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ホームページを利用した計算化学教材の開発

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ホームページを利用した計算化学教材の開発

著者 山邊 信一, 湊 敏

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 12

ページ 133‑137

発行年 2003‑03‑31

その他のタイトル Development of A Web Teaching Material of Computational Chemistry

URL http://hdl.handle.net/10105/85

(2)

1.はじめに

近年のコンピュータのハードウェアおよびソフトウ ェアの進歩により、最近、化学の分野では計算化学と いう言葉がよく用いられる。この計算化学は、コンピ ュータを用いて化学現象を微視的に解明しようとする 目的がある。コンピュータにより得られる立体構造や 各種エネルギーの結果は信頼性が高く、その結果は多 くの学術雑誌に掲載され化学の精密化・進歩に貢献し ていると思われる。しかし、計算化学によってどのよ うな量が求まるか、実験結果とどのように対応するの か、実際のコンピュータを使った計算とはどのような 操作か等を解説している教材は、現在のところほとん ど見あたらない。特にコンピュータの実際的利用を体 験するためには、電子教材が必須である。本研究では、

ホームページを利用した計算化学のためのWeb教材 の開発を試みた。

2.開発の概要

教材の開発にあたってまず考慮した点は、教材を利 用する対象である。化学の教材であるため、どうして も化学の専門用語が必要となる。すべての専門用語を 解説すると膨大な量のコンテンツになる。これは、専 門用語を理解している人にとっては退屈な内容になっ てしまう。このため本教材を利用する対象者は、高校 化学Ibの教科書程度の知識を有すると想定した。内容 としては、大学の一般教養化学程度のものである。ま た、将来化学の分野に進もうと思っている人にとって も役立つように、最新の計算化学の演習を体験できる ようにした。

次に考えた点は、計算化学の分野の何を取り扱うか である。計算化学と一言で言っても、蛋白質の分子構 造を取り扱う方法と、小さな分子の電子状態を厳密に 取り扱う方法とは異なっている。ここでは、中規模分 子(炭素数で20個程度まで)の電子状態を取り扱う分 子軌道計算法の教材を作成した。

山邊 信一

(奈良教育大学 教育実践総合センター)

湊  敏

(奈良大学 情報処理センター)

Development of A  Web Teaching Material of Computational Chemistry

Shinichi YAMABE

(Center for Educational Research and Training, Nara University of Education) Tsutomu MINATO

(Information Processing Center, Nara University)

Abstract: A Web teaching material of computational chemistry has been developed.The material contains compu- tational results of hydrogen-bond systems and their visual presentations. A well known software GAUSSIAN 98 has been used to obtain the optimized geometries of those systems. A way of generating input data of computa- tional chemistry is explained in the material, which may be followed readily even by beginners. A critical point of the material content is the extent of how much basic information of chemistry should be included.  In the present version, more information has been found to be necessary to adapt begginers' interest.

Key words:Web teaching material, hydrogen bond, computational chemistry ウェブ教材、水素結合、計算化学

(3)

実 際 の 分 子 軌 道 計 算 を 行 う ソ フ ト ウ ェ ア と し て 、 GAUSSIAN  981)を取り上げた。このプログラムは、

現在 UNIX系のコンピュータでも Windows 系のコン ピュータでも利用可能である。GAUSSIAN  98では、

以下のような諸量を算出することができる。

(1)立体構造(化学反応の遷移状態構造を含む)

(2)エネルギー一般

(3)電荷分布、双極子能率

(4)基準振動数、赤外、ラマンスペクトルの強度

(5)励起エネルギー、振動子強度

(6)核磁気共鳴吸収(NMR)スペクトル、13Cの化 学シフト

(7)ラジカルの超微細結合定数

エネルギーは化学の中心概念であるので、求められ る量(2)の意義は大きく、実際、小さな分子の生成 熱や結合エネルギーは、従来の実験値から計算値に置 き換えられようとしている2)

化学現象と分子軌道計算結果の対応については、水 素結合を例に取り説明した。これまでの分子軌道計算 の解説は、主として分子軌道計算の結果を実験と比較 するものが多かった。ここでは、化学現象の1つであ る水素結合を理解する上で、分子軌道計算がどのよう に用いられるかを解説した。この教材の一部は2001年 のセンター紀要で報告した3).

ホームページを作成する上で考えたことは、ホーム ページの機能の特色を如何に出すかの点である。すな わち、これまでの印刷物による教材ではできなかった 新しい提示方法の開発である。本教材で打ち出した特 色は、分子の3次元構造の表示、反応のアニメーショ ン、GAUSSIAN  98  による数値計算の体験、および 質問コーナーである。

分子の3次元構造については、Web3D  の技術を用 いた。一般に分子は3次元構造を持っているため、2 次元表示である図では、その立体構造を把握すること は困難である。しかし、Web3D  を利用すれば、教材 の利用者はマウス操作により分子の構造を様々な方向 から見ることができ、分子の立体構造を理解しやすく なる。Web3D  データに関しては、Shockwave  形式 のデータを作成した。このため、3次元データを操作 するためには、Shockwave が必要になる。

アニメーションに関しては、AVI 形式と QuickTime 形式で作成した。

これらの Web3D、アニメーションは水素結合を理 解する上で、計算化学がどのような役割を果たしてい るかを示すために用いた。図1に水素結合を解説する ためのホームページを作成する手順を示した。

図1.教材作成の手順

GAUSSIAN  98  の体験に関しては、JavaScript  を 用いた。この体験コーナーでは、GAUSSIAN  98  の 正しい入力データを与えることにより、計算結果のペ ージを表示するようにした。

質問コーナーに関しては、CGI を利用し、プログラ ムは Perl を用いた。この質問コーナーは、一般的な、

掲示板形式を取っている。掲示板形式にすることによ り、他の利用者の質問も見ることができ、利用者本人 が質問をするとき参考になると考えたからである。

3.教材の概要

本教材は、3部から構成されている。第1部は、水 素結合の解説である。第2部は、GAUSSIAN  98  の 体験コーナーである。最後は、Q&A 掲示板である。

水素結合の解説では、まず簡単な化学用語の解説を 行い、水素結合の定義と水素結合の基本的な構造を示 した。図2に水素結合の基本的な構造を水の2量体を 例に取り示した。更に、この報告末尾に教材の具体的 内容を添付した。

図2.水分子の2量体の構造

(4)

この構造に関しては、Web3D  による3次元構造も 示した。次に、水素結合の具体化として、水素結合の 関与した反応の解説を示した。また、ヒドロニウムイ オンと水の水素結合系を例に取り、この反応系でのプ ロトン移動のアニメーションを示した。

GAUSSIAN  98  の体験コーナーでは、まずこのプ ログラムの解説を行った。次にGAUSSIAN  98  を用 いて、計算を行うための入力データの作り方を示した。

実際の計算の体験は、与えられた分子構造から入力デ ータを作成し、その入力データを投入できるようにし た。入力データが正しければ、あらかじめ別途計算し ておいた計算結果を表示するようにした。最後に、表 示された計算結果の見方について解説した。この解説 において、前述の対象者の知識の程度(高校化学Ib)

を想定した。教材と対応し、例えば水素結合が原因で の沸点の上昇等の現象を引用した。

4.問題点

本教材を作成するにあたり、やはり、大きな問題点 と感じた点は化学用語の解説の程度である。実際にモ ニタリングを行ったが、モニター役の方から多くの用 語に対しての解説を要求された。本教材では、モニタ ー側からのすべての意見を取り入れることはできなか ったが、できるだけ解説事項として含めたつもりであ る。それでも、研究を通して凝縮系の分子集団として の挙動を把握している教材作成側が、まだまだ解説の 必要度の認識が不十分と自覚している。そのひとつと して、高校化学段階での反応式の表示では、気体反応 と溶液反応の区別がつかない事がある。水溶液中の、

水素結合を通じたプロトン―リレーという現象は、高 校化学では現れない。用語の解説以上に、凝縮系の特 性を組織的に説明する必要が認識された。それでも、

今回の取り組みで、Web教材の骨格は確立できたと 考えられる。今後は、フレーム単位での上記の組織的 説明の充実と、さらなるモニター側からの注文の吟味 と教材の改訂が必要である。

5.謝辞

本教材の開発にあたり、日本原子力研究所計算科学技 術推進センターの協力を得ました。また、ホームページ 作成に関しましては、日本アドバンストテクノロジー株 式会社、株式会社ユーズテックの協力を得ました。

6.引用文献

1)Gaussian 98, Revision A.11.1,

M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E.

Scuseria,    M.  A.  Robb,  J.  R.  Cheeseman,  V.  G.

Zakrzewski,  J.  A.  Montgomery,  Jr.,  R.  E.

Stratmann,  J.  C.  Burant,  S.  Dapprich,  J.  M.

Millam,  A. D. Daniels, K. N. Kudin, M. C. Strain, O.  Farkas,  J.  Tomasi,  V.  Barone,  M.  Cossi,  R.

Cammi, B. Mennucci, C. Pomelli, C. Adamo,  S.  Clifford,  J.  Ochterski,  G.  A.  Petersson,  P.  Y.

Ayala,  Q.  Cui,  K.  Morokuma,  P.  Salvador,  J.  J.

Dannenberg,  D.  K.  Malick,    A.  D.  Rabuck,  K.

Raghavachari,  J.  B.  Foresman,  J.  Cioslowski,  J.

V. Ortiz, A. G. Baboul, B. B. Stefanov, G. Liu, A.

Liashenko,    P.  Piskorz,  I.  Komaromi,  R.

Gomperts, R. L. Martin, D. J. Fox,  T. Keith, M.

A.  Al-Laham,  C.  Y.  Peng,  A.  Nanayakkara,  M.

Challacombe, 

P. M. W. Gill, B. Johnson, W. Chen, M. W. Wong, J. L. Andres,  C. Gonzalez, M. Head-Gordon, E. S.

Replogle,  and  J.  A.  Pople,    Gaussian,  Inc., Pittsburgh PA  USA,  2001.

2)山邊 信一: 「GAUSSIAN 98 について」

京都大学 大型計算機センター 広報

(その1) vol 35, No1. pp35-41, Feb. 2002

京都大学 学術メディアセンター 広報

(その2)vol 1, No.1 pp19-31, May, 2002

(その3)vol 1, No.3 pp 157-166, Sept. 2002,

(その4)vol 1, No.4 pp 209-217, Nov. 2002.

3)山邊 信一・山崎 祥子「水素結合の視覚教材化」

「奈良教育大学 教育実践総合センター研究紀 要」、 No. 10, pp 69-75,  March, 2001.

(5)

7.Web教材の内容の一部

4つの反応での経路

水が反応体として、単なる水素結合での会合以上の 働きをすることを4つの反応で調べます。

:図1

今回扱う4つの反応、[1]、[2]、[3]及び[4]

[1]無水酢酸(acetic anhydride)の加水分解反応で 酢酸が生成。nH2O、(n-1)H2Oは、それぞれ、n個、(n- 1)個の水分子を示す。

[2]無水マレイン酸(maleic  anhydride)の加水分

解反応でマレイン酸が生成。

[3]グルコース(ブドウ糖)が水溶液中で、a体、

アルデヒド型及びβ体間の異性化反応で相互に変換さ れる。

[4]メトキシシランH3CSi(OH)3の加水分解(4-1)と、

その次の縮合反応(4-2)。この反応は、工業的にセラ ミックスやコーティング材料、ファイバーなどを作り 出す メゾル−ゲル法 の最初の過程である。

(4-1)メトキシ基(-OCH3)が、次々と水酸基(-OH)に変 換される

(4-2)Si-O-H部分がS-O-Siと縮合して高分子化。

(6)

図2上段に、無水酢酸の加水分解反応経路を示します。

その分子の回転できる柔軟な構造のため、水分子1個

(n=1)で反応が起こります。水分子が水素結合でつ ながった2量体や3量体の反応体と、無水酢酸分子の 会合モデル(n=2,n=3)も調べました。しかし、これ らは加水分解反応に結びつきませんでした。

次に平面構造に固定された無水マレイン酸の加水分 解反応[2]を調べます。図2下段の構造変化が示す 通り、水分子3量体(n=3)が必要でした。n=1や2 でも加水分解経路は存在しますが、活性化エネルギー が大きいでした。水素結合が直線上に突っぱるため、

n=3が必要。余談だが、マレイン酸はC=C結合のシ ス位同士のカルボキシル基(-COOH)を持ちます。

この置換基同士がぶつかり合うため、平面構造ではあ りません。

以上、図1での加水分解反応[1]と[2]は、それ ぞれ反応体の構造の柔軟さ または硬さで、反応相手 として受け入れる水分子の数nが異なりました。

図2の引用文献

S.  Yamabe  and  T.  Ishikawa,  J.  Org.  Chem.,  62,  7049

〜7053ページ(1997年)

ケイ素中心まわりがメトキシ(-OCH3、一般にはアル コキシ -OR)基より水酸基(-OH)に変った時点で、

図5の縮合反応(4-2)が起こります。

反応体MeSi(OH)3に、水分子がどのように関わって図 1(4-2)の縮合反応が起こるか調べました。計算結 果、反応体2分子と水2分子が環状構造を持つ前駆体

(RC)から有利な結合交替が起こる事が判明しました。

有機化合物が加水分解反応を起こす場合、この水素結合 が構造上、どのように 突っぱる かという点に興味が あります。図1に今回調べる4つの反応を掲げました。

[1]、[2]、[3]は高校でもお馴染みの反応です。反 応[4]は、機能性薄膜作成技術として工業的に重要な

ゾル−ゲル法 において最初に起こる反応です。

:図2

反応[1]と[2]の酸無水物の加水分解経路。

Aは反応前、TSは活性化状態、またBは反応後の構 造を示す。白と黒丸は、水素原子を表わす。カッコ内 の数値は電荷分布で、マイナスの値は陰イオン性を示 す。TSでは、計算精度の点検のため、2通りの数値

(アンダーラインの有無)が付記されている。TSでの vキ は、唯一の虚の振動数で、活性化状態である証明 である。左端のn=1とn=3は、図1のnH2Oでの、反 応に関与する水分子の数を表わす。(図2脚文終)

参照

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