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東南アジア諸国を廻って一その異質性及び同質性と日本一

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(1)

東南アジア諸国を廻って

一その異質性及び同質性と日本一

龍  家  勇 一 郎

1.

2.

3.

4.

5.

6.

 《目  次》

序  言

東南アジア諸国の異質性 東南アジア諸国の同質性 企業進出上の問題点

東南アジア諸国における日本人観 結  語

1.序  言

 昨年度(昭和47年1月下旬から2月下旬にかけて)東南アジア諸国を須山教授,河地教 授と一緒に訪問して来た。訪ねた国々は,台湾,香港,マレーシア,シンガポール,イン

ドネジア,フイリッピンの六ケ国である。筆者は,さきに昭和42年ユ1に韓国を訪問し,翌 年43年3月末から4月にかけて,シンガポール,タイ,香港,台湾を訪問している。それ でいくらか東南アジア諸国について,見聞を広めたというに過ぎないが,その間,各国で 各地の大学教授の方々,現地に住む日本人,日本の商社員の方々及び現地の方々と面接す

る機会をもった。そして,東南アジア諸国と呼ばれる国々は,それぞれ,異なった言語,

風俗,習慣,人種問題,宗教,歴史及びその国の成立過程,外交関係があることが判明す ると同時に,共通した目標があることも理解できた。

 このように,東南アジア諸国が,それぞれの特徴をもっているのであるが,わが国の企 業が進出する場合,どのような問題点があるかを探究するとともに,東南アジア諸国に活 躍する日本人の心がまえというものを述べたい。

2.東南アジア諸国の異質性

 東南アジア諸国といっても,十把一からげ的な考え方では,いけないのであって,北は 台湾から南はインドネシアまで,東はフィリピンから西はビルマまでの,この熱帯性の地 域に対して,普通東南アジアの国々とよんでいるが,それぞれの国の国情も歴史も宗教

も,さらには,人種問題から外交関係,経済問題に至るまで異なっているのである。

 日本人旅行者の多くは,東南アジア諸国を,戦後の独立国,経済的未開発国,人口過多

と貧困の国,華僑の根強い国,暑い国,能率の余りあがらない役人政治の国,同じアジア

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人種,安くて,面白硫遊び場をもつ国といった印象でやってくるようである。しかも,日 本の新聞記事や雑誌などで「東南アジアでは……」と論じているのを見ると,同じアジア 人である日本人がまるで,…し一ロッパ入やアメリカ人と,同じように遠く離れた違い眼で 物をいっている感じをうけるのである。

 ところが,東南アジアの人々は,日本人を欧米人と同一には見ていない。かれらの眼に は,日本人はあくまでも東南アジア人に近いアジア人であって,欧米人ではないのであ る。この点をわれわれ日本人は,良く認識する必要がある。

 いま,異質性の代表的な例として,インドネシアとマレーシアを比較してある坂口教授 の論文を引用するとつぎの通りである。

インドネシアはマラヤと並んで古画典型的な植民地とされた.しかしながら,その

実態を仔細に検討すると,その植民地支配国が,r方はオランダ,他方はイギリスであり この両国の国情,政策,思想などの相違により,同じ植民地といっても,インドネシアと マレーシアの開拓には著しい相違点があったことを見のがしてはならないとし,つぎの四 点をあげていられる。

 (a)1819年スタンフォード,ラッフルズ卿が初代総督として着任した頃は,イギリスは 産業革命を終え,世界の先進工業国として豊かな経済誌の下に自由主義を謳歌した時代で あり,マレーシアの経営も基本的には,自由主義政策の上に建てられていた。

 しかるにインドネシアは,オランダの植民地で,オランダは国土も,国家財政も豊かで なく,古来富国強兵的なマーカンチリズムの思想が伝統的に強く,1598年インドネシアを 植民地化した当初より,国権主義的な植民地経営を続けてきた。

 (b)以上のような基本的考え方の相違から,政策の上にも両国に相違が見られる6イギ リス政府はマラヤ植民地の開拓に当っで政府自らは何等生産事業を営まず,これを自由 に同国人,中国人,マレー人の企業的創意と努力に任せ,政府は有能にして遠大な視野を 持った行政官をして,経済の下部構造たる,鉄道,道路,港湾,医療施設,農事試験場,

一部公共企業の整備に当らしめた。       ・  これに反し,インドネシアにおいては,オランダ政府は,政府自らが直接貿易企業に介 入し,ある種の産業(石油,石炭)については,政府と民間人の共同事業を営み,中央集 権的な植民地経営計画に合致せしあるよう,民間私企業を強く統制した。

 (c)第三に考えられることは,イギリスは,マラヤ経営に当って貨幣制度を発達せし め,全地域を統一的に管理せんとしたが,オランダは,インドネシアの経営に当って,そ の地域性の相違もあるが,各地の土侯を存続し,相互に対立抗争せしめるという分裂統治 の政策をとった。

 (d)第四に経済政策の相違があげられる。すなわち,イギリスは,世界の先進国とし

て,国内にすでに近代工業が発達していたから,マラヤ植民地の農産品,鉱産品を自国に

輸入し,逆に自国の工業製品を植民地に輸出することを目的とし,経済活動の一助を民間

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企業者に営ましめ,そのあげえた莫大な収益の中から,租税の形において,国家財政収入 を獲得する政策をとった。

 しかるに,オランダは,その本国において,いまだ尚見るべき工業も発達していなかっ たから,インドネシアの農産品,鉱産品を第1次産業のま\に,いつまでも維持せしめ,

物量の形において徹底的に搾取,これを欧州市場に売りさばくことによって,国家自らも 民間企業者も,その利益をあげるという方針をとっていた。従って,インドネシアに工業 の発達することは,かえって自国の農業植民地政策を危険にするものだとし,これを無視

した。

 以上の比較分析によっても明らかなように,マレーシアにおいてはイギリスの支配がな くなっても,経済開発の基礎たるべき民間人企業の技術や資本や経済力は,根強く残さ れ,それによって新らしい経済開発に取り組むことができる。マレーシアの経済開発にと って,必要なことは,ただ支配権i力の交替によって生じた,部分的な不均衡を調整するこ とであるが,これに反して,インドネシアにおいては,永年にわたる植民地圧制が今尚強

く残され,この国の工業開発,経済開発の阻止要因となっている。

 このような異質性は,同じイギリスの植民地であったマレーシアとシンガポール両国の 間に存在する。1963年9月シンガポールもマレーシア連邦成立のとき,その一員としてマ

レーシア連邦に参加したが,1965年8,月に人種的,政治的,社会的理由で分離独立した。

すなわち,マレーシアはマレー人を中心とした国家建設を目めざすに対し,中国人が75%

も占めるシンガポールでは,この点に納得が行かないのである。また経済問題にしても意 見が合わないのである。例えばシンガポール,マレーシア両国が共同で運営していた航空 会社MSA(Malaysia Singapore Air−lines)の分離が1971年1月突然発表されたことで

もわかる。この理由は,商業採算ペースにのることを原則とし,国際線の強化を主張する シンガポールと,国内政治面からローカル線の拡張を意図するマレーシアの考え方が一致 しないからである。それで両国では,各々別個の航空会社とした方がベターという結論に 達したためといわれている。

 さらにマレーシア連邦の核心であるマラヤ連邦の経済をみると,原始的生産様式による 米作中心のマレー人の食糧自給経済とゴム,スズなどの輸出産業を中心とする複合経済で ある。これはイギリスの支配下で典型的な植民地経済として発展してきたものであり世界 の景気変動によって左右される,極めて不安定な構造をもつ従属経済である。

 これに対し,シンガポールはわが国の淡路島ぐらいの島国であり,仲継貿易が中心とし て経済発展を考えており,最:近では工業部門の発展が著しく,当国を国際的な経済の動き の基地センターに育てて行こうとすることである。

 このように東南アジア諸国を十把一からげ的考え方はとれないものでそれぞれ異質のも のがあることがわかる。

 (註1) インドネシアの経済開発と日本の企業 坂口幹生稿,東南アジア研究年報第ll;集

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3.東南アジア諸国の同質性』

 前章で述彗たように,東南アジアの国々は,それぞれ国情も歴史も宗教も,人種問題か ら経済問題,その国の成立過程も異なるのであるが,そこには,何にか共通した目標があ るように感ぜられる。筆者は,これを東南アジア諸国の同質性と呼ぶことにしている。

 イギリス人にしろ,オランダ人にしろ,日本人にしろ,その長い植民地支配の時代に は,いろいろ苛酷な圧迫の歴史があった。それが今日の東南アジア諸国の社会,経済制度 に,経済的未開発諸国としての抜けがたい歪みを残しているのである。今日の東南アジア 諸国は,こうしたコロニアリズム(Colonialism)の遺産をいち早く清算し,政治的のみ ならず経済的にも自由な独立国として自立する途を懸命に摸索している。意識の上での

「脱西欧」そして経済力においての「西欧化」がこの地域の諸国に課せられた大きな課題

である。

 このような東南アジア諸国にみられる強然なナショナリズム(Nationalism)は経済政 策のみならず,マレーシアや韓国にみられるように言語政策ともなって,西欧や日本から

の意識上の独立を強く目指しているのである。脱コロニアリズムが東南アジア諸国に共通 して見られる第1の点である。

 つぎに東南アジア諸国に見られる第2の共通な点は,経済開発に必要な原動力は工業化 であるとして,東南アジア各国とも,工業化に熱意が強いことである。さらに,この工業 化を推進さす理由は,東南アジア諸国が輸出の大宗とする第一次産品が,世界の需要が減 退しているため,経済開発の主な原動力となり得ないという疑念である。

 このために東南アジア各国とも,工業団地を一定の地域に設け,工業化の促進と外国投        (註2)

資の奨励をはかるたあ創始産業法(The Pioneer lndustries Relief frorn Income Tax       (註3)

Ordinance,1959)を施行して,税法上の優遇措置を講じている。

 このように意識的に脱西欧,脱コロニアリズム,ナショナリズムの昂揚にも拘らず,現 実には,外国資本による急激な工業化の達成と新技術の導入をしなければならない厳しい 現実が,今日の東南アジア諸国のいつわらざる姿である。

 (註2)(a>マレーシア連邦には工場団地がいくつかある。重なるものつぎの通り。

     (1)ペタリン,ジャヤ(Petaling Jaya Industria工Estate)首都クアラ,ルユプー       ル郊外にある総面積736エーカーの工場地域で国際空港にも近く,立地条件は良好で       ある。筆者も見学したが,1954年 Petaling Jaya Corporation ordinance にも       とついて設立されたペタリン,ジャや開発会社によって,マラヤ連邦で初めて開発さ       れた工場地域である。以来10年余の聞,工業地,住宅地の造成が続けられ,マレーシ       アに進出している世界の一流企業の大部分はここに集中している。

     (2}スンガイ,レンガム,バッ,テイが工業地域(Sungei, Renggam, Batu,Tiga

      Industrial Estate)はペタリン,ジャや工業地域が頭打ちとなったためセランゴー

      ル州開発会社が新らしい工業地域として開発したものである。この地域は首都クァラ

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     ルユプールと良港Port Swettenhamの間にあり,これらと高速道路と鉄道で結ば      れており,国際空港とは10マイルの距離にあり,交通の便に恵まれている。

    (3)その他カマンテイン工業地域(K:ammunting Industrial Estate)

      タセ工業地域(Tasek Industrial Estate)

      メングランプ工業地域(Menglelnbu Industrial Estate)

      セナワン工業地域(Senawang Industrial Estate)等がある。

   (b)シンガポールージュロン工業地域(Jurong Industrial Estate)が有名であるこ        とは、前年の東南アジア年報で述べた通りである。1961年から本格        的工事を開始し,1968年現在の開発総面積3,650エーカー,操業中        の企業236,工場計画建設中100,(1970年5月現在)となっており        企業の大部分は日本,台湾,香港,フィリピン,英国,米国,オー        ストラリヤ,ヨーロッパ諸国などの合併企業で占あられている。

   (c}台湾一一高雄地域    (d)韓国一釜山,蔚山地域等

(註3)創始産業法(マレーシア)

   シンガポールの創始産業法については,東南アジア年報(1969年報)で述べているので,

   マレーシア連邦の創始産業法の要点のみ述べることとする。1965年4月1日マレーシア全    土に適用された。この法律によって創始産業(Pioneer Industry)の地位を附与された    会社は特典を与えられ,租税が免除される。マラヤ連邦ではマレーシア連邦成立以前から    工業化を促進し,外資を含めた資本の導入と新らしい商工業の育成をはかるため,1958年     (創始産業条例)を施行してきた。これを1965年の改正で中央政府の統制の強化,大蔵大    臣の権限の強化をはかった。主要な改正点は,従来まちまちであった免税期間を統一した    ことである。

    U}2年間の免税要件としては,固定資本支出の限度を設けない。

    (2)3年間の免税要件としては,固定資本支出の限度は25万ドル。

    (3)4年間の免税要件としては固定資本支出の限度は50万ドル。

    (4)5年間の免税要件としては,固定資本支出の限度は100万ドル。

   しかし,この創始産業法は1968年投資奨励法の施行にともなって廃止されたが,以上の租    税免除の期間は1965年の創始産業法のそれと同一である。

4.企業進出上の問題点

 東南アジア諸国は以上述べたように多くの異質点があると同時に同質点があることがわ かる。このような状況の中でわが国企業が東南アジア諸国に進出する場合考えなければな

らない多くの問題点がある。これを列挙すればつぎのようなものが考えられる。

 囚 政府の外資導入政策  (B}市場調査

 (C)労働事情

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 (D)租税制度と投資奨励措置  (E)現地の国民感情と対政府交渉

{a)政府の外資導入政策

 企業が東南アジア進出する場合,一番理想的なことは,その国の物価が安定し外資不足 も比較的少く,経済的状況は安定していることでありまた工業化を促進するため外資の保 護と利潤送金の自由,投資奨励法による免税措置,工業団地の造成,電力,水力,水道,

道路,通信,港湾などの整備されていることである。このような条件が充たされていると 思われる,シンガポール,マレーシア,タイ等がその適例である。

 マレーシアは,東南アジア諸国中では所得水準も高く,人種対立からくる政治的摩擦,

ゴム,スズの先行不安など問題はあるが,物価も安定し外資不足に悩まされることも少な く,経済的状勢は安定しているなど,企業進出には比較的恵まれた環境にある。マレーシ ア政府も独立以来工業化を促進するため外資の保護と利潤送金の自由,投資奨励法による 免税措置,工場団地の造成等,一連の外国資本導入の政策を積極的に行っている。しかし 政府は外国資本の全く自由放任を認めているのではなく,経営管理に極力現地人を登用す ること,マレー人雇用の促進,最底15%のマレー人への株式配分,外資出資比率の多い企 業に対する地元金融の制限など行政指導を通じて,企業のマレーシア化を促進する傾向 が,一方にでてきている。これは第二次大戦後,新興国家にみられるナショナリズム傾向 であると同時に,マレー人の工業分野への進出と経済的地位の向上も図るという,政府の 意図を反映するものといえる。したがって企業進出にあたっても,このようなマレーシア 政府の政策を理解し,配慮する必要がある,

 シンガポールも同じように,シンガポール経済の将来の発展は,工業化の成否にかかっ ているとし,シンガポール政府の工業化にかける熱意はなみなみならぬものがある。1961 年はじめてジュロン工業団地の造成に着手して以来,シンガポール政府は工業化の促進の ため労働関係法の大巾な改正,創始産業法による税制の優遇措置等,投資環境の整備に努 めている。それがマレーシアから分離型,工業化の基本方針は大転換を遂げ,国内市場め あての企業化は問題外であり

(1)輸出産業であること。

② 技術的に高度なものであること。

 この2点に工業化の中心をおいているシンガポール政府は今後この方針をさらにおしす すめ,造船,製鉄,石油化学等の重化学工業実現に意欲をもやすものと思われる。

(B)市場調査

 東南アジアに企業進出を図る場合,その国の需要予測,競争関係,流通機構,代金決済 方法等の市場調査を充分にする必要がある。

 開発輸入を目的とした企業進出での需要予測は,日本の側の経済事情によって予測し得

るので,あまり問題とならないが,その国の国内市場を目標とした場合は,現地の各種統

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計を利用するのが,良いのであるが,どこの国も独立後日も浅く,細い統計資料が整備さ れていない。マレーシアやシンガポールでは平均所得水準は高いが所得の格差が大きく,

低所得層が多いたあ有効需要がそれほど大きくないといわれている。人種により風俗,習 慣も異なっており,一管にみるわけにはゆかない。地域差もあり,人口の集中状態も異な るので市場規模に見合う企業規模を考えるべきである。現状では従来からの取引経験と現 地代理店の情報などに依存することが多いようである。

 つぎに検討すべき問題は競争企業の現状及び輸入商品との競争力,輸入制限及び保護問 題がどの程度受けられるかである。進出企業はパイオニヤ産業の指定を受けて進出する場 合が多いが,現地政府は,その指定にあたって2つ以上の企業を指定し競争させることに よって,価格をつり上げ防止することを原則としている。特定のパイオニア商品に対して 保護関税が設けられた場合,その有利性を利用して利にさとい中国人業者がパイオニア企 業の指定がないのに,商品の製造を始ある事例があるとのことである。また先進諸国の企 業が,その国の市場取得のため競って進出するため,同一業種に多数の企業が集中する場 合もある。これらの点注意すべきである。

 つぎに製品販売上の問題として,考えられるのは,いかにして製品を販売するかという ことと,代金決済方法を知ることである。マレーシアやシンガポール等中国人が多く活躍 しているところでは,卸小売は大半が中国人商人にとられ,一部業種でインド商人が握っ ている。したがって企業進出に当って,販売網を整備することは,信用ある有力な販売代 理店の協力を求めることが必要である。日本の進出企業の進出以前からの取引会社を,そ のま\販売代理店にしている場合が多く合弁会社を作って進出する場合でも,提携先が現 地の有力販売会社であることが多い。筆者が知っている日本の企業でオランダ系企業と提 携している企業もあるが多くトは中国人である。中国人は商業取引の才能にすぐれ,考え方 が投機的で資本の固定を嫌い資本の早期回収をはかるため,利益配当の計上に熱心である が社内留保を多くして,経営基盤の安定をはかるという傾向がなく,短期間に好収益が得 られぬと,仕事に興味を失うという性格があるさうなのでこれらの点も知っておく必要が

ある。

 企業進出の場合,その成否は一つに何よりも現地提携者の選択にか\っていると思われ るので販売能力のある提携者を選ぶことが大切である。そのため提携相手の企業内容,経 営者の手腕など詳しい調査が必要である。

 販売網の整備とともに代金決済の適正化が販売政策上重要である。中国人相手の代金決 済は一般に2ケ月,3ケ月の決済期間が必要なわけであるが,時には4ケ月,6ケ月ぐら いの決済があるそうなので運転資金を充分に用意する必要があると,現地進出の日本人企 業経営者はいっていた。

◎ 労働事情と労働政策

 東南アジアに企業進出する場合当然その国の労働者の供給状態,雇用条件,その国の労

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働政策及びその国の労働関係法など,熟知しておく必要がある。

 例えばマレーシアでは独立以来,現地人(マレー人)優先雇用塞出を実施し,19β5年11 月から5ケ年計画で民間企業でも,外国人雇用を現地人を採用する政策を行い,管理職は 1970年までに60%,1975年までに80%,1980年はIOO%を現地人が占め,非管理職では1970 年まで75%,1975年までに100%の現地人化を達成することを目標にしている。

 これと平行して,政策はマレー人の工業への参加を促進し,その経済的地位の向上をは かるため,外国合弁企業では,つとめてマレー人を雇うよう行政指導を行なっている、こ のため今回訪問した日本進出企業でマレーシアで営業活動をしなければならないので有能 人材を大学側に要請していた。

 マレー人雇用の促進については,作業能力の面でマレー人と中国人では,かなりの差が あり中国人工員の作業能率は日本人工員の70%〜90%位であるが,マレー人は50%〜70%

ぐらいであるため,企業は中国人労働者を多く雇用したいと望んでいるようである。しか し,政府の方針もあり,各企業ともマレー人の採用に留意しているようである。企業内の 人員配置,苦情処理に人種関係に注意が払われている。

 シンガポールでは1968年8月雇用法(Employment Act)を制定するとともに,労働 関係法(Industrial Relations Ordinance)を断行し,諸外国の投資を誘致しやすいよう に取りはかった。雇用法の主なる内容は労働時間の延長(週39時間から週44時間)超過勤 務時間の制限(1週48時間以内)をはじめとし,各項目について規定し,生産性の向上を 図り,実質的な労賃の低位安定をねらうとともに,できるだけ多くの者に就労の機会を与 えようとしたものである。一方労働関係法の改正においては,工場における人員配置,昇 進,解雇等はすべて使用者の権限であることを明示し,過激な労働運動を制限しようとし ている。これらのことは,前集(東南アジア研究13集)で発表してあるが,シンガポール における失業問題,就職問題は工業化による雇用促進とともに重要な問題である。

 このように東南アジアに企業進出する場合,各国の労働事情や労働政策を熟知する必要 があるが,現地人の指導にあたっては回教徒,特有の風俗,習慣,使用言語等,熟知する 必要があり,又マレー人,中国人と人種により,風俗習慣が異なり,同じ中国人といって も出身地方によって広東語,北京語と異っており,この言語の相違がお互の意志疎通欠く などの問題を,予め知っておく必要がある。さらに現地人労働者は近代工場における経験 がないため服務規律になじみが薄く,組織的協調性を欠く面もあるので,技術指導ととも に,近代企業にふさわしい人間教育に力を入れる必要がある。

(D)租税制度と投資奨励措置。

 つぎに企業進出に当り熟知しておかなければならないことは,進出する国家の租税制度

とその国の投資奨励政策である。例えばマレーシアを考えて見ると所得税は個人及び法人

に課せられることは,わが国と同様であるが,原則として個人は最底6%から最高50%の

累進税率により,法人は居住法人であると非居住法人であるとを問わず40%の比例税率に

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より,課税される。その外にマレーシア独特と見られる補完所得税というのがある,補完 所得税はつぎのスズ,ゴムに重点をおいている。

(1)スズ利潤税(Tin Profit Tax)一スズ鉱業の超過利潤に対し課せられる。

(2)開発税(Development Tax)一開発源泉所得に対し課せられる。

(3)森林利潤税(Timber Profit Tax)一森林業の超過利潤に対し課せられる。

 その他相続税,地租税,消費税,関税等は他の国と同様であるが注目せられるものに,

減価償却制度がある。減価償却は(1)機械及び設備(2)産業用建造物について認められ,つぎ の三種の償却の組合せによって行なわれる。

(1)期首償却(initial allowance)一資産を購入したときに行なわれる。

(2)年次償却(annual allowance)一毎年一定の償却率で資産の効用持続期間にわたって  行われる。

(3)差額償却(belowing allowance)と差額賦課(belowing charge)一事業の継続中資  産を売却又は廃棄した場合に生ずるcapital gain又はcapital lossに対し,差額賦課  又は差額償却が行なわれる。すなわち,売却価額または廃棄価額が資産の未償却額より  も,低いときはこの差額の償却を認め,逆に未償却額を超えるときは,この差額に課税  するのである。さらに注目される特徴は所得が減価償却額より少なくなったために,そ  の年度において十分な償却を受けられなかった場合においては償却を受けられなかった  部分は繰り越されて,次後の年度における同一の所得から控除として認められ,以下の  年度について償却しつくされるまで,続けられることがある。またこの国の重要産業た  るゴム,スズ関係についてもつぎのような特典を与えている。

 マレーシア連邦内において栽培(Plantation)または森林に関する業務に従事する者 が,課税年度内において当該栽培または森林について資本的支出を負担した場合において は,資本的支出金を負担した当該課税年度及び続く9課税年度において当該資本的支出金 の10%に相当する所得控除が認められる。ここにいう栽培または森林に関する資本的出金 とは次に掲げるものに対する支出金をいう。

(イ)産業用建造物もしくは構築物,または道路に対するもの 回 栽培のための土地の整地に関するもの

㈲ 栽培(移植を除く)に関するもの 目 従業員の福祉施設に関するもの

 ただし機械及び設備の据付けまたは土地もしくは作物の取得のための支出金は含まれな

いとしている。つぎにスズ関係については不成功に終った鉱山業務に関する支出控除とし

てマレーシや連邦内における鉱床の合法的な採査,発見及び検査,または採掘のための支

出金を負担した者が,それらに関連する事業を営むことなく,当該活動を放棄した場合に

おいて,当該活動に関してもっぱら支出された金額は,当該活動が放棄された課税年度に

支出されたものとして控除が認められている。

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 課税年度は一般に官報によって,指定する日から12月間ということになっているが,現 在では1月1日から12月31日までの暦年によるのが原則とされている。

 東南アジア進出に当って,その国の租税制度を知る必要があること勿論であるが,企業 の多くはその国の租税免除の特典があるかどうか知る必要がある。マレーシア連邦では従 来「創始産業に対する所得税免除に関する法律:(The Pioneer lndustries Relief from Income Tax ordinance)を施行してきたユ968年に同法を拡充し,特別措置を追加した

「投資奨励法」(Investment Incentives Act,1968)を実施に移した。シンガポールでも 従来あった創始産業法を拡充し経済拡大法を制定し各種税制上の優遇措置を講じているこ

とは発表した通りである。各国共創始産業に対する恩典は類似しているが,マレーシアの 投資奨励措置について,その重なるもののみ述べることとする。

(A)創始産業に対する免税

 (1)創始産業としての要件(第4条)

   創始産業として所得税の免除の特典を受けるためには,次に掲げる要件の双方を充   足するものでなければならない。

  ㈲ 当該産業はマレーシアの経済的必要性に即応した商業的規模(商売として引き合    う規模)で現にマレーシア内において営まれているものでないこと,および   同 産業として将来の発展につき,良好となる見通しのあるものであること主務大臣    は,企業から申請があった場合において,前述の要件のいずれについても満足すべ    きものと認め,以下の行為をなすことが公共の利益に資するものであると判断する    場合においては,次に掲げる事項を記載した告示を官報で公表する。

   (i)当該産業およびその特殊生産品を創始産業および創始生産品と指定する命令を     下すことは,公共の利益に資するものであると考慮する旨,したがってこの命令     を下すことを提案する旨の宣言。

   (ii)提案せる命令の形式,すなわち,その中には大臣が課することを適切と判断す     る条件および制限が含まれている。

   (iii)提案せる命令に異議のある者は,その異議の内容および異議の根拠を文書をも     って,当該告示に指定する日(告示の公表の日から一カ月以内の日)までに主務     大臣に対し申し出るべきこと。

 (2)創始産業の申請

   企業が創始産業としての指定を受け,創始生産品を生産しようとするときは,創始   産業およびその生産品に関する明細,生産予定日,生産率その他を記載した所定の書   面を主務大臣に提出しなければならない。

 (3)所得税の免除

  (イ)免税期間一所得税の免税期間は,投下資本により次のようになっている。

(11)

   工場および機械に対する投下資本    最高免税期間      250,000ドル以下…・・………・…2年      250,000ドル超 ……・…・…・…………・…・・3年      500,000 〃  ………・……・…・…4年.

     1,000,000 〃  ………・…・…・……… 5年

 なお次のような条件に該当する場合,申請により免税期間が各項目ごとに1年だけ最長 3まで延長される。

(1)開発地域に創始産業工場を建設した場合

(2)商工大臣が優先産業と宣言した事業の場合

③ 指定された国産化率によって生産する場合

  同 免許所得一創始産業の免税期間中における各事業年度の所得額は,所得税法に    定める通常の方法によって計算される。かくして計算された所得金額は,所得税法    に定める賦課告知書と同様に各事業年度につき創始産業に通知される。この通知さ    れた所得金額が免税所得額となる。

(4)賃金税の免除

   パイオニア産業は所得税の免税期間に係る賃金税を免除される。

㈲ 配当に対する免税(ただし,現行法では株主に対する配当課税はない)

   創始産業の所得金額が上に述べたところにより免税されることになると,当該免税   所得金額は,創始産業勘定に貸方記入されることになる。しかして,当該免税所得か   ら株主に対し配当が支払われる場合においては,当該配当に対し株主が納付すべき所   得税は免除される,ただし,免除されるのは,所得税検査官が当該配当に関する記帳   が正確であると判断する場合に限られる。

   免税配当を行なった創始産業は,所得税検査官に対し,当該支払勘定に関する写し   を提出しなければならない。

   所得税検査官が創始産業の免税所得または株主の手中において免税とされる配当に   ついて

  (イ)創始産業所得に関する所得税検査官の命令(事実の確認等による更正を意味す    る)または,

  回 創始産業の取消しに基づき,所得税を免税すべきでないと判断するに至ったとき    は,上に述べた命令または取消しの日から6年以内の何時なりとも,パイオニア産    業または当該会社の株主に対し追加課税を行なうことができるものとする。

 (6)免税期間中の損失の繰延べ

   創始産業がその免税期間のすべてにわたり,その営む事業もしくは営業について損

  失を破った場合においては,当該損失額は,免税期間の終了とともに新たに開始した

  とみなされる新規事業もしくは営業において発生したものとして取り扱われる。損失

(12)

  の取扱いについて規定した所得税法第37条(損失の無制限繰延べ)がこの場合に準用   されることとなる。

(B)投資税額控除

  創始会社以外の会社が,承認されたプロジェクトを遂行するために工場,機械プラン  トまたはその他の装置に対してなした資本的支出については,25%以上として大蔵大臣  が定める率による投資税額控除が認められる。

  投資税額控除は,控除すべき税額が存しない場合を除き,原則として資本的支出が行  なわれた年度においてのみ認められ,プロジェクト承認後5年を超えて後になされた支  出には適用がない。

 なお次に掲げる要件を満たす場合には,各要件につきさらに5%を追加して控除され

る。

 (イ)工場が開発地域にあること  回 優先産品を生産すること

 内 マレーシア産原材料品を一定率以上に用いること

(C)輸出促進措置

 (1)輸出関連経費の控除

   大蔵大臣の定める規則に規定するところに従い,所得税法上の必要経費の枠外にお   いて,次に掲げる費用の控除が認められる。

  1イ)海外での広告費   同 海外への見本の提供費   ㈲ 輸出市場の調査費

  目 その他輸出に関連する諸経費  (2)加速減価償却

   居住会社に対しては,施設の近代化を図るためになした資本的支出について加速度   償却が認められる。このこの加速減価償却が認められるためには,会社は,その生産   品の20%以上を輸出に向けなければならない。

   償:却率は年率40%であるただし,この加速減価償却は普通償却に代えて認められ,

  第一次産品の輸出業者,創始産業および投資税額控除の適用者には認められない。

 (3>輸出控除

   もっぱら,創始会社のみに適用され,非居住会社および第一次産品の輸出業者には   この控除の適用はない。この輸出控除は,輸出増加額,基本給500ドル以下の被用者   への支払賃金および輸出品に用いられたマレーシア産原料品と関連を持つ。

   すなわち控除額は前記の支払賃金額と原材料品価格の合計額1ドルにつき20セント

  を輸出増加額の総売上高に占ある割合を限度として算出する。

(13)

   VE−AV

         ×{(支払賃金+原材料品)×20%}VE:総輸出高 AV:過去3年

    GS

   間の平均輸出高 GS:総売上高  (4)賃金税の還付

   登録生産品の20%超を輸出する登録会社に対しては,輸出高の総売上高に対する割   合を限度として,賃金税が還付される。

   なお創始会社に対してはこの制度の適用はない。

㈲ 現地の国民感情と対政府交渉

  戦後独立した新興独立国家は,どこでもそうであるが,民族意識が強く,企業経営に  あたって,国民感情を刺戟しないよう注意が必要である。

  第二次大戦中の被占領地であり,戦前の日貨排斥,また最近のバンコックにおける日  貨排斥運動,戦時中の抗日運動の歴史を忘れてはならないことである。東南アジア諸国  では,工業生産における外資系企業の比重は,年々増加してゆくが,民族資本をいかに  育成して行くかは,東南アジア各国の重要な関心の的であり,今後の課題でもある。

  日本の企業も現地進出にあたって,育成産業としての指定免除措置,出資比率など,

 進出当事国と折衝すべき事項が多く,企業誘致のための優遇措置を最大限に活用し,有  利な条件で進出することが必要である。例えば原材料,蔀品等輸入に対する免税,製品  の政府買付などの措置や製品が輸入との競争力に欠げる場合には,保護関税の要請等対  政府交渉も重要である。

 (註)本章作成については,、マレーシア,シンガポール 経済と投資環境見出昭編を大いに参照    さしていただいたことを感謝す。

5.東南アジア諸国における日本人観

 最近ゐ日本では,東南アジア諸国に対する経済援助,技術協力ということで,こ\数年 間わが国の企業進出は著じるしい。また日本政府派遣,コロンボ計画などには,日本人技 術者の東南アジア諸国への派遣も増大している。

 こうした企業進出,技術協力が進めば進むほど,起ってくる問題は東南アジアで働く日 本人たちが,現地でどういう態度を示し,また現実にどう受けとめられているかというこ とである。東南アジアで,しばしば聞かれる日本人に対する悪口 エコノミック・アニマ ル という言葉は,こうした現地の日本人の生活態度とも関連している。

 東南アジアにおける経済活動のはげしいのは日本のみではない。イギリス,アメリカ,

西ドイツ,中国,オランダ等の企業活動は活発である。特に旧植民地諸国におけるイギリ スの政治的,経済的,支配力は依然として強大であり,アメリカの東南アジア諸国に及ぼ す影響力は,日本にくらべて劣らず強大である。しかるにイギリス人やアメリカ人等西欧 人には悪口が聞かれないのに,何故日本人のみ エコノミック・アニマル とか みにく い日本人 とかいう非難を受けなければならないだろうか。

   (註1)

(14)

 この問題に関して,マラヤ大学に客員教授として,マレーシアに滞在しておられる早稲 田大学鳥羽欽一郎教授は,つぎのように述べておられる。「現在東南アジア諸国に住み,

      (註2)

何らかの形で,それぞれの国の経済発展に協力し,努力している多くの日本入に対して,

努力すればするほど,率先して働けば,働くほど「エコノミック・アニマル」といわれる のでは,割に合わない。とすれば日本人の東南アジアに対する期待と,東南アジア諸国の 日本に対する期待とが,どこかで狂っていて,歯車が合っていないのではないかという気 がする。一体どこが狂っているのであろう。としてつぎの三点を指摘ておられる。

第一に,日本政府の対東南アジア政策にアジア人としての日本の,はっきりとしたヴィ ジョンがないことであろう。とし,いまだに対米追従外交に終始し,アジアのアメリカた らんというのであれば,いくら 美しい日本 のイメージを売り込んでも,東南アジアか ら白眼で見られるのは当然である。

 つぎに,日本の野党,そして大新聞までアジアは中国しかないような調子であること。

しかし,東南アジア諸国における対中国政策は各国の民族的ナショナリズムばかりでな く,華僑問題もからんで,極めて微妙であり,日本のように,アメリカから中国へといっ たような簡単なものではない。いってみれば,日本の政府,野党,そして新聞世論まで

も,西欧に比肩する経済大国としての国策を論じ,十把一からげ的に,西欧的な眼でしか 東南アジアを見ていないような気がする。いずれにしても,日本の東南アジアに対する顔 は,同じアジア人としての親近性のあるものでなく,西欧人のそれに似た冷たいものであ る。反発を買うのも別に不思議はない。と,

 さらに,第3点として東南アジアに駐在する日本の商社マンやメーカーの従業員及びそ の家族の態度である。日本の政府や新聞がこの調子だから,駐在員も,まず直接に所属す る企業への献身,間接的には,経済大国日本への貢献が,第一の使命感として現われてく る。激しい国際的経済場裡での競争,それに打勝つための市場と資源確保,これは,もは や,東南アジアの人々の期待するアジア人としての日本ではない。まさに,イギリス人,

アメリカ人と同じ西欧人としての日本人なのである。

 これと同じようなことを,最近の紙上で朝日新聞が,バンコックの日本の駐在員の現地 での態度を報じている。「父親は日夜,企業のために,あくまで本社に目を向けて仕事を         (註3)

し,母親は,日本の名門校に入れようとする教育ママであり,子供は母の目を背に机にか じりつく。まるで物の怪(け)にとりつかれたような日本人の姿はタイ人の目にそれは異 様に映る。このような日本人の形づくる社会の特殊性はタイの華僑社会と比べると際立っ て目立つのである。」と。

 また日本人の商売の仕方についても,同じ紙上で,つぎのようにいっている。 群がっ て目的に猪突猛進する集団ヒステリー性 思考の原点を欠いた無節操な振舞,その画一性 と強烈な帰属意識一これらが私たち(タイ人)に内在する奇妙なことであると。これら       (註4)

は,日本人社会の集団主義や閉鎖性にもあつかって力があるが,しかし同じ皮膚をし,容

(15)

貌もたいして変らない日本人が,長い間支配者として君臨した西欧人と殆んど変らないと いうのは,アジア人としての日本人に対する期待が裏切られたという感情があるのではな かろうか。

 さらに東南アジア諸国には,自動車,テレビ,ラジオ,テープレコーダー等日本品が はんらん し,経済大国日本,工業大国日本のイメージが強く,先きの大戦のときのよ うに,今度は経済大国になった日本が経済侵略を行うのではないかという不安が存在して いるのではなかろうか。

 筆者がマレーシアのあるオランダ系資本の商社を訪問し,その支店長に日本人が何故 エコノミック・アニマル といわれるか質問したのに対し,その商社は日本のある企業 の代理店をやっているが,日本の企業の多くは,現地の代理店を通じて始めは販売をする が,業績がよくなると,代理店契約を破棄し,自分が支店を出し,その販売網を利用し,

従来の現地居住者との関係を悪くするような点があるといわれた。このようなことも原因 の一つではないかと。

 最近における東南アジア各国にみられる工業化への熱意は,なみなみならぬものがあ り,そのための外資,技術の導入は,かなり積極的に行われていることは前述したとおり である。しかしながら長い歴史を通じて苦んだ植民地的経済支配に対して,激しい反発が 示されている。

 日本に対する東南アジア諸国の眼は,アジアの経済大国としての日本に対する期待が大 きいだけ,それだけ余りにも西欧的になった日本に対して エコノミック・アニマル

エロー ヤンキー などという悪口となって,はね返って来るのだろう。

(註1) バンコック報告 ,朝日新聞,昭和48年1月12日版

(註2)純計アジアから見た日本 書窓 昭和47年2月号東洋経済版

(註3)全上,朝日新聞

(註4)山上,紙上に昨年12月タイの地元紙サイアム,ラットは一頁大の日本特集、みにくき日本    人 を掲載した。チヤロー,ユージエンというこの記事の筆者は,日本旅行から帰ったば    かりであった。彼は「日本人は私たちより,ほんの少しばかりすばしこいアジア人だと思    っていた。しかし違った。顔はアジア人だが,西洋人づらをする奇妙な種族だった」と。

6.結

 それでは,日本が東南アジア諸国の経済発展に協力し,国民生活水準を向上さす方策に 寄与し,か\る非難をなくする方法はないものか,検討する必要がある。

 この問題について前述した鳥羽教授はつぎの二点をあげていられる。まず第一には,日 本自身が西欧的見方を捨てて,同じアジア人として協力するという,はっきりしたヴィジ

ョンを打出すことであると。

 このことは個々の企業や個人についてもいいうることで,東南アジアに派遣され働く人

(16)

々は,第一級の人物でなければならないと主張される。今日東南アジアは経済的には,ま だ低水準かも知れないが,その誇りは,西欧人や日本人以上に高いからである。この点筆 者も同感である。

 企業進出する場合は,特に社員の派遣には人選を要することを痛感する。筆者が現地に 進出している企業の責任者から,東南アジアでは人数が少くて,最大の効果をあげねばな らないから,良い立派な人物を世話して下さいと言われたことが今でも頭に残っている。

 第二は,現地で働く人々の顔は,日本に余りに向き過ぎていることである。大使館は外 務省に,企業は本社に,そして学者は本国の学界に余りに顔を向けすぎているのではなか ろうか。日本人の意識から,西欧崇拝,アジア蔑視の観念が抜けきらず,また本国のため に仕事をしているのだという出稼ぎ根性があることを指摘される。そして現地に正しく顔 を向け,現地の人々の中に足を下ろし,ここに骨を埋めるという気慨がない限り,東南ア ジアの人々の期待には,こたえられないような気がする。と。

      (註5)

 この第二の問題について,同じようなことを言ったアメリカ銀行バンコック支店長アー レンス氏の日本人批判が,前述の朝日新聞紙上に掲載されている。すなわち「日本人は特        (註6)

殊な集団だ。アメリカ人は自分のため家族のたあに働く。日本人は日本のため,会社のた めに群がって働く。だから目立つ。アメリカ人は目立たない。バンコックで5千人もの日 本人が日本のために働いていると思うと,やはり不気味になる。自分は近くボンベイに転 勤する。自分のためにならないと思えば行かないが,日本人ならそう思っても行くだろ う。」と。

 以上述べられている問題は,大いに傾聴すべきご意見であると思う。なお,これと関連 して東南アジア各国に多数の中国人,すなわち華僑とよばれる人々が定住し,商業に経済 社会に大いに活躍しているのに,これらの人々には何の抵抗も生じないのは不思議な気が する。これはどこに原因があるのであろうか。

 この原因につき,前述の朝日新聞紙上でつぎのように述べている。「タイに3,500万人 というタイ人口の10人に1人はは華僑といわれる。日本人に比べれば,圧倒的に多い。が エコノミック・アニマルともいわれないし,排斥運動も起らない。バンコックのサイアム

・モーターのタバン社長(中国系)は「日本人も華僑もタイで金をかせぐ。日本人は全部 持ちかえるが,中国人は家族ぐるみでタイで使う」とその違いをいう。中国人はタイに来

る以上,そこで骨を埋める。親はタイ国籍をとり,子はタイ人として生れる。日本人は期

限を切ってやってくる。帰る人なのだ。自分がいる問だけ与えられたノルマを果せばいい

というのが日本人だ。と日本企業のある幹部も華僑との相違を認めた。大半が個人商店の

華僑は,タイで生活をかけている。日本人の多くは,自分の仕事が本社でどう評価される

かに気をつかい,人事異動期ともなれば,ソワソワする。「腰かけ」だから。タイ語を学

び,タイ社会にとけ込む気などさらさらない。おまけにタイ人を見下す強いエリート意識

がちらつく。などとタイ駐在の日本人のことを述べている。これらの諸点は筆者も東南ア

(17)

ジア各国訪問中に強く感じたことである。

 要するに,東南アジアの各国にとっては,米国についで自由世界第二位の国民総生産

(G.N.P)を達成し,工業大国,経済大国になった日本は,  希望の星 である。米国 がアジアから後退するにつれ米国と同盟関係にある日本が,その埋合わせを要求されるこ

とは自然な成行きとして見逃せないことであろう。

 日本はアジア唯一の工業先進国として域内の経済協力に主導的役割を果したいという意 欲を持ちながら,土壇場となると発展途上国の後仕末はごめんだとし,しり込みをしてい る現況なので,日本が果してアジア諸国の全面的信頼を得られるかどうか疑問視する向き

もある。

 故に日本の今後の東南アジア諸国に対する態度は,真の経済協力とは何かという問題を 真剣に考える必要がある。先きにシンガポールのリー首相が,日本人記者団に最近話した 談話を引用すると,それは 援助より合弁 を強く望んでいることである。これを敷       (註7)

街(ふえん)する意味で日本に関する部分を引用すればつぎの通りである。

 ω 日本はアジアで,米国がベトナムでやったような軍事的役割を果たすようになると は思わない。日本は技術的供与,貿易の増加,原料だけでなく製品も買う一などの活発な 経済活動によって政治的役割を演ずることができる。

 @ 日本の経済活動や企業への批判は,より多くの援助をほしい諸国から出ている。シ ンガポールは,これらの諸国と同じ分野に入れてもらいたくない。シンガポールは日本か らの援助はほしくない。われわれのほしいのは,日本にも利益をもたらす合弁企業であ る。と

 このリー首相の発言は,日本の今後の東南アジアに対する真の経済協力の在り方を示す ものとして注目に値いする。

 本年(昭和48年)4,月ll日から,アジア諸国を中心に世界約51ケ国の代表を集めて,東 京芝公園のプリンスホテルで開かれた国連アジア極東経済委員会(エカフェ)の総会で日 本は東南アジア諸国の期待を一身に集ある格好になった。これは日本政府代表の大平外相 が,総会の2日目にエカフェ諸国が工業化を達成するためには,まず「農業の基礎固めが 必要」と,域内の開発の推進機関として「農業機械研究所」の設立に全面協力の意向を表 明したことが,大きく響いているといわれる。

       (註8)

「農業を基礎に,工業を導き手」とする中国の経済建設路線の成功に,貴重な教訓をくみ 取っている東南アジア諸国に,大平外相の発言は有意義なことであったであろう。

「農業を基礎に,工業化を推進する」という考想は,東南アジア経済問題に関する世界的 権i威であり,最近公刊された報告書ラ・ミント(:Hla My int)教授の報告の中に 緑の 革命 として強調されている学者の報告とも一緒するのである。筆者も,ラ・ミント教授        (註9)

の報告を監訳された小島教授と同じく,この報告書は,東南アジアの今後の着実な経済発

展のための指針となるものであろう。従来からの東南アジア諸国に関する報告は先進国人

(18)

の眼で発展途上国経済を分析し,先進国の立場から政策への注文をつけ,先進国の役割を 論ずるものがほとんどあった。

 これに対しミント報告書は,東南アジア発展途上国がその人的,物的資源を活用して,

自力で開発を進めるためのビジョン,自助のための国内経済政策を一貫した経済理論の線 に沿って明確に打ち出している点に最大の貢献がある。

 大平外相のエカフェの発言も,中国の経済建設路線の成功やこのミント報告書等が参考 となって,打ち出されたものと思われるが,日本の今後の東南アジアに対する態度として は,立派なものと思う。東南アジア諸国に対する日本の立場なり,責任はますます重くな って行くことだろう。

(註5)、東南アジアからみた日本人  鳥羽欽一郎稿、書窓  東洋経済社発行

(註6)朝日新聞紙上        昭和48年1月12日版

(註7)  全上      昭和48年5月6日朝刊

(註8)  全上      昭和48年4月22日朝刊

(註9)、70年代東南アジア経済  ラ.ミント著 小島清監訳 日本経済新聞発行

   ラ.ミント教授はビルマ人であるが,若くしてイギリス,アメリカに学び,一時祖国にか

   えり,ラングーン大学の創設に参与し,二十代にして同大学の総長に選ばれたが,祖国の

   社会主義化の圧力に反発し,職を辞して再びイギリスに渡り,オックスフォード大学教授

   を経て,現在ロンドン,スクール,オブ,エコノミックス教授の地位を占めている。主著に

   煕The Economics of the Developing Countries, London,1964.及び最近Economic

   Theory and tmder developed Collntries, London,1971がある。

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