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知的障害児者の自己概念 に関する研究知見 と実践的課題

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(1)

秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要 第242002

知的障害児者の自己概念 に関する研究知見 と実践的課題

T

〜文献的考察を中心 に〜

大山 美香 * 秋田大学大学院

今野 和夫 **

秋 田大学教育文化学部

これまで,知的障害児者 の自己概念 に焦点 を当てた研究 は必ず しも多 いと言 えない. し か し, 自己概念 は,知的障害児者のノーマライゼーションの実現 にとって も,非常 に重要 な構成概念である. 自己概念 の形成 は,知的障害の子 どもたちに対す る生 きる力の教育上 ち,無視 されてはな らない.

本論文で,我 々は知的障害児者の自己概念 に関す る文献を概観 した. そ して,認知的な 要因だけではな く,生活経験や人間関係 もまた,知的障害児者の自己概念 においてある大

きな役割 を担 っていることを認 めた.

さ らに, 自己概念形成 における青年期の重要性 と独 自性 の認識,教育環境や人間関係へ の配慮, 自己概念 を育て る教育 プログラムの構築 など,知的障害児 における自己概念の教 育 との関連でい くつかの実践的な示唆を提示 した.

キーワー ド:知的障害児者, 自己概念,知的障害児教育

. は じめに

1,

生 きる力 と自己概念

平成11 年

3

月 に改訂 された盲学校,聾学校及 び養 護学校 の幼稚部教育要領,小学部 ・中学部学習指導 要領,高等部学習指導要領 において,生 きる力 の育 成が基本的なね らいとして示 された. 生 きる力 は, 平成

8

7

月 の第1

5

期 中央教育審議会第一次答 申

(21

世紀を展望 した我が国の教育の在 り方について一 子 どもに生 きる力 とゆとりを‑) において,今後 の 学校教育の目標 として提示 された ものである. ここ では,生 きる力を重視す る背景 として,子 どもたち の実体験 の不足や人間関係 を作 る力 の弱 さと共 に, 家庭や地域社会の状況 の変化などが指摘されている.

20021

22日受理

TSelfConceptResearchonMentallyRetarded:A RevleW

*MlkaOYAMA,GraduateSchool.AkltaUnlVerSlty

,

Akita.

*KazuoKoNhTO,FacultyofEducatlOnandHuman Studies,AkitaUniversity,Aklta

第242002

菊池

(1999)

i

)

は, 2

0

世紀 の歴史 を捉 え る柱 と し て 「自己 との関係 の切 断

「他者 との関係 の切 断」

「自然 との関係 の切断

「 社会 との関係 の切断」 の

4

点 を上 げている・ その上で,教育 におし) ては 「自己 と向 き合 う場」を設定す るなど,それぞれの関係 の 回復 に努 める必要があるとしている. これは高等学 校 について述べ られた ものだが,同 じ時代を生 きて きた知的障害児 にとって も重要 な視点 と思われ る.

さて,第一次答申では,生 きる力 について 「自分 で課題 を見付 け, 自ら学 び,主体的に判断 し,行動 し, よ りよ く問題を解決す る能力

「自 らを律 しつ つ,他人 と協調 し,他人 を思 いや る心や感動す る心 など豊かな人間性

「た くま しく生 きるための健康 や体力」 と述べ られている. しか し,実際に教育を 行 ってい くにあたっては, さらに具体的に生 きる力 を捉えてい く必要がある.

大南

(1999a2),1999b3

) ) は, 生 きる力 を育 て る 内容 として,人 とのかかわ りの拡大,健康 ・体力づ くり,働 くことの習慣化,趣味 ・生 きがいを もっ こ と,身辺生活の確立,経済生活への参加 の

6

面 か ら

53

(2)

なる立方体 モデルを想定 している. さ らに, この立 方体の各面をつな ぐもの として,意欲や豊かな人間 性を上 げている.

また浅石

(1999)

4

)

は,次 のように述べている.

「 身体的 ・精神的諸機能や諸能力を うま く活用 し てい くということが,人間的な生活行動 あるいは生 活態度 として現れて くるわけで, そのためには, よ

りよ く 『 生 きてい こう

頑張 ってや ろ う』 とい う ように生活の営みを意識的に推進 してい くものの発 達がなければな らない.生活 の営みを意識的に推進 してい くとい うそれがいわゆる自己あるいは 『自我』

の発達である. この 『自我』 といわれているもの こ そが 『 人間を形成 している心棒』 となって,その生 活の営みを規制 (コントロール) しているといえる.

このように生 きる力 は, 自己あるいは自我 といった 内面的な働 きを抜 きに考えることはで きない.

梶 田

(1985)5

〕は, 個人 の行動 を規定 す る もの と して自己概念を位置づけ, これを 「自分 自身 につい ての意識を支え る潜在的な概念構造」 として定義 し ている. また自己概念の教育の必要性を次のように 述べている.「われわれはこのよ うに, 自分 自身 を 対象化で きるし, またその対象化 した自分 白身 に縛 られがちである. しか し,対象化で きるとい うこと は, その対象 とした ものに対 して働 きかけ, 自分の 望む方向, 自らが良 しとす る方向, に向けてそれを 改変 してい く, とい う可能性 をは らむ ことにはかな らない.

「 幼稚園か ら小 ・中 ・高校,そして大学 と, 何 らかの形で一貫 した教育を してい くことが どうし て も必要である.

2.

知的障害児者 と自己概念

自己概念 は,生 きる力の推進力 として教育上注 目 すべ きことが らである. しか し, これまで 自己の対 象化 に多 くの研究的関心が払われて きたため,抽象 的な表象能力 に障害を もつ知的障害児者 において, 自己概念 はあま り重要祝 されて こなか った. このよ うな理由か ら,知的障害児者 の自己概念研究 は, 日 本国内で も決 して多 いとは言えない.

青年期 においては,職業や社会参加 との関連 に着 眼 して検討 された研究 ( 泉

19996)

, 清水

1999

7 ) , 佐 久間

19998)20009

) , 白崎

2000

1 0 ) )が多 いが,発達 的 見地 に立つ研究 ( 白石

19891

1 ) ,鳥取大学教育学部附 属養護学校

199512))

も見 られる. また幼児期 におい ては, 自己の気づ さとい う意味での自己意識 に関す

54

る研究が行われている.例えば, ダウン症児 に関す る研究 ( 今野

199713)

, 小 島

2000

1 4 ) ), 自我 の発達 を 扱 った研究 ( 神野

199215)

,寺川

1997

1 6 ) ) な どを上 げ ることがで きる. また芋佐川

(1992

)1 7 )の 自己像 の 発達 に関す る研究 は,児童期 までを含んで行われて いる.

宇佐川

(2001)18

)は,外界 との対立 によ って生 じ る自己の気づ さか ら, 自己概念が成立す るまでの自 己に対す る感覚を自己像 と呼び, これを対人関係発 達 の指標 としている. また徳永

(1992)

1 9

)

,Stern.

D.N.

が提案 している自己感

(thesenseofself)

を,

「自己意識や自己評価 とは異な り, さまざまな活動 の主体者 としての感 じをさ している.」 と述 べ, 吹 のように提言 している.「 子 ど もの 自己を問題 にす る場合 に も,言語化 されない,か らだを動かす 自己 について推論 を持つ ことで,言語獲得 レベルに達 し ない子 どもの指導が展開 される.」 これ らは, 自己 概念 の発達的視野 に立 った言及 と受 け取 ることもで

きる.

一方,社会的にはノーマライゼーシ ョン理念の普 及 とともに,生活 の場の施設か ら地域への移行,本 人参加や自己決定力の発達への支援 などが進 め られ ている. こうした中で,知的障害児者 の自己概念 の 望 ま しい発達が求め られている.

ところが,厚生省児童家庭局障害福祉課

(1990)20)

の調査で は,知的障害児者 の

56.2%

が 「 いやな思い

や 「 差別」 を経験 していると報告 されている.知的 障害児者が 「 地域で人生 を送 ること」があた り前の こととなるにつれて, こうした経験が,知的障害児 者の自己概念の形成 に,今後 さ らに,危機的な影響 を与え ることは想像 に難 くない.

3.

研究の 目的

筆者 は, ノーマ ライゼーションの実現 に向けた努 力や試みが各方面でなされつつある状況下において, 知的障害児者が個人的にも社会的にも適応 し充実 し た人生 を築 き上 げてい くためには,学校段階 におけ る教育が欠かせないと考え る.

一方, その力の根底 には自己概念 とい うものがあ ると思われ る. しか し,知的障害児 に対す るこれま での学校教育 において, 自己概念 ( その発達 も含む) に十分 な配慮がなされているとは言 い難 い.関連 し て, 自己概念の教育の在 り方 について も検討が深め られていないと思われる. また学校教育の中で知的

秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要

(3)

障害児の自己概念の形成を意図す るには,卒業後 の 知的障害者の自己概念 に関す る研究知見 も極 めて重 要である. そ こで本研究で は, 自己概念 に関す る学 校教育 の在 り方の追求 に資すべ く,知的障害児者 の 自己概念 とその関連領域 にかかわる日本内外 の研究 を文献的に研究す ることとす る.すなわち,知的障 害児者 の自己概念 に関す る研究者の指摘 や言及,及 び筆者 白身の教育実践などを手がか りとして,知的 障害児 に対す る自己概念の教育 の在 り方 に関 して考 察 したい.

Ⅱ. 知的障害児者の自己概念 に関連 す る研究 の動 向と課題

1

.Zigler

学派の研究

て,知的障害者 のパーソナ リテ ィーの発達 について 研究 している. 自己概念 は,パーソナ リティーの中 核 をなす ものとして取 り上 げ られ,認知面,経験面 か らの検討がなされている.

また

Zigler

学派 においては, 自己像

(selfimage)

とい う用語が使用 されている. 自己像 は自己概念 と 同義 に用 い られ ることもある. しか し, この場合は,

「自己を対象 として客体化 した ときに見 出 され る自 己の表象」 ( 溝上 :

1999)2

1 )とす るのが適切であろう.

( 1 )

Leahy

,

R.L.,Balla,D.,Zlgler

, E.の研究

(1982)22)

Leahy

らは

,24

人 の知的障害児 ( 平均

CA:

l

l

.

9

, 平均

MA:6.9

,平均I

Q:58.3),24

名 の同

CA

( 生 活年齢) の健常児 ( 平均

CA:

l

l

.

6

,平均

MA :13.9

, 平均

IQ:120),22

名 の同

MA

( 精神年 齢) の健常 児 ( 平均

CA:6.9

, 平均

MA:7.7

, 平均

IQ :

1 1 1 ) の

3

グループを対象 として,知的障害児 と健常児 の 役割取得能力や, 自己像

(selfimag

e ) の発達 にお ける認知要因 と経験要因の関連性 を明 らかに しよう とした. 自己像 の測定 には,t

heKatzZiglerReal andIdealSelfJmageScales(Katz

&Zl

gler1967)23)

を用 いている. これは,絵画 テス トとチェック リス

トか らなる.絵画 テス ト

(IQ

の低 い者 に適用) は, ひとつの自己像 につ き

4

枚 の絵 ( 例 :主人公 とた く さんの友達 の絵,数人の友達 と一緒の絵,主人公 と 一人の友達の絵,主人公一人だけの絵) を用意 し, 指示 ( 現実の自己像 :最 もあなたに似ている絵 を示

242002

しなさい.理想 の自己像 :そ うな りたいと思 う絵 を 示 しなさい.) に対 していずれかを選 んで もらうも のである. またチェック リス トは,問い ( 例 :私 は いっ も悲 しい) に対 し

,YesNo

で答 えて も らうも のである.

その結果,I

Q

とMAが高 いほどポ ジテ ィブな理 想 の自己像を もっ こと

,MAが高 いほどポジティブ

な現実の自己像を持っ ことが明 らか とな った. また 知的障害児 の理想 の自己像や現実の自己像 は健常児 よりポジテ ィブな ものではなか ったが,役割取得能 力 においては,同

MAの健常児 と同得点 で あ った.

これに関連 して

,Leahyらは,役割取得能力 は認知

レベルの機能であ り, 自己像 と模倣 は認知 と経験 に よって決定す るとい う考 えを支持す るものだ と結論

している.

理想 の自己像 と現実の自己像 につ いて は,Zi

gler

(197

2

)

2 4

)

が先行的な研究 を行 って い るが, そ こ で は健常児 よりも知的障害児 の方が理想 の自己像が 低 く,結果 として,理想 の自己像 と現実 の自己像の 差が小 さいことが明 らかにされている.

(2)Bybe

e, J.

,Ennis,P.,Zigler

, E.の研究

(1990)25) Bybee

らは, 知 的障害児 の 自己像

(selfimage)

や外的志向性

(outerdlreCtedness

:問題解決 に際 し て,行動 の指針を過度 に他者の言動 に求 め る こと)

と施設居住 との関係 について検討 している.

対象者 は,高 い質 のケアが行われている施設 に居 住 す る

17

名 の知 的障害児 ( 平均

CA:15.8

1 , 平 均

MA:9.43

,平均

IQ:58.69),29

名 の在宅 して い る 知的障害児 ( 平均

CA:15.46

, 平均

MA:9.09

, 辛 均

IQ:58.69)

で あ る.

thePerceivedCompetence ScaleforChildren (Harter1982)

2 6

)

が用 い られ, 現実の自己像

(self1mage)が,学業 (Cognitiv

e ), 対人関係

(socia

l ) ,運動

(physica

l ), 全体 的 自尊 感情

(generalselfworth)の4

領域 にお いて, 二 者択一

(alternativeformat)式 の回答方法 によ り

評定 された. これは例えば

,

「あ る子 は学習 した こ とをよ く忘れ る.別 の子 はす ぐ思 い出す.」 とい う 内容 について, 自分 に似ている方を選んで もらうも のである.

その結果,知的障害児 の各得点 は

,Harter(1979)

が調査 した健常児の得点よりも全体的に低 く

,Bybee

(1989)

が対 象 と した低

SES (socioeconomic status:

社会経済的地位) にある健常児の得点 と類

55

(4)

似 していた.

4

領域全てにおいて,施設居住群 と在 宅群 の間に差異が認められなかった.さらに両 グルー プとも, 自尊感情 に関す る得点や学業 に関す る得点 が,対人関係や運動能力の得点 より有意 に高 く, 自 己をポジテ ィブに見ていることが明 らか とな った.

こうした結果か ら

,Bybeeらは次の3

点を指摘 し ている.

・施設居住 と知的障害児の自己像 の間には負 の相関 関係 は存在 しない.加えて,MA ・能力 ・施設 の質 などの多様 な要因 について, 自己像 との関係を考え る必要がある.

・知的障害児の場合,対人関係や運動の領域 につい て自己知覚

(selfperceived)

の低 さが顕著 に認 め られ る. これ は,知的障害児が身体面や動作上 も障 害を もつ場合が多 く, また社会的相互交渉 スキルの 発達が不十分な ことが,明 らかに関係 している.

・他領域 よりも全体的 自尊感情 の得点が高い ことか ら,知的障害児 はある領域 に限界を感 じつつ も, 自 分 白身を相対的に価値のある人間 と見ていることが 示唆 される.

( 3)

Click,M.,Bybee,J.,Zlgler,E

.の研究

(1997) 20

名の軽度知的障害児 ( 男

9

,女1 1 ,平均

IQ:66

,

CA:12‑1

7 ) を対象 とした この研究 は

,Gllck

の別

の文献

(2000)2

7

)

で紹介 されて い る もので あ るが, 測 定 尺 度 と して

theKatzZiglerRealand Ideal SelHmageScales(Katz

&Zl

gler1967)

2 3

)

の修正版, 及 び

the SelfPerception Proflle for Children

(Harter1985)

を用いている.

また,現実 の自己像,理想 の自己,及 び将来のネ ガティブな自己像 の三っに言及 して もらう自発的叙 述法

(spontaneollSSelfdescription)

も用 いてい る. 自発的叙述法 とは,各 自己像 について

5

つの未 完成 の文 ( 例えば

Iam apersonwho‑」「Idon't wanttobeapersonwho‑」)を完成 して もらうも

のである. ちなみに

Glick

は, この方法が,他者 が 相手 の自己像を把握 ・理解す るという目的のためだ けでな く,当人 による自分 の把握 ・理解を促す上で も有用であると指摘 している. なお,用い られてい るどの測定法 も, 口頭 によ り実施 ・回答 されている.

この研究で明 らか となったのは,以下の点である.

・現実 の自己像がポジテ ィブであるほど,抑皆 の得 点が低 い.

・行動領域 の得点 は,全体的 自尊感情領域 ・現実の

56

自己像 ・抑馨 の弱 さと高 い相関がある,

・現実の自己像の自発的叙述で は, ほとん どの青年 が行動領域 に位置づ け られることが らに言及 してい る ( 例 :礼儀正 しい, うま く行動 して い る). これ には,教師が普段 そのような考えを重視 しているこ とも関係 しているので はないか と

, Glickは考 えて

いる.

なお,各 自己像尺度間に有意 な相関が見 られた こ とや, 自発的な自己叙述の反応 も適切な ものであっ た ことか ら

,Glickは測定 に用いた諸方法 が妥 当な

ものであ ったと結論づ けている. さ らに,適切 な測 定手段 を用 いるな らば

, 9

歳ない しそれ以上 の

MA

を もつ軽度の知的障害児 については自己像の評定が 可能であると述べている.

(4)Wldaman

, K. 氏.

,MacMillian,D.L.

らの研究

(1992)28)

Wldamanらは,通常学級,教育面で境界 (educ ationalmardinal:7

学年の学力 テス トで リーデ ィ

ングか数学の点数が1

/4)

,学習困難

(learninghand‑

1Capped:

軽度知的障害,学習障害,行為障害,神経 障害)とい う3つ の学業 レベル に分 け られ る1, 1 4 0 人の

8

学年生 につ いて, 青年 期 にお け る自己概念

(selfconcept)を多面的に検討 している.

測定尺度 は, ①全体 的 自己概念

(General)

, ② 数学

(Mathematic)

, ③言語

(Verba

l ), ④ 学 業

(Academic)

,⑤正 直 さ

(Honest)

, ⑥両親

(Par ents)

, ⑦情動

(Emotion)

, ⑧身体

(Physica

l ),

⑨外見

(Appearanc

e ),⑲同性

(Samesex)

, ⑪異 性

(Oppositesex)という自己概念 の11の領域 を含

theSelfDescriptlOnQuestlOnalreⅡ (Marsh

,

Barnes1982)

であ り,各領域 に含 まれ る設 問 に対

して,6 つの選択肢

(false,sometimesfalse,more falsethantrue,moretruethanfalse,sometimes

true,true)か らの選択が求め られた.

その結果,知的障害児の自己概念 も,各領域が単 一構造で はな く分化 していることが明 らかにされた.

また通常学級 の生徒 は,全体的 自己概念,学業,言 語及 び数学 において,境界の生徒や学習困難の生徒 よりも高 い得点を記録 した.境界の生徒 と学習困難 の生徒間には, この

4

領域 において有意 な差 は見 ら れなか った. ( 同様 の ことは,学業以外 の 白己概念 領域 において も見 られた.)

学習困難の生徒 は学力テス トの結果 が最 も低 く,

秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要

(5)

学業的自己概念 も低 い.一方,境界の生徒 は,学力 テス トで は学習困難の生徒 よ りも明 らかに高 い得点 を とっているのに, 自己概念 は彼 らと変 わ らな い.

これは,境界の生徒が,学習困難の生徒を自分たち の比較 の対象 と日頃認 めてお らず,通常学級の生徒 を比較 の対象 としているか らではないか と

,Wida‑

man

らは考察 している.

(5) Evans,D・W.,Hodapp

,

氏.M.,Zigler

の研究

(1995)29)

Evans

らは,知的障害者

40

人 ( 男

22

,女

18,CA:

7‑18,IQ:33‑77)

,同

CA

の健常児

40

人,同

MA

の健常児

40

人 について, それぞれの群 を

7‑10

歳,

ll‑14

,15‑18

歳 の

3

つに分 け,余暇活動や興味

,MA

CA

との関係を検討 している.

3

歳か ら

18

歳の健常児の 日常的な余暇活動や興味 の リス トを もとに質問票を作成 し,健常児 の両親 と 知的障害児 の学級担任 に回答 して も らった ところ, 年少 の知 的 障害 児 は

CA

よ り も

MA

に近 い行 動 ( 例 :砂箱遊 び,お絵か きなど) を していることや, 青年期の知的障害児 は

CA

の近 い健常児 と非常 に似 た行動 ( 例 :コンサー トに行 く, 煙草 を吸 うな ど) をす ることを報告 している. これは知的障害を有す る青年たちが 自分の

CA

の果たす役割を現実的に知 っ てお り, それに即 してい くつかの行動 を行 お うとし ているか らか もしれないと指摘 している.

2. Zetl

i

n,A.G.

の研究

自己概念の研究法 と して, 自己報告 はきわめて重 要な ものである.一方,認知面 の障害ゆえに,知的 障害児者 による自己報告 については, その信頼性 や 客観性が疑問視 されて きた.

Zetlin

らは, より信頼性 の高 い測定方法の追究 と, 自己概念の全体像の把握を目指 し,一連 の研究を進 めている.

(1)Zetl

i

n,A.G.,Turner

, J. L の研究

(1985) Zetlln

Turner (1985a)3

3 )は, 自己概念

(self concept)

と自尊感情

(selfesteem)

を明 らか にす べ く,作業所

(shelteredworkshop)

で働 く

46

名 の 知的障害者

(IQ28‑65)

に対 して

,theWayIFeel aboutMyselfSelfConceptScale(Pュers

&

Harris 1969)

theSelfEsteem Inventory(Coopersmlth 1967)

を適用 して,

YesNo

での反応 の他 に 自己叙

第24号 2002年

述 も求 めている.

その結果, ほとん どの反応が暖昧 ( 例 :主張 の矛 宿,質問内容 に関連 のない反応 など) なために本来 の手続 きでは得点化が困難であ り,測定方法を見直 す必要性を指摘 している. また反応の暖昧 さは,質 問の理解不足だけではな く,社会的望 ま しさに合わ せた り選択肢 に黙従 した りす る傾向にも原因 してい るのではないか と指摘 している.

次 に

,Zetlln

Turner (1985b)3

1 )は, 知 的障害 者 のパ ーソナ リテ ィと社会適応の関係 に着 目し,也 域で暮 らす

25

人 の知 的障害者 ( 男

13

, 女

12,CA:

2223,IQ:

不明)とその両親 に対 して,青年期 に関 す る回顧的叙述を求めるとともに, 日常生活を観察 している. ちなみにこうした方法 につ いて

,Zetlin

らは,問題の頻度や強度 を把握す る上では信頼度が 低 いが,対象者 と両親が認める青年期 の経験 を確実 に反映す るという点で信頼 に値す ると述べている.

一方,叙述内容 を

3

つのカテゴ リー ( 青年期 に被 験者 を没頭 させた心配事,青年期 に見 られた問題行 動,問題行動 に対 して両親が行 った こと) に分類 し た結果,知的障害をもっ青年の適応に,アイデンティ テ ィの問題

(84%

の被験者が報告) と親子関係

(56

%)が多大な影響を及 ぼ していた ことが明 らかにさ れている. アイデ ンティテ ィに関 して は

,

「期待一 実行

(expectancy‑performance)

」 や

,

「受容一 拒 絶

(acceptancerejectlOn)

」 に位置づ け られ る経験 が自己感覚

(senseofself)

の発達 に影響 していた.

目標 の達成 を妨 げる,仲間のようにデー トや就職 ・ 一人での外出がで きない,弟や妹が 自分 よ り優れて いるなど,標準的な期待 と実際 との隔た りの経験が 表明 されていた.「 受容一拒絶」 に関連 して は, 両 親が 自分 よ り弟や妹 を愛 している,兄弟か ら非難 さ れ る,学級 の仲間か らい じめ られ る,友人がいない といった経験が含 まれていた. また親子関係 に関 し て

,

「自立一依存」 に位置づ け られ る悩 みが顕著 に 見 られた.

Zetlin

らは次の

3

点 を指摘 している.

・3/4

の知的障害者 は,青年期 ( 特 に高校時代) に おいて,健常 な青年 と同 じように青年期特有 の自己 定義

(selfdefinltion)

や自主性 の問題 に悩 み, か つ知的障害ゆえの問題 も抱えている.

・青年期 における知的障害者 の適応 は,健常であれ ば利用で きる仲間 による支援 のネ ッ トワークが欠如

57

(6)

していた り,両親か ら制限 された不明確 な期待をか け られているために,好 ま しくない状況 にある.

・自立す ること, 自分の家を もっ こと,仕事を継続 す ること,異性 との関係を保つ ことが, 自己価値感

(senseofselfworth)

を もた らし,青年期の課題 で ある自己の個性化

(indivlduation)

と分離

(detach‑

ment)

について考えることを可能 にす る.

(2) Zetlin,A.G.,Turner,J.L.

の研究

(1988)32

zetlin

Turner

は,作業所

(shelteredworkshop)

で働 く

48

名 の知 的障害者 ( 男

28

, 女

20

, 平均

IQ:

50.82,CA:2350)

に対 して, よ り信頼度の高 い測 定結果を得 ようと

,theShorrImageryTest(Shorr 1974)

を参考 とした半構成的文章完成法を用 いてい る. この方法 は

,Iam‑」「Ifeel‑」「Ican‑」

Iwill

」な どの実験者 の言葉 に続 く被験者 の反 応 を, 記録 す る もので あ る. この方法 につ いて,

zetlin

Turner

は, 自己表現 の許容範 囲 の広 い こ

とが知的障害者への測定法 として適 していると述べ ている。

得 られた反応 を分析 した結果,知的障害者 に顕著 な自己概念領域 として

7

つの領域,すなわち①活動 /所有

(activlty/possessions)

, ②社会 準 拠

(so‑

cialconformity)

, ③ 依 存 性 に関 す る コメ ン ト

(dependencycomments)

,④仕事 に関す るコメ ン ト

(work‑relatedcomments)

,⑤異性 に関す るコメ ン ト

(heterosexualcomments)

,⑥パ ー ソナル特性

(personalattribute)

,⑦家族/友人

(family/friend)

を認 めて い る. ちなみ に, ①

(22%)

の中 に は,

「バイクがほ しい

「 映画 に行 きたい」など, 日常生 活 の中で感 じている退屈 さへの反応 と推測 される言 葉が,②

(22%)

の例 には 「あなたの望むようにや りたい

「 父母 に口答え しない」 な ど, 重要 な誰 か に日頃繰 り返 し言 い聞かされているような文句 の反 復 ( すなわち

Zetlln

(1985a)

が指摘 して い る知 的障害者の社会的望 ま しさに合わせ ようとす る傾向 のあ らわれ)が,④

(12%)

には 「働 きたい

「い い仕事を しよう」など,仕事や自分 の能力 に満足 し ていることが伺 える言責が,⑤

(11%)には,結婚,

デー ト, キス,抱 き合 うなどの コメ ン ト,つま り異 性 との関係が重要 な ものとな っていることを示す言 葉が,⑥

(12%)

の例 には 「や りたいと思 うことを で きない

「自分を救 うことがで きない」 な ど, 自 分 の限界や他者の手助 けの必要性 を認めていること

58

が示唆 され る言葉が,⑦

(8

%) に は

,

「友達 が ほ しい」 といった友人関係への希望 を示 す言葉

,

「友 達 と遊 ばなければな らない」 といった社会的参加へ の希望 を示す言葉

,

「 母 に秘密で プ レゼ ン トを買 う」

といった家族への愛情を示す言葉が, それぞれ含 ま れていた.

zetlin

Turner

は,過去

3

年間 に収集 した

200

人 の知的障害者 による自己叙述 の分析結果 も加 えて, 知的障害者 の自己概念が精神面 の特徴 よりも個人内 の人間関係 に焦点化 されていると指摘 している. さ らに,数値化,客観化を重視す る測定方法 は知的障 害者 の自己概念の理解 にとり必ず しも妥当な もので はな く,測定方法の見直 しにより得 ることが多いで あろうと述べている.

次 に

Zetlin

Hossein

l

(1989)

㍊ )は, 高校 を卒業 した

6

人 の軽度知的障害者を

1

年間追跡観察 し,彼 らの自己感覚

(senceofsel

f ) が増大す る一方 で, 非現実的な自己評価を持 ち続 けていること, また学 校か ら社会への移行期 において軽度知的障害者 とそ の家族が大 きな欲求不満を感 じていることを明 らか に し

た .

3. LevyShiff,R..Perl,K..SevHlia,Z.

,の研究

(1990)34)

Levy

らは,青年期の心理社会 的危機 を説 明す る ために

Erikson

が人格発達理論 の中で用 いている重 要 な概念,すなわちアイデ ンテ ィテ ィの観点 か ら, 知的障害児 の自己概念を検討 している.

すなわち青年期の知的障害児 のアイデ ンテ ィテ ィ と適応 の関係を明 らかにすべ く,軽度 の知的障害児

30

(IQ4572 CA1718)

, 同

CA

の健常児

30

(IQ93120 CA1718)

,同

MA

の健常児

30

(IQ 93120)

に対 して

,AdolescentEgoldentityScale

(Tsurie11984

) 3 5 )を用いている. ちなみ に, この尺 度で捉え られるアイデ ンテ ィテ ィの領域 は以下 の

7

つである.

①将来への期待 と目的

(commltmentPurposefu

l ) 例 :世の中に多 くの仕事があ って も,私 は自分 に

最 も合 う仕事を確信 して る.

②安定 の持続

(stabilitycontinue)

例 :私 は自分が誰か,人生か ら何を得たのか知 っ ている.

③社会認識

(socialrecognition)

例 :私 の方法 は,他 の人 には理解 されない.

秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要

(7)

④有意味感

(meaningfulness)

例 :時々,空虚感 や退屈 さを感 じている.

⑤身体 的 自己

(physicalidentity)

例 :私 はみんな と違 う顔 や身体 を している.

⑥ 自己統制 と支配

(selfcontrolandmastery)

例 :私 は怒 っているが, 自分 自身を コン トロール

す る方法 を知 っている.

⑦純粋 さ

(genuiness)

例 :私 は自然で純粋 だ と思 う.

以上 の各領域 に含 まれ るい くつかの文章 につ いて

4

つの水準

(notata

l

l,alittle,alot,verymuch)

か ら一つ 自分 に当て はまると思 うものを選択 ・報告 す るよ う求 め られた結果,知的障害を有する青年 は, 有意味感

(meaningfulness)

,身体的 自己

(physical sel

f

)

, 自己統制 と支配

(selfcontrolandmastery)

において, アイデ ンテ ィテ ィの拡散が認 め られ るこ と,知的障害のあるな しに関わ らずアイデンティティ と適応 に関連 が あ る ことが 明 らか とな った. 尚,

Pass(1988)

3 6

)

も,5

4

人 の軽度 知 的障害 児 ( 男5

4

,

CA:7‑16)

につ いて学 級担 任 を評価 者 と した研 究 を行 い,Er

lksonStage

の発達段階 と適応 行動 と の間 に正 の相関関係 を認 めている.

一方 L

evyらは,有意味感 の得点が低 い ことに関

連 して,青年期 の知的障害児 は, 自分 の限界ゆえに 目的の達成がかなわない ことや健常 な仲間のように 就職やデー トがで きない こと,弟や妹 よ りも劣 って いることな どに気付 き, 自分 の人生 に意味を兄 いだ す ことがで きないのか もしれないと述 べている, こ れ は,Ze

tlinら (1985b)3

1 )の指摘 に共通 の もので あ る.

なお, アイデ ンテ ィテ ィと適応が正 の相関関係 に あることか ら

,Levyらは, 知 的 に遅 れ た青 年 の適

応 を促す には, 自己感覚 を高 め, その発達 を促す こ

とを教育上 もっと重視すべ きであ ると述べている.

4. Thomas,J.W.′Moloney,M.

らの研究

(2000)37)

次 に L

evyらと同様 にエ リクソンの理論 を援 用 す

る立場 か ら

,Thomas

らはアイデ ンテ ィテ ィの重要 な側面 と言 え る自己定義

(selfdefinition)

の一貫 性 に注 目 している.

職業 クラスに在籍す る1

7

歳 か ら

19

歳の11 名 ( 女

5

, 男 6)一障害 の程度 は軽度 5名 ( 女 2, 男 3), 重 度

2

名 ( 女),他

4

名 ( 男

3

,女

1

) は健常児 ‑ に

第242002

対 して, 半構 成 的 イ ンタ ビュー

(semistructured intervleWS)による個別面接が2ケ月毎 に4

回 ( 各

45

分)行 われた. また学校生活場面 の観察 も教室や 廊下, カフェテ リアな どで行われ,学生 たちの交流 の様子 や活動 に参加 しよ うとす る態度 などが記録 さ れた.

自分 につ いて信頼性 ・確実性 ・一貫性 を もって語 ることがで きるか ど うか,及 び明確 な将来 の ビジ ョ ンを もってい るか どうかによって, 自己定義 の高 レ ベル群 と低 レベル群 に分類 されたが,低 レベル群 に 分類 された

5

人 は全員が知的障害児だった.彼 らは, 自分 について語 る言葉 を見つ け られなか った り,質 問の意図を無視 しているよ うに見 え た と,Thomas

らは述 べている.一方,高 レベル群 には

2

名 の軽度 知的障害児が分類 された,

さ らに学校 や社会 のネ ッ トワーク,家庭 ・学校 ・ 職場 の満足度,独立 の意思, 日常的な問題 な どにつ

いて語 った内容か ら悩 みを とらえてみた ところ, 6 人 の学生 が高 レベルの悩 みを抱 えてお り, その うち

4

名 が知 的障害児 で あ る ことが 明 らか とな った.

Thomas

らは,低 レベルの自己定義 と高 レベル の悩 みを もつ ことが知的障害児 の一つの特徴 と言 え,礼 会 的サポー トを どう作 り上 げるかが彼 らにとって と

りわ け重要 な課題 であると指摘 してい る.

成人生活への移行期であ る青年期 には,誰 もが悩 みを経験 し,重要 な決断を しな くて はな らない場面 に直面す る.一方,知的障害児 はその悩 みを乗 り越 えつつ 自己について明確 に定義す ることが困難 であ ると して,Thomas らは以下 の

2

点 を指摘 している.

① 自己認識

(selfknowledge)や将来展望 は, 自己

内省,失敗や 自己選択経験 か らの学習,家庭 や学校 における重要 な人 々 との交流 を通 して発達す る.本 研究 において

1

年間行 った面接 のよ うなプログラム は, 自分 や 自分 の将来 について考 え る力 を獲得す る 上 で有効であ る. また自己定義 の難 しい学生達 には,

自己への気づ き

(selfawearness)を促 した り, 礼

会的支援 を利用す る技術 を獲得す る機会 を与 え るこ

とがで きる.

②重度 の知的障害児 は低 い自己定義 を有 し,支援か ら孤立 し,人生上 の悩 み に効果的 に立 ち向か うこと がで きない状態 に置かれて いる.彼 らに対す る, 自 己定義, 自立心,両親 との関係 とい った側面 か らの 取 り組 みを急 がなければな らない.

59

参照

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