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斜面を転がる球の衝突実験の物理学的考察

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(1)

BuH.FacEducHlrOSakiUnlV,94▲19‑28(Oct.2005)

斜面を転がる球の衝突実験の物理学的考察

一小学校および中学校の理科教科書に記載されている実験を題材 として‑

AStudyoftheCollisionExperimentofaSphereRollingdowna Slope:UsingtheExperimentDescribedinScienceTextbooksof

PrimarySchoolandJuniorHighSchool

郎*・古 由美子*・野土谷 子**

ItsuroYAMAMOTOIYumikoKOGAWA.MomokoNOTOYA●'

論 文要 旨】

中学校 理科 第 1分 野 「エ ネルギ」の単元 で は.高 い位 置 にあ る物体 が もつエ ネ ルギー を調 べ る実験 と して, 斜 面 を転 が る球 を木片 に衝 突 させ る実験 が教 科 書 に記載 されて い る。教科 書 で は.球 の もつ位 置 エ ネ ルギ ー が木片 を押 す仕事 に使 われ る と解 釈 し, 木片 の移動距 離が球 の 質量 に対 して比例 す るグ ラフ を掲 載 してい る が,実 際 に実験 してみ る と比例 しない こ とが わか る。 本研 究 で は,得 られ た実験 結 果 を解析 し,球 と木片 の 運動 を詳 し く考 察す る。

キー ワー ド :中学校 理科 第1分 野 「エ ネルギー」,小 学校 理科5年 「お も りの はた らき」, お も りの衝 突実験 器

$1.は じめ に

中学校 理科 の学 習指 導要領 1)の 内, 1分 野

(5)運動 の規則性 (ア)省 略 (イ)省 略

(ウ)エ ネル ギー に関す る実験 や体 験 を通 して, エ ネ ル ギ ー に は運 動 エ ネ ル ギ ー. 位 置 エ ネ ル ギ ー, 電 気 , 熱 や 光 な ど様 々 な もの が あ る こ と を知 る と と もに, エ ネ ル ギ ー が 相 互 に変 換 され る こ と及 びエ ネ ル ギ ー が保 有 され る こ とを知 る こ と

の 内容 を受 け て, 中学 校 理科 の教 科 書23)には, エ ネルギーの章が設定 されて い る。 そ の 中で. 高 い位 置 にあ る物体 が もってい るエ ネル ギー を調べ る実験 と して,球 を斜 面 か ら転 が して木 片 に当て.

木 片が動 く距 離 を測 定す る実験 が あ る (図1の上 )0 教 科 書 で は.木片 の移 動距 離 が球 の高 さ と球 の質 量 の どち らに も比 例す るグ ラフ (1の下)を便 っ

,「グ ラ フか ら.物体 の もつ位 置 エ ネ ルギー は, 物体 の高 さが 高 いほ ど. 質量 が大 きい ほ ど大 きい こ とが わか る」 と記 述 して い る。 これ らの グ ラ フ と記述 か ら,球 の もつ位 置エ ネルギ ー は.球が 木片 を押 す仕事 に使 われ る と解 釈 して い る こ とが わか る (詳 しくほ.42.で論 じる)。しか しなが ら, 実 際 に この実験 を行 ってみ る と,木片 の移動距離 は球 の質量 に対 して単純 に比 例 しない。す なわ ち, 上 の解 釈 に は問題 が あ る。 以上 の事 実 は,教科 書 会社 の指導 書4・5)を見 て も何 も触 れ られ てい ない。

図1と同 じ実験 は, 小学校 理科5年 の教 科 書6) 単元 「お も りの はた らき」 に も記 載 され てい る。

た だ し,小学校 理科 の学 習指 導要領7)に, 5学 年

B 物 質 とエ ネ ルギー

(3)お も りを使 い. お も りの重 さや動 く速 さな ど を変 えて 物 の動 く様 子 を調 べ , 物 の 動 きの 規則性 につ いての考 え を もつ よ うにす るo ア 省略

おもりが他 の物 を動かす働 きは,お もりのお

*弘前大 学教 育学 部理科 教 育 講座

DepartmentofScienceEducation,FacultyofEducation,HirosakiUniversity

**20033月. 弘前 大学教 育 学 部小 学校 教 員 養成課程 卒業

Graduationfrom PrimarySchoolTeacherTrainingDivision,FacultyofEducation,HirosakiUniversity inMarch2003

(2)

20 山 本 郎 ・古 由美子 ・野土谷 桃

))))5432

cm

0 5 10 15

球の筒さcm〕

図1位3[エネルギーの大きさ (実験3の結果の例)

1 中学校理科の教科書に記載 されている実験。文献2)より転載。

とあ る ように,小学校 では,木片 の移動距離 と球 の高 さお よび球 の質量 の関係 につ いて, グ ラフに した り比例す るこ とをお さえるのではな く, あ く まで定性 的 に取 り扱 う

本研 究で は,斜面 を転 が る球 の衝突実験 を行 い, 得 られ た実験 結 果 を詳 し く解 析 す る こ とに よっ て,球 と木片 の運動 を明 らか にす る。 これ らの 内 容 は,′ト ・中学校 で理科 を教 える教員 に とって, 衝突実験 の教 材研 究 を行 う際 に大 いに参考 になる と考 えている。 そ こで,少 しで も多 くの理科教 員 に 目を通 して もらうため に,通常 の物理論文 で は 省略 され る物理量 や式 も.で きるだけ丁寧 に説 明

してい くことにす る。

§2.実験方法

ト ・中学校用 の理科 実験教材 と して市販 されて

い る 中村 理科 の 「お も りの衝 突 実 験 器OS‑90N」

(2)を使用 した。 この実験器 で は,教科書 の木 片 の代 わ りに, プ ラス チ ック片 を使 用 す る。約 90cmの プ ラスチ ック製 レー ルの真 ん 中 を衝 突点 と して, その左半分が斜 面 を,右半分が水平面 を 構 成 す る。 斜 面 の 高 さは,簡 単 に5cm.10cm.

15cm3段 階 に調節 で きる。水 平面 の レールの溝 には,衝 突点 をゼ ロ と してス ケー ル (巻 き尺 の金

2 おもりの衝突実験器

(3)

表 1 球の質量 と直径

質量 g〕 直径 mm〕

磁製球 18.962 24.65 プラスチ ック球 9.584 25.45

属 スケール)が貼 り付 け られてお り, プラスチ ッ ク片の移動距離が直読で きる

球 として.実験器 に付属 の鉄球,磁製球, プラ スチ ック球,木球の他 に, ガラス球 を用意 した。

表1にそれぞれの球 の質量 と直径 をま とめ る。表 よ り, 球 は直径 約25mmの ほ ぼ等 しい大 き さに 揃 っていることが わかる。 プラスチ ック片 (大 き 60mmx40mmx15mm)の 質 量 は50.362gで.

鉄球 よ りも軽 く, ガラス球.磁製球, プラスチ ッ

‑ク球,木球 よ りも重 い。

この実験器独 自の仕様 として,衝突点の位置 に コの字型のゲー トを取 り付 けることがで きる ( り外 し可能)。ゲー トを取 り付 けることに よって, 斜面 を転が って きた球が. プラスチ ック片 と衝突 後, レールの水平面 に進入す るのを阻止 し,プラ スチ ック片 との多重衝突 を防 ぐ役 目を果たす。

衝 突直前 の球の速度の測定は.衝突点の位置 に 中村 理科 の 「速度測定器 (ピース ピ)」 を置いて 測定 した。

§3.実験結果

コの字型ゲー トのあるな しに関わ らず,球 をプ ラスチ ック片に衝突 させ ると,衝突後,球 とプラス チ ック片は一旦離れて,それぞれ独 立に運動する。

す なわち.プ ラスチ ック片の運動 は,球が プ ラス チ ック片を押す仕事 によってなされるのではない。

3に, コの字型 ゲー トを取 り付 けた場合 につ いて.球 の高 さhを変 えた ときの プラスチ ック片 の移動距離Jを.それぞれの球 に対 して プ ロ ッ ト

したグラフを示す。マー クが実験値 であ り,異 な る球毎 にマー クを変 えている。各実験条件 (球の 種類,球 の高 さ)毎 に5回以上 の測 定 を行 い, そ れ らの平均値 を実験値 としてプロ ッ トしている

測定値 のば らつ き.す なわち,平均値 の標準誤差 の範 囲は,マー クの大 きさよ りも十分 に小 さい。

破線 は.最小二乗法 を使 って実験値 を通 る ように 引いた近似 直線 である。 いずれ も原点 を通 る直線 が得 られ る。す なわち,それぞれの球 に対 し,球

の 高 さhとプ ラスチ ック片 の移動距 離Jは比例 関 係 にあるこ とを示す。

4は. 同 じ実験 値 を,球 の質量桝を変 えた と きの プラスチ ック片 の移 動距離Jの関係 に直 した グラフである。球 の高 さh毎 にマー クを変 え,質 量 の小 さい順 に.木球,プラスチ ック球,磁製球.

ガラス球,鋼鉄球 に対応す る。 ここで.近似直線 である破線 に注意 していただ きたい。いずれの波 線 も原点 を通 っていない。す なわち,球の質量 とプ ラスチ ック片 の移動距離Jの関係 は,単純 な

02

o×qtQt

◆ ̀

i

0

5 10 15 20

球の高さhcm〕

図3 球の高 さhとプラスチック片の移動距離ズの関係

0

2

oxQt

▲■

.‑

0 20 40 60 80 球の井量mg〕

図4 球の質量mとプラスチック片の移動距離ズの関係

(4)

22 山 本 郎 ・古 由美子 ・野土谷

比例 関係 にな らない こ とが わか る。

コの字型 ゲー トをはず した場合 .衝 突後 ,一旦 離 れた球 とプラスチ ック片 は,2,3度, ‑・と衝 突 を繰 り返 し,やがて静止す る。 この多重衝 突 に よ り,各実験 条件 に対す るプラスチ ック片 の移動 距 離Jは, コの字型 ゲー トを取 り付 け た場合 よ り

も大 きい値 になるが.基本 的に同 じ傾 向の グラフ が得 られ る。 ただ し.測定値 の ば らつ きは大 き く なる。 この多重衝突 の効果 を正確 に見積 も り,解 析 に取 り入れ るこ とは難 しい と判断 し.次節 では 3お よび図4に示 した コの字型ゲー トを取 り付 け た場合 の結果 につ いて解析す る。

i4.考察

4‑1.運動 の解析

球 とプラスチ ック片 の運動 を, a)斜面 を転 が る球 の運動 b)球 とプ ラスチ ック片の衝 突 C) プ ラスチ ック片 の運動 3つ に分 けて.解析 してい く

a)斜面 を転 が る球 の運動 (5)

高 さhの位 置 にあ る球 の重力 に よる位 置 エ ネル ギーUは,球 の質量 をm,重力加速度 をgとす る と,

U‑mgh (i)

で与 え られ る。 また,速 度γで運動 す る球 の運動 エ ネルギKは,

Kimv2 (2)

で与 え られ る。 実験 にお いて, 高 さhの位 置 に置 いた球 は,初速度 を与 えず静止状態 か ら運動 させ るので,始め に球 の もつ全力学 的エ ネルギー は, 位 置エ ネルギーのみで あ る。 これが衝 突直前 の水 平面 で,すべ て運動エ ネルギーに変わ る と考 える

と.力 学 的エ ネルギー保存則 よ り,

図5 斜面 を転がる球の運動

mgh‑与mv12(3)

となる。 ここで,衝 突直前の球 の速度 をγlとお い た。vlにつ いて解 くと,

vlノ面 (4)

が得 られ る

以上 の力学的エ ネルギー保存 則 は,球 を質点 と 見 な した質点モデ ルの場合 に成立す る。す なわ ち, 球 は摩擦 の ない斜面 を転 が るこ とな く, なめ らか

に滑 るこ とを仮定 してい るO しか しなが ら.実際 の運動 で は,球 は斜 面 を回転 しなが ら転が ってい く。 そ こで,球 の 回転運動 の効果 を取 り入 れ るこ とにす る。

半径Rの剛体球 が転 が り運動 をす る場合,球 の 重心 の まわ りの 回転 運動 エ ネ ルギ ー は,Jを球 の 重心 を通 る回転軸 の まわ りの慣性 モーメ ン ト,U

を球 の角速度 とす る と,与Iw2で与 え られ る。従 っ て,球の全 運動 エ ネルギーは,重心 の まわ りの回 転運動エ ネルギー と重心 の並進運動エ ネルギーの 和 となる。

K与Iw2+与mv2与I(i)2mu2(5)

ここで,2項 目か ら3項 Elの式変形 には,角速度W と球 の重 心 の並 進 運 動 の速 度Vの 間の 関係 式V=

Rwを使 った。 この場合 の力学 的エ ネルギー保存 則 は,

mghI(秦 +m)vl2(6)

とな り, さ らに一球 の慣 性 モ ー メ ン トJに具体 的 釘 ‑そmR2を代 入 して,衝 突 直前 の球 の速 度 γlにつ いて解 くと.

v l

蒜 ‑ 舟

(7)

が得 られ る。す なわち,球 の 回転運動 エ ネルギー を考 慮 す る こ とに よ って,V.Ei(4)式 の約 締 ‑) 85%の値 になる。

6に,速 度測 定器 (ピー ス ピ) を用 いて測 定 した衝 突 直前 の球 の速度vlを, 球 の 高さhLこ対 し てプ ロ ッ トした グラフを示す。マー クの実験値 は, 各高 さhLこ対 して,球 の質量 に依 らず 一定の値 を

とる。 理論値1で示す 曲線 は, (4)式 で表 され る 曲 線 で, す なわ ち, 球 の位 置 エ ネル ギ ーが100%球 の並進運動エ ネルギーに変換 す る と仮定 した もの で あ る。 理 論値2, (7)式 で表 され る曲線,す な わち,球の回転運動エ ネルギーの寄与 を考慮 した

(5)

)028︹sJt・LJL^QQ

l

/

'

鉄球

磁製球

× プラスチック球

理始値1

‑‑‑‑‑理輪LL2

フィッティング価

0 5 10 15 20

球の高さh〔cm〕

6 球の高 さhと衝突直前の球の速度vlの関係

ものである。理論値1よ りも理論値2の方が よ り実 験値 に近づいているが, まだ実験値 よ りも大 きめ のvlの値 を取 るo フィッテ ィング値 は,実験値 を 通 るように(4)式 に一定 の係数0.71をかけて得 られ た曲線である。

始めの球の位置エネルギーがすべ て並 進運動エ ネルギーに変換 した場合 の速度 を100%とす る と, (100%‑85%‑)15%は,球 が転 が り運動 をす る こ とによって,位置エネルギーの一部が 回転運動エ ネルギーに も消費 されるの に伴 う速度の減少分で あ る。残 りの (85%‑71%‑)14%は,理想 的 な転 が り運動 を しないことによる球 と斜面の レール と の摩擦 によるエ ネルギーの損失 に伴 う速度の減少 分 と考 え られる。 ここでは詳細 は示 さないが,料 面の レールの長 さを変 えた り, レールの湾 曲の度 合 いを変 えた り. レールの溝幅 に対す る球の直径 を変 えるこ とによって, この14%の値 は多少変化 す るこ とを確認 している。以後の解析 では,フィッ テ ィング値 を使 ってい く。

6の球の高 さh‑15cmの ときの実験値が,5cm 10cmの ときに比べ て, フ ィ ッテ ィ ング曲線 の 下 目になっている。 この実験器では レールの高 さ を上 げることによって レールの湾 曲の度合いが大 きくなるが,それ に伴 って,湾曲部の レールの溝 の幅がわずかに広が る。その結果, レール と球 の 接触面が増 え,速度の減少分が若干増加 した と考 え られ る。 図3の グラフにおいて.すべ ての球 の

h‑15cmの ときの実験値 が近似 直線 の下 目になっ ているの も, 同 じ原因に よる〃lの減少 が反映 され ていると考 えている。

b)球 とプラスチ ック片の衝突 (図7)

次 に,速度vlで進 む球 (質量m)が静止 してい るプラスチ ック片 (墓〟)と衝突す る運動 を解 析す る。衝 突後の球の速度 を プラスチ ック片 の速度 をV2とす る と.衝突の前後で運動量保存則 が成立す る。

mv1‑ mVlr+Mv2' (8)

また. この衝 突 を反発係 数1の弾性衝突 と考 える と,次式が成 り立つ。

I 】 1=V2 Vl (9)

V)

,vlrV2'は ,れ .

. mM vl=m+M Vl

. 2m

v2=m+M Vl

(10)

で与 え られる。

(10)式 よ り計算 した衝 突直後 の球 の速度vl.を図8 に,衝突直後の プラスチ ック片の速度t;2'を図9に.

球 の質量刑の 関数 と して示 す。 図8は,球 の質量 mの増加 と共 に,V)lが負 の値か ら正の値 に変わる 曲線 を示す。 ここで,vlrがゼ ロ横切 るのは, ち ょ う ど球 の質量桝が プ ラスチ ック片 の 質量50.362g に等 しい場合 に相 当す る。 プラスチ ック片の質量 よ りも軽 いガラス球,磁 製球, プラスチ ック球, 木球の衝突では,vllは負 の値 にな り.衝突後 これ らの球 は,一旦,後 ろに跳 ね返 される。一方.プ ラスチ ック片の質量 よ り重い鉄球の衝突では, vJ'

は正の値 にな り.衝 突後 も鉄球 は進行方向に進 む。

ただ し,衝 突直後 の鉄球 の速 度vl'は, 図9の衝 突

m M

衝 突 前 ○芸

「 「

‑,I ;‑ ‑ ・

衝 突 後

0芸

「軍

7 球 とプラスチック片の衝突

(6)

24

0nUIU0369lll︹sJu,o︺.L^世増6倍Q)gl

郎 ・古 川 由美子 ・野土谷

l

h=15cm

‑ h=5crrI

,,:./

/

0 20 40 60 80

球の賞量mg〕

8 球の質量mと衝突直後の球の速度vlrの関係

∩VnUIU284︹sJO.",e叱te

l

h=15cm

h=5cm

0 20 40 60 80

球の賞t mg〕

図9 球の質五mと衝突直後のプラスチ ック片の速度 V2rの関係

直後 の プ ラスチ ック片 の速度γ2'に比 べ て約1/8 小 さ く (h‑15cm.m=67.013gの とき,ul'‑17.3cm/

S2'‑139cm/S), 衝 突後 鉄 球 とプ ラスチ ック片 は離 れる こ とを注意 してお きたい。

こ こで, 球 とプ ラス チ ック片 の衝 突 をエ ネ ル ギーの立場 か ら眺めてみ る。 図10は,球 の質量m の関数 と して.衝 突前後 の球 とプ ラスチ ック片 の 運動エ ネルギ ー を,h‑15cmの場合 に対 して示 し た グ ラ フで あ るが衝 突 直 前 の球 の運 動 エ ネ ルギ ー,〝 1が衝 突 直後 の球 の運 動 エ ネル ギ ー, K2'が 衝 突 直 後 の プ ラ ス チ ック片 の 運 動 エ ネ ル ギー を表 す。 ここでの衝 突 は. 反発係 数1の弾性 衝 突 と考 えているので,衝突の前後 でエ ネルギー 保存則 も成立 し,す なわち,

000lU0000︹っ叶qrHqI

h‑15cmのとき1

K1K1'

‑‑ ‑K2'

/

0 20 40 60 80

球の質量mg〕

図10 衝突前後の球 とプラスチ ック片の運動エネル ギー

Kl‑Kip+K2'(ll)

が成 り立つ。衝 突前 の球 の運動エ ネルギーKlは.

球 の質量mの増加 と共 に比例 す る。 一方,衝 突後 の球 の運 動 エ ネ ルギglは. 始 め ゼ ロか ら増 加 す るが.す ぐに減少 に転 じ 50gの周 りで下 に凸 の くぼみ をつ くる曲線 を示 す。 これ は, 図8にお いて,刑が プ ラスチ ック片 の質量 と等 しい50.362g

, γlがゼ ロを横切 るこ とに起 因す る。衝 突後の プ ラスチ ック片 の運動 エ ネルギーK2'.Kl'の 曲 線 を反 映 し,の直 線 の下 側 に沿 っ た 曲線 を示 す。

C) プラスチ ック片の運動 (11)

衝突後,球 とプ ラスチ ック片 は離 れて運動す る。

その ときの プ ラスチ ック片 の運動 は,初速度〃2 もったプ ラスチ ック片が. レー ルの水平面 に貼 り 付 け たスケ ール との 間の 一定 の摩擦 力′を受 けて 徐 々に減速 し, やが て距 離ズだけ移 動 した ところ で停 止す る運動 と見 なす こ とがで きる。

プ ラスチ ック片の底面 とスケー ル面 との 間には た らく摩擦 力Jは,摩擦係数 を 〟とす る と,

f〟N〟Mg (12)

M v2.

@

11 プラスチック片の運動

(7)

Mg

12 運動するプラスチック片にはたらく力

で与 え られ る。 ここで,2項 目の中の〃は. プラ スチ ック片がスケール面か ら受ける垂直抗力であ .3項 目へ の式変形 は. この垂直抗力〃の大 き さが プラスチ ック片 にはた ら く重力Mgに等 しい ことによる。図12に,運動 しているプラスチ ック 片にはた らくこれ らの力の様子 を示す。

始 め の プ ラスチ ック片 の運 動 エ ネル ギ ー は K2'与Mv212であ り.終 わ りの運動が停止 した状 態では,運動エネルギーはゼ ロになる。 この運動 エ ネルギーの変化が,摩擦力がす る仕事,rxに等

しいので.

0‑与Mv2'2〟Mgx(13)

が成立 し,プラスチ ック片の移動距離Jは, γ212

x=「琵盲.‑ (14) で与 え られる。

図13に.摩擦係数 〟の値 として0.30を仮定 し, (14)式 を使 って計算 したプラスチ ック片の移動距離 xを,球の高 さhLこ対 して描いたグラフを示す。い ずれの球 に対 して も,実線の理論値 はマークで示 した実験値 をよく再現す る。すなわち.球の高 さ hとプラスチ ック片の移動距離.rの関係 は.理論的 にも原点を通 る直線.すなわち,比例関係になる ことがわかる。

図14は. プラスチ ック片の移動距離Jを.球の 質量mに対 して描いたグラフであるo比例関係 に はならない実験値 は,図14の実線で示 した理論曲 線 によってよく再現 される。す なわち,球の質量 mとプラスチ ック片の移動距離Jの関係 は.図4の 波線 で示 した原点 を通 らない直線ではな く.理論 的 には図14の実線 で示 した原点 を通 る曲線 にな る。 ここで(13)式 に注 目す る と,右辺の中のFLMg は定数で与えられる。 この とき.衝突直後のプラ スチ ック片 の運動エ ネルギーK21与MV2TZは.移

動距離Jに比例す るOすなわち,図10の衝突によっ

02

uJUXq)Q生爪JL

理漁直線 I

l I

l

I

0 5 10 15 20 球の高さh〔cm〕

図13 球の高さhとプラスチック片の移動距離ズの関係

02

uJo×#C)火f

● h▲ h×h理■曲♯=1=1=5c5c0cmmm

0 20 40 60 80

球の賞量mg〕

図14 球の質量mとプラスチック片の移動距離ズの関係 て プ ラスチ ック片 に配分 された運動エ ネルギー K21の曲線 の形が, 図14の理論 曲線 の形 を与 えて いることがわかる。

4‑2.教科書の実験

図1の上 に示 した ように斜面 を転が る球の衝突 実験 は, 中学校理科 の教科書23)に記載 されてい る。教科書では,木片の移動距離が球の高 さと球 の質量の両方に比例するグラフ (図1の下)を便 っ

(8)

26 山 本 郎 ・古 由美子 ・野土谷

て,物体の もつ位置エ ネルギーが物体の高 さと質 量 に比例す ることを教 える。 この とき,木片の 移動距離 を調べること‑球の位置エネルギーの大 きさを調べ ること」になっている。では,教科書 では運動 をどの ように解釈 しているのだろうか。

教科書は.次の運動 を仮定 していると思われる。

(∋始めhの高 さにある質量mの球 は.重力 に よる 位置エネルギーU‑mghをもつ。

(参この球が斜面 を転が り下 りることによって,位 置エ ネルギーUは運動エ ネルギーKに変換す る

(UccK).

③球の もつ運動エネルギーKは,球が木片 を押 し て距離x移動 させ る仕事Wに使われる(K‑W) この とき.球が木片 を押す仕事 は.木片 とレー ルの間の摩擦力fBこ逆 らってす る仕事 なので, 摩擦力 と向 きが反対 で大 きさの等 ししゾの力 を 加 えて距離ズ動かす仕事 に等 しくな り.W‑fx

となる。

以上のエネルギーの関係 を式 にまとめると, UccK=fx (15)

が成立する。 ここで.∝は比例の記号で,球の位 置エネルギーUは.球の回転 エネルギーや レール との摩擦によってその一部 を失 うが,球の運動エ ネルギーKに比例す ることを示す。木片 とレール 間の摩擦力βま定数なので,(15)式 は,

Ux (16)

であ り,木片 の移動距離Jを調べ ることが,球 の もつ位置エ ネルギーUの測定 になる. さらに.U

=mghよ り.

( ((mh芸;二≡≡ …≡; (l

とな り,木片の移動距 が,球の高 さhと質量m に比例する図1の下のグラフが得 られる。

本研究の運動の解析 と教科書の運動 との違いを 見て行 くことにす る。教科書の運動の()② は,本 研究で も正 しい。根本的な違いは③ の運動 にある。

す なわち,実際の運動 は球が木片 (プラスチ ック 片) を押す仕事 をするのではな く,球 と木片が衝 突す ることによって衝突前の球の運動エネルギー Ktが衝 突後 の球 と木片 に分配 され, その分配 さ れた木片の運動エ ネルギーK2が摩擦力 に逆 らっ た木片 の運動 に使 われ る10において,Kl 直線 とK2'の曲線が一致 しないのに もかかわ らず,

教科書ではKl=K2rと近似 させている。

木片の質量 と3種類 ほ どの球の質量 を適当に選 択す ることによって.木片 の移動距離Jと球 の質 mの関係 につ いて強引に比例直線 を引かせるこ とが可能な場合があるか もしれない。 しか し,本 研 究の市販の実験器 を使 った実験結果 (4お よ び図14)を見てわか るように.得 られた結果 を比 例 と見なすのは.かな り軽理があると思われる。

中学校 の理科教員 か らは.物理 関係 の実験 を 行 って も,なかなか教科書通 りの結果 にな らない との話 をよく耳にす る。例 えば,斜面 を運動する 力学台車の時間 と速度の関係 を調べる実験 とか.

水の中にニクロム線 を入れ,電圧 ・電流 を加 える ことによって水温の時間変化 を調べ る実験 とか, 本研究で取 り上げた斜面 を転がる球の衝突実験.

等が挙げ られる。始めの2つの実験 に関 しては, 教員が実験方法にち ょっとした注意 ・工夫 を加 え ることによって解決で きる問題である。 しか しな が ら,本研究で取 り上げた実験 は,物理的に厳密 には比例 しない ものを,教科書では近似で比例 と 解釈 している。 もし,生徒が丁寧 に正確 な実験 を 行 うほ ど,教科書通 りの結果にな らないことに注 意 してほ しい。理科の教員が この実験 を取 り上げ る場合は,本研究で述べた実験の物理的な本質を 理解 して教材研究に取 り組んでほ しい と考える

$5.まとめ

中学校お よび小学校の理科教科書に記載 されて いる斜面 を転がる球の衝突実験 を取 り上げ.市販 の実験器 を用いて実験 を行い,球 とプラスチ ック 片の運動 を詳 しく解析 した。その結果は,次の よ

うにまとめ られる。

1)始め に球の もつ位置エ ネルギーは,球が斜面 を転が り下 りることに よって球の運動エ ネル ギーに変換するが,球の回転エネルギーや レー ルとの摩擦 によってエネルギーを損失す る。

2)球 とプラスチ ック片の衝突 は,運動量保存則 お よびエネルギー保存則 の成 り立つ弾性衝突 と考 えることがで き,衝突前 の球の運動エ ネ ルギーは,衝突後 の球 とプラスチ ック片の運 動エネルギーにそれぞれ分配 される。

3)衝突後のプラスチ ック片の運動エネルギーは, プラスチ ック片 とレール との間の摩擦力 によ る減速運動に使 われる。

4)以上の解析 に基づいて導 出 した理論 曲線 は.

得 られた実験結果 をよ く再現す る。すなわち,

(9)

球の高 さとプ ラスチ ック片の移動距離の関係 は比例す る。一方,球 の質量 とプ ラスチ ック 片 の移動距 牡の関係 は,比例 で な く,原点 を 通 る曲線 になる。

中学校理科 の教科書では,衝突前の球の運動エ ネルギー と衝突後のプラスチ ック片 (木片)の運 動エ ネルギーが等 しい とい う近似 に基づいた記述 が されてお り,現場で この実験 を取 り上げる際に は,十分 な注意が必要である。

文献

1)中学校学習指導要領 (平成10年12月)解説理 科編,平成11年9月,文部省.

2)中学校理科1分野下,平成132月検定済,学 校 図書.

3)新 しい科学1分野下.平成132月検定済.東 京書籍.

4)中学校理科1分 野下教 師用指導書.学校 図書.

5)新 しい科学1分野下教 師用 指導書,東京書籍.

6)みんな と学ぶノト学校理科5年,平成162月検 定済,学校 図書.

7)小学校 学習指 導要領解 説理科編.平成 11年5 月.文部省.

(2005.7.25受理)

表 1 球の質量 と直径 質量 〔 g〕 直径 〔 mm〕 磁製球 1 8 . 9 6 2 2 4 . 6 5 プラスチ ック球 9 . 5 8 4 2 5 . 4 5 属 スケール)が貼 り付 け られてお り, プラスチ ッ ク片の移動距離が直読で きる 。 球 として.実験器 に付属 の鉄球,磁製球, プラ スチ ック球,木球の他 に, ガラス球 を用意 した。 表1にそれぞれの球 の質量 と直径 をま とめ る。表 よ り, 球 は直径 約 2 5 mm の ほ ぼ等 しい大 き さに 揃 っている

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