文科会番号
16-2
5LCC について
10大分大学経済学部 宇野ゼミナール
姫野 千鶴 橋本 拓也 吉田 愛理
山元 さやか 見初 香菜子
15 20 252 1.はじめに 30 格安航空会社(LCC)とは、LCC=Low-Cost Carrier の略称であり、二地点間の移動に 必要な航空輸送サービスのみを提供することに特化し、徹底したコスト削減により、低運賃 を可能にした航空会社のことである。 LCC の歴史として、最初に格安航空会社の先駆けとなったのは、1966 年に設立したイギ リスのレイカーエアウェイズである。第二次世界大戦後長らく、各国の航空業界は厳しい参 35 入規制や価格規制により競争を封じられ、伝統的な大手航空会社の保護が行われ、乗客は割 高な航空運賃を押し付けられていた。その中、レイカーエアウェイズはチャーター便の運航 をスタートに規制緩和のために英国政府と戦い続け大西洋線に格安便を開設した。「格安で 海外旅行に行ける」という口コミは、バックパッカーなどの間に人気が出た。そして1970 年後半から米国航空業界において規制緩和の声が高まり、1978 年にカーター政権下で航空 40 規制緩和法が成立して以来、米国航空業界において参入と運営両面での規制が徐々に撤廃さ れ多数の新規航空会社が市場に参入した。この規制緩和の流れは、その後欧州やアジアにも 広がり、低コストの小規模航空会社(LCC)が次々と設立される中で、大手航空会社は買 収・合併を頻繁に行うとともに新たなビジネスモデル(ハブ&スポーク空港の展開・コンピ ュータ予約システム・フリークエント・フライヤー・プログラム)を導入することで競争環 45 境に対応した。1980 年代から 1990 年代にかけて、既存大手に対応できなかった多くの LCC は競争に敗れ、経営破たんしたものもあった。しかし、1990 年代末期から再び既存大手航 空会社は経営難に陥り、それを機にLCC が市場に参入し現在もそのシェアを拡大している。 LCC の座席数における市場シェアは北米全体で約 30%から最大 50%、欧州 30%から最大 50%、アジア全体では 10%から最大 25%と世界でも LCC が大きなシェアを持っているこ 50 とが分かる。 LCC の特徴と運営の仕組みとしては、中小型機種を中心に機種の統一、中距離路線、ポ イント・トゥ・ポイントの運航、地方航空、二次的空港の使用、単独クラス制(エコノミー クラス)の採用、機内サービスの中止、または有料化を行っている。さらに他航空会社と提 携せず、チェックイン荷物の有料化、乗り継ぎサービス、荷物の受託サービス、機内エンタ 55 ーテイメント、空港サービスは行わず、旅行代理店を通さずオンラインでのチケット販売、 座席指定を行わず自由席とし、マルチタスク(機内清掃・チェックイン・機内サービスの3 つの作業を一人で行うという特徴がある。 LCC のメリットは大きく分けて 3 つあり、その中でも一番のメリットは「低価格」であ
3 る。おおよそ大手の航空会社に比べて2~7 割安く利用することができる。この安さの幅が 60 広い理由は予約、購入する時期によりLCC の運賃が大幅に変動するためであり、大手航空 会社の航空チケットもネット販売であれば割引運賃もあるが、一か月以上前に予約しなけれ ば格安の金額で利用できない。LCC の場合は予約時期と運賃の設定が細かく決まっており、 搭乗日に近い日にちでも安い価格で航空チケットを購入することができるのである。次に 「機材が新しい」ということもメリットである。なぜならLCC には新会社が多く、使用す 65 る機種には数年以内の新しい機材を使用している会社が多いからである。また、古い機材で あると燃費が悪くなるため、最近の原油価格の高騰の状況を考えると運行費用が高くなると いうことからも新しい機材を使う理由とも考えられる。LCC は航空運賃を格安に抑えるた め、燃費の良い機材の導入を積極的に行っており、新機材を使用しているため、故障が少な く、安全性という面においても優れている。そして 3 つ目のメリットは「最低、最大滞在 70 日数の制限がない」ということである。LCC の航空チケットは片道ベースで料金が決まっ ているため、大手航空会社に付けられている付帯条件などがないのである。また、大手で格 安航空チケットを購入する場合、価格が安い代わりに購入時に時間や便名だけではなく、ど の航空会社かもはっきりと分からない場合が多い。対してLCC は購入時に便名や時間がわ かるため、旅行の計画を立てる上でも非常に役に立つのである。 75 デメリットとしては、まず「機内サービスが有料」であるということだ。運賃を安くする ために、LCC では機内食、飲み物、毛布、機内での映画やオーディオなどのエンターテイ メントは有料となっている。そのため機内に持っていく毛布や音楽を機内で聴きたい人は有 料の貸出を利用するか、もしくは持参することになる。次にLCC では「マイレージが貯ま らない」。ほぼ全ての LCC では自社のマイレージプログラムを運営しておらず、同じ系列 80 の他社航空会社のマイレージを加算できるという仕組みもない。さらに、「遅延が多い」と いうこともデメリットである。LCC のローコストオペレーションは機材の有効活用で成り 立っているといえる。飛行機機材の休みをなるべく無くし、一日に何回もフライトさせる。 特に短距離間におけるフライトは、空港の乗り降りにかかる時間を極限まで削減する。これ により一度機材のどこかに不具合が発見され遅れが出た場合、連鎖的に後々の便に遅延の影 85 響が及ぶ。 LCC の中でも「ジェットスター」、「エアアジア」、「Peach」、「スカイマーク」は有名 で、多くの人々に利用されている。この中で最も有名なものが「Peach Aviation」である。 Peach は ANA が香港の投資会社(ファーストイースタン)と共同で発表した新 LCC であ
4 る。Peach は関西国際空港を拠点とし、国内線は 2012 年 3 月に福岡、新千歳、国際線は 5 90 月に韓国ソウルに就航予定となっている。また、中国、台湾への就航も視野に入れている。 Peach と他社のLCCとを比較したときの Peach の特徴として、飛行機は単一機種に絞り、 使用する機材はエアバス製A320-200 型機(定員数約 180 人)の 3 機としている。機体は ピンク色に塗装されており、このピンクは長寿や幸福を表す。そして海外の航空会社がLC Cを傘下に持ち、失敗したケースがあるため、Peach Aviation はブランド、システム、採 95 用をすべてANA から切り離すことを決定し、ANA とは異なり、公用語は英語となる独立 性を持った経営を行っている。 100 105 110 115
5 2.大手航空会社と格安航空会社(LCC)の価格比較 120 まず、各LCC がどのような路線を現在運航しているかについてまとめる。※()内は片 道の価格である。 国内線では、 Peach Aviation が現在運航している路線 関西国際空港 - 福岡 (3590 円~) 125 関西国際空港 - 新千歳 (4790 円~) 関西国際空港 - 長崎 (3590 円~) 関西国際空港 - 鹿児島 (4290 円~) ジェットスターが現在運航している路線 成田国際空港 - 新千歳 (4590 円~) 130 成田国際空港 - 福岡 (5590 円~) 成田国際空港 - 那覇 (6990 円~) 成田国際空港 - 関西 (3990 円~) 関西国際空港 - 成田 (4590 円~) 関西国際空港 - 福岡 (3950 円~) 135 エアアジアが現在運航している路線 成田国際空港 - 新千歳 (4580 円~) 成田国際空港 - 那覇 (6680 円~) 成田国際空港 - 福岡 (5180 円~) などである。そして新千歳空港行きの便を例に挙げ比較してみると、JAL の運賃は普通運 140 賃で成田国際空港発が33500 円~、関西国際空港発が 41300 円~となっており、ANA の 運賃もJAL と同様の価格帯である。上記の通りの LCC の最も安い価格と比べてみると、 Peach Aviation は約 12%の価格であり、ジェットスター、エアアジアは約 14%の価格であ る。この価格はベースとなる普通運賃であるため、JAL、ANA 両社とも空席状況や早い段 階での予約等によって受けることのできる割引が独自にあるが、それでも 1 万円前後とな 145 っており、LCC と比べてみると、やはり 2 倍近い差が生まれている。 福岡空港行きの便についても、JAL、ANA 両社の普通運賃は、成田国際空港発で 36700 円、関西国際空港発は21900 円である。新千歳空港行きと同様にかなりの価格差が生まれ ている。LCC 特有の受託手荷物や機内サービスが有料である、予約はネットでやらないと
6 有料になるというシステムを差し引いても十二分に安いと言えるのではないか。 150 次に国際線では、 Peach Aviation が現在運航している路線 関西国際空港 - ソウル(仁川) (5280 円~) 関西国際空港 - 香港 (8880 円~) ジェットスターが現在運航している路線 155 関西国際空港 - ゴールドコースト (23000 円~) 関西国際空港 - 台北 (7000 円~) 春秋航空が現在運航している路線 茨城/高松空港 - 上海 (4000 円~) 佐賀空港 - 上海 (3000 円~) 160 となっている。主にアジア線を例に取り上げる。ANA の福岡空港-上海行きの料金は 87245 円(燃油サーチャージ込)となっており、燃油サーチャージの 5500 円を抜いた 81745 円をも とに、上記の春秋航空の茨城/高松空港-上海行きの価格と比較してみると、5%ほどの価格 しかないことが分かる。次に香港行きの比較をしてみると、ANA の福岡空港-香港行きの 料金は144650 円(燃油サーチャージ込)となっており、燃油サーチャージの 5500 円を抜い 165 た139150 円をもとに、上記の Peach Aviation の関西国際空港-香港行きの価格と比較し てみると、6%ほどの価格しかないことが分かる。この二つの比較からわかるとおり、国際 線の方が値段の差というのが顕著に表れている。 以上が比較であり、まとめると、国内線も国際線も大手航空会社(ここでいう ANA や JAL) と各LCC の料金比較を行うと、LCC の方が航空料金という概念を覆すような料金設定で市 170 場に乗り込んできているのが分かる。そこで一つ気になるのがこのような料金の面で大き な差がある場合、いくらLCC のサービスが簡素化されて、トラブルへの対処などの面にお いて大手航空会社には到底かなわないと言っても、大手航空会社にとってLCC は脅威では ないのかだろうかということである。 そこで、Peach Aviation、ジェットスター、エアアジアの筆頭株主を見てみると、 175 Peach Aviation…ANA(38.67%) ジェットスター…JAL、カンタス航空(33.3%) エアアジア…ANA(無議決権株式を含めた割合 51%、普通株式 67%) となっており、筆頭株主はANA と JAL、つまり大手航空会社である。筆頭株主は親会社と
7 もいえるため、むしろ大手航空会社はLCC に積極的に出資し、サポート、利用している立 180 場となっている。このことから考えられることは、大手航空会社がLCC の登場によって自 分たちの売上に影響を及ぼすということは考えず、むしろ新たな顧客の創出をもくろんで いるということである。
Peach Aviation の株主でもある ANA から転籍した井上慎一・Peach Aviation 社長は3 カ月間の運航を経験して、「初めて飛行機に乗ったというお客さまが多い」と打ち明けてお 185 り、調査によると、搭乗者の2~4 割が人生初フライトという人たちだということが明らか になっている。このことからLCC を利用する層というのは、今まで価格の面で移動手段と して飛行機というのを利用してこなかった層がターゲットになっていることが分かる。ま た、リクルートの6 月の調査によれば、LCC 利用者満足度評価において 84%の人が「とて も満足」「やや満足」という評価を下しており、今後の課題としてはこのような新たに創出 190 した客層の人々を定着させることが出来るかどうかといったところである。そこで、飛行 機に対して影響を及ぼす、または割りを食う交通手段として、新幹線、高速バス等が考え られるため、次はこの2 つとの価格比較を行う。 JR 新幹線新大阪 - 博多 自由席 14080 円 高速バス 大阪 - 福岡 3500 円~ 195 となっていることから、料金の面からみても、LCC の価格設定は大手航空会社というより も、新幹線の価格の方が近く、さらに高速バスの価格が最も近くLCC の価格とほとんど変 わらない。そのためLCC の登場により、この新幹線や高速バスなどの顧客が流失していく 可能性が出てくるのである。 航空会社全体から見て、LCC の登場は大きなメリットであると言える。大手航空会社も 200 LCC の参入にあたり、綿密な価格設定やスケジュールを考え、うまく自社の顧客を吸い上 げられないように工夫しているのである。一番割りを食うであろう高速バスは、安全性の 問題も上がっており、今後は価格設定、サービスの工夫が必要とされている。 205
8 3.顧客の価格に対するリスク選択について 210 ライフネット生命の調査によると、LCC の利用経験者の LCC 利用時の満足度についてプ ライベートでの利用経験者の「非常に満足」「まあ満足」の合計が63.6%、出張での利用経 験者においては 50.0%と、どちらの利用シーンでも半数以上の層が満足感を得ていること がわかった。それに対して「非常に不満」「やや不満」の合計はいずれも約1 割にとどまり、 実際に利用した人々ではLCC に対して満足している人が多いということが分かった。また、 215 どのくらいの飛行時間の渡航でLCC を利用したいか、LCC 利用経験者に調査したところ、 「4 時間以内」(ソウル・台湾・北京など)を選択した割合がプライベートでの利用経験者 では49.1%と約 5 割、出張での利用経験者では 61.5%と 6 割強となった。そして「7時間 以内」(バンコク・ハワイ・シンガポール)ではプライベートでは23.6%、出張では 15.4%、 「10 時間以内」(サンフランシスコ・シドニー・ロシアなど)においてはプライベートでは 220 20.0%、出張では 15.4%と、渡航時間が長くなるにつれて利用したいと思わなくなることが わかった。このことにより、LCC の利用ニーズが中・近距離の渡航に集中することが予想 できる。 次に、「食事や飲料、毛布などの機内サービスが有料」、「客室乗務員の人的サービスの効 率化」、「インターネット予約のみ」、「座席指定が有料」、「大型空港ではなく、小型空港によ 225 る発着」、「座席が狭い」、「預け荷物が有料」、「安全対策の効率化」、「フライト時間が遅延」、 「その他」、「特にない」の中で、“運賃の安さのためなら、許容可能な範囲内”と感じるLCC による低コスト化政策を複数回答形式で聞いたところ、「食事や飲料、毛布などの機内サー ビスが有料」が54.6%、「客室乗務員など人的サービスの効率化」が 41.9%となり、低運賃 の実現のための機内サービスの有料化や削減は受容される割合が高いことが予測できる。そ 230 してこの 2 つの施策は年齢層が上がるにつれて、受容度が上がっていることが分かった。 また、LCC の利用経験別に分けると、LCC 利用経験者の方が低コスト化政策を受容する割 合が高い傾向にあり、(許容範囲の低コスト化政策が)「特にない」においては、LCC 利用 経験者では1.7%に留まっているのに対し、LCC を利用したことのない人は 13.5%となった。 LCC を利用したことがない人と比べ、LCC 利用経験者で受容度が特に高かったものは、「預 235 け荷物が有料」(37.9%)、「座席が狭い」(39.7%)、「インターネット予約のみ」(48.3%)で あった。それに対して低コスト化政策において受容度が低かったものは「フライト時間が遅 延」(6.4%)、「安全対策の効率化」(10.9%)であり、利用者は命にかかわる安全性を損な うようなコストダウンは望んでいないということがうかがえる。
9 さらに国内旅行での移動手段として(運賃が同程度と仮定した上で)LCC と新幹線のど 240 ちらの方が良いかを質問したところ、「LCC が良い(LCC が良い+どちらかというと LCC が良い)」は中距離旅行(例:東京・大阪間)の17.5%に対し、遠距離旅行(例:東京・福 岡間)では 59.7%と約 6 割となった。国内中距離旅行で新幹線を選ぶ層の理由を自由回答 形式で調査したところ、「飛行機を使う際の手間・面倒」が多く、そのうちの約6 割が「空 港までの移動の手間」を理由としている。これに「新幹線が好き」、「快適さ」と続いた。こ 245 れに対し国内中距離旅行でLCC を選ぶ層では半数以上が「時間的メリット」をその理由に 挙げており、飛行機の運賃が新幹線と同程度になるのであれば、目的地に早く着く方法とし て LCC を選択したいと考えている傾向にある。格安航空運賃が将来実現することにより、 超移動時代がやってくるのかということを予測するため、“日本全国どこに行く場合でも移 動にかかるコストが5000 円未満になった場合”における年間の国内旅行回数を聞くと、平 250 均値は 5.6 回となり、“日本のどこから海外のどこに行く場合でも移動にかかるコストが 30000 円未満になった場合”における年間の海外旅行回数を聞いてみると、平均値は 2.3 回となった。つまり価格が安ければ、人々はより遠くへ行く機会が増える傾向が分かった。 今後のLCC 間の価格競争次第では、普段の買い物で海外まで行くことも、学校や会社の歓 送迎会などを海外で開催する時代も遠くないのではないだろうか。 255 “LCC のあるべき姿”として LCC にどのようなことを望むかを複数回答形式で質問した ところ、「安全対策への投資に関する情報開示」が57.9%と、半数以上の人が価格を安くす るために安全対策を怠っているのではないかと感じ、どのような対策をしているのかを求め る傾向にあることが分かる。それに続き、「航空業界に価格競争をもたらす」(47.6%)、「就 航路線の拡大」(43.5%)、「LCC 同士の競争によるサービスの向上」(41.6%)、「既存航空会 260 社による安全や運行ノウハウの継承」(40.7%)となり、小型空港でしか利用できない LCC をより身近にし、多くの人が安く遠くの国や地域に行くことができることを望んでいること を予測することができる。また、価格競争が行われることは、航空業界で価格破壊が起こる 可能性があり、LCC 利用意向者はこの価格破壊が起こることを期待している傾向があり、 積極的な利用に耐えうるようにサービスの選択肢が増加することを望む利用者心理をうか 265 がい知る結果となった。
10 4.これからの LCC の経営戦略 270 日本には現在Peach aviation、エアアジア、ジェットスターの LCC3社が存在するが、 日本にLCC が生まれたことによって様々なところから動きが出てきた。例をあげると、こ の3 社は関西国際空港と成田国際空港を拠点空港として利用しているが、LCC の相次ぐ就 航を受けて、成田国際空港は今年の9 月 12 日から暫定施設の運用を開始した。平成 26 年 度にLCC 専用ターミナルが完成するまで使用される。LCC に対応した施設を呼び水に LCC 275 を誘致し、空港の利用客の増加を目指す狙いだ。関西国際空港でも今年の10 月に LCC 専 用ターミナルの完成し、オープンする。可能な限り施設を簡素化し、国際線乗客の使用料を 従来施設よりも4 割ほど安く抑えているそうだ。また、免税店などを併設した施設を作り、 ショッピング重要にも応えられるようにしている。このように拠点空港側も、LCC が生み 出すと予想される顧客の需要に期待をよせている。 280 また、拠点となる大きな空港だけでなく、地方の空港もLCC に注目している。ピーチア ビエーションの場合、九州の3 空港(福岡、長崎、鹿児島)へ行く便が現在ある。それに対し て大分県がLCC の誘致を目指すことを今年の 6 月発表した。県民の利便性向上、県経済の 活性化を期待している。大分空港が前年の23 年度乗客数が減少したというのが背景にある。 このように、地方空港では乗客数の減少による収益の悪化に苦しんでいるものが少なくな 285 い。このような空港は、LCC の誘致によって、収益増加の起爆剤にしたいという思いがあ るのだろう。このように頭打ちになっていた航空業界にとって収益増加の起爆剤となる LCC は、不況が長引いている現在では、いままで飛行機を利用してこなかった層の人々が 電車や高速バスを利用する感覚で飛行機を利用するため、収益を伸ばすことに期待が出来 る。そのため大きな空港は上記のようにLCC を積極的に誘致していく。そのため LCC が 290 定着しやすい環境づくりを進める、という流れが今後起こってくると考えられる。このこ とを踏まえLCC が今後進める経営戦略は拡大戦略となる。実際に国内の LCC 三社は、国 内網、国外網を広げていく動きを見せている。国内網を拡大、次には国外網を拡大し距離 を広げ、それと並行して搭乗率を上げキャパシティーの大きい航空機を運航できるように する、といった流れが見て取れる。大きな拠点空港のみならず、地方空港も、今後誘致に 295 積極的に乗り出すだろう。ただし、闇雲に拡大していけばよいというものではない。2007 年度のデータによると地方自治体が管理している空港58 のうち、実に 9 割が着陸料などに よる収入で空港の管理運営に必要な資金を賄えない赤字であり、黒字の空港は 5 つしかな い。地方空港の中には、そもそも中心街から遠い、需要が少ない地域に建てられたものも
11 あり、LCC が参入しただけでこの状況が完全に打破できるかというと疑問符がつく。やは 300 りLCC の着航空港の拡大については、ただ拡大するだけではなく、LCC 側の工夫が求めら れる。上海‐佐賀、茨城、高松間を週3~4 便運航している中国の LCC の春秋航空は、上 海便の着航にあたり、この地方空港 3 つを選んだ。もちろん佐賀空港のように破格の条件 を提示したというのもあるが、春秋航空側は搭乗率を高く保つように条件を出している。 春秋航空は平均搭乗率95%を達成したことからわかるとおり、高い搭乗率の維持をビジネ 305 スモデルとしている。着航しても客席はガラガラであったという状況をつくらないように しているのである。そのため日本のLCC が拡大戦略をとるにあたり、気をつけないといけ ないことは、この空席状況を少なくするということではないだろうか。長期的な成長を望 むために十分に精査した拡大戦略をしていくことが、LCC を地域に定着させていくために は不可欠である。 310 しかし各社が拡大戦略をとり、LCC が地域に根付いたと仮定して、ひとつ問題になるこ とが、現在日本のLCC である 3 社ないしは今後参入してくるかもしれない LCC がどうや って共存、住み分けしていくのかという問題である。Peach aviation とエアアジアに至っ ては、ともにANA が筆頭株主であり、どのように差をつけていくのかが問題であるが、現 状では各社ともに価格以外の相違点はほとんど見られない。やはり価格の面で勝負してい 315 ることが見て取れる。短期的に見ると価格面で差をつけることは、今後において生き残り をかけるための最善の方法ではあるが、LCC や大手航空会社の中間に位置するスカイマー クのような航空会社も現に存在しており業績も悪くないことから、価格面のみならずサー ビス面や利便面において、それぞれどのポジションに位置するのかということを今後の経 営戦略のカギとし、それを利用者にわかりやすい形で伝えていくということが求められて 320 いくのではないだろうか。 北海道にAIR DO という国際空港会社がある。東京-札幌間の航空路線の利用客は年間 820 万人と世界一の利用数であり、第 2 位は東京-福岡で年間 580 万人となっている。さ らに東京-札幌間は運賃も世界的に高い。海外の相場では1 時間弱のフライトでは 100 ド ル(1 万 2000 円~1 万 3000 円)が常識的な額であるため、AIR DO は海外の相場に合わ 325 せ今より安い価格で飛行機を使えるようになれば、北海道に多くの人々が来るのではない かと考えた。かつて東京-札幌間において往復 5 万もかかるとなれば、東京へ商用で出る ために、いくつかの要件をためて 1 回で行くというかたちになってしまい、ビジネスチャ ンスを失うことが多くあった。北海道に新幹線や高速道路をつくるといった話もあるが、
12 日本の財政問題を考えると莫大な時間やコストがかかってしまうため、すぐに実現するこ 330 とは困難である。そのため、今後も東京-北海道の行き来には飛行機に頼らざるを得ない。 海外旅行をする場合、今は日本の各地方空港からソウルを経由し、そこから世界各国へ行 くという方法をとっている人が多い。ソウルを経由した方が格安となるため、今後ソウル はアジアのハブ空港となる可能性が大きい。このことを踏まえると、羽田空港と成田国際 空港が手を取り合うとしても、アジアのハブ空港なるには少し苦しい。これに対し、北海 335 道の千歳空港を見てみると、千歳空港にはロケーション、建設コスト、風向き(横風がな い)という大きなメリットがあり、土地が広いことから、現在ある 4 本の滑走路に加え、 延長も可能となるため、これからのハブ空港に期待が持てる。千歳空港がハブ空港となっ た場合、成田国際空港よりも欧米に1000 キロも近くなるということも強みとなるであろう。 例えばヨーロッパに出かけるためには、今までは羽田・成田に一泊した後にヨーロッパに 340 旅立たなければならなかった。そのため、ロンドン6 泊 7 日 10 万円のツアーが札幌-成田 を往復して4 万 2000 円、それに加えて前泊もすることから 1 万円も余分にかかってしまう ことになる。このような国内でのコストが高くなるようでは、旅行客はソウルの方が安く て便利と判断し、千歳は利用されない。国内コストが今より半額になった場合、千歳空港 のメリットを最大限に活かし、国際ハブ空港化が前進することは間違いないだろう。 345 また、AIR DO は安全に対して 5 つの考え方・具体的方策を示している。1つ目に、航空 機を安全に運航することは、航空会社として社会に対して追う基本的責務である。2 つ目に、 全役職員が安全についての理解と認識を共有し、これに則り、「安全運航」すべてに優先す るものとして掲げ、さらにその向上について広く議論・検討し、追求する。3 つ目に、経営 トップのリーダーシップにおいて、経営層が安全に係わる明確かつ具体的なポリシー(安 350 全性と経済性のバランスポイント)を明らかにして社内をリードする。4 つ目に、そのため には経営層自らが日々の運航にて発生する具体的問題に関心をもち、安全に関わる問題点 の認識を常に新たにする。5 つ目に、全社的に安全運航を推進する場として、全役員・部長 で構成する「安全推進委員会」を設置し、日々の運航で発生した具体的問題やその対策・ 処置のレビュー等、具体論を軸に必要な施策を決定する。ということである。 355 AIR DO のポリシーは運賃を顧客優位のリーズナブルな価格にすることである。また、 AIR DO は運賃が安くなければ北海道は発展しないという考えから出発した会社であり、そ の趣旨にそった現行運賃を急に変えることはできないため、運賃を大幅に安くしたり上下 させたりすることは適切なことではないと考えている。AIR DO が 1 万 6000 円に対し、
13 Peach aviation やエアアジアのような大手 LCC3 社が 99 年 3 月から 1 万 7000 円の特別便 360 を設けたが、AIR DO はこれに対抗して価格競争に突入するということは考えていないとし ているが、実力がついていけば、さらに価格を一段下げることもあり得ると考えている。 AIR DO の運賃は単純な単位料金であり、普通運賃は 1 万 6000 円、子どもは 8000 円、体 の不自由な方は25%引きの 1 万 2000 円、学生割引においては予約することはできないが 8000 円と、4 種類しかなく、その他の割引は一切行っていない。これに対し大手の航空運 365 賃は多様化しており、正規運賃が最も高く、早割などの事前予約による割引があるため運 賃に大きな差が生じる。また、大手航空会社では安く旅行するためには、知恵と足を使い、 手間暇かけなければならないのである。そのため、AIR DO は大手と違うことを行い、大手 と差をつけるためには、予約時期などは関係なく、いつでも同じ1 万 6000 円で提供すると 決めたのである。このシンプルな料金システムがAIR DO の個性であり、戦略でもある。 370 さらに予約と搭乗の手続きも簡単で、AIR DO の予約センターに電話をかけ、予約番号をも らい、決済は全てクレジットカードで行う。その後、空港カウンターで予約番号と引き換 えに搭乗券を渡すという仕組みになっている。AIR DO は、できるだけ利用客に手間暇をか けず、さらにいつでも同じ料金で飛行機を利用できるということを強みとしているのであ る。 375 380 385
14 5.まとめ 390 私たち宇野ゼミは、大手航空会社よりも大幅に安い価格で飛行機を飛ばしているLCC は、 コスト削減のために安全性をおろそかにしているのではないかと考えていた。しかし、今 回LCC について調べていく中で、LCC は新会社であることから機材などは新しく、コスト 削減に伴い、燃費のことを考え古い機材は使わないようにしていることが分かった。また、 コスト削減のために機内での無料サービスがほとんどなく、ただ飛行機に乗って移動する 395 だけの乗り物ということも明らかとなった。そのため、初めて飛行機を利用する人や、初 めてLCC を利用する人にとっては、実際に飛行機に乗った時の驚きは大きいのではないだ ろうか。しかし、このLCC のデメリットを十分に理解した上で LCC を利用することがで きれば、安い価格でさらに短時間で県外や国外に行くことができるため、私たちのような 大学生や出張の多い会社員にはLCC の普及は大変嬉しいことである。 400 そもそも、LCC は大手航空会社よりも破格であることからも注目されていたが、この LCC について調べるきっかけとなったのは、記憶にも新しい格安交通のバス事故である。この 事故では、安さを追求するために 1 人の運転手に長時間バスの運転をさせたことや、強度 の弱い素材のバスを使っていることが原因とされている。そのため運賃が安い=安全性が おろそかになっているという考えが生まれたのではないだろうか。しかし、上記で述べた 405 ように、LCC は安全面に関して大きな問題はないことから、これからさらに LCC を利用す る人が増えることが期待できる。 現在LCC は地方における発着便を増やすなど、さまざまな施策を発表している。しかし、 地方空港は騒音などを考慮しているため、交通の便が悪いというデメリットがある。その ため、LCC が地方に定着することは地方活性化にもつながると考えられている。宇野ゼミ 410 は今後もこのLCC の動きに注目しつつ、LCC に対抗してくると予想される新幹線や高速道 路開通についても詳しく調べていきたい。 (11739 字) 415
15 【参考文献】 420 ・浜田輝男 WAVE 出版「AIR DO ゼロから挑んだ航空会社」 ・ライフネット生命 LCC に関する調査 http://www.lifenet-seimei.co.jp/newsrelease/2012/3734.html