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教育大学生の教職観

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

教育大学生の教職観

著者 礒野 義一, 寺田 路一

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 8

ページ 95‑100

発行年 1972‑03‑15

その他のタイトル Occupational Views for Teaching Profession in Teachers College Students.

URL http://hdl.handle.net/10105/6251

(2)

教育大学生の教職観*

礒野義一  (心理学教室)

寺 田 路一**

(兵庫県・一高木d轍

 教育大学の学生は,たいていの者が教職につくといわれている。たとえば本学の場合は,昭和44年 度卒業生の79%,昭和45年度では74%の者が教職こついている。ところが,入学時において教職を希 望する学生の数ははるかに低率である。岩井(1969)の研究では,教職に対する積極的な意志をもっ て教育大学を受験した学生は,全体の約30%であった。これは教育学部以外の学部の場合とはやや事 情がことなる。たとえば井上(1965)は,工学部と教育学部の学生を対象にして,もし,いっさいの 制約がなければ,どの学部を選択するかを尋ねている。その結果,工学部の学生は,約85%の者が工 学部を第1に希望し,教育学部の学生は,約20%が教育学部を希望したのである。このことは,教育 学部の学生の教職に対する意識や志向性がかなり低いことを示唆しているといえよう。しかし,河井

(1968)によれば,教育学部の学生でも,卒業間近になると教職を積極的に希望する者がかなり増加 する(約60%)ようである。

 進路の決定には,職業についての価値観とその職業に志向する動機づけの強さが関係していると考 えられる。職業的価値観について,Rosenberg(峨7〕は3つの価値群を区別している。すなわち,

①収入や社会的地位などの外的報酬に方向づけられた価値群,②能力や適性を生かそうとする自己表 現に方向づけられた価値群,および③他人と協力しあうことに方向づけられた価値群である。中西

(1965)は,Rosenbergにならって,さまざまな職業と職業価値観との関係を検討しているが,教 職については調べていない。また,教職への動機については,斎藤(1969)が特に無意識的な動機に ついて因子分析的な研究を行なっている。しかし,直接的な動機については調べていない。

 そこで,教育大学や教育学部の学生が,教職に対してどのような価値観をもっているのか,そして どのような志向動機をもっているのかを調べることは意義があると考えられる。本研究は,本学学生 の教職に対する職業的価値観を,短大生と比較することによって明らかにし,あわせて,教職への志 向動機や教職の魅力のなさ,教師イメージなどについても検討して,将来の職業としての総合的な教 職観を明らかにするために行なわれた。

      方        法

調査の対象 被験者は奈良教育大学の学生1〜4年生男女合計247名,および佐保女学院短期大学

* 0ccupat i ona1Vi ews for Teaching Professi on i n Teachers Co11ege   Students.

榊Gi i chi I sono (Department of Psycho1ogy,Nara Univers tyi of Education,

  Nara)

  Michikazu Terada(Takagi E1ementary School,Hyogo)

       一95一

(3)

1,2年生108名であった。

 調査の時期 奈良教育大学の学生については,1970年9月中旬〜下旬に調査を行ない,3年生が教 育実習にはいる前に調査を終えた。佳保女学院短期大掌の学生については,1970年7月中旬に調査を 行なった。

 調査の内容 調査の内容は次のとおワであっれ   A:教職に対する職業的価値観

  B:教職の魅力のなレ、点   C:教師イメージ   D:教職への志向度   E:教職への志向動機

 調査AではRosenberg(1957)が作製し,中西(1965)が修正した項目を使用した(表1)。調 査Bでは教職の魅力のない点について自由記述させた。調査Cでは長島ら(1966)を参考にして35対 の形容詞対を用いた(図1,図2)。調査Dでは教職につく意志について, 「(1)ぜひなりたい」から

「(5)ぜったいなりたくない」までの5段階のいずれかに評定させた。調査Eでは51項目を作製し,予 備調査を行なった結果,反応数の多かった項目を20項目選んで使用した(表3)。調査Aと調査Eの 各陳述については,自分にあてはまる場合には○,あてはまらない場合にはXをつけさせた。

       結        果

 教職に対する職業的価値観 表1は調査Aの結果をまとめたものである。この表には,10項目のそ れぞれについて是認率(自分の意見としてあてはまると答えた者の%)が示されている。教育大生に ついては,志向の程度に関する調査Dで,ぜひなワたい(1)と,だいたいなるつもワ(2)と答えた者をH 群,場合によってはなってもよい(3)と答えた者をM群,なりたくない(4)と,ぜったいなリたくない(5)

と答えた者をL群として,それぞれ郡ごとに是認率を示した。

 まず,教育大生について,教職への志向の程度がことなるH群,M群,L群の値価観を比較してみ ると,次のことがいえよう。H群はL群に比べて,特に「自分の特別な能力や適性を生かす機会が得 られる(1)」とみなし, 「自分の創造性や独創性を生かすことができる(3)」と思っている者が多い。そ の他の陳述については,志向の程度によってあまワ大きな差はみられない。次に,教育大生と短大生 を比較してみると次のことがいえる。教育大生には「自分の創造性や独創性を生かすことができる(3)」

と思っている者が多いのに対して,短大生ではむしろそれを否認する者が多い。逆に,短大生には

「指導者としての手腕を養成される機会が得られる(8)」と思っている者が多いのに対して,教育大生 ではそれを否認する者が多い。

 両大学の多くの学生が是認した陳述は次のものであった。「他人を助力(助成)する機会を与える

⑩」, 「自分の特別な能力や適性を生かす機会が得られる(1)」,また,両大学の多くの学生が否認し た陳述は,「十分な収入が期待できる職業である(2〕」,「冒険的なことや新奇なことをする経験を得 る機会を与える(9)」,「さまざまな人々といっしょに仕事をする機会が与えられる(5)」および「他人 の監督を受けることが少なく比較的自由(7〕」の4つであった。

一96一

(4)

妻1 教職の職業的価値観をあらわす10項目への是認率

教 育 大 学 生

1.自分の特別な能力や適性を生かす機会が得られる 2.十分な収入が期待できる職業である

3.自分の創造性や独創性を生かすことができる 4.社会約地位や名声を与える職業である

5.さまざまな人々といっしょに仕事をする機会が与えられる 6.安定した保証された将来への見通しが得られる 7.他人の監督を受けることが少なく比較的自由 8.指導者としての手腕を養成される機会が得られる 9.冒険的なことや新奇なことをする経験を得る機会を与える 10.他人を助力(助成)する機会を与える

被 調 査 者 実 数

H 群

 **

75.O 1,1 仙  料 77.3 9.7 必

24,4 ^

49,4 44,9 44.9 19,3 ^  榊 71.6

176 M 群

 * π.1 0,0 ^

60.5 13.2 ^

15,8 山

42,1 44.7

 ▲ 28.9 23,7 山

65.8

38 L 群

33.3 9,1 ^

45.5 18.2 ^  ▲ 27,3 66.7

 ▲ 30,3 36.4 12.1 ^  * 72.7

33 全 体

 淋 68,8

2.O ^  減 70.4 11.3 ^

23,5 ^

50,6

 ▲ 42,9

41.3 ^

19.O ^

 ** 70.9

247

短大生

67,6 12,0 37,0 42,6 37,0 65,7 29,6 66.7 2212 86.1

108

・去は5%レベルで,慧は1%レベルで是認率が有意に高い(*)または低い←)ことを示す。

 (臨界比による)

.Hは教職の志向度が高い,Mは中位,Lは低いことを示す。

 教職の魅力のない点 調査Bでは,「教師という職業に魅力がないとすれば,どんな点で魅力がな いのでしょう」という質問をし,それに対する意見の自由記述を求めた。表2は,同じような意見を まとめて,意見ののぺ数に対する割合侮)を示したものである。この表から明らかなように,教育大生 では「収入が少ない」 「社会的行政的制約で不自由」の2点がかなワ大きな割合を占めている。また,

男子では「収入が少ない」という点を指摘する者が多く,女子では「責任が重いわりに労が多い」こ とをあげる者が多いといえよう。一方,短大生では,教育大生よワも「社会的行政的制約で不自由」

「教師の虚栄的態度」を指摘した者が多い。

表2 教職の魅力のない点 意      見 教育犬

男子 女子 短大

1.収入が少ない 34.5% 19.5% 10.8%

2.社会的行政的制約で不自由 2415 22.1 30.1 3.保守的で独創牲がない 17,3 16,1 21,5 4.責任が重く労が多い 7.2 19.5 3.2

5教師の虚栄的態度 8,6 12.8 25.8 6.PTAや教師間の関係 4.3 7.4 8.6

7.社会的地位が低く評価される 4.3 2.7 O

意見のべ数 139 149 93

一g7一

(5)

 教師のイメージ 教師イメージを測定するために35対の形容詞対を用いて,「現実の小学校教師」

と「現実の中学校教師」という2つの教師像を7段階評定させた。図1および図2は教育大生と短大 生のイメージを比較したものである。ここには有意差のあった形容詞対についてのみ示してある。図

1から,教育大生は短大生よりも小学校教師をよワ臆病な,弱々しい,秤気力な,消極的な,頼りな い,不潔な,病弱な,鈍感な,懐疑的な,後退的な,年とりだ,ヤボな,労の多い,そして競争的な とみている。図2から,教育大生は短大生よりも中学校教師をよワ内面的な,地味な,ひかえめな,

臆病な,弱々しい,消極的な,懐疑的な,後退的な,年とった,そして労が多いとみている。全体と して,教育大生は短大生よワも現場の教師に対して,いっそう否定的なイメージをもつているといえ

よう。

   非かやどやか非   非かやどやか非

      ち      ち       ら       ら

   常な で な常   常な で な常

      も       も       な       な

   一にワやいやワに   にワやいやワに 勇敢な     =    臆病な外面的な      内面的な

たくまし・      ,     弱々しい 派手な      1地味な

意欲的な   ノー  1無気力なでしゃば←十一←・   ひかえめな 積極的なト→一十←・十消極的な勇敢な       臆病な

頼もしい      頼りない      弱々しい

清潔な1      1不潔な      消極的な

元気な      病弱な       懐疑的な

鈍感な       敏感な      後退的

信㈱        1懐疑的な      1年とった

前進的ト斗         1後退的労の多い      らくな

着々しいl       1年とった

      教漬大学生

スマートな       1ヤボな      一一一一一一一短犬全 労の多いトー十一ト         1らくな

協同的      競争的   図一2「現実の中学校教師」に対するイメージ

、1

外面的な

h手な

S妄やば←十一←1勇敢な

スくましい マ極的な

M蜥・

O進的

瘁Xしい Jの多い

1

1

Hj1」

一 1

1

図一1「現実の小学校教師」に対するイメージ

 教職への志向動機 表3は,調査Eの結果を,教師になる意志のある者(志向度に関するH群とM 群)だけについて男女別にまとめたものである一。男女ともに是認率(○の数)の高い陳述としては,

「他の職業にくらべて人問味のある仕事だ蝸」,「他の職業とくらべて知識や性格・能力・趣味など 自分を生かせる(8)」, 「仕事の成桑が子どもにあらわれ,少しでもできるようになるとうれしい(6)」,

r純真な子どもが好きである(9)」, 「次の世代を築き,社会的に価値のある仕事である(2)」があげら れる。また,女性の場合は,とくに「男女ともに仕事や俸給が同じで差別がないから⑫」という陳述 を是認する者が多い。

一9B一

(6)

表3 教職への志向動機(是認率)

1 一  ■ ■

教職への志向動機項目 全 体

 … ■ 一 一一一

P、子どもたちにしたわれ,いつも若々しい気持でいられる

男 子

S5.6%

女 子

T6.8% 51.4%

z 次の世代を築き,社会的こ価値のある仕事である  ** U3.1  *

U2.2

& 教師以外の仕事こたずさわることはできそうもない

19.4…12.6

22.5

P216

 淋 U216   −  I

Q1,0 4 家族や知人こ教師をやっている人がいる P2,6

・鯨灘寒二織の発展 活躍を散ると繊駐こやワ 56,3 4915 52.8

・隻う撤シ子どもにあらわれ少しでもできるようにな  **

U5.1  **

V3.0

淋69.2

τ 思隙もあワ,将来の生活が安定している 46.6 46.8 46.7

・鰹緊とくらべて熾雛格.能力 鰍ど自分を生

淋73.8

 ** U6,7  ** V0,1

9.純真な子どもが好きである  *

U2.1 66.7  料

U4.5 1α教育の仕事は愛情で支えられ欲情ぬきの情熱搬=仕事である 46.6 44.1 45,3

11.家の人がすすめる 24.3 30.6 27.6

1z男女ともに仕事や俸給が同じで差別がないから 2.9  料

U5.8 35.5

・・織…鱗熟知って峨生の影響なとあって削 39.8 38.7 39.3

14.・建康的な仕事だから 35.O 4519 40.7

・・繋一鱒きなヒ麟婆燃餌簾芸婁実が少 59.2 45.O 51,9 16.他の職業に<らべて「人間味」のある仕事だ

料74.8

 榊

V8.4  ** V6.6

17、長い休暇がある 52.4 41.4 46.7

18.実習や観察・アルバイトなどで教職に対する興味がわいた 17.5 17.1 17.3 19.教職ま自分をみがき成長させる 41,7 44.1 43.O

20、人から信頼される職業である 40.8 36,O 38.3

被調査者実数(H群・M群) 103人 111人 214人

*は5%レベル 榊は1%レベルの有意性を示す(臨界比による)。

考       察

 教職の職業的価値については,調査Aから次の点が指摘される。(1)教職への志向性の高い老は,そ れの低い者に比べて教職を自分の能力や適性1創造性などを生かせるものとみなしている。(2)教育大 生は自分の創造性を生かせると思うているのに対して,短大生では創造性を生かせるとは思っていな い。これらのことは,教育大生の方が短大生よ口も教職への志向性が高いとみなせば,志向性の高い 者ほど,教職に自己表現的価値(Rosenberg,1957)を認めていることを示唆するといえよう。教 育大生と短大生でともにもうとも是認率の高かうた陳述は, 「他人を助力(助成)する機会を与える。」

であった。すなわち,教職は児童・生徒を援助するものとして意義があるとみなされているといえる。

 教職の魅力のない点については,調査Bから次のことがいえる。教育大生では収入が少ないことや 社会的行政的制約を指摘する者宇多く,短大生では社会的行政的制約や教師の虚栄的態度をあげる者

一99一

(7)

が多い。教育大生の場合は,特に男子で収入が少ないことを指摘する者が多い。すなわち,教職は男 子学生にとっては収入が少ないから魅力がないのだといえる。

 教師のイメージについては,調査Cから,教育大生は短大生に比べると,現実の教師に対して,よ ワ否定的なイメージを描いていることがわかる。このことは,教育大生の方が短大生よワも教職とい うものに対して,よりきびしい見方をしていると解釈することもできよう。

 教職への志向動機については,調査Eから次のことがいえる。男女とも是認率の高かった陳述は,

人間味がある,自分の才能を生かせるなどの自己実現的な動機に関するものと,仕事の成果が子ども にあらわれる,子どもが好き,社会的に価値があるなど利他的な動機に関するものを含んでいる。す なわち,教職につこうとする意志を決定しているものは,人間味があワ,自分の才能を生かせるとい

う自己表現的な動機と,子どもに対する愛情であるといえよう。このことに加えて,女子の場合は,

仕事や俸給が男子と同じであるということが大きな理由になっている点が注目される。これは女子の 職業が一般に男子のそれよワも雇用剣牛が悪いことを考慮すると十分うなづけることである。

       要       約

 教育大学生の教職観を明らかにするために,本学学生247名と短大生108名について,次の5つの 調査が行なわれた。(1)教職に対する職業的価値観,(2)教職の魅力のない点,!3)教師イメージ,(4)教職 への志向度,(5)教職への志向動機。

 この調査の結果,次のことが明らかにされた。(1)教育大生は短大生よりも教職に対して自己表現的 な価値観をもっており,その傾向は教職への志向性の高い者ほど強い。(2)教育大生にとって教職でも っとも魅力のない点は,収入が少ないことである。(3)教育大生は短大生よワも,より否定的な教師イ メージを描いている。(4)教育大生の志向動機は,おもに自己表現的なものである。

       引  用  文  献

井上 健治 1965 教職に関する心理的研究(1)日本教育心理学会第7回総会発表論文集,292−293,

岩井 勇児 1969 教職観の形成に関する研究I 愛知教育大学研究報告 教育科学編18,153−172,

河井 芳文 1968 将来の職業としての教師観 教育心理16,290−295,

長島貞夫ほか 1966 自我と適応の関係についての研究(3)一Se1f DifferentiaIの作成」日本      心理学会第30回大会発表論文集,513−515,

中西 信男 1965 大学生と職業従業員の間にみられる職業価値観の差異,職業科学(近畿犬学職      業科学研究所紀要), 5,9−15,

Rosenberg,M.1957 0㏄ψωo舳α〃〃α 舳.G1encoe,The Free Press.

斎藤 耕二 1969 教職への動機についての研究 東京学芸大学紀要(第1部門),20,53−65,

一100一

参照

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