はじめに
平成29年10月31日,神奈川県座間市で10代,20代の若者9名が犠牲となっ た大きな事件が起き,世論を賑わせた1).さらに,平成28年は,千葉大学医 学部生による集団強姦事件2),東京大学の学生による強制わいせつ事件3),さ らには慶応大学でも集団性的暴行事件4)があり,近年は大学生が当事者とな る事件が頻発している.
東北文化学園大学では,大学事務局が学生の防犯対策として,新学期のガ イダンスに防犯情報のパンフレットを配布・説明し,注意を呼びかけている.
幸いなことに昨今は大きな事件は起きてはいないが,学生生活に関するリス
* 東北文化学園大学総合政策学部准教授
1) 神奈川県座間市のアパートの一室で切断された遺体が発見された事件を指す .「朝日新聞デジ タル2017/10/31配信」[http://digital.asahi.com/articles/ASKB02PCQKB0UTIL003.html?iref=pc_
extlink](最終検索日 2017/12/19)
2) 千葉大学医学部の男子学生3人が女性に集団で性的暴行を加えて逮捕された事件 .「朝日新聞デ ジ タ ル 2016/12/12配 信 」[http://digital.asahi.com/articles/ASJDD5RCXJDDUDCB016.
html?iref=pc_rellink](最終検索日 2017/12/19)
3) 東大生らが集団で女子大学生に無理やりわいせつな行為をした事件で,東大は12日までに,事 件に関わったとして逮捕された東大生と東大院生の計5人のうち3人を退学,2人を1年間の停学 の懲戒処分にしたと明らかにした .「産経ニュース・デジタル版2016/12/12配信」[http://www.
sankei.com/affairs/news/161212/afr1612120011-n1.html ](最終検索日 2017/12/19)
4) 神奈川県葉山町の合宿施設で,慶応大学の10代女性が同大広告学研究会(広研)に所属する男子 学生数人から乱暴を受けたとされる事件 . 関わったとされる4人の男子学生に対し,同大は無期停 学などの処分を出していた .「産経ニュース・デジタル版2016/11/5配信」[http://www.sankei.
com/affairs/news/161105/afr1611050004-n1.html ](最終検索日 2017/12/19)
学生生活の支援とジェンダー教育の重要性
大野朝子*
A Study on the Importance of Gender Education in College Life
OHNO Asako
ク回避のためには常日頃からの十全な備えが必要である.
大学事務局が配布するパンフレットの一つに,『Safe Life―女性のための 防犯対策―』5)があるが,そこに掲載された項目は「ストーカー・DV」,「イン ターネット上のトラブル」「自宅での危険」「セクシャルハラスメント」「屋外 での痴漢,暴行」「建物,乗り物内の危険」である.パンフレットは「女性」が「犯 罪弱者」と呼ばれ,犯罪者から狙われやすく,抵抗しにくい存在である,とう たっているが,近年は女性だけでなく,男性が被害者となるケースも増えて いるため,防犯対策は性別に関係なく,すべての学生に周知すべきだと思わ れる.
学生支援に関しては,独立法人日本学生支援機構が「学生生活にかかるリ スクの把握と対応に関するセミナー」を実施しているが(平成29年年11月27 日 於:東京国際交流館),その際,文部科学省の高等教育局が学生支援に関 する課題の例として,①消費者教育の推進,②学生アルバイト問題・労働法 制の普及・啓発,③自殺対策,④飲酒事故防止,⑤薬物乱用防止,⑥性暴力へ の対応,⑦多様な性の在り方についての理解促進,⑧ハラスメントへの対応,
を挙げている.
先述の仙台市のパンフレットや,学生支援機構が挙げた「課題」には学生生 活をめぐる様々な問題が取り上げられているが,本稿では,中でも特にジェ ンダーに関する問題として,主に「ハラスメント」,「DV」「多様な性の在り方」
に注目する.そして,東北文化学園大学総合政策学部の学生が「ハラスメン ト」と「DV」をどう捉えているかを,学生生活実態調査の資料から分析し,そ の結果に基づき,今後のトラブルを未然に防ぐためには,どのような指導・
教育が必要かを考察する.さらに,総合政策学部の選択科目「特別講座Ⅳジェ ンダー論」で筆者が担当した講義での「ハラスメント」「DV」「多様な性の在 り方」の内容と,講義に対する学生の反応から総合政策学部の学生の「生の 声」を取り上げる.そして,学生対応において,教職員の早期の「気づき」が 重要であり,ジェンダーの視点を持って学生が置かれた状況を見直す必要が あることを明らかにしたい.
5) 小宮信夫監修[2017]『Safe Life―女性のための防犯対策―』法令出版 .
Ⅰ . 実態調査(平成27年度)の分析
1
.セクシュアル・ハラスメントの知識について
東北文化学園大学では,「学生の日常生活および勉学への取り組み状況を 把握し,キャンパスライフの質の向上を図るための基礎資料を得ること」を 目的として,学生生活実態調査を毎年行っているが,そのなかで4年ごとに カテゴリーを増やし,「大調査」を実施している.
平成28年3月に東北文化学園大学学生委員会・学生生活実態調査ワーキン ググループが発行した『平成27年度学生生活実態調査結果報告書』には,セ クシュアル・ハラスメントについて,「あなたはセクシュアル・ハラスメント について知っていますか」「あなたは大学内でセクシュアル・ハラスメントを 受けたり,見聞きしたことがありますか」「セクシュアル・ハラスメントにど のように対処しましたか」という質問に対する学生の回答のデータが掲載さ れている.以下,各質問について,全学の学生と総合政策学部(以下,総合と 表記)の学生の反応を比較する形で分析していきたい.
「あなたは,セクシュアル・ハラスメントについて知っていますか」(問72)
という質問に対しては,「1. 内容まで詳しく知っている」「2. 内容はある程度 知っている」「3. 言葉は知っているが,内容は少ししか知らない」「4. 言葉は 知っているが,内容は全く知らない」「5. 言葉も内容も知らない」の選択肢に 分かれているが,全学で,「セクハラについて知っている」学生の割合(回答1,
2,3の合計)は90% であったのに対し,総合は85.3% だった.総合の場合,前 回(平成23年度)は74.1% だったので,認知度は11.2ポイント分上がっている.
「内容まで詳しく知っている」と回答した学生は,全学では17.0% だったの に対し,総合は21.7% であった.この数値は学科別でみると,建築環境学科 の26.3% に次いで第二位である.
一方,総合の場合は「言葉は知っているが,内容は全く知らない」「言葉も 内容も知らない」学生の割合も多く,全学が項目4と5の合計が8.3% である のに対し,総合は13.8% になっている.セクシュアル・ハラスメントについ ては,知識にばらつきが見られるため,さらなる啓発活動が必要である.
以上より,総合の学生の8割以上が「セクシュアル・ハラスメント」につい
て知識があることがわかった.総合の場合,「詳しく知っている」と答えた学 生は,学科別にみると二番目に多い.以下の「経験」についても,総合は他学 科に比べてハラスメントに巻き込まれる経験が多いことがわかる.
2
.セクシュアル・ハラスメントの経験の有無
次の問は,「あなたは,大学内でセクシュアル・ハラスメントを受けたり,
見聞きしたことがありますか」(問73)で,回答の選択肢は「1. 自分が受けた ことがある」「2. 受けた人のことを見聞きしたことがある」「3. 1と2のどちら もある」「4. 1と2のどちらもない」「5. わからない」に分かれている.
「回答1」を選んだ者は,全学は2.5% であったのに対し,総合は6.9% となっ ている.4年前と比較し,全学では「1」のケースは減っているにもかかわら ず(前回4.9% ⇒ 2.5%),総合の場合はわずかに増えている(前回6.2% ⇒ 6.9%).平成27年度のデータで学科別に見ると,総合は建築環境学科(7.5%)
に次いで二番目に数値が高い.
2については,全学が3.8% であるのに対し,総合は7.4% となっていて,全 体より3.6ポイント高い.この項目については,5年前と比較すると,全学的 に大きく減少していて(前回13.3% ⇒ 3.8%),総合にも変化が見られた(前 回18.2% ⇒ 7.4%).過去4年の間に10ポイント前後の差があるが,ハラス メントをめぐる環境に前向きな変化があったような印象を受ける.
「3」の自分が受けたことがある人,見聞きしたことがある学生は,全学が 1.7% であるのに対し,総合は2.8% と,わずかに高い.この項目については,
総合は前回にくらべ,1.3ポイントの低下がみられた.
「4」のハラスメントについて受けたことも見聞きしたこともない学生は,
全学は40.8% で,総合は27.6% となっている.総合の場合は,全学と比較し,
ハラスメントを受けたり,見聞きしたりする比率が高いことがわかる.さら に,総合では前回よりも数値が下がっている(前回32.3% ⇒ 27.6%).
セクシュアル・ハラスメントを受けたことがある学生は全学に比べると高 く,数値は全学規模では減っているにもかかわらず,総合の場合は4年前よ りもわずかに増えている.人が受けたのを見聞きした学生数も全学よりも多 いが,4年前よりは大幅に減少している.
3
.セクシュアル・ハラスメントへの対処法
対処法については,上記の問73への回答が選択肢「1 ~ 3」だった者に対し,
「セクシュアル・ハラスメントにどのように対処しましたか」(問74)と問う 質問があった.
回答は以下の選択肢に分かれる:「1. その場で抗議,または拒絶した」「2.
我慢してしまった」「3. 家族や友人に相談した」「4. 教員や大学窓口に相談し た」「5. 警察や弁護士等に相談」「6. その他」.
この質問事項においては,全体的に「無回答」の数値の変化(平成23年度と 27年度を比較した場合)が特に目立つ.総計では,4年前の「無回答」は64.4%
だったが,27年度は11.4% と,53.0ポイントも減少している.このことは,
時代の変化とともに,学生全体のセクシュアル・ハラスメントに対する意識 が向上したことを示している.
総合の場合は,「無回答」は全学に比べ,3.3ポイント低く,他の学科に比べ,
回答に積極性が見られる.さらに,総合の「無回答」は4年前に69.4% だった のに対し,今年度は変化が著しく61.4ポイントも減少して,8.1%となっている.
問72の分析でみたように,セクシュアル・ハラスメントの認知度は年々上がっ ており,それに伴って学生側の対応にも積極性がみられるようになった.
次に,セクシュアル・ハラスメントへの対処の仕方を項目別に分析してい く.まず,「1. その場で抗議・または拒絶した」について,全学は28.0% であ るのに対し,総合は32.4% と4.4ポイント分数値が高くなっている.前回の 調査で抗議・拒絶をした総合の学生は7.2% だったのに対し,4年後は数値が 32.4% と大幅に上昇している.
「2. 我慢してしまった」については,全学は19.7% だったのに対し,総合は 16.2% であり,先にみた「回答1」のデータにも出ているが,総合の場合は全 学に比べ,我慢せずに勇気をもって抗議,拒絶に臨もうとする姿勢がみられ る.4年前に比べても,数値は二倍に上昇している(前回8.1% ⇒ 16.2%).
相談相手について分析すると,「3. 家族や友人に相談した」については,全 学は22.0% だったのに対し,総合は8.1% であった(数値は前回と同じ).「4.
教員や大学窓口に相談」については,全学は6.1% だったのに対し,総合は 16.2% であった.他学科に比べ,総合の学生の教員,大学窓口への利用数は 目立って高い(学科別にみると,総合の数値が一番が高く,第二位の建築環
境学科の6.3% をはるかに凌いでいる).
ちなみに,総合の学生による教員,大学窓口の積極的利用は4年前に比べ て増えていて,数値は13.5ポイントもアップしている.
「5. 警察や弁護士等に相談」についてみていくと,全学は6.1% だが,総合は その二倍以上で,13.5% となっている(前回0.9% ⇒ 13.5%).この数値は 他学科と比べると突出していて,相談内容が深刻であると推察される.
この分析からわかったことは,全学的にセクシュアル・ハラスメントへの 意識が過去4年の間で大幅に上がったことで,総合の学生は他学科に比べて 無回答が少なく,特に意識が高いことである.さらに,「その場で抗議・拒絶 した」学生数も総合は多く,しかも4年前より大幅に数値が上がっている.
さらに,総合の学生の場合は他学科よりも家族や友人に相談するケースが少 なく,相談相手として教員,大学窓口を選ぶ学生が目立って多い.しかも,
その利用は4年前よりも大幅に増えている.そして,総合の場合は,警察や 弁護士に相談した人の数が二倍以上である.
4
.DV についての知識
DV については,「あなたは,ドメスティック・バイオレンス(DV)につい て知っていますか」(問75)という質問があった6).
解答欄の項目は「1. 内容まで詳しく知っている」「2. 内容はある程度知って いる」「3. 言葉は知っているが,内容は少ししか知らない」「4. 言葉は知って いるが,内容は全く知らない」「5. 言葉も内容も知らない」であるが,一番回 答が多かったのは,「選択肢 2」であり,全体が51.7%,総合が45.2% であった.
全体に比べて,総合は認知度が6.5ポイント低くなっている.一方,内容を詳 しく知っている学生は全体では23.6% だったのに対し,総合は25.3% で,わ ずかに数値が高い.全学と比べ,総合は「言葉は知っているが,内容は全く 知らない」学生数が2.9ポイント多く,また,「言葉も内容も知らない」学生も わずかに(1.3ポイント)多くなっている.
全学的にみて,ある程度は知っている学生が半数以上,詳しく知っている 学生が約25% と,セクシュアル・ハラスメントよりも認知度が少し低い.し
6) DV に関する質問項目は平成23年度の調査対象ではなく,平成27年度から新たに追加された .
かし,学生の7割以上が DV についてなんらかの知識を持っていることがわ かった.その中で,総合はよく理解できていない学生の割合がわずかに高い.
いずれにせよ,DV に対する総合の学生の知識や理解度は高いとはいえな いので,さらなる啓発活動が必要である.
5.DV についての経験の有無
DV の経験の有無については,「あなたは,ドメスティック・バイオレンス
(DV)を受けたり,見聞きしたことがありますか」(問76)という質問があっ た.回答の選択肢は「1. 自分が受けたことがある」「2. 受けた人のことを見聞 きしたことがある」「3. 1と2のどちらもある」「4. 1と2のどちらもない」「5.
わからない」に分かれている.
この質問項目では,他の質問と比べて,「わからない」の回答数の多さが目 立つ.具体的には,全学では39.3%,総合は45.2% となっている.学生たちが DV の定義そのものをよく理解していないことが懸念される.
分析すると,DV を受けたことがある学生は,全学は3.0% であるのに対し,
総合は5.5% と数値が高くなっている.さらに,DV を受けた人のことを見 聞きしたことのある学生は,全学では6.6% であるが,総合はわずかに低く,
4.6% となっている.DV を実際受けたり,見聞きした経験が両方ある学生は 全体の2.1% で,総合は3.7% である.選択肢「1,2,3」を合計してみると,全 学は11.7% で,総合は13.8% となるため,総合の学生が DV に巻き込まれて いる可能性は全学よりも高いことがわかる.このことは「4」の回答者の数値 にも表れている.DV を受けたこともなく,見聞きしたことのない学生は,
全体では44.8% で,総合は35.9% と,総合は全体よりも8.9% 低くなっている.
この質問から,総合の学生の場合,「わからない」が全体より少し多く,DV を受けたことがある学生は全学よりも多いことが明らかになった.
6
.DV への対処法
次に,上記の問76について,「1 ~ 3を選択した方にお伺いします.ドメ スティック・バイオレンス(DV)にどのように対処しましたか」(問77)とい う質問があったが,回答は以下の選択肢に分かれる:「1. その場で抗議,また は拒絶した」「2. 我慢してしまった」「3. 家族や友人に相談した」「4. 教員や大
学窓口に相談した」「5. 警察や弁護士等に相談」「6. その他」.
データをみると,DV に対し,その場で抗議・拒絶した学生は全体で27.5%
で,総合は36.7% であり,他学科に比べて数値が最も高くなっている.
DVに対し,我慢した学生をみると,全体が20.7% で総合は3.0ポイント低く,
16.7% であった.ここまでのデータをみると,総合の学生は全学と比較する と行動的であるような印象を受ける.
次に,DV の相談先についてみていく.全体としては,相談相手は順に家族・
友人,教員や大学窓口,警察や弁護士等,となっていて,総合と比較しても数 値に大きな変化はないが,ただし総合の場合は警察や弁護士等に相談する ケースが全学よりも高い(全学2.6%,総合6.7%).専門機関に援助を求めて いることから,相談内容がより深刻であると推察される.
7
.「悩みごと」について
これまで,ハラスメントと DV に関する質問から,学生の回答を分析した が,学生生活実態調査では,学生の悩みごとについての項目もあるので,こ こで紹介したい.
悩みごとについては,「本学に入学してからひどく悩んだり,心理的に落 ち込んだことがありますか」(問68)という質問があり,それに対し,全学で は「1. よくある」「2. 時々ある」「5. 回数は少ないが深刻に悩んだことがある,
または現在悩んでいる」の合計が59.5% であった.総合政策学部は全学と比 較すると,7.4ポイント低くなっている(全学59.5% に対し総合は52.1%).た だし,平成23年度の調査と比較すると,3.2ポイント上がっていることがわ かる(前回は48.9% ⇒ 52.1%).いずれにせよ,学生の半数以上がなんら かの悩みを抱き,心理的に落ち込む経験をしており,その数値は4年前より も高くなっている.
「本学に入学してから自殺について考えたことがありますか」(問69)とい う質問に対し,全学では「1. 実際に試みたことがある」「2. 方法を考えたこと がある」「3. 漠然と考えることがある」「4. かつて一瞬だけ考えたことがある」
の合計が23.7% であった.総合政策学部は全学と比較すると,1.2ポイント高 くなっている(全学23.7% に対し総合は24.9%).さらに,平成23年度の調査 と比較すると,数値は6.2ポイント上がっている(前回は18.7% ⇒ 24.9%).
細かい部分に注目すると,「1. 実際に試みたことがある」について,平成27 年度の総合の数値は4.1% で,全学(1.9%)よりも2.2ポイント高く,4年前に くらべて2.8ポイント上がっている(前回1.3% ⇒ 4.1%).
さらに,「2. 方法を考えたことがある」に関しては,総合は一番数値が高く,
7.8% となっている(全学平均は5.1%).ちなみに,前回と比べると,3.4ポイ ント高くなっている(前回は4.4% ⇒ 7.8%).
このことから,希死念慮については総合は全学科と比べて深刻度が高く,4 年前と比較して,悩みを抱える学生が増えていることがわかる.
8
.相談相手について
相談相手についての質問,「悩み事を相談する相手がいますか」(問70)に ついて分析する.全学では「1. まったくいない」が10.1%,「2. 本学の友人に 相談できる」は38.1%,「3. 教員や大学の相談室等に相談できる」は3.1%,「4.
家族に相談できる」は18.5%,「5. 学外の友人等に相談できる」は27.1% となっ ている.全学的にみると,学生は学内の友人に相談することが多く,次に学 外の友人,家族,教員や相談室,という順番に考えていることがわかる.
それに対し,総合は「1」が14.7%,「2」が30.9%,「3」が5.1%,「4」が16.6%,「5」
が31.3% となっている.データによれば,総合の学生が頼りにしているのは,
学外の友人,本学の友人,家族,教員の順だが,教員や相談室の利用は全学よ りも高くなっている.
詳しくみていくと,総合の学生は全学よりも相談相手がいないケースが4.7 ポイント高く,4年前に比べて数値はわずかに上がっている(前回13.8% ⇒ 14.7%).本学の友人に相談できるかどうかについては,総合の学生は全学よ りも7.2ポイント低く,前回にくらべて2.2ポイント下がっている(前回33.1%
⇒ 30.9%).それに対し,教員や相談室等の利用については,総合は全学よ りも2.0ポイント数値が高く(全学3.1%,総合5.1%),4年前よりも利用頻度 は高くなっている(前回2.8% ⇒ 5.1%).
家族に相談できるかどうか,という点においても,総合は全学よりも1.9ポ イント低くなっている(全学18.5%,総合16.6%).しかし,4年前と比較する と数値は上がっているので,過去に比べ,総合の学生の家庭環境が安定して いるような印象を受ける(前回12.6% ⇒ 16.6%).
学外の友人に相談できるかどうかについては,総合の数値は全学よりも4.2 ポイント高い(全学27.1%,総合31.3%).前回の調査と比較すると4.1ポイン ト低くなってはいるが,依然,総合の学生は相談事を「学外」の友人に頼る傾 向が強いことがわかる.
9
.学生相談室の利用について
「学生相談室を利用したことがありますか」(問71)という問に対して,「1.
利用したことがある」と答えた学生は,全学では5.5% だったのに対し,総合 は10.6% で,学科別の数値をみると,建築環境学科の12.5% に次いで二位で あった.総合の場合,利用者は4年前よりも増えていることがわかる(前回 4.9% ⇒ 10.6%).
10. まとめ
平成27年度の学生生活実態調査で明らかになった総合の学生の傾向をま とめると,「悩みごと」のある学生数は増えていて,学生相談室の利用頻度も 高くなっている.全学に比べて,総合の学生は教員,相談室に悩みを打ち明 ける場合が多い.希死念慮のある学生は増えていて,方法を考えたことがあ る者は全学の中で一番多い.セクシュアル・ハラスメントについては,8割 以上の学生が知っていて,被害者は減っているものの,全学よりも数値が高 い.セクシュアル・ハラスメントへの対処法のデータによると,総合の学生 はその場で抗議・拒絶する者が多く,4年前よりも割合が高くなっている.
さらに,総合の場合は警察や弁護士への相談件数が目立って多い.
DV については,全学にくらべると自ら経験したり,見聞きしたりするケー スが多く,対処法をみると,我慢せずに抗議・拒絶する割合が高い.さらに,
警察や弁護士に相談する者も多いので,総合の学生は行動的であると推察さ れる.
Ⅱ . 「ジェンダー論」への学生の反応
筆者が担当する総合政策学部の選択科目「特別講座Ⅳ・ジェンダー論」では,
ジェンダーをめぐる社会問題を学生ひとりひとりが身近に感じ,将来の危機
管理に役立てられるよう,毎回テーマに関連した新聞記事を参照しながら講 義を行い,学生にコメントぺーパーを作成させている.ここでは,「ハラス メント」「DV」「多様な性の在り方」に関する過去二年間の講義内容を紹介し,
学生のコメントから,総合の学生のジェンダー意識を分析していく.
1
.ハラスメント関連のコメント(平成28年度)
平成28年10月14日に,「セクシュアル・ハラスメント」をテーマとして講 義を行った.この講義では,最初に「セクシュアル・ハラスメント」という表 現は,日本社会ではいまだに軽いからかいの意味で使われることがあるが,
直訳は「性的嫌がらせ」「性的脅かし」という意味で,深刻な人権問題だとい うことを強調した.
さらに,「セクシュアル・ハラスメント」という概念が生まれた歴史的な背 景について説明した.日本では,「セクハラが」1989年の「流行語大賞」に選 ばれ,冗談の一種のように扱われていた時期があったが,切実な問題から生 まれたことを示すために,講義では1970年代にアメリカのラディカル・フェ ミニズムについても紹介した.ラディカル・フェミニストたちは,家父長制 を糾弾し,「個人的なことは政治的なことだ」というスローガンを掲げて闘い,
その中で米国の弁護士・キャサリン・マッキノンがセクシュアル・ハラスメ ントを初めて法規制と結びつける活動をしたことを説明した.
さらに,講義では,セクシュアル・ハラスメントの種類が,大きく分けて「対 価型」と「環境型」に分類されることを説明し,さらにそれが企業にどのよう な損失をもたらすかを例を挙げて示した.たとえば,セクシュアル・ハラス メントの被害が発覚した場合は企業の使用者責任も問われることを,平成27 年の大阪市の水族館「海遊館」の最高裁判決7)の例を挙げて説明した.さらに,
平成26年6月の東京都議会での「みんなの党」塩村文夏議員へのヤジ問題8)や,
キャンパス内でのセクシュアル・ハラスメントの例としての,平成11年の東 北大学の事件9)についても紹介した.
7) 大阪市港区の第3セクターの水族館「海遊館」で,男性管理職2人が女性へ「性的言動」を行い,「セ クハラ発言」と認定され,出勤停止となった処分をめぐる裁判を指す .「産経ニュース 2015/2/26 配 信 」[http://www.sankei.com/affairs/news/150226/afr1502260036-n1.html]( 最 終 検 索 日 2017/12/19)
この講義に対する学生の反応としては,コメントで多かったのは,セクシュ アル・ハラスメントがそこまで「深刻」な社会問題だと知らなかった,という 意見である.たとえば,「セクハラ」という言葉に軽い響きがあるので,そこ に根深い女性差別が潜んでいることに気づかなかった,というコメントがみ られた.学生は,セクシュアル・ハラスメントが原因でうつ病になったり,
自殺を図ったりする人もいると知り,深刻さを実感したようだが,背景には,
マスコミ等でいまだに「セクハラ」を軽いジョークのように扱う風潮が消え ておらず,若い世代も影響を受けていることを示している.
さらに,学生のコメントには「異性とのコミュニケーションの取り方をよ く知らないために誤解が起こるのではないか」「具体的にどういう表現を使 うとハラスメントになるのか今まで知らなかった」というものもみられた.
多くの学生は社会経験がまだ豊富ではないので,ただ闇雲に「これもあれも ハラスメントになる」と指摘すると,不安に陥ってしまう者もいて,それはご く自然な反応であろう.中には,「世間には男性を一方的にハラスメントの 加害者と決めつける人が多い」という,マスメディアに溢れる漠然としたイ メージにとらわれ,本質が見えていない例もあり,また「セクシュアル・ハラ スメントを意識しすぎると,男女の関係がギクシャクするのではないか」と いう意見もみられた.講義の中で,どういう表現がハラスメントになり,相 手を傷つけるか,という具体例と,特に職業上の上下関係が明確な場合に問 題になる,ということを説明したが,まだ十分に行き届いているとは言えな い.学生が社会に出てから人間関係で苦心することのないように,今後も事 例を紹介する機会を増やしていきたい.
さらに,学生のコメントには,自分のアルバイト経験に照らし合わせた意 見も複数みられた.本人が明らかにハラスメントと思しき言葉をぶつけられ たケースや,アルバイト先の上司が同僚にそのような言動をしていたことを
8) 東京都議会で6月18日,みんなの党会派の塩村文夏(あやか)議員(35)が晩婚化対策を質問した 際に,男性の声で「自分が早く結婚すればいい」などとヤジが飛んだ問題で,海外メディアでも報 道が相次ぎ,「日本では職場の性差別が当たり前」「女性議員が少なすぎる」など日本社会に根深 い問題だと報じられた .「ザ・ハフィントンポスト・ジャパン 2014/6/22配信」[http://www.
huffingtonpost.jp/2014/06/22/sexist-heckling-international_n_5518896.html]( 最 終 検 索 日 2017/12/19)
9) 指導教員から繰り返し性的接触を受けた大学院生が性的関係を強要され,さらに私生活への過 度の干渉を受けた例 . 仙台地裁1999(H.11)年判例時報1705号135頁,判タ1013号18頁参照 .
見聞きした,というものもある.講義で紹介した具体例を聞いて,それまで 聞き逃していたが,これはハラスメントに該当する,と気がついた者もいた であろう.ハラスメントの問題が自分の身近にあり,学生も当事者になる可 能性を実感する機会になったと思われる.
2. セクシュアル・ハラスメント,アカデミック・ハラスメント関連の コメント(平成29年度)
平成29年度は,「ハラスメント」にもさまざまな種類があることを紹介す るために,10月6日,10月11日と二週に分けて講義し,一回目に「セクシュ アル・ハラスメント」,二回目に,学生にとって身近な問題である「アカデミッ ク・ハラスメント」に内容を絞った.「アカデミック・ハラスメント」に関して は,折しも山形大学の学生が自殺した事件10)があり,河北新報の報道が繰り 返しされていた時期であった.
「セクシュアル・ハラスメント」の講義の際は,前回の内容に加えて,ハラ スメント被害者は「二次被害」に陥る可能性が高く,被害を受けた者がさらに 深く傷つくため,周囲の理解が必要であることなども説明した.
「アカデミック・ハラスメント」についての講義では,ハラスメントの意味 が「いじめ」や「嫌がらせ」であることを再度強調した.さらに,ハラスメン トの事件の背景に,「NO と言えない力関係」があり,ハラスメントをする人 と,それで悩んでいる人の間には,大きな認識のギャップがあることも説明 した.
学生が理解しやすいように,典型的なハラスメント事例を紹介し,その後 に被害に遭った場合の対処法(証拠の集め方,メモするときのポイント)を説 明した.ハラスメントのような人間関係の不和が生じる背景には,日常のコ ミュニケーション不足,信頼感の不足がある,ということにも言及した.講 義の最後には,平成7年の広島修道大学の強制わいせつによる教授懲戒解雇 事件や,上記の山形大学のアカデミック・ハラスメント問題の例を挙げ,アカ
10) 山形大学工学部(米沢市)の男子学生が2015年11月に自殺したのは,指導教員の助教によるア カデミックハラスメント(アカハラ)が原因だとして,遺族が大学と助教に計約1億1900万円の損 害賠償を求めた訴訟を指す .「河北新報 ONELINE NEWS 2017/12/6配信」[http://www.kahoku.
co.jp/tohokunews/201712/20171206_53035.html](最終検索日 2017/12/19)参照 .
デミック・ハラスメントの深刻さについて学生たちが熟考するように促した.
講義では山形大学で学生の自殺にまで発展したことを紹介したので,それ を受けて,学生のコメントには,「アカデミック・ハラスメントの深刻さを初 めて知った」というものが多くみられた.さらに,多くの学生が「早い時期に 相談することが大事だ」,「いざとなった時に相談できる相手を作っておくこ とが重要」と述べていた.さらに,「被害者は相談しにくく,人に話すには勇 気がいる」という意見もいくつかあった.そして,「具体的に何がアカデミッ ク・ハラスメントに該当するか学ぶ必要がある」というコメントも多くみら れた.
学生の中には,中学時代,高校時代に見聞きしたハラスメントについて具 体的に述べているものもあり,具体的な事実関係は確認できないが,中には 悪質なものも含まれている.学生が置かれてきた環境は必ずしも理想的とは いえず,大学でも100% 潔白だと言い切れない場合もあると想定できる.学 生が被害に遭わないように,大学側の相談体制を整え,教職員もアカデミッ ク・ハラスメントの知識を備えていつでも対処できるようにする必要がある と思われる.
次に,セクシュアル・ハラスメントについてのコメントを分析する.今年 度の学生の場合も,セクシュアル・ハラスメントが被害者の心に深い傷を残 す,と説明したことに対し,多くの反応があった(前年度と同様に,「セクハ ラ」は冗談のように使われる軽い言葉だと思っていたが,実施は深刻で驚い た,というコメントが多かった).さらには,何が具体的にセクシュアル・ハ ラスメントに該当するか講義を聞くまで知らなかった,という意見や,言動 もハラスメントになると知って驚いた,という意見があった.
学生にはコメントに実体験も含めるように指導しているが,アルバイト先 で見聞きしたハラスメントについての記述がいくつかみられた.講義でセク シュアル・ハラスメントを放置すると職場の雰囲気が悪化し効率が下がる,
ということを話したが,それに対する反応も多くみられたので,学生の中に は実体験でハラスメントの具体例を知っている者も多いことがわかった.さ らには,学生が普段アルバイトをしている環境では,ハラスメントが比較的 多いような印象を受けた.実態は不明だが,もしそれが事実であれば,大学 生のうちにハラスメントへの対応方法を教えておく必要性は高くなっている
と言えよう.
そのほか,前年度のように,「セクハラ」と聞いて,女性側の拒否反応が過 剰なのではないか,と連想するコメントや,男性が濡れ衣を着せられやすい,
と心配するコメントもいくつかみられた.さらに,「最近はセクシュアル・
ハラスメントの基準が低くなりすぎている」という意見や,「何が《セクハラ》
に該当するのか,難しくてよくわからない」という意見もあった.何れにせよ,
このような意見が出される背景には,「セクシュアル・ハラスメント」が軽い ジョークのように使われていた時代の古いイメージが残っているように思わ れる.講義では,ハラスメントは深刻な問題で,人の尊厳を奪い,人権侵害 になる,ということを説明しているが,社会経験が少なく,上下関係の線引 きが曖昧な学生の身分では,想像がつきにくい,ということがあるかもしれ ない.この件については,「7. まとめ」でさらに考察する.
3.DV 関連のコメント(平成28年度)
平成28年10月28日に行ったこの講義では,最初に DV の定義について説 明し,そのあと,学生にとって身近な問題である「デート DV」の被害例を紹 介した.デート DV については,種類が①身体的暴力,②精神的な暴力,③ 社会的な暴力,④経済的な暴力,⑤性的な暴力に分類されることを話したほ か,DV で結びついたカップルは「共依存」の関係になり,解決に時間を要す ることなども説明した.「共依存」の説明の際には,DV 特有のサイクルとし て,解放期(ハネムーン期),爆発期,緊張期が繰り返されることを述べた.
講義では,他にストーカー規制法について触れ,DV 加害者の特徴や,行 動パターン,性格傾向について紹介した.さらに,子供のいる家庭で,夫婦 間で DV が繰り返された場合,時に子供に深刻な影響が与えられ,子供が将 来,加害者,被害者になる可能性が高くなる例も提示した.
また,資料として毎日新聞の記事「デート DV 暴言や暴力…被害者は男 子生徒,女子の倍以上」を配布した11).
この記事は大阪府の中高生を調査したところ,男子生徒の3割以上が「彼
11) 「 毎 日 新 聞・ デ ジ タ ル 版2016/2/7配 信 」 [https://mainichi.jp/articles/20160208/
k00/00m/040/054000c](最終検索日 2017/12/20)
女から暴言や暴力を受けた傷ついた経験がある」と答えたという事例や,交 際相手に「暴言が嫌と言えない」割合も,男子が女子を上回っている事例な どを含んでいる.
この講義内容への学生のコメントで一番多かったのは,近年は男性も被害 者になるケースが増えていることに驚いた,というものだった.次に多かっ たのは,セクシュアル・ハラスメントの時と同様に,講義を聞いて初めて DV の問題の深刻さに気がついた,という意見だった.さらに,DV の被害者と 加害者の「共依存」の関係についても反響が大きかった.DV 関連の事件が多 発している背景に SNS の発達と利用者の急増がある,というコメントも多 くみられた.そのほか,暴力だけでなく,暴言や LINE のチェックなども DV になる,と聞いて,DV とみなされる行為の幅の広さに驚いた,というコ メントもいくつか見られた.
自分自身の体験をもとにした感想もいくつかあり,講義の内容からアルバ イト先の同僚や,身内や,友人の DV 体験を思い出し,改めて DV の恐ろし さを実感した,というものも散見された.
その他には,DV の話題に対し,「女性はそうやってすぐに被害者意識を むき出しにする」という意見もみられた.講義では DV の具体的な例を詳し く紹介したが,そのような話題の提供に対し,無意識の「拒絶反応」が呼び起 こされてしまう学生は毎回必ずいるようだ(男性はすべて悪者にされる可能 性がある,という,やや感情的な反応である).学生が目にするテレビやネッ トのニュースは,必ずしも全てが公平で,事実に即しているとは限らないの で,セクシュアル・ハラスメントや DV は特定の女性が騒ぎ立てているだけ だ,というジェンダー不平等の価値観によるメッセージが含まれている可能 性がある.もっとも,このような意見は,ごく少数のものだったが,今後は 確かな情報源から事件の例を具体的に説明できるように工夫をし,世間に流 布する言説を鵜呑みにせず,冷静に判断することの大切さも伝えてきたいと 考えている.
4
.DV 関連のコメント(平成29年度)
平成28年に続いて,今年度も DV の講義を実施したが,近年は「デート DV」の問題が浮上していて,学生も当事者になる可能性があるため,9月22
日と29日に二週に分けて実施し,1回目を「デート DV」,二回目を広い意味 を持った DV(虐待なども含む)に充てた.
「デート DV」の講義では,具体例の紹介,デート DV の種類(精神的な暴力,
過剰な束縛,経済的な負担など)の説明を行った.さらに,デート DV を回避 する方法や,被害に遭った時の対処法,DV に関する法律(DV 防止法,)ストー カー規制法)を紹介した.
DV に関する2回目の講義では,新聞やインターネットの記事から配偶者 間の DV を紹介した.取り上げた記事は「日本の女性は欧州と比較して身内 の暴力を隠す傾向がある」と報じた京都新聞の記事,「日本女性,身内の暴力 隠す傾向」12)や,「3日に1人妻が殺される:日本の DV の実態」13)等である.
さらに,DV についての理解を深めてもらうために,DV 被害者の複雑な 心理について詳しく説明した.例として,被害者は自分が DV 被害者と認識 するのに時間がかかることがある,といったケースや,長い間加害者と生活 を共にすると感覚が麻痺し,「暴力」を受けた場合,「愛されている」と感じて しまうこと,長期間 DV 被害を受けていると正しい判断ができなくなり,恐 怖心が足かせとなって自由に動けなくなること,などを取り上げた.また,
前年度と同様に,DV の被害者と加害者は「共依存」の関係に陥りやすいこと も説明した.そして,最後に家族への DV(親子間)についてもふれ,家族は 場合によっては「支配と被支配の場」にもなり,「私物化」を「愛」と思い込ん でしまう危険なケースもあることを紹介した.さらに,家族への DV の加害 者は子供を愛せなかったり,強迫神経症,アルコール,薬物に依存していたり,
低所得,低学歴で原家族が崩壊していることがある,ということも伝えた.
デート DV へのコメントについては,昨年度と同様,デート DV の被害者 は女性だけでなく,男性にもいて,被害件数が増加している,ということに 驚いた学生が多かった.さらに,学生の多くがインターネットや SNS の普 及が DV の増加の背景にある,とみなしていた.その他目立ったのは,「DV の被害者は被害を訴えにくく,我慢する場合が多いと思う」という意見や,「相
12) 「デジタル版京都新聞 2017/8/4配信」[http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20170804000015]
(最終検索日 2017/12/19)
13) 「東洋経済 ONLINE 2017/7/8配信」[http://toyokeizai.net/articles/-/73960] (最終検索日 2017/12/19)
談しやすい環境作りが大事だ」という意見だった.さらに,「暴言」も「暴力」
に含まれると聞いて,深刻さを実感した,というコメントや,講義を聞いて 初めて「デート DV」を理解できた,というコメントもあった.また,「男ら しさ」や「女らしさ」への社会的な期待や,意識が DV の当事者に影響してい る,という意見もあった.そして,個人的な体験として,親族の間に暴力があっ たケースや,友人が交際相手の LINE のチェックをしている,という例の記 入などもみられた.
次に,「DV」(主に家族間)へのコメントの中で多かったのは,「早期相談が 重要だと思う」という意見で,さらに,「女性は男性に逆らうべきではない」「我 慢が当たり前」という社会通念があり,それが DV の増加につながっているの ではないか,という意見,さらに,「何が DV に相当するか知らないと我慢し てしまう」「日本人は身内の恥を晒したくない,という意識が強いので,犯罪防 止に結びつかない」「DV・虐待に様々なパターンがあることを学べた」「DV が 身近な問題であることを知った」という意見が複数あった.さらには,自分の 個人的な体験(被害に関連するもの)を開示してくれる学生もいて,学生が日常 生活において DV に巻き込まれる可能性が少なくないことを改めて実感した.
5.「多様な性の在り方」へのコメント(平成28年度)
平成28年11月4日に,「LGBT について」というテーマで,学生に性的マイ ノリティーについて理解を深めるべく,基本情報を紹介し,コメントペーパー を課した.初めに,「LGBT」の定義,LGBT の人口などをスライドで提示し,
海外の先進国と日本を比較した場合,日本は同性カップルへの法的な保障が 遅れていることなどを,アメリカの連邦最高裁の判決や,フランスの PACS などを例にして説明した.さらに,中東諸国では同性間の性行為が違法にな ること,中南米では自己申告による性別変更が合法になる国があることを紹 介し,最後に性的マイノリティーへの差別や偏見が深刻であることを,アメ リカ・フロリダ州オーランドのナイトクラブの乱射事件14)を例にとって説明
14) 米南部フロリダ州オーランドのナイトクラブで2016年6月12日未明(日本時間12日午後),銃 乱射事件が発生し,地元当局によると,50人が死亡し,53人が負傷した .「産経ニュース・デジタ ル 版 2016/6/13配 信 」[http://www.sankei.com/world/news/160612/wor1606120033-n1.html]
(最終検索日2017/12/20)
したほか,例えば性同一性障害の人は自死念慮が高いことをデータを使って 示し,性的マイノリティーが置かれた状況の深刻度を強調した.
講義内容に対する学生の反応としては,「日本は他国に比べ,LGBT への 配慮が十分ではないと感じた」という意見や,「LGBT への差別は深刻な社会 問題だと思う」「LGBT の人たちの生きづらさが理解できた」という意見が多 かった.後者については,LGBT がいじめの対象になりやすいことや,精神 的な病を抱えやすいことを説明したことで,事態の深刻さが実感できたと思 われる.
さらに,学生の意見には「教育現場でもっと LGBT の話題を出すべきだ」
というものも多くみられた.学生たちの反応には,全体的に「LGBT を理解 したい」「LGBT が窮屈な思いをしないような世の中にしていくべきだ」とい う,素直で温かな配慮が感じられた.今後は学生生活をサポートする教職員 も,学生の意向に沿えるように努力するべきだと思われる.
コメントには「講義で LGBT の人口のデータを聞くまで,身近に LGBT は いないと思っていた」「LGBT の人たちは病気だと思っていた」というものも あり,LGBT の理解のためには,学生が予備知識のないまま社会に出る例を 少しでも減らすべく,教育現場で話題を取り上げる必要がある.
6.「多様な性の在り方」へのコメント(平成29年度)
今年度も,「多様な性の在り方」への理解を深めるために,12月1日に「性 同一性障害について」というテーマで講義を行った.最初に,性同一性障害 は「からだの性」と「こころの性」が一致しないことを指し,原因は不明で,治 療,手術が必要なケースであることを,学生に親しみのあるテレビドラマや タレントの例を出しながら説明した.その他,前年度と同様に LGBT の解説 をし,多様な性の在り方があり,現在の日本では LGBT への配慮は十分とは 言えず,性的マイノリティーは精神的に追い詰められることが多い,という ことを述べ,さらに同性婚の法制度の問題などを紹介した.そして,最後に は多様な価値観を認め合うことが重要であることを強調した.
学生の反応をみると,「LGBT の数の多さに驚いた」「LGBT のうつ病,希 死念慮の問題は深刻だ」「LGBT の認知度が低いので対策が必要だ」という意 見が多かった.さらに,「差別,偏見をなくすために,もっと教育の現場で紹 介するべき」「日本は対策が遅れている」という意見も多くみられ,また,「性
同一性障害について,見聞きしたことはあったが,詳しくは知らなかった」と 言う学生も多かった.
総合の学生は,総じて「性同一性障害」「LGBT」への偏見が少なく,「同性 愛者や異性愛者の区別よりも,自分らしさが大事だと思う」「社会に出たとき に LGBT の人たちと出会う可能性があるので,今のうちに学んでおきたい」
「今後は海外からの人の行き来も増えるので,多様な価値観を認め合うこと がますます必要になる」「LGBT の人たちを傷つけないように言葉遣いに気 をつけたい」というように,多様性を受け入れる寛容さを示したコメントも 多かった.
7. まとめ
「ジェンダー変容期におけるジェンダー平等教育の課題」の中で,古久保さ くらは自らの「女性学」の講義でキャンパス・セクシュアル・ハラスメント問 題を教える際の基本的スタンスは,「キャンパス・セクシュアル・ハラスメン トとは『教育を受ける機会』への挑戦であり,あるいは性的自己決定権への挑 戦であり,その意味で人権侵害だということを伝えることにある」と述べて いる.さらに古久保は,「セクシュアル・ハラスメントは破廉恥行為であり 大学の品位を落とすというレベルの問題ではなく,そのことが被害者の人生 を大きく狂わすような恐れのある問題なのだということを強調している」と いう(古久保[2008],p.190).
本学の学生のコメントの中に,ハラスメントの深刻さに改めて気づいた,
というものが多かったが,ハラスメント防止のためには,当然ながら,教職 員が上述のような「基本的スタンス」を共通認識としてもち,一丸となって臨 まなければならない.そのためには,普段から学生の声に耳を傾け,小さな 疑問から答えていく姿勢が求められている.
先に「ハラスメント」の話題になると,コメントの中に毎年「男性ばかりが 責められる」「なにがセクシュアル・ハラスメントになるのか判断が難しい」
と心配する声があることを指摘した.文部科学省の規定では,セクシュアル・
ハラスメントは「職員が他の職員,学生等及び関係者を不快にさせる性的な 言動並びに学生等及び関係者が職員を不快にさせる性的な言動」となってい る(平成13年1月6日).しかしながら,「不快にする言動」という定義は,確
かに曖昧であり,(不快であるかどうかは)相手次第と聞くと,男子学生が不 安感に襲われるのは自然な反応だと思われる.現に,痴漢の冤罪などがマス メディアで紹介されているために,自分の人生に不利益が生じる,という不 安を日々煽られている,とも想像できる.
古久保は,このような男子学生の心情を分析し,その背景に男子若年層の 不安定化・階層分化をみている.男女雇用均等法などにより雇用機会の平等 が保障され,企業,官庁で成功する女性が増えるなど,女性の社会進出がお びただしいが,このことよって男性の正規雇用率は低下し,競争力の激化に より,若い男性は親の世代が手にしていた「既得権益」に期待できなくなっ た.現実には,非正規雇用率は女性の方がはるかに高いのだが,若者の雇用 環境の悪化の問題が,男子学生の不安を煽る一因になっている,という(古 久保[2008]pp.197-203.).
情報化社会のなかでは,正しい判断力を持たなければ,マスメディアが垂 れ流すその場限りの情報に漠然とした不安を煽られる一方であろう.学生が 物事の本質を見極める力を身に付けるためにも,近代的ジェンダー秩序によ る性別役割分担がどのように変容しているか,という視点を教えることは重 要である.
DV については,内閣府の調査(「男女間における暴力に関する調査」(平成 26年度調査)結果では,20代の女性の約3割がデート DV の被害を経験してい るという.学生のコメントのなかに,SNS の普及と DV を結びつける意見が 多かったが,最近の学生は,携帯電話,スマートフォンの普及で SNS を意識 した人間関係を長く続けているせいか,まわりとの摩擦をなるべく避け,場に 同調しようとする傾向があるように思われる.デート DV の被害者の多くは,
相手の強引な態度や暴力をいやだと感じても,「嫌われたくない」との思いに とらわれ,限界まで我慢してしまうという.近年は男性の被害者も多いが,そ もそも DV は男尊女卑,家父長制といった日本の歴史のマイナス面の表れで あり,そのような思想に基づいた女性への暴力や人権侵害に端を発している.
学生も指摘しているが,被害者側が「自分が悪かった」「自分さえ我慢すれば
…」と,自らのジェンダー役割を自ら規定してしまうことにも問題がある.
DV の根本にある「男らしさ」「女らしさ」へのこだわりを説明するには,「男 性学」の視点も有効である.日本の「男性学」研究の第一人者の伊藤公男は,
「男らしさ」を “ 優越・権力・所有 ” からなると説明している.DV やデート DV の加害者には,無意識のうちに女性を支配することで,自分の力と優越 性を示し,相手を所有していることを証明しようとする傾向があるように思 われる.総合は男子学生が多いため,「ジェンダー論」では毎年「男性学」を 講義で紹介していて,学生からも肯定的なコメントを得ている.DV のトラ ブル予防のためにも,講義などを通してジェンダー研究の視点を取り入れ,
男女の役割をめぐる誤解や,深層心理への理解を促すことが重要である.
「多様な性の在り方」については,電通ダイバーシティラボが行った「LGBT 調査2015」によると LGBT の比率は7.6% とされている.本学でも今後,対応 が求められる可能性がないとはいえない.講義のコメントで学生も指摘して いたように,相談しにくい案件であるからこそ,相談窓口の確保が不可欠で ある.『LGBT ってなんだろう ?』は,「相談しやすい先生」として,6か条を 挙げているが,それは①話を聞いてくれる先生,② LGBT を笑いの対象にし ない先生,③「男性/女性だけじゃない」を知っている先生,④「異性愛だけ じゃない」を知っている先生,⑤「LGBT を知っている」「知りたいと思って いる」を伝えてくれる先生,⑥多様性への理解が深い先生である.
平等主義を掲げている教育機関が,差別をなくすことができず,かえって 助長することがある,という研究は,欧米で1970年代から注目されてきた.
現代社会では,性的マイノリティーのアイデンティティ構築が困難な状況に 置かれているため,このような「隠れたカリキュラム」を見直す視点は重要で ある15).さらに,男女共同参画社会基本法(平成11年)の制定後に是正が進 んだとはいえ,ジェンダー平等の理解という点では,教職員は若い世代に後 れをとっている可能性がある.教職員も不用意な言動で性的マイノリティー の人権を侵害することがあっては許されない.
Ⅲ . ジェンダー教育の重要性
「ジェンダー論」では,社会的に構築された「性別」(ジェンダー)がわれわ
15) 「隠れたカリキュラム」については,参考文献の『ジェンダーで学ぶ社会学』,『学校文化とジェ ンダー』に詳しい .
れの日常生活にどのような影響を与え,どのような問題を引き起こしている かを,最新の新聞記事やネットのニュースの中から身近な話題を選び,社会 学的分析方法を用いて講義している.さらに,講義後は学生の反応をレポー トから探り,疑問に答えるべく,情報の補充などの調整を行っている.受講 者が「ジェンダー」の視点を備えることで,偏見や差別から自らを解放し,多 様な価値観を認め,柔軟な思考が身に付けられるよう,導いていくことが担 当者の最大の願いである.
受講者は「ジェンダー論」において,「男」「女」の二元論による性別役割分 担をいちど疑問に付し,価値観を見直す,という方法で社会分析作業を繰り 返すうちに,それまで「当たり前」だと思っていた社会の価値観が,必ずしも 現状に合うとは限らず,マイノリティーに不利益をもたらし,再考・改善の 余地が多分にあることを認識するようになる.
平成27年より3年間この科目を担当しているが,グローバル化が進み,ヒト・
モノ・カネの変動の著しい現代社会において,これからの若者たちは,多様 な価値観への対応を迫られ,柔軟な思考がますます求められるであろうこと は想像に難くない.われわれ教職員がその中で出来ることは,可能な限り学 生の声に耳を傾け,彼らが社会に出る前に,実生活に必要な知識を提供する ことである.一般に,10代,20代の若者は人生の中でもっとも性を意識する 年頃であると言われる.男女共同参画社会基本法が制定されて久しいが,本 稿で扱ったような「セクシュアル・ハラスメント」や「DV」,「多様な性の在 り方」をめぐる諸問題は,ジェンダー格差に端を発しており,基本法が目指す ところの「平等」がまだ実現されていないことを示している.学生がハラス メント等の問題に巻き込まれず,安心してキャンパス・ライフを送ることが できるように,ジェンダー論の知識は必要不可欠である.また,そのためには,
学生を指導・支援する立場の教職員も,防止策のために,ノウハウや情報の 共有をし,連携を向上させ,学生の相談体制を強化することが重要である.
本稿でも取り上げたように,現代社会においては,まだ性的指向や性自認の 多様なあり方について,理解が進んでいるとは言えない.ハラスメント,
DV,多様な性の在り方をめぐる問題の予防・解決には,ジェンダー研究の視 点の導入が求められているのである.
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村本晶子・弓削直子編[2017]『なぜジェンダー教育を大学でおこなうのか』青弓社 . 薬師実芳他著[2014]『LGBT ってなんだろう - からだの性,こころの性,好きになる性』合
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早稲田大学教育総合研究所監修[2015]『LGBT 問題と教育現場:いま,わたしたちにでき ること』学文社 .