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定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃

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(1)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃

その他のタイトル Demand Curve for Liner Service and Discriminatory Freight Rates

著者 東海林 滋

雑誌名 關西大學商學論集

巻 23

号 6

ページ 509‑534

発行年 1979‑02‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00020954

(2)

【研究ノート】

定期船サービスの需要曲線と 品目別差別運賃

( 5 0 9 ) 7 1  

東 海 林 滋

目 次

はじめに_需要曲線の観念性—

需要曲線の基本的含意—フリードマンによる説明一一

I l l

 

差別価格の 3 形態~ピク·---

I V

  第

2

級の差別と表定運賃

Y  表定運賃と「準

1

級」の差別

I  はじめに一需要曲線の観念性—

「経済学は,その結果を数字で示し得るまでは,なんら威力をもたないで あろうし,また威力に値しないであろう。」 (Economics w i l l   n e v e r  e i t h e r   have o r  m e r i t   any  p r e s t i g e  u n t i l  i t   can f i g u r e  o u t  r e s u l t s . ) これは,

かつてシュムペーターが,アルフレッド・マーシァルの計量経済学への貢献

I) 

を評価した際に述べた言葉である。

たしかに経済学の進歩は,この方向に沿って大いに特徴づけられていると いえよう。とくに最近では, コンピューターの利用によって,この傾向が一 段と押しすすめられており,そのことは,われわれの海運論の分野において も例外ではない。たとえば,この程神戸大学の宮下助教授が出版された『悔 1 )   S c h u m p e t e r ,   J .   A . ,   Ten G r e a t   E c o n o m i s t :  From Marx t o   K e y n e s ,   1 9 5 1 ,  

p . 1 0 7 ;中山伊知郎・東畑精ー監修「十大経済学者一ーマルクスからケインズま

で一ー」昭

27, 154

ページ。

(3)

7 2 ( 5 1 0 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

運市場論』などは,そうした進歩発達の代表的なモニュメントといえそうで ある。

2)

それにくらべると,以下述べようとすることは,ごく古臭い•クイプの「需 要・供給曲線」による観念的な分析ー一その吟味一~しかも,一 般理論や交通経済学の分野においては,すでに十分認識ずみである程度のこ とを,あえてここで(自分なりの整理をとおして)参照し考察してみようと するのである。その理由は, 1 つには,後に見るように,わが国の海運研究 分野ではまだ上記表題の点—品目別差別運賃を説明する場合に用いられる 需要曲線の性質・意義―について,必らずしも理解が十分でないように思 われる節があること。それともう 1 つには,一般経済学の分野でも,マクロ 分析にくらべると, ミクロ分析においては依然として観念的な需要曲線によ る説明がかなり通用している一―—あるいは,これに依存せざるを得ない事情 がある_ように見受けられるからである。

といっても—一ー後の点に関して一ーミクロ経済学の最近の動向について展 望的な見解を述べることは,私には不可能なことである。そこで,いささか 旧聞に属するが,戦後間もない頃の方法論争を想起し,それをよりどころに

して私の理解と意図するところを補足したい。

すなわち, 1 9 4 6 年の AmericanEconomic Review に寄せた論文で,マ 2 )   宮下国生「海運市場論」千倉書房,昭5 3 。本書において,著者はまず分析の対象 を市場的運賃決定機構が有効に作用する領域に限定し, さらにこれをいくつかの 要素市場 ( E l e m e n t a r m a r k t ) に分類するのであるが,そののち,分析対象とし ての海運市場を再構成するに当たっては,つぎのようにその方針を明示しておら れる。

すなわち,「ここでとられる市場構成の基準は, 基本的には, どのような市場

構成をとることが海運市場を体系的に考察するうえで有効であるかということで

ある。しかし,その場合に,実証分析に適用しうる市場構成モデルを構築しなけ

ればならないから,同時に,利用可能なデータがどの程度に存在しているかとい

うことも考慮されている」(「同書」 1 ページ)と。われわれは,著者のこの率直

な表硯のなかに,海運論における新時代の到来を鮮明に感じ取ることができるよ

うに思う。

(4)

定期船サーピスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 1 1 ) 7 3   ハループは,かのホールおよびヒツチ,あるいはレスター等による実証的な 企業研究に対して,限界分析を道具とする伝統的な企業理論を擁護し,その なかでつぎのように述べた。

「経済学について習いはじめの学生は, 先生が黒板の半分くらいにもわたって需 要・供給(費用)曲線を描くのを見て,経営者というものは,産出量のほとんどゼロ から,彼が平常生産している量の 2 3 倍の量に及ぶ範囲について,生産と販売の可 能性をありありと心に描くことができるものであるかのように,誤って信じこまされ ることがある。…...しかし,これは主として,教室のうしろの方にいる学生にも何が

3) 

描いてあるのかよく見えるようにするためである。」

今日では,大学の講義においてミクロの理論になじむことが少ないようで あるから,マハループが案じたような「誤解」を懐くほどに注意ぶかく需要 曲線を見つめる学生も,あるいはいないかもしれない。しかし,それはとも かくとして,上の冗談話は,伝統的な図解による限界分析がいかにも観念的 な説明であることを,よく示しているように思われる。

実際,ハンセンは(企業の生産費閲数について綸じた際), このマハ)レー プの論文に言及して「それは興味ぶかい批判であり,限界主義の理論的装置 を弁護した点ですぐれたものである。が, しかし私には,彼がレスクー ( R .

4) 

A .   Lester) の実証的な諸発見の攻撃に成功したとは考えられない」と述べ た。都留重人教授も,限界分析をもって,本来主観的な判断にもとづいて行 動する経営者の態度決定をモデル化したものであるとするマハループの見解 は,それなりに賛同されてよいであろう。しかし,その反面,理論の性格を 3 )   M a c h l u p ,   F . ,   " M a r g i n a l  A n a l y s i s  and E m p i r i c a l  R e s e a r c h , "   A .  E. R . ,   V o l .  

X X X V I ,   N o .  4 ,   S e p t .   1 9 4 6 ,   p .   5 2 2 (後に同じ著者の The Economics  of  S e l l e r s ' C o m p e t i t i o n ,   1 9 5 2 ,   C h . .  2および 3 に収録された。服部正博訳「売手 競争の経済学」昭4 0 , 4 2 ページ)。

4 )   H a n s e n ,   A .   H . ,  Monetary Theory and F i s c a l  P o l i c y ,   1 9 4 9 ,   C h . .   7 ,   p .   1 0 8 ,  

n .   6 ;小原敬士・伊東政吉訳「貨幣理論と財政政策」昭 2 8 , 1 2 5 ページ,注 6 。

(5)

7 4 ( 5 1 2 )   期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

そのようなものとして明確にすればするほど,いっそう理論と現実との橋渡

5) 

しは困難なものになってしまう一_ーといった意味の批判を述べておられる。

今日では,当時に見られた状態がどの程度に改善されているか。私の判断 は,けっして自信のあるものではない。しかし,いずれにせよ理論と硯実と の橋渡しは,経済学にとっていわば永遠の課題であり,われわれの海運論の 分野でも,やはりこの点でなお努力すべきものが残されていることはいうま でもない。拙稿は,このような意味において,少なくとも伝統的な需要曲線 を用いて定期船の品目別差別運賃の形成を説明しようとする場合には,どの ような留意が必要であるかを,覚え書き的に整理したものである。

I I   需要曲線の基本的含意一フリードマンによる説明一—

われわれが事もなげに黒板に描く需要曲線は,厳密には一取引の態様に 関して—どういう意味をもっているのであろうか。フリードマンは,その

『価格理論』のはじめ(第 2 章 需 要 の 理 論 ) に お い て , こ の 基 本 的 な 問 題 を取り上げている。彼によれば,

「ある特定の商品に対するある特定の集団の需要曲線は,ある特定の価格で単位時 間にその集団によって購入される最大量を示す点の軌跡として,定義される。それは

〔単位時間当たりの]ある率のフローを,ある瞬間におけるある価格と関係づけよう とする試みを表わすものである。多くの問題にとって,需要曲線は,つぎのような 2 つの領域を区別する境界線であると見なすことが有用である。すなわち,需要曲線よ

り左側の領域は,需要者が指定された価格で指定された量を進んで買おうとするとい う意味において,所与の需要条件のもとで達成可能な諸点を表わしており,需要曲線 より右側の領域は,需要者が指定された価格で指定された量を進んで貿おうとしない という意味において,達成不可能な諸点を表わしている(図2 . 1〔省略]を参照)。」

6) 

5) 

都留重人「経済の論理と現実」「思想」昭2 6 . 5 (後に同じ表題の書物に収録され た。「経済の論理と現実」昭3 4 , 序論, 1 2 ページ)。

6 )   F r i e d m a n ,   M . ,  P r i c e  T h e o r y ,  1 9 7 6 ,   p p .   1 を 1 4 ;内田忠夫・西部邁・深谷昌弘

共訳「価格理論」 ( 1 9 6 7 年版による)昭4 7 , 1 0 ページ(傍点は引用者)。

(6)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 1 3 ) 7 5  

「需要曲線を所与の条件の下における境界線と見なす場合,需要曲線上の . . . .  

1

点は,

購入者が所与の価格で単位時間当たりに買うであろう最大の量を表わしている。した がって,需要曲線を描く場合,正確を期するならば,需要者に対していかなる選択が 許容されているかを明確にすべきである。すなわち,通常描かれている場合の需要曲 線は,需要者が指定された価格で指定されただけの量を買うかどうかは自由であるこ とを想定しているのである。もしかりに,需要者に対してオー)レ・オア・ナッシング ( a l l   o r  n o t h i n g ) の決定すなわち,指定された量を買うか,それとも全く買わない で辛抱するかの二者択ー的な選択が要求されている場合を想定するならば,通常の需 . . . .  

要曲線とは達った別の需要曲線が描かれねばならない。概していえば,このオー)レ・

. . . . . . . . . . . . .  

オア・ナッシングの需要曲線は,図 1 [原図 2 . 2 J に見られるように, 通常の需要曲

. . . . . . .  

線の右側にあるであろう。さらに,ある特別の場合には,それは C 同じ図で〕網目を 施した部分 B が , 同様に網目を施した部分 A に等しいという条件によって決定され

図 1 価 格

Dz 

゜ z  D1 

単位時間当たり数量

. . . . .  

るであろう。しかし,より一般的には,その場合の需要曲線は,通常の需要曲線とこ のような条件によって決定される曲線との間にある,と考えられてよいであろう。オ ール・オア・ナッシングの需要曲線は,ある種の問題を分析するのには有用である。

しかし,われわれのここでの主要な関心は,通常のタイプの需要曲線にかかわってい

(7)

7 6 ( 5 1 4 )   定期船サーピスの裾要曲線と品目別差別運賃(東海林)

る 。 7 ]

以上が,需要曲線のもつ基本的な含意についてのフリードマンの説明であ る。再説すれば, フリードマンは,ここで,およそ需要曲線なるものを,単 に 1 本の線(もしくはそれによって示される「需要表」 demands c h e d u l e )   として理解するのではなく, むしろ, かの「予算(制限)線」 ( b u d g e t く c o n s t r a i n t >  l i n e ) や「生産可能性曲線」 ( p r o d u c t i o np o s s i b i l i t y  c u r v e ;   p r o d u c t i o n  f r o n t i e r ) と同様に 1 つの境界線 (boundaryl i n e ) として,こ れを理解すぺきものであることを強調しているのである。彼のいう「オール

•オア・ナッシング」の需要曲線は,このような需要曲線一般に対する基本 的認識から,いわば派生的に導き出されたものといってよく,通常の場合か らすれば例外的なものとして一フリードマン自身がこのテキストにおいて 取り扱っているように―考慮の外においても,とくに差しつかえのあるも のではない。しかし,表記の問題を取り扱おうとする,いまのわれわれにと っては,この需要曲線こそ重要なのである。

というのは,一体どういう意味なのか。 そもそも, 「オール・オア・ナッ シング」の需要曲線が硯実に該当する場合とは,どういう商品,ないしはど ういう市場において見られる取引なのであろうか。この点について,すぐに ここで答えることは,しかし,これを見合わせて次節以下にゆだねることと し,ここでは,ただこの曲線のもつ形式的な特性について,一言だけ補足し ておくことにしよう。

すなわち, フリードマンが図 1 の需要曲線 DD2 について述べたような,

この曲線と通常の需要曲線 DD1 との相対的な関係は, これを別の一ーもっ

と一般的な—表現によっていいかえるとすれば,どういうことになるであ

ろうか。それは, ロビンソン夫人の有名な『不完全競争の経済学』における

8) 

「幾何学」的説明を想起するまでもなく明らかであって, DD1 は , DD2 を 7 )   F r i e d m a n ,   i b i d . ,   p p .  1 5 ‑ 1 6 ; 「同上邦訳」, 11‑12 ページ(傍点は同じく引用者)。

8 )   R o b i n s o n ,   J . ,   T h e  E c o n o m i c s  o f  I m p e r f e c t  C o m p e t i t i o n ,   1 9 3 3 ,   p .  3 0 .  

(8)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 1 5 ) 7 7   平均収入 (AR) 曲線と見た場合, それに対応する限界収入 (MR) 曲線に 該当するということ,これである。いうまでもなく, 通常の需要曲線 DD1 は , AR 曲線として概念されている。したがって,われわれはここに,代表 的な 3 つの需要曲線,すなわち,フリードマンのいう「ある特別の場合」の オール・オア・ナッシングの需要曲線 DD2, 通常の需要曲線 DD1 ― こ れ は , DD2 に対する M R 曲線であると同時に通常の取引においては AR 曲線で ある一ーおよび DD1 に対する通常の M R 曲線(図 1 には描かれていない)

9) 

をもつことになる。

m  差別価格の 3 形態一ーピグ—―

「指定された量を買うか,それとも全く買わないで辛抱するかー一」この ような二者択ーを供給者が需要者に迫り得る場合とは,一休どのような場合 であろうか。学説史をさかのぽってみれば,このような問題をもっともよく 整理して最初に示したのはピグーである。

ピグーは,『厚生経済学』の第 2 部において「国民分配分の大きさと各種 用途間の資源の配分」を論じ; そのなかで独占について, そ れ が 差 別 カ

( d i s c r i m i n a t i n g  p o w e r ) を伴う場合, すなわち差別独占 ( d i s c r i m i n a t i n g m o n o p o l y ) について論じた(第 1 7 章)。差別独占とは「相異なる顧客の間に

9)

後述するように,「オール・オア・ナッシング」の意味をつきつめていくと,そ のような条件の取引においては, 図 1 における販売量 ON に対して,需要曲線 DD2 上の平均価格 HO(=LN) が課せられるというよりは,むしろ, ON 上の 各単販売単位ごとに需要曲線 DD1 上の価格がそれぞれ課せられ, その結果とし て,総額としての DONM(=HONL) に等しい金額が数量 ON の対価として徴 収せられるものと理解した方が, より真に近いといえよう (単価 LN の大きさ は,むしろ,総額 DONM を数量 ON で割った結果として, 後から求められる のである)。そのような理解をするならば, あえて DD2 を描くことをしないで も

, DD1 を取引の態様(買い取りの条件)に応じて 2 通りに読みかえることで

足りるのである。なお,図 1 における A•B 以外の符号は, 説明の便宜上引用

者が追加したものである。

(9)

7 8 ( 5 1 6 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

10) 

価格上の差別を設ける」独占のことである。このような差別独占が成立する ためには,( 1 )供給者が独占力を有すること,( 2 )商品がその性質によって,ぁ るいは需要者相互間の非移転性によって,市場の分割が可能なことが必要で ある。そして,ピグーは,この差別独占をさらにつぎのような 3 つの形態に 分類した。すなわち,

「 第 1 級のもの ( af f r s t  d e g r e e )は , 商品の一切の相異なる単位に対して別々の 価格をつけ,それぞれに対して要求される価格がその需要〔最高〕価格に等しく,し たがつていささかの消費者余剰も買手には残されないようにすることになろう。第 2   . .

級 ( as e c o n d  d e g r e e )は,ある独占者が, より大きい需要価格を有する単位は,

これをすべてかの価格で販売し,

X

より小さく yょりは大きい需要価格を有する単位  

は,これをすべて yの価格で販売するというようにして, 個の別々の価格をつけ得 る場合に見られるであろう。第 3 級 ( at h i r d  d e g r e e )は,独占者が,その顧客をな

んらかの実行可能な方法で分割し得る 個の別々の集団   ( g r o u p )に区別して, しか もその集団ごとに, それぞれ別個の価格を課し得る場合に見られるであろう。ここ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .  

で留意すべきことは, この第 3 級の差別が前の 2 つのいずれとも根本的に相遮する ( d i f f

sf u n d a m e n t a l l y  from)点は,第 3 級の差別にあっては,ある〔下位の〕市 場で充足されるいくつかの需要価格を上回る需要価格によって表わされる,そういう 需要〔第 1 級と第 2 級の差別では,それらは必らず上位の独占価格において充足され よう]であっても,この場合には, 〔その需要の属する]別の市場においてそれが必 らずしも充足されるとは限らない〔なぜなら,上のような需要価格で.も,当該市場の

11) 

独占価格には及ばないことがあり得るから]ということである。

彼 ( ピ グ ー ) は , さ ら に つ づ け て い う _ 「 こ れ ら 3 つの等級の差別は,

理論上はいずれもみなあり得るけれども,実際上の見地から見ると,重要性 1 0 )   P i g o u ,   A .  C . ,   The Economics of W e l f a r e ,   4 t h  e d . ,   1 9 5 2 ,   p .  2 7 5   ;‑永田清監

修「厚生経済学」 J I , ' 昭 2 9 , 1 8 1 ページ。

1 1 )   P i g o u ,   i b i d . ,  p .  2 7 9 ;「同上邦訳」 185‑186 ページ (傍点およびイタリックは引

用者)。

(10)

定期船サーピスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 1 7 ) 7 9   の度合を等しくするものではない。というよりも,実生活においては,第 3

12) 

級の差別が見られるのみである」と。

ピグーは,ここで第 1 級の差別(その可能性)として,医師・弁護士・教 師・歯科医・旅館主等のサービスをその例に挙げている。いま,このうち医 者について考えてみると,まず,患者にとって医者は容易には代替の効かな い売手であり,逆にいえば医者はある程度の独占力を有する。第 2 に,医療 サービスは, 1 人の買手から他人に移転の効くものではない。市場は完全に 分割されており,患者 1 人 1 人が 1 つの市場なのである。したがって,医者 は患者との取弓 I において, a l l   or nothing" あるいは take i t   or leave  i tー一いやならお引き取りください一一ーといった態度 (よしんばそれを露

13) 

骨には現わさないとしても)に出ることができる。

もちろん,今日では,医師のサービスは多くの国で社会保障制度のなかに 組み入れられており,医師はいわば公益事業化されている。けれども,この ようなきわめて専門的な職業を公共規制のもとにおくことがいかに困難であ るかは, 日本医師会の態度を見てもよく分かるであろう。ともあれ,少なく とも一応の可能性として,医者の場合に見られる第 1 級の差別,その際の価 格・販売量の決定とは,まさしくわれわれが前節でフリードマンについて見 た「オール・オア・ナッシング」の需要曲線—そのうちのさらに「ある特 別の場合」ないしは「徹底したオール・オア・ナッシング」の需要曲線ー一

1 2 )   P i g o u ,   i b i d . ,  p .  2 7 9 ;「同上邦訳」 1 8 6 ページ。

1 3 )   このところの説明に際しては, ピク・一のみでなく,つぎを参照した。 F i x l e r , L .   D . ,   The E c o n o m i c s  of P r i c e  D i s c r i m i n a t i o n ,   U n i v .   M i c r o f i l m s ,  I n c . ,   1 9 6 0 ,   p p .   x i i + 2 9 6 .  

この本は, 著者がニューヨーク大学へ提出した P h . D . 論文を複製したもの で,差別価格を周到に論じたものとして評価できよう。なお,下記は同書に見え ている挿話である。

ある患者が,医者のくれた 1 , 0 0 0ドルという法外な請求書におどろいて,費用

の内訳を示してくれるようにたのんだ。それに対する医者の答えはつぎのようで

あった一一看護料 5 ドル,手術室の費用1 0 ドル,手術器具の使用費 2ドル,どこ

を切るかの知識983 ドル,合計1 , 0 0 0 ド ル 。 F i x l e r , i b i d . ,  p .  9 9 , .   n .   1 .  

(11)

8 0 ( 5 1 8 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

に該当することは,もはやいうまでもないであろう。

その理論的な意義について,ピグーはつぎのように説明している。すなわ ち , 1 個人を唯一の買手とした場合,顧客にとって,もし彼が 9 9 個を有して いるならばあとの 1 個,つまり 1 0 0 番目の単位については,わずかに 1 シリ ングしか払いたくないと思っている品物でも,全然ゼロとの選択を迫られた なら, 100 個を 300 シリングで買うであろう, という場合には, 独占者は,

この 100 個を 1 まとめにして販売し,それに 300 シリングの値をつけるであろ う。この場合,この商品の物理的な各単位は,それに対する需要の強度(需

14) 

要価格〕に応じて, 1 個ずつ別の値段で売られることになるのである,と。

われわれが図 1 について前記のような注 (9) を付したのは,まさにこうした 理解にもとづくのである。

さて,ピグーは,上述のように,実生活において見受けられる差別価格の ほとんど唯一の形態は,第 3 級の差別に限られるとした。彼が第 3 級の差別 の代表的な例として挙げているのは一一当時,なおその黄金時代をエンジョ ィしていた一~鉄道による貨物別差別運賃である。たとえば,石炭と銅の運 送に当たって,同じ 1 トン・マイルに対して別々の運賃を課すケースがある ことは,とくにその理由を説明するまでもなく容易に理解されるところであ ろう。

ジョーン・ロビンソンは,このピク・ーの第 3級の差別に対して,図形的な

15) 

証明を与えた。 それは今日では, 多くの交通経済学の文献に利用されてい

i6) 

る。したがって,ここではあえてこれを示さない。むしろ,この種の説明に 関しては,さきに関西学院大学の丸茂新教授の指摘されている,つぎのよう な問題点を記すことがより重要であると思われる。

1 4 )   P i g o u ,   o p .   c i t . ,   p p .   2 7 9 ‑ 2 8 0 ; 「前掲邦訳」 1 8 6 ページ。

1 5 )   R o b i n s o n ,   o p .   c i t . ,   P :  1 8 3 .  

1 6 )   私自身も,定期船クリフの説明にこれを利用した。拙著「海運論」昭 4 6 , 2 3 6 ペ ージ。ただし,その場合肝心のところで氏の位置が間進っている。ここでお断

りしておきたい。

(12)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 1 9 ) 8 1   すなわち,丸茂教授の数学的な解明によれば, 「ロビンソン流」の説明で は,市場分割の後に差別価格の形成を通じて得られる独占利潤と,市場分割 以前の単純な独占によって得られる独占利潤とは,その大きさにおいて同一 . . . . . . . . .  

である。「にもかかわらず, 問題の独占企業はあえて市場を分割し,差別価 格を設定することを[ロビンソンの説甲は〕前提としている。しかし,これ は極めて非硯実的な前提である。ロビンソンの一例を用いるなら,綿製品に 対する運送市場と石炭に対する運送市場を分割し,そこに設定される差別運 賃率を通して実現する粗利潤が,綿製品およぴ石炭が利用する運送サービス 一般を対象とする総運送サービス市場にて設定されるユニークな一般的運賃 率を通して得られる粗利潤と等しいのなら,この独占企業(鉄道)は,あえ て差別運賃制度を採用しないであろう。この意味において, ロビンソン流の 差別運賃論は,差別化を誘引するについての十分な説得力を持たないといえ

17) 

る」と。

たしかに,教授のいわれるように,ロビンソンの説明では,各貨物運送市 場の需要曲線を「通常の需要曲線」ないしは AR 曲線として描いている。そ の限り,上のような問題点が出てくるのも当然であろう。

しかし,私は,教授の指摘によって大いに啓発されたことを感謝しながら も,なおつぎのように考えるのである。つまり,鉄道にしても定期船会社に しても,作為して市場を分割しているのではむしろない。石炭の運送需要と 綿製品の運送需要とは,はじめから別の需要なのである。それは,この理論 が適用されるいま 1 つの例である「海外ダンピング」において,国内市場と 外国市場とがはじめから分かれているのに等しい。さらに,各商品ごとにと らえられる運送需要の強度(運賃弾力性)は,マーシアルやサミュエルソン の数え挙げているように,いくつもの事情によって決定されてお}

8'

)運送人 がそれぞれの市場について設定する(差別)運賃は,その意味では一後述

1 7 )   丸茂新「鉄道運賃学説史」昭 4 7 , 2 1 3 ページ(傍点は引用者)。

1 8 )   簡単には東海林「前掲書」 2 1 6 ページ注 19 を参照。

(13)

8 2 ( 5 2 0 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

19) 

のレイングのいうように—むしろ「外生的に決定される」ものといってい えないこともない。

他方,丸茂教授のいわれるように,総運送サービスの需要曲線を, ロビン ソンのように AR 曲線でなく 「デュピュイ・コルソン流」の M R 曲線とし て理解する場合には,単純独占ではなく差別独占によってより大きい利潤の

20) 

得られることを証明することは可能である。そして,それは,後述するよう に,ガス・電力等の同質的なサービスについて設定される第 2 級の差別の説 明としては,たしかに有意味であろう。また,鉄道や船でも,旅客について ならばある程度有効な説明方法となるであろう。この後者の場合,運送人は

21) 

ときとして作為的に需要者集団間の移転性を阻止しようとすることがある。

しかし,異種貨物の運送市場に関しては,そのような必要性はさらにない。

むしろ, 合成された全体の需要曲線を考えることの方がより非現実的であ る,とこのようにさえいえるのではなかろうか。

ここで,ピグーが第 3 級の差別についてとくに付け加えている注意を想起 することが有用であるように,私には思われる。すなわち,第 1 級およびそ

22) 

れのやや綬和された形としての第 2 級の差別においては,ある等級の価格よ 1 9 )   L a i n g ,   E . .   T ; ,  "The R a t i o n a l i t y  o f   C o n f e r e n c e   P r i c i n g   and  Output P o l i ‑

c i e s " ,   P a r t  2 ,   Maritime  S t u d i e s  and Management,  V o l .   3 ,   N o .   3 ,   1 9 7 6 .   1 ,   p . 1 4 2 .  

2 0 )   丸茂「前掲書」 2 1 4 ページ。

2 1 )   初期の鉄道業者は,上等の服を着た客が 3 等車を利用するのを防ぐために,握突 掃除夫を雇ってわざとそこをすすで汚したりした。 B o n a v i a , M. 

R., 

The Eco‑. 

n o m i c s  of T r a n s p o r t ,  1 9 5 4 ,   p .  1 2 4 .学割定期でも,もしそれが簡単に流用され,

防止のための費用が高くつけば「市場の分割」は行なわれないであろう。

2 2 )   第 1 級の差別ー一ちなみに,ロビンソンはこれに「完全な差別」 ( " p e r f e c td i s c r i ‑ m i q a t i o n' )という別名を与えた ( i b i d . ,p . 1 8 7 ,  n .   1 ) 一ーと第 2 級の差別との相 遮点は,前者においては付け得る価格の数がいわば無限であるのに対して,後者 では,それが限られていることである。付け得る価格の数が多くなれば多くなる ほど,第 2 級の差別は第 1 級の差別に近くなる。それはあたかも「円に内接する 多角形の面積が, その辺数の増加に伴って円の面積に近づく」のに似ている。

P i g o u ,   o p .   c i t . ,   p .  

~84; 「前掲邦訳」 192 ページ。 Fixler,

o p .   c i t . ,   p .  4 5 .  

(14)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 2 1 ) 8 3   りも高い需要価格を有する需要は,かりにその等級価格での販売を拒否され ても,必らずどこかより上級の等級においてその需要をみたすことが可能で ある。けれども,第 3 級の差別においては,ある市場において設定された価 格に対して,それよりも低い需要価格しかもない需要(荷主)は,たとえ自 己の需要価格(運賃)が他の市場(貨物)の需要価格(運賃)より高い場合 でも,その需要(運送)を断念しなければならないのである。この意味にお いて,貨物の品目別運賃は,たとえそれがきわめて細かいきざみ方で多数の 等級に分類されていても,本質的に第 3級の差別というべきである。このよ うな第 3 級の差別を説明するのに,第 1 級や第 2 級の差別と同じ図解を用い ることは,折角ビク・ーによって示された基本的な相遮点を見落とすおそれが あり, したがって理論的にはむしろ避けるべきことではなかろうか。

このようにして, くり返していえば,第 3 級の差別—その代表的な例と して, 貨物の品目別差別運賃(とくにその形成原理)一ーを説明するのに,

ロビンソン流の図解は依然として有効であり,理論としてはその方がより適 切であるというべきではなかろうか,と私には思われるのである。

w  第 2 級の差別と表定運賃

われわれは,前節において, ピク・ーによる 3つの差別価格を学ぶととも に,品目別差別運賃の形成に対しては,第 3級の差別の考え方ないしは説明 をもってするのことが適当であることを確認し得たと思う。しかし,ここで なお補足すれば,つぎのようである。

すなわち,およそ需要曲線を描く場合に重要なことは,第 1 にそれが 1 企 業に対するものであるのか,それとも市場全体のそれであるのかを明確にし ておかねばならない。第 2 は,その需要曲線が 1 個人(または家計)あるい は企業のような個々の買手のそれであるのか,それともそれらを集計した社 会的な需要曲線であるのかを,明確にしておくことが必要である。

見方を変えていえば,前者は売手の独占・競争性いかんに関係があり,後

者は買手におけるそれに関係があるものといえよう。たとえば,第 1 級の差

(15)

8 4 ( 5 2 2 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

別の理論的モデルとして取り上げられている,医者が個々の息者に対して「イ エスかノーか」を迫るような場合,それは 「双方独占」 ( b i l a t e r a l mono‑

p o l y ) 一ただし,この場合の買手は,需要独占力なるものをほとんどもた

23) 

ない—に近いのでいる。現実に第 1 級の差別が行なわれ得ないのは,この ように別々の買手と交渉することに,莫大な費用と手数とがかかるのみでな

24) 

く,それが社会的に贈賄等の不公正を招くおそれが多いからである。

これに対して,第 2 級の差別はどうであろうか。ピグーやロビンソンも,

第 2 級の差別について,その具体例を挙げることをしなかった。彼等は,こ の種の差別価格に対しては現実的な重要性を認めなかったもののようであ

25) 

る。けれども, これは, 公益事業の分野ではいわゆる「ブロック料金」

( b l o c k  p r i c i n g ) と呼ばれ, とくに欧米においてはしばしば採用されている 方式である。

表 1 電 気 料 金 の 一 例

供 給 種 別

消費麓 (kw•

h /月)

料金(セント/kw•

h )  

住 宅 用

最初の 5 0   つぎの 1 5 0  

2 0 0 超過

6 3 2  

(出所) 現代公益事業講座•第 5 巻「公益事業料金設定論」昭和50, 40 ページ,表 3 。

2 3 )   F i x l e r ,   o p .   c i t . ,   p .  2 0 .  

2 4 )   P i g o u ,   o p .   c i t . ,  

p. 

2 8 0 ;「前掲邦訳」 186‑187 ページ。ピグーはここで,第 1 級 の差別が実行されない理由として,まず「市場の需要表を構成している個人の需 要表は,通例同一というのには程遠い」ことを挙げている。そのような現実に立 てば,第 1 級の差別は一もしかりにそれが現実に行なわれるとした場合は一一 一方では各市場において

1

単位ごとに異なる価格を付けることであるとともに,

他方では各市場(顧客)について別々の価格(販売量と販売額)を要求すること でもある。

2 5 )   F i x l e r ,   o p .   c i t . ,   p .  4 5 .  

(16)

定期船サ←ビスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 2 3 ) 8 5   たとえば,表 1 のようであって,これを代表的な各家庭の需要曲線に即し て図形的に説明することは,さほど困難なことではない。市場全体について は,各料金段階ごとに予想される使用量(各プロックの消費量 X 世帯数)を 横軸に沿って測るようにすればよい。つまり,この場合,少なくとも同一種 別に属する需要者に対しては,すべて同一の価格体系が適用されるのであっ て,この点が,第 2 級の差別が第 1 級のように社会的に道徳的な指弾を受け

・  26) 

ることなく,広く行なわれる所以であろう。

さて,われわれがここで現実的な対象としているのは,いうまでもなく定 期船における品目別運賃である。海運同盟が設定する表定賃率がすぐれて価 格差別的なものであることは,すでによく知られている。ここでその実態を 詳らかにすることはできないが, 1 つの比較としていうならば,硯行の国鉄 の貨物別等級運賃は,わずかに 3等級で, しかも最低の 3等級の水準を 100

町)

とすれば,最高の 1 等級でも 1 2 4 と,その格差は 2 4 %にすぎない。

これに対して,ディーキンの示したところによれば,英/欧〜極東/豪州 間往・復の諸海運同盟が採用している運賃表は, 20 30 等級(そのほかに多 数の separater a t e " がある)のものが多く, 運賃格差も最高は最低の 6

28) 

20 倍に及んでいる。つまり,今日では品目別差別運賃の典型は,鉄道にお 2 6 )   B i l a s ,   R .   A . ,  M i c r o e c o n o m i c  T h e o r y :  A G r a p h i c a l  A n a l y s i s ,   1 9 6 7 ,  

p. 

1 9 8 ;  

矢島釣次訳「ミクロ経済学一図解による分析ー」昭4 4 , 2 2 4 ページ。 この本は,

差別価格の 3 つの形態を上手に説明している。なお,上のような差別価格の経営 政策上の意義については, その説明の適切さによって, K a h n , A .   E . ,   The  E c o n o m i c s  of R e g u l a t i o n :  P r i n c i p l e s   and I n s t i t u t i o n s ,   V o l .   1 ,   1 9 7 0 ,  

p. 

1 3 2 ,   n .  

17 を挙げることができる。後者は,現代公益事業講座•第 6 巻「公益

事業料金構成論」昭5 0 , 1 6 ページにも引用されている。

2 7 )   岡野行秀編「交通の経済学」昭5 2 , 231‑232 ページ。昭和3 3 年当時においては,

それは普通等級において1 2 等級で,本文と同様にとらえた格差は1 6 7 %であった。

この間の変化は,モークリゼーションに伴う国鉄の独占力の喪失を如実に物語っ て•いる。

2 8 ) 拙稿「ディーキン著「海運同盟」」関西大学「商学論集」第1 9 巻第 5• 6 号,昭

5 0 .   2 ,   210‑213 ページ(とくに表 6)を参照。

(17)

8 6 ( 5 2 4 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

いてではなく,定期船事業においてこれを見出すことができるといってよい

29) 

であろう。

このような品目別運賃が,今後はたしてどうなっていくであろうか。ある いはまた,積極的にどう改めていくべきであろうか。このような点について

30) 

は,別の機会に論じたので,ここでは取り上げない。ここでの問題は,これ を図形によって説明する仕方である。私が拙著において(『海運経済論』昭 3 7 以 来 ) 第 3 級の差別による説明を施してきたことは,すでに述べたとおり である。

これに対して,先学加地照義教授は,第 2 級の差別に該当する図形をもっ てこの表定賃率を説明しておられる。すなわち,

「定期船海運は, 多種多様の商品の積合わせを行なう多数生産物産業 ( m u l t i ‑ p r o ‑ d u c t  i n d u s t r y )であるので,その w h o l e o u t p u tの成果を極大ならしめるために,

定期船運航業者は各商品の運賃負担力を精密に検討し,これをグループ別に分けて,

各商品に差別運賃を課することによって消費者余剰を極少ならしめようとする。いま これを図示する(図 2[原第 8図 〕 ) 。 OR(PM)は掏ー運賃, 0RPMは均一運賃のと きの運賃総収入, DRP は消費者余剰である。図では, 運送商品をさらに 3 等級付 加したことになっているが,消費者余剰はなお残されている。これをゼロにするため に数学上の無限小の概念を導入して,商品をその運賃負担力に応じて無限に細分化し て差別運賃をつければよい。もっとも,硯実には,定期船運航業者は煩瑣と手数をは ぶくため,かつ荷主の抵抗を考慮に入れて現実に可能な範囲の等級わけをする。これ 2 9 )   コンテナ化ー一とくにシベリア・ランドプリッジにおいて採用されている Box

当たり"の運賃ー一の影響および航空輸送からの競争によって,最近ではコン テナ化貨物については,運賃格差を縮小させる方向でタリフが修正されつつある という。しかし,その反面, コンテナ化され得ない貨物については,依然として 負担力主義的な運賃が適用され,これまで以上に割高となる傾向も見られるよう である。

3 0 )   拙稿「定期船運賃論の展望」日本海運経済学会「海運経済研究」第1 1 号 , 昭 5 2 .

1 0 。

(18)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 2 5 ) 8 7   図 2

運賃率 D  R3  R2 

R1 

0  M3  M2  MI  M  運送量

31) 

が,表定運賃のアイディアである。」

われわれは,この説明によって,上述来の差別価格の考え方をよく理解す ることができるのである。ただ,あえていえば,この場合問題と思われるの は,本来は第 3 級 の 差 別 と し て 取 り 扱 わ れ る べ き も の が , 銹 2 級 の 差 別 と 同 じ図解によって説明されている点である。 もっとも, 「要するに負担力主義 的な運賃課徴方式が採られているのだ」ということを示すためには,これで も十分有用であろう。そればかりでなく,このような図解の仕方には,他方 で,定期船サービスの費用ー供給曲線をこれと一目に対比させて論じ得ると いう利点がある。

逆 に い え ば , 第 3 級の差別による説明は,表定賃率の形成過程を理論的に 説 明 す る の に は 適 し て い る が , そ の 反 面 , そ の よ う に し て 形 成 さ れ た 賃 率 構 造の全貌を,費用ー供給曲線との対比において明らかにするという点では,

3 1 ) 加地照義「海上運賃の形成原理について」「神戸商科大学記念論文集」第 3 集通

巻第2 8 号,昭3 4 . 1 , 7 5 ページ。ただし,図 2 は原図(第 8 図)にもとづいて描き

なおされている。

(19)

8 8 ( 5 2 6 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

むしろ不適当である。そして,この点は,クリフに含まれる賃率の数が多く なればなるほど,そのようにいえるであろう。と同時に,この場合,第 2級 の差別の図解をもってすれば,硯実に資料の得られるタリフ・レートの構造 から逆に推定して,市場の需要曲線をかなり現実的な裏付けのあるものとし てとらえることが可能となる。

他方,一般的にいえることであるが, 費用ー供給曲線については,それの 実証的な裏付けを取ることが,需要曲線の場合よりも容易である。したがっ て,はじめに述べたように,需要・供給曲線による観念的な分析をよりいっ そう実証的な分析に近づけるためには,需要曲線の側においての方がより困 難が大きいといえるであろう。このような意味において,定期船の表定賃率 の説明に第 3 級の差別ではなく,第 2 級の差別の図解を用いることは,•それ なりに有意義なことであるかもしれない。ただ,ここでつよく望まれること は,これら 2種類の差別が上述のような基本的な相遮点を有していること を,忘れないようにすることである。すなわち,それを別の言葉で一ーフリ ードマーンおよび丸茂教授の言葉を借りて要約して一一いえば,図 2における 需要曲線は,通常の需要曲線ないし「ロビンソン流」の AR 曲線ではなく,

「オール・オア・ナッシング」の需要曲線に対応する M R 曲線, ないし「デ ュビュイ・コルソン流」の需要曲線であること,これである。

v  表定運賃と「準 1 級」の差別

以上の諸節において述べてきたところをふまえて,近年における定期船運 賃の理論的・実証的研究を展望すれば,諸氏の分析についてどのようなこと がいえるであろうか。ヤンソン,ディーキン,レイングおよびわが織田政夫 教授についてこれを見ることにしよう。

まず,定期船運賃に関するヤンソンの論文は, 1 9 7 0 年から 7 4 年にかけて 3 つ見受けられる。そのうち,最後のものは Journalof Transport Econo‑

m i e s  and P o l i c y に発表されたもので,人目に触れやすいが, 最初の 2

つはロンドンの ICHCA ( I n t e r n a t i o n a l   C a r g o   H a n d l i n g   C o o r d i n a t i o n  

(20)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 2 7 ) 8 9   Association) からタイプ印刷で出版されたもので, わが国では私以外には 多分見ている人がいないのではないかと思われる。これらの全体について,

32) 

その要旨はすでに紹介し論評したところであるが,いまこここで取り上げて いる問題については,その際には触れていない。

ヤンソンは,第 3 の論文のはじめにおいていう一一

「賃率の設定を支配している原則は,いわゆる「負担力主義」 ( " c h a r g ewhat t h e   t r a f f i c  w i l l  b e a r' )である。それは,いいかえると,各品目(各荷主というよりも)

の運賃が,その品目の運送需要の相対的な運賃弾力性の(主として直観的な)評価に もとづいて設定される,ということである。ところが,定期船事業では独占的利益が あるわけではない。このことを考え合わせると, この「差別的」利潤極大化政策が

〔結果としては J 公益事業の(社会的)最適価格政策と合致しているように見えるの は,注目すべきことである。後者は〔定期船と逮って〕規模の経旅性を享受している

33) 

が,他方では独立採算制を要求されているのである。」

ヤンソンのいわんとする点を補足すると,こうである。定期船の表定運賃 は,負担力原理にもとづいており,それはいわば「完全な差別」に近い。他 方,定期船運賃の設定にかかわるコストは, 長期限界費用 (LRMC) であ り,しかもそれは規模に関して不変であると考えられる。だとすれば,そこ に当然巨額な独占利潤が得られるのではないか。なぜなら,利潤極大の原則 にしたがえば企業(もしくはそれの集団としてのカルテル=定期船同盟)

34) 

は , MR=MC の点で産出量を決定するはずだからである。 それにも拘わら 3 2 )   前記注3 0 および拙稿「定期船運賃の実証分析」関西大学「商学論集」第2 1 巻第 6

号,昭5 2 . 2 。

3 3 )   J a n s s o n ,   J .   O . , ' ' I n t r a . T a r i f f  C r o s s . S u b s i d i s a t i o n  i n   L i n e r  S h i p p i n g ,  J o u r n a l   of T r a n s p o r t  E c o n o m i c s  and P o l i c y ,   V o l .  

VJ[, 

N o . 3 ,  1 9 7 4 .   9 ,   p . 2 9 4 .   3 4 )   この点は,後出の図 4 でいえば,その C点(産出量 OQ1)に該当する。なお,

完全な差別独占が,限界費用価格形成原理が適用された場合と同様に,社会的便 益を極大にする一ーもとより,前者においては私的利潤の極大化を伴うという点

(次頁へつづく)

(21)

9 0 ( 5 2 8 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

ず,定期船はこの LRMC 以下でもなお貨物を積み取り,その結果として,

上記のように独占利潤のない業績をつづけている。では,一体,定期船は何 故に LRMC 以下の運賃でも貨物を運ぽうとするのかー一このような内部補 助( c r o s s ‑ s u b s i d i s a t i o n ) はなぜ生きつづけるのか一彼は, このような形 で,この論文の意圏するところについて問題提起を行なっているのである。

このような考え方は, ICHCA から発表された 2 つの論文において,いっ

35) 

そう詳しく論じられている。 1 9 7 0 年の短い論文は,あげてこの問題提起をふ えんしたものであるといってよい。彼がこの論文の表題に付け加えた Some Puzzling Features" という副題は, まさに上記の問題点を意味しているの である。

36) 

いま 1 つ , 1 9 7 1 年に同じ ICHCA から発表された長文の論文は,同様の 主題について理論的・実証的に克明な分析を展開している。彼はこの論文の 第 1 章の表題を「出発点:定期船事業の パラドックス '」(Pointo f  depar‑

t u r e :  The "paradox" of l i n e r  shipping) とした。なにが「パラドックス」

なのかーーそれは,上述のように,( a )運賃構造が品目差別的であり,( b )コス トの構造は収穫不変である。にも拘わらず,( C ) 定期船事業がつねに低利潤に

37) 

甘んじている。この 3 者の併存状態を指すのに他ならない。

で,所得分配上は大きい相遮がある一ーという点については,丸茂新「運賃負担 力原理に閲するノート」関西学院大学「商学論集」第2 0 巻第 3 号,昭和4 8 . 3 を参 照 。

さらにここで付言すれば,器要曲線の性質と差別価格との関係について,これ を物流事業の営業認可問題にたくみに応用した議論をつぎの文献に見出すことが できる。参照されたい。 岡野行秀・山田浩之編「交通経済学講義」昭4 9 , 269‑

2 7 0 ページ(藤井弥太郎教授稿)。

3 5 )   J a n s s o n ,   J .   0 . ,  Rate‑Making i n   L i n e r  S h i p p i n g  : S o m e  P u z z l i n g  F e a t u r e s ,   ICHCA,  1 9 7 0 ,   Mimeographed A 4 ,   p p .  6 .  

3 6 )   J a n s s o n ,   J .   0 . ,   C o s t s  and P r i c e s  f o r  t h e   C a r r i a g e  and P o r t   Handling of  G e n e r a l  Cargo by Sea ( e s p ' l y  P a . r t   1 ,   C o s t  and Rate S t r u c t u r e s  i n   L i n e r   S h i p p i n g ) ,   ICHCA,  1 9 7 1 ,   Mimeographed A 4 ,   p p .   ( P a r t  1 )   1 1 8 .  

3 7 )   J a n s s o n ,   i b i d . ,  p .  1 0 .  

(22)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 2 9 ) 9 1   ヤンソンのコスト分析については,前記拙稿において他と比較しつつこれ を取り上げて考察した。いまここでの問題は,負担力主義にもとづく品目別 差別運賃を,彼がどのように図形的に説明しているかである。この点につい て,彼は図 3 ,を示して,つぎのようにいう。すなわち,

「 図 3 〔原図 1J は品目ごとに別々の運賃 ( s e p a r a t e r a t e s  f o r   s e p e a r a t e   a r t i ‑ c l e s ) を課する場合は, 単一の運賃率を課する場合に比べて,産出量のいかなる水準 においても,総収入が相当程度多くなることを示している。例えば,図 3において,

図 3 A R  

MR 

1 需要=単一運賃 A R曲線

'  品目別 M R 曲線

単一運賃 MR 曲線

Q 1

年間輸送量 Q 。の点についていえば, 図の斜線を施した部分の面積は,このような方 法によって獲得される余分の収入を表わしている。このような場合の限界収入 (MR) 曲線は,「単一運賃」 ( " s i n g l er a t e " )を課した場合の平均収入 (AR) 曲線と MRとの 中間に来るであろう。いわゆる「完全な価格差別」の場合には,一切の消費者余剰を 取り込み,したがって総収入は,図 3 において残されているもう 1 つ上の[半三カ月 形の〕部分をも取り込んだものになるであろう。しかし,実際にはそうはならない。

なぜなら,運賃表においては,各種の品目に対しては唯 1 個の運賃率が掲載されてい

るにすぎない〔貨物の 1 口ごとあるいは 1 単位ごとに運賃が決められているのではな

(23)

9 2 ( 5 3 0 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

い J からである。もっとも,巷間伝えられるところによれば,ロイヤル・シッパーに 支払われる通常の忠実報奨金 ( l o y a l t yo r  f i d e l i t y  r e b a t e ) 以外に,いわゆる「数羅 割引」 ( " q u a n t i t yr e b a t e s) が行なわれることがあるという。 ということは, 同じ 品目の内部においても(大ロ・小口の荷主間に存在する〕なにがしかの消費者余剰を

38) 

それによって取り込もうとしているのだ,といえるかもしれない。」

人は,この説明において,われわれがこれまで辿って来た論点が見事に処 理されているのを認め得るにちがいない。つまりャンソンは,品目別差別運 賃を,第 2 級よりもいっそう第 1 級の差別に近いという意味で,いわば「準 1 級」 ( " q u a s i ‑ f i r s td e g r e e' )の差別として図形化しているのである。前述 のように, 仮 り に こ の 「 品 目 別 M R 曲線」 ( m a r g i n a lr e v e n u e  " s e p a r a t e   r a t e) に対応する「品目別 AR 曲線」を想定するとすれば, それは通常の 需 要 曲 線 ― こ こ で い う 「 単 一 運 賃 AR 曲線」 ( a v e r a g e r e v e n u e   " o n e   s i n g l e  r a t e) 一ーのさらに右上方に描かれることになるであろう。そして,

それは,かのフリードマンの説明にさかのぼっていえば「より一般的」に見 出されるオール・オア・ナッシングの需要曲線にまさに該当するのである。

さて,以上がヤンソンにおける表定運賃の図形化であるが,他方彼が主張 しているように産出量に対してコンスクントな LRAC(=LRMC) を上の図 3 に描くならば,彼のいう「パラドックス」の意味は一目で明らかになるで

39) 

あろう。すでに紹介したように,ャンソンは米国関係航路における品目別運 賃の実態について調査し,これをみずから計算して算出した品目別運送原価

40) 

と対比表示した。つまりそのことによってタリフ・レートがたしかに「差別 3 8 )   J a n s s o n ,   i b

絋,

p p . 6 ‑ 7 .  

3 9 )   ヤンソンは,これを同じ論文の1 1 ページ図 2 において示している。鉄道 (LRMC が逓減する)については,同じく 1 2 ページ,図 3 。また,前記 P u z z l i n gF e a ‑ t u r e s' 論文の 2 ページには,この両者を並記して比較し,「パス加」の意味を説 明している。

4 0 )   前掲拙稿「定期船運賃の実証分析」, 67 ページ,表 9を参照

c

(24)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 3 1 ) 9 3   的」であることを明らかにしたのである。しかし,彼は,みずから主張する コンスタントな LRAC 水準と, こ の 品 目 別 運 賃 と を 対 比 し て 具 体 的 に 示 す ことはしなかった。

これに対して,ディーキンは,彼が調査したなかでもさらに特定の航海の 収支実績にもとづいて,その場合の運賃構造と平均費用 (LRAC) の水準とを 具体的に図示した。いいかえると,彼はヤンソンのいうパラドクシカルな現 実を一彼自身は,これをパラドクシカルだとは考えずに一一倶詐ド的な数字

41) 

を添えて描いてみせたのである。これもすでに紹介したところであるが,ぁ えてここに再硯すれば図 4 のようである。

この図を描くのに際して,ディーキンは,つぎのような想定を行なってい る。第 1 は,貨物別のトン当たり運送原価は, 細 か く い え ば 均 ー で は な い

図 4 運賃率・単位

当たり費用(£) 3 5   I A   3 0   25  2 0  

£  1 6 .   1 5  

£  4 . 4 2 序 i D ̲ _

LRAC= 

LRMC 

AIC 

ヽ lH ‑

i  i H   ‑‑‑‑‑AR(MR) 

Q I  Q2Q3 

運送量 (B/Lトン)

が,図ではこれを同じと見た。第 2 に,需要曲線の形について,一般に,運 賃等級の上の方では航空機との競争により,他方それの下の方では不定期船

4 1 )   前掲拙稿「ディーキン著「海運同開」」, 2 2 9 ページ,図 4 。

(25)

9 4 ( 5 3 2 )   定期船サービスの備要曲線と品目別差別運賃(東海林)

との競争によって,ともに運賃弾力性が大であり,その中間の領域は[いわ ばライナー固有の領域であって〕弾力性は相対的に小さいと考えられる。

42) 

そこで,この場合もそれに従った。さらに第 3 に,同様需要曲線について,

「ここでは,運賃差別を完全なものと見なした。つまり,貨物の 1 口ごとに造った 運賃が課徴されるものとした。このような意味での「完全」差別に近い運賃表を採用 している同盟もないではない。しかし,われわれがこのデークを得た同盟はそうでは なく,そこでは等級運賃によるいわゆる「プロック」制を採用しており,それに若干

. . . .  

の「特別」運賃および従価建て運賃が併用されている。このような実状は,これを経 済学的な用語でいえば, 図 4 〔原図 5 〕に描いたように AR と MR とが境界を相接

43) 

する ( c o n t e r m i n o u s ) ことには,実際はならないことを意味する。」

「この産業およぴ市場においては,需要曲線は[通常のそれのように〕スムーズで 連続的で一価的 ( s i n g l e ‑ v a l u e d )なものではない。そのことを強調せんがために,こ こでは曲線が「破」線で描かれている。それが,完全な価格(運賃)差別のもとにあ る場合には, ここでの AR 曲線に相接するようにして, MR 曲線が描かれるであろ

う 。

44

」 )

4 2 )   D e a k i n ,   i b i d . ,   p p .  

97-~8. 図 4 について見られるとおり,実際の数字が入って

いるのは縦軸の単価のみであり,横軸の運送量は観念的なものである。その意味 で,この需要(収入)曲線も完全に実証的なものではない。いうまでもなく, ラ

イナーの利益が乏しいという事実にもとづいて, △ ABC の面積と△ CEF の面 積とがほぼ等しくなるように配慮して,この曲線は描かれているのである(もし 読者が,この図の A点から出発して F点を通る右下がりの曲線を〔破線で]描き 加えるならば,その曲線は図 1 における「オール・オア・ナッシング」の需要曲 線にきわめて近いものであることを,ただちに確認されるであろう)。

4 3 )   D e a k i n ,   i b i d . ,  p .  9 8 . ディーキンはこのように述ぺながら,しかし,図 4 〔原図 5]においては MR を付記することをしていない。図 4 に見られる (MR) は , 私の加えたものである(この点,前掲拙稿においても同様)。

4 4 )   D e a k i n ,   i b i d . ,  p .  9 9 ,   F i g .   5 ,   n .  b . 「一価的」とは, ここではヤンソンの図 3

における・「単一運賃 AR 」と同じように, その需要曲線によって一ー相異なる複

数の価格(運賃)ではな<―単一の価格(運賃)の形成が想定されていること

を意味するものといえよう。

(26)

定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林) ( 5 3 3 ) 9 5   このようなディーキンの言葉は,これまでわれわれが留意してきた問題点 を,そのまま別の言葉でいいかえたものに他ならない。というよりも,私自 身は,以上のようなヤンソンやディーキンの言葉に教えられて,この覚え書

きを作るに至ったのだ,といった方が正確かもしれない。

このような私の理解をさらに力づけてくれたのはレイングである。実際,

レイングは定期船の需要曲線と品目別差別運賃について,上の両者と同様な

45) 

理論的理解を一さまざまな図を描くことによって—示した。しかし,そ

46) 

れをここにくり返す必要は,もはやないものと思われる。

要するに,以上,最近外国で定期船運賃の研究を発表した 3 人の著者は,

いずれも,需要曲線の意義についての理論的な正しい理解の上に立って,な おこれを現実の表定運賃の説明に役立たせようとした。その結果,定期船サ ービスに特有な品目別差別運賃の体系は,これをいわば「準 1 級」の差別と して図形化することができ,それがもっとも適していると考えているのであ る。われわれとしても,とくにそうした方法が実証的な分析と結びつきやす

47) 

い点を評価し,その有用性を承認してしかるべきであろう。

さて,最後に,わが国の織田政夫教授について。同教授のこの問題に関す る分析と説明は,その『海運経済論』昭5 0 ,307‑308 ページ,とくに307 ペー 4 5 )   L a i n g ,   " o p .   c i t . "   P a r t  1 ,   Maritime S t u d i e s  and Management, V o l .   3 ,   No. 

2 ,   1 9 7 5 .   1 0 ,   p p . 1 0 5 ‑ 1 0 7 ,   F i g .   1‑Fig.  3 b .  

46) 

表定運賃についてのレイングの説明に対して, シュニャーソンが批判を行なって いるが, 当たらない。 レイングの反論の方が正当である。 C f . M a r i t .   S t u d .   Mgmt., V o l .   3 ,   N o .   4 ,   1 9 7 6 .   4 ,   p .   2 4 7 ;   M a r i t .   P o l .   Mgmt., V o l .   4 ,   No. 

2 ,   1 9 7 6 .   1 0 ,   p .   1 2 5 .  

4 7 )   このような評価と承認とは,前節で参照した加地教授の所説に対するのと基本的

にはまったく同じものである。いいかえると, 「 準 1 級」に固執するのではさら

にない。クリフが簡素化されて等級が減ってくれば,第 2級の差別による図形化

がより適していることはいうまでもない。重要なのは, くり返して述ぺたよう

に,その場合の説明に利用されている需要曲線の性質(それについての認識)で

ある。はじめに引用したマハループの「冗談話」に即していえば,この場合の需

要曲線にあっては,かの学生の受け取り方は—―—少なくとも,決定産出量より左

の部分について一必らずしも「誤解」とはいえないのである。

(27)

9 6 ( 5 3 4 )   定期船サービスの需要曲線と品目別差別運賃(東海林)

ジ,図 9‑4 にこれを見ることができる。しかし, それは,以上のような考

察にもとづけば,需要曲線の使用についての明らかな一ーしかし,ともすれ

ば陥りやすい—誤りにもとづいているものと解される。しかし,ここにそ

の図を引いて私なりに認められる矛盾点をあげつらうようなことは,もはや

これを差し控えたい。むしろ,はじめに述べたような意味において,あえて

本稿を草するに至った契機を与えられた点において,同書に感謝の意を表し

なければならないとさえ思うのである。

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