ボックス内にプロットされた信頼
表1 都市圏の数,人口,面積およびCO2排出量(2000年)
D∗(Persons per km2) Share of total (%)
l∗ 1000 1500 2500 3500 1000 1500 2500 3500 Num Adj 74 74 63 50 2km 94 81 69 54 3km 76 76 65 53 4km 62 76 59 51 5km 59 68 56 51 Pop Adj 86,973,332 62,872,128 45,421,663 37,431,948 43.73 31.61 22.84 18.82 2km 71,969,729 56,712,466 42,454,510 35,881,963 36.19 28.52 21.35 18.04 3km 87,260,819 64,376,385 46,389,877 38,507,957 43.88 32.37 23.33 19.36 4km 91,211,918 67,562,946 47,471,478 39,131,325 45.86 33.97 23.87 19.68 5km 93,325,015 68,991,066 48,121,024 39,584,981 46.92 34.69 24.20 19.90 Area Adj 31,567 14,535 6,506 4,101 1.721 0.792 0.355 0.224 2km 21,984 11,863 5,733 3,827 1.198 0.647 0.312 0.209 3km 31,633 15,126 6,752 4,302 1.724 0.824 0.368 0.234 4km 34,239 16,537 7,067 4,436 1.866 0.901 0.385 0.242 5km 35,635 17,202 7,232 4,521 1.942 0.938 0.394 0.246 CO2 Adj 22,784,396 16,725,192 12,555,401 10,668,598 38.27 28.09 21.09 17.92 2km 18,600,500 14,796,286 11,745,268 10,281,165 31.24 24.85 19.73 17.27 3km 22,694,265 16,834,001 12,661,652 10,822,708 38.12 28.28 21.27 18.18 4km 23,390,389 17,324,608 12,782,703 10,893,911 39.29 29.10 21.47 18.30 5km 23,636,956 17,476,455 12,832,452 10,922,553 39.70 29.36 21.56 18.35
(出所)筆者作成。(注)Num,Pop,Area,CO2はそれぞれ都市圏の数,人口,面積,CO2排出量を示す。D∗
は人口密度の閾値(D∗ ∈ {1000, 1500, 2500, 3500}),l∗は地理的なクラスターを検出するため閾値である(l∗ ∈
{Adj, 2km, 3km, 4km, 5km})。たとえば,l∗=2kmであれば,人口密度がD∗以上の行政村iとjが半径2km以内
に存在すれば,それらを一つのクラスターと定義する。Adjは距離ではなく,行政村の境界線を互いに共有する場
表2 都市圏の数,人口,面積およびCO2排出量(2010年)
D∗(Persons per km2) Share of total (%)
l∗ 1000 1500 2500 3500 1000 1500 2500 3500 Num Adj 87 86 75 61 2km 104 98 81 66 3km 85 90 77 63 4km 73 83 72 61 5km 70 73 68 58 Pop Adj 108,009,820 82,591,607 61,519,444 51,713,857 46.48 35.54 26.48 22.26 2km 86,710,156 71,625,046 55,534,143 47,464,761 37.32 30.83 23.90 20.43 3km 107,494,519 83,877,002 62,855,417 52,388,462 46.26 36.10 27.05 22.55 4km 112,380,331 87,279,395 64,705,876 53,381,403 48.36 37.56 27.85 22.97 5km 114,329,647 88,874,665 65,476,045 53,744,081 49.20 38.25 28.18 23.13 Area Adj 36,539 18,646 8,993 6,009 1.992 1.016 0.490 0.328 2km 24,504 14,487 7,519 5,234 1.336 0.790 0.410 0.285 3km 36,215 19,172 9,321 6,135 1.974 1.045 0.508 0.334 4km 39,266 20,669 9,841 6,346 2.14 1.127 0.536 0.346 5km 40,515 21,395 10,048 6,418 2.208 1.166 0.548 0.350 CO2 Adj 35,348,484 27,957,571 21,764,649 19,065,284 43.48 34.39 26.77 23.45 2km 28,622,197 23,742,109 19,916,795 17,861,636 35.21 29.20 24.50 21.97 3km 35,156,644 27,958,274 21,906,196 19,145,307 43.24 34.39 26.95 23.55 4km 36,213,936 28,747,922 22,152,947 19,277,673 44.54 35.36 27.25 23.71 5km 36,534,569 28,937,613 22,220,536 19,314,659 44.94 35.59 27.33 23.76
(出所)筆者作成。(注)Num,Pop,Area,CO2はそれぞれ都市圏の数,人口,面積,CO2排出量を示す。D∗
は人口密度の閾値(D∗ ∈ {1000, 1500, 2500, 3500}),l∗は地理的なクラスターを検出するため閾値である(l∗ ∈
{Adj, 2km, 3km, 4km, 5km})。たとえば,l∗=2kmであれば,人口密度がD∗以上の行政村iとjが半径2km以内
に存在すれば,それらを一つのクラスターと定義する。Adjは距離ではなく,行政村の境界線を互いに共有する場合
表3 CO2排出量の比較 炭素換算(FFDAS)1) (1000kg C/year) 二酸化炭素換算(FFDAS)1) (1000kg CO2/year) 二酸化炭素換算(WDI)2) (1000kg CO2/year) 1997 55,462,933 203,364,087 278,658,997 1998 49,294,084 180,744,973 214,200,471 1999 58,833,748 215,723,743 241,988,997 2000 59,533,691 218,290,200 263,418,945 2001 61,782,406 226,535,487 294,907,474 2002 63,837,461 234,070,691 306,737,216 2003 70,631,759 258,983,118 316,792,130 2004 75,700,476 277,568,412 337,635,358 2005 76,524,454 280,589,665 341,991,754 2006 82,047,497 300,840,821 345,119,705 2007 85,587,502 313,820,840 375,544,804 2008 76,648,818 281,045,667 416,560,199 2009 78,522,292 287,915,070 446,409,579 2010 81,300,254 298,100,930 428,760,308 (出所)筆者作成。
1)FFDAS (Fossil Fuel Data Assimilation System)
東方孝之編『インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析』調査研究報告書 アジア経済研究所 2018年
第3章
人的資本の外部効果と移住者の特徴
インドネシアの都市圏データを用いた分析
∗
(中間報告)
東方 孝之
†橋口 善浩
‡ 要約: 本章では、人口センサスおよび地図情報から構築したインドネシアの都市圏データ を用いて、人的資本の外部効果を探るとともに、都市圏への移住者の特徴を整理す る。まず、都市圏での人的資本の外部効果については、賃金情報を含む家計調査結果 (Susenas)と都市圏データとを組み合わせて分析したところ、高卒以上の学歴を有 する就業者の占める割合が高い都市圏ほど、中卒水準の就業者の賃金も高くなって いるという相関関係が確認された。次に、2010年人口センサスを用いて、都市圏在 住者の居住地が地方自治体(kabupaten/kota)レベルでみて5年前と異なる場合に移 住者(転入者)と定義してデータをまとめたところ、2000年時点で平均教育水準が 高かった都市圏ほど、10年後には転入者の都市圏人口に占める割合が大きくなって おり、また、その平均教育年数・移動距離ともに大きく、さらに、(都市圏の労働者 全体に占める)無業求職率が高い、という正の相関関係が確認された。なお、本稿は 「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告 であり、本稿で紹介する分析結果は暫定的なものである。 キーワード:都市圏、集積効果、国内移動、教育、賃金、インドネシア ∗本稿は「インドネシアの都市化の影響:企業の生産性と労働移動の分析」研究会の中間報告書である。ま た、本研究の一部は科研費25871152(代表:東方孝之)の助成を受けている。 †アジア経済研究所(IDE-JETRO): [email protected] ‡アジア経済研究所(IDE-JETRO): [email protected]はじめに
本稿の目的は、第1章で紹介したインドネシアの都市圏データを用いて、途上国におけ る人的資本の外部効果や、都市圏への人的資本の集積過程などを分析する準備段階とし て、情報を整理することにある。 第1章では、行政村(desa/kelurahan)別に就業者の平均教育年数をみた場合には、都 市圏内では平均教育年数が高くなっていること、また、都市圏ごとに就業者の平均教育年 数を確認したところ、ジャワ島内よりもジャワ島外でむしろ平均的には教育年数が高く なっている様子を確認した。本章ではまず、この都市圏への人的資本の集積に注目して、 外部効果が確認されるかどうかを分析する。 次に、都市圏への人的資本の集積過程を分析するために、2010年時点で都市圏に在住 していた移住者の特徴を調べている。人口センサスからは、県市(kabupaten/kota)地方 自治体レベルでの移住の選択行動や、移住者の教育年数などの情報が得られる。そこで本 章では、都市圏への移住者の移動距離や教育年数、また、(失業率の代わりとして)無業 求職率をまとめている。 本章の構成は次の通りである。まず、第1節では人的資本の集積効果を探る。地域横断 的にみて、人的資本の高い就業者の占める割合が大きいほど、人的資本が低い就業者の賃 金水準も高くなっているという相関関係を確認する。次に、第2節では都市圏に人的資本 が蓄積するメカニズムを調べるため、2010年時点の都市圏への移住者の特徴をまとめる。 最後に、本稿の暫定的な分析結果をまとめて締めくくりとする。第
1
節
人的資本の集積の外部効果
Moretti (2012:ch3)は大卒者の割合が多い都市ほど高卒者の平均年収が高いという関係 を米国の都市圏データをもとに紹介している(1)。そこでは、大卒者の割合が高い都市、例 えばスタンフォード(大卒者の割合は56%)の高卒者の平均年収は10.7万ドル(2008 年)、ワシントンDC圏(同49%)では6.7万ドルであること、そして、この年収は大卒 者の割合が20%を下回っている都市在住の大卒者の平均年収を上回る金額であることも 示されている。 本節ではMoretti (2012)と同様な手法によって、インドネシアにおける人的資本の外 (1)人的資本の外部効果(社会的交流を通じた知識や技術の共有)の理論的背景についてはDuranton and Puga (2004)やAcemoglu (1996)、企業レベルの生産性や労働者の賃金情報をもとに外部効果を実証した研究としては、Abel, Dey and Gabe (2012)やMoretti (2004)、Acemoglu and Angrist (2001)など
部効果の確認を試みる(2)。
1
データ
都市圏データについては、インドネシア統計庁(BPS)が収集した2000年・2010年人 口センサスおよび地図情報(Peta Digital 2012)をもとに、行政村単位の人口密度を計算 した上で、人口密度が1500人/km2以上の行政村同士が隣接するひとかたまりの地域の 人口規模が10万人以上となる場合に、その地域を都市圏とみなしている(3)。こうして構 築された都市圏データをもとに、各都市圏の居住者の教育水準を計算した。なお、インド ネシアにおいて義務教育は9年間(4)であり、労働力調査の対象者は 15歳以上となってい ることから、本章でも15歳以上の人口・就業者について、教育年数の平均値を計算して いる(5)。 賃金情報は、本章では2006年社会経済調査(Susenas)から入手している。行政村コー ドをもとに都市圏データと社会経済調査とをマッチングしたところ、賃金情報(月額)を 含んでいるサンプルのサイズは48,731となった。このサンプルをもとに都市圏ごとに賃 金の平均値を計算したが、今回は都市圏単位でみたときにサンプルサイズが50以上の場 合に限定して分析に用いている。なお、社会経済調査では、本業(pekerjaan utama)から の月給(手取り額)についてのみ質問している。そのため、インドネシアでは(公務員も 含めて)複数の仕事に従事しているケースが少なからずあることから、今回用いた賃金情 報は、実際に一か月に得ている個人所得と比べて過小となっている点に注意が必要であ ろう。(2) Hashiguchi and Higashikata (2017)はインドネシアの製造業企業パネルデータを用いて人的資本の外
部効果を分析している。本章ではHashiguchi and Higashikata (2017)と部分的には同じデータを用い
ているが、分析を製造業に限定していないこと、また、賃金情報を大規模家計調査(Susenas)から集め ている点などが異なる。 (3)統計庁が定める都市・農村区分との違いや2010年時点の都市圏のリストについては第1章を参照のこと。 (4) 1994年に中学校課程までが義務化された。 (5) インドネシアの教育課程は、日本同様に6年の小学校課程(7歳から12歳)、3年の中学校課程(13 歳から15歳)、3年の高校課程(16歳から18歳)を経て、高等教育に進む。高等教育は専門学校 (Diploma/Akademi)、総合大学(Universitas)に分かれており、人口センサスでは課程ごとに修了し たかどうかを尋ねているが、高等教育については一つの回答項目しか選ばれないようになっているため、 次のように処理している。1年コース専門学校・2年コース専門学校(Diploma I/Diploma II)は一つの 項目にまとめられているため、該当者の教育年数は便宜的に13.5年と計算した。同様に、3年コース専門 学校・アカデミ(Diploma III/Akademi)修了者の教育年数は15年、4年コース専門学校および総合大 学学部(Diploma IV/S1)修了者は16年、修士・博士課程(S2/S3)は18年で計算している。