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重複障害児の視覚的な気づきを促す教材・教具の検討

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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

重複障害児の視覚的な気づきを促す教材・教具の検討

- 光・音楽・振動による応答性の比較から -

特別支援教育分野(20822008)田 中 孝 広

本研究では,教材・教具への視覚的な気づきに課題のある重複障害児を対象に,スイッ チを押した時に異なる 3 種類の応答(光・音楽・振動)が返ってくる教材・教具を使って学 習を行い,視覚的な気づきを促すのに有効な教材・教具について検討することを目的とし た。教材・教具への視線を向けるまでの時間,教材・教具への注視時間,リーチングまでの 時間,リーチングの回数を比較したところ,振動による応答性のある教材・教具が,視覚的 な気づきを促すのに最も有効である可能性を示唆する結果を得た。

[キーワード] 重複障害児,視覚的な気づき,教材・教具,応答性,光・音楽・振動

1 問題と目的

人にとって,視覚は最も多くの情報を得ること ができる感覚器官と言われている。乳児の固視反 射は生後1か月を過ぎてから出現し始め,徐々に 固視持続時間が長くなり,生後 4 か月では確実に 出現するようになる。また生後 4 か月には,見つ けた物に手を伸ばすリーチングが始まり,外界に ある物を積極的に探索することで,初期発達にお ける知識獲得に重要な役割を担うこととなる。

一方,特別支援学校学習指導要領解説自立活動 編では,「障害が重度で重複している幼児児童生徒 の場合,視覚や聴覚への働き掛けに対して明確な 応答が見られないことがある」と記され,重度・重 複障害児の視覚的認知の問題を指摘している。ま た,筆者が勤務する肢体不自由特別支援学校の重 複障害児1)の中には,教材・教具を目の前に提示さ れたり直接触れたりしていても,対象に視線を向 けようとしない児童生徒がいる。教材・教具に対し て視覚的な気づきを持てない重複障害児は,教材・

教具とのかかわりの中で学習することが難しく,

その後の認知発達にも大きな影響を与えていると 考えられる。

川間(2006)は「障害がかなり重度である子ども の意識的・目的的に対象を見る力を育てるために は揺れ,関節部位への刺激,触れると音が出たり,

光ったり,振動するなど直接的に結果の出る教材 を用い反応を引き出す必要がある」とし,見る力を 育てるために,応答性のある教材・教具が有効であ ることを指摘している。宇佐川(2007)もまた,「発

達の初期であればあるほど,教材・教具の応答性の 工夫は重要である」とし,子供が興味を持ちやすい 応答性について「揺れや回旋,振動等の応答性は,

もっとも興味がもたれやすく,次いで楽器等のよ うに音が出る聴覚への応答性,さらにははめるい れる等の運動感覚プラス視覚への応答性をもつ教 具等の工夫が必要とされる」と述べている。これら は,発達初期の重複障害児の視覚的な気づきを促 すためには,触覚や聴覚,視覚に対する応答性のあ る教材・教具が有効であることを示唆している。

しかし,重複障害児にとってどのような応答性 のある教材・教具が視覚的な気づきを促すことに 有効か比較した研究は見当たらない。視覚的な気 づきを促しやすい教材・教具を明らかにすること で,発達初期の重複障害児が教材・教具による学習 を介して,積極的に視覚的探索を行う力を育むこ とができるようになると思われる。また,物に対す る興味関心が広がり,リーチングによる探索活動 を活発に行うようになる等,重複障害児の認知的 な発達を促進させることにつながると期待できる。

そこで本研究では,教材・教具への視覚的な気 づきに課題のある重複障害児を対象に,スイッチ を押した時に異なる 3 種類の応答(光・音楽・振 動)が返ってくる教材・教具を使って学習を行い,

どの応答性による教材・教具が視覚的な気づきを 促すのに有効か検討することを目的とする。

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2 方法 (1)対象

X 県内 Y 特別支援学校の小学部重複障害学級第 2 学年に在籍する児童 1 名(以下,A 児)とした。

A 児は,知的障害の他に先天性小頭症による移 動機能障害,てんかん,斜視を併せ持っている。

発語はないが,友達や教師のいるところに寄って 行き,笑顔でその様子を見ていることが多い。短 下肢装具を装用しており,歩行はできるが,つま ずいて転ぶことも多い。椅子座位姿勢では,左側 に傾きやすい。机の物を落としたり,ロッカーの 物を落としたりする時に手(主に左手)を使う。

視力は不明だが,「実践に活かす見え方アセスメ ント(国立特別支援教育総合研究所,2008)」を行 い,光への注視、追視が可能であること,提示し た瞬間に対象に注意を向けやすいこと,色による 注視の差はないことなどを確認した。

また,「感覚と運動の高次化発達診断法(宇佐川,

2007)」による発達診断を行った結果,第Ⅰ層第Ⅰ 水準感覚入力水準であることが分かった。事物へ の触運動探索操作を通して視知覚を育て,外界へ 向かう力を育てていくことが大切な段階であると 考えられる。

(2)期間

20XX 年 10 月~11 月の 3 週間とし,1 週間で実 態把握を行い,2 週間で本指導を計4 回計画した。

(3)方法

①教材・教具の準備

スイッチを押した時に,3 種類の応答が返って くる教材・教具(教材・教具Ⅰ:光,教材・教具Ⅱ:

音楽,教材・教具Ⅲ:振動)を準備した(図 1)。外 見を同じにするために,教材・教具Ⅰ~Ⅲは同じ 筐体にし,指導者が 3 つのレバーを切り替えるこ とで,スイッチを押した時の応答性を変えること ができるようにした。各教材・教具の応答性につ いては,いずれも十分に感じ取ることができる程 度に,できる限り統一するように作成した。

図 1 教材・教具(教材・教具Ⅰ:光,

教材・教具Ⅱ:音楽,教材・教具Ⅲ:振動)

②手続き

実践は,吉川(2018)を参考に,次のような手続 きで行った。

60 秒間の提示を 1 セッション(以下,S)とし,1 回の指導の中で各教材・教具につき 3 回の S を行 った。公正な結果を得られるように,毎回提示す る教材・教具の順番を変えて指導した。指導は 4 回(S1~S12)行った。1 回あたりの S の手順は以下 の通りである。

指導者は,児童用机を教室の壁に向けて置き,

壁と児童用机の間に入って,A 児と対面して座っ た。教材・教具を A 児にとって見やすく,手で触 れやすいように,児童用机中央に提示した。A 児 が教材・教具の応答性を感じ取れるように,指導 者がはじめにスイッチを押して見せたり、一緒に スイッチを押したりした時を 0 秒とし,そこから 60 秒間教材・教具の提示を行った。

提示開始後,教材・教具への注視やリーチング が見られるまでは,指導者がスイッチを押して見 せたり,A 児の手を取って一緒にスイッチを押し たりするかかわりを行い,A 児が教材・教具の応 答性を感じることができるように支援した。教材・

教具への注視やリーチングが見られた後は,指導 者からのかかわりを控え,A 児が自発的に教材・

教具にかかわる様子を観察した。

③記録と分析

吉川(2018)を参考に,次のような手続きで行っ た。

a)ビデオ記録

各 S ともビデオを A 児の左側前 1mと右前 3m に置き,教材・教具提示後 60 秒間における A 児の 視線と手の動き、指導者のかかわり方を録画した。

b)ビデオ分析

各指導終了後,各 S において指導者が教材・教 具を提示してから 60 秒間に,A 児が教材・教具に 視線を向けている時間(0.1 秒単位で記録する。以 下同様。)と教材・教具にリーチングしている時間,

指導者がスイッチを押して見せた時間と A 児の手 を取って一緒にスイッチを押した時間を,行動出 現表(表 1)に時系列で示した。

分析は,まず 1 回目の指導における教材・教具

Ⅰ~Ⅲの各 S1~S3 の様子を,筆者を含む 3 名そ れぞれが同時にビデオを見ながら行った。 その後 3 名の記録をもとに,判断が分かれる場面は再度 ビデオで見る等して検討し確定していった。行動

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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

分析にかかわる,A 児が教材・教具に視線を向け ている時間とリーチングしている時間について 3 名で分析を行ったところ,7 割程度一致したこと から,その後の分析は筆者 1 名で行った。

なお、本研究におけるリーチングは, 視線を向 けた後に教材・教具に向かって手を伸ばす行為と 定義した。何度も叩くなど,繰り返し教材・教具 に触れた場合には,続けてリーチングが行われた ものと捉えて記録した。

表 1 行動出現表

C)行動の分析

記録した行動出現表をもとに,教材・教具Ⅰ~

Ⅲの各 S1~S12 における,提示開始からⅰ)教材・

教具に視線を向けるまでの総時間と平均時間,ⅱ) 教材・教具への注視時間の総時間と平均時間,ⅲ) リーチングまでの総時間と平均時間,ⅳ)リーチン グ回数の総数と平均回数を求める。次に,i)~ⅳ) の指標に合わせて,教材・教具Ⅰ~Ⅲにおける総 時間(ⅳ)では総回数),平均時間(ⅳ)では平均回 数)を比較した。

なお,ⅰ)の指標において1回の S の中で,一度 も教材・教具に視線が向けられなかった場合,ⅲ) の指標において,1回の S の中で一度も教材・教 具へのリーチングが行われなかった場合は,それ ぞれ 60 秒と記録することとした。また,教材・教 具Ⅱの S2 は,指導者がスイッチを押して教材・教 具の応答性を伝える提示を行わなかったため,教 材・教具Ⅰ~Ⅲそれぞれにおける S2 を分析対象 から外した。

④倫理的配慮

本実践の趣旨とビデオ記録とその管理,分析結 果の取り扱いについて書面による説明を行い,同 意書の提出によって同意を得た。

3 結果

教材・教具Ⅰ~Ⅲの各 S1~S12(S2 を除く。)に おける「教材・教具に視線を向けるまでの時間」

「教材・教具への注視時間」「リーチングまでの 時間」「リーチングの回数」についての結果は以

下の通りである(表 2~5)。

表 2 教材・教具に視線を向けるまでの時間

表 3 教材・教具への注視時間

表 4 リーチングまでの時間

表 5 リーチングの回数

「教材・教具に視線を向けるまでの時間」につ いては,教材・教具Ⅲに最も早く視線を向け,続 いて教材・教具Ⅰ,教材・教具Ⅱの順で早く視線 を向けるという結果を示した。

「教材・教具への注視時間」については,教材・

教具Ⅲが最も長く,続いて教材・教具Ⅰ,教材・

教具Ⅱの順で注視時間が長いという結果を示した。

「リーチングまでの時間」については,教材・

教具Ⅲに最も早く視線を向け,続いて教材・教具

Ⅰ,教材・教具Ⅱの順で早く視線を向けるという 結果を示した。

「リーチングの回数」については,教材・教具

Ⅲが最も多く,続いて教材・教具Ⅰ,教材・教具

Ⅱの順で多いという結果を示した。

4 考察

指導者がスイッチを押して見せ教材・教具の応 答性を伝えてから,A 児が教材・教具に視線を向 けるまでの時間が最も早く,教材・教具を注視す る時間も最も長かったのは,「教材・教具Ⅲ:振動 による応答性のある教材・教具」だった。また,

提示開始からリーチングまでの時間が最も早く,

リーチングの回数が最も多かったのも教材・教具

Ⅲだった。このことから,振動による応答性のあ 教材・教具 合計時間(s) 平均時間(s)

Ⅰ:光 87.4 7.9

Ⅱ:⾳楽 204.1 18.6

Ⅲ:振動 46.8 4.3

教材・教具 合計時間(s) 平均時間(s)

Ⅰ:光 154.1 14.0

Ⅱ:⾳楽 94.1 8.6

Ⅲ:振動 195.6 17.8

教材・教具 合計時間(s) 平均時間(s)

Ⅰ:光 321.3 29.2

Ⅱ:⾳楽 625.0 56.8

Ⅲ:振動 198.1 18.0

教具 合計回数(回) 平均回数(回)

Ⅰ:光 9 0.82

Ⅱ:⾳楽 5 0.45

Ⅲ:振動 13 1.18

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(4)

る教材・教具が,視覚的な気づきを促すのに最も 有効である可能性が唆された。宇佐川(2007)は,

「揺れや回旋,振動等の応答性は,もっとも興味 がもたれやすい」と述べている。振動による応答 性のある教材・教具は,直接触覚に働きかけるこ とから子供にとって興味を持ちやすく,視覚的な 気づきが促されやすいと思われる。

「教材・教具Ⅰ:光による応答性のある教材・

教具」は,教材・教具Ⅲに続いて提示開始から視 線を向けるまでの時間が早く,教材・教具を注視 する時間が長かった。光は直接視覚で捉える刺激 であることから,指導者が提示した光刺激に気づ きやすく,視線を向けることにつながったと考え られる。ただ,教材・教具Ⅲと比較すると,提示 開始からリーチングまで時間,リーチングの回数 ともに,1.4 倍以上の差がある。これは,教材・教 具Ⅲと比べて教材・教具の持つ応答性に対して興 味を持ちにくく,刺激を求めて自発的に視線を向 けたり,触れたりしてみようとすることが少なか ったためとも考えられる。

「教材・教具Ⅱ:音楽による応答性のある教材・

教具」は,提示開始から視線を向けるまでの時間 が最も遅く,教材・教具を注視する時間が短かっ た。i)~ⅳ)のどの指標においても,教材・教具Ⅲ とは 2 倍以上の差があった。音は視線を向けなく ても感じ取ることができる刺激であり,子供は音 楽を感じ取っていたとしても,視覚的な定位には つながりにくい可能性がある。

5 今後に向けて

本研究は,1 名の対象児に対する事例研究であ る。結果は,対象児の応答性に対する興味・関心 の要素が影響している可能性もあり,重複障害児 の視覚的な気づきを促す教材・教具の応答性を特 定するためには,より多くの事例をもとに検証す る必要がある。

また,研究の信頼性を担保するための研究方法 にも課題がある。第 1 は,教師のかかわりである。

本研究で指標とした視線やリーチングといった子 供の表出行動は,指導者のかかわりによっても影 響受けるものであるが,本研究では各 S における 指導者のかかわりには多少の違いがあった。指導 者のかかわり方の条件をどのように揃えていくの か検討していく必要がある。第 2 は,教材・教具 の応答性の強さである。本研究では,応答性の異

なる 3 つの教材・教具を準備したが,応答性の強 さという視点で条件を揃えるための検討を十分に は行わなかった。異なる特性の教材・教具の応答 性の強さを,どのような基準で揃えるのか検討し,

研究を進めていく必要がある。第 3 は,学習環境 への配慮である。教室の明るさに配慮したり,静 かな場所を用意したり等,子供がより教材・教具 の持つ応答性を感じ取りやすくするために学習環 境を整えることが大切だと考える。さらに,机や 椅子の高さを調整する等,子供に合わせて見やす い姿勢,手を使いやすい姿勢を作るための支援も 検討していきたい。

1)本研究における「重複障害者」は、学校教育法 施行令第 22 条の 3 に規定する障害(視覚障害,聴 覚障害,知的障害,肢体不自由、病弱)を二つ以上 併せ有する者とする。

引用文献・参考文献

川間健之介(2006)「認知発達のアセスメントと支 援 視覚認知の発達と支援 (特別支援教育にお ける臨床発達心理学的アプローチ) - (特別支 援教育における発達アセスメントと支援)」『別 冊発達 (28)』, 10-22.

国立特別支援教育総合研究所(2008)「重複障害児 のアセスメント研究 研究成果報告書 -視覚を 通した環境の把握とコミュニケーションに関す る 初期的な力を評価するツールの改良-」, 3- 15.

文部科学省(2018)『特別支援学校教育要領・学習 指導要領解説自立活動編(幼稚部・小学部・中学 部)』,開隆堂,74.

宇佐川浩(2007)『障害児の発達臨床Ⅰ 感覚と運動 の高次化からみた子ども理解』,学苑社,20- 21,58.

吉川一義(2018)「重症心身障害児の空間への視覚 的注意と姿勢・運動調整の関係」『特殊教育学 研究』,55(5), 249-257.

Examination of Teaching Materials and Tools that Promote Visual Awareness for Multiply- Handicapped Children:By the Comparison of Responsiveness by Light, Music, and Vibration Takahiro TANAKA

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