一般用医薬品の対面販売を義務付け、インターネッ ト通販を原則禁止する厚生労働省省令が憲法二二条 一項等に違反しないとされた事例(東京地判二〇一
〇年三月三〇日、判例時報二〇九六号九頁)
著者名(日) 枦山 茂樹
雑誌名 山梨学院大学法学論集
巻 69
ページ 103‑119
発行年 2012‑03‑30
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000486/
判例 研究
一 般 用 医 薬 品 の 対 面 販 売 を 義 務 付 け
︑ イ ン タ ー ネ ッ ト 通 販 を 原 則 禁 止 す る 厚 生 労 働 省 省 令 が 憲 法 二 二 条 一 項 等 に 違 反 し な い と さ れ た 事 例
︵東 京地 判二
〇一
〇年 三月 三〇 日︑ 判例 時報 二〇 九六 号九 頁︶
枦 山 茂 樹
目 次 一 事実 の概 要 二 判旨 三 解説 四 結び
一 事実 の概 要 二〇
〇六 年に 薬事 法が 改正 され
︑処 方箋 を必 要と しな い一 般用 医薬 品の 販売 方法 が変 更さ れた
︒薬 害を 防止 する
─ 103 ─
ため に︑ 医薬 品の リス クに 応じ て専 門家 が関 与し
︑情 報提 供を 行う 仕組 が導 入さ れる こと とな った
︒薬 事法 改正 前 後の 国会 審議 や厚 生労 働省 の検 討部 会で は︑ イン ター ネッ トで の通 信販 売に 規制 を設 ける べき だと の意 見が 高ま っ てい た︒ 新薬 事法 三六 条の 五は
︑一 般用 医薬 品を リス クの 高い 順に 第一 類︑ 第二 類︑ 第三 類に 分類 した うえ で︑ 第一 類医 薬品 は薬 剤師
︑第 二類 医薬 品及 び第 三類 医薬 品は 薬剤 師又 は登 録販 売者 に販 売さ せる こと を義 務付 けた
︒続 く三 六 条の 六は 購入 者に 対す る情 報提 供義 務を 定め てい るが
︑そ の詳 しい 仕組 につ いて は︑
﹁厚 生労 働省 令で 定め ると こ ろに より
﹂と 委任 して いる
︒ それ を受 けて 二〇
〇九 年に 制定 され た薬 事法 施行 規則 は︑ 一五 条の 四で 第三 類医 薬品 以外 の通 信販 売を 原則 禁止 した
︒同 一五 九条 の各 規定 では 第一 類・ 第二 類医 薬品 につ いて
︑薬 剤師 又は 登録 販売 者の 対面 によ る販 売・ 情報 提 供が 義務 付け られ てい る︒ ただ し附 則で
︑離 島居 住者 や規 則施 行以 前か らの 継続 購入 者に 限っ て︑ 第二 類医 薬品 の 通信 販売 を一 定期 間認 める 経過 措置 が設 けら れた
︒ 同規 則が 二〇
〇九 年六 月一 日に 施行 され て以 来︑ イン ター ネッ トで の医 薬品 販売 は大 幅に 制限 され るこ とと なっ た︒ 現在
︑第 一類 医薬 品の 通販 は一 律禁 止と され
︑第 二類 医薬 品は 経過 措置 の範 囲内 での み例 外的 に認 めら れて い る︒ 本件 規制 によ り営 業活 動を 制約 され
︑経 済的 損失 をこ うむ った 業者 らが
︑厚 生労 働省 省令 の適 法性
・憲 法適 合 性を めぐ って 訴訟 を提 起し た︒
─ 104 ─
二 判旨 本稿
では 憲法 上の 争点 だけ をと りあ
( )
げる
︒︵ ︶ 本件 規則 は法 律の 委任 の範 囲を 超え て無 効で はな いか
︑︵ :︶ 同
規則 によ る規 制措 置は 原告 の営 業の 自由 を不 当に 侵害 し︑ 憲法 二二 条一 項に 違反 しな いか
︑の 二点 であ る︒
︵
︶ 法律 の委 任の 限界 につ いて
﹁憲 法二 二条 一項 は︑ 狭義 にお ける 職業 選択 の自 由の みな らず
︑職 業活 動の 自由 とし ての 営業 の自 由を 保障 する 趣旨 を包 含し てい ると 解す べき とこ ろ︑
⁝⁝ 改正 省令 中の 本件 改正 規定 は︑ これ らに よっ て憲 法二 二条 一項 にお い て保 障さ れる 営業 の自 由に 係る 事業 者の 権利 が制 限さ れる もの であ ると いう こと がで きる
︒ 本来
︑国 民の 権利 を制 限す るに は法 律の 根拠 が必 要で ある が︑ 制限 され る権 利の 種類 及び 制限 の目 的に よっ ては
︑ 専門 的・ 技術 的な 判断 を要 する 事項 等に 応じ て制 限の 範囲
・内 容を 定め る必 要が ある 場合 も考 えら れる とこ ろ︑ そ のよ うな 事項 及び 制限 の細 目を すべ て法 律で 定め るこ とは
︑実 際上 困難 であ り︑ かつ
︑事 情の 変化 に柔 軟に 対応 し てい くこ とも 困難 にな るこ とか ら︑ 法律 によ る委 任が あり
︑か つ︑ その 委任 の範 囲内 であ れば
︑省 令を 始め とす る 行政 立法 によ って 国民 の権 利を 制限 する こと も許 され ると 解す べき であ る︵ 国家 行政 組織 法一 二条 三項
︶︒
﹂ 新薬 事法 の委 任の 趣旨 は﹁ 一般 用医 薬品 の安 全性 の確 保を 目的 とし て︑ 一般 用医 薬品 のリ スク を専 門的
・技 術的 な判 断に 基づ き定 める こと にあ る﹂
︒﹁ 省令 にお いて 法律 の委 任を 受け た事 項に つい てど のよ うな 定め を設 ける かに
─ 105 ─
つい ては
︑法 律の 委任 の趣 旨を 逸脱 しな い範 囲内 にお いて
︑所 管行 政庁 に専 門的
・技 術的 な観 点か らの 一定 の裁 量 権が 認め られ てい るも のと 解す るの が相 当で ある
﹂︒
﹁新 薬事 法の 授権 規定 が当 該事 項の 定め を所 管行 政庁 の専 門的
・技 術的 な観 点か らの 裁量 的判 断に ゆだ ねた こと には 一定 の合 理的 な理 由が あり
︑前 記の とお りの 新薬 事法 の委 任の 趣旨 にか んが み︑
⁝⁝ 本件 各規 定の 定め は︑ そ の内 容の 実質 にお いて も︑ 当該 法律 の委 任の 趣旨
︵上 記の 裁量 権の 範囲
︶を 逸脱 する もの では なく
︑そ の委 任の 範 囲を 超え るも ので はな いと いう べき であ る︒
﹂ 以上 のこ とは
︑薬 事法 改正 前後 の国 会審 議︑ 厚生 労働 省の 検討 会の 答弁 や資 料に よっ ても 裏付 けら れる
︒﹁ 新施 行規 則中 の本 件各 規定 は︑ 法律
︵改 正法 によ り設 けら れた 新薬 事法 の授 権規 定︶ の委 任に 基づ くも ので あり
︑か つ︑ その 法律 の委 任の 範囲 内で 定め られ たも ので ある とい える ので
︑こ れら を法 律の 委任 を欠 き又 はそ の委 任の 範囲 を 超え るも のと して 無効 であ ると いう こと はで きな い︒
﹂
︵
︶ 営業 の自 由の 侵害 につ いて
﹁職 業活 動と して の営 業は
︑本 質的 に社 会的 かつ 経済 的な 活動 であ って
︑そ の性 質上
︑社 会的 相互 関連 性が 大き いも ので ある から
︑憲 法二 二条 一項 にお いて 保障 され る営 業の 自由 は︑ それ 以外 の憲 法の 保障 する 自由
︑殊 にい わ ゆる 精神 的自 由に 比較 して
︑公 権力 によ る規 制の 要請 が強 く︑ 同項 の規 定に おい ても
︑特 に﹃ 公共 の福 祉に 反し な い限 り﹄ とい う留 保が 明記 され てい る︒
﹂ 営業 の自 由に 対す る﹁ 規制 措置 が憲 法二 二条 一項 にい う公 共の 福祉 のた めに 要求 され るも のと して 是認 され るか
─ 106 ─
どう かは
︑こ れを 一律 に論 ずる こと がで きず
︑具 体的 な規 制措 置に つい て︑ 規制 の目 的︑ 必要 性︑ 内容
︑こ れに よ って 制限 され る営 業の 自由 の性 質︑ 内容 及び 制限 の程 度を 検討 し︑ これ らを 比較 考量 した 上で 慎重 に決 定さ れな け れば なら ない
︒そ して
︑上 記の よう な検 討と 考量 をす るの は︑ 第一 次的 には 立法 機関
︵立 法府 の制 定し た法 律に よ り行 政立 法の 権能 の委 任を 受け た行 政機 関を 含む
︒︶ の権 限と 責務 であ り︑ その 憲法 適合 性の 司法 審査 に当 たっ て は︑ 規制 の目 的が 公共 の福 祉に 合致 する もの と認 めら れる 以上
︑そ のた めの 規制 措置 の具 体的 内容 及び 必要 性と 合 理性 につ いて は︑ 上記 立法 機関 の判 断が その 合理 的裁 量の 範囲 にと どま る限 り︑ 立法 政策 上の 問題 とし てこ れを 尊 重す べき であ るが
︑そ の合 理的 裁量 の範 囲に つい ては
︑事 の性 質上 おの ずか ら広 狭が あり 得る ので あっ て︑ 裁判 所 は︑ 具体 的な 規制 の目 的︑ 対象
︑方 法等 の性 質と 内容 に照 らし て︑ これ を決 すべ きも のと いわ なけ れば なら ない
︒﹂
﹁本 件規 制の 目的 は︑ 一般 用医 薬品 の適 切な 選択 及び 適正 な使 用を 確保 し︑ 一般 用医 薬品 の副 作用 によ る健 康被 害を 防止 する こと であ ると 認め られ る﹂
︒﹁ この 規制 の目 的は 公共 の福 祉に 合致 する もの であ ると いう こと がで き る︒
﹁ ﹂ そこ で︑ 上記 規制 目的 のた めに 採ら れた 規制 手段 とし ての 本件 規制 の性 質に つい てみ るに
︑本 件規 制は
︑薬 局 又は 店舗 販売 業と いっ た一 般用 医薬 品の 販売 を行 う業 態が 許可 制に なっ てい るこ とを 前提 とし て︑ 薬局 又は 店舗 販 売業 の許 可を 得た 者に よる 第一 類・ 第二 類医 薬品 の販 売に おい て有 資格 者に よる 対面 での 販売 及び 情報 提供 を義 務 付け
︑こ れに 伴い
︑そ の販 売方 法か ら郵 便等 販売 を除 外す るも ので
︑そ れ自 体と して は︑ 狭義 にお ける 職業 の選 択 の自 由そ のも のに 制約 を課 する もの では なく
︑営 業活 動の 態様 に対 する 規制 の範 疇に 属す るも ので ある と解 され る︒
﹂
─ 107 ─
﹁も っと も︑ 各種 商品 のイ ンタ ーネ ット 販売 を主 要な 事業 内容 とす る業 者が
⁝⁝ 事実 上︑ 医薬 品の 販売 に係 る営 業活 動そ のも のを 制限 され る結 果と なる こと を考 慮す ると
︑⁝
⁝上 記の 業態 の業 者に 関す る限 り︑ 当該 規制 の事 実 上の 効果 とし ては
︑規 制の 強度 にお いて 比較 的強 いも のと いう こと がで きる
︒﹂
﹁本 件規 制は
︑自 由な 営業 活動 が社 会公 共に 対し ても たら す弊 害を 防止 する ため の消 極的
・警 察的 な目 的に よる 規制 措置 であ り︑ また
︑そ の規 制の 方法 は︑ 第三 類医 薬品 の販 売に つい ては その 販売 方法 から 郵便 等販 売を 除外 し てい ない もの の︑ 第一 類・ 第二 類医 薬品 の販 売に 関す る限 り︑ 例外 を許 さな い一 律の 制限 を内 容と する もの であ る こと など によ れば
︑規 制の 強度 にお いて 比較 的強 いも のと いう こと がで きる
︒﹂
﹁本 件規 制の 憲法 適合 性の 判断 にお いて は⁝
⁝立 法機 関の 判断 がそ の合 理的 裁量 の範 囲を 超え るも ので ある か否 かを 検討 する 必要 があ ると ころ
︑そ の検 討に 際し て代 替的 な規 制手 段と の対 比を 考慮 する に当 たっ ては
︑本 件規 制 の規 制内 容が 前示 のと おり 一般 用医 薬品 の副 作用 によ る健 康被 害︵ 薬害
︶の 防止 とい う国 民の 生命
・身 体の 安全 に 直結 する 事柄 であ り︑ 一般 用医 薬品 の適 切な 選択 及び 適正 な使 用が 確保 され ない 結果 とし てひ とた び副 作用 によ る 健康 被害
︵薬 害︶ が発 生す れば その 被害 者に 償う こと ので きな い重 大な 損害 が発 生す る危 険性 が高 いこ とを 踏ま え て検 討す べき もの と解 する のが 相当 であ り︑ 以下
︑こ のよ うな 見地 から
︑本 件規 制の 憲法 適合 性に つい て検 討す る︒ 本 ﹂ 件規 制は
﹁一 般用 医薬 品の 副作 用に よる 健康 被害 を防 止す るた めに は購 入上 の利 便性 より も使 用上 の安 全性 の 確保 を優 先さ せる 必要 があ ると の考 慮の 下⁝
⁝情 報提 供並 びに その 要否
・内 容及 び使 用の 適否 の判 断を 可能 とす る ため に必 要か つ実 効的 な手 段と して 有資 格者 の対 面に よる 販売 を義 務付 けた もの と解 する のが 相当 であ る︒
﹂
─ 108 ─