研究ノート
小学校の理科教育における直接観察の重要性
創価大学教職大学院 教職研究科教職専攻 水 林 順 子
要 約
世界中で自然災害が起こり,広い範囲で様々な災害の爪痕が残っている現状が見受 けられる今日,環境教育の重要性を強く感じる。特に理科教育においての環境教育の 使命は今後,ますます注目されると考える。牧口常三郎は本年(2012年)の100年前 にあたる1912年に『教授の統合中心としての郷土科研究』の中で,児童の身近にある 郷土の直観(直接観察)の重要性を主張している。牧口の直観教授に注目し,理科教 育での自然事象・事物の直接観察の重要性を述べていく。筆者が授業者となり,実践 した理科単元の記録を基に,自然事象を直接観察させることの重要性を紹介する。
Ⅰ は じ め に
平成18年12月に教育基本法が,約60年ぶりに改正された。それに伴い,昨年度まで 移行期間となっていた新学習指導要領が今年度(平成23年4月)より教育課程が全面 実施となった。教科書に関してもほぼすべての教科で新しいものになり,頁数も大幅 に増えた。もちろん,同時に学習内容が増えたことは言うまでもない。ベテラン・若 手に関わらず,現場の多くの教員は,新学習指導要領での教育課程のもとに,また,
指導内容が増えた新教科書を使っての授業に日々,困惑しているのもまた事実であ る。
理科教育においては,授業時間数が大幅に増えた。また,この数年間取り扱われな かった単元の復活や取扱い学年が下がってきた単元もある。加えて,近年,児童の理 科離れが叫ばれているとともに,教える教員の理科教科への苦手意識が高まっている ことも懸念されている。
一方,平成23年3月に起きた東北関東大震災によって,関東・東北地域では地殻変
キーワード:直接観察,自然事象,環境教育
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動が起き,福島第一原発の放射能汚染は比類なき社会問題,環境問題になっている。
また,同年夏に発生した台風の影響により,四国・中国・近畿地方をはじめ広範囲に 及ぶ都道府県で記録的な豪雨にみまわれた。これらの自然災害や環境問題は国内だけ には限らない。台湾で起きた大洪水により,日系企業の製造が相次いで見送り・中止 されるなど,私たちの日々の生活が多くの人々に助けられ,我が国が世界経済の中で 流動的に動いていることがわかる。
近況の自然災害や環境問題だけを見ても,私たちの毎日の生活が環境と深く密接に 関わっているのである。私たち人間と環境・国土は不二である。つまり,依生不二
(人々の命と大地は切り離すことができない)の関係にある。本学の創立者池田先生 は『環境開発サミットでの提言』の中で環境教育の重要性を訴えている。詳細は後述 する。
本稿では,今後,ますます重要になる環境教育に注目し,小学校の理科教育におけ る直接観察の重要性について述べていく。直接観察は,牧口常三郎の『教授の統合中 心としての郷土科研究』の中での一主張である郷土の直観(直接観察)にヒントを得 ている。(以下,本稿では,牧口常三郎を牧口と,『教授の統合中心としての郷土科研 究』を「郷土科研究」と略す。)
Ⅱ 牧口の『郷土科研究』と直接観察
1.牧口の『郷土科研究』
牧口は,地理学者として日本をはじめ世界の地理について深く研究をしていた。そ の研究結果を1903年に『人生地理学』(牧口全集第1,2巻)として世に出してい る。この時,牧口は32歳であった。『人生地理学』は,人間の生活と地理との関係を 論じたものであった。牧口の著した書物の中で『人生地理学』『創価教育学体系』が 牧口の代表的な著書となっている。そして,この『人生地理学』に次いで,牧口の第 2番目の著書が『教授の統合中心としての郷土科研究』である。『人生地理学』の9 年後の1912年(牧口当時41歳)に発刊された。牧口はこの著書の中で,誰しもがもつ
「郷土」という生活の場に基点をおいた教育実践の創造を提唱し,初等教育のカリ キュラムの根本的な改革を論じている。そして,児童の身近にある郷土の直観,すな わち,直接観察が重要であることを主張している。
2.直観教授
牧口は『創価教育学体系』でペスタロッチ,ヘルバルトの教育方法を節々に紹介し ている。両者の教育者は一教授法として「直観教授」を挙げている。「直観」=「直 接観察」のことである。別名,実物教育とも言われている。実物教育とは,具体的な 実物やものごとの現象を生徒に直接示したり,触れたりすることによって,理解や体
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験を得られるような指導を行うことである。
(1) ペスタロッチの直観の概念
ペスタロッチの考察の主力は,初等教育の知的陶冶における直観に向けられる。
「直観はあらゆる認識の絶対的基礎である」と把握される。
「直観とは,外界の対象が単に感官の前にあって,それの印象の意識を単に喚起す ることである。」これは「自然の教育」に見出される「単なる直観」である。この感 性的印象の把握が,教授の出発点である。しかし,ペスタロッチはこれを「直観術」
にまで高めたのである。その意図とは,直観を偶然にまかせることなく,その対象を 選択して直観させて子どもに明晰な概念を得させることにある。ペスタロッチが示す 直観術は,そこからさらに進めて発動的に対象の本質を直接的に見通している。すな わち,明晰な概念を獲得する意味に高めているのである。しかも,道徳的・宗教的陶 冶において母子関係に展開される愛,信頼,感謝,服従という感情体験が「内的直観」
として把握され,直観が心情の価値体験までも包含する。
したがって,ペスタロッチの直観は精神的・道徳的な対象を感性的に把握すること を超えて,その本質を直接にしかも自発的に捉えるとともに,その価値を体験するこ とである。
(2) ヘルバルトの教授方法
ヘルバルトは,実践哲学(倫理学)と心理学とをその基礎科学として取り入れた教 育学の構築を目指した。前者によって教育の目的を,後者によって教育の方法を基礎 づけた。
彼の教授の究極の目標は品性を陶冶することにある。そして,その直接の目的は子 どもの興味を引き出すことにあり,この興味は多方性をもたねばならない。これを
「多方興味」と言う。これは「認識的興味」と「同情的興味」に分けられる。認識的 興味には,「経験的興味」・「思弁的興味」・「美的興味」がある。同情的興味には,「同 情的興味」・「社会的興味」・「宗教的興味」がある。
教授内容は,認識と同情の二系列に組織される。認識系列の内容は,主に「自然界」
を対象とし,身近な自然現象の直観から始まって,思考の訓練をさせながら,自然法 則の認識へ導くと共に,自然の美への感受性を培う。こうして経験的興味,思弁的興 味及び美的興味に関わる教授内容は組織される。同情系列の教授内容は,主に「人間 界」を対象とし,詩及び歴史に現れる人物,次に現実の人間へと,古代から現代へと 展開される。こういう内容の学習を通して,個人への同情的興味,集団への社会的興 味及び神への宗教的興味が喚起されて旺盛になる。
そして,次のような4段階の教授過程を立てたのである。
①「明瞭」―事物や事象を見つめて明瞭をつかむ
②「連合」―つかんだ観念や考えを他の既有の概念や考えと結びつける
③「系統」―結びつけて構成した概念や考えを体系に位置づけまとめる
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④「方法」―体系に位置づけた概念や考えを実際に応用して使ってみる
牧口の主張する「郷土の直観(直接観察)」は,上述したスイスの教育実践家ペス タロッチ,ドイツの教育者ヘルバルトの思想に傾倒していたと考えられる。また,直 観(直接観察)の視点に立って考える時,小学校の理科教育において,「自然の事物・
現象」そのものの存在を直接観察させることは,子どもの興味関心を高める。自然事 象を児童の五感を使って観察することは,非常に重要なことと考える。
Ⅲ 研 究 仮 説
理科の単元導入や授業で自然事象の提示,実物教材の提示をすることは,児童の学 習意欲や学習内容への興味・関心を高め,児童の主体的な学びや実験の取り組みにつ ながると考える。
また,自然事象を直接観察することから物事の真理や本質を見抜く能力を養い,育 てることができると考える。本教職大学院の必修科目「実習研究」で実習先の小学校 で実施した授業を踏まえて,直接観察からスタートした単元展開と,児童のワーク シートから直接観察の重要性について考察していく。
Ⅳ 研 究 方 法
【対象】八王子市内の公立小学校 4年生 30名(男子17名,女子13名)
【単元】理科「とじこめた空気と水」(全9時間扱い)
【方法】事前事後の子どもの観察記録,アンケート,授業実践とその分析,児童の学 習記録
Ⅴ 実 践 報 告
1.子どもの実態把握
授業をするには,まず筆者(授業者)の子ども理解が必要不可欠であると考えた。
そこで,授業実践をする前の約2か月間(4月〜5中旬:週1実習,5下旬〜授業実 践期間:連続実習)に担当学級の児童の授業中,休み時間,生活習慣等を学校活動に 共に参加しながら観察した。児童の帰宅後,観察を記録に残し,日々の記録を蓄積し た。また,単元の授業実践をする事前準備として児童にアンケートをとった。質問内 容は次の2項目(次頁表1参照)である。
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2.授業展開の吟味と教材研究
アンケート結果(表1参照)から理科の授業が好き,少し好きと回答(数字選択)
した児童が多かった。記述からは男子は実験,女子は植物の観察をすることに関心が あることがわかった。また,全体的に自分で実験をすることに興味が高いことが分 かった。
このアンケート結果から担当する学級の児童に適した教授法や授業展開を検討し た。そこで,単元導入の第1時間目は,教師の演示実験を観察させた。第3時間目以 降は,各自が実験予想を考え,それに基づいた実験器具を使い,実験をすることとし た。
理科の実験は予想や結果通りにならない場合がある。それ故,第1時間目の演示実 験に始まり,全単元を貫く,児童の興味・関心を引くために演示実験の提示の仕方,
実験器具を用いた実験方法の説明の仕方を吟味し,何度も提示方法を練習した。単元 計画については表2参照とする。
一,理科は好きですか(人数)
好き 少し好き 少し嫌い 嫌い
男子 15 2 0 0
女子 10 3 0 0
二,一で回答した理由(人数)
男子 女子 男女
実験が好き(11)
工作が好き(5)
観察が好き(4)
おもしろい・楽しい(4)
生き物・野菜の栽培(2)
研究・調査・まとめが好き
(2)
成績がいい(2)
実験が好き(7)
観察が好き(7)
工作が好き(5)
おもしろい・楽しい(2)
生き物・野菜の栽培(2)
研究・調査・まとめが好き
(1)
成績がいい(1)
実験が好き(18)
観察が好き(11)
工作が好き(10)
おもしろい・楽しい(6)
生き物・野菜の栽培(4)
研究・調査・まとめが好き
(3)
成績がいい(3)
表2 単元指導計画 単元の指導計画(全9時間)
第一次
空気と水の性質(2時間)
演示実験 (1)
課外活動 (1)
第二次
空気と水ロケット(6時間)
空気ロケット (4)
水ロケット (2)
第三次 まとめ・身の回りから見つけよう(1時間)
表1 授業前アンケート
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3.授業実践
●第1時間目の演示実験(水槽と瓶)の内容
水が入った水槽に蓋をした瓶を逆さに入れる。この時,
瓶の中に水が入らないことを確認する(写真①)。次に,
瓶の底にセロハンでティッシュを貼りつける(写真②)。 水中に瓶を入れる前に,子どもたちに ティッシュが濡れ るかどうか を聞く。実験予想をさせた後,瓶を逆さまに 入れた様子を観察する。子どもたちは,自分の目で実験を 観察し,水と空気の間に膜のようなものができることや口 の空いた瓶を逆さまに入れても水が入り込まない不思議さ に感嘆,感動していた。子どもたちは直接観察する中で,
個々に多くのことをつぶやいていた。また,友達の呟きと 自分の思考とを結びつけながら事象を観察していた。友達 のつぶやきを聞き,実験の自然事象を個々人が追究してい る。筆者は実験中,無表情で実験の節々の説明以外は無言 のまま,ひたすら黙々といくつかの実験を行った(写真
③,④,⑤,⑥)。一人一人が自然事象をじっくり観察し,
目の前の事象がどのようにして起こっているのかを理解さ せたいとの意図があった。また,友達のつぶやきから児童 の学び合いの関係を気づきたいと願った。
◎児童の反応,ワークシート記述
演示実験は約25分間行った。水中の中で瓶の蓋を開けたにも拘わらず,瓶中に水が 入らなかったことに対して,子どもたちは大きな歓声を上げた。一人ひとりが自身の 思うこと,考えたことをつぶやき,さらに,友達のつぶやきと自分の直接観察した自 然事象の事実を再思考し,事象の真理の追究に迫っていた。以下,児童のワークシー トの記述である。
写真①
写真②
写真③ 写真④ 写真⑤ 写真⑥
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◆記述からの考察
空気と水のそれぞれ物質にかさ(容積)があることに気付いているような記述が多 かった。しかし,多くの児童は,空気と水の性質までは,理解できていなかった。2 つの物質が,日常生活で必要不可欠な物質ではあるものの,演示実験を観察すること で空気と水の性質に不思議さを感じ,強い関心・興味を抱いていることは確かな事実 であった。また,実験の模様を絵に表現している児童も多く,多くのつぶやきが飛び 交った様子を表現している絵もあった。
●第5時間目の自由試行実験
次に,直接観察の機会を多く設けた第5時間目の授業を紹介する。この授業では,
空気ロケットの筒内の空気の状態を予想させ,各自の実験予想に基づいて自由に実験 を行えるようにした。
実験は自由試行という方法で行った。自由試行とは,漢字の意味そのままである が,実験などを自由に試行させることである。一般的に,一組の実験器具や材料を一 人ひとり,または少人数のグループの児童に配布し,何の指示もせず,それらをいじ り回して彼らの好きなことややりたいことを自由にさせる活動である。
児童は筒の中の空気の様子の変化の実験仮説を立て,その仮説に基づき,実験方法 を考えた。そして,個々の実験方法により,空気と水の性質を確かめていくものだっ た。実験器具は発砲スチロール(直径5mm程のビーズ状のもの),クジラ型スポン ジ,綿,線香と黒画用紙,気泡緩衝シート(1粒の空気胞)である。
◎板書・ワークシート(実験予想)記述と考察
・なぜ空気があると濡れないのか。
・空気とかを抜くと水がでるのが不思議。
・ティッシュが濡れないのは空気が入っているから。
・空気が入っていたら水が入らない?
・瓶を逆さまにして入れると水が入らずに空気が残ってすごいと思いました。
実験予想では,多くの児童が筒の中の空気の様子を擬人化していた(写真⑦,⑨)。
空気に表情をつけ,その表情の変化で空気の様子を表していた。また,吹き出しを書 き,心情の変化を表現していた児童も多かった。肺胞のような絵を描いた児童も見受 けられた(写真⑧)。
写真⑦ 写真⑧
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◎ワークシート(実験結果)記述と考察
・空気が抜けた分だけ水が入る。
・なぜ空気の中には水が入らないの?
・水の中に空気が入っていて,水を空気が おさえていた。
・水が入らないのは,空気があるから。
・どうして瓶の口にまくがあって水が入ら ないのかが知りたい。
自由試行の実験授業では,児童は各自の予 想を基に個々に選んだ実験方法で主体的に実 験を行っていた。どの児童も積極的に実験に 取り組んでいた。
ある児童は,黒の画用紙を背景に置き,線 香の煙の濃さを観察した。線香の煙の濃さを ワークシートに表現していた(写真⑩。)発 砲スチロールを注射器の半分ぐらいまで詰め て実験をしていた児童もいた(写真⑪)。ま た,発砲スチロールの数を変えて実験を行っ
ていた子もいた。さらに,気泡緩衝シートの粒の一つ一つに顔を書き,その顔が縮ま る様子を観察していた児童も見受けられた。児童たちは,幾つかの実験方法で空気の 性質を理解した。
授業後のアンケートや実習終了時に児童からもらった手紙には,授業がとても楽し かった,というコメントが多かった。その理由として自分の好きな実験ができたか ら,実験をたくさんやらせてくれた,などが大半を占めていた。理科好きな児童が多 い学級であったが,授業前より理科がもっと好きになった,とコメントをくれた児童 も多かった。
写真⑨
写真⑩
写真⑪
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Ⅵ 環 境 教 育
1.学校における環境教育の基本的な考え方
(1) 小学校教育における環境教育のねらい
環境教育のねらいは,ベオグラード憲章(注1)に見られるように広い範囲にわた り,そこには様々な要素が含まれている。そのため学校教育,家庭教育または社会教 育を通して,環境教育に関わる学習の機会ができるだけ多く確保されることが重要に なる。
小学校での学校教育では,基礎的な段階として,人の成長と発達の基礎を養うこと を踏まえる必要がある。小学校教育の特質を踏まえて,環境教育の視点として次の3 点を述べていく。
① 豊かな感受性の育成
「そんなときわたしは,動物や植物の名前を意識的に教えたり説明したりはしませ ん。ただ,わたしはなにかおもしろいものを見つけるたびに,無意識のうちによろこ びの声をあげるので,彼もいつのまにかいろいろなものに注意をむけるようになって いきます。(中略)あとになってわたしは,彼の頭のなかに,これまで見た動物や植 物の名前がしっかりときざみこまれているのを知って驚いたものです。」1)
これは,『センス・オブ・ワンダー』の引用である。彼女の行動は自然事象・事物 を直接観察するように意図的に働きかけていたと考える。また,彼女の歓声は,環境 に対する豊かな感受性とはどのようなものなのかを示している。子どもに自然に対し ての興味や関心を引かせ,その後の主体的な学習に向かわすことができるほどの強い 興味や関心のエネルギーを与えている。このような学習の動機づけには,学びの必然 性があり,児童の学習意欲は高まり,主体的な学習への取り組みが望める。
環境教育の基本は,環境教育または環境の実態等について関心をもち,環境に対す る豊かな感受性をもつことである。特に小学校段階では,様々な現象や事象を,感受 性を通して学ぶ時期である。従って,小学校教育段階においては,児童が環境に対し て意欲的に関わり,それらに対する感受性を豊かにできるように配慮することが重要 となる。
② 活動や体験の重視
一般的に小学校の児童は,発達段階的に抽象的な捉え方ができにくい。そこで,具 体的な事象と関わりをもち,それらを身体や簡単な道具を用いて操作することができ るような学習方法を考える必要がある。また,事物や現象に基づいて,イメージを浮 かべたり,それを言葉や造形などで表現したり,具体的な行動に表したりすることが 重要である。
『新学習指導要領解説 理科編』では,理科の目標にある「自然の事物・現象につ
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いての実感を伴った理解を図る」の部分の 実感を伴った理解 を次の三つの側面か ら考えることができる,と述べている。(イ)具体的な体験を通して形づくられる理 解,(ロ)主体的な問題解決を通して得られる理解,(ハ)実際の自然や生活との関係 への認識を含む理解,の3点である。(イ)は自然に対する興味・関心を高め,適切 な考察を行う基盤となるものである。(ロ)は理解をより確かなものとし,知識や技 能を確実に習得させるためのものとされている。(ハ)は科学を学ぶ意義や有能性を 実感し,科学への関心を高めるためのものと考えられている。要するに,(イ)(ロ)
は自然認識を深めるためで,(ハ)は科学そのものへの理解を深めるために必要であ るということになる。活動や体験を取り入れることで 実感を伴った理解 を目指し ている。
③ 身近な問題を重視
環境問題とは,一般的に,地球的な規模の環境問題のことを指す。例えば,地球温 暖化,オゾン層の破壊,熱帯雨林の減少,酸性雨,海洋汚染などが取り上げられる。
しかし,世界的な問題は段階を経て学ぶ必要がある。小学校では,まず身の回りの社 会現象や自然の事象,あるいは地域的な問題などに目を向け,自ら具体的に考えられ るように配慮することが重要である。
牧口は『郷土科研究』の中で,郷土科の意義を次のように説明している。以下,引 用である。
「児童の直接観察の及ぼし得べき範囲内といふ特殊の意義に限定した郷土の自然人 文両界に亘れる諸現象に,他の人為的の媒体若くは障壁なしに児童を直接に親近さ せ,そして児童をして其の生活に対する多方面の関係点を認識させ,以って彼等より 広き世界を了解する素地を造り,兼ねて,広き世界を了解するにより得たる理想を実 現するの舞台を明らかにする教科目であるといふて可からうと存じます。」2)
このように,牧口は児童の身近にある 郷土 の事象・物事の直観(直接観察)す る重要性を主張している。そして,身近なものから遠くのものへの理解を促すことを 訴えている。
2.SGI 提言
本学の創立者池田大作先生は2002年8月に行われた南アフリカ共和国での「持続可 能な開発に関する世界首脳会議(環境開発サミット)」に寄せて,世界183ヵ国・地域
(2011年12月現在,世界193ヵ国・地域)のSGI(創価学会インタナショナル)を代 表し,提言を発表した。創立者は,『環境開発サミットでの提言』の中で環境教育の 重要性を訴え,具体的な方途を3段階に分け,述べている。以下,抜粋である。
(1)現状を知り,学ぶ 第1は,理解と認識を深めることです。どれだけ世界の森 林が失われ,どれだけ大気や水や土壌の汚染が進んでいるのか。そしてそれが生態系 にどのような影響を及ぼしているのか。こうした状況を一つ一つ知り,学ぶことか
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ら,すべては始まります。(中略)(2)生き方を見直す 第2は,倫理観の確立と生き 方の見直しです。正確な情報や知識を得て,目の前の現実を直視することは,環境教 育の重要な役割です。(中略)(3)行動に踏み出す 第3は,具体的な行動に一歩踏み 出すための「勇気」と「力」を与えることです。いくら共通の行動規範を定めたとし ても,それを自らのものとして血肉化し,実践する人々が増えていかなければ,厳し い現実を突き動かす力にはなりません3)。
Ⅶ 考察と課題
今,理科教育で育てたい子どもは,目の前の「自然」から自分にとって価値ある問 題を見出し,自分なりの方法で解決できる子ども,また,自然を愛する心豊かな子ど もであると思う。それ故,理科教育で,自然事象を直接観察させることは重要なこと と考える。ありのままの自然事象を観察することは,鋭い観察ができる眼を養うこと ができ,自然そのものを感じ取る感性をも養い,育てることができると考える。
今回の実践は,第1時間目の演示実験に始まり,単元内の実験を直接観察させる機 会を多く設けた。そのことによって,子どもたちには,日常生活に当たり前に存在す る 自然物 を改めて観察することをさせた。子どもたちは,日頃,何気なく生じる 事象に,大きな感動や様々な疑問などが芽生えた。児童の多くは,毎回の実験をじっ くりと観察していた。実験の様子を詳細にワークシートに書き残していた児童の姿も 見受けられた。また,自由試行という方式を取り入れたことで,一人ひとりの児童が 自分の課題意識をもって,授業や実験に取り組むことができた。児童たちは,目の前 に見る自然の事象から多くのことを考え,予測した。いくつもの実験予想を立て,一 つひとつの予想を自分自身の実践を通して確かめていた。
今後,ますます環境教育の重要性は増すと考える。環境教育でまず大事なことは,
地球上で起こっている環境問題への正確な把握である。実態把握には,直接,「自然 の事物・現象」そのものの存在を直接,観察することが重要となる。したがって,直 接観察に関しては,理科教育だけではなく,他の多くの教科でも実践は可能であると 考える。そこで,大事になるのは,児童にどのような学びの必然性を与え,自然事象 を直接観察させるかであると考える。自然事象にどのように出会わせるかは,よく吟 味する必要がある。自然事象の直接観察は,一見,簡単なように思われる。しかし,
自然事象との出会わせ方や教員の授業研究面に課題があるのも事実である。また,児 童の安全面への配慮もしなければならない。
今後,小学校教育の中でも自然と深く関わりのある理科教育での自然事象の直接観 察が児童の学習意欲を高め,社会の現状を正確に把握できる観察力が養えることを期 待するとともに,児童の理科離れが減ることを期待する。加えて,教員の理科教育へ の苦手意識を軽減できることを願う。そして,初等教育の理科学習における直接観察
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の実践が児童の生涯にわたる探究心を育む一方策となることを期待する。
注
1 ベオグラード憲章とは,1975年10月,ユーゴスラビアの首都ベオグラードで,環境教育 の専門家を集めた「国際環境教育ワークショップ」(通称:ベオグラード会議)が開催 された際,この会議の成果として作成されたもの。内容は,環境教育の目的を述べてい る。
引 用 文 献
1)『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン,1996年,新潮社,p.11
2)『牧口常三郎全集 第三巻 教授の統合中心としての郷土科研究』牧口常三郎,1912 年,第三文明社,p.104
3)『環境開発サミットへの提言 地球革命への挑戦―持続可能な未来のための教育』池田 大作,2002年,創価学会,pp.6―8
参 考 文 献
i)『小学校学習指導要領解説 理科編』文部科学省,2009年,大日本図書
ii)科学技術振興機構(JST)・国立教育政策研究所「平成20年度小学校理科教育実態調査」
http : //rikashien.jst.go.jp/elementary/cpse_report_004.pdf iii)『人生地理学Ⅰ』牧口常三郎,1971,聖教新聞社
iv)『牧口常三郎全集 第三巻』牧口常三郎,1912年,第三文明社 v)『創価教育学体系Ⅰ』牧口常三郎,1972年,聖教新聞社 vi)『教育方法学』長谷川 榮,2009年,協同出版
vii)『自然読解力をはぐくむ授業と教材提示』松本謙一,2009年,学校図書
viii)『環境教育論』山本修一,1998年,創価大学出版会
ix)ベオグラード憲章 http : //www.geocities.co.jp/ipnetj/belgrade.html x)『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン,1996年,新潮社
xi)『環境開発サミットへの提言 地球革命への挑戦―持続可能な未来のための教育』池田 大作,2002年,創価学会
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